16
Research Institute of Innovative Technology for the Earth RITE 世界および日本の CO 2 ・温室効果ガス排出見通し 2014 について 平成 26 11 18 RITE システム研究グループ はじめに (公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)による世界地域別の CO 2 排出量の見通しは、温暖化対 策、政策立案の基礎情報として、これまでにも日本政府をはじめ、大変多くの方面において利用頂い てきました。この度、直近の排出量実績、経済動向を踏まえて再度見直し、下記のように、2050 年ま での世界主要地域別のエネルギー起源 CO 2 排出量と温室効果ガス排出量見通しを策定し発表致します。 世界のエネルギー起源 CO 2 排出見通し 2011 年までの CO 2 排出量統計、および 2012 年までの世界各国の経済動向、将来の経済成長見通し等 を踏まえ、世界最先端の温暖化対策評価モデル 1) によって推定したものです。ここで示す CO 2 排出見 通しは、現状とられている温暖化対策程度が継続されるとした現状政策の下での CO 2 排出量の見通し 1 になります(特段の温暖化対策をとらない場合については、付録 2 に掲載しています。)。 まず、世界の一次エネルギー供給の見通しを図 1 に示しています。 CO 2 の排出源である化石燃料(石 炭、石油、天然ガス)は、2012 年において全体の 82%のシェアを占める重要なエネルギーです。2050 年までの将来においてもその重要性は変わらず、エネルギー供給の大半を占めるエネルギーであり続 けるという見通しです。 2011 年における世界のエネルギー起源 CO 2 排出量は 323 億トンですが、化石燃料供給の増加に伴っ て、2020 年には 378 億トン、2050 年には 563 億トンに達すると見込まれます(図 2)。世界経済危機の 影響によって、先進国は一時的に CO 2 排出を大きく減らしていますが、世界全体の排出量増大傾向は あまり変わらないと見られます。排出量の各国の比率は、1990 年時点から大きく変化しており、2050 年に向けて一層大きく変化すると見られます。具体的には、2020 年には附属書 I 国の比率は世界排出 量の4割を下回る(37%)と見込まれます(図 3)。なお、これら推計は、気候変動に関する政府間パ ネル(IPCC)の第 5 次評価報告書(AR52014)で世界の多くのシナリオ研究から収集された推計の 中位値と近いものとなっています(付録 2 に比較を掲載しています)。気候変動を抑制するため長期的 には大幅な排出削減が必要であり、主要排出国すべてが実効ある排出削減を推し進めていくことが、 地球温暖化抑制のために不可欠と言えます。また、日本のエネルギー効率に優れた様々な技術、製品 などを世界に多く展開していくことが、世界における効果的な排出削減のためには大変重要であると も言えます。 2011 8 月に公開した排出見通しからの主な更新点として、原子力発電の見通しと化石燃料価格の 見通しが挙げられます(原子力発電については文献 2)、化石燃料価格については文献 3)を参考に更新 しました。)。原子力発電は 2011 8 月版より下方修正され、化石燃料価格はアメリカでのシェールガ ス開発の影響もあり特にガス価格が下方修正されました。ガス価格が安価になることは、例えばアメ リカの老朽化した低効率な石炭火力発電をガス火力発電に置き換えることを促進するといった CO 2 出削減をより進める効果もありますが、エネルギー効率改善のインセンティブが低くなるといった逆 の効果もあり、原子力発電の下方修正の影響等とあわせて、特段の温暖化対策をとらない場合の世界 全体の 2050 年排出量は 2011 8 月版の 566 億トンから付録 2 に示すように 605 億トン(国際航空・ 1 DNE21+モデルにより、2010 年に取られたであろう温暖化対策の限界削減費用を推定し、2010 年以 降もその限界削減費用以下の温暖化対策をとるものとしています。主な国の限界削減費用は、日本 61$/tCO 2 、米国 15$/tCO 2 、英国 28$/tCO 2 、フランス 6$/tCO 2 、ドイツ 30$/tCO 2 と推定されています。ま た、各種の政策によって導入が進んでいる風力発電と太陽光発電については、政策の今後の動向予測 が難しいことから、最新時点での発電電力量 4),5) を将来においても下回らないとして見通しを作成して います。

RITE 世界および日本の CO ・温室効果ガス排出見通し 2014 …図3 エネルギー起源CO 2 排出の各国シェア (1990、2005、2011 年はIEA 統計値6)、2020、2030、2050

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: RITE 世界および日本の CO ・温室効果ガス排出見通し 2014 …図3 エネルギー起源CO 2 排出の各国シェア (1990、2005、2011 年はIEA 統計値6)、2020、2030、2050

Research Institute of Innovative

Technology for the Earth

RITE世界および日本の CO2・温室効果ガス排出見通し 2014について

平成 26年 11月 18 日

RITEシステム研究グループ

■ はじめに

(公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)による世界地域別の CO2排出量の見通しは、温暖化対

策、政策立案の基礎情報として、これまでにも日本政府をはじめ、大変多くの方面において利用頂い

てきました。この度、直近の排出量実績、経済動向を踏まえて再度見直し、下記のように、2050 年ま

での世界主要地域別のエネルギー起源 CO2 排出量と温室効果ガス排出量見通しを策定し発表致します。

■ 世界のエネルギー起源 CO2排出見通し

2011 年までの CO2排出量統計、および 2012年までの世界各国の経済動向、将来の経済成長見通し等

を踏まえ、世界最先端の温暖化対策評価モデル 1)によって推定したものです。ここで示す CO2 排出見

通しは、現状とられている温暖化対策程度が継続されるとした現状政策の下での CO2排出量の見通し1

になります(特段の温暖化対策をとらない場合については、付録 2に掲載しています。)。

まず、世界の一次エネルギー供給の見通しを図 1 に示しています。CO2の排出源である化石燃料(石

炭、石油、天然ガス)は、2012 年において全体の 82%のシェアを占める重要なエネルギーです。2050

年までの将来においてもその重要性は変わらず、エネルギー供給の大半を占めるエネルギーであり続

けるという見通しです。

2011 年における世界のエネルギー起源 CO2排出量は 323 億トンですが、化石燃料供給の増加に伴っ

て、2020年には 378億トン、2050年には 563 億トンに達すると見込まれます(図 2)。世界経済危機の

影響によって、先進国は一時的に CO2 排出を大きく減らしていますが、世界全体の排出量増大傾向は

あまり変わらないと見られます。排出量の各国の比率は、1990 年時点から大きく変化しており、2050

年に向けて一層大きく変化すると見られます。具体的には、2020 年には附属書 I 国の比率は世界排出

量の4割を下回る(37%)と見込まれます(図 3)。なお、これら推計は、気候変動に関する政府間パ

ネル(IPCC)の第 5 次評価報告書(AR5、2014)で世界の多くのシナリオ研究から収集された推計の

中位値と近いものとなっています(付録 2に比較を掲載しています)。気候変動を抑制するため長期的

には大幅な排出削減が必要であり、主要排出国すべてが実効ある排出削減を推し進めていくことが、

地球温暖化抑制のために不可欠と言えます。また、日本のエネルギー効率に優れた様々な技術、製品

などを世界に多く展開していくことが、世界における効果的な排出削減のためには大変重要であると

も言えます。

2011 年 8 月に公開した排出見通しからの主な更新点として、原子力発電の見通しと化石燃料価格の

見通しが挙げられます(原子力発電については文献 2)、化石燃料価格については文献 3)を参考に更新

しました。)。原子力発電は 2011 年 8月版より下方修正され、化石燃料価格はアメリカでのシェールガ

ス開発の影響もあり特にガス価格が下方修正されました。ガス価格が安価になることは、例えばアメ

リカの老朽化した低効率な石炭火力発電をガス火力発電に置き換えることを促進するといった CO2 排

出削減をより進める効果もありますが、エネルギー効率改善のインセンティブが低くなるといった逆

の効果もあり、原子力発電の下方修正の影響等とあわせて、特段の温暖化対策をとらない場合の世界

全体の 2050 年排出量は 2011 年 8 月版の 566 億トンから付録 2 に示すように 605 億トン(国際航空・

1 DNE21+モデルにより、2010 年に取られたであろう温暖化対策の限界削減費用を推定し、2010年以

降もその限界削減費用以下の温暖化対策をとるものとしています。主な国の限界削減費用は、日本

61$/tCO2、米国 15$/tCO2、英国 28$/tCO2、フランス 6$/tCO2、ドイツ 30$/tCO2と推定されています。ま

た、各種の政策によって導入が進んでいる風力発電と太陽光発電については、政策の今後の動向予測

が難しいことから、最新時点での発電電力量 4),5)を将来においても下回らないとして見通しを作成して

います。

Page 2: RITE 世界および日本の CO ・温室効果ガス排出見通し 2014 …図3 エネルギー起源CO 2 排出の各国シェア (1990、2005、2011 年はIEA 統計値6)、2020、2030、2050

Research Institute of Innovative

Technology for the Earth

国際海運からの CO2 排出を含まない。)に上方修正されました。ただし、現状政策の効果を含めると

563億トンと推計され、2011 年 8 月版よりも若干ながら低位と推計されます。

図 1 世界全体の一次エネルギー供給シナリオ(2012年までは IEA統計値 4),5))

0

10000

20000

30000

40000

50000

60000

1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050

エネルギー起源

CO2排出量

[MtC

O2/

yr]

国際航空・海運

その他非附属書I国

ブラジル

韓国

インド

中国

その他附属書I国

日本

EU28(+13)

EU15

米国

図 2 世界主要国・地域別のエネルギー起源 CO2排出シナリオ(2011年までは IEA統計値 6))

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050

一次エネルギー供給

[EJ/

yr]

太陽光

風力

水力・地熱

原子力

バイオマス

天然ガス

石油

石炭

Page 3: RITE 世界および日本の CO ・温室効果ガス排出見通し 2014 …図3 エネルギー起源CO 2 排出の各国シェア (1990、2005、2011 年はIEA 統計値6)、2020、2030、2050

Research Institute of Innovative

Technology for the Earth

米国23.2%

EU1515.0%

EU28(+13)4.9%

日本5.1%

その他附属

書I国18.3%

中国11.6%

インド2.8%

韓国1.1%

ブラジル1.0%

その他非附

属書I国17.0%

1990

米国21.7%

EU1512.2%

EU28(+13)2.8%

日本4.5%

その他附属

書I国10.9%

中国20.3%

インド4.5%

韓国1.7%

ブラジル1.2%

その他非附

属書I国20.3%

2005

米国15.1%

EU158.5%

EU28(+13)1.8%

日本3.2%

その他附属

書I国8.1%

中国27.8%

インド7.8%

韓国1.9%

ブラジル1.4%

その他非附

属書I国24.5%

2020米国17.0%

EU159.2%

EU28(+13)2.3%

日本3.8%

その他附属

書I国9.6%

中国27.8%

インド5.8%

韓国2.0%

ブラジル1.3%

その他非

附属書I国21.2%

2011

米国10.7%

EU155.6% EU28(+13)

1.3%

日本1.5%

その他附属

書I国6.6%

中国22.7%

インド15.4%

韓国1.4%

ブラジル1.7%

その他非附

属書I国33.1%

2050米国13.3% EU15

7.7%EU28(+13)

1.6%日本2.4%

その他附属

書I国7.6%

中国27.3%

インド10.2%

韓国1.9%

ブラジル1.4%

その他非附

属書I国26.7%

2030

図 3 エネルギー起源 CO2排出の各国シェア

(1990、2005、2011年は IEA統計値 6)、2020、2030、2050年は RITE 推計値) 注) 国際航空・国際海運からの CO2排出は含まない。

■ 世界の温室効果ガス排出見通し

図 4 はエネルギー起源 CO2に、京都議定書の対象である非エネルギー起源 CO2、N2O、CH4、F-gas

を加えた GHG 排出見通しを示しています。GHG 排出量は、2020年には 539億トン、2050年には 764

億トンに達する見込みです。排出量の各国の比率(図 5)を見ると、エネルギー起源 CO2 排出量のみ

で見た場合と比べ、その他途上国の比率が高くなり、附属書 I国の 2020年における排出比率は若干下

がります(33%)。これは、その他途上国において農業起源の N2O、CH4の排出量が多いことに依るも

のです。本見通しでは、中国は、現状政策下であっても 2040年頃には排出量がピークを迎えます(付

録 2に掲載の特段の温暖化対策をとらない場合についても同様に排出量のピークは 2040年頃)。

Page 4: RITE 世界および日本の CO ・温室効果ガス排出見通し 2014 …図3 エネルギー起源CO 2 排出の各国シェア (1990、2005、2011 年はIEA 統計値6)、2020、2030、2050

Research Institute of Innovative

Technology for the Earth

図 4 世界主要国・地域別の GHG 排出シナリオ

(2010年までは附属書 I国:UNFCCC7)、非附属書 I国:IEA統計値 6))

注) 土地利用変化起源(LULUCF)の GHG排出は含まない。

0

10000

20000

30000

40000

50000

60000

70000

80000

1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050

GH

G排出量

[MtC

O2

eq

/yr]

国際航空・海運

その他非附属書I国

ブラジル

韓国

インド

中国

その他附属書I国

日本

EU28(+13)

EU15

米国

Page 5: RITE 世界および日本の CO ・温室効果ガス排出見通し 2014 …図3 エネルギー起源CO 2 排出の各国シェア (1990、2005、2011 年はIEA 統計値6)、2020、2030、2050

Research Institute of Innovative

Technology for the Earth

図 5 GHG 排出の各国シェア(1990、2005、2010年は附属書 I 国:UNFCCC7)、

非附属書 I国:IEA統計値 6)、2020、2030、2050年は RITE推計値) 注) 国際航空・国際海運からの CO2排出および土地利用変化起源(LULUCF)の GHG排出は含まない。

図 6、図 7 は、GDP 当たり GHG 排出、一人当たりの GHG 排出見通しをそれぞれ示しています。GDP

当たり排出量は、日本や EU15、米国が低い水準にあり、GHG 排出により依存しない水準で経済活動

を行っていると言えます。その他の国々も将来に向けて改善される見通しですが、2050 年においても

依然として現状の日米欧より GDP 当たり排出量は多い見込みです(例えば、2050 年の中国の GDP 当

たり排出量は、2000年の米国とほぼ同じ水準)。一方、一人当たり排出量は、1990 年時点では、米国、

その他附属書 I 国(ロシア等)、EU、日本といった附属書 I国の国々の一人当たり排出量が多くなって

います。但し、その他の国々でも経済発展に伴って一人当たり排出量は増加し、2000 年には韓国が EU15

や日本の水準を超え、また 2010年には中国が EU15 や日本と近い水準となり、近々追い越すことが見

込まれています。一人当たり排出量は各国の産業構造や気候等の様々な要因に影響されるため、等し

くなることが衡平とは言えません。しかしながら、理念的には、ある程度は収斂していく方向になる

米国18.2%

EU1510.6%

EU28(+13)2.5%

日本3.4%

その他附属

書I国10.1%

中国20.7%

インド5.3%

韓国1.4%

ブラジル2.8%

その他非附

属書I国25.1%

2005

米国19.4%

EU1513.3%

EU28(+13)4.2%

日本3.8%

その他附属

書I国17.0%

中国12.4%

インド4.1%

韓国0.9%

ブラジル2.2%

その他非附

属書I国22.6%

1990

米国13.2% EU15

7.5%EU28(+13)

1.7%

日本2.5%

その他附属

書I国7.9%

中国27.0%

インド7.9%

韓国1.5%

ブラジル2.4%

その他非附

属書I国28.2%

2020米国15.5%

EU158.6%

EU28(+13)2.1%

日本2.8%

その他附属

書I国9.1%

中国25.7%

インド6.3%

韓国1.5%

ブラジル2.5%

その他非附

属書I国25.8%

2010

米国9.8%

EU155.2%

EU28(+13)1.3%

日本1.3%

その他附属

書I国6.8%

中国22.2%

インド14.2%

韓国1.2%

ブラジル2.4%

その他非附

属書I国35.5%

2050米国11.8% EU15

6.8% EU28(+13)1.6%日本2.0%

その他附属

書I国7.6%

中国26.3%

インド10.0%

韓国1.5%

ブラジル2.3%

その他非附

属書I国30.1%

2030

Page 6: RITE 世界および日本の CO ・温室効果ガス排出見通し 2014 …図3 エネルギー起源CO 2 排出の各国シェア (1990、2005、2011 年はIEA 統計値6)、2020、2030、2050

Research Institute of Innovative

Technology for the Earth

ことが望ましいと考えられます。

図 6 世界主要国・地域別の GDP 当たり GHG排出シナリオ

(2010年までは附属書 I国:UNFCCC7)、非附属書 I国:IEA統計値 6))

注) 国際航空・国際海運からの CO2排出および土地利用変化起源(LULUCF)の GHG排出は含まない。

図 7 世界主要国・地域別の一人当たり GHG 排出シナリオ

(2010年までは附属書 I国:UNFCCC7)、非附属書 I国:IEA統計値 6))

注) 国際航空・国際海運からの CO2排出および土地利用変化起源(LULUCF)の GHG排出は含まない。

0

5

10

15

20

25

30

1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050

一人当たり

GH

G排出量

[tC

O2

eq

/cap

ita]

米国

EU15

EU28(+13)

日本

その他附属書I国

中国

インド

韓国

ブラジル

その他非附属書I国

0

1

2

3

4

5

6

7

8

1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050

GD

P当たり

GH

G排出量

[kgC

O2e

q/U

S$ in

20

00 p

rice

]

米国

EU15

EU28(+13)

日本

その他附属書I国

中国

インド

韓国

ブラジル

その他非附属書I国

Page 7: RITE 世界および日本の CO ・温室効果ガス排出見通し 2014 …図3 エネルギー起源CO 2 排出の各国シェア (1990、2005、2011 年はIEA 統計値6)、2020、2030、2050

Research Institute of Innovative

Technology for the Earth

■ 日本のエネルギー起源 CO2および温室効果ガスの排出見通し

図 8 は、日本の一次エネルギー供給シナリオを示しています(現状とられている温暖化対策程度が

継続されるとした現状政策の下での CO2排出量の見通し(脚注 1)参照))。原子力発電については、2014

年 11月 10日現在全ての原子力発電が停止している状況から順次再稼働し、2030 年には 40年基準を満

たす全ての原子力発電が稼働(1540 億 kWh/yr)となり、その後 2050 年まで同じ発電電力量を継続す

ると想定しています。なお、IEA WEO20133)の現状政策シナリオでは、2030 年に原子力発電の発電電

力量は 1740 億 kWh/yr が見込まれており、これよりも若干小さい水準を見込んで推計したものになり

ます。このとき、GHG 排出量は 2015 年をピークに減少する見込みです(図 9)。2005 年比でみると、

GHG排出量は 2020年には▲2%、2030年には▲10%、2050年には▲30%という見通しとなっています。

IEA WEO2013の現状政策シナリオにおける 2030年のエネルギー起源 CO2排出量は 10.78億トンとされ

ていますが、本見通しでは 10.38 億トンであり IEAの見通しと大きな差異はありません。

図 8 日本の一次エネルギー供給シナリオ(2012 年までは IEA統計値 4))

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

1600

1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050

エネルギー起源

CO2、

GH

G排出量

[MtC

O2e

q/yr

]

エネルギー起源CO2

GHG

図 9 日本のエネルギー起源 CO2および GHG 排出シナリオ

(エネルギー起源 CO2は 2011年までは IEA統計値 6)、GHG は 2011 年までは UNFCCC7))

0

5

10

15

20

25

1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050

一次エネルギー供給

[EJ/

yr]

太陽光

風力

水力・地熱

原子力

バイオマス

天然ガス

石油

石炭

Page 8: RITE 世界および日本の CO ・温室効果ガス排出見通し 2014 …図3 エネルギー起源CO 2 排出の各国シェア (1990、2005、2011 年はIEA 統計値6)、2020、2030、2050

Research Institute of Innovative

Technology for the Earth

■ 世界 CO2排出見通し策定の方法論と主要な前提条件

世界のエネルギー起源 CO2排出見通しは、RITEで開発している世界温暖化対策評価モデル DNE21+

モデル 1)を用いて策定しています。本モデルは、世界を詳細に地域分割し、また詳細な温暖化対策技術

の積み上げを行っており、経済活動、生産活動と整合的なエネルギー利用、そして CO2排出について、

2050年までの期間の評価が可能です。

本 CO2排出見通しの推計においては、人口推移については、実績値については国連の 2012推計 8)を

用い、将来シナリオについては国連の 2008年中位推計 9)を前提としています(図 10。2050年の世界人

口は 91 億人)。また、GDP 見通しについては、リーマンショック以降の世界経済危機を含む、直近の

経済状況を踏まえつつ、RITE独自に推計を行った GDP 見通し(図 11、12。2010-20 年の世界平均の実

質 GDP 成長は年率 3.1%、2020-50年は年率 2.4%。日本については、2010-20 年の実質 GDP 成長は年率

1.7%、2020-30 年は年率 0.8%、2030-50 年は年率 0.1%)を前提としています。なお、実績のエネルギ

ー起源 CO2排出は、世界エネルギー機関(IEA)の統計 6)を用いています。

ここでの CO2排出量見通しは、現状とられている温暖化対策程度が 2050 年まで継続されることを前

提としたものであり、今後、世界が CO2 排出削減に取り組むことにより、大きく変えることが可能で

す。

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050

人口

[億人

]

図 10 世界人口の見通し

0

20

40

60

80

100

120

140

1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050

GD

P[T

rilli

on

US$

/yr

in 2

00

0 p

rice

]

図 11 世界の GDP 見通し(市場為替レート(MER)換算)

注) 2000年実質価格(2000年為替レート)で表示。

Page 9: RITE 世界および日本の CO ・温室効果ガス排出見通し 2014 …図3 エネルギー起源CO 2 排出の各国シェア (1990、2005、2011 年はIEA 統計値6)、2020、2030、2050

Research Institute of Innovative

Technology for the Earth

米国30%

EU1526%

EU28(+13)2%

日本17%

その他附属

書I国7%

中国2%

インド1%

韓国1%

ブラジル2%

その他非附

属書I国12%

1990

米国31%

EU1523%

EU28(+13)1%

日本13%

その他附属

書I国6%

中国6%

インド2%

韓国2%

ブラジル2%

その他非附

属書I国14%

2005

米国29%

EU1521%

EU28(+13)1%

日本12%

その他附属

書I国6%

中国9%

インド2%

韓国2%

ブラジル2%

その他非附

属書I国16%

2011

米国27%

EU1518%

EU28(+13)1%

日本11%

その他附属

書I国6%

中国13%

インド3%

韓国2%

ブラジル2%

その他非附

属書I国17%

2020

米国22%

EU1512%

EU28(+13)2%

日本6%

その他附属

書I国5%

中国21%

インド7%

韓国1%

ブラジル2%

その他非附

属書I国22%

2050

米国25%

EU1515%

EU28(+13)2%

日本9%

その他附属

書I国6%

中国17%

インド4%

韓国2%

ブラジル2%

その他非附

属書I国18%

2030

図 12 GDP の各国シェア(市場為替レート(MER)換算)

Page 10: RITE 世界および日本の CO ・温室効果ガス排出見通し 2014 …図3 エネルギー起源CO 2 排出の各国シェア (1990、2005、2011 年はIEA 統計値6)、2020、2030、2050

Research Institute of Innovative

Technology for the Earth

■ 引用にあたって

本報告の内容を引用される場合は、下記の問い合わせ先に連絡を頂きたく、お願い申し上げます。

■ CO2および温室効果ガス排出見通しの更新

本 CO2 および温室効果ガス排出量見通しは、直近の排出量実績、経済見通し、エネルギー価格等を

反映させるため、予告なく不定期に更新する可能性がありますので、ご了承下さい。

■ 参考文献

1) RITE, 2009; 「RITE世界モデルの概要」(http://www.rite.or.jp/Japanese/labo/sysken/systemken.html)

2) IAEA, 2013; Energy, Electricity and Nuclear Power Estimates for the Period up to 2050 (2013 Edition),

IAEA.

3) IEA, 2013; World Energy Outlook 2013, OECD/IEA.

4) IEA, 2014; Energy Balances of OECD Countries, OECD/IEA.

5) IEA, 2014; Energy Balances of Non-OECD Countries, OECD/IEA.

6) IEA, 2013; CO2 emissions from fuel combustion, OECD/IEA.

7) UNFCCC, GHG data from UNFCCC, http://unfccc.int/ghg_data/ghg_data_unfccc/items/4146.php (アクセ

ス日:2014年 10月 3日)

8) UN, 2012; World Population Prospects: The 2012 Revision

9) UN, 2008; World Population Prospects: The 2008 Revision

【問い合わせ先】

(公財)地球環境産業技術研究機構 システム研究グループ

徳重 功子、佐野 史典、秋元 圭吾

〒619-0292 京都府木津川市木津川台 9-2

電話:0774-75-2304、FAX:0774-75-2317、E-mail:[email protected]

Page 11: RITE 世界および日本の CO ・温室効果ガス排出見通し 2014 …図3 エネルギー起源CO 2 排出の各国シェア (1990、2005、2011 年はIEA 統計値6)、2020、2030、2050

Research Institute of Innovative

Technology for the Earth

付録 1 世界温暖化対策評価モデルの概要

世界温暖化対策評価モデル 1)は、分析評価の中核となるエネルギー起源 CO2 評価のための DNE21+

モデル、排出量が分析ケースに依存せず一定であると想定した非エネルギー起源 CO2排出シナリオ、5

種類の温室効果ガス(CH4、N2O、HFCs、PFC、SF6)の排出・削減を評価する Non-CO2 GHG 評価のた

めのモデルの 3 種類で構成されます(付図 1)。

付図 1 世界温暖化対策評価モデルの概要

エネルギー起源 CO2評価のための DNE21+モデルは、評価対象期間(2050 年までの分析が可能)にお

ける世界全体のエネルギーシステムコストを最小化する線形計画モデルです。

付図 2 は、DNE21+モデルにおけるエネルギーフローの概要を示しています。図に示すように、エネ

ルギー供給部門からエネルギー消費部門までをハードリンクしており(エネルギーの輸出入や時点間の

設備推移を含む)、エネルギー需給全体を整合的な一つのシステムとして評価することが可能なモデル

としています。策定した人口、GDP シナリオに基づき、主要なエネルギー消費部門(鉄鋼等のエネルギ

ー多消費産業部門、自動車(道路交通)、冷蔵庫等の民生・業務部門の一部の機器)の活動量シナリオ(産

業部門は生産量、自動車は輸送需要、民生・業務部門の一部の機器は利用時間)、その他のエネルギー

消費部門についてはエネルギー種別エネルギー需要シナリオを想定し、それらを満たすようなエネル

ギー需給システムがモデルによって導出されます。ここで、主要なエネルギー消費部門とエネルギー

供給部門については、様々な技術のコストやエネルギー効率を明示的にモデル化(ボトムアップモデル)

しており、技術を詳細に評価することが可能な点がモデルの特徴の一つです。その他のモデルの主た

る特徴としては、世界全体を対象としつつも詳細な地域分割(国レベルでは 54 地域に分割)を行ってい

るため、再生可能エネルギーのポテンシャル等の地域的な差異を考慮に入れた分析が可能であること

が挙げられます。

非エネルギー起源 CO2

排出シナリオ ・ 非エネルギー起源 CO2排

出量推定モジュール

・ 世界 54 地域区分

・ GDP、生産活動量などと

整合的に各部門からの非

エネルギー起源 CO2排出

量を推定

DNE21+モデル

・ エネルギー起源 CO2排出

量評価モデル

・ 世界 54 地域区分

・ セクター別に詳細に技術

積み上げたモデル化を実

施(200–300 程度の技術

を具体的にモデル化)

RITE Non-CO2 GHG 評価

モデル

・ Non-CO2 GHG 5ガス

(CH4, N2O, HFCs, PFC,

SF6) 評価モジュール

・ 世界 54 地域区分

・ USEPA の評価に準拠

GHG6ガスの排出量推定

排出削減費用・削減ポテンシャル推定

具体的な対策技術の提示(エネルギー関連)

Page 12: RITE 世界および日本の CO ・温室効果ガス排出見通し 2014 …図3 エネルギー起源CO 2 排出の各国シェア (1990、2005、2011 年はIEA 統計値6)、2020、2030、2050

Research Institute of Innovative

Technology for the Earth

付図 2 DNE21+モデルにおけるエネルギーフローの概要

非エネルギー起源 CO2 排出シナリオについては、UNFCCC や IEA の統計データの傾向や、上記の

DNE21+でも利用しているセメント生産量シナリオ等に基づいて、将来のシナリオを想定しています。

Non-CO2 GHG 評価モデルは、基本的に US EPAの分析・評価モデルに基づいており、各種実績値に

よって補正したものを用いています。CH4:7部門、N2O:6 部門、HFCs、PFC、SF6:それぞれ 1部門

について地域別にベースライン排出量(特段の温暖化対策をとらない場合の排出量)を推定し、温暖化対

策時の排出量は、各ガスの削減率と限界削減費用との関係を代替弾性値で表現するモデルによって算

定されます。よって、直接的には技術積み上げのモデル(ボトムアップモデル)とはなっていませんが、

そのベースは技術積み上げによって削減可能量と削減費用が算出される形となっています。

以上がモデルの概要となります。より詳細な情報は、参考文献 1)をご参照下さい。

化石エネルギー 石炭 石油(在来型、非在来型) 天然ガス(在来型、非在来型)

累積生産量

生産単価

再生可能エネルギー 水力・地熱 風力 太陽光 バイオマス

年間生産量

供給単価

原子力(在来型、次世代型)

各種エネルギー変換プロセス(石油精製、石炭ガス化、バイオエタノール化、ガス改質、水電解等)

産業部門

各種発電

CCS

運輸部門

民生・業務部門

鉄鋼

セメント

紙パ

化学(エチレン, プロピレン, アンモニア)

アルミ

自動車

冷蔵庫、テレビ、エアコン 他

固体、液体、気体燃料、電力

固体、液体、気体燃料、電力

固体、液体、気体燃料、電力

Page 13: RITE 世界および日本の CO ・温室効果ガス排出見通し 2014 …図3 エネルギー起源CO 2 排出の各国シェア (1990、2005、2011 年はIEA 統計値6)、2020、2030、2050

Research Institute of Innovative

Technology for the Earth

付録 2 今後特段の温暖化対策をとらないとした場合のエネルギー起源 CO2および温室効果

ガスの排出見通し

付図 3 は、今後特段の温暖化対策をとらないとした場合(成り行きシナリオと記載)と、本資料に

示した現状とられている温暖化対策程度が継続されるとした場合(現状政策継続シナリオと記載)に

ついて、世界全体のエネルギー起源 CO2 排出の見通しを示しています。現状政策継続シナリオにおい

ては、2020 年に 378 億トン、2050 年に 563 億トンとの見通しですが、成り行きシナリオでは、2020

年に 401 億トン、2050 年に 625 億トンと見込まれており(国際航空・国際海運からの排出を除くとそ

れぞれ 388億トン、605億トン)、同じく今後特段の温暖化対策をとらないとした場合の 2011年 8 月版

より上方修正されています。付図 4 には IPCC AR5 で整理されたベースラインの CO2排出見通しを示

していますが、見通しを作成したモデルの標準的な想定(Default)の下での見通しでは 2050 年の中位

置は 600 億トン程度とされており、ここでの2つのシナリオも近いものとなっております。

付図 5 には、付図 3 と同様に成り行きシナリオと現状政策継続シナリオの2つについて、世界全体

の GHG 排出見通しを示しています。今後特段の温暖化対策をとらない成り行きシナリオにおいては、

2020年に 562億トン、2050 年に 826億トンと見込まれています。付図 6は IPCC AR5 で整理されたベ

ースラインの GHG 排出見通しを示しています。2050 年の中位置は 800 億トン程度であり、GHG の見

通しもそれに近い水準と言えます。

0

10000

20000

30000

40000

50000

60000

70000

1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050

エネルギー起源

CO2排出量

[MtC

O2/

yr]

現状政策継続シナリオ

成り行きシナリオ

付図 3 成り行きシナリオと現状政策継続シナリオにおける

世界全体のエネルギー起源 CO2排出シナリオ(2011 年までは IEA統計値 6))

Page 14: RITE 世界および日本の CO ・温室効果ガス排出見通し 2014 …図3 エネルギー起源CO 2 排出の各国シェア (1990、2005、2011 年はIEA 統計値6)、2020、2030、2050

Research Institute of Innovative

Technology for the Earth

付図 4 IPCC AR5 WGIII で整理された CO2排出量の見通し

注) Default(灰色)は、見通しを作成したモデルの標準的な想定に基づく見通し。

Fast(金色)は、エネルギー効率の改善が大きく進むと想定した場合の見通し。

赤丸は、今回の RITE 推計。

0

10000

20000

30000

40000

50000

60000

70000

80000

90000

1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050

GH

G排出量

[MtC

O2

eq

/yr]

現状政策考慮シナリオ

成り行きシナリオ

付図 5 成り行きシナリオと現状政策継続シナリオにおける世界全体のエネルギー起源 CO2

排出シナリオ(2010 年までは附属書 I国:UNFCCC7)、非附属書 I国:IEA統計値 6))

Page 15: RITE 世界および日本の CO ・温室効果ガス排出見通し 2014 …図3 エネルギー起源CO 2 排出の各国シェア (1990、2005、2011 年はIEA 統計値6)、2020、2030、2050

Research Institute of Innovative

Technology for the Earth

付図 6 IPCC AR5 WGIII で整理された GHG排出量の見通し

注) 赤丸は、今回の RITE 推計。

付図 7には、GDP 当たりのエネルギー消費(エネルギー原単位)とエネルギー消費当たりの CO2排

出量(CO2原単位)について、2010 年を 1 としてその推移を示しています。エネルギー原単位の改善

は、2000 年から現状までは中国の急速な発展の影響もあり停滞していましたが、今後改善が進むとの

見通しとなっています。また、CO2 原単位については、エネルギー原単位ほど大きな変化はありませ

んが、本資料に示したように原子力発電や再生可能エネルギーの拡大よりも化石燃料消費の増加が大

きいため、2050 年までの将来ではむしろ 2010 年より悪化する見通しとなっています。これは、IPCC

で整理されている見通しの中位値と整合的な水準となっています(付図 8)。

付図 7 成り行きシナリオと現状政策継続シナリオにおける世界全体の GDP 当たりの

エネルギー消費とエネルギー消費当たりの CO2排出の推移(2011 年までは IEA統計値 4), 5), 6))

0

0.5

1

1.5

2

1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050

エネルギー消費当たりの

CO

2排出

[Y2

01

0 =

1]

現状政策継続シナリオ

成り行きシナリオ

0

0.5

1

1.5

2

1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050

GD

P当たりのエネルギー消費

[Y2

01

0 =

1]

現状政策継続シナリオ

成り行きシナリオ

Page 16: RITE 世界および日本の CO ・温室効果ガス排出見通し 2014 …図3 エネルギー起源CO 2 排出の各国シェア (1990、2005、2011 年はIEA 統計値6)、2020、2030、2050

Research Institute of Innovative

Technology for the Earth

付図 8 IPCC AR5 WGIII で整理された

GDP 当たりのエネルギー消費とエネルギー消費当たりの CO2排出の推移 注) Default(灰色)は、見通しを作成したモデルの標準的な想定に基づく見通し。Fast(金色)は、エネルギー効率の改善が大

きく進むと想定した場合の見通し。赤丸は、今回の RITE 推計。