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sekaisi17 02 p03 05 - 帝国書院...世界史のしおり 2017② 5 どのような質問が生徒から出るだろうか。 の フランス革命とイラン=イスラーム革命における

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4│世界史のしおり 2017②•••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••

プ分けについての事前アンケート」をとってグループのバランスを調整している(注2)。

⑷新グループで必ずアイスブレイクを行う。グループワークが苦手な生徒の緊張をほぐして協働学習を円滑に進めるためである。⑸生徒はパソコンと文献を用いて調べながら,テーマ2つと「問い」を決める。同時にプレゼンのための役割を決める。役割はリーダー(全体を統括),サブリーダー,レジュメ責任者,スライド責任者を設定したい。役割設定には,フリーライダー現象を発生させず,一人ひとりの学びが深まるようにする教育的配慮がある。レジュメはB4一枚にまとめるように,スライドはレジュメのなかから強調したい点を中心にまとめるように,写真や絵などの視覚的効果を十分に活用するように指示する。宿題として,できる限り調べてくることを指示する。もしこの時間内に役割まで決まらない場合は宿題とし,次の時間の前日までに教員に提出する。教員は事前に各グループのテーマと「問い」の関係性を吟味し,プレゼンにふさわしいかどうか,「問い」は成り立つのかどうか,などアドバイスすべき要点をプリントして用意しておく。

⃝2時間目:図書館で調べ学習②⑴まず各自調べてきたことを,ラウンドロビン(意見を共有する方法:2017年度1学期号の注を参照)で共有して授業を始める。⑵教員のアドバイスを各リーダー担当に配布し,生徒はグループで共有,検討する。⑶パソコンと参考文献を用いてプレゼン用のスライドとレジュメを作成していく。⑷教員は適宜グループを回り,レジュメとスライドを確認してアドバイスを与える。このさい,細部まで教えすぎず,生徒が検討できる余地を残しておくことが重要である。⑸プレゼン日の前日の放課後までに,完成したレジュメとスライドを提出する。提出後は,本番に向けてのリハーサルを入念に行う。また事前にプレゼンはすべてのメンバーで行うよう伝えておく(苦手な生徒も前に立って少しは説明し

なければならない)。さて,生徒はどんな2テーマを選択し,どんな「問い」を立てるだろうか。例えば,以下のようであろうか。❶フランス革命とイラン=イスラーム革命において,宗教指導者の役割はどのようなものだったか?❷辛亥革命における孫文とロシア革命におけるレーニンの比較─指導者とは?❸人々は何を主張したのか?─諸国民の春と東欧革命─❹フランス革命とロシア革命におけるジェンダー…グージュを手がかりに(注3)。

 そのほか,7つのテーマにはないが,明治維新と「アラブの春」を比較する視点も斬新でおもしろいだろう。

⃝3・4時間目:プレゼン①A▶B⑴まず前半の3グループが行う(プレゼンは10分)。⑵質疑応答(5分)では,なるべく本質的な質問で,全体で共有する価値のある質問を行うようにうながす。緊張感のあるやり取りを期待したい。⑶最後に聴衆役の生徒は,各プレゼンの評価,質問,コメント(よかった点,改善すべき点)をシートに書き込んで提出する。4時間目も同様の工程である。評価項目は,少なくとも内容,構成,話し方,わかりやすさ,資料の質(スライド・レジュメ)の5項目を評価したい(各5段階評価)。教員も各プレゼンを評価する。授業後,聴衆役の生徒からの質問とコメントを各リーダー担当に渡す。グループで共有・検討して,回答のスライドのみを前日の放課後までに提出するように(スライドをレジュメのかわりに印刷・配布する),またコメントを共有・検討して,次回のプレゼンに役立てるように指示する。

『明解 世界史A』p.105 「1789年人権宣言の限界を見抜いていたグージュ」

写真:PPS通信社

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世界史のしおり 2017②│5•••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••

どのような質問が生徒から出るだろうか。❶のフランス革命とイラン=イスラーム革命における宗教指導者の比較では,その役割の相違がきわだつだろう。しかし生徒にとってイスラーム革命を理解するのは難しいため,なぜ多くのイランの人々がホメイニら宗教指導者の呼びかけに呼応したのか,質問が続出するのではないか。また,❷の辛亥革命における孫文とロシア革命におけるレーニンの比較では,「革命いまだならず」の孫文と革命をなしたレーニンの決定的な違いは何だったのか,❹の革命とジェンダーをグージュの視点からみるテーマでは,なぜ『女性および女性市民の権利宣言』を書いたグージュは処刑されたのか,などと質問されるのではないか。

⃝5時間目:プレゼン②⑴回答のプレゼン(6分),交代時間(2分)で6グループすべて行う(合計46分)。できれば質疑応答の時間を取りたいところである。⑵1回目のプレゼン同様に,聴衆である生徒は評価を行う。⑶最後に,個人レポート(2000字程度)を作成する。自分のグループが行ったプレゼンについて,自らの考察を十分に書き込んで提出する。

この試案は,私が現任校において「現代社会研究」という総合学習でプレゼンや教育ディベートを担当した経験をもとに,米山氏のすぐれた実践を組み合わせて提示したものである。プレゼンを1回で終わらせず,生徒の質問に回答する形で2回目のプレゼンを行うことによって,生徒の学びはより「深い学び」へと導かれていく。この試案では,文献やホームページなどを調べて批判的に読み込む力,問いを立てる力,学友と協働してまとめる力,わかりやすく発表する力などを身につけることができる。高校卒業後も人生のさまざまな場面において,このような力をぜひ生かしてほしい。プレゼンなどが苦手な生徒にはたいへんきびしい授業であることは確かだが,授業デザインをくふうし,一人ひとりの学びを援助してその苦

一人ひとりの学びのために

手意識を克服できるように,よりよく学べるように生徒とともにのりこえていきたい。

(注1)中央教育審議会「答申」(2016,別紙1)では,「歴史的な見方・考え方」として「時期,推移などに着目して捉え,類似や差異などを明確にしたり,事象同士を因果関係などで関連付けたりすること」を指摘している。本試案の問いは,これを実践したのものである。

(注2)私が調整しているのは,グループ学習が苦手か得意か,この学習期間にグループ学習の課題にあてる家庭学習の時間が十分にとれるかどうか,の2点である。これでグループ学習が苦手だと自分自身で思う生徒ばかりのグループ,部活動の大会等で家庭学習の時間がなかなかとれない生徒ばかりのグループ,という事態におちいることを避けることができる。プレゼン(パフォーマンス)に評価をつけるので,グループ間の差をなるべく少なくしようというこのような教育的配慮は,生徒にもある程度支持されよう。

(注3)今年度から私は世界史A・Bの授業で「ジェンダーの視点から」という問いを単元ごとに設定している。三成美保・姫岡とし子・小浜正子編『歴史を読み替える ジェンダーから見た世界史』(大月書店,2014年)を参考にしている。

【参考文献】・溝上慎一監修,安永悟・関田一彦・水野正朗編『アクティブラーニングの技法・授業デザイン アクティブラーニングが未来をつくる』(東信堂,2016年)・米山宏史『未来を切り拓く世界史教育の探求』(花伝社,2016年)p.29〜41・南塚信吾責任編集『歴史学辞典4 民衆と変革』(弘文堂,1996年)・後藤芳文,伊藤史織,登本洋子『学びの技 14歳からの探究・論文・プレゼンテーション』(玉川大学出版部,2014年)

『明解 世界史A』p.115「⑤ソヴィエト(評議会)で演説するレーニン」

写真:PPS通信社