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Instructions for use Title 土壌化学性の変化とデントコーンの生育・収量に及ぼす消化液,堆肥および化学肥料の影響 : 1. 施用1年目 の効果 Author(s) 若木, 修; 鈴木, 啓太; 新海, 秀史; 高橋, 太郎; 平, 克郎; 八巻, 憲和; 荒木, 肇; 松田, 従三 Citation 北海道大学農場研究報告, 34, 13-20 Issue Date 2005-12-24 Doc URL http://hdl.handle.net/2115/13472 Type bulletin (article) File Information 34_p13-20.pdf Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

土壌化学性の変化とデントコーンの生育・収量に及 …...北海道大学農場研究報告第34 号 13-20(2 005) 土壌化学性の変化とテ守ン トコ ーンの生育・収量に及ぼす消化液,堆肥および化学肥料の影響

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Instructions for use

Title 土壌化学性の変化とデントコーンの生育・収量に及ぼす消化液,堆肥および化学肥料の影響 : 1. 施用1年目の効果

Author(s) 若木, 修; 鈴木, 啓太; 新海, 秀史; 高橋, 太郎; 平, 克郎; 八巻, 憲和; 荒木, 肇; 松田, 従三

Citation 北海道大学農場研究報告, 34, 13-20

Issue Date 2005-12-24

Doc URL http://hdl.handle.net/2115/13472

Type bulletin (article)

File Information 34_p13-20.pdf

Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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北海道大学農場研究報告第 34号 13-20(2005)

土壌化学性の変化とテ守ントコーンの生育 ・収量に及ぼす消化液,

堆肥および化学肥料の影響

1. h必用1年自の効果

若木 11~1 ・ 鈴木啓太2 ・ 新海秀史2 高橋太郎2 ・ 平 克直11'

八巻怒平日2・荒木 諮2・松田従三2

(1):品-lt-剖i生物資源ヰド子科)

('北方生物閤フィーノレド科学センタ一生物生産研究政場)

(2005年 11月I日受理D

要 約

乳牛糞尿由来の消化液,未熟堆sI'l,完熟堆肥お

よび化学肥料 (IBS482)の含有塗紫を 14kg/l0 a

に調整して,生物生産研究j品場(第 1J.足場)に施

用 l,デントコーン‘ニューデント 100'を栽培し

た。デントコーンの生育 ・収最と土壌の化学的特

性の変化を捌査した。栽培JUU:日は 2004年 6月7日

から 9月 24EIであった。符られた結果は以下であ

った。

(1) 化学肥料施1I巴岡場では 6月中旬にアンモニ

ア態窒紫が 7月初旬から中旬に硝酸態塗紫含

有誌が高ま った。 消化液施朋悶場のそれらは化

学肥料岡場よ り低<. Jjj. 肥や未熟堆肥固場と 同

程度で推移した。

(2) 消化法施用回場のデン トコーンの草丈生長お

よぴ乾物生産は 7月までは他悶場より小きかっ

たが 8月以降は他岡場と同等になった。デン

トコーン乾物収量は 1956kg/l0 a, TDN 収量

も1351kg/l0 aとなり,他岡場と差異は認めら

れなかった。

(3) デントコーン栽培中にはいずれの岡場ても土

壌 pHが上昇した。栽培Hijと比較して栽場後の

土壌中内総炭素と総室紫は, 化学肥料と却肥施

用岡場では同レベルで,未熟Jf;主肥施周囲場では

やや増加したのに対l,消化液焔用岡場て酬は問

者とも減少した。

緒 官同

乳ヰは 1日1頭がik40 kg,尿 20kgの合計 60

kgを緋池する(志賀,1996)。乳牛糞尿の総指|出1,;:

は日本国内で年!日12 , 800 万 t にのぼり , 家苗排il~

物全体的 31%を占める (亀岡,2004)。日本の高産

業においては,多i孟に排出された紫尿は還元する

}~地が少ないために, 悪臭や地下水汚染などの環

境問題を引き起こしている。

近年,家畜糞尿の処理方法として,エネルギー

生産ー環境負荷の軽減・消化液のH巴科的効果の観点

から,バイオガスプラントによるメタン発酵処理

が注目されている。メタン発酵によ って糞尿を分

解し,その過程で生成したバイオガスを取 り除い

たものが消化液である。消化液の性状は宇L'I二策尿

混合物(一般には糞尿スラリーと呼ばれる)と比較

すると,乾物牢が低下し, pH とアンモニア悠室紫

が上昇する(松中ら,2002)。また,メタン発酵に

よって糞尿中町雑草種子(木村ら, 1994)や各種病

原1'11誼(Umetuet al., 2002)が死滅することも報

告されている。

消化液は多く の有機物が分解されているので,

肥料として農地への還元の可能性が大きい。焼津

ら(2003)は消化液の還元岡場における秋蒔き小変

の収最と土壌中の塗紫形態の変化について,消化

液と化学肥料の聞には大きな差がないことを報告

している。また,義平 (2003)はサイレージ用ト

ウモロコンの生育 収量や品質 ・安全性 ・消化性

において,アンモニア態塗紫を基準として消化放

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14 北海道大学農場研究報告第 34号

を施用するなら化学肥料と差はないと結論づけて

いる。松中ら (2003)はオ チャ ドグラスに対す

る消化液の室索からみた肥料的効果は,液状きゅ

う肥や化学肥料と本質的な泣いはなしアンモニ

ア郷散を考慮した正味のアンモニ71E窒素施用量

に依存すると報告している。

飼料作物を含めて多くの作物生産に消化放を利

用するには,肥料的効果,作業体系と効率性およ

び土嬢特性の変化についてデ タを帯干i'tL,普遍

的な評価を出す必要がある。本研究の目的は消化

液施用 l年自の岡場におけるデントコーンの生

育 ー収量および土壌の化学的特性的変化を化学肥

料や堆肥施周知11と比較することである。

材料および方法

1. 供試資材および施肥設計

供試資材は化学肥料, jltlJ~ , 未熟堆i!~, および

消化液の 4つである。化学肥料はとうもろこし用

IB S.482(三変化学アグリ株式会社)を使用した。

成分は N-P-](それぞれ 14-18-12(%)で,IB態

窒素を含む緩効性の化学肥料である。堆肥は生活

排水に家夜の糞尿,夕、の残浩等を混ぜて発酵させ,

完熟したものである。総室紫含有If:eは乾物あたり2%である。未熟堆肥は旧北海道大学乳牛舎の乳

牛糞に稲わらや牧草残i査を混ぜて堆積し腐熟途中

のもので,総重量素含有率は生重量あたり 0.3%で

ある。消化液は北海道大学生物生産研究農場のハ

イオガスプラントより採取した。成分は N-P-](

それぞれ生重量あたり 0.16-0.03-0.19(%)であ

る。

各資材の施用量は窒素最で統一 し,化学肥料と

消化液は無機態塗;{;量で,堆i!巴と未熟jl主!肥は総主主

索訟で蜜紫の施l氾fiiを満たすようにした。10aあ

たりの塗紫施肥虫は 14kgとしたため,各資材の

施月Hilは,化学肥料 100kg,堆肥 700kg,未熟堆

肥 4.7t,消化液 8.8tであった。

2 デン卜コーンの矯種と生育調査

供試作物はサイレージ用的トウモロコシ(以 F

デントコーン)で,品種はニューデン卜 100であっ

た。北海道大学生物生産研究I足場(第 1農場)に試

験問場を設置した。この岡場は 2003年に緑肥とし

てヒマワリやへアリ ーへ yチが栽培されていた。

試験区として,化学肥料,堆肥,未熟堆肥由化

液に加え,対照として何も施用していない無施肥

の5区を設け,百L塊i去による 3反復で試験を行っ

た。1プロソトの函fi'(は約 40m'で,デントコ ン

の栽和主強度は 10aあたり 7777個体である。 2004

年 5 月 21 日に化学肥料と未熟IIt lJ~, 24日に推1/巴,

6月4日に消化液をそれぞれ手作業で施用した。

6月4日の消化液施用後にロ タリで試験問場を

M十うん L, 6月7日にコーン7"ランタでテ'ントコ

ーンの播種を行った。

デントコ ンの出当日 ・絹糸抽出期を観察し,草

丈 . ~i物重収量を測定した。草丈は各プロッ!と

も正'品に生育している 10個体を任意に選ぴ,それ

らを継続して測定した。乾物重は,各プロ y 1と

も任意に述統する 5個体を刈り取り, 70'Cの乾燥

器で 48時間乾燥させて測定した。8月9日以降の

測定では植物休が大きくなったため,5個体を押

し切りてv小さく裁断し生霊をiflil定Lた。裁断した

植物体の一部から乾物率を測定し,あらかじめ測

定しておいた生霊と乾物率から全体の乾物重を求

めた。草丈と乾物霊の担11定は 2週間毎に行い,収

穫までに 6回測定Lた。収量調査は 9月24日に行

った。各プロ y トとも述統する 8個体を 35'IJ,合

計 24個体を刈り取り,茎葉と雌程!に分別した。そ

れぞれ生霊と乾物専および乾物収量を求めた。ま

に新得畜産試験場で開発された方法(石栗,1972)

により,雌税1・茎業乾物収量から TDN収量を求めす,

~。TDNJ医長

=雌穂乾物収量XO.85+茎業乾物収益XO.582

3.土壌化学性の調査

(1) 土壌調査

5月 19日に匝|場全体から 5地点の作土層的土

壌採取を行い, t品種前土壌の化学性を分析した。

すなわち 5地点とも中心とその前後左右 1mの

合計 5ヶ所から, 10-15cm深の土壌を採取し,そ

れらを混合して分析試料とした。デン}コーン生

育期間中には各プロ yト3地点から 10-15cm

深の土壌を採取し,それらを混合して分析試料と

L,無機態塗紫と pHを測定した。調査は生育WI間

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若木錯本新梅雨曲。平・ λ巷・制、松田土壌i際性のまf~èfントコーンの生育附に且Irt市脱出置およびf~芋酬の開 15

中に6回行った。デントコーン収穫後の 9月29日

にも同様に土壌を採取 ・分析して, 1番種前土壌と

比較した。

(2) 分析方法

保取した土壌を日陰で約 1週間風乾させ,その

後 1mmメ yンュのふるいにかけた。土鍵分析は

全良型土壌分析器ZA-II (高士平工業株式会社)

による比色・比濁法て'iJliJ定した。石灰(CaO)・7 グ

ネシウム (MgO)カリウム (K,O)・アンモニア!控

室紫(NI-I,-N)・硝酸態主主紫(NO,-N)は土壌 Ig

に 20mlの pH4_8塩化ナトリウム酢酸ナトリ

ウム緩衝液を加えて抽出した。CaOはオルトクレ

ゾーノレ75'レインコンプレキソン (OCPC)法,

MgOはキンリジノレブルー1(XB-l)法,K,Oはテト

ラ7ェニノレホウ紫ナトリウム比濁法(カリポーノレ

法)NI-I,-Nはインド7エ/ーノレ法(改),NO,-N

はアルカリ還元一ジアゾ色素法でそれぞれ測定し

ザー.~。

リン酸(P,O,)は,土接 Igに 0.03Nフ y化アン

モニウム 0.1 N 塩酸溶液(プレイ No.2法)を 10

mllJIIえて抽出し,パナドモリプテaン酸法により測

定した。リン厳i吸収係数は,土壌 5gに pH7.0-

2.5 %リン酸二アンモニウム溶液を 10ml加えて

抽出液を作り,パナドモリブデン酸法により allJ定

した。腐植は土壌 0.5gに 2.23%ピロリン酸ナト

リウムー 1%水酸化ナトリウムを 5ml加えて抽

出し,熊団法により m'J定した。

CECのiJliJ定には土壌 1gに pH7.0商l'酸アン

モニウム溶液を 10ml加えて静置 ・ろi品後に,

pH7.0-80%メチルアルコーノレ溶液 5mlで 2

回洗浄した。洗浄した土壌に pH4.8塩化ナト リ

ウムー酢酸ナトリウム綬術液 lOmlを加えて抽出

液を作成し(ショーレンベルガ一変法),インド7

エ/ーノレ法(改)で測定した。 pHは重量制合で土

壊 lに対しj包純水 2.5を添加 し, 30分振とう後に

pHメーター(D-24型 HORIBA)で測定した。全

宝紫 ・全炭素含有率は, 日陰で風乾させ 1mmメ

yシュのふるいをかけた試料を 70'Cで 481時間乾

燥させた後,試料 10-20mgを秤量し,CNコー

ダー (SUMIGRAPHNC-900住化分析センター)

で分析した。

結 果

1.デントコーン生育期間における土壌中の無機

態窒棄と土犠 pHの変化

デントコーン生育期間中の土壌に含まれるアン

モニア態室紫誌の変化を図 1に示した。6月17日

に化学肥料区で 2mg!100 gを超すrEい値を示し

た。消化液区のアンモニア態窒紫は,他の資材施

用区と同様に制査日毎に増減を繰り返したが,全

体としては減少し 9月2日は 0.29mg!lOO gで

あった。

デントコーン生育期間中の土壌に含まれる硝酸

態室素誌の変化を図 2に示した。化学肥料区では

他の試験区に比べると高い値を示し, 6月 17日か

ら7月22日までは顕著であった。7fJ8日には硝

貫主態窒素が明加して 13mg!100 gに達した。消化

液区や堆l氾区の硝酸1出窒素は 6月 17日には 5

mg!100gであったが,漸次減少し 9月2日は

2.5

t 15 呂

E Eぎ

吋・-1需給肥

ベラー化学肥料

-k--唯肥

寸会ー未然准肥

→・ー消化現量

0.5

o 6/17 718 7/22 8/5 8/19 9/2

図l 試験阻場内土撰中アンモニア態塗紫の推移

14

12 一・』練施肥

-e-化学調開

-k--隼肥

一合一朱割程"

4・一洞化濃

0

8

6

4

(付桜凶00

三宮)Z13z

o 一一一一一- 一一一一一一一一一一一一

6/11 718 7122 8/5 8/19 912

図2 試験回場内土壌中硝酸態議紫の推移

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16 北海道大学I足場研究報告 第 34号

0.66 mg/l00 gであった。

デントコーン生育期間中の土壌 pHの変化を図

3に示した。化学肥料区の土壌 pHは他の試験区

よりも常に低い値を示 L.7月 22日までは pHが

6に満たなかった。消化液区町土撲 pHは 7月 22

日に 5.96とやや低い値を示したが,他の資材施用

区と 同様に,調査日毎に増j成を繰り返し,全体的

に高くなり 9月2日には 6.5に達した。

2.デントコーンの生育

デントコーンは播種から 1~ml後の 6 月 14 日

に一斉出芽した。デントコーンの草丈の変化を図

4に示した。化学肥料区の草丈は全制査日て寸註大

であり. 9月6日には 283cmに達した。一方,無

施肥区の草丈は全調査日て勺官小て。あった。消化液

区の草丈生長は,他の資材施用区に比べて初期に

やや小さいfi立を示したが.8月23日には他の試験

6.8

6.6

6.4

王 6.2

5.8

5.6

5.4

6/17 718 7/22 8/5 8/19 9/2

図3 試験悶場の土壌pHの推移

JOO

250

2

1

1

設国戸、2v創的雰誕

ロ無籍庖

ロ化学砲撃4圏全程程園来葬署地肥

・,肉化濃

5ゆ

。一一ー一 一 一- < 望 盟2・・6/28 7/12 7127 8/10 8/24 917

区と同等となり .9月6日には 275cmに達した。

乾物重も1{i丈と同様の傾向が見られた(図 5)。消

化液区のデントコーンの乾物重は他の試験区に比

べて生育初期に小さい値を示した。8月10日には

堆II~区と 31 gの差が生じ.JIU氾や化学肥料区との

聞に 5%水準で有意差も認められた。しかし消

化液区のデントコーンの乾物重は 8月24日には

他の試験区と同等になり 9月7日には 249gに

達した。

絹糸は B月12日にJIt.11巴区・未以封印巴区て寸由出し

た。続いて 13日に化学肥料区消化液区で.14日

に無施11巴区で絹糸が抽出した。デントコーンの収

量を図 6に示した。どの回場でも雌舷の収量に占

める害11合は 41%前後であった。消化液区の収量は

1957 kg/l0 aであったが,試験区間による有意差

は認められなかった。また,無施l旭区の収益が

300

250

200 ロ無施肥

H僻E 150

ロ化学肥料

図絵肥

ロ末期堆肥

園消化;夜

100

印盟I。6128 7ノ12 7126 8/9 8123 9/6

図4 デントコ ンの草丈に及ぼす有機質資材およ

ぴ化学肥料の影響.縦枠は標準誤差を示す

2500 包茎車

問穂

2000

s-¥(E)園開泰樹

500

o 無給胞 化学!e終 権限 条黙雄杷 消化葱

図5 デントコーンの乾物霊に及ぼす有機質資材お 図6 デントコ ンの収量に及ぽす有機質資材およ

よび化学肥料の影響.縦株は標準誤差を示す. ぴ化学肥料的影響縦枠は雌穂と茎梨を合せた

収益の標準誤差でーある

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若木錯本 I新出。高陪平凡巻 荒木 松田 土壌ft!f:性の変化uントコ ノの生育収量iこ且1%す消化也堆肥および也学肥科の影響 17

1910 kg/10 aと高い他を示した。TDN収量でも

大き な差異は見られず,消化被区は資材施用区で

は最小の 1351kg/10 aであった (表 1)。

3 デント コーン栽培前後の土壌変化

デントコ ン栽培前後に採取した土壌の分析結

果を表2に示した。デントコーン栽続前に分析し

た CECとリン酸吸収係数はそれぞれ 30.3me/

100 g, 1278であった。pHは全試験区でテeントコ

ン栽培後に高くなり,消化放区の 6.42が最大で

あった。総炭素含有率は消化液区を除く試験区で,

デントコーン裁培後に値が増加し,未熟堆)j巴区で

は 3.29と大きな値を示した。総室索含有率は未熟

堆肥区のみでデントコ ン栽培後に値が増加lし

表 l デントコーンの TDN収益に及ぼす

有機'i1資材および化学肥料の影響

試験区 TDN JlXl註

(kg!10 a) 担施肥 1318土95.7

化学肥料 1383土63.6

堆肥 1367士94.3

未熟堆肥 1427土65.5

消{凶直 1351士46.3

TDN収益=雌担『乾物収量xO.85+茎~\乾物収益 x O.582

平均植土標単快韮

0.291 %であった。アンモニア態窒素はデントコ

ーン栽培後に大きく低下し,消化液区でトは検出き

れなかった。硝酸1民主主索は化学肥料区でFわずかに

残存し 1.74 mg/100 gであった。カノレンウムとマ

グネシウムはともに全試験区てeテeンlコーン栽培

後にイl主が増jJ日し,カルシウムは 500mg/100 g前

後,マグネシウムは 65mg/100 g前後の値を示し

た。カリウムはデントコ ン栽培前に 60mg/100

E近くの高い値を示したが,未熟堆!旭区内みテ'ン

トコーン栽埼後にカリウムが増加し 66.5mg/100

gとなった。 リン酸は地肥区でデントコーン栽培

後に増加し 34.1mg/100 gであった。腐植は堆肥

区・計'Ht;液区を除〈試験区で増加Iし5%を超えた。

考察

1. デント コーン生育期間中の窒素動態と土壌

pHの変化

無施肥岡場でも 6-7月は約 2mg/100 g乾土

の硝酸態窒素含有量を示し,前年までの7 メ科の

へアリ ベ ンチを加えた緑)j巴管理に起因すると考

えられた。他の無機養分適当量あり, CECも30を

超え,本試験でのデントコーン栽培悶場は肥沃で

あると判断された。

表2 試験回場におけるデントコーン栽培前後の土壌化学性の変化

調主日 試験回場 pH T-C T-N NI-l4司 N N03-N CaO

(%) (%) (mg!100 g) (mg!100 g) (mg!IC日g)

5月 19日 掃極!JIJ 5.86土0.11 2.68土0.14 0.262土0.01 2.82:t0.18 1.53士0.48 466士18.1

9月 29日 無刷E 6.36土0.03 2.93土0.38 0.262士0.03 0.36士0.20 1.20:t0.09 511土44.3

化学肥料 6.18:t0.02 2.82士0.09 0.25l:t0.Ol 0.25土0.10 1. 74:t0.14 527士26.1

堆肥 6.38:t0.05 2.87:t0.29 0.258土0.02 0.01士0.01 1.12土0.13 505土16.2

未熟堆肥 6.24土0.03 3.29:t 0.07 0.29l:t0.Ol 0.12土0.08 1.53士0.22 490:t32.0

消化液 6.42:t0.Ol 2.37:t0.20 O. 222:t 0.01 。 0.9l:t0.06 493:t 15.8

調査日 試験問場 MgO K20 PzUs 腐植 CEC リン般吸収係数

(mg!100 g) (mg!100 g) (mg!100 g) (%) (me!10日g)

5月 19日 費時f11Hjii 61.4:t3.63 58.1士2.16 29.8土2.83 4.99士0.22 30.3土0.62 1278士16.2

9月 29日 無施肥 63.8士6.28 50.8土3.76 25.9士3.54 5.07:t0.40

化学肥料 67.1土5.68 40.3士4.55 26.4:t2.44 5.17:t0.16

却をJJE 66.1:t3.63 31. 7土5.57 34.1士1.45 4.95:t0.48

未熟堆肥 65.0:t5.39 66.5:t4.07 25.8:t3.25 5.06土0.38

消化液 65.0土0.64 48.1土4.53 24.0土1.53 4.33:t0.13

T-C総主器官有率 T-N蛇室諜合イ'f1t! 平均値士標離宮i'ffi

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18 北海道大学JA場研究報告第 34号

5月21日に施肥した化学肥料問場では,土壌中

のアンモニア態塗紫含有益は 6月中旬に,硝酸1出

窒素含有量は 7月初旬にピークを示したが,これ

は供試した IBS肥料の緩行的)]巴効に起因すると

考えられる。この肥料は 7月下旬まで硝酸態窒素

含有置を高〈維持したことから,デントコーンの

幼穂形成期に施用されるべき追肥を省略できるも

のと考えられる。

土佐sEや消化液施用闘場では 6-7月は無施周囲

場よりやや高い硝酸態室索含有益を示したが,化

学肥悶場よりは低くかった。堆肥には単純に肥料

の代替効果を期待て"きないが,消化液も本試験的

施用量では化学肥料と同等の)]o効は得られないと

考える。

土壌は硝酸化成作用て。生成する硝酸や微生物か

らの有機酸の分泌によ って酸性化する(松本 ー三

枝, 1998)。また,化学肥料からの硫酸イオンや塩

化物イオンによ っても土壌の酸性化が促進される

(松中, 2003)。今図的試験でも,化学肥料施用区

の土壌 pHは他の試験区よりも低い値を示した。

土壌 pHが全体として上昇 したことは, 土壌有機

物の無機化が促進されたことだと推測される。土

壌有機物が無機化されると空気中から二酸化炭素

が取り込まれ,土嬢浴液の炭酸水業ナトリウム ・

炭駿ナトリウム波皮が上昇する(松本 ・三枝,

1998)。本試験においても土壌有機物の無機化によ

りpHは高くなったと推察される。

2.デント コーンの生育・収塁

消化液と宇L'Iニ焚尿混合物の液状きゅう)]巴(スラ

リ )は散布時にアンモニア揮散がおこり,その量

は施用品に比例して多くなる(松中ら,2003)。消

化液区ではアンモニア揮散によって,生育初期の

土壌中の無機態窒素量が不足状態になったと推jJ!IJ

され,その結果として初期から中J羽生育にかけて

デントコーンの草丈と乾物霊の値が他の試験区に

比べ低〈推移したと思われる。アンモニア都散は

施用後早期lにおこるため,土壌調査を早めれば,

アンモニア探散によるアンモニ71控室紫の変化が

見てとれると思われる。

消化液区におけるデントコ ンの絹糸は他区と

ほぼ同日にtlll出したことから,消化液施用はデン

トコーンの初期生育を遅延させたものの,生殖生

長への移行!VJには化学肥料囲場との差異はなくな

ると判断された。デントコ ンの生育が遅延しな

いことは義平(2003)の試験結果とも一致した。

無施肥区でもデントコーンは正常に生育し, ll~

最も他区と差が認められなかった。これは HiJ作

に緑IJEとしてヒマワリやへアリーベ yチが栽培さ

れていたため,作物の収秘による土壌からの養分

の収奪もなく,土壊のl肥沃度が高かったことが考

えられる。

3.デントコーン栽培前後の土壌変化

土壌中でおこる窒素の有機化・無機化の反応は,

施与された資材の炭素と窒素の比(C!N比)で決

まる。C!N比が 30以上の大きい資材を施与した

場合は有機化が, C!N比が 20以下の小さい資材

を施与した場合は無機化が促進される (松中,

2003)。消化液はメタン発酵によってメタンや二酸

化炭素として炭素分が失われるため, C!N比は小

さくなる(羽J~ , 2002)。消化液区のみでデントコ

ーン栽培後に総炭素含有率・総窒素含有率・腐摘の

減少が認められた。消化液て闘は投入有機物が少な

いことや硝酸態窒素の流亡も考えられ,消化放施

用に14う土壌中の炭紫や窒索の変化について調査

が必要であると考えられた。

手L牛糞尿を悶場に辺元した場合,カリウムの蓄

積が心配される。'1ニ糞由来の堆きゅう肥の過剰施

与や長期連用は,カリウムの蓄積だけでなく,下

!百への浴脱も著しくなる(伊東ら,1982)。未熟堆

IJ巴区ではカリウム蓄積が認められたが,消化液区

ではカリウム蓄積は認められなかった。 しかし,

消化液は液状てvあるため,水溶性のカリウムが下

層へ浴脱している可能性もあり,下j曹の調査も必

要である。

本試験から消化液施用は化学肥料の代替の可能

恒が示されたと同時に,土壌の化学的特性,特に

土袋内の炭素と塗索は堆肥施用とは異なる変化も

示された。今後は,消化液の施用量の影響を検討

するとともに,硝酸態塗紫の地下主主透や土壌内の

炭素と窒素の動態を詳細に調査して,消化液を導

入したlJo培管理体系を調査すべきと考える。

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謝辞

本研 究を遂行するにあたり , 多 大 な 御 協 力 を 頂

きました北方生物閤フィーノレド科学セン タ一生物

生 産 研 究農場技術職員の河合孝雄氏および佐藤浩

幸氏に深〈感謝致します。

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20 Res. Bull. Univ. Farm Hokkaido Univ. 34 : 13-20 (2006)

Change of chemical properties and growth and yield of

dentcorn in the field applied digested cattle slurry,

manure and chemical fertilizer

l.First year's results after application

W AKAKI Osamu', Keita SUZUKI', Hideshi SHINKAI', Taro TAKAI-IASHI', Katsuro TAIRA', Norikazu YAMAlく1',Hajime ARAKI' and JU20 MATSUDA'

(lFaculty of Agriculture, Hokkaido University) (2Experimental Farm, Field Science Center for Northern Biosphere, Hokkaido University)

(Recieved N ovember 1, 2005)

Sumrnary

Digested cattle slurry. immature m3nure blended cattle waste and grass straw, mature ffi30ure blended with sewage compost, cattle w3ste and fish w3ste, and chemical fertilizer were applied as nitrogen source (14kg total nitrogen問 r10a) in the field, Experimental Farm, Hokkaido University, late of May, 2004. Dentcorn 'New Dent 100' was produced in these fields from June 7 to September 24, 2004. Content of NH,-N and NO,-N showed a peak in middle of June and middle-Iate of July, respectively, in the soil applied chemical fertilizer. In the soil applied digested cattle slurry, they were lower than those of the soil applied chemical fertilizer and same as the soil applied mature manure and immature manure. Plant growth and dry matter production of dentcorn in the field applied digested cattle slurry were 10¥Ver than other fields until July, however, increased to same level as others after August. Dry yield and TDN yield of dentcorn in the field applied digested cattle slurry showed 1956 kg/l0a and 1351 kg/l0a, respectively, and were same as the field applied others. Soil pH increased a little in all tested fields dl1ring dentcorn production. Total carbon and total nitrogen in the soil increased a little in the field applied immature manure and showed same in the field applied mature manl1re and chemical fertilizer, compared with those before dent corn prodl1ction. However. they reduced in the field applied digested cattle slurry