2
スマート農業技術による 傾斜地圃場での生産性・効率性向上に期待 大規模野菜農家の労力不足改善に 貢献できるスマート農業技術 岩手県では県北部を中心に土地利用型野菜が作付けされて おり、キャベツ、レタス、だいこんなどの産地が形成されていま す。特にキャベツは、主産地である岩手町において、1戸当たり の栽培面積が拡大しており、10ha以上栽培する経営体の出荷 量が、町全体の約80%を占めています。 一方で、栽培面積拡大に伴う労力の不足、傾斜地圃場におけ る生育の斉一化などが課題となっています。そこで、熟練オペ レータや収穫労力不足の軽減、傾斜地圃場における機械化一貫 体系の導入を目的に、令和元年度より株式会社アンドファーム において自動操舵技術をはじめとしたスマート農業実証プロ ジェクトに取り組んでいます。今年度は、昨年度の実証結果を 受け、実栽培規模でのスマート農業技術の利用効果について実 証しています。 今回の現地検討会は、スマート農業技術の導入効果や課題に ついて、実際の作業状況を確認しながら関係者で検討するとと もに、県内の農業者や関係機関に実証技術の内容を理解しても 岩手県農林水産部 農業普及技術課 農業革新支援課長 髙橋 実証ほ場がある七時雨高原は風光明媚なところですが、1日 に七回もしぐれるほど天気が変わりやすいことからその名前 が付けられたと言われています。ここは火山のカルデラ地形が 見られ、山麓一体に牛馬の放牧地が広がっていましたが、近年、 放牧牛が減少したことから、(株)アンドファームをはじめ意欲 のある生産者の方たちが、空いていた土地を活用し、大規模な 土地利用型野菜に取り組んでいます。その大規模農家が問題と しているのは、労力不足です。規模拡大を進めていくにつれ、管 理が行き届かず、収量が減少するという悩みも起きています。 実証農場である(株)アンドファームが、このスマート農業実証 プロジェクト事業に取り組みたいと思った理由の一つが、この 労力不足の改善です。 中間検討会では、実証の中で効果がある技術や、まだ課題が 残る技術について検討されましたが、スマート農業技術は完 璧でないと使えないというわけではありません。効果がある 八幡平農業改良普及センター 所長 藤原 哲雄 ▲農業用ドローンによる防除作業の省力化を検討 ▲クボタ乗用全自動野菜移植機(10月発売予定)も実演 うことを目的に開催したもので、自動操舵技術を用いた機械除 草作業、ドローンによる防除、だいこん収穫機等について現地 で実演、検討しました。いずれの作業についても、スマート農業 技術の効果が実感されました。この実証プロジェクトを契機と して、岩手県の土地利用型野菜栽培技術のスマート化が進展 し、生産性、効率性が一層向上することが期待されます。 技術はすぐにでも効率的に活用できますし、課題になるとこ ろは課題解決に向けての取組みを考えながら前に進むことが 大切です。岩手県の野菜産地にスマート農業技術をどう取り 入れていくかという視点で、これからも検討を続けていきた いと思います。 トラクタに自動操舵補助システムを装着▲した中耕除草作業を実証 ▲(株)みちのくクボタ一戸・岩手町店の伊藤店長によるだいこん自動 収穫機の製品説明 岩手県で、中山間地域での土地利用型野菜輪作体系におけるス マート農業技術の実証に取り組むアンドファームスマート農業実 証コンソーシアム。実証2年目を迎えた今年、省力化や精密化が期 待されるスマート農業技術について、8月3日に、盛岡市内のいわて 県民情報交流センターで中間検討会が開催されました。また、翌4 日は、八幡平市の七時雨高原にあるアンドファームの実証ほ場にお いて、現地検討会が開催され、現地圃場の生育状況を確認するとと もに、自動操舵補助システムによるキャベツの中耕除草作業やだい こん自動収穫機等、実証に取り組んでいるスマート農業機械の作業 状況について検討がなされました。 土地利用型野菜輪作体系における スマート農業の効果や課題を検討 アンドファームスマート農業実証コンソーシアム 動画もご覧ください スマート農業実証プロジェクト 現地レポート! 岩手県岩手郡 岩手町 株式会社アンドファーム 2020年8月

傾斜地圃場での生産性・効率性向上に期待 土地利用型野菜輪 …スマート農業技術による 傾斜地圃場での生産性・効率性向上に期待 大規模野菜農家の労力不足改善に

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

  • スマート農業技術による

    傾斜地圃場での生産性・効率性向上に期待

    大規模野菜農家の労力不足改善に

    貢献できるスマート農業技術

     岩手県では県北部を中心に土地利用型野菜が作付けされて

    おり、キャベツ、レタス、だいこんなどの産地が形成されていま

    す。特にキャベツは、主産地である岩手町において、1戸当たり

    の栽培面積が拡大しており、10ha以上栽培する経営体の出荷

    量が、町全体の約80%を占めています。

     一方で、栽培面積拡大に伴う労力の不足、傾斜地圃場におけ

    る生育の斉一化などが課題となっています。そこで、熟練オペ

    レータや収穫労力不足の軽減、傾斜地圃場における機械化一貫

    体系の導入を目的に、令和元年度より株式会社アンドファーム

    において自動操舵技術をはじめとしたスマート農業実証プロ

    ジェクトに取り組んでいます。今年度は、昨年度の実証結果を

    受け、実栽培規模でのスマート農業技術の利用効果について実

    証しています。

     今回の現地検討会は、スマート農業技術の導入効果や課題に

    ついて、実際の作業状況を確認しながら関係者で検討するとと

    もに、県内の農業者や関係機関に実証技術の内容を理解しても

    岩手県農林水産部農業普及技術課農業革新支援課長

    髙橋  守 様

     実証ほ場がある七時雨高原は風光明媚なところですが、1日

    に七回もしぐれるほど天気が変わりやすいことからその名前

    が付けられたと言われています。ここは火山のカルデラ地形が

    見られ、山麓一体に牛馬の放牧地が広がっていましたが、近年、

    放牧牛が減少したことから、(株)アンドファームをはじめ意欲

    のある生産者の方たちが、空いていた土地を活用し、大規模な

    土地利用型野菜に取り組んでいます。その大規模農家が問題と

    しているのは、労力不足です。規模拡大を進めていくにつれ、管

    理が行き届かず、収量が減少するという悩みも起きています。

    実証農場である(株)アンドファームが、このスマート農業実証

    プロジェクト事業に取り組みたいと思った理由の一つが、この

    労力不足の改善です。

     中間検討会では、実証の中で効果がある技術や、まだ課題が

    残る技術について検討されましたが、スマート農業技術は完

    璧でないと使えないというわけではありません。効果がある

    八幡平農業改良普及センター所長

    藤原 哲雄 様

    ▲農業用ドローンによる防除作業の省力化を検討

    ▲クボタ乗用全自動野菜移植機(10月発売予定)も実演

    うことを目的に開催したもので、自動操舵技術を用いた機械除

    草作業、ドローンによる防除、だいこん収穫機等について現地

    で実演、検討しました。いずれの作業についても、スマート農業

    技術の効果が実感されました。この実証プロジェクトを契機と

    して、岩手県の土地利用型野菜栽培技術のスマート化が進展

    し、生産性、効率性が一層向上することが期待されます。

    技術はすぐにでも効率的に活用できますし、課題になるとこ

    ろは課題解決に向けての取組みを考えながら前に進むことが

    大切です。岩手県の野菜産地にスマート農業技術をどう取り

    入れていくかという視点で、これからも検討を続けていきた

    いと思います。

    トラクタに自動操舵補助システムを装着▲▶した中耕除草作業を実証

    ▲(株)みちのくクボタ一戸・岩手町店の伊藤店長によるだいこん自動収穫機の製品説明

    岩手県で、中山間地域での土地利用型野菜輪作体系におけるス

    マート農業技術の実証に取り組むアンドファームスマート農業実

    証コンソーシアム。実証2年目を迎えた今年、省力化や精密化が期

    待されるスマート農業技術について、8月3日に、盛岡市内のいわて

    県民情報交流センターで中間検討会が開催されました。また、翌4

    日は、八幡平市の七時雨高原にあるアンドファームの実証ほ場にお

    いて、現地検討会が開催され、現地圃場の生育状況を確認するとと

    もに、自動操舵補助システムによるキャベツの中耕除草作業やだい

    こん自動収穫機等、実証に取り組んでいるスマート農業機械の作業

    状況について検討がなされました。

    土地利用型野菜輪作体系におけるスマート農業の効果や課題を検討アンドファームスマート農業実証コンソーシアム

    動画もご覧ください

    スマート農業実証プロジェクト 現地レポート! 岩手県岩手郡岩手町株式会社アンドファーム

    2020年8月

  • ▲自走式大根ハーベスターDH-180(㈱ロールクリエート)。 だいこんを引抜き、葉を挟んで送り、葉の上部をカットしてコンテナ台に搬送

    標高差を利用したリレー栽培

    スマート農業技術は作業と経営の両面でメリットが生まれる

    労力不足を解決できる自動操舵での中耕除草作業

    実証ほ場の七時雨地区は21年前に農地を取得、また5年前

    から牧野も借りて、標高約700mの冷涼な気候で野菜作りを

    行っています。品質の良い夏野菜を8~9月に収穫できます。標

    高約300mの里のほ場での収穫は10月なので、標高差を活か

    したリレー栽培が可能になりました。現地検討会では、「スマー

    ト農業技術を導入することで、これだけ生産性や単収のアップ

    が図れるんだ」というところを実感していただけたのではない

    かと思います。

    手堀り作業に比べて2.5倍の収穫が可能なだいこん自動収穫機だいこん収穫機については、腰を落として、重たいだいこん

    を持ち上げ、フレコンに詰める作業はかなりの重労働なので、

    収穫機によって、立った状態で収穫ができることは、スタッフ

    にとって、非常に楽な作業になっています。従来であれば7~8

    名が必要だった作業を、収穫機ではオペータと作業者を合わせ

    て5名で作業でき、2~3名は減らすことができます。しかも、

    短時間である程度の数量を掘り上げて、あとは洗浄・選別に回

    れるので、同じ作業時間で考えると、手堀り作業に比べて2.5

    倍くらい作業能率が向上すると思います。

    現場で、「こういったものがあったら」というものを、関係機関

    や関連メーカーの皆さんと意見交換しながら、農業のさらなる進

    化のために、技術開発が加速していけばいいなと願っています。

    クボタ乗用全自動野菜移植機SKP-200

    ■現地検討会での実演技術

    だいこん自動収穫機の導入実証

    岩手県岩手郡岩手町株式会社アンドファーム取締役社長

    三浦 正美 様 経営内容経営面積:約90ha  主要作物:キャベツ、だいこん、レタス、はくさい、ながいも、にんじん、ブロッコリー、にんにく、野菜加工 他

    自動操舵補助システムを装着したトラクタは、経験の浅いス

    タッフが喜んで乗っています。除草作業までは人の確保がなか

    なかできないので、中耕用カルチを用いた除草作業は、経営に

    とってメリットがあると実感していますし、実証でも成果が上

    がっていると思います。農業用ドローンも、性能が格段に向上

    してきているので、将来的にボタン一つ押せば、行って、散布し

    て、帰ってくる、そういったことも可能になるかもしれません。

    乗用移植機は、2条同時に植付けができますから、1時間に約

    20aの植付作業が可能として、1日8時間で約1.6haの作業が

    できる計算になります。今年のような曇天長雨が続く時には、

    晴れたら一気に植えてしまうことが可能です。現場対応力のあ

    る機械はメリットが大きいと思います。

    クボタ乗用全自動野菜移植機による高精度な植付作業を実演

    2020年10月発売予定

    クボタ農業用ドローンT20Kの特長

    病害虫防除作業の効率化実証

    ▲クボタ農業用ドローンMG-1SAKと新商品の大型ドローンT20Kが実演された

    ●カセット式大容量16Lタンク搭載●散布幅6mの広幅散布と大容量タンクにより作業能率が向上●自動飛行モード&障害物レーダ●KSAS対応で、自動日誌作成が可能になり毎日の管理作業の効率化が図れる

    2条全自動移植で、楽に高能率な作業が可能

    株間・条間・植付深さがきめ細かく設定可能

    0.55m/sの業界最速の作業速度で高い植付精度

    多目的ヒッチで除草等管理作業も可能

    対地モンロー採用で優れたうね追従性

    四輪サスペションで快適作業

    大型予備苗台で苗トレイ12枚積載可能

    ●目標①収穫作業時間の80%削減、②省力化・軽労化、③稼動面積の拡大(10ha)

    ●令和元年度の達成状況●作業時間は慣行に比べ、約23%に大幅削減●引抜きミスや損傷は少なく、目標単収以上の収量確保●慣行に比べ、作業者の作業負担が大幅軽減

    ▲MG-1SAKによるM+モードでの散布作業 ▲T20Kによる自動飛行での散布作業

    1

    2

    3

    4

    5

    6

    7

    ●令和2年度の実証内容収穫作業時間を慣行比20%まで削減、省力化・軽労化の確認、収穫機可動面積の拡大一斉収穫での歩留まりが低下しないよう、生育を斉一化させる栽培管理技術を合わせて検討

    ●目標既存のトラクタに自動操舵補助システムを装着し、中耕除草機で栽培株への損傷を最小限にできるうね間・株間除草作業を実証。除草作業の精度を高め、キャベツの管理作業を効率化する。

    ●実証の概要【局所施肥区】 自動操舵トラクタ+2段局所施肥うね立て機(3条)でうね立て→歩行型移植機→自動操舵トラクタ+中耕除草機(4条)【全面施肥区】 トラクタ+全面施肥うね立て機(4条)→歩行型移植機→トラクタ+ロータリカルチ(2条)

    ●令和元年度の達成状況●自動操舵補助システムを用いることで、4連タイプの除草機でも高精度な除草が可能で、除草後のキャベツ株付近の残草は慣行(自動操舵補助システムなし)より14.8%減少した。●キャベツの損傷株率(傾きや葉の破れ)は慣行より大幅に減少した。●10a当たりの除草作業時間(機械作業のみ)は慣行の64%に削減された。

    ●令和2年度の実証内容除草による損傷株を少なくし単収を向上する、残草を低減する

    ▲中耕除草機(㈱キューホー)▲自動操舵補助システム (㈱トプコン)▲自動操舵での中耕除草作業の精度を確認

    キャベツの中耕除草作業の高精度化実証