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46 経営実務 ’20 3 月号 JA たじまの概要 JA たじまは、兵庫県の北部、日本海側に面した、昔の但馬国を活動範囲に している。面積は大阪府の面積よりも広いが、人口はその約50分の1の16万人 である。地域は9割以上が山地で、谷筋の奥深くまで集落が点在しており、谷 間がなまって但馬となったとも言われている。 JA たじまでは、コウノトリの野生復帰を目指して、コウノトリとの共生を 目的に、環境に配慮した「コウノトリ育むお米」の生産に組合員と一緒に取り 組んでいる。また、このお米の部会の一部のメンバーと GLOBALGAP の取得 にも取り組んでいる。 また、管内で生産している但馬牛は、日本の和牛を支えてきた大切な牛で、 その中でも美方郡産の但馬牛は全国に先駆けて牛籍簿を整備し、美方郡内産に こだわった和牛改良が行われてきた。但馬牛の飼養が農村文化の継承に貢献し てきた歴史が評価され、今年の2月、「人と牛が共生する美方地域の伝統的但 馬牛飼育システム」として日本農業遺産に認定された。現在は世界農業遺産に 申請している。 こうしたこれまでの環境を重視した持続可能な農業に向けた活動を踏まえて、 SDGs への参加をこの春に宣言している。 TAC の活動 当 JA の TACは、設立当初は地 域の営農生活センターに配属され ていたが、センターの通常業務に 追われて訪問活動ができなくなる ことが続いたため、平成27年度よ り本店に集約し担い手訪問に特化 JA たじまの TAC 活動報告 たに がき やすし 兵庫県・JA たじま 担い手支援センター 担い手支援課 課長 ※本稿は2019年11月に行われた TAC パワーアップ大会での発表より構成しています いまこそ TAC だ‼ 第103回

いまこそTACだ‼ - Zen-Noh...例である。GLOBALGAPでは圃場施設や圃場リストなどが求められるが、 Z-GIS導入前は審査の時に左写真のような地図画像とExcelで作成した

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  • 46 経営実務 ’20 3 月号

    JAたじまの概要JA たじまは、兵庫県の北部、日本海側に面した、昔の但馬国を活動範囲に

    している。面積は大阪府の面積よりも広いが、人口はその約50分の1の16万人である。地域は9割以上が山地で、谷筋の奥深くまで集落が点在しており、谷間がなまって但馬となったとも言われている。 JA たじまでは、コウノトリの野生復帰を目指して、コウノトリとの共生を目的に、環境に配慮した「コウノトリ育むお米」の生産に組合員と一緒に取り組んでいる。また、このお米の部会の一部のメンバーと GLOBALGAP の取得にも取り組んでいる。 また、管内で生産している但馬牛は、日本の和牛を支えてきた大切な牛で、その中でも美方郡産の但馬牛は全国に先駆けて牛籍簿を整備し、美方郡内産にこだわった和牛改良が行われてきた。但馬牛の飼養が農村文化の継承に貢献してきた歴史が評価され、今年の2月、「人と牛が共生する美方地域の伝統的但馬牛飼育システム」として日本農業遺産に認定された。現在は世界農業遺産に申請している。 こうしたこれまでの環境を重視した持続可能な農業に向けた活動を踏まえて、SDGs への参加をこの春に宣言している。

    TACの活動

     当 JA の TAC は、設立当初は地域の営農生活センターに配属されていたが、センターの通常業務に追われて訪問活動ができなくなることが続いたため、平成27年度より本店に集約し担い手訪問に特化

    JAたじまの TAC活動報告

    谷たに

    垣がき

    康やすし

    兵庫県・JAたじま 担い手支援センター 担い手支援課 課長

    ※ 本稿は2019年11月に行われた TAC パワーアップ大会での発表より構成しています

    いまこそTACだ‼ 第103回

    https://www.zennoh.or.jp/tac/

  • 営  農

    経営実務 ’20 3 月号 47

    し、訪問活動の強化のために「活動ポイント評価制度」を導入した。平成28年度からは、専務直轄の「担い手支援センター」が設置され、TAC はこちらに配属されている。 また、JA 全体で担い手対応を行うため、管内に22ある総合支店の支店長を担い手担当と位置づけ、月一回 TAC と一緒に訪問している。 TAC の活動当初は、担い手を訪問して意見要望を聞くことが中心であったが、現在は図表のような多様な業務を行っている。 以下、この中から3点の取組みを紹介する。

    圃場情報や栽培記録管理についての提案活動

     規模拡大した大規模農家や集落営農組織では、圃場情報や作業記録の管理について悩みを抱えている経営者が多くなってきた。JA たじまで「コウノトリ育むお米」生産部会の一部の組合員と GLOBALGAP の取得に取り組んだ経験から、TAC にも圃場情報や栽培記録管理が重要であるとの認識が共有できており、訪問先で何か提案できないか課内で議論を続けてきた。 そんな折に、全農から Z-GIS のサービスが開始され、「早速推進しよう」ということになった。Z-GIS の特徴の1つは Excel ベースの記録を活用できることである。

  • 48 経営実務 ’20 3 月号

    訪問先の担い手は Excel で圃場管理や栽培管理を行っている方が多く、導入へのハードルは低い。「これは使えるんちゃうか」と TACで張り切って推進したが、どうもうまく伝えられなかった。 「どないしよう」と悩んでいた時に、ある TAC が、支店が地域住民向けに開催する「地域ふれあいまつり」のイベントで、上の写真のような展示ブースを作った。Z-GIS に実際に触れることができたことで、担い手からは大変好評を得た。その結果、その場で契約していただいたり、その方が隣にいた大規模経営の担い手となる組合員の方にも紹介するような広がりを見せた。 下の写真は GLOBALGAP の認証を取得して、Z-GIS を導入した方の例である。GLOBALGAP では圃場施設や圃場リストなどが求められるが、Z-GIS 導入前は審査の時に左写真のような地図画像と Excel で作成した圃場リストを別々にプリントアウトして対応していたが、導入した後は、右の写真のようにモニターの一画面で地図とデータを同時に見られるようになった。導入してからは、従業員とのミーティングでもモニターの情報を確認してから作業できるようになったことで、意思疎通が大変スムーズになったと好評をいただいている。 担い手からは、「TAC

  • 営  農

    経営実務 ’20 3 月号 49

    が提案してくれてとても助かっている。作業効率や意思疎通がずいぶん向上したのがうれしい」と言っていただいた。なお、この担い手は、Z-GIS だけでなく、他の様々な JA 事業を利用されている。TAC の活動を通して、担い手との信頼関係が構築でき、事業利用につながったのではないかと考えている。

    集落営農の組織化法人化への対応

     TAC の訪問活動の中で、集落営農の設立について相談が寄せられるケースが多くなった。当 JA の管内には3市2町の行政があるが、集落営農の設立について、各地で JA や市町、県の関係機関が集まって意見交換を行う場が設置されている。その中でも特に豊岡市では TAC を中心に毎月定例の会合を行い、集落営農の設立や、人・農地プランの作成、これから法人化したいという集落に対して掘り起こしも含めた活動を行っている。現時点でおよそ20近い集落を対象に関係機関が一緒になって月一回活動の状況を共有している。30年は3集落で法人を設立し、今年度もすでに法人化した組織がある。下の写真は設立したときの総会の様子だが、集落の皆様や、県や市の関係機関のメンバー、JA からは TACと支店長と営農センター長も一緒に参加して写真に写っている。 設立にあたって JA の役割も大きく変化した。これまでは「何を作って出荷してもらうか」が中心であったが、TAC が入って「販売」や「設備投資」や「資金繰り」など、一緒に計画を作るようになった。バランスシートや損益計算書の作成にも TAC が関与するとともに、TAC と支店長が一緒に訪問活動をしているので、それらの情報を支店とも共有し、補助事業の活用や長期・短

  • 50 経営実務 ’20 3 月号

    期資金の対応など JA の総合力を活かした対応を行っている。たとえば、アグリマイティー資金の利用が増え、利用金額も増加傾向にある。 さらに、設立後の組織への支援も TAC が中心になって行っている。組織の設立直後には、栽培方法をどうするかだけでなく、作業の内容や、運転資金も含めた組織の方向性、栽培記録の方法など、様々な悩みがある。そうした様々な悩みの解決について TAC が支援することで、集落営農の活性化だけではなく、農地保全につながり、また、その地域の持続可能性を高めることにつながる。JA の中では「これは TAC にしかできない活動」だと感じている。

    担い手の新たな収入源の確保

    【多収穫米の提案活動】 中山間地が多い但馬であるが、担い手への農地集約が進んでいることや、集落営農内で少ない機械で集落内のすべての農地を作業することから、水稲の作業分散が必要となっていた。現在、但馬の主力品種はコシヒカリであるが、それ以外の品種を組み合わせ、実需に結びついた作物による作期分散が求められていた。30年産から「業務用米」の取扱いを開始したが、コシヒカリよりも晩生品種が主だったので、獣害や秋の日照時間不足などへの不安から、作付けの拡大に苦戦していた。 そこで今年度から、コシヒカリよりも早生の品種の取扱いを開始し、「多収穫米」として、

  • 営  農

    経営実務 ’20 3 月号 51

    作期分散のバリエーションを増やすこととした。 右の写真は昨年の11月に行った「JA たじま営農振興大会」の様子である。TAC が所属する担い手支援課が事務局をつとめて、農家や関係者など約600名を超える方々が参加され、営農畜産担当常務から早生品種の多収穫米について説明し、併せて事前契約による出荷確保なども行った。大会後、TACや営農相談員が中心となって多収穫米の推進をしているが、12月までにほぼすべての大規模担い手や組織を訪問して作付けの意向確認をした。 右の写真は推進の時に TACが作った資料である。多収穫米の品種特性をわかりやすくまとめるよう工夫しており、こうした資料をもとに丁寧な訪問活動を行った結果、計画数字を上回る申し込みをいただいた。また、実際に作業分散できたことで、好評をいただいている。【米以外の品目提案】 TAC が訪問活動を行っている担い手農家・組織は、水稲を経営の中心にしており、どうしても販売収入の大部分が秋に集中している状況であった。しかし、従業員を雇用するには年間を通した販売収入の確保が必要

  • 52 経営実務 ’20 3 月号

    となる。そこで TAC では、秋以外の収入機会を増やすことを目的に、米以外の品目提案を進めてきた。 そのような中、平成29年度から小豆の省力化栽培に取り組み、旧豊岡市内を中心に規模拡大に向けた実証を進めている。右の写真は小豆の播種の様子である。小豆の栽培面積は徐々に広がりつつあり、担い手農家の間でも活発な意見交換も行われていて、「このような収入確保に向けたいろんな品目が広がっていけばいい」という意見をいただくことができた。 また、JA たじまの主力特産品でもあるピーマンを所得の平準化に向けて活用できないかの実証を開始した。多くの集落営農組織では、集落の人たちをどのように活動に参画させるかが課題になっていた。そこで集落内の女性や老人にも頑張ってもらう場所を作るため、ピーマン協議会の会長と TAC が意見交換を行って、栽培に関する作業時間の分析や必要となる労働力の状況について、データに基づいてモデルケースを作成し、TAC たよりで情報提供を行うとともに、集落営農組織を中心に試験的に推進を行った。 ただ「ピーマン作りましょう」では単なるピーマンの推進だから、TAC ならではの推進をしてみようと、セールスポイントとして「集落や地域のみんなで取り組める」というコピーを用い、村のみんなに参加してもらえるような集落営農作りに貢献できることを目指して資料を作った。この資料を基に、実際に取組みを始めた組織も出てきており、

  • 営  農

    経営実務 ’20 3 月号 53

    今後、経営面だけでなく、村作りに繋がる活動として成長させることができるか期待したい。

    今後について

     TAC にとって、訪問活動が最も大切である。特に大規模経営の担い手は、栽培よりも経営に関する悩みを抱えている方が多いように感じる。まずは訪問して、担い手から宿題をもらえるような訪問先を1件でも増やして、一緒に解決していけたらと思っている。 担い手に TAC を活用してもらって、経営が改善され、農業収入が増え、さらに JA を利用してもらう、そんなサイクルが回って但馬の産地振興につなげていきたいと思っている。 TAC とともに GLOBALGAP に取り組んだメンバーは、認証取得以降、営農事業以外も JA の事業利用が増加している。そうした深い繋がりのある担い手を増やすためには、会話の武器になる情報が必要である。それがないと経営者や農業者の方から全く相手にされない。 JA たじまの TAC にとって、TAC パワーアップ大会の参加は大きな目標である。この大会は全国の優良事例を学ぶだけでなく、全国の TAC とネットワークを作ることができる。多くの情報を共有し、全国の皆さんと一緒に切磋琢磨していきたいと思っている。そして、但馬や全国各地の農業振興に繋げていきたい。 今後も、こつこつと訪問活動を行い、担い手が抱える課題を見つけて、その解決に農協の総合力で取り組んでいきたい。