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平成 25 年度都市農村共生・対流総合対策交付金事業 都市農村共生対流交付金における地域農産物の機能性等の研究 「八代地区地域農産物の機能性研究」 研究報告書 平成 26 3 20 山梨学院大学健康栄養学部管理栄養学科 准教授 仲尾玲子 山梨学院大学健康栄養学部管理栄養学科 講師 名取貴光 山梨学院短期大学食物栄養科 教授 中川裕子

「八代地区地域農産物の機能性研究」 研究報告書...平成25 年度都市農村共生・対流総合対策交付金事業 都市農村共生対流交付金における地域農産物の機能性等の研究

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平成 25 年度都市農村共生・対流総合対策交付金事業

都市農村共生対流交付金における地域農産物の機能性等の研究

「八代地区地域農産物の機能性研究」 研究報告書

平成 26年 3月 20 日

山梨学院大学健康栄養学部管理栄養学科 准教授 仲尾玲子

山梨学院大学健康栄養学部管理栄養学科 講師 名取貴光

山梨学院短期大学食物栄養科 教授 中川裕子

目次

要約・・・・・・・・・・・・・・・・・・p1

1.背景・・・・・・・・・・・・・・・・・p2

2.実験方法・・・・・・・・・・・・・・・p5

3.結果および考察・・・・・・・・・・・・p12

4.まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・p26

5.謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・p28

0

【 要 約 】 山梨県の主要な果樹生産地である八代地区産のナス(2 品種;千両 2 号、甲州真黒)

及びブドウ(6 品種;ウィンク、甲斐路、巨峰、シャインマスカット、昭平紅、紅伊豆)

に含まれるポリフェノールの分析と機能性(抗酸化活性、抗ガン効果、神経保護効果)

に関する検討を行った。 ナスは全果、皮、果肉、ブドウは皮のみを分別して凍結乾燥させた後、80%メタノー

ルにて抽出を行いサンプルとして用いた。総ポリフェノール量を測定したところ、ナス

の千両 2 号の皮、ブドウでは、ウィンク、巨峰、紅伊豆の抽出液にポリフェノールが多

く含まれていることが明らかとなった。また、抗酸化活性として ORAC 値を測定した

ところ、ナスの千両 2 号の皮、 ブドウでは、ウィンク、巨峰、シャインマスカット、

昭平紅に強い抗酸化活性がみとめられた。次に、これらのサンプルの抗腫瘍効果および

神経保護効果について検討したところ、ナス(千両 2 号)、ウィンク、巨峰、昭平紅、

紅伊豆に顕著なガン細胞の増殖抑制効果のあること、ナスの千両 2 号に神経細胞を保護

する効果のあることが確認された。 以上により、八代地区産のナス及びブドウには抗酸化能を由来とする抗ガン作用や神

経機能調節作用を有する成分が含まれており、健康効果が期待できることが明らかとな

った。

1

1. 背景

山梨県は豊かな自然と風土に囲まれ、特色ある農産物(野菜・果樹類)が数多く栽培

されている。主な栽培野菜として、きゅうり、トマト、ナス、果物類としてブドウやモ

モが挙げられる。これらブドウやトマト、ナスなどには、ポリフェノール類やカロテノ

イド類など、体の機能を調節しうる成分が豊富に含まれていることが知られており、近

年ではその機能性に注目が集まっている。 これら食品のもつ機能は大きく三つ(1 次機能、2 次機能、3 次機能)に分けられて

いる。1 次機能は栄養素としての役割を意味し、二次機能は、色、味、香り、テクスチ

ャーなどおいしさに関わる機能を示している。そして、三次機能として、抗酸化作用や

コレステロール低下作用、血圧や血糖上昇抑制作用などに代表される生体の生理調節機

能がある。今回、我々が検証したナスおよびブドウなどの野菜や果物には、これらの機

能を発揮する様々な物質が含まれているが、このうち食事から摂取する抗酸化物質は、

第 7 の栄養素と位置付けられており、生体内の過剰に増えた活性酸素を除去する働きを

もち、健康維持・増進に役立っている(図1)。

抗酸化物質は第7の栄養素三大栄養素

糖質、たんぱく質、脂質

(エネルギーになる成分)

五大栄養素

ビタミン・ミネラル

(身体の働きに必要な成分)

第6の栄養素

食物繊維

(生理作用を示す成分)

第7の栄養素

抗酸化物質

ポリフェノール類

カテキン

フラボノイド

アントシアニン

カロテノイド

図 1 栄養素の分類(第 7 の栄養素、抗酸化物質)

2

活性酸素種の増加要因

紫外線、喫煙、排気ガス大気汚染、ストレス

活性酸素種による疾病と消去のメカニズム

体内への酸素の取り込み

老化発ガン

生活習慣病

活性酸素の過剰産生

生体組織への酸化的障害

健康の維持・増進

活性酸素の消去

細菌等から身体を防御

生体内の消去システム

SODカタラーゼグルタチオンパーオキシダーゼ 等

食品中の抗酸化物質

カテキンフラボノイドビタミンCビタミンE 等

図 2 活性酸素種による疾病と消去のメカニズム 活性酸素種(スーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシラジカル、 一重項酸素、

一酸化窒素、ペルオキシナイトライトなどがあり、高い酸化作用をもつ)が増加する 要因としては、紫外線、喫煙、排気ガス、大気汚染、ストレスなどが挙げられる。生体

内の酵素等による活性酸素消去システムも働くが、過剰状態になると、生体組織が酸化

的傷害を起こして、老化、発ガン、生活習慣病の引き金となる(図 2 の赤の矢印)。一

方、生体内に存在する活性酸素種の消去システム(酵素による分解や食品中の抗酸化物

質による除去)が作動すると、酸化が抑制され、健康の維持・増進が進むようになる。

これら活性酸素を除去する能力をもつ物質を抗酸化物質といい、抗酸化物質の代表とし

てポリフェノール類が挙げられる(図 3)。 ナスおよびブドウにも、ポリフェノール成分の一種であるアントシアニンが豊富に含

まれていることが知られている。アントシアニンはその植物の紫、赤紫の色を司ってい

る色素成分であり、ナスの場合にはナスニン、ブドウ果皮の場合にはエニン等の物質が

確認されている(図 4)。またこれら以外にも、ブドウにはカテキン、タンニン、フラ

ボノイド、レスベラトロール等のポリフェノール成分が含まれており、生体内において

複合的に抗酸化力を発揮しており、健康の維持・増進に役立っている。 また近年、食生活の変化により日本人の健康状態も年々変化している。高血圧、糖尿

病、高脂血症、肥満、心筋梗塞、脳卒中などの生活習慣病患者の増加に加え、高齢者人

口の増加も重要な課題となっている。日本人の3大死因の一つであるガンは,脳卒中及

3

び心疾患と並び治療が期待される疾病の一つであり、食生活習慣がその発症に深くかか

わっている。更に最近は、社会花粉症や食物などによるアレルギー発症者も増加傾向に

あり、食品成分による予防効果にも期待が寄せられている。今後はこれら疾病予防を可

能とする食品の開発が必須といえる。

以上より、今回我々は、山梨県の果樹生産を支える主要な生産地である八代地区産の

ナス(2品種;千両2号、甲州真黒)及びブドウ(6品種;ウィンク、甲斐路、巨峰、シ

ャインマスカット、昭平紅、紅伊豆)の健康効果を検証するため、ポリフェノールの分

析および抗酸化活性、機能性評価として、抗腫瘍(抗ガン)効果と神経機能調節作用に

着目し評価を行った。

アントシアニジン類

フラボン類

フラボノイド系 フラボノール類

リグナン系 イソフラボン類

フェニルカルボン酸系 フラバン類

ポリフェノール クルクミン系 フラバノール(カテキン)類

クマリン系 フラバノン類

フラバノノール類

カルコン類

ポリフェノールの分類 ナスやブドウ果皮に含まれる成分

アントシアニン色素の主な所在

アグリコン 配糖体 食品所在デルフィニジン ナスニン(nasunin):3-diglucoside ナス(delphinidin) エニン (oenin):3-glucoside,3’,5’位

の水酸基がーOCH3にエーテル化 紫黒ブドウ果皮

シアニジン クリサンテミン(chrysanthemin):3-glucoside 黒豆の皮、チェリー(cyanidin) 野イチゴ

シアニン(cyanin):3,5-diglucoside 紫シソイデイン(ideein):3-galactoside クランベリーカラシアニン(karacyanin):3-rhamnoglucoside チェリーの果皮

ペラルゴニジン カリステフィン(callistephin):3-glucoside イチゴ(pelargonidin) ペラルゴニン(pelargonin):3,5-diglucoside ザクロ

図 3 ポリフェノールの分類

図 4 アントシアニン色素の主な所在

4

2. 実験方法

2-1 供試材料

八代地区都市農村交流推進協議会より供与いただいたナス(2品種;千両2号、甲

州真黒)及びブドウ(6品種;ウィンク、甲斐路、巨峰、シャインマスカット、昭平

紅、紅伊豆)を試料(図5)として用いた。なお、ナスは全果、皮、果肉、ブドウは

分別した皮のみを凍結乾燥し、80%メタノールにて機能性成分の抽出を行いサンプル

として用いた(詳細は2-2分析試料の調製及びポリフェノールの抽出に記載)。

図5 試験に用いた山菜サンプルの外観

2-2 分析試料の調製及びポリフェノールの抽出 ナスを洗浄後、甲州真黒は全果を、千両 2号は全果および皮と果肉に分けて切断し

た。また、ブドウは洗浄後、果肉および種を除き果皮のみをサンプルとして用いた。

それぞれを-50℃で凍結した後、真空凍結乾燥機で処理して乾燥品を得た。ミルサー

(IWATANI IFM-720G-W)を用いて微粉砕した試料 1gを精秤し、80%メタノー

ル 40mL を加え、キュートミキサー(EYELA CM-1000 10 分間)にかけ、遠心分離

(4000rpm、10 分間)して上清を回収した。残渣に再び 80%メタノール 40mL を加

えて同様の抽出操作を繰り返し、ろ紙(KIRIYAMA 40φm/m)にて吸引ろ過を行っ

た。得られた上清を合わせて 100mL に定容しポリフェノール分析試料とした。なお、

生物学的な分析においては、ポリフェノール分析試料を濃縮・乾固させた後に、

100mg/mL となるようにジメチルスルホキシド(DMSO)に再溶解させサンプルと

した。

ウィンク

甲斐路

巨峰 シャインマスカット

紅伊豆

昭平紅

甲州真黒

千両 2 号

5

2-3 総ポリフェノール含量およびアントシアニン量の測定

ポリフェノール含量は、Folin-Denis法に準じ、没食子酸の検量線から相当量とし

て算出した。2-2の各抽出サンプルに10%炭酸ナトリウム溶液0.4mL、蒸留水3mL、

フォーリン・チオカルト試薬0.2mLを加え撹拌した後、室温にて30分間静置した。そ

の後、遠心分離して得られた上清を96wellプレートに移し、分光マイクロプレートリ

ーダーを用いて750nm(総ポリフェノール量)および540(アントシアニン量)nm

における吸光度を測定した。同様に、標準物質として没食子酸を用いて検量線を作成

し、得られた没食子酸の検量線から各抽出液中の総ポリフェノール量を算出した。一

方、アントシアニン量についてはデルフィニジンを標準物質として検量線を作成し、

得られたデルフィニジンの検量線から各抽出液中のアントシアニン量を算出した。

2-4 ORAC値の試料調整および測定方法

①L-ORAC分析試料:凍結乾燥粉末0.3gを遠沈管に精秤し、ヘキサン:ジクロロメ

タン=1:1(V/V)を10mL添加し、室温で30秒撹拌し、遠心分離(3000rpm 25℃

10min)し、上清を回収した。再び抽出操作を繰り返し、回収した上清をドラフト内

で37℃恒温槽中に保持し、窒素ガスを吹き付けながら溶媒をとばして乾固させた。乾

固物にアセトン2mLを加えて超音波処理した後、冷蔵保存した。

②H-ORAC分析試料:L-ORACで抽出した残渣にMWA溶液(MeOH 90mL:純水9.5

mL:酢酸0.5mL)を10mL加え、室温で30秒撹拌し、37℃,10min 超音波処理した。

25℃まで冷却後、遠心分離(3000rpm 25℃10min)し、上清を25mL容メスフラス

コに回収した。残渣物に再度MWA溶液を加えて抽出操作を繰り返して上清を集め、

MWA溶液で25mLに定容し、冷蔵保存した。

③ORAC測定:ORAC の分析原理は、蛍光プローブにフルオレセインを使用し、ラ

ジカル開始剤にAAPH(2,2’-azobis)を用い、AAPHの熱分解により生じる、ぺルオキ

シラジカルが蛍光プローブを分解し、それに伴う蛍光強度の減少過程が、抗酸化物質

の存在により抑制されることを利用して抗酸化活性を測定する方法である。食品中の

親水性成分(H-ORAC)と親油性成分(L-ORAC)の両方を測定可能とした。得ら

れたグラフは、縦軸が阻害度合い(抗酸化力の強度)、横軸が阻害時間(抗酸化力の持続

性)として示される。 ブランクはビタミンE様の作用を示す、Troloxを標準物質に

用いて、力の強さはTrolox 相当量(μmole /TE g)として算出した。

L-ORAC:遮光チューブに25mLのAssay Buffer(pH7.4)と470μLのフルオレセイ

6

ン溶液(FL)を入れて37℃に保温しておく。RMCD溶液(メチル-β-シクロデキス

トリン7g/50%アセトン溶液100mL)を調製し、100μLのTrolox((±)‐6‐

Hydroxy-2,5,7,8‐tetramethyl-2-carboxyl acid Aldrich製)溶液を調製し、RMCD

溶液を加えて100μM、50μM、25μM、12.5μMの濃度で標準物質の検量線を作成

した。96ウェルプレートにブランクとしてRMCA溶液、Trolox濃度は4濃度、試料は

4段階に希釈してそれぞれプレート上に35μLを入れた。FL溶液を各プレートに115

μL加え、蛍光プレートリーダーでブランクを測定した。10分間のタイマーをかけ、

測定直前にAAPH(2,2’-azobis) 258mgを秤り、37℃のAssay Buffer 15mLに加えて撹

拌溶解した溶液を、プレート上に50μL添加して、試料中の抗酸化活性を継時的に120

分まで測定した。H-ORAC:100μLのTroloxをAssay Bufferで希釈して、Trolox濃

度50μM、25μM、12.5μM、6.25μMを調製して、標準物質の検量線を作成した。

96ウェルプレートにブランクとしてAssay Buffer溶液、Trolox濃度は4濃度、試料は4

段階に希釈して35μLを入れた。FL溶液を各プレートに115μL加え、蛍光マイクロ

プレートリーダーでブランクを測定した。測定直前にAAPH(2,2’-azobis) 129mgを秤

り、37℃のAssay Buffer 15mLに加えて撹拌溶解した溶液を、プレート上に50μL添

加して、試料中の抗酸化活性を継時的に90分まで測定した。

(出典:食品分析開発センター 資料より抜粋)

7

2-5 腫瘍細胞に対する増殖抑制効果の評価(MTTアッセイ法) 本研究では、腫瘍細胞モデルとしてラット由来の神経膠腫細胞株(C6 glioma)を

用いた。96well プレートに C6 glioma を播種し(1 万 cells/well)、一晩培養した。

翌日、培養液を各濃度に調製した抽出サンプル入り培地と入れ換えて培養した。24時間後、MTT 法にて生細胞数を測定した(MTT 法とは、ミトコンドリアの還元能を

利用した方法でミトコンドリアの脱水素酵素が 3-(4,5-dimethyl-2-thiazolyl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide を還元することを利用している)。MTT 溶液によ

る反応後に 570 nm における吸光度を測定し、試料未添加系をコントロール(100%)

として細胞生存率を算出した。以下に評価方法の概要を示した。

細胞培養液中にサンプルを添加して一定時間培養後に残存する腫瘍細胞(C6 glioma)の数を測定する。

抗ガン効果の評価方法

培養細胞をシャーレで培養する。(ガン細胞)

各wellに細胞をまき、一晩静置

翌日、サンプルを添加し培養開始

一定時間培養後に生存する細胞数を測定

サンプルなし サンプル添加

ガン細胞の増殖が抑えられていれば細胞数が少なくなる。

2-6 蛍光顕微鏡法による細胞死判定 24 ウェルプレートに C6 glioma を播種し(6 万 cells/well)、一晩培養した。翌日、

培養液を各濃度に調製した抽出サンプル入り培地と入れ換えて培養した。24 時間後、

培養液を染色液(染色液 500μL/well(5ml の無血清培地に calcein-AM 4μL、PI 6μL、Hoechst33342 5μL を混合したもの)に入れ換え 10 分間 CO2インキュベーター内で

反応させた。染色液を除去した後、蛍光顕微鏡観察を行い、写真を撮影した。解析は、

撮影画像から細胞数を計測し(緑:カルセイン=生細胞、赤:PI=死細胞、青白:ア

ポトーシス細胞、濃青:細胞核)、死細胞率を算出した(死細胞率=PI/(カルセイ

ン+PI)×100)。以下に評価方法の概要を示した。

8

シャーレに腫瘍細胞をまき、一晩静置

翌日、サンプルを添加し培養開始

24時間培養後に蛍光試薬を添加し一定時間培養。その後蛍光顕微鏡にて観察を行った。

・Calcein-AM(生細胞)・PI(死細胞のDNA)・Hoechst33342(核)

生細胞 死細胞

イメージ

【生死細胞の判定:蛍光顕微鏡観察】

生細胞をCalcein-AM、死細胞のDNAをPropidium iodide (PI)、にて多重染色し判定を行った。

生細胞は、緑色に染色される。一方、死細胞は緑色には染色されず核が赤色に染色される。また全ての細胞の核が青色に染色される。

2-7 アポトーシス細胞の検出(Annexin V-および Caspase-3 の検出)

96 ウェルプレートに C6 glioma を播種し(1 万 cells/well)、一晩培養した。培養

液を各濃度に調製したサンプル添加培地に入れ換えて 24 時間培養した。その後、培

養液を各種染色液(GFP-CertifiedTM Apoptosis/Necrosis Detection Kitの Annexin V-EnzoGold、または、NucViewTM488 Caspase-3 Assay Kit の NucViewTM488 Caspase-3 溶液を無血清培地に 100 倍希釈で添加した溶液)に入れ換え 15 分間 CO2

インキュベーター内で培養した。染色液を PBS 溶液で置換した後、In Cell Analyzerにて蛍光観察画像を撮影して、その蛍光画像の強度よりアポトーシス細胞の割合およ

び Caspase-3 活性を算出した(Ex/Em:550/570nm または Ex/Em:488/520nm、

360/465nm)。 2-8 細胞死誘導関連タンパク質の検出(Bax および GRP78 の検出)

96 ウェルプレートに C6 glioma を播種し(1 万 cells/well)、一晩培養した。培養

液を各濃度に調製した抽出サンプル添加培地に入れ換えて 24 時間培養した。4%パラ

ホルムアルデヒドにて 30 分間細胞を固定した後、PBS 溶液にて 3 回洗浄し、

0.1%TritonX-100/PBS 溶液にて 30 分間処理を行った。1%スキムミルク入り PBS に

て 30 分間ブロッキングを行った後、再び PBS 溶液にて 3 回洗浄を行い 1 次抗体

(anti-bax antibody および anti-GRP78 antibody)による反応を行った(4℃、一晩)。

続いて、PBS にて洗浄した後、蛍光標識された 2 次抗体(Alexa Fluor 488-conjugated goat anti-rabbit IgG antibody)および Hoechst33342 にて処理を行った(室温、1

9

時間)。PBS にて 3 回洗浄を行い、In Cell Analyzer にて蛍光観察画像を撮影して

(Ex/Em:488/520nm、360/465nm)、その蛍光画像の強度より 細胞死誘導関連タ

ンパク質の検出(Bax および GRP78)を行った。

2-9 神経細胞に対する保護効果の評価(MTTアッセイ法) 本研究では、神経系細胞モデルとしてヒト由来の神経芽細胞腫株(SH-SY5Y)を

用いた。96well プレートに SH-SY5Y を播種し(1 万 cells/well)、一晩培養した。

翌日、培養液を各濃度に調製した抽出サンプル入り培地と入れ換えて 24 時間培養し

た。その後、ツニカマイシン(小胞体にストレスをかける薬剤で細胞死が誘導される)

を 0.5μg/ml となるように添加し、24 時間培養した。MTT 溶液による反応後(24 時

間後)に 570 nm における吸光度を測定し、試料未添加系をコントロール(100%)

として細胞生存率を算出した。以下に評価方法の概要を示した。

細胞培養液中にサンプルを添加して一定時間培養後に残存する神経モデル細胞(SH-SY5Y)の数を測定する。

神経細胞保護効果の評価方法

神経モデル細胞をシャーレで培養する。(SH-SY5Y)

一晩静置後、ナスとブドウのサンプルを添加する。

サンプルなし

効果なし サンプル添加 効果あり

神経細胞に対して保護効果があれば細胞の生存率が高まる。

翌日、細胞にストレスを与える。⇒細胞死を誘導する

培養後に生存する細胞数を測定

2-10 神経突起伸長効果に対する評価 96well プレートまたは 24well プレートに SH-SY5Y を播種し(1 万 cells/well ま

たは 1 万 cells/well)、一晩培養した(アントシアニン類の評価においては、マウス

胎児(E18)由来の初代神経細胞培養系を作成した細胞を用いた)。翌日、培養液を

各濃度に調製した抽出サンプル入り培地およびレチノイン酸(神経細胞に分化させる

試薬、終濃度 20μM)を加えた抽出サンプル入り培地と入れ換えて 48 時間培養した。

4%パラホルムアルデヒドにて 30 分間細胞を固定した後、PBS 溶液にて 3 回洗浄し、

0.1%TritonX-100/PBS 溶液にて 30 分間処理を行った。1%スキムミルク入り PBS に

10

て 30 分間ブロッキングを行った後、1 次抗体(anti-β-Tubulin-ш antibody)による

反応を行った(4℃、一晩)。続いて、PBS にて洗浄した後、蛍光標識された 2 次抗

体 ( Alexa Fluor 488-conjugated goat anti-mouse IgG antibody ) お よ び

Hoechst33342 にて反応を行った(室温、1 時間)。PBS にて 3 回洗浄を行い、In Cell Analyzer にて蛍光観察画像を撮影した(Ex/Em:488/520nm、360/465nm)。なお、

神経突起の解析は、In cell analyzer workstation を用いた。以下に評価方法の概要

を示した。

培養開始

神経分化の誘導(レチノイン酸の添加)

突起の伸長の程度を評価

神経突起伸長効果の評価方法

1day

2day

サンプルなし サンプル添加

11

3.結果および考察

3-1 ポリフェノール含量およびアントシアニン含量について

ブドウおよびナスから抽出した液に含まれるポリフェノール含有量とアントシア

ニン量を測定した結果を図6および図7に示した。ブドウ果皮においては、紅伊豆が最

もポリフェノール含有量が多く91.2 μg GA eq/mLであった。次いで、巨峰、ウィン

ク、昭平紅、甲斐路、シャインマスカットの順に含有量が多く、それぞれ、75.2、62.9、

44.8、40.2、25.0 μg GA eq/mL であった。ナスについては、千両2号(皮)におけ

るポリフェノール含有量が多く、次いで、甲州真黒(全果)、千両2号(果肉)、千

両2号(全果)の順で、それそれ、54.4、44.3、43.4μg GA eq/mLであった。一方、

アントシアニン含量についてはいずれもポリフェノール含有量と同様の傾向を示し、

ブドウ果皮については、ウィンク、甲斐路、巨峰、シャインマスカット、昭平紅、紅

伊豆、それぞれ、246.7、156.7、293.3、99.2、175.0、358.3μM delphinidin eq/mL

であった。ナスについては、千両2号(全果)、千両2号(皮)、千両2号(果肉)、

甲州真黒(全果)、それぞれ、164.8、363.5、166.3、204.2μM delphinidin eq/mL

であった。

図6 ナスおよびブドウ抽出液に含まれるポリフェノール量

020406080

100120

ポリ

フェ

ノール

含量(

ug/m

l)

12

図7 ナスおよびブドウ抽出液に含まれるアントシアニン量

3-2 抗酸化活性(ORAC分析)について

ナスは甲州真黒A・B、千両2号は皮、果肉、全果の部位を分けて、ブドウは全て果

皮を測定したところ、親水性成分のH-ORACがナス、ブドウともにどの品種において

も圧倒的に数値が高かった(表1)。親油性成分のL-ORACは17.4~2.7(μmole TE/g)

を示し、H-ORAC値の約20~25分の1であった。親水性成分と親油性成分の合計値

を見ると、ナスでは、甲州真黒Aは123.0、甲州真黒Bは122.8、千両2号は109.2(μmole

TE/g)であった。ナスの品種間による抗酸化活性に大きな差は見られず、120(μmole

TE/g)程度の抗酸化力を示した。また、千両2号の皮を分析した結果は、289.2(μmole

TE/g)と皮に存在するアントシアニンによる抗酸化活性が顕著に確認された。ブドウ

品種6品種の内、甲斐路はナスに比べて低い91.7(μmole TE/g)であったが、その他の5

品種はナスよりも高い抗酸化活性を示し、特に、昭平紅、ウインクは170(μmole TE/g)

を上回る ORAC値を示し、強い抗酸化力が確認された。

050

100150200250300350400450

アン

トシ

アニン

含量(

uM)

13

品 種 親水性成分(H-ORAC)

新油性成分(L-ORAC)

Total 値

甲州真黒A(全果) 118.2 4.8 123.0ナ 甲州真黒B(全果) 118.0 4.8 122.8ス 千両2号(皮) 278.6 10.6 289.2

千両2号(果肉) 75.2 2.9 78.1千両2号(全果) 104.0 5.2 109.2紅伊豆 127.4 5.9 133.3

ブ シャインマスカット 162.3 6.6 168.9ド 昭平紅 161.0 17.4 178.4ウ ウインク 160.9 10.4 171.3

(皮) 巨峰 161.2 7.4 168.6甲斐路 89.0 2.7 91.7

表1 抗酸化活性(ORAC分析) 単位: (μmole TE/乾物g)

3-3 抗ガン効果(腫瘍細胞に対する増殖抑制効果)について

次に、ブドウおよびナス抽出液の抗ガン効果(C6 glioma に対する増殖抑制効果)

について検討を行った。本研究で用いたラット由来細胞株 C6 グリオーマは、脳腫瘍

の原因とされる細胞の一種である。脳腫瘍は手術による摘出を主な治療方法としてお

り、すべて取り除くことは困難であること、放射線治療に対して抵抗性をもつこと、

特効薬がないことなどが問題となっている。本研究では、将来の脳腫瘍治療に応用で

きることを期待するとともに、他の腫瘍細胞への治療にも応用を期待し研究に用いる

こととした。

はじめに参考資料として、野菜・果実類およびキノコ類の抗ガン効果を検討した結

果を図 8 に示した(参考資料①)。これらの検討では、ナスに強い抗ガン効果(細胞

増殖抑制効果)が確認されていた。また、ブドウにおいても同様に抗ガン効果が確認

された。

今回の八代地区産のナス 2品種およびブドウ 6品種の検討を行った結果を図 9およ

び図 10 に示した。ブドウ果皮サンプルを 50、100、200μg/mL となるようにガン細

胞の培養系に添加して増殖への影響を検討したところウィンク、巨峰、昭平紅、紅伊

豆に強い抗ガン効果が確認された(図 9)。紅伊豆は、低濃度で最も強い抗ガン効果

14

を示しており、50μg/mL の濃度でガン細胞の増殖が約 50%抑えられることが明らか

となった。それ以外に強い抗ガン効果のあったウィンク、巨峰の 200μg/mL の濃度時

のガン細胞生存率は、それぞれ、55.5、39.5%であった。一方、シャインマスカット

については抗ガン効果が確認されず、また甲斐路についてもその効果は低いものであ

った。

続いて、ナスサンプルを 50、100、200μg/mL なるようにガン細胞の培養系に添加

して増殖への影響を検討した結果を図 10 に示した。千両 2 号の全果、皮、果肉のサ

ンプルには抗ガン効果が確認され、一方、甲州真黒にはその効果は確認されなかった。

千両 2 号には一様に抗ガン効果が確認されており、50μg/mL の濃度でガン細胞の増

殖が約 30%抑えられることが明らかとなった。

0 20 40 60 80 100 120 140 160

クロアワビタケ

マッシュルーム

マイタケ

ホンシメジ

ナメコ

シイタケ

エリンギ

エノキタケ

イチゴ

カキ

オレンジ

キウイフルーツ

ブドウ

リンゴ

ネギ

トマト

ピーマン

ホウレン草

カボチャ

タマネギ

青シソ

ニンニク

ナス

キュウリ

トウモロコシ

ニンジン

キャベツ

Control

キノコ

果物

野菜

Relative ratio (% of control)

野菜・果物・キノコ抽出物の抗腫瘍(抗ガン)効果

Final concentration were 200 μg/ml. (**P<0.01, indicates significant difference

compared with control, ANOVA)

****

**

****

**

****

**

**

**

**

****

****

図8 参考資料:野菜果物キノコの抗腫瘍(抗ガン)効果

15

0

20

40

60

80

100

120

- 50 100 200 50 100 200 50 100 200 50 100 200 50 100 200 50 100 200

Cont ウィンク 甲斐路 巨峰 シャインマスカット 昭平紅 紅伊豆

生存

率(%

of co

ntro

l)

ブドウ抽出物の抗腫瘍(抗ガン)効果

(**P<0.01,*P<0.05, indicates significant difference compared with control, ANOVA)

**

**

**

***

****

**

**

** **

μg/ml

棒グラフのバーが低いほど抗ガン効果が期待できることを示しています。

ストレスがかかってガン細胞が死んだ

図9 ブドウ抽出物の抗腫瘍(抗ガン)効果

ナス抽出物の抗腫瘍(抗ガン)効果

0

20

40

60

80

100

120

- 50 100 200 50 100 200 50 100 200 50 100 200

Cont 千両2号(全果) 千両2号(皮) 千両2号(果肉) 甲州真黒(全果)

細胞

生存

率(%

of contr

ol)

(**P<0.01, indicates significant difference compared with control, ANOVA)

****

**** **

**

****

μg/ml

棒グラフのバーが低いほど抗ガン効果が期待できることを示しています。

ストレスがかかってガン細胞が死んだ

図10 ナス抽出物の抗腫瘍(抗ガン)効果

16

3-4 蛍光顕微鏡を用いた生死細胞の判定

次に、ブドウおよびナス抽出物による細胞死誘導効果について、蛍光顕微鏡を用い

て検討を行った。結果を図 11 および図 12 に示した。ブドウおよびナスサンプルを

200μg/mL となるようにガン細胞(C6 glioma)の培養系に添加して細胞死の有無を

検討したところウィンク、巨峰、紅伊豆に死細胞(赤く核が染まる細胞)が多く観察

された。一方、それ以外のブドウおよびナスの抽出サンプルについては死細胞がいく

つか確認されたものの、その数は多いものではなかった。 そこで、これら撮影した画像より生死細胞をカウントし、コントロールを 100%と

してその割合をグラフ化した結果を図 12(右下)に示した。その結果、コントロー

ル、ウィンク、甲斐路、巨峰、シャインマスカット、昭平紅、紅伊豆、千両 2 号(全

果)、千両 2 号(皮)、千両 2 号(果肉)、甲州真黒の死細胞の割合は、それぞれ、

0.4、27.7、4.3、31.7、1.2、4.4、59.2、0.4、5.8、0.4、0.7%であった。ウィンク、

巨峰、紅伊豆のガン細胞の生存率が有意に低下し、死細胞の割合が増えていることが

明らかとなった。

ブドウ抽出液のガン細胞に対する細胞死誘導効果

緑色:生細胞赤色:死細胞

Control50 μm

シャインマスカット 昭平紅 紅伊豆

Final concentration of each samples were 200μg/ml

ウインク 甲斐路 巨峰

図 11 ブドウ抽出液のガン細胞に対する細胞死誘導効果

17

ナス抽出液のガン細胞に対する細胞死誘導効果

緑色:生細胞 赤色:死細胞

Control50 μm

Final concentration of each samples were 200μg/ml

千両2号(全果) 千両2号(皮) 千両2号(果肉)

甲州真黒Control

0 20 40 60 80

100 120

割合

(%

of c

ontr

ol)

****

**** **

**

図 12 ナス抽出液のガン細胞に対する細胞死誘導効果

3-5 ブドウおよびナス抽出液サンプルによるアポトース誘導効果 次に、ブドウおよびナス抽出液サンプルによる細胞死誘導がアポトーシスであるか

否かを確認するため、Annexin‐V による細胞膜成分の転座の検出及び Caspase-3 活

性測定を行った。その結果を図 13 に示した。Annexin-V の検討では、ウィンク、巨

峰、昭平紅、紅伊豆、千両 2 号(皮)、甲州真黒において、有意に Annexin-V の増

加が検出され、アポトーシスが誘導されていることが明らかとなった。 また、Caspase-3 活性の検討では、ウィンク、甲斐路、巨峰、シャインマスカット、

昭平紅、千両 2 号(皮)、千両 2 号(果肉)、甲州真黒において、Caspase-3 の活性

が有意に上昇していた。これらより蛍光顕微鏡を用いた生死細胞の判定において確認

されたウィンク、巨峰、紅伊豆の死細胞はアポトーシスによる細胞死であると考えら

れる。また、それ以外のブドウおよびナスサンプルにおいも細胞膜成分の転座や

Caspase-3 の活性化がみられたことから初期のアポトーシスが誘導されている可能

性が考えられる。 更に興味深いことに、ガン細胞の増殖抑制効果や死細胞の増加がみとめられなか

ったナスの甲州真黒においても、細胞膜成分の転座や Caspase-3 の活性化がみとめ

られており、同サンプルにも抗ガン(抗腫瘍)効果を発揮する物質が少なからず含ま

れている可能性が示唆された。

18

ガン細胞に対するアポトーシス誘導効果

Anexin V

Caspase-3アポトーシス(プログラムされた細胞死)に先立って活性化される酵素タンパク質。

細胞膜に存在するホスファチジルセリンに結合するタンパク質で、アポトーシスの初期にみられるホスファチジルセリン(PS)の原形質膜外層への転座を検出するのに用いられる。

0

5

10

15

20

25

30

35

Ann

exin

V po

sitiv

e ce

lls ra

tio (

%)

0 50

100 150 200 250 300 350 400 450

Casp

ase-

3 ac

tivity

(%

of c

ontr

ol)

**

**

**

*

**** **

** ****

****

** **

**

**

Final concentration of each samples were 200μg/ml(**P<0.01, indicates significant difference compared with control, ANOVA) 図 13 ガン細胞に対するアポトーシス誘導効果

0 50

100 150 200 250 300 350 400 450 500

Rel

ativ

e ra

tio (

% o

f con

trol

)

0

50

100

150

200

250

Rel

ativ

e ra

tio (

% o

f con

trol

)

細胞死誘導に関わるタンパク質の活性化と発現

Bax

GRP78細胞の中にある小胞体と呼ばれる小器官にストレスがかかった際に増えるタンパク質で、細胞死が誘導される際に発現が上がる。

細胞の中にあるミトコンドリアと呼ばれる小器官に存在するタンパク質で、細胞死が誘導される際に発現が上がる。いわゆる酸化ストレスの誘導に関与する。

Final concentration of each samples were 200μg/ml(**P<0.01, indicates significant difference compared with control, ANOVA)

**

**

** ****

図 14 細胞死誘導に関わるタンパク質の活性化と発現

19

3-6 ブドウおよびナス抽出液サンプルによる細胞死誘導関連タンパク質の発現 更に、細胞死が誘導される際に発現が増強されるタンパク質(Bax および GRP78)

について検討したところ、全てのサンプルにおいて Bax(酸化ストレスがかかった際に

誘導されるタンパク質)の発現が増加していること、細胞死の誘導がみとめられなかっ

たブドウのシャインマスカットや昭平紅、ナスの千両 2 号(全果)や甲州真黒において

小胞体ストレスのマーカーであるGRP78タンパク質の発現が増加していることが確認

された(図 14)。このことは、ガン細胞が細胞死には至らなかったものの、ストレスを

受けてダメージが蓄積していることを意味しており、細胞死の誘導が引き起こされてい

ることを示唆している。ガン細胞が異常な増殖状態にない可能性もあり、この点に関し

ては更なる検討が必要といえる。

3-7 ブドウおよびナス抽出液サンプルによる神経保護効果の検討 次に、ブドウおよびナス抽出液サンプルによる神経細胞の保護効果を検討した。ヒト

脳由来の SH-SY5Y は神経様形態を示す神経細胞モデル株である。本検討では、ツニカ

マイシンというストレス誘発剤を用いて、SH-SY5Y にストレスを与え細胞死を誘導す

るところへ、ブドウおよびナス抽出液サンプルを加え、その細胞死が抑制されるか否か

について検討を行った。その結果を図 15 および図 16 に示した。 ブドウ抽出液サンプルについては、有意な保護効果は確認されなかったものの、ナス

抽出液サンプルについては、ストレスを与えたコントロール(無添加群)および千両 2号(全果)の生存率が、それぞれ、51.1%、89.8%となり、生存率が約 1.8 倍まで増加

していた。また、有意差は確認されなかったものの、千両 2 号(皮)、千両 2 号(果肉)

の生存率も、それぞれ、68.1%、71.4%と高い値を示していた。このことは、ナス(千

両 2 号)の抽出液中に細胞保護効果を発揮する物質が含まれていることを示唆している。

20

ブドウ抽出物の神経細胞保護効果

棒グラフの紫色のバーが高いほど神経保護効果が期待できることを示しています。

(**P<0.01, indicates significant difference compared with control, ANOVA)

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

220

240

260

Cont 5 10 20 5 10 20 5 10 20 5 10 20 5 10 20 5 10 20Cont 5 10 20 5 10 20 5 10 20 5 10 20 5 10 20 5 10 20

- ウィンク 甲斐路 巨峰 シャインマ

スカット

昭平紅 紅伊豆 - ウィンク 甲斐路 巨峰 シャインマ

スカット

昭平紅 紅伊豆

Rel

ativ

e ra

tio

(% o

f co

ntro

l)

図 15 ブドウ抽出液の神経細胞保護効果

ナス抽出物の神経細胞保護効果

棒グラフの紫色のバーが高いほど神経保護効果が期待できることを示しています。

Final concentration of each samples were 100μg/ml(**P<0.01, indicates significant difference compared with control, ANOVA)

0

20

40

60

80

100

120

140

Cont 千両2号

(全果)

千両2号

(皮)

千両2号

(果肉)

甲州真黒

(全果)

Cont 千両2号

(全果)

千両2号

(皮)

千両2号

(果肉)

甲州真黒

(全果)

Rela

tive

rat

io (% o

f contr

ol)

**

ストレスがかかって細胞が死ぬナス抽出物により

細胞死が抑えられた

図 16 ナス抽出液の神経細胞保護効果

21

3-8 ブドウおよびナス抽出液サンプルによる神経突起伸長効果の検討 次に、ブドウおよびナス抽出液サンプルによる神経突起伸長効果の検討を行った。ヒ

ト脳由来の神経細胞モデル株である SH-SY5Y は、レチノイン酸の添加により神経細胞

へと分化し、神経突起を伸長することで知られている細胞である。本検討では、レチノ

イン酸を用いて、SH-SY5Y 細胞を神経細胞へと分化誘導し、その際に、ブドウおよび

ナス抽出液サンプルを加え、神経突起の伸長が促進されるか否かについて検討を行った。

その結果を図 17 および図 18 に示した。 ブドウ抽出液サンプルをレチノイン酸とともに添加した際の細胞あたりの神経突起

の本数は、コントロール、ウィンク、甲斐路、巨峰、シャインマスカット、昭平紅、紅

伊豆、それぞれ、0.16、0.12、0.10、0.11、0.15、0.10、0.05 であった。また、細胞あ

たりの神経突起の長さは、コントロール、ウィンク、甲斐路、巨峰、シャインマスカッ

ト、昭平紅、紅伊豆、それぞれ、9.6、7.0、5.9、6.6、8.8、5.8、2.2μm であり、有意

な神経突起伸長効果は確認されなかった。 一方、ナス抽出液サンプルをレチノイン酸とともに添加した際の細胞あたりの神経突

起の本数は、コントロール、千両 2 号(全果)、千両 2 号(皮)、千両 2 号(果肉)、

甲州真黒、それぞれ、0.45、0.35、0.35、0.33、0.42 であった。また、細胞あたりの神

経突起の長さは、コントロール、千両 2 号(全果)、千両 2 号(皮)、千両 2 号(果

肉)、甲州真黒、それぞれ、19.1、12.5、13.5、13.7、19.1μm であり、有意な神経突

起伸長効果は確認されなかった。

22

ブドウ抽出物の神経突起伸長効果

0.11

0.05 0.03 0.05 0.05 0.06 0.04

0.16

0.12 0.10 0.11

0.15

0.10

0.05

0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18

Cont

ウィンク

甲斐路

巨峰

シャインマスカット

昭平紅

紅伊豆

Cont

ウィンク

甲斐路

巨峰

シャインマスカット

昭平紅

紅伊豆

なし レチノイン酸処理

Neu

rite

cou

nt/c

ell

細胞あたりの神経突起の本数

4.87

1.99 1.51 1.81 2.20 2.61 1.87

9.62

7.02 5.85 6.63

8.84

5.77

2.19

0.0 2.0 4.0 6.0 8.0

10.0 12.0

Cont

ウィンク

甲斐路

巨峰

シャインマスカット

昭平紅

紅伊豆

Cont

ウィンク

甲斐路

巨峰

シャインマスカット

昭平紅

紅伊豆

なし レチノイン酸処理

Neu

rite

leng

th /

cel

l (μm

) 細胞あたりの神経突起の長さ

Final concentration of each samples were 50μg/ml

図17 ブドウ抽出液の神経突起伸長効果

ナス抽出物の神経突起伸長効果

0.387

0.270 0.329 0.301

0.394 0.453

0.347 0.352 0.332 0.420

0.00 0.10 0.20 0.30 0.40 0.50

なし レチノイン酸処理

Neu

rite

cou

nt /

cell

細胞あたりの神経突起の本数

11.38

6.55 10.29 9.80

12.70

19.10

12.51 13.50 13.65

19.10

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

なし レチノイン酸処理

Neu

rite

leng

th /

cel

l (μm

)

細胞あたりの神経突起の長さ

Final concentration of each samples were 100μg/ml

図18 ナス抽出液の神経突起伸長効果

23

ブドウおよびナスの抽出液はいずれのサンプルにおいも有意な神経突起伸長効果は

確認されなかったものの、これまでに、ベリー系果実に含まれるアントシアンの一部に

神経細胞保護効果のあることが報告されていたことから、各サンプルに含まれる有効物

質の濃度が低く、また他の物質の影響のため神経保護効果や突起伸長効果があらわれて

いない可能性が考えられた。そこで、ブドウおよびナスに含まれることが知られている

アントシアニン類を単独で培養系に添加し神経突起伸長効果が表れるか否かについて

検討を行った。結果を図 19 に示した。

アントシアニン系色素による神経突起伸長効果

228.9

390.2

284.3 299.2 252.5

201.2

266.0

0 50

100 150 200 250 300 350 400 450

Control Cyanidin Delphynidin Peonidin Petunidin Pelargonidin malvidin

Neu

rite

cou

nt

神経突起の本数

60.5

165.3

88.3 99.2

75.3

52.3

79.2

0 20 40 60 80

100 120 140 160 180

Control Cyanidin Delphynidin Peonidin Petunidin Pelargonidin malvidin

Neu

rite

join

t

神経突起の分岐の数

Final concentration of each samples were 10μM

図 19 アントシアニン系色素による神経突起伸長効果

24

各アントシアニン色素を添加した際の細胞あたりの神経突起の本数は、コントロール、

Cyanidin、Delphinidin、Peonidin、Petunidin、Pelargonidin、Malvidin、それぞれ、

228.9、390.2、284.3、299.2、252.5、201.2、266.0 であった。また、神経突起の分岐

の数は、コントロール、Cyanidin、Delphinidin、Peonidin、Petunidin、Pelargonidin、Malvidin、それぞれ、60.5、165.3、88.3、99.2、75.3、52.3、79.2 であった。なお、

神経突起の平均長には、有意な差は確認されなかった。本検討の結果、アントシアニン

類によって神経細胞の突起が伸長することが明らかとなった。神経突起は神経回路を形

成し、情報を他の神経細胞あるいは効果器をもつ細胞へと伝達する重要な役割をもって

いる。痴呆症やアルツハイマー病(AD)、パーキンソン病 PD)、筋委縮性側索硬化症

(ALS)などの神経変性疾患、また脳梗塞や脳卒中、脊髄損傷による身体の麻痺は、神

経細胞の脱落や異常により引き起こされる疾患である。本研究において見出されたブド

ウやナスに含まれるアントシアニン類による神経突起の伸長や神経保護効果が医療へ

と応用できれば、神経変性疾患の予防や新たな治療法の開発につながると考えられる。

25

4.まとめ 最近、さまざまな疾病予防の観点から、健康志向を食品に求める消費者が年々増加し

ている。安心や安全など従来の興味に加えて体の健康や機能改善に関する食品の 3 次機

能に注目が集まっている。これら食品の中で特に関心の集まっているものとして、野菜

や果物、山菜、キノコ類などが挙げられる。これらの食品にはポリフェノール類やカロ

テノイド類など、体の機能を調節しうる成分が豊富に含まれている。近年では、ブドウ

に多く含まれるポリフェノール類に脳神経機能の改善効果や抗ガン作用、心疾患に対す

る予防効果が報告され、大変注目を浴びている。また、大豆に含まれるイソフラボンに

よる骨粗鬆症予防効果やトマトに含まれるリコペンの動脈予防効果など、果物や野菜に

豊富に含まれるポリフェノール類に多くの機能性が見出されている。この他にも、果物

や野菜にはサポニンやアルカロイド類といった成分も含まれており、ポリフェノールや

カロテノイド類と同様の効果が報告されている。野菜や果物のもつ機能性に対する注目

度は大変高い。 山梨県は豊かな自然と風土に囲まれ、特色ある農産物(野菜・果樹類)が数多く栽培

されている。中でも八代地区は、山梨県の果樹生産を支える主要な生産地として知られ

ており、ブドウやモモ、スモモといった果樹のみならず、キュウリ、トマト、ナスなど

様々な農産物を数多く栽培している。これらブドウやトマト、ナスなどには、ポリフェ

ノール類やカロテノイド類など、体の機能を調節しうる成分が豊富に含まれていること

が知られており、その機能性に対する関心度は非常に高い。 そこで本研究では、八代地区産のブドウとナスの健康効果を検証するため、ブドウお

よびナスに含まれるポリフェノール成分の分析と抗酸化力測定を進めるとともに、抗腫

瘍(抗ガン)効果および神経機能調節作用について評価を行った。 機能性に関する実験を進めるにあたって、ブドウおよびナスの抽出液に含まれるポ

リフェノール量とアントシアニン量を測定した。ブドウ抽出液においては、紅伊豆が最

もポリフェノール含有量が多く、次いで、巨峰、ウィンク、昭平紅、甲斐路、シャイン

マスカットの順であった。また、ナス抽出液においては、甲州真黒(全果)、千両2号

(果肉)、千両2号(全果)の順にポリフェノール含有量が多く検出された。また、ア

ントシアニン含量についてはブドウおよびナスいずれもポリフェノール含有量と同様

の順で高い値となった。

次に、ORAC分析を用いて提供されたブドウ(6品種;ウィンク、甲斐路、巨峰、シ

ャインマスカット、昭平紅、紅伊豆)およびナス(2品種;千両2号、甲州真黒)の抗酸

化力を評価することとした。従来、食品中のポリフェノール系抗酸化物質の抗酸化力測

定にはDPPH法が広く用いられてきたが、生体内で引き起こされる酸化反応に対する抗

酸化力を測定する評価方法としては多くの課題が存在するものであった。そこで、本研

26

究ではORAC分析法を用いることとした。このORAC分析法は、生体成分の過酸化反応

に関与する脂質ペルオキシラジカル種を用いて抗酸化力を評価できること、また、食品

中の親水性成分(H-ORAC)と新油性成分(L-ORAC)の両者の測定が可能であること

を特徴としている。また、抗酸化力の強さだけでなく持続性を総合的に評価できること

も利点として挙げられる。ORAC値を測定したところ、ナスの品種間による抗酸化活性

に差は見られず120(μmole TE/g)程度の抗酸化力を示し、千両2号の皮には、

289.2(μmole TE/g)と皮に存在するアントシアニンによる抗酸化活性が顕著に確認され

た。ブドウ品種5品種はナスよりも高い抗酸化活性を示し、特に昭平紅、ウィンクは

170(μmole TE/g)を上回る ORAC値を示し、強い抗酸化力が確認された。 次に、ナス(2 品種;千両 2 号、甲州真黒)及びブドウ(6 品種;ウィンク、甲斐路、

巨峰、シャインマスカット、昭平紅、紅伊豆)の抗腫瘍(抗ガン)効果および神経保護

効果について検討を行った。抗腫瘍(抗ガン)効果については、ラット脳由来のガン細

胞(神経膠腫;C6 glioma)を用い、増殖抑制と細胞死誘導効果の評価を行った。神経

機能調節作用については、ヒト脳由来の神経細胞モデル株(神経芽細胞種;SH-SY5Y)

を用い、ストレスに対する保護効果と神経突起伸長作用の評価を行った。 抗腫瘍(抗ガン)効果の検討において、ブドウ抽出液では、ウィンク、巨峰、紅伊

豆にガン細胞の増殖を顕著に抑える効果のあること(紅伊豆、巨峰、ウィンクの順に強

い効果を示した)、ウィンク、巨峰、紅伊豆においては、ガン細胞を死滅させる効果(細

胞死誘導効果)のあることが明らかとなった。 さらに、ナス抽出液では、千両 2 号の全果、皮、果肉のサンプルにガン細胞の増殖

を抑える効果のあること、また、ガン細胞の増殖抑制効果や細胞死誘導効果がみとめら

れなかった甲州真黒においても、抗ガン(抗腫瘍)効果を発揮する物質が少なからず含

まれている可能性が示唆された。 また、神経細胞の保護効果と神経突起伸長作用の検討においては、ナス抽出液に神

経細胞を保護する効果のあること、加えて、ナスやブドウに含まれることが知られてい

るアントシアニン類に神経細胞の神経突起伸長効果のあることが明らかとなった。これ

らアントシアニン類による神経突起の伸長効果は、神経変性疾患の予防や新たな治療法

の開発につながる可能性があると考えられる。 以上、八代地区産のナス及びブドウには抗酸化能を由来とする抗ガン作用や神経機能

調節作用を有する成分が含まれており、健康効果が期待できると考えられる。

27

5.謝辞 本研究の成果は、八代地区都市農村交流推進協議会からの委託研究である。本研究

に対し多大なるご支援を頂いた本協議会の風間博文会長はじめ関係者の皆様に深く感

謝いたします。またかさねて、公益財団法人山梨総合研究所の中村直樹氏および千野正

章氏におかれましては、本委託研究の契約並びに成果報告会等の開催など、多大なるご

尽力を頂いたことに深く感謝いたします。 なお、本研究成果の一部は、2014 年度日本食品保蔵科学会大会(第 63 回長野大会)

にて発表する予定であることを合わせて報告いたします(2 演題、「植物性食品由来抽

出物に含まれる機能性成分の網羅的解析」、「天然色素における神経突起伸長作用および

神経保護作用について」)。

28

29

30