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S3R: コンピュータ ロボットによる サーバ S3R: Automated Temperature Measurement in Small and Medium Sized Server Rooms by Using A Tiny Computer and Self-driving Robot , Syunji Yazaki, Hideaki Tsuchiya[email protected], [email protected] 大学  センター Information Technology Center, The University of Electro-Communications概要 コンピュータ Raspberry Pi ロボット iRobot Create いた サーバ システム S3R (Sentinel System for Server Rooms) について る. から,データセンター サーバ 多く する められている. コスト 多くを める ある.大 データセンター センサ シミュレーションによって し, している.移 ロボットによるホット/コールドスポット する ある.これら した ある大 データセン ターを対 した あり,より した サーバ い. サーバ を対 して, コンピュータ Raspberry Pi ロボット iRobot Create いて した システムを した. したシステムにより, されているサー った ころ, 駄に 2 されているこ きた.また, 多い 0.5 あるこ がわかった. キーワード , ロボット, コンピュータ, サーバ 1 はじめに に対する から,データセン ター サーバ ,多く する ,そ められている. され ている を安 させるため い.グリーン IT 2010 7 2011 1 2011 8 2012 1 った データセンター による データセンター すデファクトスタン ダード ある PUE (Power Usage Effectiveness) 1.81.9 あるこ されれている [1]これ によって される が, するこ を意 する. によって されている. わち,データセンター サーバ され - 114 - 学術情報処理研究 No.19 2015 pp.114-121

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S3R: 小型コンピュータと自動走行ロボットによる中小規模サーバ

室の自動温度測定S3R: Automated Temperature Measurement in Small and Medium

Sized Server Rooms by Using A Tiny Computer and Self-driving

Robot

矢崎 俊志 †, 土屋 英亮 †Syunji Yazaki†, Hideaki Tsuchiya†

[email protected], [email protected]

電気通信大学 情報基盤センター †Information Technology Center, The University of Electro-Communications†

概要

本論文では,小型コンピュータ Raspberry Piと自動走行ロボット iRobot Createを用いた中小規模

サーバ室向けの自動環境監視システム S3R (Sentinel System for Server Rooms) の自動温度測定機能

の開発について述べる.近年の電力や予算の削減要求から,データセンターやサーバ室など多くの機器

を設置する施設はその効率的な運用が強く求められている.特に施設の維持コストの多くを占める空調

の効率化は課題である.大規模データセンターでは,固定温度センサや気流シミュレーションによって

室内の環境を評価し,空調を最適化している.移動ロボットによるホット/コールドスポットなど,特

異的な環境変化を発見する試みもある.これらの手法は比較的整然とした環境である大規模データセン

ターを対象としたものであり,より雑然とした中小規模のサーバ室には適用できない.本研究では,中

小規模のサーバ室を対象として,小型コンピュータ Raspberry Piと自動走行ロボット iRobot Create

を用いて作成した自動環境監視システムを開発した.作成したシステムにより,実運用されているサー

バ室で温度測定行ったところ,部屋の一部が無駄に 2 ℃程度冷却されていることが発見できた.また,

放熱の多い機器周辺の温度上昇が約 0.5 ℃程度であることがわかった.

キーワード

自動温度測定, 自動走行ロボット, 小型コンピュータ, 中小規模サーバ室

1 はじめに

近年の電力や予算に対する削減要求から,データセン

ターやサーバ室など,多くの情報機器を設置する施設に

は,その効率的な運用が求められている.特に収容され

ている情報機器を安定稼働させるための施設維持に必要

な電力は無視できない.グリーン IT推進協議会が 2010

年 7 月~2011 年 1 月と 2011 年 8 月~2012 年 1 月に

行った国内外のデータセンター事業者への調査によると,

データセンターの電力使用効率を表すデファクトスタン

ダードな指標である PUE (Power Usage Effectiveness)

の平均は,1.8~1.9 であることが報告されれている [1].

これは,施設維持によって消費される電力が,情報機器

そのものの電力消費に匹敵することを意味する.設備維

持に必要な電力の大半は空調によって消費されている.

すなわち,データセンターやサーバ室の空調で消費され

- 114 -

学術情報処理研究 No.19 2015 pp.114-121

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る電力は,情報機器自体の電力消費と同等であるという

のが原状である.空調の電力効率を改善するため,既存

の空冷方式の改善のみならず,水冷や排熱利用 [2],液浸

[3]など,様々な施策がなされているが,これらの効果を

評価するためにも,室内環境をできるだけ連続的に観測

する手法の開発が求められている.

本研究では小型コンピュータ Raspberry Pi と自動走

行ロボット iRobot Createを用いたサーバ室環境自動監

視システム S3R (Sentinel System for Server Rooms)

を開発する.本論文では特に,S3R の自動温度測定機能

の実装について述べる.さらに S3Rのプロトタイプ実装

において,実際に運用されているサーバ室の温度を自動

測定した結果を示す.

2 大規模データセンターと中小規模サーバー室の電力効率化

本研究で開発している S3Rは,大学や中小企業または

それらの遠隔拠点で利用されるような中小規模サーバー

室を主な対象とする.大規模データセンターは,主に大

規模なクラウド基盤やスーパーコンピュータを収容する

ために設計される.よって,部屋や収納ラックの構造そ

のものが,設置される大量のサーバやネットワーク機器

の総合的な動作温度,電源容量,重量,サイズなどの仕

様に基づいて決定される.したがって,室内環境として

は比較的整然としている.一方,大学や中小企業などが

利用する中小規模のサーバー室では,そこで運用される

システムが予め決められていない場合が多い.後から部

屋やラック内に追加される様々な機器の不均質な仕様に

より,運用とともに雑然とした環境となる傾向にある.

近年の電力や予算の削減に対する要求から,大規模

データセンターだけでなく,中小規模のサーバ室におい

ても電力効率の良い運用が求められている.部局ごとに

消費電力を評価し,電力削減に務める活動を行っている

組織は多い.特に大量の情報機器を扱う部局は,電力の

主な消費元となるため,電力削減に対する要請が多い.

電力効率の改善に最も効果的なのは空調の最適化であ

る.前節で述べたとおり,施設維持に必要な電力の多く

は空調で消費されており,空調の最適化が電力効率の改

善には重要である.

空調の最適化を行うためには,室内環境の変化を連続

的に観測する必要がある.室内環境は一定ではなく,機

器の動作状況,人の入退室,空調の自動調節機能などに

より常に変化する.

大規模データセンターのように,整然とした室内環境

であれば,気流シミュレーションや固定センサによって

連続的な環境変化を精度よく自動評価することは可能で

ある.しかし,中小規模サーバ室のように,均一な環境

を長期間維持できない場合には,これらの手法による正

確な評価は難しい.

3 関連研究

データセンター内の温度や湿度などを連続的に計測

または評価するため,いくつかの方法が提案されてい

る.大阪大学のサイバーメディアセンターでは,CFD

(Computational Fluid Dynamics) シミュレーションに

よって設置位置を最適化した固定センサを用いて,温度

管理を効率化している [4].計算に時間がかかる CFDシ

ミュレーションによる室温評価を高速化する試みもなさ

れている [5].これらのシミュレーションは,大規模デー

タセンターのように,データセンター内で使用されてい

る機材の形状等が均一である場合には実測値に近いシ

ミュレーション結果を得ることができる [6] が,様々な

機材が混在する環境では,その誤差は大きくなることが

予想される.大阪大学ではさらに,固定センサと移動セ

ンサによる測定を組み合わせることで,固定センサでは

検出できないホットスポットを自動検出する仕組みを提

案している [7].

IBMは,温度センサ,湿度センサ,カメラを搭載した

自動ロボットを開発した [8, 9, 10].このシステムはデー

タセンターのタイルを認識することで,環境測定結果の

地図を自動作成することができる.このシステムを用い

て,実運用されているデータセンターで,ヒート/コー

ルドスポットを発見することに成功している.しかし,

このシステムはタイルを認識して動作するため,床が均

一ではない部屋には適用できない.

4 システム設計

本研究で提案する自動環境監視システム S3R の設計

と,温度測定機能の実装について述べる.

既存研究で開発されたシステムが,大規模データセン

ターでの運用を想定したものであるのに対して,S3Rは

中小規模サーバ室での利用を想定して設計されている.

中小規模サーバ室と大規模データセンターとの大きな違

いとして,機材や部屋の仕様が均一でない点,人の入退

室が多い点,複数のまったく異なるシステムの管理者に

よって共用されている点などが挙げられる.

中小規模サーバ室では,部屋の物理モデルが複雑にな

るため,既存研究で行っているような,部屋の CFD シ

ミュレーションによる固定センサ位置の最適化は難しい.

固定センサによる室温測定は,部屋全体を把握するため

に多くのセンサを室内に設置する必要があり,部屋の構

造によってはデータを収集する仕組みが大掛かりなもの

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図-1 S3R の構成.3 個の温度センサ (Temperature

sensors)と走行プラットフォーム (Mobile Platform),

およびこれらを制御する制御ユニット (Control unit)

で構成される.制御ユニットはデータの蓄積および無

線 LANによる外部 PCとの通信も同時に行う.

となる.中小規模のサーバ室は,複数の管理主体で共有

される場合が多く,機材の入れ替えが頻繁に行われるこ

とから,固定センサの維持には移設・撤去・新設などの

手間がかかる.

このような大規模データセンターと中小規模サーバ室

との環境の違いを考慮し,S3Rの開発においては,異な

る環境での異なる要求に柔軟に対応できるシステムの実

現を目標とする.このために,

O1 変更が難しい固定設備を用いない

O2 縮小・拡張が比較的容易な規格のソフト/ハード

ウェアを用いる

O3 低予算で導入可能な機材を用いる

を特徴としたシステム設計を行う.

サーバ室の温度管理を行うためには,連続した 3次元

の温度測定データが必要である.空調の効果は,部屋の

上部,中部,下部で異なるため,観測点は部屋の水平方

向だけでなく,垂直方向にも必要である.温度は同じ地

点であっても空調機器の自動温度調整機能や吹き出し方

向設定の影響で時間ごとに変化する.

以上を踏まえ,S3Rを図 1の様に構成する.S3Rは温

度センサ (Temperature sensors)と走行プラットフォー

ム (Mobile Platform),およびこれらを制御する制御ユ

ニット (Control unit)で構成される.温度センサは,部

屋の上部,中部,下部を測定するために 3個用いる.各

センサは測定対象となる部屋の状況に合わせてポールに

適切な高さで固定する.走行プラットフォームは,温度

センサおよび制御ユニットを運搬する.制御ユニットは

温度センサからの温度データおよび走行プラットフォー

ムからの走行状況データの取得と蓄積を行う.また,こ

表-1 S3Rを構成するハードウェア一覧.

Mobile platform iRobot Create (iRobot)

Control unit Raspberry Pi 2 B+

Temperature sensor DS18B20 (Maxim Integrated)

USB-Serial cable USR-03 (PCI)

WiFi dongle BUFFALO WLI-UC-GNM2

れらのデータに基づき自動走行アルゴリズムにしたがっ

た走行制御を行う.

制御ユニットは無線 LAN アクセスポイントとしても

動作する.外部 PC から無線 LAN 経由でログインし,

プログラムを実行することでシステムを制御する.測定

データは,同じく無線 LAN 経由で外部ストレージにコ

ピーすることができる.制御ユニットと温度センサを接

続するバスには 1-Wire® を用いる.制御ユニットはシ

リアル通信により走行プラットフォームを制御する.

表 1に S3Rで使用したハードウェア機器をまとめる.

走行プラットフォームとして,既存研究と同様に iRobot

社の iRobot Create (以下,Create),制御ユニットとして

小型 PCの Raspberry Pi 2 B+(以下,Raspberry Pi),

温度センサとして Maxim Integrated 社の DS18B20 を

用いる.制御ユニットと走行プラットフォームを接続

する USB-Serial 変換ケーブルとして,PCI 社の USR-

03 を用いる.WiFi ドングルとして,BUFFALO 社の

WLI-UC-GNM2を用いる.

Create は,iRobot 社が一般に販売している研究・開

発用の走行プラットフォームである.同じく市販されて

いる自動掃除ロボット Roomba から掃除機能を取り除

き,シリアルポート,バッテリー出力,モーター制御用

の端子を追加したものである.OI (Open Interface) と

呼ばれる制御コマンドをシリアル通信により Create に

送信することで,その動作を制御することができる.ま

た,Create が持つ各種センサの値を,シリアル通信を通

じて取り出すこともできる.

Raspberry Pi は教育向けに開発された小型 PC であ

る.OS としてカスタマイズされた専用の Linux を用い

るが,デスクトップまたはサーバ向けの Linuxとほぼ同

等の機能を持つ.既存研究では,制御ユニット相当とし

てラップトップ PCを用いているが,本研究ではより安

価で消費電力の少ない Raspberry Piを用いる.

S3R を構成するソフトウエア仕様を表 2 にまとめる.

制御ユニットの OS として,Raspbian 7 を用いる.ま

た,データ収集と走行プラットフォームの制御プログラ

ムはシェルスクリプトおよび Python 3.4 で作成した.

シリアル通信ライブラリとして,pySerial 2.5を用いた.

- 116 -

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表-2 S3Rを構成するソフトウエアの一覧.

Control unit OS Raspbian 7 (wheezy)

Programming language Python 3.4 and shell

Serial communication library pySerial 2.5

図-2 S3R のプロトタイプ実装.走行プラットフォー

ム上に制御ユニットが設置されている.制御ユニット

と走行プラットフォームはシリアルケーブル(白)で接

続されている.走行プラットフォームの左側にはポー

ルが設置され,その先には温度センサが固定されてい

る(写真外).

図 2にプロトタイプ実装した S3Rの写真を示す.図で

は,走行プラットフォーム上に制御ユニットが設置され,

iRobot Create 専用のシリアルケーブル(白)で走行プ

ラットフォームに接続されている.走行プラットフォー

ムの左側にはポールが設置され,ポールの先には温度セ

ンサが固定されている.

5 自動走行

5.1 測定とコース設定方法

自動走行による測定においては,1) 予め決められた

コース上での測定と,2) 走査またはランダム走行による

網羅的な測定が考えられる.文献 [8, 9, 10]では,小単位

に区切られたグリッドを順次巡回することで,走査型の

測定を実現している.本研究では,1) のコース設定に基

づく測定を行う.本研究で提案する S3Rは,前述のよう

に,比較的雑然とした中小規模サーバ室での運用を想定

している.中小規模のサーバ室は,様々な団体により共

用されることが多いため,機材の新設や入れ替えが頻繁

に起こる.このため,走査型の測定では,予期せず測定

不能な領域が増加することになり,これと異変とを区別

することが難しい.一方で,コース設定型の測定は設定

されたコースさえ確保できれば,測定を継続できる.た

だし,走査型の測定が部屋の隅々まで測定できるのに対

して,コース設定型の測定は部屋の一部しか測定できず,

その他の領域は得られた測定データに基づいて類推する

必要がある.大規模データセンターなどの整えられた環

境においては,室内環境全体を精度よく把握し,より良

い最適化を行うために走査型測定が必要である.本研究

が対象とする中小規模のサーバ室では,そもそも室内環

境が均一ではないため,コース設定型の測定により,大

まかな異常や無駄を発見することを主な目的とする.

コース指示においては,走行プラットフォームが検知

可能な「印」が必要となる.走行プラットフォームである

Createは,様々なセンサを搭載している.中でも,コー

スの認識には赤外線センサまたは色センサが利用でき

る.本研究では,色センサを用いる.赤外線センサによ

るコース指示の例としては,赤外線によって走行プラッ

トフォームを経由地点へ誘導する方法が考えられる.色

センサでは,ライントレースによるコース指示が考えら

れる.赤外線誘導では,経由地点に装置を設置すれば良

いため,コース設置の手間が少ない.しかし,誘導装置の

作成が必要である.また,赤外線により設置されたコー

スは人間では発見しにくいため,コースを遮断する障害

物などを不意に置かれてしまう可能性がある.ライント

レースでは,コースにラインを敷設する必要があるが,

コースであることが誰の目からも明らかであるため,測

定を妨害される可能性を減らすことができる.

5.2 iRobot Createによるライントレース

前節で述べたように,Createは色センサを搭載してい

る.Createは自動走行時に段差検出を行う崖センサとし

て,赤外線 LED とフォトトランジスタからなるフォト

リフレクタを用いている.フォトリフレクタは,色セン

サとしても利用することができる.また,フォトリフレ

クタは赤外線 LED が発した光の反射にフォトトランジ

スタが反応するという仕組みであるため,室内が暗い場

合でも動作する.

ライントレースを実現するにあたり,コースとなる

黒線には,つや消しを施した布テープを用いた.黒いビ

ニールテープ等でも単純なライントレースは実現可能で

あるが,テープ表面で光が反射することにより,センサ

の値が不安定になる.

ライントレースにおける制御方法としては様々なもの

があるが,今回は,単純な On/Off 制御を用いた.PID

(Proportional-Integral-Derivative)制御など,より精度

の高い他の方式を用いることも可能である.しかし,正

確な制御には,適切な制御パラメータの設定が前提にな

る.本研究が想定するサーバ室では,床の色や照明など

の室内環境が均一ではい.このため,ライントレースに

必要な制御パラメータの調整が難しい.よって,今回は,

制御パラメータ数が少ない単純な制御を用いた.

- 117 -

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6 温度センサ

温度センサには 1-Wire 対応の温度センサを用いた.

1-Wireは 1本の信号線で各種センサを複数個接続するこ

とができるバス規格である [11].低速ではあるが,配線が

簡単で長距離の伝送が可能であることから,安価なデバ

イスの接続に利用されている.センサを接続した 1-Wire

ネットワークを MicroLan と呼び,1 個の MicroLan に

は 1個のマスターが接続される.S3R では,制御ユニッ

トとして用いている Raspberry Piがマスタとなる.

温度センサはMaxim Integrated社のDS18B20[12]を

用いた.この温度センサを 3 個並列接続して MicroLan

を構成し,MicroLan を Raspberry Pi の GPIO に接続

している.

Raspberry Pi で,1-Wire に接続された温度センサか

ら情報を取得するためには,制御ユニットの OSのカー

ネルに w1-gpio及び w1-thermモジュールをロードする

必要がある.これらのカーネルモジュールの機能により,

OS からは,温度情報をテキストファイルとして読み出

すことが可能となる [13].定期的に 3個の温度センサよ

り温度情報を読み出し,制御ユニットの OSの時刻と合

わせて記録することで,サーバ室内の三次元的な温度測

定を行う.S3Rにおいては,約 3秒に 1回の頻度で温度

を収集する.

本論文では温度センサのみを用いているが,サーバ室

の環境によっては既存研究などにみられるように,湿度

等,他の環境値の測定が必要となる場合がある.本研究

で採用した 1-Wire は上述のように簡単な配線でセンサ

を接続することができるため,1-Wireに対応したセンサ

であれば比較的容易に追加可能である.測定データの取

得についても,上記のようにファイルシステム上に配置

されたテキストファイル経由で行う.このように,S3R

ではサーバ室の状況に応じて湿度など,他のデータを観

測できるようにするための変更も容易である.

7 温度測定実験

7.1 サーバ室の構成

作成したシステムにより,電気通信大学で実運用され

ているサーバ室の温度測定を行った.部屋のレイアウト

を図 3に示す.ライントレースにおいては,回転の方向

が反転すると制御が難しくなるため,巡回コースは大き

く「の」の字を書くように設定した.コースを示すテープ

の敷設においては,特別な道具を用いずにタイルの幅を

参考に人手によっておおまかにコースを決定した.設置

後にコースを採寸したところ,巡回ルートの全長は 34.14

m であった.

図-3 温度測定をしたサーバ室のレイアウトと走行

コース.コースの全長は 34.14 m であった.

図-4 測定時の温度センサの設置位置.

次に温度センサの設置位置を設定した.対象となる

サーバ室の天井の高さは約 2.8 mであった.そこで,図

4に示すように,天井と床からそれぞれ 40 cm離れた場

所にそれぞれ 1個ずつと,その中間に 1個の温度センサ

を固定した.測定対象となる部屋の空調は天井に設置さ

れており,部屋全体での気流制御は行われていない.

温度測定の様子を図 5に示す.図で示すように,サー

バ室内に機器用に隔離された空間はなく,設定作業を行

うスペースも兼ねている.また,床についても,図 6(a)

に示すように,床板の導入時期により微妙に色が異なる.

実験前の動作確認においては,図 6(b)に示すような,全

く性質の異なる灰色のタイルカーペット上でもコースを

トレースできることを確認している.さらに,夜間に完

全消灯したサーバ室においても,図 6(a)のコースを正し

くトレースできることも確認している.以上より,本方

式は床の状態や室内の環境がまったく異なる場合におい

ても正しく動作することが確認できた.

7.2 測定実験

設定した巡回コースにおいて,連続して行った測定の

うち,連続する 8 個の測定結果を図 7 に示す.実験を

- 118 -

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(a) 不均質なタイル上に設置されたコース (b) タイルカーペット上に設置されたコース

図-6 黒テープによって設定された走行コースの一部.

図-5 S3Rによる温度測定の様子.

行ったサーバ室が収容されている建物の屋上に設置され

た簡易気象観測装置(ダイワシステム社WS-3600)の記

録から,測定を行った 13:00から 17:00における外気温

の平均は 25.9 ℃ であった.全ての図は横軸が経過時間

を秒 [s] で,縦軸は温度を摂氏 [℃]で表している.経過

時間は,制御ユニットの OS が記録する時刻に基づく.

各図に書かれた 3本のグラフは,上から上部,中部,下

部に設置された温度センサの値を示す.

全ての測定において,開始位置と終了位置は人手によ

り調整した.また,測定開始および終了の制御も人手に

より行った.巡回コースを 1周するためにかかる周回時

間は約 235 s であった.周回時間のずれは,8 回の測定

において,±1 s以内であった.コースの全長が 34.14 m

であることから,周回時間を 235 sとした場合の S3Rの

移動の速さは平均 14.5 cm/s である.温度測定データの

取得はほぼ 3 sごとに行われるため,約 43.5 cmごとに

温度データを取得していることになる.

図 7のグラフ全体をみると,測定タイミングによって

逆転する場合はあるものの,下部のセンサほど低い温度

を示す傾向がある.これは,通常の空調効果の性質と一

致する.

図 7(g)と図 7(h)を見ると,100 s付近すなわちスター

トから 14.5 m 付近で温度が 2.0 ℃ 近く低下しており,

その後,徐々に上昇している.図 3 に示す様に,地点 a

がスタートから 14.13 m であることから,地点 a 付近

において,時刻によってはコールドスポットが発生する

ことがわかった.地点 a付近の天井には,空調の吹き出

し口があり,この空調が作動しているタイミングでは付

近の温度が急激に下がる.しかし,測定全体で室温は 26

℃以下に抑えられており,このような冷却を行わなくて

も室温の維持に支障はないことから,この地点の空調は,

電力効率最適化の対象であると言える.

既存研究のように固定センサでこのようなコールドス

ポットを観測するためには,事前のシミュレーションや

予備測定に基づく設置位置の調整が必要になる.S3Rの

ように容易にコースを設定できる移動センサであれば,

このような調整も容易である.また,移動センサによる

タイルに沿った網羅的な計測でもこのようなコールドス

ポットを発見することは可能であるが.このような特定

のデータセンターを対象としたシステムを本実験を行っ

たようなサーバ室にそのまま適用することは難しい.

次に,図 7の全体をみると,190 s付近で温度が約 0.5

℃上昇している.ここは,スタートから 27.55 m付近で

ある.この地点を図 3に地点 bとして示す.この地点周

辺のサーバラックには,ファイルサーバや IPS (Intrusion

Protection System)など,多くの電力を消費するアプラ

イアンスが集中して設置されている.これらの機器の排

熱により,付近の温度が上昇していることがわかった.

以上のように,本研究で作成した S3R により行われ

た自動温度測定により,空調の最適化の余地が明らかに

- 119 -

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22 22.5

23 23.5

24 24.5

25 25.5

26 26.5

27

0 50 100 150 200

Tem

per

atu

re [

°C]

Elapsed time [s]

Upper sensorMiddle sensorLower sensor

(a) Run 1

22 22.5

23 23.5

24 24.5

25 25.5

26 26.5

27

0 50 100 150 200

Tem

per

atu

re [

°C]

Elapsed time [s]

Upper sensorMiddle sensorLower sensor

(b) Run 2

22 22.5

23 23.5

24 24.5

25 25.5

26 26.5

27

0 50 100 150 200

Tem

per

ature

[°C

]

Elapsed time [s]

Upper sensorMiddle sensorLower sensor

(c) Run 3

22 22.5

23 23.5

24 24.5

25 25.5

26 26.5

27

0 50 100 150 200

Tem

per

ature

[°C

]Elapsed time [s]

Upper sensorMiddle sensorLower sensor

(d) Run 4

22 22.5

23 23.5

24 24.5

25 25.5

26 26.5

27

0 50 100 150 200

Tem

per

atu

re [

°C]

Elapsed time [s]

Upper sensorMiddle sensorLower sensor

(e) Run 5

22 22.5

23 23.5

24 24.5

25 25.5

26 26.5

27

0 50 100 150 200

Tem

per

atu

re [

°C]

Elapsed time [s]

Upper sensorMiddle sensorLower sensor

(f) Run 6

22 22.5

23 23.5

24 24.5

25 25.5

26 26.5

27

0 50 100 150 200

Tem

per

atu

re [

°C]

Elapsed time [s]

Upper sensorMiddle sensorLower sensor

(g) Run 7

22 22.5

23 23.5

24 24.5

25 25.5

26 26.5

27

0 50 100 150 200

Tem

per

atu

re [

°C]

Elapsed time [s]

Upper sensorMiddle sensorLower sensor

(h) Run 8

図-7 S3Rによる温度自動測定結果.横軸は経過時間 [s],縦軸は温度 [℃]をそれぞれ表す.平均外気温は 25.9 ℃度であった.

なった.また,消費電力の多い機器付近では,温度が上

昇することはかねてから予想されていたが,その上昇幅

が約 0.5 ℃であることがわかった.

8 終わりに

本論文ではサーバ室内の自動環境監視システム S3R

の開発について述べた.S3Rは,サーバ室内環境を自動

的に測定することにより,中小規模サーバ室の運用の効

率化や異常の早期発見を実現する.本稿では,特に S3R

の温度測定機能の開発についてその詳細を述べた.

S3R では小型コンピュータ Raspberry Pi と走行プ

ラットフォーム iRobot Createを用いて自動走行ロボッ

トを実現している.その上に設置された温度センサを用

いて,部屋の上部,中部,下部の 3点の温度を測定し,室

内の温度環境を 3次元的に観測する.

本稿では,S3Rのプロトタイプ実装を示し,実際に運

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Page 8: S3R: 小型コンピュータと自動走行ロボットによる中 …nipc2015.auecc.aichi-edu.ac.jp/contents/pdf/a114.pdf小規模のサーバ室を対象として,小型コンピュータRaspberry

用されているサーバ室内の温度測定実験を行った.自動

走行制御にはライントレースを用いた.実験では,サー

バ室を周回するように設定された 1周 34.14 mのコース

を,235 sかけて測定した.この測定を継続して行い,途

中の連続した 8周分の測定データを用いて,空調最適化

の可能性を確認した.

実験の結果,空調により部屋の一部が無駄に 2 ℃程度

冷却されていることを発見した.また,放熱の多い機器

周辺の温度上昇が約 0.5 ℃程度であることがわかった.

今後の課題として,固定センサによる温度測定方式と

の精度に関する定量的な比較,中長期的な測定結果に基

づく,S3Rによる省エネルギー効果の評価,自動走行の

改善,位置情報の取得,温度以外の環境情報測定が挙げ

られる.

謝辞

自動走行の実現に有益な助言をいただいた東洋大学

の横田祥准教授,自動走行機構の作成にご尽力いただ

いた電気通信大学情報基盤センターの才木良治氏およ

び岡野豊氏,測定環境の整備にご尽力いただいた同セン

ターの大西邦弘氏,本論文の質の向上に大きく寄与して

いただいた査読者の方々に深く謝意を表す.本研究の一

部は,日本学術振興会の科学研究費補助金基盤研究 (C)

24700046の助成により行われたものである.

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