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12Davidovits使133123N自然に優しい新材料 「ジオポリマー」 西松建設株式会社 技術研究所 土木技術グループ 上席研究員 原田 耕司 図 1  ジオポリマーの固化概念図 67 土地改良 293号 2016.4

3 2 自然に優しい新材料 2 CO 2 「ジオポリマー」dokaikyo.or.jp/back_number/kaishi_new/293t_10.pdf排出量(kg-CO 2 /m 3 ) 約68%の CO2排出量削減 図3 60N/

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Page 1: 3 2 自然に優しい新材料 2 CO 2 「ジオポリマー」dokaikyo.or.jp/back_number/kaishi_new/293t_10.pdf排出量(kg-CO 2 /m 3 ) 約68%の CO2排出量削減 図3 60N/

技 術 紹 介

1

開発の背景

 

土地改良事業により築造された頭首工や水路等

の農業水利施設は、水資源の有効利用のみならず、

洪水防止等の国民の安全・安心に大きく貢献して

きた。これらの農業水利施設は、セメントを材料

とするコンクリートで建設されている。セメント

は、誰でも安価に入手が可能で、品質が安定した

優れた建設材料である。しかし、唯一の課題は、

セメント製造時の二酸化炭素排出量の多いことで

ある。

 

そこで、二酸化炭素排出量の削減が可能なジオ

ポリマーを開発した。ジオポリマーは、珪酸ナト

リウム溶液(水ガラス)、フライアッシュおよび

高炉スラグ微粉末等が材料であり、材料製造時の

二酸化炭素排出量がセメントに比べ少ない。ジオ

ポリマーで構造物を建設した場合、セメントで建

設するより、二酸化炭素排出量を八〇%程度削減

できるとの報告もある。

 

以降では、ジオポリマーの概要、その特長およ

び施工事例について述べる。

2

ジオポリマーとは

 

一九八八年にフランスのD

avidovits

により提唱

されたジオポリマーは、アルカリシリカ溶液とア

ルミナシリカ粉末との反応によって形成される非

晶質の縮重合体(ポリマー)の総称である。コン

クリートの分野では、アルカリシリカ溶液として

珪酸ナトリウム水溶液(水ガラス)や水酸化ナト

リウム(苛性ソーダ)を、アルカリシリカ粉末と

しては、フライアッシュや高炉スラグ微粉末等を

使用することが

多い。

 

ジオポリマー

の固化メカニズ

ムは、水和反応

により硬化する

セメントと異な

る。具体的には、

水ガラス中の珪

酸はモノマー

(単量体)に近

い状態で存在し

ているが、金属

イオンが水ガラ

ス中に存在する

と、図1に示す

ような水の蒸発

を伴いながら、

その金属イオン

を取り込んでポ

リマー化するも

のと考えられている。

3

ジオポリマーの特長

 

ジオポリマーには、セメントと異なる多くの特

長がある。ここでは、二酸化炭素排出量の削減効

果、酸に対する抵抗性およびアルカリ骨材反応の

抑制効果に関して述べる。

3・1

二酸化炭素排出量の削減効果

 

図2および図3に、圧縮強度三〇N/㎟および

自然に優しい新材料「ジオポリマー」

西松建設株式会社技術研究所 土木技術グループ 上席研究員 原田 耕司

図 1 ジオポリマーの固化概念図

技 術 紹 介

圧縮強度六〇N/㎟のジオポリマーコンクリート

とセメントコンクリートの二酸化炭素排出量の試

算結果を示す。圧縮強度三〇N/㎟では、ジオポ

リマーコンクリートの二酸化炭素排出量は、セメ

ントコンクリートの二酸化炭素排出量に比べ約

六三%削減されているのが分かる。さらに、圧縮

強度六〇N/㎟では、二酸化炭素排出量が約

六八%削減されている。

 

以上より、今回の試算条件では、ジオポリマー

コンクリートはセメントコンクリートより二酸化

炭素排出量が少なく、その削減率は六三〜六八%

程度となった。なお、試算条件(材料、配合等)

によっては、二酸化炭素排出量の削減効果はさら

に大きくなるものと考えられる。

3・2 耐酸抵抗性

 

図4に、五%硫酸溶液に浸漬した供試体

の質量の経時変化を示す。セメントモルタ

ル(OP)は浸漬八週で質量が約六〇%減

少しているのに対して、ジオポリマーモル

タル(GP1およびGP2)は浸漬八週で

数%程度しか質量が減少していない。ま

た、図5に示す断面欠損率((硫酸浸漬前

の断面積-

浸漬後の断面積)/浸漬前の断

面積×一〇〇)も、セメントモルタル(OP)

は浸漬材齢八週で約五〇%欠損している

のに対して、ジオポリマーモルタル

(GP1およびGP2)はほとんど欠損し

ていない。写真1は、硫酸浸漬前後の供試

体の外観比較を示す。ジオポリマーモルタ

ル(GP1およびGP2)は表面が若干劣

化しているが、形状は保持してほぼ健全な

状態であるのに対して、セメントモルタル

(OP)は劣化によりかなり小さくなって

いる。

 

以上より、ジオポリマーモルタルの硫酸

に対する抵抗性は、セメントモルタルに比

べて高いことが分かる。この理由として

は、セメントは、成分のカルシウムが硫酸

により石こうに変化し劣化するが、セメン

トを使用しないジオポリマーモルタルは、

主成分がカルシウムではなくナトリウム

(あるいはカリウム)のため、このような

写真 1 硫酸浸漬前後の外観の比較(浸漬材齢 8週)

128

343

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

約63%のCO2排出量削減

ジオポリマーコンクリートセメントコンクリート

CO2排出量(kg-CO2/m3 )

図 2 30N/㎟のCO2排出量

128

401

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

ジオポリマーコンクリートセメントコンクリート

CO2排出量(kg-CO2/m3 )

約68%のCO2排出量削減

図 3 60N/㎟のCO2排出量

図 4 質量の経時変化 図 5 断面欠損率の経時変化

67土地改良 293号 2016.4 ●

Page 2: 3 2 自然に優しい新材料 2 CO 2 「ジオポリマー」dokaikyo.or.jp/back_number/kaishi_new/293t_10.pdf排出量(kg-CO 2 /m 3 ) 約68%の CO2排出量削減 図3 60N/

技 術 紹 介

1

開発の背景

 

土地改良事業により築造された頭首工や水路等

の農業水利施設は、水資源の有効利用のみならず、

洪水防止等の国民の安全・安心に大きく貢献して

きた。これらの農業水利施設は、セメントを材料

とするコンクリートで建設されている。セメント

は、誰でも安価に入手が可能で、品質が安定した

優れた建設材料である。しかし、唯一の課題は、

セメント製造時の二酸化炭素排出量の多いことで

ある。

 

そこで、二酸化炭素排出量の削減が可能なジオ

ポリマーを開発した。ジオポリマーは、珪酸ナト

リウム溶液(水ガラス)、フライアッシュおよび

高炉スラグ微粉末等が材料であり、材料製造時の

二酸化炭素排出量がセメントに比べ少ない。ジオ

ポリマーで構造物を建設した場合、セメントで建

設するより、二酸化炭素排出量を八〇%程度削減

できるとの報告もある。

 

以降では、ジオポリマーの概要、その特長およ

び施工事例について述べる。

2

ジオポリマーとは

 

一九八八年にフランスのD

avidovits

により提唱

されたジオポリマーは、アルカリシリカ溶液とア

ルミナシリカ粉末との反応によって形成される非

晶質の縮重合体(ポリマー)の総称である。コン

クリートの分野では、アルカリシリカ溶液として

珪酸ナトリウム水溶液(水ガラス)や水酸化ナト

リウム(苛性ソーダ)を、アルカリシリカ粉末と

しては、フライアッシュや高炉スラグ微粉末等を

使用することが

多い。

 

ジオポリマー

の固化メカニズ

ムは、水和反応

により硬化する

セメントと異な

る。具体的には、

水ガラス中の珪

酸はモノマー

(単量体)に近

い状態で存在し

ているが、金属

イオンが水ガラ

ス中に存在する

と、図1に示す

ような水の蒸発

を伴いながら、

その金属イオン

を取り込んでポ

リマー化するも

のと考えられている。

3

ジオポリマーの特長

 

ジオポリマーには、セメントと異なる多くの特

長がある。ここでは、二酸化炭素排出量の削減効

果、酸に対する抵抗性およびアルカリ骨材反応の

抑制効果に関して述べる。

3・1

二酸化炭素排出量の削減効果

 

図2および図3に、圧縮強度三〇N/㎟および

自然に優しい新材料「ジオポリマー」

西松建設株式会社技術研究所 土木技術グループ 上席研究員 原田 耕司

図 1 ジオポリマーの固化概念図

技 術 紹 介

圧縮強度六〇N/㎟のジオポリマーコンクリート

とセメントコンクリートの二酸化炭素排出量の試

算結果を示す。圧縮強度三〇N/㎟では、ジオポ

リマーコンクリートの二酸化炭素排出量は、セメ

ントコンクリートの二酸化炭素排出量に比べ約

六三%削減されているのが分かる。さらに、圧縮

強度六〇N/㎟では、二酸化炭素排出量が約

六八%削減されている。

 

以上より、今回の試算条件では、ジオポリマー

コンクリートはセメントコンクリートより二酸化

炭素排出量が少なく、その削減率は六三〜六八%

程度となった。なお、試算条件(材料、配合等)

によっては、二酸化炭素排出量の削減効果はさら

に大きくなるものと考えられる。

3・2 耐酸抵抗性

 

図4に、五%硫酸溶液に浸漬した供試体

の質量の経時変化を示す。セメントモルタ

ル(OP)は浸漬八週で質量が約六〇%減

少しているのに対して、ジオポリマーモル

タル(GP1およびGP2)は浸漬八週で

数%程度しか質量が減少していない。ま

た、図5に示す断面欠損率((硫酸浸漬前

の断面積-

浸漬後の断面積)/浸漬前の断

面積×一〇〇)も、セメントモルタル(OP)

は浸漬材齢八週で約五〇%欠損している

のに対して、ジオポリマーモルタル

(GP1およびGP2)はほとんど欠損し

ていない。写真1は、硫酸浸漬前後の供試

体の外観比較を示す。ジオポリマーモルタ

ル(GP1およびGP2)は表面が若干劣

化しているが、形状は保持してほぼ健全な

状態であるのに対して、セメントモルタル

(OP)は劣化によりかなり小さくなって

いる。

 

以上より、ジオポリマーモルタルの硫酸

に対する抵抗性は、セメントモルタルに比

べて高いことが分かる。この理由として

は、セメントは、成分のカルシウムが硫酸

により石こうに変化し劣化するが、セメン

トを使用しないジオポリマーモルタルは、

主成分がカルシウムではなくナトリウム

(あるいはカリウム)のため、このような

写真 1 硫酸浸漬前後の外観の比較(浸漬材齢 8週)

128

343

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

約63%のCO2排出量削減

ジオポリマーコンクリートセメントコンクリート

CO2排出量(kg-CO2/m3 )

図 2 30N/㎟のCO2排出量

128

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350

400

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ジオポリマーコンクリートセメントコンクリート

CO2排出量(kg-CO2/m3 )

約68%のCO2排出量削減

図 3 60N/㎟のCO2排出量

図 4 質量の経時変化 図 5 断面欠損率の経時変化

68 土地改良 293号 2016.4●

Page 3: 3 2 自然に優しい新材料 2 CO 2 「ジオポリマー」dokaikyo.or.jp/back_number/kaishi_new/293t_10.pdf排出量(kg-CO 2 /m 3 ) 約68%の CO2排出量削減 図3 60N/

結果になったものと考えられる。

3・3 アルカリ骨材反応

 

図6には、反応性骨材を用いた供試体を作製後、

アルカリ骨材反応を促進させた供試体の膨張ひず

みの経時変化を示す。セメントモルタル(OP)は、

材齢七日から急激にひずみが増加し、材齢約一四

日で写真2に示すようにアルカリ骨材反応による

亀甲状のひびわれが発生

している。一方、ジオポ

リマーモルタル(GP1

およびGP2)は、セメ

ントモルタル(OP)のよ

うな急激なひずみの増加

は発生しておらず、また

写真2に示すように、ひ

び割れも発生していない。

 

以上より、今回の試験

条件の範囲では、ジオポ

リマーモルタル(OP)

は、アルカリ骨材反応が

発生しない材料であることが分かる。

4

施工事例

 

ジオポリマーの施工実績は、試験施工を含めて

現在までに四件ある。ここでは、一例としてジオ

ポリマーの耐酸性を期待して施工されたものを紹

介する。施工場所では、酸によるコンクリートの

劣化が激しく、耐酸性に優れた材料が望まれてい

た。採用されたジオポリマー製品は、写真3に示

すJIS

A

5371の境界ブロックであり、施

工本数は六一本(切り下げ一本を含む)である。

施工後の状況を写真4に示す。

5

結び

 

ジオポリマーは、二酸化炭素排出量を削減でき

る自然に優しい材料であるとともに、セメントコ

ンクリートにはない多くの特長を持っている。こ

こでは紹介できなかったが、これまでに、ジオポ

リマーは耐火性能に優れていることや、セシウム

を固定化する特性があること等を確認している。

 

また、ジオポリマーの材料として、フライアッ

シュや高炉スラグ微粉末の代わりに「もみ殻灰」

を適用した研究も報告されている。「もみ殻灰」

はもみ殻の焼き方によって大きく特性が異なる。

「もみ殻灰」を用いる場合は、どのような焼き方

がジオポリマーに適しているかを検討することが

重要であると考えている。

 

最後に、ジオポリマーが今後の土地改良事業に

おける「管理された自然」の基盤構築の一助にな

れば幸いである。

写真 2 表面ひび割れの発生状況の比較 (上からOP,GP1,GP2)

図 6 膨張ひずみの経時変化写真 3 ジオポリマー製ブロック

写真 4 施工後の状況

OP

GP1

GP2

ひび割れ

ジオポリマー

技 術 紹 介

技 術 紹 介

1

技術の背景

 

近年、地球環境保護や環境負荷の低減を背景に

して、建設現場においても省エネルギー・省資源

に対する気運が高まっている。

 

このような状況下、建設コストの縮減として、

掘削土など現地発生材や河床材料を積極的に利用

して砂防構造物を構築する工法の開発が行われて

いる。

 

一般的に砂防工事では、残土処分場までの運搬

距離が長くなる場合が多く、加えて運搬費用もか

さむことから、発生土の有効活用が急務になって

おり、砂防CSG(Cem

ented Sand and Gravel

工法、INSEM(IN

-situ Stabilized Exca-

vated Material

)工法などの開発が積概的に進

められてきた。

 

しかし、これらの工法では、ある程度の粒径調

整(一般的に礫径八〇㎜以下)をした発生材ある

いは河床材を用いるため、大径の河床材もしくは

サイトの掘削などにより発生する大きな岩塊の処

理や活用については依然として課題となっている。

 

そこで、大きな粒径材(粗石)を積み上げ、そ

の間隙に高流動コンクリートを充填することによ

り、構造体を築造する新な粗石コンクリート工法

(NRFC

:New

Rock Filled Concreate

)が開発さ

れ、砂防構造物の構築が行われている。

2

粗石コンクリートの概要

 

練石積の粗石コンクリートによる構造物は、大

正初期から昭和三十年代後半まで、全国各地で多

数構築されてきている。従来の練石積による粗石

コンクリートは、表面の練石を一段(概ね三〇㎝)

積んでから、粗石を内部に配置して、間隙内部に

コンクリートを充填する方法が採用されていた。

特に昭和二十年代頃まではバイブレータが普及し

ていないため、内部コンクリートの締固めには突

き棒が多く使用されている。

3

新粗石コンクリートの特徴

 

砂防CSG工法やINSEM工法は現地発生材

を有効利用するが、一般に礫粒径八〇㎜以下の発

生材料を用いるため、河床材料など八〇㎜以上が

建設コスト縮減を目的とした新粗石コンクリート(NEW ROCK FILLED CONCREATE)による砂防堰堤の構築

岩田地崎建設株式会社技術部 須藤 敦史

写真 1 粗石コンクリートによる砂防堰堤の施工(その①)

69土地改良 293号 2016.4 ●