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2014/8/24 1 緩和ケア はじめの一歩 愛知県がんセンター愛知病院 緩和ケア科 橋本 淳 私について 名古屋市出身 平成4年 自治医大卒 卒後3年目からへき地診療所勤務 愛知県のへき地医療支援 県庁医務国保課兼務 愛知病院では総合内科 病院の組織統合で緩和ケア科に 3児の父、47歳 皆様へのお願い 携帯電話はマナーモードでお願いします たまに質問をしますので、ご協力ください どうぞリラックスしてお聞きください 本日のお話 緩和ケア概論 病の軌跡と予後告知 緩和ケアの3つの広がり 家族を看取る意味 本日は麻薬などの薬物療法の話はしません。 興味のある方は、1123-24日に愛知病院で 緩和ケア研修会を開催しますのでお越しください。 少しだけ がんの状況について

PowerPoint プレゼンテーション€¢意思決定の支援(ACP) –理解の確認と方針の相談 –介護保険・緩和ケアの説明 • 「だんだん」の時期に必要とされること

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2014/8/24

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緩和ケア はじめの一歩

愛知県がんセンター愛知病院

緩和ケア科 橋本 淳

私について

• 名古屋市出身

• 平成4年 自治医大卒

• 卒後3年目からへき地診療所勤務

• 愛知県のへき地医療支援 –県庁医務国保課兼務

–愛知病院では総合内科

• 病院の組織統合で緩和ケア科に

• 3児の父、47歳

皆様へのお願い

• 携帯電話はマナーモードでお願いします

• たまに質問をしますので、ご協力ください

• どうぞリラックスしてお聞きください

本日のお話

• 緩和ケア概論

• 病の軌跡と予後告知

• 緩和ケアの3つの広がり

• 家族を看取る意味

本日は麻薬などの薬物療法の話はしません。 興味のある方は、11月23-24日に愛知病院で 緩和ケア研修会を開催しますのでお越しください。

少しだけ がんの状況について

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がんの罹患 男性

国立がん研究センターがん対策情報センター

女性

60%

45% 0

100

200

300

400

500

600

700

800

1975 1985 1995 2005 2010

人口10万人対

がん患者の5年生存率の変化

50

51

52

53

54

55

56

57

58

59

60

1993-96 1997-99 2000-02 2003-05

国立がん研究センターがん対策情報センター

医療を受けているがん患者数 緩和ケアはいつからはじまる?

①がんの診断時から

②がんの治療中から

③がんの末期になったら

④ よくわからない

WHOの緩和ケアの定義の変化

• 1990年

–緩和ケアとは治癒を目指した治療が有効でなくなった患者に対する積極的な全人的ケアである

• 2002年

–緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して・・・

がん告知されたときの気持ちの変化

初期反応期

• 【1週間以内】

• 否認、絶望感

苦悩・不安の時期

• 【1~2週間】

• 不安、抑うつ

• 集中力の低下

適応の時期

• 【2週から3か月】

• 状況への順応

周囲にどう伝えるか、生活と治療との両立、就労問題

どこに 相談する⁇

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がん診断後の自殺と心血管死

• 600万人を対象に、がん診断後の自殺、心血管死を調査

• 診断後1週間は自殺 12.6倍、心血管死 5.6倍のリスク

NEJM 2012; 366 : 1310 – 8

1

3

5

7

9

11

13

15

1週以内 1-3ヶ月 1年後

自殺

心血管死

相対危険

がん対策推進基本計画の見直し

• 2007年

治療の初期段階からの緩和ケアの実施

• 2012年

がんと診断された時からの緩和ケアの推進

緩和ケアはいつから受けられる?

①がんの診断時から 2012年

②がんの治療中から 2002年

③がんの末期になったら 1990年

④ よくわからない

緩和ケアはいつから始まる?

• 古い考え方

• 現在の考え方

がんの治療 緩和ケア

がんの治療 緩和ケア

転移性非小細胞肺癌患者に対する早期緩和ケア NEJM 2010;363:733–42

• 新規に診断された転移性非小細胞肺癌患者

• 151人を以下の2群にランダムに割り付け

–早期緩和ケア群

標準治療+早期緩和ケア

–標準治療群

標準治療+必要時に緩和ケア

生活の質と気分の変化(うつ・不安)

早期緩和ケア群は3か月後も

-生活の質 悪化せず

-抑うつ 減少 (NNT 5)

早期緩和 標準

生活の質

早期緩和 標準治療

変化の程度

症状のある患者の割合

気分障害

NEJM 2010; 363 : 733 – 42

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早期から緩和ケアを受けると生存期間も長い

早期緩和ケア 11.6 ヶ月 標準治療のみ 8.9 ヶ月

早期緩和ケア群への5つの介入

• 症状コントロール

• 疾患の理解・教育

–病状や予後、治療目標の確認

• 意思決定支援

• 患者と家族のコーピング

• 紹介・処方薬

–ケアプランの作成と調整

–新規処方薬の説明

20分

その他 10分 初回計 55分

10分

15分

早期から緩和ケアを受けている人は、

• 末期まで抗がん剤治療をする人が

少ない(24% vs 18%)

• 終末期に救急外来を受診すること少ない

(30% vs 22%)

• 病院よりも、自宅やホスピスで

亡くなる人が多い(30% vs 16%)

全人的苦痛 (total pain)

• がん患者の苦痛は多面的であり、全人的に捉えなければならない

全人的苦痛

(total pain)

精神的苦痛

痛み

他の身体症状

日常生活動作の支障

身体的苦痛

社会的苦痛

スピリチュアルな苦痛

不安

いらだち

うつ状態

経済的な問題

仕事上の問題

家庭内の問題

生きる意味への問い

死への恐怖

自責の念

淀川キリスト教病院編, ターミナルケアマニュアル(第2版), 最新医学社, 1992.

Saunders, C.M., ED. The

management of terminal

illness, 2nd ed. London,

Edward Arnold, 1985.

早期から緩和ケアを受けると生存期間も長い

早期緩和ケア 11.6 ヶ月 標準治療のみ 8.9 ヶ月

緩和ケアはいつから始まる?

• 古い考え方

• 現在の考え方

がんの治療 緩和ケア

がんの治療 緩和ケア

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本日のお話

• 緩和ケア概論

• 病の軌跡と予後告知

• 緩和ケアの3つの広がり

• 家族を看取る意味

もし自分死に方を決められるとしたら

71.6

71.3

25.8

27.4

0% 20% 40% 60% 80% 100%

ある日心臓病で突然死ぬ 病気で徐々に弱って死ぬ

20歳から89歳までの男女1000人 2011年ホスピス・緩和ケアに関する意識調査

男性

女性

病の軌跡 ( Illness Trajectory)

がん

心不全 呼吸不全

認知症 老衰

時間

ADL

Lynn J, et al. JAMA 2001から改変

• 一か月で大きな変化がなければ月の単位です

• 1週間前と様子が違えば,週の単位です

• 日々状態が変わっていれば,日の単位です

がん末期の軌跡

まぁまぁ

だんだん

どんどん 自治医科大学緩和医療学

丹波教授 一部改変

「まあまあ」の時期に必要とされること

• 疼痛などの症状コントロール

• 精神的なサポート、抑うつのチェック

• 社会的支援の必要性の確認

–医療費の相談

• 意思決定の支援(ACP)

–理解の確認と方針の相談

–介護保険・緩和ケアの説明

「だんだん」の時期に必要とされること

• 身体・精神症状のコントロール

• 介護保険の申請と適切なサポート

• 療養場所の確認

–在宅スタッフの紹介

• 入院のタイミングの話し合い

–急変時の対応の説明

• 伝えたいこと、話したいことは?という確認

–死を意識していることが多い

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「どんどん」の時期に必要とされること

• 日単位であることの多職種チームでの判断

• 内服薬の中止と皮下注などへの切り替え

• 症状コントロールの確認と事前指示

• ケアの見直し

• 家族への説明

日単位の徴候(LCP使用基準)

多職種チームの判断 + 以下のうち2項目以上

患者が終日臥床状態である

半昏睡/意識低下が認められる

経口摂取がほとんどできない

錠剤の内服が困難である

時間単位の徴候

• 臨終前の患者100人の観察研究

–死前喘鳴

–下顎呼吸

–四肢のチアノーゼ

–橈骨動脈を触知しない

57時間

7.6時間

5.1時間

2.6時間

余命は知らせてほしいですか?

• はっきり知らせてほしい

• おおよその見通しは知りたい

• あまり知りたくない

• まったく聞きたくない

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余命は知らせてほしい?

• 一般住民に対する調査

–治る見込みがない病気になった場合、病名や病気の治療期間、余命を聞きたい 77%

• がん患者に対する調査

– (再発時点で)予後告知を望む 40%

–望んだときだけ教えて欲しい 30%

–全く望まない 10~20%

否認を理解する

• 自己防衛機能の一つ

–受け入れのために必要なプロセス

• 強引な直面化は避ける

–否認が有害な場合は穏やかに直面化

• 否認の背後にあるものは何か?

–周囲の状況や医師患者関係も影響

• 医療者の逆転移に注意

もしも、あなたに残された時間が

• 1日 だったら 何をしますか?

• 1週間 だったら 何をしますか?

• 1か月 だったら 何をしますか?

• 1年 だったら 何をしますか?

つひにゆく

道とはかねて

聞きしかど

きのふけふとは

思はざりしを

在原

業平

あなたの人生の評価点は?

• もし今、あなたが治る見込みがない病気にかかり、余命が限られていると知らされたら、今までの人生についてどう評価しますか?100点満点でお答えください。

• 平均点68.0点

–男性66.4点 女性69.4点

20代 30代 40代 50代 60代 70代以上

59.5点 60.6点 64.3点 70.0点 73.6点 76.2点

『2008年度ホスピス・緩和ケアに関する意識調査』報告書

残された時間をどう過ごしたいか

7.8

13.1

17.7

16.7

25.8

47.8

53.1

55.6

57.8 家族と過ごす

好きなことをする

大切なことを伝える

これまで同様に過ごす

仕事などを片づける

気が動転すると思う

できなかったことに挑戦

生きる気力をなくす

宗教を勉強する 20歳から89歳までの男女1000人 2011年ホスピス・緩和ケアに関する意識調査

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8

残された時間をどう過ごしたいか

7.8

13.1

17.7

16.7

25.8

47.8

53.1

55.6

57.8 家族と過ごす

好きなことをする

大切なことを伝える

これまで同様に過ごす

仕事などを片づける

気が動転すると思う

できなかったことに挑戦

生きる気力をなくす

宗教を勉強する 20歳から89歳までの男女1000人 2011年ホスピス・緩和ケアに関する意識調査

生活の質と気分の変化(うつ・不安)

早期緩和ケア群は3か月後も

-生活の質 悪化せず

-抑うつ 減少 (NNT 5)

早期緩和 標準

生活の質

早期緩和 標準治療

変化の程度

症状のある患者の割合

気分障害

NEJM 2010; 363 : 733 – 42

田舎の医療の魅力とは

• 人間関係、時間がある、連携がしやすい

• その人にあわせた医療ができる

–エビデンスよりナラティブ(医療者のやりがい)

• 地域づくりに貢献できる

• 地域そのものの魅力

看取りの文化

• 地域には看取りに関わる固有の風習があった

• それが看取りの文化となり、地域をまとめる役割を果たし、次の世代へと受け継がれてきた

• 看取りが病院で行われるのではなく、自然な営みとして地域に戻していくことが必要

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本日のお話

• 緩和ケア概論

• 病の軌跡と予後告知

• 緩和ケアの3つの広がり

• 家族を看取る意味

緩和ケアの3つの広がり

非がん

がん 地域 病院

末期

早期

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病院から地域へ

限られた余命を自宅で過ごしたいか

8.5

9.8

63.1

18.3 自宅で過ごせると思う

希望するが実現は難しい

自宅で過ごしたくない

わからない

20歳から89歳までの男女1000人 2011年ホスピス・緩和ケアに関する意識調査

限られた余命を自宅で過ごしたいか

8

9

11.7

8.1

71.9

54.2

8.2

28.3

女性

男性

わからない 過ごしたくない 難しい 過ごしたい

20歳から89歳までの男女1000人 2011年ホスピス・緩和ケアに関する意識調査

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がんだけでなく がん以外の患者さんにも

緩和ケアの3つの広がり

非がん

がん 地域 病院

末期

早期

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• 提供体制の問題

– サービスの不足

– システムの不備

• 利用者の問題

– 情報不足

– 緩和ケアへの抵抗感

愛知県がんセンター愛知病院

愛知県がんセンター中央病院

愛知県がんセンター愛知病院

平成17年4月に愛知県がんセンターと組織統合 病床数:276床 (一般 200床 緩和 20床 結核 50床 感染症6床)

病院の役割:がん診療・結核医療・へき地医療支援

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住民との協働、地域連携

愛知病院 緩和ケアの4つの柱

緩和デイケア

緩和ケア病棟

地域がんサポートチーム

緩和ケア外来

① 緩和ケア病棟

• 平成18年4月開棟

• 全室個室20床

• 緩和ケア病棟の4つの入院

症状管理

在宅調整

レスパイト

看取り

緩和ケア病棟の利用状況

0

50

100

150

200

250

300

入院患者数

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

在宅退院患者数

0

10

20

30

40

50

60

在院日数

② 緩和デイケア • 平成20年11月より運用開始

– 平成22年~乳腺サロン開設

• 外来がん患者に対して緩和ケアを提供

– 症状コントロール、リンパドレナージ、など

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

2009 2010 2011 2012 2013

乳腺サロン

デイケア

緩和デイケア・乳腺サロンの利用者数

③ 地域がんサポートチーム

• 平成21年活動開始

• がんによる難治性の身体・精神症状の緩和

• 在宅患者にも活動範囲を拡大(平成24年~)

– 訪問診療、電話相談、緊急入院への対応

0

10

20

30

40

50

60

2012 2013

訪問回数 在宅支援

30%

64%

6%

39%

61%

在宅 病院 施設

チーム登録者の看取りの場所

④ 教育研修・地域連携

• 医療者・専門職向け – PEACE project – ELNEC-J – 岡・カフェ

• 患者・家族向け – がんを知って歩む会

• 地域・一般住民 – 公開講座・出前講座 – リレーフォーライフ – 市民活動への参加

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緩和ケアの3つの広がり

非がん

がん 地域 病院

末期

早期

がん患者の社会性

住民との協働、地域連携

愛知病院 緩和ケアの4つの柱

緩和デイケア

緩和ケア病棟

地域がんサポートチーム

緩和ケア外来

地域緩和ケアセンター

地域緩和ケアセンターの概要

• 建築面積 395.6㎡

• 延床面積 288.9㎡

• 木造 平屋建て

• 愛知県産材 57%

愛知県産木材 切り出し~製材~仕上げ~施工

地域緩和ケアセンター

セラピー ルーム

受 付 HWC

スタッフ室

キッチン

デイルーム

収納

玄 関

ホール

物入 WC WC

テラス

情報 コーナー

セラピールーム

セラピールーム

診察室

面談室

キッズコーナー

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地域緩和ケアセンターの5つの機能

専門的緩和ケアの提供

•診断時からの緩和ケア

•シームレスな緩和ケアの提供 (外来・入院・在宅)

•専門職によるチームアプローチ

緩和デイケアの運営

•日常生活、就労、意思決定の支援

•リンパドレナージなどのセラピー

•患者同士の交流

•家族のサポート

地域連携・在宅支援

•緩和ケアに係る専門相談

•専門チームによる在宅支援

•在宅患者のための病床管理

•多職種連携のための検討会

専門職の教育研修

•緩和ケア関連研修会の運営

•緩和ケアの普及と質の向上

•診療情報の評価、分析

住民への情報発信

•緩和ケアに関する情報提供

•公開講座、出前講座、等

•ホームページ

•地域活動などへの参加・協力

地域緩和ケアセンターの理念

地域の関係者との連携を推進し、緩和ケアの

普及・向上に努めるとともに、

地域の住民と協働し、がんになっても安心して

暮らせる地域作りに貢献します

Dorothy House

• 提供体制の問題

– サービスの不足

– システムの不備

• 利用者の問題

– 情報不足

– 緩和ケアへの抵抗感

緩和デイケア

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創作療法 リンパドレナージ

キッズルーム

St. Christopher’s Hospice

• Dame Cicely Saundersにより1967年に設立

• 創立40周年を記念してAnniversary Centerを設置

• Social Programへの取り組み

–学校の生徒や一般住民に対する死の準備教育

–死を自然なこととして受け入れるための働きかけ

地域医療の軸

• 1の軸 あらゆる問題に対応する

• 3の軸 「多様な視点」、「境界なし」、「物語」

• 5の軸

– 患者によって自分を変える

– 患者や問題の種類により差別しない

– 生物学的問題だけでなく心理社会的問題も重視する

– 臓器、ヒトにとどまらず、家庭・地域も視点とする

– 診察室に来ない人のことも考慮する

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本日のお話

• 緩和ケア概論

• 病の軌跡と予後告知

• 緩和ケアの3つの広がり

• 家族を看取る意味

家族を看取る意味 あなたは介護を経験して・・・

0% 20% 40% 60% 80% 100%

介護できたことは

私自身にとってよかった

介護したことで

身体的な負担が大きかった

人生において大切に

していくことがわかった

私の人生に意味があると

思えるようになった

人への感謝の気持ちを

より強く持つようになった

非常に思う 思う やや思う どちらともいえない~全く思わない

最期の贈り物

本日のまとめ

• 診断時からの緩和ケア

–早期から全人的な支援でQOLが改善

• 病の軌跡と予後告知

–最期の生き方をサポート

–地域の魅力と看取りの文化

• 緩和ケアの3つの広がり

–英国における緩和ケアの挑戦

• 家族を看取る意味