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【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している 分析装置を用いてルチン検査への適応を確認して使用す ることが望ましい。しかし現在では日常業務に追われ時 間がなく、試薬の基礎検討も試薬提供メーカーが行うこ とが多くなり、現場の臨床検査技師が行う機会は少なく なってきているのではないでしょうか? 免疫化学検査を行う臨床検査技師としてはその検討方 法について知っておき、自からの手で「試薬基礎検討」 を行って試薬の特性や分析装置との相性を分かったうえ でルチン検査に使用していただきたい。 【臨床検査室におけるバリデーション】 臨床検査データの精度保証や国際的な標準化を進める ためには、検査室で使用している測定法のバリデーショ ン(妥当性確認)を確認し明確にすることが求められて おり、ISO15189「臨床検査室-品質と能力に関する特定 要求事項」の認定プログラムにおいても測定法のバリデ ーションは重要な位置を占めている。臨床検査室におけ るバリデーションとは、測定試薬、装置から得られる測 定値の客観的証拠を提示することで、特定の意図する用 途または適用に関する要求事項が満たされていることを 確認することとされており、その目的は、報告する検査 結果に再現性と信頼性があるものであることを科学的に 保証したうえで検査値を報告するためである。検査室は、 試薬・機器製造メーカーが示した妥当性評価を利用する とともに、自らも日常検査における妥当性評価・検証を 行いその結果を提示することが求められている。 【当院の取り組み】 我々の検査室では試薬の新規導入を検討する際に自動 分析装置へのパラメーターの入力や「試薬基礎検討」は、 試薬メーカーの協力のもとできる限り当院の臨床検査技 師が行うように心がけている。試薬メーカーが示したバ リデーションを利用し、自らもルチン検査における試薬 性能を検証し結果を提示することで臨床への責任を持ち、 自信を持って測定結果を報告することができる。また、 「試薬基礎検討」行うことで、普段意識することのない 検体量や試薬量、主波長・副波長の設定、測光ポイント などを認識でき、ルチン試薬との違いや新規試薬の理解、 また試薬コストへの意識向上にも繋がっている。自動分 析装置をブラックボックス化させないためにも自ら「試 薬基礎検討」を行うことは有用であると考える。 【一般的な性能評価試験の種類】 1. 精密性の評価 同時再現性 ランダマイズ 2 回測定 2. 安定性の評価 日差再現性 3. 相関性の評価 相関性試験 4. 定量性、測定範囲の評価 希釈直線性 プロゾーン現象の確認 検出限界 実行感度 5. その他 妨害物質の影響 コンタミ(試薬干渉)試験 今回は上記に示す基礎的な性能評価試験について紹介 させていただく。若手技師の方も自施設で自ら「試薬基 礎検討」を行い試薬の基本的特性、性能を把握すること で臨床医へ信頼ある結果報告が可能になると考える。ま た、検討データから得られる多くの情報は測定値の変動 が起きた場合などの原因究明の一助となることは間違い ない。このシンポジウムをきっかけに「試薬基礎検討」 が身近な技術となり、免疫化学検査の質の向上及び高い 検査力を身につけていただきたい。 連絡先:0770-22-3611 ここから始めよう!免疫化学 正浩 1) 市立敦賀病院 1) S-3

S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

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Page 1: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

【はじめに】

 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する

際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評

価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

分析装置を用いてルチン検査への適応を確認して使用す

ることが望ましい。しかし現在では日常業務に追われ時

間がなく、試薬の基礎検討も試薬提供メーカーが行うこ

とが多くなり、現場の臨床検査技師が行う機会は少なく

なってきているのではないでしょうか?

 免疫化学検査を行う臨床検査技師としてはその検討方

法について知っておき、自からの手で「試薬基礎検討」

を行って試薬の特性や分析装置との相性を分かったうえ

でルチン検査に使用していただきたい。

【臨床検査室におけるバリデーション】

臨床検査データの精度保証や国際的な標準化を進める

ためには、検査室で使用している測定法のバリデーショ

ン(妥当性確認)を確認し明確にすることが求められて

おり、ISO15189「臨床検査室-品質と能力に関する特定

要求事項」の認定プログラムにおいても測定法のバリデ

ーションは重要な位置を占めている。臨床検査室におけ

るバリデーションとは、測定試薬、装置から得られる測

定値の客観的証拠を提示することで、特定の意図する用

途または適用に関する要求事項が満たされていることを

確認することとされており、その目的は、報告する検査

結果に再現性と信頼性があるものであることを科学的に

保証したうえで検査値を報告するためである。検査室は、

試薬・機器製造メーカーが示した妥当性評価を利用する

とともに、自らも日常検査における妥当性評価・検証を

行いその結果を提示することが求められている。

【当院の取り組み】

 我々の検査室では試薬の新規導入を検討する際に自動

分析装置へのパラメーターの入力や「試薬基礎検討」は、

試薬メーカーの協力のもとできる限り当院の臨床検査技

師が行うように心がけている。試薬メーカーが示したバ

リデーションを利用し、自らもルチン検査における試薬

性能を検証し結果を提示することで臨床への責任を持ち、

自信を持って測定結果を報告することができる。また、

「試薬基礎検討」行うことで、普段意識することのない

検体量や試薬量、主波長・副波長の設定、測光ポイント

などを認識でき、ルチン試薬との違いや新規試薬の理解、

また試薬コストへの意識向上にも繋がっている。自動分

析装置をブラックボックス化させないためにも自ら「試

薬基礎検討」を行うことは有用であると考える。

【一般的な性能評価試験の種類】

1. 精密性の評価

同時再現性

ランダマイズ 2回測定

2. 安定性の評価

日差再現性

3. 相関性の評価

相関性試験

4. 定量性、測定範囲の評価

希釈直線性

プロゾーン現象の確認

検出限界

実行感度

5. その他

妨害物質の影響

コンタミ(試薬干渉)試験

今回は上記に示す基礎的な性能評価試験について紹介

させていただく。若手技師の方も自施設で自ら「試薬基

礎検討」を行い試薬の基本的特性、性能を把握すること

で臨床医へ信頼ある結果報告が可能になると考える。ま

た、検討データから得られる多くの情報は測定値の変動

が起きた場合などの原因究明の一助となることは間違い

ない。このシンポジウムをきっかけに「試薬基礎検討」

が身近な技術となり、免疫化学検査の質の向上及び高い

検査力を身につけていただきたい。

連絡先:0770-22-3611

測定試薬の基礎検討出来ますか?

ここから始めよう!免疫化学

◎東 正浩 1)

市立敦賀病院 1)

S-3

Page 2: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

 新人技師から生化学は難しいという声はしばしば聞く。

新人技師からすれば自動化、システム化された現在の検

査室をすぐに理解できないかもしれないが、いくつかの

重点に絞って理解すれば、決して難しいことではないと

考える。私は新人技師には「色の変化や濃さで濃度に換

算する方法」と伝えることが多い。難しいことはなく、

小学生が行うヨウ素デンプン反応によるデンプンの検出

と基本は同じと考える。ただ、生化学的検査は定量法が

多く、夾雑物が多い検体を用いるため様々な工夫がある

ことも理解すべきである。

まず、試薬反応原理である。検査項目がどのように検

出され、定量されるかを技師は理解する必要があると考

える。

どのような影響回避策が講じられているか、反対にどの

ようなときに影響を受けるかを理解しておくと、トラブ

ル時の解決の糸口となり得る。

次に、生化学自動分析装置をはじめとする機器である。

特に生化学的検査の大半を担う生化学自動分析装置につ

いては、良好な試薬と良好な自動分析装置があれば良好

な結果が出力されると考えるブラックボックスと考える

のではなく、得られる様々な情報が得られるツールとし

て運用すべきと考える。

 最後に分析法を理解するのも非常に重要である。生化

学分析法でよく用いられているのは、比色法である。検

体中の目的物質を呈色させて、既知濃度の吸光度より求

めた検量線から濃度に換算する方法である。

 まず、色の変化を理解するために、光学的な知識(余

色)を指導する。光を当てて人間が見える色は、吸収さ

れた残りの光の色が見えている。生化学的検査において

は反応生成物の色調と分析装置の測定波長の関係を理解

すべきである。

 生化学分析法はいくつかに分類される。演算に使用す

る測光ポイントの使い方による分類では、終点分析法や

初速度分析法がある。終点分析法は濃度項目の多くに用

いられる測定法で、検体中の目的成分と試薬を反応させ

て、反応が平衡状態(≒終点)になった時の吸光度を用

いて演算する。対して、初速度分析法は一部の濃度項目

や酵素活性の測定に用いられることが多く、検体中の目

的成分と試薬を反応させて、その反応生成物の生成速度

を用いて演算する。

 演算に使用する波長数による分類では、1つの波長を用

いる単波長法、2つの波長の差を用いる二波長法がある。

単波長法は得られる吸光度が大きい反面、セルの傷や光

量の揺らぎなどの影響を受ける特徴がある。対して、二

波長法ではセルの傷や光量の揺らぎなどは軽減できるも

のの、主波長から副波長を差し引くため、副波長の設定

次第では反応生成物にのみによる吸光度変化量が小さく

なる可能性がある。

 演算に使用する測光ポイント数による分類では、1つの

測光ポイントで演算する 1ポイント法は、試薬の色調を

補正することは可能であるが、検体の色調(乳び、黄疸、

溶血)の影響を受ける可能性がある。対して 2ポイント

法は異なる時間で測光した 2つの測光ポイントを用いて

検体の色調の補正も可能となる。

 用いられる生化学分析法は様々な特徴を有するために、

組み合わせて日常検査に適応されている。その特徴を新

人技師に理解してもらうためには、まず説明してから実

技での指導が理想的ではないだろうか。呈色反応で色の

変化を目で見る、自分の演算から検体の色調の影響を理

解するなど、理解度が向上すると思われる。試薬反応原

理とともに、生化学分析法の理解をすれば、生化学自動

分析装置はブラックボックスでは決してなく、非常に有

用なツールであると感じることができると思う。

連絡先 073-447-2300(2389)

0からスタートする生化学分析法

ここから始めよう!免疫化学

◎和田 哲 1)

公立大学法人 和歌山県立医科大学附属病院 1)

S-4

Page 3: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

 免疫検査のデータを解釈する場合、反応原理や測定法

の特徴などを考慮して考えないと、思わぬ落とし穴に陥

ることがある。

 現在の免疫測定装置は、完全なブラックボックスにな

っており、誰でも精度の高い検査結果を出すことができ

る反面、データに対する解釈ができない技師が増えてい

るのが現状である。この原因は何か?それは日常業務の

多忙さゆえに機械に任せっきりで、その検査データが持

つ意味をじっくり考える時間が無いからである。ずいぶ

ん昔の免疫検査は、自ら反応系を作成したり、また多く

の検査工程が用手法であったため、それらのことが自然

と身についていた。このことは技師が勉強しなくなった

のではなく、完全自動化、ブラックボックスに慣れ、日

常それが当たり前になった結果、疑問にも思わなくなり、

置き去りになってしまっているからである。

 抗原抗体反応を原理とした免疫検査は、腫瘍マーカー、

ホルモン、感染症などの検出や定量に広く用いられてい

る。近年、抗体作製技術や光学的測定技術の進歩により、

検出感度と特異性が飛躍的に向上した。しかしこのこと

が逆に非特異反応を生み、データの解釈を困難にしてい

る面もある。新人技師が非特異反応と聞くと、難しいも

の、わからないものというイメージを連想すると思うが、

決してそうではなく、反応原理の特徴をしっかり理解し

ていれば決して難しいことではない。

 また免疫検査は、生化学検査と違い“標準化”という概

念から非常に遅れた分野である。現在の生化学検査では

当たり前のように、どの施設、どの機器で測定してもほ

ぼ同じ値が出るように標準化がなされている。しかし免

疫検査は免疫反応を原理としているため、反応原理の違

いや試薬組成によって出てくる結果は様々で、また同じ

機器であっても試薬のロットが違うだけで結果が変わる

場合がある。これはとにもかくにも抗原抗体反応を利用

し、試薬によって使われている抗体が異なるからに他な

らない。このことも免疫検査の基礎をしっかりと理解し

ていれば簡単なことであり、標準化が難しい理由も説明

できる。

 免疫測定装置は近年、コンパクトになり、精度はもち

ろんのこと、短時間で結果が得られるようになった。そ

のため、緊急検査や診察前検査に多くの医療機関で用い

られるようになり、医師からの問い合わせも増えている

と思われる。測定原理や検査の特徴を知っている技師だ

からこそ、データが持つ意味が答えられるのである。ま

た異常データに対処するためには、免疫検査のもつリス

クを認識することだけでなく、医師と検査室との問い合

わせを速やかに行える良好な関係を構築することが必要

であると考える。

 今回は、限られた時間ではあるが、免疫検査における

基礎的なことから、各試薬の特徴、非特異反応の原因や

対処法まで幅広く、免疫検査に携わるうえで最低限知っ

ておきたいことを実例を交えて解説する。本講演が新人

技師はもちろんのこと、免疫検査について改めて見つめ

直す機会となれば幸いである。

          

           連絡先:072-677-1333 内線 140

免疫検査のいろは(仮)

ここから始めよう!免疫化学

◎繁 正志 1)

大阪医科大学 三島南病院 1)

S-5

Page 4: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

【はじめに】

当院では厚生労働省からの通達に基づき、血液製剤の輸

血に起因する感染性副作用に対する対策として 2005年

2月から輸血前検体保管を同年 9月から輸血後感染症検査

の取り組みを開始した。

【輸血前検体保管】

輸血前検査は当院では実施せず輸血前の検体を保管する

(輸血前検体保管)運用としている。輸血関連検査に輸

血前検体保管の項目を作成し、分離剤入り採血管に

3ml採血とした。輸血部で遠心分離後 100本立て試験管立

てに-20℃で冷凍後、紙箱に 100本単位で保管している。

保管検体の提出は初回輸血依頼時、継続患者は 3か月毎

に提出をお願いしている。運用開始当初の提出率は 30%

前後であったが、翌年から現在までの提出率はほぼ 100%

である。

【輸血後感染症検査】

輸血後感染症検査の必要性を通知するため輸血翌日に

「輸血後感染症検査のご案内」を発行し、輸血部から、

病棟や外来へ搬送。病棟、外来スタッフから患者へ渡し

ている。検査依頼マニュアルを作成し、入院患者は主治

医が、外来患者は外来主治医あるいは輸血部技師が依頼

している。検査項目は厚生労働省が推奨する HBV-DNA、

HCVコア抗原(外注)、HIV抗体の 3項目をセット化し

輸血後感染症検査とした。検査結果の確認は、入院患者

は主治医が、外来患者は輸血部技師が行っている。

【輸血後感染症検査実施率向上に向けての取り組み内容

と結果】

運用開始から 2006年 4月時点での輸血後感染症検査実施

率は、約 21%と低値であった。輸血後 3か月経過すると

検査受診を忘れるためと考えられた。そこで輸血後 3か

月経過したことに気付かせるため、輸血後感染症検査の

実施を促す付箋を電子カルテに貼付する試みを 2007年1

月から開始した。まず「輸血後感染症検査のご案内」を

配布した患者を抽出し、3か月後に患者の現況を調査した。

死亡、転医以外の患者を対象に、輸血後感染症検査が未

実施の場合は「輸血後 3か月が経過しているので、感染

症検査を受けてください。」という内容の付箋を電子カ

ルテに貼り付けることとした。その後、実施率は向上し

50%を超える実施率となった。しかしながら 2009年には

48%、2010年 42%と徐々に低下。2011年には 40%未満

となった。

2013年 8月の輸血療法委員会で輸血感染症実施率を報告

した際に、付箋の内容に関する意見をいただいた。そこ

で付箋の内容を再度検討し、2013年 10月より付箋の内容

を変更した。内容の変更点としては、主治医でも簡単に

依頼できるように依頼方法を簡潔に記載した。また厚生

労働省から推奨されているというコメントを追記するこ

とで重要な検査であることを強調した。翌年の実施率は

前年と同じくらいであったが、現在も経過観察中である。

ただ依頼方法がわかりやすくなったためか、外来患者の

主治医による依頼が増えた。

その他の取り組みとして、輸血療法委員会で実施率を年

1回報告しているが、実施率向上に有効であると考え、診

療科別での実施率を報告している。診療科別での実施率

が高い産婦人科、小児科では付箋を貼付しなくても患者

あるいは患者の親から検査を申し出る場合が多いのでは

ないかと推察された。しかしながら輸血患者数が最も多

い心臓血管外科では手術後転院する患者も多いためか実

施率が低い結果となっている。また輸血後感染症疑いの

症例も報告している。早期発見を目的とした輸血後感染

症検査の必要性を訴えることで実施率向上につながると

考えている。

【考察】

取り組み開始後、実施率は向上したが、検査未受診の患

者についての確認が必要と思われた。輸血後感染症検査

のご案内が患者にきちんと届いているのか、また主治医

が検査の受診を勧めているのかカルテに記載がないため

不明である。2014年 8月から個別 NATが実施されるよう

になり安全性は向上したが、感染のリスクはゼロではな

い。今後も実施率向上に向けて定期的に取り組みを見直

し、更なる取り組みを考えていきたい。

連絡先:06-6879-5881

輸血後感染症検査実施率向上に向けての取り組み

輸血後感染症検査を考える

◎清川 知子 1)

国立大学法人 大阪大学医学部附属病院 1)

S-6

Page 5: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

[はじめに]輸血用血液製剤は、精度の高い方法で、感染

症検査が実施されており、肝炎ウィルス・エイズウィル

スといった輸血後感染症のリスクは、大きく減少してい

ると考えられている。しかし、それらの感染症の罹患は

ゼロになっておらず、特に供血者がウィンドウ期であっ

た場合の製剤などが問題となっている。そのため、『輸

血療法の実施に関する指針』にも、輸血後 2~3か月を目

途に輸血後感染症検査を実施するよう明記されており、

多くの病院施設が取り組んでいる。しかし、その検査の

実施が思うように進まずも頭を悩ませている施設も多い

のではないか。今回は、当院の検査の実施体制について

紹介し、輸血後感染症検査実施の困難な点は何なの

か?・実施率向上のために必要なこととは何か?などを、

皆様とともに考えたい。

[輸血後感染症検査の困難な点とは?]輸血後感染症検査

の実施は、輸血 2~3か月後の患者を対象としているが、

その検査対象患者が退院もしくは転院していることも少

なくない。つまり、これらの患者に対する検査の実施・

結果説明の体制づくりがポイントと言える。しかし、検

査案内~検査実施~結果説明までの流れには、医師・看

護師など多くの医療スタッフが携わるため、その検査体

制は複雑なものになりやすく、検査の実施を困難にさせ

る要因とも思われる。

[当院の輸血後感染症検査の取り組みについて]①検査の

推奨と検査時期を記載した”輸血後感染症検査のお知ら

せ”と題した案内文を、製剤払い出し時に、配布。(初

回輸血及び初回輸血後 3か月以上経過後に新たに輸血を

実施した患者を対象)②厚生労働省が推奨する HBV核酸

増幅検査・ HCVコア抗原・ HIV抗体検査の 3項目を、セ

ット化し、電子カルテ上での検査オーダを容易化した。

③輸血実施 3か月経過した患者をリストアップし、患者

ごとに、電子カルテの掲示板に、輸血後感染症検査実施

に関する”案内文”を記載。

[実施率について]上記の取り組みを実施して当院の実施

率は、今のところ、約15%程度である。

[輸血後感染症検査実施のポイント]輸血後感染症検査実

施のポイントは、主に以下のように考える。①輸血後感

染症検査の実施が必要な患者への検査案内の方法:輸血

実施 2~3か月後に感染症検査を実施する必要があるが、

退院・転院しているケースも多いため、検査案内を確実

に患者に提供する方法が重要と思われる。②輸血後感染

症検査の検査オーダの方法:検査を依頼する側の医師に

とっては、検査体制が複雑であれば、検査依頼の減少に

も繋がる恐れがある。そのため、検査オーダをなるべく

容易にする必要性があり、これらを実施するには、医

師・看護師など他職種の理解と協力が必要である。また、

医療スタッフへの啓蒙活動も重要な臨床検査室の役目だ

と考える。

[まとめ]輸血後感染症検査の実施には、人的負担も大き

く周りのサポートが非常に重要である。また、臨床検査

室だけでなく、医師・看護師など他職種の理解と協力が

必要不可欠である。臨床検査室単独での取り組みだけで

は限界があり、まさに“チーム医療”で取り組まなけれ

ばならない業務と言える。輸血後感染症検査の実施率向

上を目指すには、医療スタッフへの啓蒙活動を実施し、

理解と協力を仰ぎ、施設全体で取り組む体制づくりを行

う努力をする必要があると考える。

連絡先:0742-27-9502(内線:4201)

当院の輸血後感染症検査の取り組みについて

輸血後感染症検査を考える

◎大前 和人 1)

地域医療振興協会 市立奈良病院 1)

S-7

Page 6: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

【はじめに】国内の輸血用血液製剤(以下、製剤)は、

諸外国と比べて安全性が同等もしくは高いと認識されて

いる。しかし、未知の病原体の存在や、現時点で検査法

が確立されていない、もしくは検査導入が困難な病原体

の存在、さらにはドナー感染後のウインドウピリオドを

考えると、輸血による感染を避けることは不可能である。

【現状と対策】現在、製剤に対して実施されている感染

症検査は、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス

(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス-1/2(HIV-1/2)、ヒト

Tリンパ球向性ウイルス-1型(HTLV-1)、梅毒(TP)、

ヒトパルボウイルス B19(PVB19)である。個別 NAT導入

前は、輸血後 HBV感染が毎年複数例発生していたが、

2014年 8月の個別 NAT導入後は、2015年献血血液による

1例が確認されただけで感染例は激減している。この 1例

は、HBV個別 NAT陰性で供給・輸血されたが、その後の献

血時の検査で、HBV個別 NAT陽性を示した血液であった。

ウインドウピリオドが原因で HBV感染を起こした症例で

あった。輸血後 HCV感染は、散発的に発生していたが、

個別 NAT導入後は 1例も発生していない。また、輸血後

HIV感染は、2003年、2013年に 1例ずつ発生していたが、

個別 NAT導入後は 1例も発生していない。HTLV-1と梅毒

は、過去 20年をみたところ感染を確定された症例は認め

られていない。PVB19検査は、スクリーニングを実施して、

抗原量の多い血液を排除しているが、輸血後の PVB19感

染は散発的に発生しており、最近では 2015年に 1例確認

されている。妊婦の感染では、自然流産や胎児水腫の発

生率が高く、貧血や免疫不全症等の基礎疾患のある患者

では、重症化する傾向にあることが知られている。

輸血後肝炎については、個別 NAT導入により、HBV及び

HCVの感染防止に一定の効果が得られたことは事実である。

しかし、全数検査が実施されていない E型肝炎ウイルス

(HEV)については、2012年から 2016年までの感染例は

5年間連続で発生しており、合計で 15例確認されている。

平成 29年度第 1回血液事業部会安全技術調査会の資料に

よると、当面の間は、北海道赤十字血液センターで疫学

調査として実施している試行的 HEV-NATで陰性とされた

製剤を、医療機関からの依頼に基づき供給することを検

討している。また、現行の HBV・ HCV・ HIVの個別

NATに加えて、HEVを含めた 4ウイルス同時検出用開発試

薬による全数検査について検討を進めたいとしている。

その他、ジカウイルス、デングウイルス、チクングニア

ウイルス、ウエストナイルウイルス等の感染症が、世界

の一部地域で報告されているが、平成 28年度感染症安全

対策体制整備事業報告によると、これらが日本国内へ移

入した場合に備えて、ジカウイルスに対する高感度核酸

検査法の開発、検査落ちになった献血血液におけるデン

グウイルス及びチクングニアウイルスに対する核酸検査

の実施、海外における血液安全に関する情報の収集及び

交換などが行われている。

輸血を介して感染する原虫としては、マラリア、リーシ

ュマニア症、シャーガス病、アフリカトリパノソーマ症、

バベシア症などがある。1994年には輸血による熱帯熱マ

ラリア原虫の感染例、1999年には国内で初めて輸血によ

るバベシア原虫の感染例が確認された。2013年には国内

で初めてドナーの血液にクルーズ・トリパノソーマの抗

体陽性が確認されたが、輸血によるシャーガス病の感染

は確認されなかった。シャーガス病はメキシコを含む中

南米に認められ、日本には中南米からの定住者が約 30万

人いることから、日本赤十字社は、シャーガス病に対す

る安全対策として、2012年 10月 15日採血分より、献血

時の問診で中南米滞在歴等があると申告されたドナーの

血液は、血漿分画製剤用の原料血漿として利用する安全

対策を行っている。海外から帰国して 4週間は献血辞退

をお願いされ、マラリア、バベシア症、シャーガス病な

どの既往について問診で確認される。

変異型クロイツフェルト・ヤコブ病については、輸血に

よる感染が英国で報告されていることから、献血時の問

診において、英国等リスクのある国の滞在歴を確認、該

当する場合は献血の辞退をお願いされる。

輸血による細菌感染は、血小板製剤による感染例が多い。

感染防止対策として、問診・皮膚消毒・初流血除去・保

存前白血球除去・製剤の有効期限短縮・外観検査による

対策を講じており、細菌やウイルスを不活化する感染性

因子低減化技術の検討も実施されている。

連絡先 078-974-1551(内線 27500)

輸血後感染症全般について~現状と対策~

輸血後感染症検査を考える

◎坊池 義浩 1)

神戸学院大学 1)

S-8

Page 7: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

【はじめに】

当院では、2015年 10月より輸血後感染症検査を実施

している。今回、輸血後感染症検査について、臨床医及

び輸血部部長として考察を行ったので、ここに記載する。

【輸血後感染症検査の手順】

輸血後感染症検査の流れとしては、当院では以下の通

りに行っている。

まず、輸血同意書に輸血後感染症検査の項目を作成し、

変更を行った。

そして、輸血予定の患者に、輸血同意書を用いて主治

医より輸血後感染症検査の必要性、検査項目、費用、実

施時期を患者に説明する。輸血実施患者は、必ず輸血前

採血検体を確保しておく。

その次に、輸血実施患者のリストを毎日作成し、電子

カルテの患者掲示板に輸血後感染症検査の実施時期を記

載する。この際、他院に受診する場合は他院で検査を行

うことも記載しておく。

輸血後3か月後が実施の目安となっているので、輸血

後 2ヶ月を経過した時点で、退院患者においては自宅へ

と輸血後感染症検査のご案内を送付している。また、退

院後はかかりつけ医などの近医で受信される患者も多い

ことから、近医宛の案内状も送付資料の中に含んでいる。

送付直前に電子カルテを確認し、入院患者、及び死亡患

者については送付しないようにチェックしている。

検査の実施は、電子カルテによる検査オーダー画面に

輸血後感染症検査の枠を作成し、輸血後感染症検査の医

事コードと、輸血後感染症検査を同時にオーダーしても

らう。当院では、スクリーニングとして HBs抗原、

HCV抗体、HIV抗体(任意)、及び Alb、AST、ALT、

LDH、TB、ALP、γ-GPTを行い、陽性の可能性がある場

合に精査として HBVDNA定量、HCNコア抗体を測定す

るようにしている。ここでさらに陽性の可能性が高い場

合は、医療安全室に案内して、救済制度について声明す

る手順になっている。

【問題点】

ここにも、多くの問題点が潜んでいる。まずは、輸血

後感染症検査実施の頻度である。検査実施は 3ヶ月毎と

なっているが、頻回輸血の患者では年 4回実施すること

になり、それほど多くの回数が必要であるかという点、

また、現時点での輸血後感染症の発症件数の少なさ、ま

た血液センターで行う検査の精度も高さから見ても考え

る必要性がある。

実施率の低さにおいても、多くの施設で悩みの種であ

るが、有効な方法は難しく、各段階における様々な細か

な点を修正していく必要性がある。

【結語】

そして、一番の問題点は、患者の目線に立っているか

どうかである。検査室や輸血部で輸血後感染症検査を実

施する場合、いかに実施率を上げるかにばかり目が行っ

てしまうが、本来の目的は患者の健康を守るためであり、

そのためには患者目線であることが絶対条件である。そ

れには、患者へ十分な説明と、理解を得ているかどうか

が大きなポイントとなる。患者へ十分な説明をしている

かどうかと言えば、主治医任せであるところが大きく、

輸血同意書を用いて口頭でも説明し、また患者の疑問や

不安に対して答えている場合と、または書面を呼んでお

くようにだけ伝え、同意書を渡しているだけの場合とで

は大きく異なってくる。患者にとっては輸血を伴う治療

が大きな出費となっているので、検査費用に自己負担分

が発生することの説明も不可欠である。患者が検査拒否

する場合もあり得るが、なぜ拒否しているのかという理

由を考え、またカルテにも記載しておく必要がある。

残念ながら陽性であった患者に関しては、医療安全室

に案内して終了ではなく、その後のフォローも必要にな

ってくる。医療安全室において救済制度の説明は行うが、

救済制度に必要な書面などは患者自身で準備して頂くこ

とになる。その説明も十分に行えるよう手順を整えてお

く必要がある。

輸血後感染症検査という手順が一つ増えたことで、患者

が右往左往してしまわないように十分な配慮が必要であ

る。このことは、輸血後感染症検査の実施率を上げるこ

とよりも重要である。

医師から見た輸血後感染症検査

輸血後感染症検査を考える

◎森口 寿徳 1)

京都桂病院 1)

S-9

Page 8: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

【初めに】

 穿刺液検査は、多くの部門が関わりそれぞれの目的に応じ

検査がされている事から、検査技師は一つの検体としての評

価ができていない現状が見られる。また検査を依頼する診療

側もさまざまな科が穿刺液を提出するが、専門の科はなくル

ーチンとして決められた検査項目もないため、迅速検査項目

や測定法の標準化が望まれるところである。今回細胞数や細

胞分類、また生化学検査などの結果と病態について検討した

ので報告し、標準化としての意義を伝えたい。また胸水・腹

水・関節液などの検体について、ひとまとめではなく、それ

ぞれの病態を知ること、検査項目や値を理解する事を伝えた

い。

【漏出性と滲出性について】

穿刺液検査は、一般検査としては従来から漏出性・滲出性

の鑑別が求められている。漏出性は、非炎症性による貯留が

多いため、利尿剤使用など体腔液の貯留する原疾患の治療で

良いか確認する目的となる。滲出性は、細菌や腫瘍など漿膜

の炎症が原因で貯留することが多いことから、その原因を解

明し診断や治療に結びつく検査目的となる。

【胸水について】

 胸水が出現する病態を、非炎症(心不全、腎不全)、炎症

性(膿胸、肺炎・胸膜炎、結核、腫瘍性)と他疾患に7区分

しについて、pH、細胞数、細胞分類、TP比、LD比、ADA、

BNPについてそれぞれ検査値を比較検討した。また臨床で使

用している Lightの基準(胸水 LD値、胸水 LD値/血中 LD値、

胸水 TP値/血中 TP値より判定する)とも比較検討をおこな

った。

【腹水について】

 腹水が出現する病態については、続発性腹膜炎、特発性細

菌性腹膜炎、腫瘍性、肝硬変、腎・心不全、その他の6区分

をについてpH、細胞数と細胞分類、TP比、LD比、血中アル

ブミン値-腹水アルブミン=SAAG(濃度勾配)の関連を解説する。

【細胞数算定方法について】

現在、日臨技穿刺液検査標準化ワーキンググループでは、

細胞数算定と細胞分類方法など標準化に向けて取り組みをお

こなっている(2016年日本医学検査学会報告)。細胞数算

定には、サムソン液とフックスローゼンタール計算盤の使用

が推薦される。算定する細胞は、全区画内の赤血球以外の細

胞をすべて数え、分類法は、①多形核球:好中球・好酸球・

好塩基球 ②リンパ球:リンパ球・形質細胞 ③その他の細

胞:組織球、中皮細胞、悪性を疑う細胞もしくは悪性細胞や

不明細胞。この分類を百分率で表示し報告する 3分類法が推

奨される。詳細な細胞分類の検査依頼が有れば、塗抹標本を

作製しメイギムザ染色を施して、鏡検する。細胞分類報告の

臨床的意義は、多形核球優位では、急性炎症を示唆し、リン

パ球優位では慢性炎症の結核や腫瘍性を示唆する。その他の

細胞が優位な症例では、漏出性や腫瘍性が示唆。これらの細

胞数算定や細胞3分類法の結果は Lightの基準から判断した

漏出性・滲出性の判断と比較しても、同等の成績が得られて

おり、また急性炎症などの治療効果判定においては、

Lightの基準や臨床化学検査項目より、細胞数の減少や出現

細胞群の変化が早期に反映されるため、臨床側にとって有用

な情報である。(2016年世界医学検査学会にて報告)

【関節液について】

 関節液検査で提出される病態について、化膿性と炎症性、

非炎症性に区分される。今回は化膿性と炎症性(痛風、偽痛

風、リウマチ性)非炎症性(変形性関節症)その他の6病態

に区分して、細胞数と細胞分類、粘稠性、糖、LD値、TPの関連を解説する。

【まとめ】

 穿刺液検査は診断と治療効果判定に直結する重要な検査で

あり、各施設においてルーチン検査としての項目と検査法を

共有することが、患者利益につながる。今回解説した検査法

について各施設で実施に向けて検討していただき、多くのご

意見を頂戴し、より良い穿刺液検査に繋げていきたい。

【連絡先 0266-72-1000】

穿刺液検査の標準化に向けて細胞数と分類・生化学検査について

諏訪中央病院 技術部検査科保科 ひづる

穿刺液検査の標準化に向けて

穿刺液検査の標準化に向けて

◎保科 ひづる 1)

諏訪中央病院 1)

S-10

Page 9: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

【はじめに】近年、特定のバイオマーカーを標的とした

分子標的薬の導入が進み、病理検体を用いた遺伝子検査

が個別化治療を実現するうえで、重要な役割を担ってい

る。また遺伝子検査は、分子標的薬の感受性評価だけで

なく、中皮腫の CDKN2A(p16)など病理診断の鑑別補助と

しても用いられている。病理検体を用いた遺伝子検査は

Fluorescence in situ hybridization(FISH)解析、polymerase

chain reaction(PCR)解析の手法が用いられることが多く、

今回は FISH解析における精度管理と当院の手法、運用に

ついて述べる。

【検査材料】病理検体の FISH解析にはホルマリン固定し

たパラフィン切片、アルコール固定した細胞診塗抹標本、

ホルマリンを含む固定液から作製される細胞診(LBC)標

本などがある。ホルマリン固定されたパラフィンブロッ

クを用いる場合、固定条件が重要となる。推奨される固

定条件として、10%の中性緩衝ホルマリンに 6~72時間

となっている。中性の緩衝ホルマリンを使用することで、

核酸の品質を損なうと考えられているホルマリンの分解

産物である蟻酸の産生が抑えられ、長時間の固定では

DNAの断片化が進むので、遺伝子検査には適さない。検

体が採取されてから固定するまでの時間も遺伝子検査に

影響を与える。生検材料では採取後、直ぐにホルマリン

に浸すことで固定が出来るが、手術材料では検体をホル

マリンに浸すだけでは組織の深部にまでホルマリンが浸

透しない。固定が不十分な部分では核酸やタンパク質の

分解がおこるため、注射針を用いて注入固定などの工夫

が必要となる

【FISH標本作製】ホルマリンで固定された標本から

FISH標本を作製するには、ホルマリンによる架橋反応を

熱処理、酵素処理を用いて取り除く必要があり、酵素処

理に影響を与えるのが固定条件である。固定条件や材料

(手術材料、生検材料)によって酵素処理の時間を調整

する必要がある。酵素処理が弱いと核が白く、シグナル

はみえない。また、酵素処理が強すぎると DNAまで分解

され、シグナルが割れ、核も融合したように見える。酵

素処理時に組織片が白色から半透明になる時点が酵素処

理が適切に行われている指標となる。

【解析】HER2、ALKの判定方法は各検査ガイドで確立さ

れている。解析時には核の所見のみで評価することから、

腫瘍部、浸潤部など組織標本で事前に解析部位を確認す

る必要がある。

【精度管理】HER2、ALK等の体外診断薬では検査方法は

確立されているが、精度管理として FISH検査が適正に行

われているかの評価を外部的に行う機会は少ない。研究

用試薬を用いて解析をする場合では、Cut off値の設定も

自施設で行われている。

【まとめ】病理組織検体からの遺伝子検査は解析前の検

体の採取時から始まり、固定から標本作製、診断を経て

遺伝子検査の実施となる。今後増えていく遺伝子検査に

おいて、検査が適正に行われていく為には、検査の標準

化や精度管理が重要と考える。

連絡先:堺市立総合医療センター 臨床検査技術科

電話番号;072-272-1199

固形腫瘍における遺伝子検査

これだけは知っておきたい遺伝子検査

◎佐々木 伸也 1)、郡司 昌治 2)

独立行政法人 堺市立病院機構 堺市立総合医療センター 1)、名古屋第一赤十字病院 2)

S-11

Page 10: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

【はじめに】近年、医療技術の発展と共に遺伝子検査の

重要性は高まっており、診断に欠かせない検査となって

いる。しかし、造血器腫瘍遺伝子検査はキット化された

ものが少なく、実施するにあたって測定法や遺伝子変異

についての知識を有することが非常に重要である。本シ

ンポジウムでは遺伝子検査の基礎や原理、造血器腫瘍に

おける実施例について解説する。

【遺伝子検査の分類】遺伝子検査は①病原体核酸検査、

②ヒト体細胞遺伝子検査、③ヒト遺伝学的検査(生殖細

胞系列遺伝子検査)の 3つに分けられ、これらの総称を

遺伝子関連検査と呼ぶ。①は細菌やウイルス、②は腫瘍

細胞に限局して生じる遺伝子変異や遺伝子発現異常の検

出を対象としている。③は生まれつき保有する遺伝情報

を解析する検査で、遺伝性疾患や疾患の罹患しやすさを

調べる検査である。造血器腫瘍で実施されるWT1

mRNA定量検査、キメラ遺伝子定量検査、遺伝子変異解

析は②に該当する。

【遺伝子検査に用いられる手法】遺伝子検査には様々な

手法が存在するが、ほとんどは PCR (Polymerase Chain

Reaction) が基本となっている。PCRは DNAが高温下で

1本鎖に解離する性質と耐熱性 DNAポリメラーゼによる

プライマーの伸長反応を利用して、標的とする塩基配列

を増幅する反応である。95度付近の高温で DNAの解離、

60度前後でプライマーの標的塩基配列への相補的結合、

72度で DNAポリメラーゼによる伸長反応が生じ、これを

繰り返すことで標的配列が指数関数的に増幅される。そ

のため検体量が微量であっても、この反応により検体採

取部位には本来存在し得ない微生物の塩基配列や腫瘍細

胞特異的遺伝子変異を検出できる。また、RNAとしての

発現を調べるのであれば、RNAに対して逆転写反応を行

うことで mRNAの配列に基づく cDNA (complementary

DNA) を作成した後、PCRにより検出が可能となる。さ

らに蛍光色素を使用することで経時的に DNAの増幅をモ

ニタリングでき、定量的 PCR (リアルタイム PCR) が可能

となる。二本鎖 DNAに結合する蛍光色素を利用した

SYBR Green法 、プライマーの間に結合する蛍光標識プ

ローブを利用した TaqMan法などが代表的である。また、

cDNAに対してリアルタイム PCRを行うと RNAとしての

発現量を定量できる。塩基配列を直接調べたい場合は

DNAシークエンシングを実施する。反応系は PCRと似て

いるがプライマーが 1種類のみであること、蛍光標識さ

れた鎖停止ヌクレオチドを添加するといった違いがある。

反応産物はキャピラリー電気泳動により 1塩基レベルで

解析し、塩基配列を確定する。プライマーから最大で

1000塩基程度の塩基配列を決定することができ、遺伝子

変異の解析において必須の手法である。

【造血器腫瘍への応用】造血器腫瘍には急性白血病や骨

髄異形成症候群(MDS)、骨髄増殖性腫瘍(MPN)、リ

ンパ腫などがあるが、いずれの疾患も遺伝子変異が原因

となる。急性骨髄性白血病(AML)やMDSではWT1

mRNA定量検査、キメラ遺伝子の定量検査、体細胞変異

検査、MPNでは JAK2を始めとした体細胞変異検査、リ

ンパ腫では免疫関連遺伝子再構成の検査、体細胞変異検

査が実施される。これらの検査は疾患の鑑別に利用され

るほか、腫瘍細胞の存在の証明、治療後の残存病変の経

時的評価、予後の分類に用いられる。中でもWT1やキメ

ラ遺伝子の定量検査は、検体が末梢血でも実施できるこ

とから患者負担が少なく、さらに芽球が再出現する数ヶ

月前の時点で異常細胞の存在を検出できることから微小

残存病変のモニタリングに有用である。2016年版の

WHO分類ではキメラ遺伝子だけでなく、正常核型の

AMLを NPM1変異、FLT3変異、CEBPA変異に基づいて

分類することとなっており、予後の予測に利用されてい

る。MPNの遺伝子検査は患者の血球増加の原因が反応性

であるか腫瘍性であるかを鑑別する時にしばしば実施さ

れ、変異の検出が腫瘍性血球増加の証明となることが多

い。免疫関連遺伝子再構成の検査は、B細胞は免疫グロブ

リン、T細胞は T細胞受容体の遺伝子座を解析することで、

リンパ系細胞のクローナリティを調べることができる。

【まとめ】造血器腫瘍の遺伝子検査はキット化されたも

のが少ないが、測定原理と予測される遺伝子変異のパタ

ーンを理解することで、様々な種類の遺伝子検査を実施

できる。データを迅速に臨床側に提供できる点、外部施

設で受託していない検査を実施できる点など、院内実施

のメリットは非常に大きいと考えられる。

連絡先:06-6480-7000

造血器腫瘍における遺伝子検査

これだけは知っておきたい遺伝子検査

◎水田 駿平 1)

兵庫県立尼崎総合医療センター 1)

S-12

Page 11: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

近年、DNA解析技術は、飛躍的に向上しさらに詳しい

遺伝子情報が判別可能になってきた。プレシジョンメデ

ィシン(Precision Medicine)とは、ある特定の遺伝子異

常・ゲノム異常により分類された「がん」に適切な投与

を行う医療であり、予防についても対応していくもので

ある。日本語では「精密医療」または大きな意味で「個

別化医療」とも言われる。

プレシジョンメディシンで投与される治療薬は、一般的

な抗がん剤とは異なり、がん細胞のたんぱく質や遺伝子

を標的として攻撃する「分子標的薬」や、本来がん細胞

を攻撃するT細胞の活性化を抑制する機能を阻止する

「免疫チェックポイント阻害剤」などが用いられる。

遺伝子関連検査は、

①病原体遺伝子検査(ウイルス・細菌等の DNAまたは

RNAを検出・

解析する検査)、

②ヒト体細胞遺伝子検査(がん細胞特有の遺伝子の構造

異常等を

検出する等、検査疾患病変部・組織に限局し、病状と

共に変化

し得る一時的な遺伝子情報を明らかにする検査)、

③生殖細胞系列遺伝子検査(単一遺伝子疾患・薬物応答

性・個体

識別・体質診断等生涯変化しないその個体が保有する

遺伝学的情報を明らかにする検査)の 3分野に大別され

る。ヒト体細胞遺伝子検査では、結果が患者の治療に直

結する。また生殖細胞系列遺伝子検査は、生涯変わらな

い結果であるため再検査されることなくその結果が引き

継がれる。このように診断の確定に直結する遺伝子関連

検査は、測定過程と測定結果の精度保証が極めて重要で

ある。

遺伝子関連検査の工程には、3つのプロセスがある。

①測定前のプロセス(プレアナリシス)

検査依頼、検体採取、保存、運搬、検体前処理、 核酸

抽出

②測定プロセス

増幅、検出

③測定後プロセス

結果報告、解釈、利用

測定プロセスでは、多様な遺伝子解析技術が用いられる。

特に遺伝子関連検査は、医療機関、検査施設、民間企業

等で独自に検査法が開発され実施されている場合が多く、

検査施設間でのデータの不整合も懸念されている。また、

その測定精度は測定前プロセスにおける作業要因に大き

く影響される。従って測定精度の確保には、測定プロセ

スと共に測定前のプロセスが適正に行われることが不可

欠であり非常に重要である。

今回、「遺伝子関連検査検体品質管理マニュアル

Approved Guideline」、「遺伝子関連検査に関する日本版

ベストプラクティス・ガイドライン」を中心に、私たち

が実際に検査や外部委託する際に注意していることを交

えながら解説していきたい。

遺伝子検査の留意点

これだけは知っておきたい遺伝子検査

◎山本 章史 1)

地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪国際がんセンター 1)

S-13

Page 12: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

肺血栓塞栓症は,救急の現場だけではなく検査室におい

ても常に念頭におくべき疾患の1つであり,心エコー検

査に限らず,すべての生理検査に携わる技師が知ってお

きたい.その理由の1つに,「この人は肺塞栓です」と

いった明らかな状態で検査室に来ることは少なく,特徴

的な症状を示さないことから,スクリーニングで依頼さ

れることもしばしば経験する.また,検査においては心

エコー検査,下肢深部静脈エコー検査,心電図検査,血

液検査など,それぞれの単独による肺血栓塞栓症の診断

は感度・特異度ともに低い.しかし,身体所見と併せて

総合的に判断することで肺血栓塞栓症を強く疑わせ,か

つその後の治療方針まで検査が終える時には判断するこ

とができる.早期診断が予後に大きく影響する疾患だけ

に,検査室内での連携が重要となり,その対応は迅速な

ものでなければならない.心エコー検査で何よりも重要

になるのが,検査の前に行う患者の身体所見,特に症状

である.いきなり心エコー検査に臨みルーチンと同じ感

覚で計測を行い,いたずらに検査を長引かせるべきでは

ない.必ず,検査前には身体所見を確認し,緊急を要す

ると判断した場合には,必要な計測や画像を絞って検査

を進めるスイッチの切り替えが必要である.実臨床では,

常に最善の状況で検査が行えることは少なく,その時の

検者の冷静な判断も重要となる.肺血栓塞栓症における

心エコー検査は重要な位置をしめている.最近の動向と

して,心エコー検査での右心負荷所見の有無により予後

や再発率が有意に異なることから,臨床症状・所見を加

えた血行動態的な評価が一般的となっている.Massive(広

範囲型):ショック,持続性低血圧を呈したもの.

Submassive(亜広範型):血圧正常,右心負荷を認める.Non-

massive(非広範方):血圧正常かつ右心負荷を認めない.最

近では,解剖学的重症度と紛らわしい上記の表現より,

急性期予後リスクを反映する意味から,高リスク群,中

リスク群,低リスク群の表現に変わりつつある.治療方

針は,この重症度により判断されるため,心エコー検査

での右心負荷評価は最重要項目と認識しておく.右心負

荷所見である肺高血圧を来たす原因は,血栓による機械

的な肺動脈の閉塞に加え,肺血管攣縮により生じる.肺

血管床の 30%以上が閉塞されると肺血管抵抗が上昇し,

肺高血圧が生じてくる.それに対し右室は,この急性圧

負荷に代償的な壁肥大を呈する時間がないため,後負荷

不適合により右室収縮力の低下が生じる.低下の代償機

序として Frank‐Starlingの機序により右室拡大が起こり,

右心拍出量を保とうとする.しかし,右室が生じうる平

均肺動脈圧は 40㎜Hg 程度(収縮期圧で 70~80㎜Hg)が

最大であり,広範囲の血管床が閉塞すると代償機序は破

綻し,著明な右室拡大と収縮力の低下を生じ,右室の拍

出量は低下する.それに伴い左室の拍出量も低下する.

急性期の肺血栓塞栓症には代償機構の限界があることを

知っておき,検査時に 40mmHg以上の平均肺動脈圧を生

じる場合には,慢性型や慢性型の急性増悪などを考える

必要がある.右心負荷所見の判断には,多くの心エコー

指標が存在するが,何よりも重要になるのが,やはり三

尖弁逆流の圧格差から右房圧を加えた推定右室収縮期圧

となる.多断面からの計測が重要なことは言うまでもな

い.ただ,自身の感覚として加える右房圧の推定にも限

界もあり,三尖弁逆流の圧格差が 35mmHg以上を示す場

合には右心負荷を疑っているのが実際であり,右房圧は

個別に評価・判断している.右房圧の推定には,下大静

脈径にて 17㎜以上や 21mm以上が拡大とする報告が散見

されるが,Simonsonらが径より呼吸性変動の方が右房圧

と良好な相関を示すことを報告しており,自身の感覚と

しても径よりも呼吸性変動や短軸での緊満感を重視して

右房圧を推定している.ただ,これらのみで右心負荷を

判断することはなく,右室流出路波形の加速時間の短縮

や二峰性の有無,断層法では右室の拡大や短軸での心室

中隔の圧排所見(D-shape)などを加味して,三尖弁逆流

や下大静脈から求める推定の圧負荷所見との整合性を判

断している.ちなみに,D-shapeは収縮期の所見であり,

拡張期は容量負荷所見であることも注意する.急性期の

肺血栓塞栓症に特徴的なMcConnell徴候は,特性は高い

ものの感度は低いため,認めれば急性の肺血栓塞栓症を

疑うが,実臨床で遭遇する機会は少ない.

心エコー検査に従事する者としては,左室に異常のない

右心負荷所見を認める場合には,まずは肺血栓塞栓症が

頭に浮かぶようにしたい.私自身,多くの症例を通して

反省すべき点も多く経験してきた.実際には,参考書に

記載されているような,典型的な所見が揃ったものは少

なく,頭を悩ませることも多い.時間の許すかぎり,実

際の症例を通して実臨床の現場を共有できればと思う.

姫路赤十字病院 検査技術部 079-294-2251

心臓超音波

疾患の理解を深める 肺血栓塞栓症(深部静脈血栓症)

◎住ノ江 功夫 1)

姫路赤十字病院 1)

S-14

Page 13: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

【はじめに】

深部静脈血栓症(Deep vein thrombosis; DVT)は,急性期に

は下肢の腫脹や疼痛といった症状で発症するとともに,

急性肺血栓塞栓症のリスクを有しており,早期に診断し

適切な治療を開始することが求められる.昨今では被災

地での静脈血栓塞栓症(Venous thromboembolism; VTE)

がニュースとなり,また,周術期 VTE予防の重要性も浸

透してきていることから,DVT診断のための検査法とし

て,その必要性は増大の一途にあると思われる.

【深部静脈血栓症の診断における下肢静脈エコー検査の

有用性】

DVTの診断において,下肢静脈エコー検査では,下肢の

浮腫が強い場合や肥満体型により,部分的に観察が困難

となることもあるが,そのような限られた状況を除けば

ほぼ全体を網羅できる.また,超音波検査の利点として,

血栓の性状や中枢端の可動性などの評価に優れているこ

とが挙げられる.造影 CT検査や静脈造影検査では,血栓

の存在診断はできてもこのような評価は不可能である.

下肢静脈エコー検査によって得られる血栓の動的評価は,

下大静脈フィルターの適応を決定するうえでも有益な情

報である.また,抗凝固療法による治療効果判定にも,

超音波検査は有用であり血栓の退縮過程や器質化の過程

が繰り返し観察可能である.

【深部静脈血栓症の検査手順】

DVTの検索のために用いる探触子は,大腿・膝下・下腿

領域では 7-10MHzのリニア型探触子、腸骨領域では 3.5-

5MHzのコンベックス型探触子を主に用いるが,目的とす

る血管の深さや描出具合に応じて,コンベックス型とリ

ニア型の使い分けを行う.カラードプラ法では,流速レ

ンジを低流速(10-20 cm/s程度)に設定する.検査体位は,

腹部・腸骨静脈領域や大腿静脈の観察は仰臥位で行う.

膝窩部・下腿部は座位を基本とする.座位は重力の影響

で下肢静脈のうっ滞が生じ画像描出度が向上するため,

大腿部以遠の静脈の評価に適している.しかし,座位に

なれない場合に仰臥位で膝窩部や末梢の静脈を記録する

際には,膝を軽く立てるか膝を軽く曲げ外転させた状態

で施行する.通常の検査手順では,鼠径部の観察から始

めて末梢に検査範囲を広げてゆくが,視診・触診や緊急

性を鑑みて手順を変更する事も必要である.また,検査

においては,患側肢のみでなく健側肢も検査し,両下肢

を比較することで病変の検出が容易となる.

【深部静脈血栓の診断と報告】

検査法には,静脈圧迫法と血流誘発法とがあり,静脈圧

迫法が特に重要視されている.静脈圧迫法は,深部静脈

を短軸像(横断面)で描出し,探触子で静脈を圧迫する

ことで,その圧縮性を判定する.深部静脈血栓の評価の

基本は,血栓の有無,血栓の部位,血栓の範囲(中枢端

と末梢端から範囲を確定),急性血栓か陳旧性血栓かの

判断(新鮮血栓・器質化血栓),血栓の形態(浮遊血

栓・壁在血栓)の評価である.静脈血栓が見られた場合

には,血栓の存在部位,特に中枢型なのか下腿型なのか

を診る.最も重要な評価のポイントは,血栓のエコー輝

度(新鮮血栓か器質化血栓か)と,血栓中枢端の状態

(浮遊血栓か壁在血栓か)である.エコー輝度が低く新

鮮血栓が疑われ,血栓中枢端が壁に固定されておらず浮

遊していれば,肺血栓塞栓症を発症するリスクが高く,

すぐに医師に報告する必要がある.浮遊血栓でなくても

中枢型の新鮮血栓であれば,医師に報告した方が良い.

また,中枢型,下腿型を問わず新鮮血栓を認めた場合は,

心エコー図検査で,肺高血圧の有無を確認する必要があ

る.下腿の器質化血栓は,遭遇する機会がよくあるが,

通常のレポートで報告し医師に直接連絡をとることは少

ない.

【下肢静脈エコー検査に必要なこと】

下肢静脈エコー検査では,初心者の多くは血管の同定に

手間取ることが多く,目的の静脈同定には解剖を理解し,

静脈と伴走する動脈や,骨や筋肉などの周辺組織との位

置関係を把握し,それを目印にすることで容易になる.

また下肢静脈エコー検査は,非侵襲的であり,血栓を直

接観察することができる利点があるが,検査者の技術格

差と検査時間を要することが難点となるため,検査技術

の向上とともに,状況に応じて効率よく必要な情報収集

を行い,他の検査情報なども事前に把握した上で検査を

開始し,時間短縮を図ることが重要である.

【まとめ】

深部静脈血栓症において,下肢静脈エコー検査はその診

断ツールとして,現在第一選択される検査である.また,

ガイドラインにその必要性が示されていることは,検者

に依存するエコー検査においては標準的な検査法の習得,

技術と質の向上は必然の責務であると考える.

下肢静脈超音波

疾患の理解を深める 肺血栓塞栓症(深部静脈血栓症)

◎大前 嘉良 1)

紀南病院 1)

S-15

Page 14: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

【止血について】

血液凝固は常に体内で起こっており、止血を担っている。

その止血が多くの箇所で起こるまたは止血栓が大きい時

は、血栓症と呼ばれる病的状態になる。

 止血には、一次止血と二次止血とで構成され、前者は

血小板機能が関与し後者は凝固因子が関与する。

【診断に有用な検査】

 肺塞栓症(以下 PE)・深部静脈血栓症(以下 DVT)は、

生体内に生じる病的血栓により発症する。

これらを診断する際に有用とされる検査としては、可溶

性フィブリンモノマー複合体(以下 SFMC)と Dダイマ

ーが挙げられる。SFMCはフィブリノーゲンがフィブリン

に変化する際の中間産物であり、生体内の凝固活性具合

を反映する。Dダイマーはフィブリン血栓がプラスミンに

よって分解された分解産物であり、生体内血栓の存在を

把握できる。

2003年にイギリスの論文で PE/DVTの除外診断に Dダイ

マーが有効であると報告がなされた。その際のカットオ

フ値は 0.5以下であるが、日本国産試薬は欧米の試薬と単

位が異なるためカットオフは 1.0~1.2μg/mlとなることに注

意する必要がある。

その後、国内でも様々な検証がなされ、Dダイマーの陰性

的中率に関する有用性が証明されるとともに SFMCを用

いた新鮮血栓を検出するための陽性的中率も報告される

に至っている。

【検査結果を解釈するうえでの注意点】

Dダイマーは陽性的中率が高くない事が挙げられる。理由

としては、Dダイマーは DICや胸腹水貯留といった

様々な病態でも高値を呈するからである。また、採血不

良に伴う試験管内凝固は、両項目の疑陽性の原因となり

検査技師として常に考慮すべき内容と考える。(特に

SFMC)

 SFMCは国内で 3メーカーの試薬が販売されている。そ

れぞれの試薬に用いられている抗体が異なることから検

査結果の試薬間差が大きい検査項目でもある。それぞれ

自施設の用いている試薬の特性を知っておく必要がある。

【治療効果判定と検査】

 PE/DVTの治療は、基本的には抗凝固療法薬が用いられ

血栓溶解剤が使用される場合もある。その治療効果判定

は、病的血栓が新たに形成され続けているかとどれだけ

残存しているかで把握される。血液検査では、前者を

SFMCが、後者を Dダイマーが反映する。

 三重大学の和田らは、PE/DVTにおいて両項目の挙動が

異なることを報告している。SFMCは発症当日にピークを

呈し治療後速やかに低下するのに対し、Dダイマーは発症

翌日にピークになり治療後緩やかに下がっていくが 1週

間後でも高値を持続する症例も存在すると指摘している。

その理由は、両項目の形成機序と半減期を考慮すること

で理解できる。SFMCは血栓形成時に出来る物質なので生

体内の過凝固状態を反映する。増加期間は 1日と短期間

のため適切な治療がなされると速やかに減少する。Dダイ

マーは、血栓が溶解された際に出来る物質である。病的

血栓が適切な治療により血栓溶解されると増加するため、

治療翌日にピークとなる。血栓が残存している限り Dダ

イマーは形成されかつ血栓溶解は緩慢に進行するため、

SFMCほど速やかに低値とならない。

【まとめ】

PE/DVTを把握する血液検査として SFMC、Dダイマーが

挙げられる。診断に関しては、Dダイマーは陰性的中率が

高い事で有用だが、陽性的中率は、様々な病態で上昇す

ることから低い事に注意が必要である。治療効果判定は、

両項目の形成機序および半減期を考慮したデータ解釈が

寛容である。検査技師として試験管内凝固検体のエラー

データに注意することを念頭に持つことも忘れてはいけ

ない。

当日は症例も交え講演し、PE/DVTと血液検査の関連性に

理解が深まれば幸いである。

【連絡先】077-582-5031(内線 4210)

血液検査

疾患の理解を深める 肺血栓塞栓症(深部静脈血栓症)

◎梅村 茂人 1)

滋賀県立成人病センター 1)

S-16

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 肺血栓塞栓症と深部静脈血栓症を合わせて静脈血栓塞栓症

(venous thromboembolism; VTE)と称し、近年はわが国でも静脈血栓塞栓症が増加している。急性肺血栓塞栓症は急性期を

適切にコントロールできれば予後は比較的良好であるため,

早期に診断して治療を開始する事が最も重要である。

 発症時にショックや低血圧を呈する高リスク群の急性肺血

栓塞栓症では、血栓溶解療法が第一選択となるが、出血性合

併症も多い。高リスク群以外では抗凝固療法が治療の中心と

なり、従来の VTEに対する抗凝固療法としては、最初に効果発現が迅速な未分画ヘパリンにて 5〜10日間の治療を行い、引き続きワルファリンによる長期治療を行うことが推奨され

ている。ワルファリンの投与期間は、可逆的な危険因子が原

因の場合には 3カ月間、先天性凝固異常症、悪性腫瘍症例や

特発性 VTE 症例など再発リスクが高い症例では、出血リス

クを検討しながら 3ヶ月以上の投与を行う。未分画へパリン

とワルファリンによる治療の問題点としては、モニタリング

による用量調節が必要であり、ヘパリンからワルファリンに

移行時や、長期投与における VTE再発や出血のリスクが増加

する事が報告されている。

 近年、ビタミン K非依存性の抗凝固薬が開発された。新規抗凝固薬は、New Oral Anti-coagulantの略として NOACと称されていたが、最近では DOAC (Direct Oral Anti-coagulant)と呼ばれることが多い。DOACは、現在経口薬として、直接トロンビン阻害薬であるダビガトランと、Xa阻害薬であるリバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン

がある。DOACのワルファリンとの違いとして、作用発現が速く半減期が短い、ビタミン Kの代謝に関係しないため食べ物や他の薬剤の影響が少なく、用量調節が容易である、と

いう点がある。そのため、作用がより安定しており、副作用

である出血のリスクが少ないと考えられている。注意点とし

ては、薬剤によりその程度は異なるが、腎排泄性があり腎障

害の際には慎重な投与が必要である。

 心房細動患者の心原性脳塞栓症予防だけでなく、VTEに対して DOACの臨床試験が行われ、従来のヘパリン・ワーファリン治療と同等の治療効果が報告されている。さらに、

VTEに対する DOACを用いた治療により、従来の治療と比較し、入院期間の短縮や治療の簡便化といったメリットがあ

るだけでなく、出血の合併症が少ない可能性が報告されてい

る。そのため、現在 VTEでは 3カ月間の抗凝固療法が推奨

されているが、より長期間投与することにより、VTEの再発率がさらに低下する可能性が期待されている。

 今回、肺血栓塞栓症に対する DOACによる治療について、特に従来のヘパリン・ワルファリンによる治療との違いに注

目しながら、文献的考察を踏まえてその効果を考察する。

演題名 肺血栓塞栓症に対する新しい抗凝固療法サブタイトル エビデンスから考える DOACの有用性

所属 京都大学大学院医学研究科 地域医療システム学講座氏名 木下秀之

肺血栓塞栓症に対する新しい抗凝固療法

エビデンスから考える DOAC の有用性

◎木下 秀之 1)

京都大学大学院 医学研究科 1)

S-17

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 WHO分類 2008が改訂された際は、疾患の分類が大幅

に増え、その解釈や考え方を実際の形態を見ながらどの

ように分類するか、慣れるまで時間がかかったことを記

憶している。

 これは、2008年までに様々な遺伝子異常が同定され、

診断、予後マーカーとして有用なものが明らかになった

ことと、骨髄増殖性腫瘍(MPN)において、形態異常の標準

化を行うことによって診断の信頼性・再現性が向上した

ことに起因する。

 一方で、WHO分類 2016改訂版は、各疾患の分類に大

きな変更はないといっても過言ではない。2008年以降に

確認された新知見を追加した形で、押さえるべきポイン

トを理解すれば良い。改訂された多くはMPNと骨髄異形

成症候群(MDS)であり、今回のシンポジウムの表題に挙が

っている項目である。

 慢性骨髄単球性白血病は、2008年の改訂により、骨髄

異形成/骨髄増殖性腫瘍(MDS/MPN)のクライテリアに分類

された。細分類として CMML-1と CMML-2があったが、

2016改訂版では、これに加えて、CMML-0が加わった。

【慢性骨髄単球性白血病の診断基準:WHO分類 2016】

1.単球が白血球数の 10%以上を占める持続的な単球増

  加(1×10^9/L)

2.BCR-Abl1(+)CML、PMF、PV、ETではない。

3.PDGFRA、PDGFRBあるいは FGFR1再構成や

  PCM1‐JAK2の再構成を認めない

4.末梢血と骨髄で芽球が 20%以下

5.1血球系以上にわたる異形成を認める

6.後天性クローン性、細胞遺伝子性あるいは分子遺伝

  学的異常が造血細胞に存在する

あるいは、

7.3ヶ月以上の単球増加症

8.他の原因による単球増加症の除外

 

CMML-0:芽球数が、PBで 2%以下 and BMで 5%以下

CMML-1:芽球数が、PBで 2~4% and/or BMで 5~9%

CMML-2:芽球数が、PBで 5~19% and/or BMで 10~

     19%

 今回のセッションでは、2016改訂版の CMMLのクライ

テリアについての再確認と注意点、その細分類である

CMML-0の診断分類について、症例を出しながら解説す

るとともに、MPNにおける改訂点も少し整理して解説し

たい。

           連絡先-0749-22-6050(内線 1703)

CMML-0について

骨髄系腫瘍と急性白血病におけるWHO2016分類への対応

◎田邊 正喜 1)

彦根市立病院 1)

S-18

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WHO分類 2016への対応

~ANC中の赤芽球が 50%を超える場合について~

近年、次世代シークエンサーのゲノム解析技術により、

造血器腫瘍の様々な遺伝子変異が飛躍的に明らかになっ

た。それを基にした診断基準や予後層別化を行うため、

WHO分類 2008が改訂され、WHO分類 2016が発刊され

る。我々、血液担当技師が臨床現場で日々遭遇する疾患

においても新たな概念や新知見が多くあり、常に最新の

知見を把握することが求められている。

今回のWHO分類 2016における全有核細胞(ANC)中の赤

芽球が 50%以上時の対応についての変更点、またそれに

よるメリット・デメリットについてWHO分類 2008と対

比しながら述べる。

従来のWHO分類 2008では急性赤白血病(Acute erythroid

leukemia)は赤芽球が ANCの 50%以上を占め、かつ、赤芽

球以外の有核細胞の 20%以上を骨髄芽球が占めるものを

分化型赤白血病 AML-NOS, acute erythroid

leukemia(erythroid/myeloid type FAB:M6a)、未熟な赤芽球系

細胞が ANCの 80%以上を占め、有意な骨髄芽球成分の関

与がないものを未分化型純粋赤血病 AML-NOS, acute

erythroid leukemia(pure erythroid type FAB:M6b)と分けてい

た。しかし、今回のWHO分類 2016では、分母が

ANCとなり赤芽球比率にかかわらず芽球の割合を算出す

るように変更された。すなわち従来のWHO分類 2008で

erythroid/myeloid type(FAB:M6a)とされていたものが

MDSあるいは AML-NOS(non erythroid subtype)となる場合

もある。一方で、pure erythroid type (FAB:M6b)においては、

ANCの 80%以上を赤芽球系が占めることになるので、診

断の変更はない。

Acute erythroid leukemiaは AMLの 5%以下と頻度は少ない

が予後が悪い疾患であり、早急に適切な診断・治療が求

められる。しかし診断に苦慮する場合が多い。WHO分類

2008ではMDS-RAEB、赤芽球の増加をともなう分化型

AML、赤芽球過形成など様々な疾患との鑑別が困難であ

った。今回のWHO分類 2016では、それら鑑別疾患を

ANC中の骨髄芽球比率 20%で区切ることで鑑別が容易に

なる。またMDSにおける国際予後予測スコアリングシス

テム(IPSS)と整合性がとれ、診断がよりシンプルになると

考える。デメリットとしては,芽球比率が下がることで

過小評価になり治療介入が遅れる可能性も考えられる。

今回、症例を呈示しながら解説を行う。

連絡先:078-302-5264(直通)

骨髄中の赤芽球が 50%を超えた時の考え方

骨髄系腫瘍と急性白血病におけるWHO2016分類への対応

◎森田 明子 1)

独立行政法人 神戸市民病院機構 神戸市立医療センター 中央市民病院 1)

S-19

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【はじめに】

 骨髄異形成症候群(Myelodysplastic syndromes:MDS)は,

造血幹細胞レベルの障害が原因で,無効造血による汎血

球減少を伴う骨髄造血器腫瘍である.MDSの病態は多彩

であり予後が異なること,しばしば急性白血病に移行す

ることから,正確な分類が求められる.我々臨床検査技

師も造血能の評価や異形成の程度,芽球の割合等,診断

の上で役割は大きい.

 WHOは 2016年にWHO分類第 4版を改訂し,新たな

分類基準を発表した.今回このMDSにおける概要および

環状鉄芽球を伴う骨髄異形成症候群(MDS-RS),環状鉄芽

球と血小板増多を伴う骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍

(MDS/MPN-RS-T)の変更点について示す.

【WHO分類 2016におけるMDSの概要】

 血球減少の条件については国際予後判定システム

(IPSS)の基準であることが明記された(Hb<10g/dL,

PLT<100×10^9/L,Neut<1.8×10^9/L).異形成に関する基準

の変更はない.

 MDSにおいて血球減少が見られる系統と異形成の見ら

れる系統が必ずしも一致せず,混乱を招いていたことか

ら refractory anemia(RA)や refractory cytopenia(RC)の名称は

なくなり,MDSで統一された.WHO分類 2016における

MDS分類について以下に示す.

・MDS with single lineage dysplasia(MDS-SLD)

・MDS with ring sideroblasts(MDS-RS)

 MDS-RS and single lineage dysplasia

 MDS-RS and multilineage dysplasia

・MDS with multilineage dysplasia(MDS-MLD)

・MDS with excess blasts(MDS-EB)

 MDS-EB-1

 MDS-EB-2

・MDS with isolated del(5q)

・MDS,unclassifiable(MDS-U)

【MDS-RSの詳細】

 MDS-RSは,従来の RARSに分類されていたMDS-RS

and single lineage dysplasiaに加え,多系統に異形成を伴う

MDS-RS and multilineage dysplasiaが再び設定された.また

MDS-RSは従来同様 RS15%以上とされているが,

SF3B1遺伝子変異を認める場合は 5%以上でもMDS-RSと

なる.これは SF3B1遺伝子変異が環状鉄芽球と高い関連

性を示し,MDS-RSにおいて 76~82%の症例で遺伝子変

異を認めること,他の病型においても遺伝子変異を有す

る症例は RSの軽度増加を認めることからである.ただし,

SF3B1遺伝子変異検出法は現時点で一般化していないた

め,この検査を実施していない場合は 15%を診断基準と

する.MDS-RS and multilineage dysplasiaは第 3版において

環状鉄芽球を有する RCMD(RCMD-RS)として定義されて

いたが,RCMDのうち環状鉄芽球を有するか否かにより

予後に差が見られなかったことから,第 4版では

RCMDで統合された.しかし,今回の変更にて SF3B1遺

伝子変異の意義が重要視され再び異形成が単一系統か多

系統かで分類された.

 その他の遺伝子変異は第 4版以降,多くの情報が蓄積

されたがMDSの診断・病型の関係が十分に整理されてお

らず,必ずしもMDSと診断する根拠とはならないとされ

ている.

【MDS/MPN-RS-Tの詳細】

 MDS/MPN-RS-Tは第 4版において暫定的疾患とされて

いたが,今回の変更で MDS/MPNの一病型として分類さ

れた.本病型においても SF3B1遺伝子変異が 80%以上に

認められ,関連性が高いことが明らかとされている.そ

れに加え,JAK2V617F変異をはじめ,CALR,MPL変異

等,MPNに関わる遺伝子変異も認められる.環状鉄芽球

については赤芽球系の 15%以上とされている.MDS-

RSとは異なり,SF3B1遺伝子変異の有無による基準の変

化は定められていない.

【まとめ】

 今回,WHO分類第 4版の改訂が行われたが,依然とし

てMDSの診断に異形成の有無や芽球の割合は重要視され

ている.そのため,診断の上で我々臨床検査技師の役割

は大きい.今回は実症例を交え,環状鉄芽球を伴う病型

を中心に解説する.

          連絡先:0743-63-5611 内線 7437

MDS‐RSおよびMDS/MPN-RS-Tについて

骨髄系腫瘍と急性白血病におけるWHO2016分類への対応

◎永井 直治 1)、津田 勝代 1)、嶋田 昌司 1)、松尾 収二 1)

公益財団法人 天理よろづ相談所病院 1)

S-20

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2008年に大改訂された骨髄系腫瘍およびリンパ系腫瘍のWHO分類が、8年の時を経て改訂され、その要約がBlood誌に報告された(Arber DA, et al. Blood2016)。近年、次世代シークエンス等による遺伝子情報と造血器疾患との関

連が明らかとなってきているが、今回、遺伝子変異等の診断

および治療に関するエビデンスが十分に反映された改訂とな

っている。ただ、我々にとっては幸いではあるが、全体的な

枠組みには変更なくマイナーな改訂にとどまっており、改訂

の内容に関してフォローすることは難しくはない。

骨髄増殖性腫瘍に関しては、PMFを prefibrotic/early PMF(prePMF)と overt PMFに分類し、それぞれの診断基準が示されたが、この臨床的意義は大きい。骨髄生検により

prePMFと ETとの鑑別がなされる症例が増加すると予想される。prePMFは ETに比べ生存率、白血病への進展率などの成績は不良である。また PMFに対しては JAK2阻害剤である Ruxolitinibが保険適応となっており、その投与により全身状態や脾腫の改善などの効果が示されている。prePMFと診断することで、より注意深く経過をフォローし、JAK2阻害剤等による治療開始のタイミングをはかることが可能とな

る。

骨髄異形成症候群においては、すべてMDS with ~という病型名に変更された。また環状鉄芽球が 15%以上あればRARSなどに分類されるがそれに相当するMDS with ringed sideroblastsに関しては SF3B1遺伝子変異が陽性であれば、環状鉄芽球が 5%以上あれば診断されることとなった。急性骨髄性白血病に関しては、あらたに反復性遺伝子異常

を伴う AMLの項目が追加された。暫定的カテゴリーであった、NPM1遺伝子変異および CEBPα遺伝子変異をもつAMLのカテゴリーが独立した。特に CEBPαに関しては、両アリルの変異のみが予後良好因子であるため、そのことが明

記された。AMLおよびMDSにおいては、赤芽球が 50%以上を占める場合、従来、非赤芽球系細胞中の芽球の割合で診

断していた。しかし今回の改訂により、赤芽球の割合に関わ

らず、全骨髄細胞の割合で計算することとなったため、従来

の基準では急性赤白血病と診断されていた症例がMDSに分類される可能性がある。

胚細胞変異を伴う骨髄系腫瘍が新たにカテゴリーとして加

わったことは注目に値する。胚細胞遺伝子変異とは、生殖細

胞レベルでの変異のため体細胞すべてに遺伝子変異を認めて

いる場合であり、また血縁者での白血病発症リスクともなり

得る。DDX41や CEBPαの遺伝子変異等が知られているが、腫瘍細胞と体細胞の網羅的解析により、今後このカテゴリー

が拡張される可能性は高い。

その他にも改訂箇所は多く認められるが、総じて今回の改

訂はマイナー改訂と言えよう。しかし遺伝子変異に関しては、

今後加速的に新たな情報が得られ、次回は大改訂が行われる

のではないかと推察される。

臨床医からみた、WHO分類 2016年改訂のポイント

骨髄系腫瘍と急性白血病におけるWHO2016分類への対応

◎諫田 淳也 1)

京都大学医学部附属病院血液・腫瘍内科/ 京都大学大学院医学研究科血液・腫瘍内科学 1)

S-21

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 抗酸菌検査ガイド 2016によると、結核の統計 2015では日

本の新規結核患者は 2015年に 19,615名が登録されており、

罹患率としては 15.4(万人対)で、相変わらず我が国は中蔓

延状態である。1962年の罹患率が 403.2であったことを考え

れば劇的改善であるが、漸減傾向が続いているものの、最近

の減少率は年に 2.3%であり、いわゆる低蔓延状態(罹患率

10以下)を 2020年までに迎えるのは至難の状況である。ま

た罹患状況は地域によって大きく異なり、最も高い大阪府の

24.5と最低の長野県の 8.1との間には大きな差があり、一般

的に大都市ほど罹患率が高い傾向である。過去においては

「国民病」として一般に蔓延していた結核も、患者の主体は

高齢者あるいは超高齢者にシフトし、同時に若年層では外国

人の結核が増加し、輸入感染症的な側面も示されている。国

際的な短期標準化学療法の拡大は同時に海外での耐性菌の増

加も引き起こしており、外国人結核の問題は無視できない状

況となっている。

 また結核菌の問題だけでなく、非結核性抗酸菌症も増加し

ているといわれており、その罹患率はすでに結核に匹敵(推

定 14.7/10万人)するものと考えられている。非結核性抗酸

菌は認められているだけでも 170種以上存在し、また基本的

に環境菌であるため培養分離と病原性が同義でなく、診療に

必要な情報も必ずしも揃っていない。限定的な検査情報で臨

床対応しなければならないのが現実である。

 近年では塗抹、培養、菌種同定あるいは薬剤感受性の検査

領域で様々な進歩が認められる。特に遺伝子を利用した検査

法は抗酸菌検査の迅速化や高感度化に寄与するところが大き

い。一方で塗抹鏡検、培養法などの古典的な検査法にもその

検出力を向上させるための技術革新が続けられている。

 このような背景の中で、各施設の抗酸菌検査、特に非結核

性抗酸菌の検査がどのように実施されているのかについてア

ンケート調査を実施し、検査室の現状を共有することにした。

アンケートは抗酸菌検査ガイド 2016を参考に作成した。対

象は近畿圏内の病院及び検査センターとした。方法は送付し

たメールに添付されている URLより回答をお願いした。ア

ンケート項目は以下の通りである。

1. 施設について(所在地、施設のカテゴリー(病院、検

査センター等)、病床数)

2. 抗酸菌検査を自施設 or外部委託で実施しているのか

3. 抗酸菌検査全般について(塗抹、培養、菌種同定、薬

剤感受性検査の実施の有無、方法やその頻度)

4. 抗酸菌検査依頼数と結核菌、非結核性抗酸菌陽性数

5. 非結核性抗酸菌の同定検査の範囲、方法、同定可能菌

種(自施設のみ)

6. 非結核性抗酸菌の薬剤感受性実施の有無

7. 非結核性抗酸菌の薬剤感受性検査結果の取り扱いにつ

いて(外部委託施設のみ)

 このアンケートは 1施設 1回答とした。本シンポジウムでは、得られたアンケートの回答結果を提示することで検査室

における抗酸菌検査の現状を明確にしたい。明確にした後に、

講演いただく伏脇猛司先生による「抗酸菌検査ガイド

2016の解説」と、松本智成先生による「非結核性抗酸菌治療上の問題点」から得られる情報を会場全体で共有すること

で、日常の抗酸菌検査を見直す機会になればと考えている。

演題名:アンケート結果報告サブタイトル:各施設の抗酸菌検査の現状

所属:京都大学医学部附属病院 検査部氏名:金橋 徹

アンケート結果報告

抗酸菌検査ガイド 2016 ~非結核性抗酸菌を中心に~

◎金橋 徹 1)

京都大学医学部附属病院 1)

S-22

Page 21: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

はじめに

近年、検出数・有病率ともに急増している非結核性抗酸菌

(以下 NTM)は、結核菌と違い、検出されたからといって必ずしも治療には直結せず、治療対象となるには診断基準を

満たす必要がある。逆に NTM症を疑うものの菌が検出されず、診断に苦慮するケースもみられる。これらの溝を埋める

ためには各抗酸菌検査法(塗抹検査、核酸増幅検査、培養・

同定検査、薬剤感受性試験)の特性を理解し、最新の検査法

を把握したうえで、施設状況に応じた検査法を取り入れ、結

果報告には詳細なコメント記載が不可欠となる。また、検査

結果を有用なものとするためには精度保証が根幹となるが、

これらを実行するための情報源として、結核菌検査指針

2007の全面改訂に際し、NTMに関する情報も盛り込んだ抗酸菌検査ガイド 2016が発刊された。

塗抹検査

 塗抹検査では抗酸菌の有無は判明するが、菌種は判別でき

ない。しかし、塗抹検査は NTM症の診断基準に必要な項目であるため必須の検査項目であるが、検査精度を左右する標

本作成法や染色法に施設ごとで差異があり、標準化が今後の

課題と考えられる。抗酸菌検査ガイドでは均等化・遠心集菌

塗抹標本の作製と蛍光染色を標準法としているが、標準化の

一助を目指し、冷却高速遠心を必要としない遠心集菌剤や磁

性ビーズによる集菌法、比較的安価で利便性の高い LED蛍光装置が紹介されている。また、精度保証の一環として、喀

痰採取時における患者説明(採痰指導)の具体例の記述がな

された。

核酸増幅検査

 発刊時に市販されていた各検査機器の紹介がされたがその

優劣は記載されず、施設状況に応じた選択が可能と示された。

また、迅速薬剤感受性試験としての核酸増幅法も紹介され、

これらの臨床利用における注意事項、導入に際し勘案すべき

施設状況などが示された。

 CDC(Center for Disease Control and Prevention)の抗酸菌検査に関する勧奨では、塗抹検査の結果は 1 日以内に報告す

ること、培養同定結果を 21 日以内に報告すること、薬剤感受性試験の結果を 30 日以内に報告することとされているが、最近では核酸増幅検査についても検体受領から 48 時間以内に報告することが勧められている。この勧奨は主に結核対策

を目指したものであるが、患者の空気感染対策の適応是非を

判断するうえでも、抗酸菌種判別は迅速化が望まれる。

同定(培養菌)

 結核菌検査指針 2007の同項目の記述を踏襲しつつ、新たに登場した遺伝子解析と質量分析が記載され、それらの原理、

特性が示された。

薬剤感受性試験

 これまでは NTM薬剤感受性試験の検査指針がなかったため、多くの施設で結核菌用の薬剤感受性試験キットを流用し

て行われてきたが、抗酸菌検査ガイド 2016では初めてNTM薬剤感受性試験の項目が設けられた。しかし、現在のところ NTM に対する薬剤感受性試験についてはエビデンスが乏しいため、日常診療で遭遇することの多いMAC,M. kansasii,M. abscessus group をはじめとした迅速発育型抗酸菌群を中心に、日本と欧米における薬剤感受性試験の現状に

ついて参照程度の記述がなされた。

精度保証

 各検査法における具体的な精度保証は各項にも記述された

が、精度保証そのものの意味やありかた、ISOの考え方、精度保証に用いる菌株や外部精度保証の紹介などが記述された。

さいごに

 抗酸菌検査ガイド 2016の改訂ポイントのひとつがNTMに関する検査法であるが、まだまだ未知なる部分が多いため、記述できる内容は限定的であった。しかし、

NTM症は本邦では今後も増加することが予想されるため、最新の動向に注意を払い、臨床的妥当性の高い検査を目指し

続ける必要がある。そのための根幹となる精度保証に関する

記述のボリュームアップもまた、今回の改訂ポイントのひと

つであるが、精度保証の一環としての採痰指導の導入につい

ても考えていきたい。

抗酸菌検査ガイド 2016 解説

抗酸菌検査ガイド 2016 ~非結核性抗酸菌を中心に~

◎伏脇 猛司 1)

大阪府結核予防会大阪病院 1)

S-23

Page 22: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

はじめに

非結核性抗酸菌(Non-Tuberculous Mycobacteria; NTM)は、

結核菌・らい菌以外の抗酸菌の総称である。結核菌はヒ

トに対して病原性がありヒト・ヒト感染することが知ら

れているがNTMは土壌や水周りなどの自然環境に生息する

常在菌で、一般にヒト・ヒト間感染は一部の菌種を除き

報告されていない。患者の喀痰と環境から検出される菌

の遺伝子型の調査から、M. aviumは感染源が浴室の出水

口・排水口・シャワーヘッド、M. aviumおよび

M.intracellulareは土壌が疑われている。またM.

abscesussに関しては次世代シークエンサーによる研究か

ら繊維性嚢胞症患者の一部において院内感染を起こして

いるのではないかという報告がある。しかしながら明ら

かにヒトからヒトに感染しているという確証はない。

日本の肺NTM症は9割以上を、肺MAC症が占める。MACは

Mycobacterium avium complexの略称で、Mycobacterium

avium及びMycobacterium intracellulareを指す。

近年NTM症が増加してきており慶應義塾大学感染制御セン

ター教授の長谷川直樹氏らは、国内の肺NTM症の推定罹患

率は14.7人/10万人年で、前回2007年調査に比較して約

2.6倍に増加しているとEmerging Infectious Diseases誌

(米疾病対策センター[CDC]発行の学術誌)6月号に発

表している。

診断基準

環境に存在しない結核の場合、検体から一回でも菌が検

出されたら結核症と診断される。一方、環境金である

NTMによる肺NTM症の診断基準は、肺NTM症に特有な胸部

X線やCT所見があり、喀痰であれば2回、気管支鏡検体で

あれば1回、原因菌が培養されたら診断される。米国胸部

疾患学会/米国感染症学会(ATS/IDSA)の2007年の改訂を

受け、08年に日本結核病学会/日本呼吸器学会が改訂した。

もともと肺 NTM症は日和見感染症であり、この診断基準

は、他の要因で症状が悪化しても NTMが検出されたら

NTM症と診断され NTM症の増悪と判断される懸念がある。

NTM の治療

NTM の治療はほとんど確立しておらず、M. Kansasii に対

する INH, RFP, EB による治療、及び MAC に対する RFP, EB, CAM 療法であるが、MAC に対する治療は奏功率も文

献にもよるが3から6割であると言われている。したが

って、他の NTM 症も含めて新規薬剤の開発並びに治療プ

ロトコールの確立が望まれる。

さいごに

非結核性抗酸菌(Non-Tuberculous Mycobacteria; NTM)は、

結核菌・らい菌以外の抗酸菌の総称であり様々な菌がそ

こには含まれる。NTMの報告者数は年々多くはなっている

が、NTM の検査法、治療法には確立された方法がないの

が現状である。

今後の研究並びに治療の発展が望まれる分野である。

演題名 抗酸菌検査ガイド 2016 解説サブタイトル 「非結核性抗酸菌治療上の問題点」

所属 (一財)大阪府結核予防会大阪病院 副院長氏名 松本智成

非結核性抗酸菌治療上の問題点

抗酸菌検査ガイド 2016 ~非結核性抗酸菌を中心に~

◎松本 智成 1)

大阪府結核予防会大阪病院 1)

S-24

Page 23: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

総論

 1950年 Levey & Jenningsらが工業生産の品質管理に使わ

れていた Shewhartの Xb-R管理図法を臨床検査に応用し

たのが統計学的精度管理の始まりである。1965年には

Hoffmannらによる患者データを用いる正常値平均法が

1969年には Youdenによる2濃度の管理試料の双値法が、

1974年には Gottmannの検査過誤検出を目的としたδチ

ェック法、細萱による X-Rs、Xb-Rs-R 複合管理図法が発

表されている。これらの管理図は現在の精度管理の根幹

をなしている。次に 1980年代に入るとWestgardらによる

マルチルール管理図、さらにクオリティマネジメント

(QM)の概念が生まれ、トータルクオリティマネジメン

ト(TQM)へと発展する。これは、ISO15189の品質管理

における精度管理、検査室の精度管理の法制化などに通

ずるものであり、精度管理を品質管理の流れのなかで捉

えたものである。

管理血清について

管理血清は少なくとも 2濃度、できれば 3濃度のもの

で、臨床的判断値(基準範囲上限)付近の濃度測定がで

きるものが望ましい。溶解誤差の防止のため、液状凍結

品が使用しやすい。経済上可能であれば、1種類だけで

はなく異なるメーカーのものを 2種類使用したい。管理

図作成のためにはそれぞれ1日 2回以上測定は必須であ

り、測定件数、稼働時間を勘案し、測定回数を決定する。

データの安定性を短い間隔で確認したい場合は、LOW、

HIGHの同時測定を測定開始時のみとし、その後は

LOW、HIGH交互の測定などでもよい。仮に測定中に検

査結果に違和感を感じるような場合は臨機応変に管理血

清で確認したい。

管理図について

まず、Xb-R、X-Rs、Xb-Rs-Rの精度管理法は、精密度

を把握するためのものである。これらの管理図作成の基

本として、新ロットに切り替え時には、装置の安定性を

現行ロット測定で確認しつつ、新ロットの測定を 20日間

程度、毎日複数回測定した予備データから、平均値、

SDを算出し目標値と管理幅を決める。このとき、CV%が

現行(過去ロット)と乖離していないかも確認すること

が大切である。教科書には Xb、R、Rsについて測定回数

(n)によって規定された係数(JIS規格)が掲載されて

いるが、この係数を用いた場合、実測 SD×3σ(2σ)よ

りも管理幅は小さい傾向となる。また、不確かさについ

ても、JABの HPからダウンロードできるソフトで、日内、

日間の誤差を含めた拡張不確かさについても求めておく

とよい。正確度については、キャリブレーターの打ち返

し、Reccsの標準物質などを定期的に測定し、記録してお

くのが望ましい。

患者データを用いた精度管理

 基準範囲の中に入るものに限定して平均値を求め(毎

日)、管理図と同じ要領で測定の偏りを判定する。この

精度管理方法のメリットは、患者検体の測定値を使用す

るので、報告値の変動がダイレクトに反映される点であ

る。市販管理血清は 6~12カ月間隔でロットが変わり、

その都度、目標値や標準偏差を取り直し、管理図もロッ

ト単位で作図することになるが、正常値平均法は永遠に

同一ロットの管理血清を使用している状態と言え、長期

的な精度管理状況の把握に適している。

精度管理の工夫について

 人員と時間が限られた中、迅速に精度管理状況を把握

するための工夫が必要である。トレンド、管理範囲内、

バラツキの 3点についての確認を行う際、モニター上の

結果の確認と共に、一覧表(コントロールごとの項目一

覧)を作成し、1SD、2SD、3SD外などを記号化し、記録

することをお勧めする。そしてウエストガードのマルチ

ルール管理の手法を可能な範囲で適用し、キャリブレー

ションや試薬交換のタイミングを決定する。また、ユー

デンプロットが一覧表示可能であれば一目で系統誤差、

ランダム誤差の把握が可能となる。管理幅の妥当性につ

いても個人の生理変動の 1/2(1/2SDw)、外部精度管理

の CV%などと比較してみるとよい。また、現在では全国

の施設の日々の精度管理結果をリアルタイム集計解析す

る外部精度管理サービスもあるので、自施設の平均値と

全国平均値のバイアスの確認にも有用である。

まとめ

 昨今の検体検査は少数運営で合理的かつ効果的な運用

をしなければならず、当院もその例外ではない。合理的

かつ効果的な精度管理について討論できればと思います。

連絡先  06-6416-1221

臨床化学の精度管理

免疫化学の精度管理を一刀両断!

◎芝原 裕和 1)

関西労災病院 1)

S-25

Page 24: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

【はじめに】

臨床検査における精度管理(狭義)は、臨床検体の測定前に

管理試料を測定し、測定値が管理幅の範囲内にあることを管

理図等で確認、監視することです。もし管理幅からの急激な

逸脱(シフト)、または連続した上下いずれかの方向への経

時変動傾向(トレンド)が認められた場合は、原因を究明し、

原因を取り除くための処置を行い、是正の有効性を検証する

ため管理試料の再測定を行います。これら一連のプロセスは

文書に記録、保存しておきます。

免疫検査の特性として、程度の差はありますが試薬ロット差

を原因とするシフト現象がしばしば認められ、当社において

もコントロールの測定値と参考値表との乖離に関するお問い

合わせが多くあります。免疫検査の測定は、抗原抗体反応を

原理としており、試薬に含まれる構成品(抗体、抗原、担体、

標識物質、動物血清、等)の変更や、同一構成品であっても

製造日等の製造条件の違いにより、ロット差が現れるものと

推察されます。

【目標値と管理幅の推定方法】

免疫検査に限らず目標値と管理幅の設定は、検査室で実際に

使用している機器、試薬、作業手順に基づき、測定システム

の性能や力量が考慮されるよう検査室独自で決めることが重

要です。米国臨床検査標準協会(CLSI)では「定量測定にお

ける統計学的品質管理の原理と定義(C24)」において目標

値と標準偏差(SD)の設定方法を示しています。

目標値は、連続しない日間測定した 10個の値の平均値を用

いること、SDは 20日間で 20回測定した値から算出し、管

理試料の前処理の誤差(溶解・融解)やバイアル間差を含め

るため通常の測定手順上必要なバイアルを用いることとされ

ています。また SDを過小評価しないために試薬フォーミュ

レーション変更や大掛かりなメンテナンス等の変動要因は含

めないこととされています。さらに短期間であるがために変

動要因の少ない条件では SDは通常小さくなるため、累積デ

ータを元に三か月、半年、一年後に SDを更新することが推

奨されています。

【シフト現象の対処】

また試薬ロット変更に伴い管理試料のシフト現象が発生した

場合は、患者検体で同様の現象が発生するか確認しておく必

要があります。第 3者が販売する市販の管理血清(サード・

パーティー・コントロール)はヒト血清ベースですが、患者

検体とマトリックスは完全に同一ではないため、特定の試薬

ロットと管理試料の反応性によりシフトが発生する場合があ

ります。そのためデータチェックのために測定値の付いた患

者検体あるいはプール血清をいくつか凍結保存しておくこと

をお薦めしています。

患者検体でシフトが認められない場合は、新試薬ロットで目

標値を再設定します。試薬ロットの変更が頻発する項目や経

験的に試薬ロットが大きい項目は、目標値再設定の手間を削

減するため、ある程度の期間分の試薬ロットを確保するとい

うことも有効な手段です。その場合、市場で流通している試

薬ロットと異なる可能性があることを認識しておくこと、外

部精度管理調査においては、内部精度管理による精密さは合

格であっても、検査室間比較においては不合格となる可能性

があることを理解しておくことが必要です。

【検査室間比較】

そのような事態を避けるために、日常的に測定されている管

理試料をピアグループ比較し、正確さを確認することが有効

です。バイオ・ラッドでは、インターネットを利用したウェ

ブベースの外部精度管理プログラムを無償でご提供していま

す。現在、九州地区では、ライフォチェックイムノアッセイ

TMJコントロールで外部精度管理プログラムに参加されてい

るお客様に、装置や試薬を横断的に項目別に集計したツイン

プロット図を国内で作成し、毎月参加者に Eメールで配信し

ています。免疫検査の各試薬メーカーの測定値の傾向を把握

することが可能です。

免疫検査は、試薬ロット差も含む測定性能を考慮した上で、

適切な目標値と管理幅を検査室で独自に定めて精度管理する

ことが重要です。

【連絡先】TEL: 03-6361-7070

Email: [email protected]

悩みを解決!免疫検査の精度管理

免疫化学の精度管理を一刀両断!

◎植村 康浩 1)

バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社 1)

S-26

Page 25: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

 臨床検査は医師の臨床判断に対して重要な情報を提供し、

治療のみならず予防医学面でも重要な位置づけとなっていま

す。検査室では日々、臨床検査データを提供する為に様々な

臨床検査試薬がご使用されていると思います。しかし、その

日々皆様のお手元でご使用頂いている臨床検査薬がどのよう

に作られ、品質管理を行っているかについてイメージする事

は難しいのではないかと思います。

また、昨今ではさまざまな製品にはそれごとの規格などが

厳しく決められております。その中における JIS Z8101では、「品質管理とは、買い手の要求にあった品質の品物またはサ

ービスを経済的に作り出すための手段の体系」と定義されて

おり、JIS Q9000では・・・(中略)「製品及びサービスの品

質には、意図した機能及びパフォーマンスだけではなく、顧

客によって認識された価値及び顧客に対する便益も含まれる。

」と規定されております。

JISの用語として記載するとこのように難しい言葉となってしまいます。

今回は一臨床検査試薬製造メーカーとしての品質管理の取

り組みや、最近にみられる災害緊急時における臨床検査試薬

製造・供給メーカーとしての BCP(事業継続計画:Business

Continuity Plan)活動についてご紹介させていただく事で

普段お使いの臨床検査薬がどのように製造および品質を管理

されているか、また、臨床検査試薬製造メーカーとしての製

品供給の考えを知っていただき、皆様のお使い頂いている臨

床検査薬をもっと身近に感じて頂ければと願っております。

臨床検査試薬の品質管理

◎川崎 幸造 1)

株式会社シノテスト 安全管理部 1)

S-27

Page 26: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

 認定臨床化学・免疫化学精度保証管理検査技師とは、

2014年に日本臨床衛生検査技師会と日本臨床化学会が共

同で制定した認定資格である。これまで臨床検査におい

て精度保証および精度管理は、非常に重要であるにもか

かわらず認定資格が制定されていなかった。そこで臨床

化学・免疫化学分野の精度保証体制の確立と維持管理を

担う臨床検査技師育成を目的としてこの資格が制定され

た。狭義の精度管理といえば日常検査による測定値の精

密さと真度を保証することであるが、今日では検査前か

ら検査後に至る広い範囲での精度管理の実施という重要

な役割が求められている。今回、認定技師としての当院

の検査室での活動を紹介する。

 当院は、2015年に ISO15189の認定を取得した。ISO

15189は「臨床検査室-品質と能力に関する要求事項」へ

の適格が求められており、当院では品質マネジメントシ

ステム(以下 QMS)の運営は品質管理と技術管理に分け

て取組んでいる。品質管理は検査室が QMSを運営するた

めの管理を行い、技術管理は、技術的に適格で、かつ妥

当な結果を出す能力を保持することを管理している。さ

らに技術管理は、検体採取から結果報告までの全プロセ

スにおいて精度保証しなければいけないため、機器・設

備・環境連絡会、検査プロセス連絡会、精度管理連絡会、

システム委員会、教育関連委員会を設置し、細部にわた

って運営管理している。QMS組織における精度管理連絡

会の役割は、内部精度管理と外部精度管理の運用手順の

構築、運用管理を行うことを通して、検査室の検査能力

と問題点を把握し、検査室全体の精度の向上を担うこと

である。

 まず外部精度管理の取り組みを紹介する。ISO15189認

定を取得する以前から精度管理調査には参加していた。

しかしながら各検査部門での管理であったため評価方法

が統一されていなかった。そこで ISO15189の要求事項に

準じて外部精度管理手順を作成し、各精度管理調査の取

りまとめを行っている。たとえば申し込みから測定方法、

結果の評価方法について規定し、結果が A評価以外また

は 2SDIを超えた外部精度管理結果については、全て不適

合・是正処置報告書を提出し、原因究明を行っている。

精度管理連絡会ではその原因究明が適切か、それに対す

る是正処置は妥当か、さらに是正処置の効果が認められ

たかについて評価している。フォトサーベイや教育問題

など数値化できない精度管理調査における評価方法の統

一には苦慮したが、各検査部門の特性を理解し運用して

いる。全部門の外部精度管理について把握することは、

施設の検査精度の向上を担うにはとても重要であると考

えられる。

次に内部精度管理の取り組みについて紹介する。

日々の内部精度管理では、やはり検体検査が中心となっ

てしまうため、検体検査の取り組みについて紹介する。

精度管理担当者は分析装置ごとに精度管理図を作成し、

臨床検査医に報告している。報告会では臨床検査技師と

臨床検査医の両方の視点から測定値の変動を確認し、バ

ラツキやシフトが与える臨床的判断への影響について評

価している。それによって管理幅内に測定値を入れるだ

けの精度管理ではなく、臨床への影響を意識した管理を

行うことが出来るようになった。また、検査室には複数

の機器・試薬を保持しているものがあり、それらに対し

ては、機器・機種間差を確認している。このように内部

精度管理を充実させることは検査室の精度向上には欠か

すことができない。

 このように検査における精度管理は、検査結果の品質

保証に必要不可欠である。そして、私は認定臨床化学・

免疫化学精度保証管理検査技師を取得することによって、

改めて精度保証や精度管理の基本について勉強すること

ができた。さらに精度管理連絡会を通じて臨床検査医の

意見も聞くことができ、他部門の様々な精度管理を知り、

把握することが出来るようになった。このように検査室

全体の精度保証を担うということは、病院医療の品質保

証に貢献することであり、この認定資格は非常に有意義

であると考える。

今回紹介した認定技師としての活動紹介が少しでも参

考になり、認定臨床化学・免疫化学精度保証管理検査技

師の認定に挑戦する技師が増えることを願い、今後更な

る活躍する場が増えることを期待する。

(兵庫医科大学病院臨床検査技術部 0798-45-6304)

認定臨床化学・免疫化学精度保証管理検査技師からみた日常の精度管理

 免疫化学の精度管理を一刀両断!

◎石井 里佳 1)、狩野 春艶 1)、和田 恭直 1)、井垣 歩 1)、小柴 賢洋 2)

兵庫医科大学病院 臨床検査技術部 1)、兵庫医科大学 臨床検査医学講座 2)

S-28

Page 27: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

医療における病理学的診断は,最終診断として大きな

役割を果たし,疾患の早期発見・診断,治療方針の決定,

治療効果判定・再発の有無等,その品質が患者の将来や

生命さらには医療の発展を左右するといっても過言では

ない.したがって,病理診断の品質に関わる業務に携わ

る病理技師の責務も重く,重要な役割を担っている.

 品質の信頼性を維持・向上させるための手段として,

日常検査の正確さ・精密さを自施設で評価する内部精度

管理と外部精度管理がある.外部精度管理には,日本臨

床衛生検査技師会および各都道府県技師会,日本臨床細

胞学会,病理技術研究会,実験病理組織技術学会,日本

精度保障機構などの各種学会研究会による技術サーベイ,

フォトサーベイなどが実施されており、これらへ参加に

より、内部精度管理とは違い外部による客観的正確さの

もと,他施設と比較および自施設の品質評価を得ること

ができる.

 しかしながら,今日,病理診断の質を保証するために

は内部精度管理・外部精度管理による結果に対する評価

に留まらず,病理学的診断の結果に影響を与えるすべて

要因について管理する必要があるとの概念が広がってき

ている.

 本年 6月 7日に国会で採択,成立した「医療法等の一

部を改正する法律(第 57号)」において,検体検査の精

度の確保に関する事項として,「検体検査の業務を行う

場合は,検体検査を行う施設の構造設備,管理組織,検

体検査の精度の確保の方法その他の事項を検体検査の業

務の適正な実施に必要なものとして厚生労働省令に定め

る基準に適合しなければならないものとすること」とあ

り,ISO 15189 臨床検査室-品質と能力に関する要求事項

に相当する内容となっている.

 つまり,検体のサンプリングから搬送・保存,手技・

方法とその妥当性,結果の解釈,報告およびアドバイス

サービスの他,施設・環境および機材の整備,試薬・消

耗の調達,毒劇物など化学薬品の保管や取扱い,技師や

医師の能力の評価・教育等の技術面とそれらの手順を策

定運用,監視し,不適合に対する原因究明,是正処置等,

PDCAサイクルに従って,継続的改善させるマネジメント

システムにより適切に管理しなければならない.

 当院は 2015年 12月,ISO 15189を取得し,運用開始し

て約 2年近く経過した.活動運営していく中,以前より

も日常業務の見直し改善,内部精度管理の充実,インシ

デント対策,リスク事象に対する予防措置への意識が高

まった。特に,大学病院という特質上,病理診断に関わ

る医師,看護師,その他メッセンジャーなどの職員数が

多く,異動による担当者の入れ替わりの頻度が高いこと

から,検体のサンプリング・搬送におけるリスク・イン

シデント対策やトレサビリティーの確保に力を入れてい

る.また,新卒の新人職員,短時間勤務の職員が増え,

要員の力量評価や教育にも努めている。

医療機関における病理学的診断の分野は,これまでの

一般的に日常行われてきた組織診断,細胞診断,術中迅

速診断,免疫組織化学染色,電子顕微鏡検査,病理解剖

と更に近年,医療技術の発展・開発により、遺伝子診断、

デジタルパソロジーによる遠隔診断など、多岐にわたり

多様かつ高度化してきた。遺伝子診断については,先に

述べた医療法改正で,遺伝子関連検査の安全性当の評価

を行い,品質・精度管理についての基準を設けるよう努

めることとあり,これらの新たな技術の精度管理体制の

確立が,今後の検討されるべき課題である.

神戸大学医学部附属病院 病理部 塚本龍子

連絡先-078-382-6474

医療機関における精度管理について

病理検査業務のトータルマネジメント

◎塚本 龍子 1)

国立大学法人 神戸大学医学部附属病院 1)

S-29

Page 28: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

当施設における病理検査の品質方針は「安全で信頼性の高

い病理検査を通して大阪府民の健康の保持に貢献する」こと

である。したがって病理検査の精度管理とは信頼性の確保と

不確かさの管理と言える。ここで言う信頼性とは不良を未然

に防止し、安心できる結果を安定して提供することであり、

不良を未然に防止するには作業の初期段階から品質を作り込

むことが重要である。不確かさとは品質に影響を与える要因

のことであり、それぞれの要因の影響をいかに小さくするこ

とが信頼性の確保につながる。

その一方で、近年、品質を評価する顧客側が求める品質も

多様化したため、病理検査の品質の意味合いも変わってきて

いる。多様化した顧客要望に柔軟に対応し、顧客の求める品

質を実現する(顧客満足度を高める)ためには、従来型の現

場中心による Control(制御)ではなく、施設全体による

Management(管理)が必要となってきた。今回、当施設に

おける病理検査の精度管理(Quality Management)について

報告する。

第1に精度管理に関わる担当者の役割と権限を明確にする

ことである。当施設の精度管理関わる者は、管理者1名、指

導監督医1名、精度管理責任者1名、精度管理担当者5名の

8名である。発生した不具合、予想される不具合、技術や知

識の向上、顧客の要望、個人情報保護について対応している。

特に現場に最も近い精度管理担当者に、不具合処理や職員教

育に関する権限を与えることが、迅速な対応と再発防止には

重要である。

第2に病理検査の質に影響を与える要因を特定することで

ある。検査の質に影響を与える要因としては施設環境、方法、

材料、人、試薬、検査機器があり、各項目の詳細な分析が必

要である。この中で特に人の技能や知識、適性のばらつきが、

病理診断の信頼性に影響を与えており、直接的に診断のばら

つきに関係している。そのため、これらの分析に重点を置く

ことが検査の質の信頼性に重要である。

第3に各要因について基準、方法、作業手順を決め文書化

し、作業状況を記録することである。自分達が行っている検

査は、誰もが納得行く方法で検査されていることを証明しな

ければならない。そのため基準、方法、作業手順を文書化

(標準作業書の作成)することが重要である。そして標準作

業書に沿った作業状況の記録(作業日誌、チェックシート、

検査機器の保守、試薬管理、不良標本の検品など)や技師や

医師の個人研修記録(研修会等の参加、技能評価、検鏡枚数

など)を残すことが、質の証明には重要である。

第4に過誤の原因を特定し、是正措置、予防措置をとるだ

けでなく、措置内容を定期的に検証することである。過誤に

より発生した不具合は速やかに原因を特定し、是正措置をと

り過誤が繰り返されないようにしなければならない。原因の

特定にあたり Structure(環境、設備、機械、人員など)、

System(検査基準、検査方法、作業手順、問題発生時の対応、

機器や薬品の管理、職員の教育・指導など)、Human(技師

や医師の心理分析)に分け総合的に判断することが必要であ

る。また予測される重大な不具合(作業工程の中で取り違え

が起こる可能性のある作業。たとえば切り出し時:ボトル

→カセット、薄切時:カセット→ガラス、診断時:ガラス

→報告書など)には予防措置で事前対応をすることが必要で

ある。そして措置内容が適切であったかを定期的に検証し、

改善を継続することが質の保証には重要である。

第5に外部審査や外部精度管理調査を受けることである。

病理検査において内部精度管理は大変重要であるが、それだ

けでは自施設の管理レベルを評価することは難しい。そのた

め第3者による質の検証は、信頼性の保証には重要である。

第3者による質の検証としては保健所(登録衛生検査所は必

須)や第 3者評価制度(医療関連サービス振興会や ISOな

ど)がある。

以上のように品質を継続して改善し、顧客要望に柔軟に対

応するためには、施設全体で取り組む精度管理体制(Quality

Management)が重要である。

登録衛生検査所における病理検査の精度管理(Quality Management)

病理検査業務のトータルマネジメント

◎矢羽田一信 1)

大阪府医師会医師会保健医療センター 1)

S-30

Page 29: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

【目的】

 日臨技認定技師制度には、病理検査に従事する臨床検

査技師が目指す認定病理検査技師制度がある。この認定

病理検査技師の求められるものとして病理検査業務のマ

ネジメント能力が挙げられている。今回、病理検査業務

マネジメントの一端として、病理検査室でのインシデン

トの対策について当院での事例をもとに考察し、求めら

れるマネジメント能力の向上に繋がる提案を示したい。

【現状】

 業務マネジメントに取組むのに先ずは私達の病理検査

作業環境の現状を整理し理解する必要がある。病理検査

業務は作業手順が非常に多い検査である。即ち、患者さ

んから採取した組織細胞検体は適切な処理(固定操作な

ど)をした状態で病理検査室へ届けられる。そしてここ

から先は、受付→切出し→包埋→薄切→染色と、おおま

かに作業分けしてもこれだけの行程をこなしていき、標

準化された精度の高い病理標本(HE染色標本など)を作

成する。最近では一部で機械化の導入もされているが、

まだまだ手作業で行う煩雑さが多い行程であるのが実情

である。このような現状でさらにスキルアップ・キャリ

アアップを目指そうというのである。しかし現実は、公

益財団法人日本医療機能評価機構が発表した医療安全情

報 No.53 2011年 4月(集計期間 2007年 1月 1日から

2011年 2月 28日)で、6件の「病理診断時の検体取り間

違え」を報告し、この集計期間以降(第 45回報告書)で

も類似の事例が報告されている。また、各種学会での病

理セッションでインシデント関連として毎回数題は発表

されているテーマでもある。医療安全情報や学会発表、

日本病理学会が提示した検体取扱いに関する指針などで、

インシデント発生の防止とその対策を日々取組んではい

るが本当に効果が上がっているのか検証がし難いのも実

情である。今の作業内容や作業環境は問題が無いのか否

か、ただ「病理検査をしています」だけでは済まされな

い現状である。

【考察】

 当院での経験した「包埋時のコンタミ」のインシデン

ト報告を基にして、その後の改善策と対策の考え方を提

示する。

1.作業現状:包埋作業は切出し作業をした者とは違う者が

実施する。

2.事案発生:HE標本を確認した時に切出し時に撮影した

画像には写っていない組織小片がブロックにあった。

3.原因推測:包埋時に混入させた可能性が考えられた。

4.作業状況:包埋センターの作業周辺やカセットを入れて

おくパラフィン槽に組織小片の屑を見つけた。

5.対策方法:組織小片の屑を取り除く。

6.改善作業:包埋センターの作業周辺を清掃する、ピンセ

ットの尖をバーナーで炙る、ピンセットの尖をペーパー

で拭く。

 このように作業手順を増やす改善策を取入れた。しか

し、その後も同様な事例は散発ながら発生しているのが

現状であった。これでは改善されたと言えない。そもそ

も事例が発生している環境に問題はなかったのだろう

か?包埋作業する者が問題点を理解出来ているのだろう

か?と言う疑念が拭えなかったので改めてヒューマンエ

ラーと言う考え方から対策を見直してみた。その結果、

カセットの内外や使用する器具類に組織小片の屑が存在

していない事を目視で確認する事、今の作業は何が大切

なのかを意識して実施する事、この後で将来がどのよう

な事が起きるのかを考える事など作業する者自身が状況

の確認と認識をする必要があると言う事を理解してもら

い、そして無理のない作業環境の見直しを図る必要があ

ると言う事に気づいた。これをもとにして今後の作業手

順の見直しに活かしていきたい。

【まとめ】

 認定病理検査技師にはインシデント対策でのマネジメ

ント能力が求められる。今回、当院での事例を提示して、

PDCAサイクルを活用した安心安全な業務運用を目指し、

さらに、インシデントの発生に対してヒューマンエラー

の考え方も取り入れて対策を考える事を提案した。

(連絡先:078-302-4321)

病理検査室のインシデントとその対策 ~当院の作業手順から見えてくる事は? ~

病理検査業務のトータルマネジメント

◎井本 秀志 1)

独立行政法人 神戸市民病院機構 神戸市立医療センター 中央市民病院 1)

S-31

Page 30: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

【はじめに】病理検査室ではホルマリンやキシレンなど,

多くの有害物質を取り扱っている.これらは使用者(作

業者)の健康被害のみならず,周囲への被害をもたらす

危険性があり,その取り扱いには十分な知識と対策が必

要とされる.また安全確保のため様々な法規制が行われ

ており,それらを理解することも大切である.今回,私

達の施設で行っている作業環境管理や有害物質の安全管

理について紹介する.

【作業環境保護】作業環境保護においては,特定化学物

質等障害予防規則(特化則)・有機溶剤中毒予防規則

(有機則)・女性労働基準規則(女性則)などの法令・

規則がある.当院ではこれらの法規に則り,作業環境管

理に努めている.

[ホルマリン対策] ホルムアルデヒド曝露防止として以下

の対策を行った.①局所排気装置として卓上型プッシュ

プル換気装置を設置した.②切り出し後の臓器保存を

10%ホルマリンから 50%エタノールに変更した.③切り

出し後の(ホルマリン入り)検体小容器を密閉容器に保

存した.④臓器固定後のホルマリンを約 4Lごとに中和剤

にて中和し,専用シンクに廃棄した.⑤手術後に臨床医

が臓器固定処理等を行う標本処置室においては,ホルマ

リン原液からの希釈操作を行わず(ホルマリン原液の使

用中止),市販 10%ホルマリンを購入し配置した.これ

らの対策により病理検査室では,2008年 6月より現在ま

で 6ヶ月に 1度のホルムアルデヒド作業環境測定におい

て,すべて第 1管理区分を維持している.標本処置室に

おいては,同期間中 3回 A測定で区分Ⅱを示し第 2管理

区分となったが,⑤の対策後,第 1管理区分を維持でき

るようになった.これら第 1管理区分を維持できた要因

として,室内に置くホルマリン量を最小限に抑えている

ことが考えられる.切り出し後の臓器保存を 50%エタノ

ールに変更したことや,少量ずつ中和し廃棄することに

より室内全体のホルムアルデヒド量が低減され,良好な

作業環境が保たれていると考える.また,不特定の作業

者が取り扱いを行う場所(標本処理室)においては,高

濃度のホルマリンを扱わないようにすることが,作業環

境上効果的であった.

[キシレン・クロム酸対策] 有機溶剤の中でも使用量の多

いキシレンに対し,有機則に従い作業環境測定や健康診

断(代謝産物測定を含む)を実施している.また,キシ

レンと同様に女性則の対象となるクロム酸(クロム酸塩)

についても作業環境測定を実施し,それぞれ第 1管理区

分を維持している.

【周囲環境保護】毒物・劇物の管理(毒物および劇物取

締法),引火物の貯蔵(消防法・市町村火災予防条例),

有害物質の廃棄(廃棄物処理法・下水道条例)など,周

囲への被害を考慮し以下の対策を行っている.

[毒物・劇物の管理] 当院では1種類の毒物(チオセミカ

ルバジド)とホルマリンやキシレンなど 22種類の劇物を

取り扱っており,保管・出入庫の管理に留意している.

病棟や外来へのホルマリン出入庫は一元管理とし,当日

使用分のみを出庫し,未使用分は当日中に病理検査室に

返却することとしている.夜間および休日のホルマリン

出入庫は,臨床検査技術科の宿日直者が対応している.

[引火物の貯蔵] 市の火災予防条例に則り,引火物は指定

数量の 1/5未満の貯蔵となるように努めている.アルコー

ル類およびアセトン 80L未満・キシレン 200L未満が基準

となるため,アルコール類+アセトン+(キシレン×0.4)

の和が 80L未満となるよう貯蔵量を調整している.

[有害物質の廃棄] キシレン・イソプロピルアルコール・

アセトンは廃油,クロム酸・ピクリン酸は廃酸として専

門業者に廃棄を依頼している.ホルマリンは中和剤にて

中和後専用シンクに流し,その他の毒劇物は主に希釈処

理により専用シンクに流している.専用シンクに流した

廃液は院内の貯水槽に溜まり,下水道条例の基準に準じ

処理後に下水に流される.廃パラフィンはパラフィンブ

ロックの薄切屑とともに感染性廃棄物として廃棄してい

る.

【まとめ】有害な試薬・物質を取り扱う業務は,自身の

健康障害を及ぼす危険性のある業務と認識するとともに,

周囲への被害も考慮する必要がある.安全に働くために

は作業環境管理を行い,有害物質の曝露を最小にとどめ

るための対策を常に心がけるとともに,有害物質の保

管・管理に注意することが大切である.

連絡先:京都市立病院臨床検査技術科 (075)311-5311

病理検査で取り扱う有害物質の安全管理

病理検査業務のトータルマネジメント

◎川邉 民昭 1)

京都市立病院 臨床検査技術科 1)

S-32

Page 31: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

 現在、日臨技では病棟担当技師の職域確立を目指して

様々な企画戦略を実施している。当院では現在、病棟担

当技師の活動は休止しているが、病棟支援活動として、

病棟採血および機器管理を実施している。今回、これま

での経験をもとに今後の課題について考える。

【病棟採血】「臨床検査は検体採取から始まり、正しい

結果を得るためには正しい手技での検体採取が不可欠で

ある。」という理念のもと、昭和 40年代より病棟採血を

開始した。病棟とは看護師の負担軽減を重視するあまり

技師の負担が増大しないよう採血開始時間や患者情報の

伝達方法、採血スペースなど様々な事柄について話し合

いを重ねた。現在は出向する病棟数も徐々に増え、全

19病棟のうち 12病棟に出向し 8時から最長 9時まで採血

に従事し、入院検体の約 7割の採血を実施している。臨

床検査技師が採血することで検体凝固、量不足および点

滴ラインからの採血は減少し精度保証の一助となってい

る。また、新人看護師を対象に採血研修を受け入れ、採

血の手技や採血管の選択方法および外来患者採血の実践

教育を行っている。看護部との定期的な話し合いでは、

採血時間の延長や治験採血の実施など病棟採血に対する

要望は多い。しかし、現行では検査部のマンパワー不足

のため実現は難しい。

【機器管理】検査部では、医療機器安全管理チームを立

ち上げ、検査室内外を問わず臨床検査に使用している検

査機器の保守点検を実施している。現在は、院内使用の

血糖測定器、尿試験紙および血液ガス分析装置を管理し

ている。尿試験紙の管理開始前には、使用目的や用途お

よび使用数について調査を行い、現場の看護師と話し合

いを重ね管理方法を確立した。血液ガス分析装置は、診

療科で運用し始めた当初、つまりが原因で測定不能状態

となることが度々発生した。その都度現場に足を運び指

導を行った結果、現在は適切な測定方法が順守されてい

る。検査部が機器管理を行うことで機器の適正使用が可

能となり、正しい測定結果とその記録、ランニングコス

ト低減に貢献している。

【病棟担当業務】当院における病棟担当技師の活動は、

総合内科病棟から開始した。主な活動内容は、翌日検査

の抽出と患者への説明、採血、医師や看護師からの質問

への対応などであった。病棟担当技師を配置した当初、

作業はすべて手作業で運用していた。そのため検査の抽

出作業に出向時間のほとんどを費やし、患者に検査説明

を実施する余裕はなかった。そこで、検査依頼が発生し

た時点で検査情報を入力すると、手書きで行っていた作

業を印刷できるシステムを作成した。システム導入後、

検査抽出時間は大幅に短縮され、患者への検査説明の時

間を確保することができた。翌日検査の説明には CT検査

やMRI検査、生理検査なども含まれるため、検査毎に方

法、侵襲の有無、絶食の必要性、所要時間や注意事項な

どをまとめたパンフレットを作成し配布した。病棟業務

の合間には、医師や看護師から質問を受けることも多く

“顔の見える技師”として徐々に認知され信頼関係が構

築された。患者への検査説明開始後は、患者から検査に

関して質問されることも多く患者の知識向上に繋がった。

【考察】病棟採血、機器管理、病棟担当技師を経験して、

病棟支援はまず現場を知ることから始まるということを

実感した。そして実際の運用を理解した上で問題点を洗

い出し、円滑に運用できるシステムづくりを行う必要が

ある。看護業務は用手で行う作業も多く、患者のケアに

追われる日常の中でシステムを構築するのは難しい。そ

こで日常よりシステムを構築し活用することを得意とす

る臨床検査技師が介入することで看護師の負担軽減に貢

献できると考える。システムを構築する過程で大切なの

は、看護師と協力しながら行うことであり技師と看護師

がお互い納得できるシステムでなければならない。その

ためには信頼し合える関係づくりが重要である。

 今後も病棟採血や機器管理など、お互いがフォローし

合えるシステムを継続しながら“顔の見える臨床検査技

師”として活動していきたい。また、これまでの病棟担

当技師としての活動とは異なるが、血液疾患や内分泌疾

患など、特定の患者の検査結果を説明する、検査結果を

もとに病態解析し医師に助言するなど、検査データにこ

だわり検査データを最も早く目にする臨床検査技師なら

ではの活動を確立したいと考える。

【まとめ】 当院では、病棟支援活動して様々な活動を

実施している。病棟支援を円滑に続行するためには、看

護師と協同する体制の構築が必要である。今後も「顔の

見える技師」として日々活動を継続していきたい。

連絡先 0743(63)5611 内線 7441

当院における病棟支援の現状と課題~病棟採血、機器管理、病棟担当技師の経験から~ 

~活躍の場を広げよう~ 臨床支援への取り組みの現状

◎木下 真紀 1)

公益財団法人 天理よろづ相談所病院 1)

S-33

Page 32: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

 近年、臨床検査技師(MT)のチーム医療への参画が多

くの施設で実践されつつある。近畿大学医学部附属病院

では、医師・看護師の負担軽減を目的とした取り組みと

して救急救命センター(以下 CCMC)にMTの派遣が検

討された。今回のワークショップでは、当院の救急医療

現場におけるMTのチーム医療への参画について、その

経緯と業務内容や経験談、問題点などを紹介する。

1.事前調査(2012年 5月~6月)

 当院では 2013(平成 25)年 12月に救急災害棟の開設

が決定し、ER外来、二次救急、三次救急および急性期病

棟の診療を、これまでの CCMCから救急災害棟で全て対

応することとなった。以前から中央臨床検査部(以下検

査部)ではMTが外科・血液内科病棟にて採血管準備、

検査説明などの支援業務を実施しており、救急医療の現

場での支援業務に向けてのプロジェクトを進めた。

CCMC業務支援検討チームは病棟支援業務経験のある検

査部MT6名と輸血・細胞治療センター(輸血部)MT

2名の計 8名で構成し、CCMCでどのような業務が支援可

能か検討を重ね、2012(平成 24)年 6月に 5日間、

CCMCの業務を見学し、支援可能な業務に関する調査を

実施した。

2.全体ミーティング

 検査部MT全員に CCMCへの業務支援の周知と理解を

得るため、2012(平成 24)年 8月に管理職を除く検査部

MT45名によるミーティングを開催した。内容はMTを年

代別に 6グループに分けテーブルディスカッションを行

う KJ法を用いたものであった。6グループとも CCMCへ

の支援業務は必要であるという意見に集約された。しか

し、24時間の支援となると人員的な問題もあり、初療オ

ンコール時・日勤帯のみに支援業務を行うといった意見

も得られた。また、年齢の若いグループでは検査以外の

看護師や医師の補助的な業務も実施するべきという積極

的な姿勢がみられた。

3.具体的な取り組みの決定

 各検査室役職者と実務担当者から構成した支援検討委

員会を 2012(平成 24)年 9月に発足し、具体的な支援内

容を検討した。結果、第 1期支援要員 5名が選出され、

CCMC初療室の備品位置確認から始まり、初療時の採血

分注、MRSA検査用の鼻腔擦過スワブ採取、緊急輸血時

の研修を経て、2012(平成 24)年 11月より CCMCでの

支援業務を開始した。

当初 CCMCでの支援業務は平日 8:30~16:00で開始した。

しかし、救急災害棟開設時には 24時間体制で支援業務が

望まれた。検査部ではこれまで病院棟 2名の宿直者が時

間外検査を行っていたが、救急災害棟にも検査室が新設

され、支援業務を含めると 3名の宿直者が必要となる。

また、支援業務要員の増員が必要であるため、随時研修

を行い、救急救災棟開設と同時に 24時間体制での支援業

務を開始した。CCMCの支援に加え、ハートコール、卒

中コールにも対応した。

4.必要な知識・技術の取得

 支援要員は、臨床化学検査室、血液検査室、細菌検査

室、生理検査室に所属し、各検査室の専門業務を行って

いる。しかし、救急災害棟では様々な検査の要望や異常

データに遭遇することもある。そこで、支援要員を中心

に救急初療の症例について、R-CPC形式の勉強会を 2カ

月に 1回開催した。技師だけでは解らない場合も多いた

め、臨床検査医学の上硲教授にオブザーバーを務めて頂

いた。実症例による討議により、有意義な勉強会が開催

でき、また認定救急検査技師の取得、検体採取研修会へ

の参加につながった。

5.救急初期診療への参画

 救急医療の現場でMTに何が出来るのか?血液ガス測

定、検体分注、心電図測定など検査業務もあれば、点滴

ライン確保や挿管、尿道バルーン挿入の介助など技師が

おこなって良い行為かどうか判断のつかない業務もある。

各施設で技師、医師、看護師とできる業務をきちんと決

定し、説明する必要がある。特に、医師、看護師または

技師間のコミュニケーションが大切である。救急医療現

場では患者 ID未発行・検査依頼の不備など、日常業務と

は異なる問題点も多い。患者とのコミュニケーションか

らも救命に繋がる場合もある。救急初期診療においては

初めて一緒に仕事する医師や看護師も多い。チーム医療

の一員として業務するようになり、まずは「技師さん」

ではなく、名前を呼んでもらえる技師になりたいと強く

感じている。

            072-366-0221 内線 2183

救急医療の現場におけるチーム医療の取り組み

~活躍の場を広げよう~ 臨床支援への取り組みの現状

◎赤坂 友規子 1)

近畿大学医学部附属病院 1)

EntryNo. 49

S-34

Page 33: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

【はじめに】

近年、臨床検査技師による様々なチーム医療への参画が

試みられ、当院においても ICT・ NSTなどに臨床検査技

師が参画している。2011年 11月からは外科病棟への臨床

検査技師の常駐を開始し、2013年 4月からは救急災害棟

への 24時間体制での支援を開始している。輸血・細胞治

療センターでは輸血専任技師(以下:専任技師)が

2011年 7月より中央手術部検査室に常駐し、2013年 8月

より臨床的意義のある不規則抗体検出患者への説明を開

始した。医師・看護師の業務負担軽減および臨床検査技

師の業務拡大をさらなる目標として、2015年 4月より血

液内科病棟への常駐による支援を開始した。今回、専任

技師として実施してきた病棟・臨床支援の内容を紹介す

る。

【手術部検査室常駐業務】

中央手術部内検査室に専任技師が、月曜日~金曜日の朝

9時から 17時の間に 1名が常駐している。血液ガス測定、

総蛋白測定、検査機器メンテナンスおよび、輸血関連の

業務である手術時使用予定の輸血製剤の管理、血漿分画

製剤の管理、血液専用保冷庫の管理、大量輸血時の介入

業務を実施している。

【不規則抗体検出患者への説明】

従来、新規に不規則抗体が検出された場合、専任技師か

ら主治医に連絡して説明を行い『輸血時の注意カード』

を発行後、主治医より患者に対し説明を行っていた。し

かし、主治医より説明を受けた患者から「よく理解でき

なかった」、「説明が不十分であった」との相談が輸

血・細胞治療センターに寄せられた。主治医は不規則抗

体に関する説明が十分でないことが判り、専任技師が直

接患者へ説明して抗体保有を記載したカードを患者へ手

渡す運用に変更した。

【血液内科病棟への支援】

血液内科病棟には専任技師 8名が担当しており、月曜日

~金曜日の朝 9時から 17時の間に 1名が常駐している。

採血業務は 9時以降に採取依頼のある採血及び入院時採

血、検査室への検体搬送、病棟への輸血製剤搬送(定

時・緊急)、血漿分画製剤の搬送、血液培養採取の介助、

翌朝の採血管準備と患者への説明、血液保冷庫の温度管

理を実施している。

【まとめ】

手術部検査室の常駐に関しては、手術部内に専任技師が

常駐することにより、輸血製剤の管理体制が充実し輸血

療法の安全性が向上したと思われる。また、大量出血時

などは、直接医師や看護師との情報共有が迅速に行え、

円滑な血液準備に繋げることができた。また、輸血や検

査のことを検査室ではなく直接常駐している技師に問い

合わせることで円滑な業務が可能になると考え、専任技

師が手術部に常駐している事の認知度を向上させる必要

があった。今後は、手術部での輸血療法の安全性を向上

させるため新たな支援の必要性を検討している。

不規則抗体検出患者に対しての説明業務は、患者からの

「よく理解できなかった」という問い合わせが契機にな

っている。その背景には、必ずしも主治医が輸血の専門

家ではなく、主治医は専門家である専任技師に説明を託

したほうが良いと判断したことにある。専任技師が患者

と直接会話することで『患者の生の声』を聴くことがで

きるようになったが、説明時には想定外の質問をされる

こともあり、説明を行う難しさを実感した。一方、患者

は医師よりも技師のほうが気軽に質問しやすいと感じて

いるようであり、その環境は提供できていると考えてい

る。

血液内科病棟での支援業務は医師・看護師の業務負担軽

減および臨床検査技師の業務拡大をさらなる目標として

開始したが、看護師の業務負担軽減の部分ではアンケー

ト結果より看護師を含む病棟職員の 86%が負担軽減を実

感しており、軽減されたことで発生した時間は他の業務

に取り組むことができているとの回答を得た。専任技師

の業務拡大部分は、輸血関連の業務だけでは制限がある

ため常駐することは難しく、検査全般に関する業務対応

が必要であった。今後の病棟支援業務の拡大については

専任技師としての力量を活かし、輸血に関する医師,看護

師への勉強会の開催や病棟カンファレンスに参加予定で

あり、患者への輸血療法の効果や副作用説明については、

メリット・デメリットを含めて説明を開始していきたい

と考えている。

我々の試みは病棟・臨床現場での看護師・医師の業務負

担軽減や患者サービスの向上に寄与できると考える。      

連絡先:072-366-0221(内線 2191)

より安全・安心な輸血医療のための新たな取り組み

~活躍の場を広げよう~ 臨床支援への取り組みの現状

◎前田 岳宏 1)

近畿大学医学部附属病院 1)

S-35

Page 34: S-3...【はじめに】 新規開発された試薬や改良された試薬を院内導入する 際には、その性能を評価する必要がある。試薬の性能評 価は「試薬基礎検討」と言われ、各施設で使用している

【はじめに】

2004年に発生した新潟中越地震において車中泊者の肺

血栓塞栓症いわゆるエコノミークラス症候群例が報告さ

れて以来、災害関連疾患としての静脈血栓塞栓症に強い

関心が向けられるようになりました。それ以降、深部静

脈血栓症(以下、DVT)早期発見を目的とした下肢静脈

エコー検診が自然災害の被災地で展開され、近年では被

災者における DVTの高い検出率が学会等でも数多く報告

されています。

福井大学医学部附属病院 山村修医師を中心とした北陸

チームは、被災地の行政や医療機関の協力を得て被災地

外から支援活動を行ってきました。

東日本大震災後の 2012年 5月に初めて活動に参加する

機会を得て、2014年には広島土砂災害、2016年には熊本

地震の被災地を訪問させていただきました。北陸チーム

の取り組みを紹介し、経験を通して感じたこと学んだこ

とから災害医療における臨床検査技師の関わり方につい

て考えてみたいと思います。

【北陸チームの紹介】

当初は福井県の医師・臨床検査技師・診療放射線技師

で結成され、2007年の能登半島地震以降、様々な自然災

害の被災地で下肢静脈エコー検診を行ってきました。

2011年以降は福井県以外の石川県や富山県からも参加し、

医師、看護師、臨床検査技師、診療放射線技師、作業療

法士、医学生と多職種で活動しています。

【検診の流れ】

 医師が事前に、被災地の医師会、行政、医療機関、大

学等と活動地域や日程を調整し、連携を依頼します。当

日は避難所や仮設住宅団地の集会場などで行います。被

災者の方に DVT検出の重要性や検診の目的を説明し、以

下のような手順で進行します。年齢、性別、病歴、震災

当時の生活状況などの確認→血圧と酸素飽和度の測定

→超音波検査→医師による結果説明および必要に応じて

POCT装置で Dダイマー測定→弾性ストッキングの配布

と着用指導。なお、待ち時間には現地の大学生による体

操教室も行われていました。

【活動を通して見えてきたこと】

北陸チームのメンバーにより検診データを解析したと

ころ、以下の結果を得ました。①震災に限らず土砂災害

被災地でも被災者における DVTが高頻度で検出されるこ

と②DVT発生の危険因子は災害特有であり、発災からの

時間経過とともに変化する可能性があること③慢性の

DVTを温床として新鮮血栓を再発する場合があり、震災

直後だけではなく長期的に支援を行う必要があること

④避難生活は循環器疾患にも関与していること。検診は

実施してその日で終わりにするのではなく得られたデー

タから、今後の被災者支援につなげていくことが重要で

あると考えます。

【おわりに】

 2012年から検診チームに加わり支援活動を行ってきま

した。初めて参加した時にはすでに発足当初のメンバー

により検診方法がマニュアル化されていましたが、いざ

現地に行くとコンセントがなかったり備品忘れがあった

りと想定外のことが次々と起こりました。また、日光や

照明により超音波装置のモニターが見づらいなど病院と

は異なる環境での検査でとても苦労しました。時には検

査中に余震が起こることもありました。

検診で臨床検査技師は問診、血圧と酸素飽和度の測定、

超音波検査、採血、Dダイマー測定といった生理機能検査

や血液検査を主に担当します。しかし、感染症管理など

災害支援チームの一員として貢献できる場はまだまだあ

ります。他職種との連携をとりながら専門性を発揮して

いくことが今後ますます求められる中で、様々な分野の

臨床検査技師が災害医療に関わりチーム内での存在感を

発揮し、災害現場においても必要とされる存在になるこ

とを願います

連絡先:0776-54-5151(内線 2640)

災害医療における臨床検査技師の関わり方

~東日本大震災、熊本地震 DVT検診を経験して~

◎廣部 健 1)

福井県立病院 1)

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