16
―  ― 113 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第61集・第2号(2013年) 本研究の目的は、オーストラリアの教育評価専門研究者、ロイス・サドラー(Royce Sadler)が概 念化した形成的アセスメントの定義を取り上げ、教室の日常的評価についての理論化を進めている 世界的な流れの方向性と我が国での学習評価との関連を考察することである。まずサドラーの 1989年の論文「形成的アセスメントと教授学習システムの構想」(Formative Assessment and the Design of Instruction Systems)に基づき、用語と定義、さらに教授学習システムの実行のための方 法を明確にする。次に、フィードバックが形成的アセスメントにとって中心的概念であるかという 問題について検討する。最後に、日本の授業の文脈において形成的アセスメントとフィードバック の理論化がどのような役割を果たすのかについて探究する。 キーワード: 形成的アセスメント,フィードバック,目標に準拠した評価,指導と評価の一体化, クライテリア 1.はじめに 本研究は、オーストラリアの教育評価専門研究者、ロイス・サドラー(Royce Sadler)が概念化し た形成的アセスメントの定義を取り上げ、教室の日常的評価についての理論化を進めている世界的 な流れの方向性と我が国での学習評価との関連を考察することである。サドラー(1987)はまた、 スタンダード準拠評価を提唱した 1) が、それは日本で2002年から実施されている目標に準拠した評 価の基盤の1つと考えられ(皆見, 2008 ; 鈴木, 2006)、指導と評価の一体化 2) の実質において授業 での形成的アセスメントと表裏一体のものである。ゆえに、日本においても目標に準拠した評価を 考察することと同時に形成的アセスメントについて理解することが重要となる。 しかし「形成的アセスメントは、まだ人工的につくられたものや実践のよく定義された表現とは なっていない。」(Bennett, 2010)と言われるように、多くの研究者によってそれぞれの立場で多様 な定義の試みがなされてきており、単純に理解しようとすると混乱が起こるであろう。そのほとん どがサドラー(1989)の気づきに端を発し、引用している。多くの定義を実践的背景と共に理解し 形成的アセスメントを統合的にとらえるには、リソースとなったサドラーの1989年の論文「形成的 教育学研究科 博士課程後期 形成的アセスメントにおけるフィードバックの探究 ―サドラーに基づく理論的検討を中心に― 山 本 佐 江

R $ ·µÝïÄtSZ Ñ ÅÌ¿«w s · 2013-07-18 · R $¯qxz è × l `M è ªt x ab h z?T nXl h tx h b \qt È`h M `oM { } y $¶ 6³µÂÜwÏ Ý } } y \ Fw þ y7 § Ð^ oM wx \ Fw

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

―  ―113

� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第61集・第2号(2013年)

 本研究の目的は、オーストラリアの教育評価専門研究者、ロイス・サドラー(Royce Sadler)が概

念化した形成的アセスメントの定義を取り上げ、教室の日常的評価についての理論化を進めている

世界的な流れの方向性と我が国での学習評価との関連を考察することである。まずサドラーの

1989年の論文「形成的アセスメントと教授学習システムの構想」(Formative Assessment and the

Design of Instruction Systems)に基づき、用語と定義、さらに教授学習システムの実行のための方

法を明確にする。次に、フィードバックが形成的アセスメントにとって中心的概念であるかという

問題について検討する。最後に、日本の授業の文脈において形成的アセスメントとフィードバック

の理論化がどのような役割を果たすのかについて探究する。

キーワード:�形成的アセスメント,フィードバック,目標に準拠した評価,指導と評価の一体化,�

クライテリア

1�.はじめに 本研究は、オーストラリアの教育評価専門研究者、ロイス・サドラー(Royce Sadler)が概念化し

た形成的アセスメントの定義を取り上げ、教室の日常的評価についての理論化を進めている世界的

な流れの方向性と我が国での学習評価との関連を考察することである。サドラー(1987)はまた、

スタンダード準拠評価を提唱した1)が、それは日本で2002年から実施されている目標に準拠した評

価の基盤の1つと考えられ(皆見 , 2008 ; 鈴木 , 2006)、指導と評価の一体化2)の実質において授業

での形成的アセスメントと表裏一体のものである。ゆえに、日本においても目標に準拠した評価を

考察することと同時に形成的アセスメントについて理解することが重要となる。

 しかし「形成的アセスメントは、まだ人工的につくられたものや実践のよく定義された表現とは

なっていない。」(Bennett, 2010)と言われるように、多くの研究者によってそれぞれの立場で多様

な定義の試みがなされてきており、単純に理解しようとすると混乱が起こるであろう。そのほとん

どがサドラー(1989)の気づきに端を発し、引用している。多くの定義を実践的背景と共に理解し

形成的アセスメントを統合的にとらえるには、リソースとなったサドラーの1989年の論文「形成的

教育学研究科 博士課程後期

形成的アセスメントにおけるフィードバックの探究―サドラーに基づく理論的検討を中心に―

山 本 佐 江

年報08山本佐江氏1C-四[115-130].indd 113 2013/06/19 11:21:40

―  ―114

形成的アセスメントにおけるフィードバックの探究

アセスメントと教授学習システムの構想」まで遡ってその原理的意義を熟考しなければならないと

考えた。さらに、それ以降の論議の高まりを受けたサドラー自身の最近の著作の言明も参照して理

解を深めることが必要である。

 最初に形成的アセスメントに光が当てられたのは、ブルームら(1971)がスクリヴァン(1967)の

カリキュラム評価の用語を借用し、それを生徒個人の学習の改善に必要な、間違いを同定し正答を

与える「フィードバック」と「修正」のプロセスとして説明した時であった。ブルームらがプログラ

ムやカリキュラムから生徒個人の学習へ焦点を当てることに転換した本来の意味は今でも保持され

ている(Bennett, 2010)。だが、フィードバックの解釈に関すると現在では大いに異なり、ブルーム

らの「フィードバック」と「修正」の区別は歪められて提供されることもある(Wiliam, 2011)。現在

の解釈の起点となったのが、サドラー(1989)による元の電子工学からの引用によるフィードバッ

クの定義であり、後で詳しく述べることとする。

 さらにここで考えるべきことは、形成的アセスメントの理論化に関して1989年当時のサドラーの

論文に基づいて考察する時、重要な問いとして挙がってくるものである。それは、果たしてフィー

ドバックは形成的アセスメントで中心となる位置を占めるのだろうかということである。サドラー

は形成的アセスメントについてフィードバックを鍵概念として説明したが、それ以降もフィード

バックそのものに関して現在まで多くの研究の蓄積があり、様々な論点から検討が続けられている。

形成的アセスメントと深く関連し時には同義ともみなされることもあるフィードバックであるが、

形成的アセスメントにおける位置づけを明確にしておくことは今後の理論の考察にとって不可欠と

なる。

 その上理論化にとって必要なもの、または現在不足しているものは何だろうかということも検討

すべきである。ブラックとウィリアム(1998a)によるレビューとそれに基づく小冊子「インサイ

ド ザ ブラックボックス」〔ブラックボックス=教室〕(1998b)によって、形成的アセスメントが

画期的に教育の改善の効果を上げることができると言明されて以来、世界的な教育改革の1つの流

れ3)がつくられてきた(OECD, 2005 ; James, 2008)。日本でも2011年3月に文部科学省から出され

た「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」において、成績付けのための評価だけでなく、指

導の改善に生かす評価として、学校等の創意工夫を生かす現場主義を重視した学習評価の促進が目

指されている。この評価は、形成的アセスメントの評価観と重なるであろう。また実践現場でブルー

ムの受容により知られていた形成的評価の重要性が再認識されるようになってきた(大澤 , 2011)。

教室で意図的に形成的アセスメントが実行されるには、概念がきちんと把握されることが必要であ

り、そのために理論化の方向を追わなければならない。

 本稿は、指導と評価の一体化という観点以外では今まであまり関連付けて論じられることのな

かった日本の目標に準拠する評価と形成的アセスメントまたは形成的評価4)の関連について、サド

ラーの概念枠組みを借りて考察していく。すなわち、誰がどのように評価するのかということにつ

いてより明確にとらえようとするものである。形成的評価が「目標に準拠した評価」の核心的な評

価行為(田中 , 2008)と言われる中で、どのように行えばよいのかサドラーの言明から示唆が得られ

年報08山本佐江氏1C-四[115-130].indd 114 2013/06/19 11:21:40

―  ―115

� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第61集・第2号(2013年)

ると考える。また、サドラーの形成的アセスメントの定義は、部分的に切り取られて流布し様々な

考察の基盤となることが多いが、全般的に論じられる機会はほとんどない。だが、理論化に向けた

考察と言う大きな構想をもつ提言を部分としてではなく俯瞰することは意義のあることだと考え

る。

 以上のような問題意識によって、まずサドラーの1989年の論文「形成的アセスメントと教授学習

システムの構想」に基づき、定義と条件、さらに教授学習システムの実行のための要素を明確にする。

次に問題点、フィードバックが形成的アセスメントにとって中心的概念でありうるかということに

ついてその有効性と共に検討する。最後に結論で、日本の授業の文脈においてこの形成的アセスメ

ントとフィードバックの理論化の考察がどのような役割を果たすのかその意義を探求する。

2. 「形成的アセスメントに基づく教授学習システムの構想」の概念枠組み サドラーの(1989)の「形成的アセスメントと教授学習システムの構想」は、評価の専門的知識の

発達における形成的アセスメントの本質と機能について、なぜある学習者が形成的アセスメントに

関して明らかな不十分さゆえに専門的知識を獲得することに失敗するのかに関心がもたれて書かれ

た。その本質と機能は生徒の成果が多様なクライテリア5)を使って質的に見積もられる教授学習シ

ステムの種々様々に関連し、生徒の学習への取り組みの質についての判断に焦点が当てられた。

 まずサドラーの投じた論点として使われている用語の定義について整理しておく。それから、自

己モニタリングをめざして生徒の能力を伸ばすよう意図された教授学習システムは誰がどのように

実行すべきなのかについて検討する。

2.1 用語の定義

 主な用語の定義を表1にまとめた上で、表1に沿って解説を付け加える。

 まず質的な判断として形成的アセスメントは、生徒の学習状況の要約とまとめ、コースの終わり

の資格認証の報告である総括的アセスメント6)と対比され、いつ行うかのタイミングではなくその

目的と効果で区別される。サドラーは形成的アセスメントの方に厳然と区別される概念と技術を求

め、総括的アセスメントよりも高い要求をする。実践としてはすでに実行されており根本的に新し

いものではないが、理論的観点を提起して一般化を図る論議のための原理として提案されている。

 次に、フィードバックは、語ることを通した「正しいか正しくないか」「うまくいったかいかなかっ

たか」の結果の知識についての情報として一般的には定義されるが、サドラーはより広い概念とし

て、電子工学から引用した情報システムの定義(Ramaprasad, 1983:p.4)を当てている。この定義は

機能を強調するために特別に定義されたものであり、殊にずれや食い違い(discrepancy)と言われ

ることもあるギャップの存在とそれを変えたり減らしたりする考え方は、形成的アセスメントや

フィードバックについて考察する重要な基盤として広く流布している。またサドラー自身は以下の

ようにも概念化している。

年報08山本佐江氏1C-四[115-130].indd 115 2013/06/19 11:21:40

―  ―116

形成的アセスメントにおけるフィードバックの探究

表1 サドラー(1989)による用語の定義と説明

用語 定義◎及び説明○

形成的アセスメント ◎ 生徒の応答(パフォーマンス、作品、活動)の質についての判断が、試行錯誤の学習による混乱と不十分さを避ける方法によって、生徒の学習能力を形作り改善するため使われることができるかどうか

フィードバック ○ 形成的アセスメントにとって鍵となる要素であり、通常いかに何かがうまくなされてきたかまたはなされたかについての情報

◎ 実際のレベルとシステムパラメーターの参照レベルの間のギャップについての情報であり、そのシステムパラメーターの参照レベルは何らかのやり方でそのギャップを変えようとして使われる

質的判断 ◎人によって直接なされるものであり、人の脳は評価の資源でもあり用具でもある○以下の特徴のいくつかまたはすべて1.多様なクライテリア2.シャープよりもファジーなクライテリア3.クライテリアを使うためのクライテリア、メタクライテリア4.独立した判断ではないかもしれないが他の人の質の判断を使う5.数値化(評定や得点)は、判断の後述べられる

自己モニタリング ◎ 学習者への情報資源が外部からのフィードバックとは区別され、学習者が関連情報を産出する手続き

  それ(フィードバック)はスタンダード7)やゴールの知識、多様なクライテリオンの比較をする中

で、スキル、何が産出されるのかと何が目標とされるのかの間の食い違いを減らすための方法と

手段の発達を要求する(p.142)。

 情報は、ギャップを変えるために使われる時のみフィードバックとなる。改善する力に欠けてい

たり、点数や成績のように数値だけのものだったりしたら、根本的な判断やクライテリアには注目

されず、却って逆効果になるかもしれない。つまり学習を改善する効果がないものはフィードバッ

クではない、または形成的ではないのである。

 さらにフィードバックに関してもう1つ重要な基盤となっていることは、実行における有効性の

ために同定された3つの条件である。その3条件とは、以下のものである。

 (a)目標とされるスタンダード(または目標、参照レベル)の概念をもたなければならない。

 (b)パフォーマンスの実際(または現在)のレベルとスタンダードを比較しなければならない。

 (c)ギャップを閉じるように導く適切な取り組みに取り掛からなければならない。(p.121)

 この3条件は、ブラックとウィリアム(1998)にも引き継がれ、フィードバックシステムを構成す

る4つの要素として同定されている。(p.48)

 ・いくつかの測定可能な属性の実際のレベルのデータ

 ・その属性の参照レベルのデータ

 ・2つのレベルを比較し、2つのレベル間のギャップについての情報を産み出すメカニズム

 ・情報がギャップを変えるために使われることによるメカニズム

 このように、フィードバックがシステムとして有効性をもつよう機能するために、実際レベルと

参照レベルのデータの収集、その2つの間のギャップを比較すること、ギャップを減らすために取

年報08山本佐江氏1C-四[115-130].indd 116 2013/06/19 11:21:40

―  ―117

� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第61集・第2号(2013年)

り組むことが必要であるということが明確になり、サドラー以後形成的な機能をもつフィードバッ

クの研究はこの知見に基づいて進められるようになった。

 続いて質を判断する5つの特徴は、主として質的判断のもととなる資質、特徴であるクライテリ

アに関することである。多数のクライテリアは個人の次元間の関係性の総体的なパターンが個々の

部分と同様に重要視され、その重なりゆえに総量としてはより大きくなる。シャープなクライテリ

アとは正誤のように不連続なものであり、対してファジーなクライテリアはエッセイの独創性のよ

うに、「なし」から「完璧な状態」まで連続的なグラディエーションによって特徴づけられる抽象的

な概念である。メタクライテリアとは、教師が関連するクライテリアをあらかじめすべて特定して

おいても、生徒の応答に対して一律には適用できないと気付くように、ルールを使うためまたは壊

すためのルールを知っていることを意味する。応答の質を判断する決定が正しいかどうかについて、

他の人の質的判断を使うことがあるが、それはコンピューターによるチェックのように方法として

独立ではないかもしれない。最終的な決定は、数えたり測定したりして数値化し結果の透明性をもっ

て等級付けすることでは到達しえないものである。

 このような質的判断は、様々な教科において重要であり、生徒に正誤を越えた拡張的な応答を求

める上での基礎となる。エッセイや作曲のような永久的な作品は判断の前に思う存分修正可能であ

るが、対照的に教室での授業や劇、スピーチのように一時的に取り組まれその場で成果を上げるも

のは質判断的フィードバックによって指導システムに様々な課題を課す。またデザインに関した領

域ではどこであろうと質的判断が必要になる。

 最後に、自己モニタリングへフィードバックからの移行の促進が教授学習システムの目標である

とされる。そしてその移行はフィードバックの有効性の3つの条件が満たされる時にのみ起こる。

 その他、この論文ではアセスメントと評価(appraisal, evaluation, judgment)は区別されておらず、

互換的に使用されている。また「形成的」とは、通常望ましい目標に到達するため、何かを形づくっ

たり型にはめたりすることに関連した使われ方をしている。

2.2 教授学習システムの構想�2.2.1 生徒の役割

 最も強調されているのは生徒の役割である。生徒が評価の専門的知識を発達させ改善するために、

教師による質の概念と似通ったものをもつことが不可欠となる。生徒は、自分が創り出したものの

質の判断をすることができ、実行している最中に自分のしていることを調整することができるので

ある。そのために、先に出したフィードバックの有効性の3条件が必要であり、これらは段階的に

ではなく同時に起こる必要がある。この3条件に沿って、生徒の役割を整理していく。

 3条件の(a)において、達成や優秀さの程度が示されるスタンダードや参照レベルの形式が、希求

され、目指され、憧れられる時、目標となり、教師による外的なもの以外にも学習者自身によって創

り出され適用される。もし学習者がギャップを大きすぎると思えば目標は獲得できないものとみな

され、高く動機づけられて他人や最初の失敗の連続でも興味を失わなかった自信のある生徒には強

年報08山本佐江氏1C-四[115-130].indd 117 2013/06/19 11:21:40

―  ―118

形成的アセスメントにおけるフィードバックの探究

力な刺激となるだろう。逆にギャップが小さすぎると思えば、それを閉じるためにわざわざ努力を

する価値はないと思うかもしれない。

 (b)で実際のレベルとスタンダードとの比較するために、生徒は自分自身の取り組みについて多

数のクライテリアを判断できるだけでなく、客観性と公平さでも適切に有能であることを要求され

る。複雑な判断を行うには、細分化したクライテリアを恣意的にあるいはチェックしながら1つ1

つ判断を行うアプローチと、最初に全体的な形態8)として判断してから後で必要なクライテリアを

参照するアプローチがある。方法として限定せずどちらも参考にできる。また顕著な特質に注目し

て目標を評価するかもしれない。多数のクライテリアは顕在的及び潜在的にも存在し、それを全体

として考慮することは、能力の高い教師にだけでなく生徒が自分の達成度をほどほど精巧にモニ

ターするため発達させなければならない知識である。なぜなら、すべてのクライテリアに一時に従

事する実践などありえないからである。

 生徒が質の概念と多数のクライテリアの判断を促進するために、生徒は直接的な評価の経験をも

つことも求められる。フィードバックを解釈するには、教師の暗黙知を理解する必要があるからで

ある。1つ1つのクライテリオンは具体的な例の中で特性をもつゆえにそれを全体的な質のクライ

テリアとして理解することは捕捉しがたく、技術的な問題であると同様に認識論的な問題として理

解に至る。従って定義によっては暗黙的なクライテリアは呼び出せず、経験と目利きの指導を受け

た評価の活動への長期の取り組みを通してとらえられる。評価の経験をすることで評価の責任が教

師から生徒にいくらか委譲され、生徒は評価の知識の実体をつくり上げる。評価することの困難に

気づき、評価を消費するのではなく行う内部の者となるのである。

 またもしクライテリアを分けて考えたなら、生徒はより広い意味での質の概念よりも個人の特性

に関心をもつので、多数のクライテリアを使いつつ全体的な質の形態的判断をするよう励まされな

ければならない。そして生徒は評価の経験を通して与えられた課題の特性を明確化することの重要

性に気づく。課題に密着することがクライテリオンの先取りとならなければならない。

 生徒が取り組みを評価する状況での評価活動は、それ自身目的であるよりむしろ効果を与え促進

するものとしてある。そのためカリキュラム内容の評価と学習の仲立ちとしての評価は明確に区別

すべきである。

 (c)自己モニタリングを起こす3番目の条件、ギャップを閉じる方略は、目標へパフォーマンスを

近づけるように生徒自身が適切な手段や方略を選び出せることである。取り組みをつくる能力と他

の人や自分の取り組みを評価する能力は必ずしも調和しないため、この要求は別個に考えられる。

評価の専門的知識の所有は改善の必要条件であるが、十分条件ではない。評価のエキスパートであっ

ても当該の対象を産出することは不可能な芸術批評のような領域がある。指導の重要な課題は、産

出することを含めて、生徒に多種類の専門的知識を身に付けさせる支援である。

 課題が複雑になればなるほど見込まれる成果が多様になり、様々な方法でギャップを変えようと

工夫されるが、ギャップについての情報が単独で修正活動を提案することは減る。もし学習者が課

題の本質を理解すれば、産出、評価、修正の経験がリソースのプールを発達させ維持する手段を与

年報08山本佐江氏1C-四[115-130].indd 118 2013/06/19 11:21:40

―  ―119

� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第61集・第2号(2013年)

える。

2.2.2 仲間の役割

 フィードバックにおけるピア・アセスメントの重要性の認識は近年ますます高まっている(Hattie

& Gan, 2011)が、サドラーはその重要性に早くから気づいていた。評価と修正の経験のため生徒が

取り組む最も容易に利用可能な教材は仲間の生徒を評価することであるとして、仲間とのやり取り

の環境を整えて取り組むことに以下の長所を紹介している。

 (a)取り組みは同じタイプのものであり、自分自身のものとして同じ課題に向き合える

 (b) 生徒は創造性、デザイン、手続きの問題への広範囲な手段や解決に直面し、またこれらにさら

されることによって付随的に自分自身の手段のレパートリーを拡張する

 (c) 他の生徒の試みは、包括的で特定の不適切さを含みつつ、不完全さの広いスペクトラムを通

常カバーする

 (d) 協働的な環境での他の生徒の取り組みを活用することは、生徒が自分自身よりも他の生徒の

取り組みに対する方が受け身でなく情緒的に関与しながら、いくらかの客観性に到達するこ

とを支援する

 さらに言うと、波及効果として教師のアセスメントの仕事量を減らすことができる。

2.2.3 教師の役割

 サドラーにおいて、教師は評価の専門的知識を有するエキスパートであることを求められる。教

師は課題に適した質の概念を保有し、生徒の取り組みをその概念と関連させて判断しなければなら

ない。また(何が質を構成するのかについての)知識をすでに所有しており、生徒に分かち与えな

ければならない。ただその知識は不正確な様式であり、暗黙知として頭の中に保持されているもの

である。

 教師がみんなで生徒の成果をやりとりしたり、アセスメントを行う中で協働したりするところで

は、健全な質の判断能力は頭の中のスタンダードとしてギルドの知識の形式を構成する。それは安

定しているけれども不変ではなく、教師は事物を組み合わせた間に存在する枠組みに強く影響され

る。暗黙的な記憶だけには頼らず、他の生徒の取り組みに基づいて参照枠組みをつくる。しかし、

生徒の序列や等級は形成的アセスメントにとって不適切なものである。なぜなら学習者の分類や階

層化を仮定することが教育の主要な目的ではなく、何らかの専門的知識の獲得が各生徒の目標であ

り、他の生徒に勝ることではないからである。また、ギルドの知識はどちらかと言えば到達しがた

いスタンダードの概念を保存し、質についての判断を学習者が教師に委ねがちである。教師の頭の

中から優秀さの概念を引き出し、外的な形式を与えて学習者に利用可能にすることは重要であり、

その方法は、スタンダード準拠評価に関連している(Sadler, 1987)。要約するとスタンダードは記

述的な言明を貫くことと例示により特定される。ある教師たちにとって、質のレベルを示すための

具体的な模範例の使用は、生徒に模倣をすすめオリジナリティや創造性を抑えるかもしれないと心

年報08山本佐江氏1C-四[115-130].indd 119 2013/06/19 11:21:40

―  ―120

形成的アセスメントにおけるフィードバックの探究

配させる。だが簡単に模倣される単純な模範例は不適切であり、またオリジナリティや創造性は完

全に自由な環境では最良な発達が望めない。その上生徒が実際コピーを行ったとしてもプロセスか

ら何か値打ちのあることを学ぶかもしれないことは多くの教師が経験している。

 もし教師が修正的な手段を示唆する位置にいるなら、生徒が発達するべき種類の最新の生産的な

専門的知識を申し分なく所有すべきだろう。教師はどんなに訓練された方法でも生産的な活動に取

り組まない純粋な鑑定家であるべきではない。

 だが教師だけが生徒の取り組みを評価するスキルと専門的知識をもち、このスキルが転移不可能

であるということではない。この仮定では生徒に適切な質の判断をさせる機会が不足する。生徒の

自己モニタリングを阻害する4つの理由が考えられる。

 1点目は教師の中には生徒に評価の判断に取り組ませることに対して恐怖を感じる者がいること

による。多くの教師は行動制御や修正のために評価を罰や報酬として使っており、責任の委譲は教

師の権威を失墜させる潜在力をもつと考えるからである。または教師の第一義的な責任としての評

価や教師の特権としてのアセスメントとみなすゆえである。しかし教師の責任の一部は、いつかきっ

と生徒が教師から独立して自分自身の発達に知的に取り組みそれをモニターするための評価の知識

をダウンロードすることにある。教師のギルドの知識は、むしろ生徒の取り組みをいかに評価すべ

きか知ることを減らし、生徒へ評価の知識をダウンロードするための方法を知ることを増やすこと

に存するべきである。

 2点目は環境によって抑制されることである。スクールベーストアセスメントは継続的周期的に

なされ、最後の一発試験の不安を和らげ、多様な例を認め、頻繁なフィードバックを提供すること

ができる。だが各取り組みが得点化され最後に総計として加算される時には形成的に機能しない。

 3点目は統計的な分散とコースの割り当てを一致させる政策の下では、生徒間の競争を励まし、

すべての生徒の真正な改善目標にとって有害となる。

 4点目はカリキュラム構造と関連し、短い期間では形成的アセスメントの目的のために不十分で

ある。評価し、十分満足できるものになるようにやり直しさせ、最後によくつくり出された作品を

提出させるには時間が足りない。

 以上のように、サドラーのこの論文は、現在の形成的アセスメントやフィードバックに関する論

点がほぼ網羅されている理論的枠組みを提示したものである。彼の主張で独創的なところは、先に

述べた定義と3条件、教育評価の専門性を生かしたスタンダード、クライテリアなどの活用であり、

細分化された部分の寄せ集めではない全体的な質の判断をする人間的な能力を重視し、クライテリ

ア間の重なり合いの部分に着目することが大事であるとの示唆である。それらの水路を辿って行く

とさらに豊かな理論と実践に出合うことが可能になるであろう。ただこの時点では、目標や方法な

どフィードバックの認知的な使用について重点が置かれていて、動機づけなど心理学的な分野から

の示唆は少なかった。また教科による特性についてライティングの事例以外言及されていない。さ

らに教室での実践的実証が、この枠組みに基づいて今後必要となってくると考えられる。

年報08山本佐江氏1C-四[115-130].indd 120 2013/06/19 11:21:40

―  ―121

� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第61集・第2号(2013年)

3.フィードバックの位置付けと意義 サドラーの1989年の論文以降フィードバックの機能的な定義及び有効性のための3条件が形成的

アセスメントの論議の主軸となってきたが、果たしてフィードバックは形成的アセスメントで中心

となる位置を占めるのだろうかと言う問いについて検討する。

 先述した世界的な教育改革の流れのきっかけとなったブラックとウィリアム(1998a)による「ア

セスメントと教室の学習」についてのレビュー論文はサドラー(1989)の形成的アセスメントにおけ

るフィードバックの重要な役割を踏襲して以下のように記述した。

  全ての取り組みは指導された生徒と教師の間である程度のフィードバックを巻き込み、これはペ

ダゴジーの中心である彼らの相互作用の質にあることを含意する。(p.16)

 彼らの論文にサドラー(1998)が応じ、自分の取り組みに共鳴するものとして受け入れた後いく

つかの論点について熟考している。フィードバックで重要なことはその質であることやフィード

バックが機能しないネガティブな面にも着目することなどである。特に教師に焦点が当てられ、自

己アセスメントを除くコミュニケーションとしてフィードバックを行う評価のプロセスで、教師の

もつ能力に言及している。教師はまず学習者のつくり出したものに留意し、次にそれを参照枠組み

と比較して見積もり、最後にクラス全体に対して明示的に応答する。このプロセスへ能力の高い教

師は、優れた知識、まとまった態度や性向、テストを構成するスキル、適切なクライテリアとスタン

ダードの深い知識、評価のスキル、フィードバックを裏付ける専門的知識の6点をリソースとして

持ち込む。ここでサドラー(1998)は教師のリソースのために、教師の形成的アセスメントに関す

る専門的教育を教員養成と現職教育において要求する。また生徒を支援する教師自身の徳性にも言

及している。最後に先の論文では触れられなかったフィードバックの動機づけ的な側面、学習者に

とっての理解のしやすさ、コーチング9)による仲立ち、自信と希望を鼓舞する力について述べてお

り、フィードバックの機能の考察が広がっている。

 続いてブラックとウィリアム(1998a)の同じレビューに対して、フランス語文化圏のペレナウー

(1998)から、形成的アセスメントはフィードバックの気づきと矛盾しないが、単にフィードバック

だけでは十分でないと異議が出された。形成的アセスメントは学習を強化するフィードバックの応

用で同定するよりむしろフィードバック介入の調整的効果の方により大きい強調を置き、1つの資

源として学習プロセスの調整に貢献すべきものとしている。またフィードバックは単純なメッセー

ジだが、その効果は受け手のレベルで測られると言う。フィードバックを受ける側の問題にかかわ

る効果に対する辛辣な言葉は、その下のサドラー(1989)の気づきと通底している。

  クラスで生徒に与えられたフィードバックの一部は、海に投げ入れられた瓶のようなものだ。誰

もそれらが含むメッセージがある日受け取り手に見出されるだろうとは確信していない。

(Perenoud ,1998:p.86)

年報08山本佐江氏1C-四[115-130].indd 121 2013/06/19 11:21:40

―  ―122

形成的アセスメントにおけるフィードバックの探究

  教師が生徒に活動の質について妥当で信頼できる判断を提供した時でさえ、改善は必ずしも生じ

ないという当たり前だが困惑する観察・・・生徒は規則的で正しいフィードバックにもかかわらず、

多くの場合ほとんど或いは全く成長や発達を示さない。(Sadler, 1989:p.120)

 サドラーはこの問題意識に基づき、フィードバックを有効にするための3条件を始め考察を進め

ていった。またペレナウーの批判を受けたブラックとウィリアム(2006;2009)は、その後の理論化

の過程において、相互作用的フィードバックとしてより広い概念化に挑戦し理論の幅を拡張して

いったのである。

  

  このように我々は、形成的アセスメントの発展が教室の学習の望ましい変化のより幅を広げるた

めの唯一の方法、または最良の方法であるとは論議さえできない一方、それが特にある程度効果

的であるのは、相互作用的フィードバックの質が学習活動の質を決定する貴重な局面であり、そ

の結果としてペダゴジーの中心的局面となるからである。(2006, p.99 ; 2009, p.81)

図1 ペダゴジーの3つの相互作用的領域(Black�&�Wiliam,�2009 山本訳)

 その後サドラー(2010)はフィードバックについての考察をさらに進め、とりわけ高等教育で当

然とされているフィードバックの有効性に疑問を呈している。すなわち、教師の強みや弱み、学習

の改善に向けて詳細なフィードバックを与えるにもかかわらず学生がフィードバックの言明を正確

に解釈する能力を身に付けることは困難だということである。全体よりも部分へ焦点を当ててしま

うこと、教師の使う言葉が容易に学生に伝わるとは限らないこと、暗黙知に欠けていて偶発的な学

びが起こらないことによりコミュニケーションに失敗し、フィードバックの語りに益がなくなる。

学生側が教師の語彙に親しみ、自らの言葉として推論できる時解釈がうまくいく。それには学生に

教師のものと似た評価の経験が提供されることが必要である。その主要な方法としてピア・アセス

教師調整者または指導者

学習者受け身または巻き込まれる

 室

年報08山本佐江氏1C-四[115-130].indd 122 2013/06/19 11:21:43

―  ―123

� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第61集・第2号(2013年)

メントが提案されている。先行文献により(1)課題の順守(2)質の理解(3)クライテリアの理解の3

つの根本的な概念が、進歩的に構成されるように意図的な順序性をもって定式化された。課題が特

定され、質が判断され、その根拠が説明されて複雑な取り組みを評価でき、このプロセスがアセス

メント概念の中心となる。教師が語る一方のフィードバックから、学生が可視化できる質の判断へ

移行するために、フィードバックは乗り越えられ重要性が減らされなければならないと断じている。

 以上のような論議を受けて最初の問いに対して答えると、確かにフィードバックだけが形成的ア

セスメントの要素のすべてではないとしても、形成的アセスメントが対話的なコミュニケーション

に基づくものである限り、相互作用的役割を果たすためにフィードバックは辺境ではなく中心に位

置づくと言えるのではないだろうか。特に日常的な教室の授業でのフィードバックの役割は、非常

に大きいと考えられる。フィードバックの概念が拡張され、教師のものから教師と生徒双方のもの

へ、また生徒同士のものへと主体が広がっていくことが重要である。そのためにピア・アセスメン

トの実行が方法として有効であることを提言する。また、フィードバックは教室で有効に機能させ

るべきものとして一種の理念として存在せねばならない。それは自然発生的にあるものではなく、

教師が教室の言葉にいかに自覚的であるかということを通して存在する。

4.結論 主としてサドラーの論文に基づいて、形成的アセスメントとフィードバックの定義を明確化して

きたが、それが日本の授業の文脈とどうかかわり、相互に影響するのかについて考察することによ

り、形成的アセスメントにおけるフィードバックを探究しまとめとする。

 形成的アセスメントとは、営々と積み重ねられてきた教師たちの日々の授業の工夫のことであり、

特に新しい実践ではないと言われる(Sadler, 1989 ; Wiliam, 2007)。授業のうまい教師のエッセン

ス(まなざしの共有、ゆさぶりの発問、机間指導、ノート点検等)を共有財産にするために提起され

たもの(田中 , 2008)とされるが、ただ漫然と授業を見るだけでは授業のよさがなかなか伝わりにく

い。視点を明確にし、何がどうよいのかはっきりと理解する必要がある。つまり授業における工夫を、

質的に判断することが必要である。質的判断は、形成的アセスメントにおける中核的行為であり、

授業観察においては授業のよさを抽出するクライテリアの概念が重要である。その考察と交渉は観

察者にも授業者本人にも双方に有益となるだろう。

 また教師は、通常評価と評定を区別せず、日常的な授業において評価を意識することはあまりな

い。形成的アセスメントの考えを持ち込むことによって、学習を支えるアセスメントを組み込んだ

授業をつくり目標に準拠した評価に基づいて生徒の学習と教師の指導を改善することができる。改

善のために必要な情報を峻別できるようになる。アセスメントという用語で表される評価は、評定

と厳密に区別され、生徒の優劣や序列、成績をつけるものでは断じてない。

 さらに対話的な形成的アセスメントの学習環境で相互作用的フィードバックの実践を行うこと

は、現在の学習指導要領で強調されている思考力・判断力・表現力等をはぐくむ観点での言語活動

の充実を志向することと重なる。

年報08山本佐江氏1C-四[115-130].indd 123 2013/06/19 11:21:43

―  ―124

形成的アセスメントにおけるフィードバックの探究

 このように日本の授業で形成的アセスメントを実践する長所は多くあり、その際原理的な提案を

したサドラーの言明がたいへん役に立つだろう。必ずしも数値では表しきれない質的な判断をどの

ように行えばよいのか、人間に信を置いた脳内での判断の優位性を明言した。ただ、いみじくもペ

レナウー(1989)やサドラー(1989;2010)が述べたように、彼らのテキストのコメントをフィード

バック情報として形成的に受け止めるのは受け取り手である自分自身であるということにも留意し

ておくこととする。

 その上、理論化を進める上で必要なことは、より多い具体的な例証である(Bennett, 2010)。授業

における様々な工夫について、日本で蓄積されてきたよき授業の伝統も数多く貢献できることが期

待されている(Wiliam, 2007)。日常に埋め込まれた授業の工夫や教師の日々の実践が理論化につな

がるということは、教員が自律的に学習や指導の改善に携わる大きな原動力となる。そしてその改

善の努力は学習と指導の架け橋となり、生徒にとっても直接的な利益がもたらされるであろう。

 以下の点が課題として残る。1点目は、サドラー(1998)も触れている教師教育の問題である。形

成的アセスメントやフィードバックについての学習を教員養成や教師教育に組み込む国々が増えて

きた(有本・山本・新川, 2012)。諸外国の例を参考にして、日本においてもそのことをどのように提

言していけばよいだろうか。また高等教育自体形成的アセスメントをどう取り入れるかにも焦点が

集まってきている。高等教育でアセスメントに関する教育をどう行うのか、アセスメントをどう形

成的に行うのかについて両面から考える必要がある。

 2点目は、形成的アセスメントの有効性をいかに評価すればよいのかという点である。有効性に

ついての評価は自然な環境設定においては困難が多いが、実際に試みることが今後形成的アセスメ

ント実践を広く展開していくための鍵となる。サドラー(1989)の提言した質的判断の精緻化を具

体的に行うことと共に、統計的な結果の活用も考慮されねばならないであろう。

【注】1) スタンダード準拠評価は、1987年オーストラリアの R. サドラーによって、ドメイン準拠評の問題点を克服する

ために、目標準拠評価の新しい解釈として提唱された評価方法である(鈴木 , 2006:89)

2) 「1つには、指導した事柄を正確に評価に反映させると同時に、評価する事柄は必ず指導しておくことを意味し、2

つには、評価を指導の終着点とするのではなく、そこで得られた結果を積極的に活用して以後の指導改善を図るこ

とを意味する(長瀬 , 2006)。」と定義されるが、形成的アセスメントとほぼ同義である。

3) 世界的な教育改革の1つの流れ OECD(2005)では、形成的アセスメントは生徒の学力達成状況の向上を促す最

も効果的な戦略の1つとして、この方向での改革を支援してきており、各国の政策に指針を提示するものである。

4) ブルームの提案した当初形成的評価(evaluation)と言われたものは、より子どもが学習の主役となる教室での子

どもの学習形成が目標となる時に形成的アセスメント(assessment)という言葉に取って代わられた(OECD, 

2005:241)

5) クライテリアは次のように定義されている。「達成するかもしれないことを特定し識別する(アセスしうる)要素

である。…個人の属性に価値をおいてアセスしうる要素であり、尺度に近く、物差しあるいは人格的な側面での様

相や方針と言い換えられる。」(有本・山本・新川 , 2012:43)

年報08山本佐江氏1C-四[115-130].indd 124 2013/06/19 11:21:43

―  ―125

� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第61集・第2号(2013年)

尚、文中でクライテリオンは単数として、クライテリアは複数の意味で使用している。

6) 総括的アセスメントは、それが提供する機能の概念で形成的アセスメントとは区別される(Wiliam, 2011)。その

機能とは「単元、学期、課程の終わりに、単位を認定したり成績をつけたりすること」(撫尾 , 2006)

7) 保障すべき学力水準として社会的に承認されている水準のことをスタンダードという。(西岡、2006)

8) サドラー(1989)は、細分化せず全部そろっている全体として、カプラン(1964:211)から「形態的」という言葉を

引用しており、 一種のゲシュタルトとして統合されるとしている(p.132)。

ゲシュタルトとは、「部分の寄せ集めではなく、それらの総和以上の体制化された構造のこと、形態」(広辞苑 ,

2008)

9) 「コーチングとは、相手のやる気を喚起し、目標を達成することをサポートするためのコミュニケーションスキル

である。」(千々布 , 2008)

【引用文献】有本昌弘・山本佐江・新川壮光 (2012) 学びを創り出すアセスメント-教員養成におけるコア・カリキュラムへの導

入の必然性- 日本教科教育学会誌 35(2):41-51

Bennett, R. E. (2011) Formative assessment:a critical review. Assessment in Education: Principales,Policy &

Practice 18(1):5-25

Black, P. and Wiliam D. (1998a). Assessment and Classroom Learning. Assessment in Education, 5:7-71.

Black, P. and Wiliam, D. (1998b). Inside the black box: raising standards through classroom assessment. Phi Delta

Kappan, 80:139-148.

Black, P. & Wiliam, D. (2006). Developing a theory of formative assessment, Educational Assessment, Evaluation

and Accountability, 21(1):1-31

Black, P. & Wiliam, D. (2009). Developing the theory of formative assessment. Assessment and learning, In

Gardner , J.(Ed..), SAGE publication:81-99

Bloom, B.S., Hasting J.T. and Madaus, G.F. (1971), Handbook on Formative and Summative Evaluation of Student

Learning, McGraw-Hill Book Co, New York.

Hattie, J. & Gan, M.(2011) Instruction based on feedback. In R. Mayer. & P. Alexander (Eds.) Handbook of

research on learning and instruction. New York. Routledge:249-271

James, M. (2008) Assessment for learning: Research and policy in the (Dis) United Kingdom In Berry , R. and

Adamson, B.,(Eds.). Assessment reform in education policy and practice. Springer

広辞苑 第6版 (2008) 新村 出(編)岩波書店

皆見英代 (2008)「規準」と「基準」・'criterion' と 'standard' の区別と和英照合 -- 教育評価の専門用語和訳に戸惑う「国

立教育政策研究所紀要」137, 国立教育政策研究所:273-281

長瀬荘一 (2006) 指導と評価の一体化 教育評価事典 辰野千壽・石田恒好・北尾倫彦(編)図書文化:67

撫尾知信 (2006) 診断的評価・形成的評価・総括的評価 教育評価事典 辰野千壽・石田恒好・北尾倫彦(編)図書文化:63

西岡加名恵 (2006) 目標の具体化 教育評価事典 辰野千壽・石田恒好・北尾倫彦(編)図書文化 : 87

OECD/CERI (2005) Formative assessment:Improving learning in secondary schools. OECD, Paris 形成的アセス

メントと学力-人間形成のための対話型学習をめざして- (2008) OECD 教育研究革新センター(編)有本昌

弘(監訳)明石書店

年報08山本佐江氏1C-四[115-130].indd 125 2013/06/19 11:21:44

―  ―126

形成的アセスメントにおけるフィードバックの探究

大澤隆之 (2011) 授業の中での「言語活動」と形成的評価 「言語活動の評価 なぜ , 今『話す』『書く』を重視するのか」

全国算数授業研究会(編)東洋館出版社:20-27

Perenoud, P.(1998) From formative evaluation to a controlled regulation of learning processes.

Towards a wider conceptual field. Assessment in Education, 5(1):85-102

Sadler, R. (1987) Specifying and promulgating achievement standards. Oxford review of education, 13(2):191-209

Sadler, R. (1989) Formative Assessment and the Design of Instructional. Systems. Instructional science, 18:119-144.

Sadler, R. (1998) Formative Assessment: Revisiting the Territory.Assessment in Education, 5:77-84.

Scriven, M. (1967) The Methodology of Evaluation, AERA monograph series on evaluation, 1:39-83.

鈴木秀幸 (2006) ドメイン準拠評価とスタンダード準拠評価 教育評価事典 辰野千壽・石田恒好・北尾倫彦(編)図

書文化:89

田中耕治(2008) 教育評価 岩波書店

千々布敏弥(2008) 教師のコミュニケーション力を高めるコーチング 明治図書

Wiliam, D. (2007). Keeping learning on track: Formative assessment and the regulation of learning. In F. K.

Lester(Ed.), Second handbook of mathematics teaching and learning. Greenwich, CT. :Information Age

Publishing:1053-1098

Wiliam, D. (2011) What is assessment for learning? Studies in educational evaluation 37:3-14

年報08山本佐江氏1C-四[115-130].indd 126 2013/06/19 11:21:44

―  ―127

� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第61集・第2号(2013年)

TheaimofthisstudyistoexamineJapaneseclassroomassessmentinrelationtoworldwide

movementofdevelopingthetheorywhichisbasedonSadler'sconceptsoffeedbackasformative

assessment.ThisstudyreviewedmainlySadler'sworksandshowedhiscomprehensiveidea.

At first terminology, definition, andmethodology of formative assessment and the

instructionalsystembasedonSadler'sconcepts isclarified.Thenwhether feedback is locusof

formativeassessmentisconsidered.Finally,Iwillexploreaboutwhatrolethedevelopingtheory

offormativeassessmentandfeedbackshouldplayinthecontextofthelessonofJapan.

Sae YAMAMOTO(Graduate Student, Graduate School of Education, Tohoku University)

A Study of Feedback as Formative Assessment :Analysis on Royce Sadler's theories

年報08山本佐江氏1C-四[115-130].indd 127 2013/06/19 11:21:44

年報08山本佐江氏1C-四[115-130].indd 128 2013/06/19 11:21:44