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M2 Survey 平成 31 6 3 太陽光電力による電気自動車への充電 Survey on Charging Solar Power to EVs Hori-Fujimoto Lab Department of Advanced Energy M2 47-186082 縄田 晴子 1 序論 近年,資源枯渇・地球温暖化問題への対策として再 生可能エネルギーが注目を浴びている. 再生可能エネルギーとは,太陽光や風力,水力,地 熱,バイオマスなど自然から作られているエネルギー のことである.これらのエネルギーは,原子力や石 油・石炭などの化石燃料を資源とした限りあるエネ ルギーに対し,枯渇せずに繰り返し永続的に利用可能 なことから再生可能エネルギーと呼ばれている [1]また,地球温暖化問題はいま地球規模で大きな課 題となっている.地球温暖化の主な原因として広く 知られているのが温室効果ガスであるが,その中で も石油や石炭などの化石燃料の燃焼によって排出さ れる二酸化炭素が地球温暖化に大きく影響を及ぼし ていると言われている.石油・石炭などの化石燃料 による火力発電から,再生可能エネルギー発電に切 り替えていくことで地球温暖化に影響を及ぼす二酸 化炭素の削減に大きな効果が期待できる. しかし,課題として,太陽光や風力といった一部の 再生可能エネルギーは発電量が季節や天候に左右さ れるといったものがある.そのため,電力システム 全体の改革によって,より柔軟で効率的な調整力の 確保を進めていく必要がある. そこで,今回は,再生可能エネルギーの利用技術の 中でも,太陽光電力による電気自動車への充電につ いての論文 [2] を紹介する.この論文では,太陽光発 電の不足・過剰発生時に,電力をインポート・エクス ポートするために,電気自動車充電ステーションの 蓄電池への代替接続が行われる.第二章では,太陽 光充電ステーションの設計,操作,制御について説明 する.第三章でシミュレーションを行い,最後に第 四章でまとめとする. 2 太陽光充電ステーションの設計,操作お よび制御 EV 用の電力が太陽光,風力などの再生可能エネ ルギーから発電される場合,これらの電気自動車は GHG 排出量およびエネルギーコストの観点から非常 に有益である [3].今回は,職場に太陽光充電ステー ションが存在する場合を考える.職場では,充電さ れるピークの時間は午前 10 時から午後 5 時までの日 中である.したがって,適切なバッテリストレージ システムを備えた太陽光充電ステーションは,より 経済的になる [4].まず以下のように仮定する. 1. 電気自動車は約 7 時間駐車されている 2. 主な供給源として太陽光発電を備えた充電ス テーションおよび追加のステーション蓄電池が ある 3. すべての車両のバッテリーは 48V 20AhHero Electric Cruz[5] 4. コンバータ効率 92 [6] 5. 充電ステーションでは一度に 2 つの EV バッテ リーを充電することができる よって,太陽電池パネルは以下のように決定する. EV に必要な最大電力= 48 × 20 × 2 = 1920Wh 必要な総入力電力= 1920Wh/0.92 × 0.92 = 2270Wh 世界平均水平日射量= 5.86 kWh / m 2 / day[7] システムの所要電力= 2.27kWh / 5.86 = 388W そのため,定格 250W のソーラーパネルを並行して 使用する. システムブロック図を図.1 に示す.このシステム は,電気自動車に必要な電力需要を供給し,余剰・不 足電力がステーションのバッテリーにフィードバッ クされる,またはステーションのバッテリーから引 き出されるようになっている.太陽光発電は,太陽 1

Survey on Charging Solar Power to EVsM2 Survey 平成31 年6 月3 日 太陽光電力による電気自動車への充電 Survey on Charging Solar Power to EVs Hori-Fujimoto Lab Department

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Page 1: Survey on Charging Solar Power to EVsM2 Survey 平成31 年6 月3 日 太陽光電力による電気自動車への充電 Survey on Charging Solar Power to EVs Hori-Fujimoto Lab Department

M2 Survey 平成 31年 6月 3日

太陽光電力による電気自動車への充電

Survey on Charging Solar Power to EVsHori-Fujimoto Lab

Department of Advanced Energy M2 47-186082縄田 晴子

1 序論

近年,資源枯渇・地球温暖化問題への対策として再

生可能エネルギーが注目を浴びている.

再生可能エネルギーとは,太陽光や風力,水力,地

熱,バイオマスなど自然から作られているエネルギー

のことである.これらのエネルギーは,原子力や石

油・石炭などの化石燃料を資源とした限りあるエネ

ルギーに対し,枯渇せずに繰り返し永続的に利用可能

なことから再生可能エネルギーと呼ばれている [1].

また,地球温暖化問題はいま地球規模で大きな課

題となっている.地球温暖化の主な原因として広く

知られているのが温室効果ガスであるが,その中で

も石油や石炭などの化石燃料の燃焼によって排出さ

れる二酸化炭素が地球温暖化に大きく影響を及ぼし

ていると言われている.石油・石炭などの化石燃料

による火力発電から,再生可能エネルギー発電に切

り替えていくことで地球温暖化に影響を及ぼす二酸

化炭素の削減に大きな効果が期待できる.

しかし,課題として,太陽光や風力といった一部の

再生可能エネルギーは発電量が季節や天候に左右さ

れるといったものがある.そのため,電力システム

全体の改革によって,より柔軟で効率的な調整力の

確保を進めていく必要がある.

そこで,今回は,再生可能エネルギーの利用技術の

中でも,太陽光電力による電気自動車への充電につ

いての論文 [2]を紹介する.この論文では,太陽光発

電の不足・過剰発生時に,電力をインポート・エクス

ポートするために,電気自動車充電ステーションの

蓄電池への代替接続が行われる.第二章では,太陽

光充電ステーションの設計,操作,制御について説明

する.第三章でシミュレーションを行い,最後に第

四章でまとめとする.

2 太陽光充電ステーションの設計,操作および制御

EV 用の電力が太陽光,風力などの再生可能エネ

ルギーから発電される場合,これらの電気自動車は

GHG排出量およびエネルギーコストの観点から非常

に有益である [3].今回は,職場に太陽光充電ステー

ションが存在する場合を考える.職場では,充電さ

れるピークの時間は午前 10時から午後 5時までの日

中である.したがって,適切なバッテリストレージ

システムを備えた太陽光充電ステーションは,より

経済的になる [4].まず以下のように仮定する.

1. 電気自動車は約 7時間駐車されている

2. 主な供給源として太陽光発電を備えた充電ス

テーションおよび追加のステーション蓄電池が

ある

3. すべての車両のバッテリーは 48V 20Ah(Hero

Electric Cruz)[5]

4. コンバータ効率 92% [6]

5. 充電ステーションでは一度に 2 つの EV バッテ

リーを充電することができる

よって,太陽電池パネルは以下のように決定する.

EVに必要な最大電力= 48 × 20 × 2 = 1920Wh

必要な総入力電力= 1920Wh/0.92 × 0.92 = 2270Wh

世界平均水平日射量= 5.86 kWh / m2 / day[7]

システムの所要電力= 2.27kWh / 5.86 = 388W

そのため,定格 250W のソーラーパネルを並行して

使用する.

システムブロック図を図. 1に示す.このシステム

は,電気自動車に必要な電力需要を供給し,余剰・不

足電力がステーションのバッテリーにフィードバッ

クされる,またはステーションのバッテリーから引

き出されるようになっている.太陽光発電は,太陽

1

Page 2: Survey on Charging Solar Power to EVsM2 Survey 平成31 年6 月3 日 太陽光電力による電気自動車への充電 Survey on Charging Solar Power to EVs Hori-Fujimoto Lab Department

図 1 System Block diagram[2]

図 2 Methodology Flowchart[2]

光から最大電力を得られる場合が最も効率的となる.

したがって,本研究では,山登り法による最大電力点

追従に基づいて動作するブーストコンバータが選択

されている.太陽光発電は断続的であるため,太陽

光発電が負荷需要を超えると,余分なエネルギーが

コンバータを介してステーションのバッテリーに供

給される.負荷需要が太陽光発電を超える瞬間には,

電力需要の不足分がコンバータを介してステーショ

ンのバッテリーから供給される.方法論は,図. 2の

フローチャートとして表される.

システムは 7 時間で 2 台の電気自動車を充電する

ように設計されている.車両のSOCからバッテリ

を充電するために必要とされる電力が計算され,7

時間でバッテリを充電するために必要とされる所望

の充電電流が推定される.閉ループバックコンバー

タは一日を通して一定の電流を供給する.蓄電池か

らのコンバータは,実際の EV 充電電流を目的の充

図 3 Solar power fed boost converter[2]

表 1 Solar Power Generation At Different Irradiances[2]

電電流と等しくするために電流を供給するように設

計されている.

3 シミュレーション結果

以下の条件下で MATLAB/Simulink でシミュレー

ションを行った.

Case.1太陽光発電が負荷需要を上回っている場合

Case.2太陽光発電がちょうど負荷需要を満たしてい

るとき

Case.3太陽光発電が負荷需要を下回っている場合

上記の 3 つのケースを明確に区別するために,シ

ミュレーションでは 1つの 250Wソーラーパネルの

みを使用している.ソーラーパネルはブーストコン

バーターを通して供給される. 回路図を図. 3 に示

す.異なる放射照度における太陽光発電を,以下の

表 1に示す.

EV 充電用回路を図. 4 に示す.車両は 7 時間充電

ステーションにあり,各バッテリー容量は 48V 20Ah

である.コントローラは,7時間で車両を充電する

ためにその初期充電状態に基づいて車両バッテリが

充電されるべき必要な電流を計算し,PIDコントロー

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図 4 EV Battery charging circuit[2]

表 2 EV ChargerSimulation Results At 1000W/m2 Irradiance[2]

図 5 Station Storage Battery circuit[2]

ラーによって実際の充電電流と必要な充電電流との

差を無くす.降圧コンバータの IGBT のゲート信号

のデューティ比はこの誤差電流に依存する.シミュ

レーション結果を表 2に示す.

蓄電池は充電ステーションに備え付けられている.

その回路図を図. 5 に示す.ブーストコンバータは,

負荷需要が太陽光発電を超えると動作し,バックコ

ンバータは,太陽光発電が負荷需要に比べて過剰に

なったときに動作する.車両の電力需要は,最初の

SOCと,車両が充電ステーションに存在している時

間によって計算される.コントローラは,需給電力

差に基づいて電力ステーションのバッテリーを充電/

放電するために昇降圧コンバータを起動する.3つ

の場合の結果を表 3,表 4および表 5に示す.以上

表 3 Case 1 : Solar Power Generation ¿ Ev LoadDemand[2]

表 4 Case 2 : Solar Power Generation = Ev LoadDemand[2]

表 5 Case 3 : Solar Power Generation ¡ Ev LoadDemand[2]

より,太陽光発電の不足・過剰発生時に電力をイン

ポート・エクスポートするために,ステーションの

蓄電池への代替接続が使用されるシステムの性能を,

MATLAB / Simulinkで検証することができた.

4 天候数値化簡易手法による太陽光発電の発電量の解析

天候と太陽光による発電量の相関を過去のデータ

から把握することにより PV 発電量を定量的に予測

することを検討した論文 [8]があったため,簡単に紹

介する.この予測は気象庁の天候情報のみを利用し

た簡単な方法である.

1.「快晴」:快晴の日

2.「晴」:晴の日

3.「晴一時曇,晴後一時曇」:晴が主であるが一時的

に曇となる日

4.「晴⇔曇」:晴後曇,曇後晴,晴後薄曇,晴時々曇,曇

3

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図 6 Weather quantification factor v.s. Powergeneration[8]

時々晴,晴時々薄曇,曇一時晴,晴後雨,雨後晴,晴

時々雨など天候が変化する日

5.「薄曇」:薄曇の日

6.「曇」:曇の日

7.「曇⇔雨」:曇後雨,雨後曇,曇時々雨,雨時々曇,曇

一時雨,雨一時曇などの日

8.「雨 (雪)」:雨,大雨,雪,大雪,みぞれの日

このように天気を 8 つに分類して,その日に対応す

る実際の発電量の 4 年間平均値を月別に算出してい

る.基準値として,最大発電量である 7月の快晴日の

値を最大値 10.0として正規化している.10.0は,東

京都市大学世田谷キャンパスの 20kW の PV 設備の

7月の快晴日の交流発電量の最大値である 96kWhに

相当する.例えば ,7 月の薄曇の日の天候数値化係

数は 8.42であり,発電量は快晴日の 84.2%であるこ

とを示している.4 年間の全データについて天候を

数値化し,20kWの PVシステムの実発電量と天候数

値化係数との相関をプロットしたのが図. 6 である.

図. 6 から,天候と発電量の相関係数は R=0.92 であ

り,相関が高いことがわかる.実績値と計算値を比

較すると差があるところもあるが,簡易的な手法で

あるにも関わらず月毎の増減傾向など全体的によい

一致が見られることがわかる.この方法で,2015年

の発電量を計算したのが図. 7である.実績値と計算

値を比較すると差があるところもあるが,簡易的な

手法であるにも関わらず月毎の増減傾向など全体的

によい一致が見られることがわかる.

図 7 Monthly power generation (2015) [8]

5 まとめ

本稿では,最初に,再生可能エネルギーを利用す

る意義について述べた.次に,太陽光や風力といっ

た一部の再生可能エネルギーは発電量が季節や天候

に左右されるという課題を挙げた.そこで,今回は,

再生可能エネルギーの利用技術の中でも,太陽光電

力による電気自動車への充電についての論文を紹介

した.ただし,今回紹介した論文では,太陽光による

電力を直接充電するだけの場合との比較が無かった

ため,従来のシステムと比較してどこの部分が改善

されているのかがわかりにくかった.また,シミュ

レーションの際の SOCをどのような根拠で決めたの

かも書かれていなかった.さらに,シュミレーショ

ンのみで実験が無かったため,実際にこのシステムが

有用であるかどうかの検証が不十分であると感じた.

また,太陽光発電による電力と充電ステーションの

バッテリーのSOCの両方が不十分である場合を考

慮した場合も課題となると考えられる.また,最後

に少し紹介した簡易的な太陽光発電量の予測につい

ては,精緻かつ複雑な方法を適用したとしても,日射

量を経時的に精度高く定量化するのは未だ困難であ

るため,このような大まかであるが簡単な方法で予

測するのも,現段階では有効であると感じた.

参考文献

[1] “再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー と は”, 経

済 産 業 省 資 源 エ ネ ル ギ ー 庁,

4

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https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving

and new/saiene/renewable/outline/index.html

(最終閲覧日 2019/5/26)

[2] K. Sankaraditya Vikas, B. Raviteja Reddy, S. G.

Abijith, M. R. Sindhu, “Controller for Charg-

ing Electric Vehicles at Workplaces using So-

lar Energy”, IEEE International Conference on

Communication and Signal Processing, April 4-

6, 2019, India

[3] Stephen Lee, Srinivasan Iyengar, David Irwin,

Prashant Shenoy, “Shared Solar-powered EV

Charging Stations: Feasibility and Benefits”, Pro-

ceedings of Seventh International Green and Sus-

tainable Computing Conference(IGSC), 2016.

[4] G.R. Chandra Mouli, P. Bauer, M. Zeman, “Sys-

tem design for a solar powered electric vehicle

charging station for workplaces”, Applied En-

ergy, vol. 168, pp. 434-443, 2016.

[5] “Battery Details”, [online] Available:

http://heroelectric.in/cruz-offer.

[6] “Standardization of protocol for charging Infras-

tructure - Ministry of Heavy Industries & Public

Enterprises department of Heavy Industry”.

[7] “Source of Solar Irradiance

value”, [online] Available:

http://www.synergyenviron.com/tools/solar-

irradiance/india/tamil-nadu/coimbatore.

[8] Saburo Sasaki, Sora Fukunaga, Yutaka Ota,

“Evaluation of kWh Value of Photovoltaic Gener-

ation by Application of Simplified Method using

Numerical Factor of Weather”, Journal of Japan

Society of Energy and Resources, Vol. 38, No. 5

5