1
SATテクノロジー・ショーケース 2019 エクソソームとは、細胞から放出される小胞であり、約 100 nmのサイズを持つ。エクソソームはその内部にRNAな どの核酸、タンパク質、脂質などを含んでおり、これらの物 質を細胞間でやり取りするためのコミュニケーションツー ルとしての役割を担っていると考えられている。また間葉 系幹細胞由来のエクソソームは様々な疾患に対し治療効 果があるとの報告や、エクソソームに薬剤や核酸等を人工 的に封入することも可能であることから、エクソソームを目 的とする組織へ特異的かつ高効率で送達する技術は、新 しいdrug delivery system (DDS)として有望視されている。 そこで我々はこの新規DDSを開発するため、エクソソーム 表面の改質を考案した。本研究では、特異的糖鎖認識活 性を有するタンパク質“レクチン”をエクソソーム表面に複 合化する手法として2種類の方法を検討した。 本実験では、ヒト胎児腎由来HEK293T細胞に産生させ 精製したエクソソームを用いた。精製したエクソソームをビ オチン標識化し、western blot (W.B.)でビオチン化を確認 した。次に、ビオチンと高いアフィニティーを持つタマビジ ンをBC2LCNレクチンに融合したタンパク質を調製し、ビ オチン化エクソソームと反応させることで、エクソソーム表 面にビオチン-タマビジンの結合を介してBC2LCNレクチ ンを提示することに成功した。作製したBC2LCN複合化エ クソソームが特異的糖鎖認識活性を有しているか否かを 糖鎖アレイで解析したところ、BC2LCN由来の糖鎖認識活 性を保持していた。BC2LCNは、iPS細胞やがん細胞株の 細胞表面にある特定の糖鎖を認識することが分かってい る。そこでエクソソームを蛍光標識化しiPS細胞及びがん 細胞株へ添加したところ、BC2LCNを複合化していないエ クソソームと比較し、BC2LCN複合化エクソソームでは、エ クソソーム由来の強い蛍光が確認された。以上の結果か ら、BC2LCNのエクソソームへの複合化により、BC2LCN の特異的糖鎖認識活性に応じてエクソソームを高効率で 送達することに成功した。現在、作製したエクソソームにモ デル薬剤を封入することで、開発したレクチン複合化エク ソソームが目的とする細胞に薬剤を送達できるか否かに ついて検討を行っている。 CD9やCD63タンパク質はエクソソームマーカーとして 知られる。そこで遺伝子工学の手法を用いてCD9/CD63 遺伝子とレクチン遺伝子を融合し、HEK293T細胞へ遺伝 子導入したところ、CD9/CD63とレクチンの融合タンパク質 の発現がW.B.で確認出来た。また細胞膜上におけるレク チン-CD9/CD63融合タンパク質の発現をフローサイトメト リー(FCM)で確認した。次に、遺伝子導入した細胞からエ クソソームを精製し、エクソソーム膜上におけるレクチン -CD9/CD63融合タンパク質の発現を確認したところ、W.B. 及びFCMの両方で発現が確認出来た。以上の結果から、 エクソソームマーカータンパク質との融合により、エクソソ ーム表面にレクチンを複合化する新たな手法の開発に成 功した。現在、作製したエクソソームが、複合化したレクチ ンの糖鎖認識活性に応じた結合活性を有しているか否か について検討を行っている。 本研究では、2種類の方法でエクソソーム表面にレクチ ンを複合化する新たな手法の開発に成功した。つまり、用 いるレクチンの種類に応じてこれら方法を使い分けること で、様々なレクチンをエクソソーム表面に複合化すること が可能であり、広く応用できる可能性を秘めている。本研 究の成果は新規DDSの開発の礎となることが期待される。 表発表問合せ先 3 0 5 - 8 5 6 8 1 - 1 - 1 2 T E L 0 2 9 - 8 6 1 - 3 1 2 5 F A X 0 2 9 - 8 6 1 - 3 1 2 5 n i w a - y @ a i s t . g o . j p 1エクソソーム (2)レクチン (3)ドラッグデリバリーシステム 舘野 浩章 (産業技術総合研究所) 1 : 2 : CD9/CD63 特異的・高効率なDDS P-69 71

P-69 エクソソーム送達技術の開発 - Science Academy...SATテクノロジー・ショーケース2019 はじめに エクソソームとは、細胞から放出される小胞であり、約

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: P-69 エクソソーム送達技術の開発 - Science Academy...SATテクノロジー・ショーケース2019 はじめに エクソソームとは、細胞から放出される小胞であり、約

SATテクノロジー・ショーケース2019

■ はじめに エクソソームとは、細胞から放出される小胞であり、約

100 nmのサイズを持つ。エクソソームはその内部にRNAなどの核酸、タンパク質、脂質などを含んでおり、これらの物質を細胞間でやり取りするためのコミュニケーションツールとしての役割を担っていると考えられている。また間葉系幹細胞由来のエクソソームは様々な疾患に対し治療効果があるとの報告や、エクソソームに薬剤や核酸等を人工的に封入することも可能であることから、エクソソームを目的とする組織へ特異的かつ高効率で送達する技術は、新しいdrug delivery system (DDS)として有望視されている。そこで我々はこの新規DDSを開発するため、エクソソーム表面の改質を考案した。本研究では、特異的糖鎖認識活性を有するタンパク質“レクチン”をエクソソーム表面に複合化する手法として2種類の方法を検討した。 ■ 活動内容 1.エクソソームのビオチン化によるレクチンの提示

本実験では、ヒト胎児腎由来HEK293T細胞に産生させ精製したエクソソームを用いた。精製したエクソソームをビオチン標識化し、western blot (W.B.)でビオチン化を確認した。次に、ビオチンと高いアフィニティーを持つタマビジンをBC2LCNレクチンに融合したタンパク質を調製し、ビオチン化エクソソームと反応させることで、エクソソーム表面にビオチン-タマビジンの結合を介してBC2LCNレクチンを提示することに成功した。作製したBC2LCN複合化エクソソームが特異的糖鎖認識活性を有しているか否かを糖鎖アレイで解析したところ、BC2LCN由来の糖鎖認識活性を保持していた。BC2LCNは、iPS細胞やがん細胞株の細胞表面にある特定の糖鎖を認識することが分かっている。そこでエクソソームを蛍光標識化しiPS細胞及びがん細胞株へ添加したところ、BC2LCNを複合化していないエクソソームと比較し、BC2LCN複合化エクソソームでは、エクソソーム由来の強い蛍光が確認された。以上の結果から、BC2LCNのエクソソームへの複合化により、BC2LCNの特異的糖鎖認識活性に応じてエクソソームを高効率で送達することに成功した。現在、作製したエクソソームにモデル薬剤を封入することで、開発したレクチン複合化エクソソームが目的とする細胞に薬剤を送達できるか否かについて検討を行っている。

2.エクソソームマーカータンパク質との融合によるレクチンの提示

CD9やCD63タンパク質はエクソソームマーカーとして知られる。そこで遺伝子工学の手法を用いてCD9/CD63遺伝子とレクチン遺伝子を融合し、HEK293T細胞へ遺伝子導入したところ、CD9/CD63とレクチンの融合タンパク質の発現がW.B.で確認出来た。また細胞膜上におけるレクチン-CD9/CD63融合タンパク質の発現をフローサイトメトリー(FCM)で確認した。次に、遺伝子導入した細胞からエクソソームを精製し、エクソソーム膜上におけるレクチン-CD9/CD63融合タンパク質の発現を確認したところ、W.B.及びFCMの両方で発現が確認出来た。以上の結果から、エクソソームマーカータンパク質との融合により、エクソソーム表面にレクチンを複合化する新たな手法の開発に成功した。現在、作製したエクソソームが、複合化したレクチンの糖鎖認識活性に応じた結合活性を有しているか否かについて検討を行っている。

3.結論

本研究では、2種類の方法でエクソソーム表面にレクチンを複合化する新たな手法の開発に成功した。つまり、用いるレクチンの種類に応じてこれら方法を使い分けることで、様々なレクチンをエクソソーム表面に複合化することが可能であり、広く応用できる可能性を秘めている。本研究の成果は新規DDSの開発の礎となることが期待される。

生命科学

エクソソーム送達技術の開発

代表発表者 丹羽 祐貴(にわ ゆうき) 所 属 産業技術総合研究所 創薬基盤研究部門 細胞グライコーム標的技術グループ

問合せ先 〒305-8568 つくば市梅園 1-1-1 中央第 2 TEL:029-861-3125 FAX:029-861-3125 [email protected]

■キーワード: (1)エクソソーム (2)レクチン (3)ドラッグデリバリーシステム ■共同研究者: 舘野 浩章 (産業技術総合研究所)

エクソソーム

手法1:エクソソームのビオチン化

手法2:エクソソームマーカーとの融合

タマビジンビオチン

CD9/CD63

エクソソーム

特異的・高効率なDDS

P-69

‒ 71 ‒