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プーランクの宗教曲《グロリア》は晩年の作品で、ボストンのセルゲイ・クーセヴィツキー財団の委嘱により、クーセ
ヴィツキー夫妻に捧げられた曲である。
ヴィヴァルディの《グロリア》を手本にして、三管編成のオーケストラ(打楽器はティンパニのみ、ハープ1台)とソプラノ
独唱及び混声合唱で演奏される。ラテン語の典礼文を用い、全 6曲からなっている。
◆第 1曲〈Gloria ― 栄光あれ〉
華やかなファンファーレのような歓喜の響きで始まり、オケと合唱の輝かしさが競い合う。
ストラヴィンスキーの《イ調のセレナード》、自作の《三つの小品》にある〈賛歌〉からの反映がみられる。
プーランクはしばしば言葉のアクセントにおいて、「Glo‐ri‐a in ex-cel-sis De-o」のように最後の音節にアクセント
を置いて、ラテン語のテクストをフランス語的なアクセントで音楽化している。
◆第 2曲〈Laudamus te ― 我ら主をたたえ〉
陽気さゆえに、信仰深い人々からあまりにも俗っぽくないかと非難されたが、それに対してプーランクは「どうしてこ
うなったのだろう?と自分にたずねる。作曲している間、私はゴッツォーリの天使たちが舌を出しているフレスコ画と、
ある日見かけた真面目なベネディクト会修道士たちのフットボールの試合を、頭に浮かべただけなのに・・・」と述べ
ている。映画音楽のような軽快なメロディの曲。
◆第 3曲〈Domine Deus ― 主なる天主〉
艶やかな美しいソプラノの独唱で始まり、合唱が加わる。荘厳さと豊かな抒情性、
旋律線の鮮明な流れがあり、伸びやかな優雅さが感じられる。
◆第 4曲〈Domine fili unigenite ― 主なる御ひとり子〉
弦と木管の掛け合いで始まる楽しい曲。
「主なる御ひとり子」という内容の歌詞だが、喜びを明るく軽快に表現している。
□作曲時期 :1959年 5月~12月 □初 演 :1961年 1月 20日 ボストン
指揮 シャルル・ミュンシュ ボストン交響楽団
□パリ初演 :1961年 2月 14日 パリ 指揮 ピエール・プレートル
フランス国立放送管弦楽団
Gloria Francis Poulenc (1899~1963)
プーランク研究会 2012.10.9 名古屋市民コーラス
グロリアに
ついて
カトリックのミサで用いるミサ通常文をテクストにして作られるミサ曲は、キリエ、
グロリア、クレド、サンクトゥス、ベネディクトゥス、アニュス・デイで構成されて
いる。その中のグロリアは、三位一体を讃えた散文による賛歌で、内容は父なる神・
子なるキリスト・精霊の三部分に分かれる。
イエスの誕生を告げ知らせる天使の歌に始まる、輝かしい賛歌である。歌詞が長いの
で、おおむねシラビック(音節的)に作曲される。
曲想についてみていくと、「Qui tollis peccata mundi」では、膝まずいたり、頭を垂れることになっているの
で、その前でいったん区切り、静かな音楽に変わる(後期バロック以降は独唱曲にすることが多くなる)。憐れみを
乞う祈り「miserere nobis」は強調され、一転して「Quoniam tu solus」からは全員で快活な曲調に戻り、最後
の「Amen」は華麗なメリスマや模倣などを用いて華やかに終わる、というのが標準的な作法である。
グロリアだけをカンタータあるいはオラトリオのスタイルで作曲することも多く、モンテヴェルディ、ヴィヴァ
ルディ、ヘンデル、プーランク、ウォルトン、ラターなどの作品が知られている。
◆第 5曲〈Dominus Deus, Agnus Dei ― 神なる主、神の子羊〉
暗い森から湧き出るような前奏の後、不思議なメロディでソプラノ独唱そして合唱と続き、溢れるばかりの美しさと
感動的な神秘さが表現される。翌年に書かれ遺作となる《クラリネットとピアノのためのソナタ》の第2楽章の主題に、
この曲のモチーフが使われている。
※ 他作品との関連性の特徴としては《黒い聖母への連祷》(1936年)や《無伴奏混声合唱のためのミサ曲》(1937年)が
指摘され、《スターバト・マーテル》(1951年)とは薄いと言われている。
・
「クラリネットとピアノのためのソナタ」第2楽章部分
〔参考文献〕 「パリのプーランク」その複数の肖像 小泉純一著 春秋社 / 「フランシス・プーランク」 アンリ・エル著 村田健司訳 春秋社
「宗教音楽対訳集成」 国書刊行会 / Web. Scor Ser 他
〔マーラー・プーランク研究会メンバー〕会長:三浦松子 天野美才子・稲垣邦彦・鵜飼奈都子・太田敬久・小木曽訓子
馬場保二・村井一氏・矢口妙子・山田和子
☞ クラリネットとピアノのためのソナタ(クラリネット・ソナタ)
プーランクが 1962年に作曲した室内楽曲である。亡き友アルテュール・オネゲルの墓前に捧げられた作品。
プーランクの死から 3 ヵ月後の 1963年 4月 10日にニューヨークのカーネギーホールにおいて、レナード・バーンスタインの伴奏と
ベニー・グッドマンの独奏によって初演された。プーランクの 3 つある木管楽器のためのソナタの一つであり、他に‘56年のフルート・
ソナタと’62年のオーボエ・ソナタがある。
《プーランクの「グロリア」アーティスト・インタビュー》― 抜粋 ―
ルイゾッティがプーランクのグロリアについて、作曲家の生死観を洞察する興味深い意見を述べているので、
紹介します。
・指揮者:ニコラ・ルイゾッティ
・聞き手:エマニュエル・パユ(フルート奏者)
パユ 「プーランクは、1930年代後半から宗教的なテーマに関心を寄せるようになりました。1936年に友人の作曲家ピエール・
オクターヴ・フェローが自動車事故死した後、ロカマドゥールの黒い聖母を訪ねて、カトリックの信仰を得るようになります。
その後、もうひとりの友人、クリスチャン・ベラールが死んだ後にも、スターバト・マーテルを作曲しました。このように彼にとっては、宗
教とは自分の外側にあるものではなく、心の内部から生まれてきたものなのですね。ところでこのグロリアでは、宗教的テクストは
どのように音楽化されているとお考えですか。」
ルイゾッティ 「プーランクはここで、ふたつの発音を使い分けています。ラテン語の歌詞をフランス風のアクセントで歌う個所と、本来のラテ
ン語的読みで歌う個所がある。しかしそれ以上に大切なのは、プーランクが何を考えて作品を書いたか、ということです。人間と
いうのは、若い時には遠い将来(究極的には“死”)を考えて日々暮らすということはありません。
しかしある年齢に達すると、時間が過ぎてゆく、ということを実感するようになります。それは彼の場合、友人たちが死んだことを
きっかけに起こりました。プーランクがグロリアを書いた時、彼は時の無常を強く感じていたと思います。つまり人生は短く、時に滑
稽で虚しく、はかないのです。グロリアの始まりは、人生の始まりです。輝かしく、力に満ちている。そこには希望があります。
一方曲の終わりにも、希望が現れています。
しかし、それはこの世における希望ではない。最後のピアニッシモは、天国での希望を
表現しています。こうして現世の希望と来世の希望が、ひとつの作品のなかで融合さ
れます。しかしその希望は、一体何に対して向けられているのでしょうか。
プーランクは、この作品で人生そのものの意味を問うたのです。」
(Web.「ベルリン・フィル・ラウンジ」第 63号 「アーティスト・インタビュー」より)
◆第 6曲〈Qui sedes ad dexteram Patris ― 主は父の右に座し給う〉
荘厳で力強いアカペラ合唱で始まり、第 1曲で用いられたファンファーレのテーマを何度も挟み、合唱が Qui
sedes・・・と繰り返しつつ高揚していく。頂点に達した直後、ソプラノ独唱が静かに歌いだし合唱もそれに加わる。
強弱を巧みに絡み合わせ力がみなぎってくるように歌われる。最後アーメン合唱では、冒頭のフレーズをトラン
ペットが奏で、厳かに「Amen」が歌われ、静かに優しく心癒される中に終わる。
ルイゾティ:イタリアの中堅指揮者。東京交響楽団の客演指
揮者でもあり、2011年 12月に東京にて「グロリア」を指揮。