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全国循環器撮影研究会誌 Vol.25 2013 - 8 - ワークショップ 冠動脈CTの現状と今後 「冠動脈CT画像の利用方法と今後」 昭和大学横浜市北部病院 丸山 雅裕 1.はじめに】 冠動脈病変を診断する検査として、これまで心臓カテーテル検査が主流であったが、近年その傾向 は変貌し、冠動脈 CT が第一選択になりつつある。その要因としては、CT 装置の進歩により、冠動脈 造影と同等に診断基準を満たす画像が得られるようになった為と考えられる。今後は、カテーテル検 査に比べ低侵襲的であるため、検査数の増加が予測される。今回、当院でのカテ室における冠動脈 CT の利用方法について述べる。 2.当院における冠動脈 CT の提供画像】 冠動脈 CT で得られる画像は主に VR (Volume Rendering) 像、 MIP (Maximum Intensity Projection) 像、 Slub MIP(Slub Maximum Intensity Projection) 像、CPR (Curved Planer Reconstruction) 像、CS (Cross Section) 像がある。これらの画像について当院での利用方法を述べる。 2-1 Volume Rendering(VR)1)冠動脈を含めた心臓全体の形状把握。 2)完全慢性閉塞病変(Chronic Total Occlusion:CTO)の場合、血管が途絶した部分は冠動脈造影で は走行が分からないことがある。そこで、VR 像より、閉塞している部分の血管をプロットして 血管構築をはかることにより、血管走行を明らかにして治療戦略に役立てることができる(Fig.1)。 2-2 Maximum Intensity Projection(MIP)1)冠動脈の全体的な形状の把握。 2)病変部を把握する。特に狭窄もしくは閉塞を評価する。石灰化の大きさや血管に対する石灰化 の位置情報、血管走行、病変部と側枝の関係を把握する(Fig.2)2-3 Curved Planar Reconstruction(CPR)像と Cross Section(CS)1)病変部に対して、狭窄率や、冠血管リモデリングの評価が可能である。 2)血管内腔だけでなく、壁の情報としてプラーク性状を把握できる(Fig.3)。 2-4 Slub Maximum Intensity Projection (Slub MIP)像病変部に対して石灰化やプラークの位置関係、 局所的な血管走行を観察できる。 2) PCI 時にワイヤー操作をする際の情報として役立つ(Fig.4)Fig. 1 CTO の右冠動脈造影()VR ()

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全国循環器撮影研究会誌 Vol.25 2013

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ワークショップ

冠動脈CTの現状と今後

「冠動脈CT画像の利用方法と今後」

昭和大学横浜市北部病院 丸山 雅裕

【1.はじめに】

冠動脈病変を診断する検査として、これまで心臓カテーテル検査が主流であったが、近年その傾向

は変貌し、冠動脈 CT が第一選択になりつつある。その要因としては、CT 装置の進歩により、冠動脈

造影と同等に診断基準を満たす画像が得られるようになった為と考えられる。今後は、カテーテル検

査に比べ低侵襲的であるため、検査数の増加が予測される。今回、当院でのカテ室における冠動脈 CT

の利用方法について述べる。

【2.当院における冠動脈 CTの提供画像】

冠動脈 CT で得られる画像は主に VR (Volume Rendering) 像、MIP (Maximum Intensity Projection) 像、

Slub MIP(Slub Maximum Intensity Projection) 像、CPR (Curved Planer Reconstruction) 像、CS (Cross

Section) 像がある。これらの画像について当院での利用方法を述べる。

2-1 Volume Rendering(VR)像

1)冠動脈を含めた心臓全体の形状把握。

2)完全慢性閉塞病変(Chronic Total Occlusion:CTO)の場合、血管が途絶した部分は冠動脈造影で

は走行が分からないことがある。そこで、VR 像より、閉塞している部分の血管をプロットして

血管構築をはかることにより、血管走行を明らかにして治療戦略に役立てることができる(Fig.1)。

2-2 Maximum Intensity Projection(MIP)像

1)冠動脈の全体的な形状の把握。

2)病変部を把握する。特に狭窄もしくは閉塞を評価する。石灰化の大きさや血管に対する石灰化

の位置情報、血管走行、病変部と側枝の関係を把握する(Fig.2)。

2-3 Curved Planar Reconstruction(CPR)像と Cross Section(CS)像

1)病変部に対して、狭窄率や、冠血管リモデリングの評価が可能である。

2)血管内腔だけでなく、壁の情報としてプラーク性状を把握できる(Fig.3)。

2-4 Slub Maximum Intensity Projection (Slub MIP)像病変部に対して石灰化やプラークの位置関係、

局所的な血管走行を観察できる。

2) PCI 時にワイヤー操作をする際の情報として役立つ(Fig.4)。

Fig. 1 CTO の右冠動脈造影(左)と VR 像(右)

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ワークショップ:冠動脈 CTの現状と今後

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【3.冠動脈 CT が有効であった CAG 症例】

3-1 冠動脈入口部の形状(冠動脈起始異常とカテーテルの選択)

冠動脈の起始異常は 0.2~1.2%とされており、右冠動脈と左回旋枝の起始異常がほとんどである。

起始異常に気がつかないと、冠動脈の入口部を探すのに苦労して透視時間が長くなり、被ばく線量

と造影剤量の増加が懸念される。

事前に冠動脈 CT 検査をしておけば、冠動脈の起始部を 3 次元的に理解する事ができ、それに合

ったカテーテルを選択できる。

例)左回旋枝の起始異常を MIP 像から確認でき、その血管に適した診断カテーテルの予測が可能

であった症例を示す(Fig.5)。

3-2 病変部の最適撮影角度の予測

冠動脈造影では、血管が重なり狭窄の判断が難しく、何回か角度を変えて撮影をした経験がある。

しかし、冠動脈 CT 画像が事前にあれば、狭窄部分が確認しやすい角度を予測でき、無駄な撮影を

しなくて済んだ。

例)LAD#7 と D1 の分岐部病変が MIP 像から最適撮影角度を予測できた症例を示す(Fig.6)。

【4. 冠動脈 CT が有効であった PCI 症例】

4-1 冠動脈 CT から不安定プラークが予想された症例

冠動脈 CT より、右冠動脈#3 に不安定プラークを疑う低吸収域が認められた(Fig.7 左)。冠動脈造

影では、CT 同様に右冠動脈#3 に病変が存在した(Fig.7 右)。病変部の短軸像から CT 値が-22HU で

Fig.2 右冠動脈の MIP 像(左)と

左冠動脈の MIP 像(右)

Fig.3 CPR 像(左)と病変部の CS 像(右)

Fig.4 CTO の右冠動脈造影(左)と SlubMIP 像(右)

Fig.5 MIP 像(左)と左回旋枝の冠動脈造影(右) Fig.6 左冠動脈の MIP 像(左)と左冠動脈造影(右)

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全国循環器撮影研究会誌 Vol.25 2013

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あり、不安定プラークであることが予想された

(Fig.8 左)。カラーマップ表示では赤く表示されて

いる部分が不安定プラークと予想される部分であ

った(Fig.8 右)。

PCI 時は、病変部が分岐部の手前であったため

に、末梢保護デバイスは使用せず、術前に血栓吸

引カテーテル等のデバイスを準備した。予想通り、

ステント留置時に末梢塞栓を起こしたが、すぐに

血栓吸引を行い血流は改善して治療を終了した(Fig.9)。

※活用ポイント(不安定プラーク症例)

1)PCI 中に発生する slow flow、no flow 現象は PCI 治療における合併症の一つである。

2)冠動脈CT より病変部の CT 値が 50HU以下の場合は脂質に富む不安定プラークが予測されるた

め、IVUS の所見も参考にしながら抹消保護をしてステント留置やバルーンの後拡張し、安全な PCI

をするべきだと考える。

4-2 高度石灰化病変に対するロータブレータ症例

冠動脈 CT より、左冠動脈前下行枝#6 に高度石灰化を伴う狭窄が疑われた(Fig.10 左)。冠動脈造

影では、CT 同様に左冠動脈#6 に高度狭窄が認められた(Fig.10 右)。SlubMIP 像と CS 像から石灰化

は偏心性であり、血管内腔の半周を覆っていることが確認され、ロータブレータの Bar サイズの選

択を慎重に行った(Fig.11)。ロータ Bar1.5mm で高度石灰化部分を削り、ステントを留置して治療を

終了した(Fig.12)。

※活用ポイント(高度石灰化症例)

1)石灰化の存在は PCI 治療の障害(デバイスの不通過など)となるだけではなく、ステントの拡

張不良や慢性期のステント再狭窄の原因となる。

2)高度石灰化病変ではロータブレータの積極的な使用が考慮され、その判断が必要となる。

3)冠動脈 CT では石灰化の分布が明瞭に表示され、治療となる病変の石灰化分布が把握可能でき、

ロータブレータの必要性を事前に判断が可能である。

Fig.7右冠動脈 MIP像(左)と右冠動脈造影(右)

Fig.8 Slub MIP 短軸像(左)と

カラーマップ表示(右)

Fig.9 ステント後末梢塞栓(左)と血栓吸引後最終造影(右)

Fig.10 左冠動脈 MIP 像(左)と左冠動脈造影(右) Fig.11 左前下行枝の SlubMIP(左)と CS 像(右)

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ワークショップ:冠動脈 CTの現状と今後

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4-3 CTO に対する PCI 症例

冠動脈 CT より、右冠動脈#1 から#3 にかけて CTO が疑われた(Fig.13 左)。冠動脈造影より、右冠

動脈#1 に CTO を認める(Fig.13 右)。冠動脈 CT の VR 像と SlubMIP 像より、閉塞部を画像構築し、

血管走行に蛇行がないことを確認(Fig.14)。PCI 中には MIP 像、SlubMIP 像で石灰化の位置関係が分

かるように画像を表示させ、医師は CT 画像をガイドとして、CTO-PCI を成功させた(Fig.15)。

※活用ポイント(CTO 症例)

1)閉塞長の予測はもとより、閉塞断端の把握、石灰化の分布、micro channel の確認、閉塞血管の

走行などが推定可能で,これらの情報は CTO 治療における効果的なワイヤー操作の助けとなる。

2)CTO-PCI 時には MIP 像、Slub MIP 像、VR 像を必要に応じて使い分け、医師が知りたい情報を

リアルタイムで提供できるようにしておきたい。

【5.まとめ】

冠動脈 CT 検査は、冠動脈病変の診断に用いる検査として、心臓カテーテル検査にとってかわり、

第一選択となってきている。また、冠動脈の走行や、石灰化の有無や形状、プラークの性状などを把

握でき、PCI を施行する医師が EBM(Evidence-Based Medicine)のもと治療を行うことができる。PCI

をより安全に且つ、成功に導くためのアイテムとして、今後も重要な情報源として用いられるに違い

ない。

Fig.12 ロータブレータ(左)と、ステント留置後(右)

Fig.13 右冠動脈 MIP 像(左)と

右冠動脈造影(右)

Fig.14 右冠動脈 VR 像(左)と

右冠動脈 SlubMIP 像(右)

Fig.15 右冠動脈 CTO へ PCI(左)とステント留置後(右)