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Title Robert Penn WarrenのWildernessについて Author(s) 横田, 忠輔 Citation [岐阜大学教養部研究報告] vol.[1] p.[100]-[109] Issue Date 1965 Rights Version 岐阜大学教養部 (Faculty of General Education, Gifu University) URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/45942 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

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Title Robert Penn WarrenのWildernessについて

Author(s) 横田, 忠輔

Citation [岐阜大学教養部研究報告] vol.[1] p.[100]-[109]

Issue Date 1965

Rights

Version 岐阜大学教養部 (Faculty of General Education, Gifu University)

URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/45942

※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

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横 田…… 忠 輔

Robert Penn χVarren の ? VVilderness” に つ い て ※

100

On Robert penn W arren’s !‘W ilderness”

※注 1965年9月25日 日本アバ カ文学会中部支部例会にて発表

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by Tadasuke Y okota

The Summary

This paper is an effort二to show , with some co拍ment, how Robert Penn χVarren’s

“W ilderness” is executed and what is conceived in the work. /

Every part of the novel is closely connected, throughout, w ith every other part

of it, which signifies its theme that in our life everything is part gf everything else・

T he tale is symbolic, full of major and minor symbols.

T he dead man’s shoes which Adam wears w ith two different attitudes toward

life, first cynical and materialisticand then at theend spiritual and humanisticarevery

important to express the meaning of the novel skillfully and suggestively. H is crippled

left foot is essential to the theme.

H is not carrying the satchel when he goes out of the forest at the end ofthe story,

is due to his humanism . lt does not, of course, mean the rejection of the help of God,

which makes the novel meaningless, invaHdating the established connection between

紬 Time and oM of Time.

Adam makes us know forcefully what imperfect man should do in the mechanical

process of life, not forgetting the knowledge of self, the great truth, that good and

evil are not separate, but one.

且iS taking a long time to find out the truth is one of the great ironies which

the tale is also full of. N ot crippled, Γβshall take a longer time. H e is so foolishly

idealistic, one may think, and that is an irony, too.

T hat he is a Jew can make his sin-consciousness seem more natural to the

W esterners than it can to the Japanese whose way of thinking is not based on the

Christian tradition, l think.

“W ilderness” is simplified, being much less voluminous than any other novel of

the author, which makes the philosophical thinking too intensive that runs thro ・gh

this work, as in his other novels. lt sometimes affects the hero゙s careful character ,

ization. But the eχcellent symbols and ironies of the novel make it valuable.

Adam himelf is a good example of “T rial and Error.”

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The title “W ilderness” is symboli(j, too, in terms of American civilizatioh.

Prof. W arren’s essay on W . Faulkner is very helpful to understand the truth

Adam found.

Robert Penn XVarren の ”VVilderness” につ いて 101

の意義を探究させ, 人生の真実を発見させるのが狙いで,¥ そこに主題 Warren が各作品

多才な R.P. Warrenの, 小説と しては第ニヒ番目の作品 “Wilderness” にう いて, その構

成, 手法, 意義を考察 したい。 一 づ ‥

彼の, 他の小説は皆長いが, 本作は冗漫を排 して簡素化され, 緊密とな り, 分量が減少し

た。 南北戦争の物語 りであ るが, 戦争について 乱 な まの戦闘描写が終章に出るだけで , 他

は各戦場の名前が記され るか, それに回想が伴 うかに止まっ ている。

数々のエ ピソー ドを含みながら, 話の各部分が互に密接に結びっ き, 十三章に亘る文脈が

終 りの二章を生かし, 構成が引き締っ ている。 哲学的思索一 経験の意味を知ろ う とす る態

度- が, 他の小説の場合と同様, 一貫七て流れ, その凝縮の嫌いが, 各人物を通しての主

人公の, おちのない性格づけに も影響す るが, 題材が豊かな象徴を生み出し, 集約化か ら来

る肉づけの不足を補って, 物語 りを価値あ ら しめてい ると云え よ う。

本作の緊密なテ クニークが, “Everything is part of everything else.” を人生の真実で

あると説く , この作品のテーマであ り, 人間の条件についての真実の知識を与えよ う とす る

努力である。 i 一 卜

世人の蔑視の中に生き る, 神の民ユダヤ人を登場させ, 主人公を不具者に仕立てた こ とは

主題の上か ら適切であ る。 。 ・。 7 。● ・・

術|青の主人公, CatholicBavariaのユダヤ人青年 AdamRosenzweig を , 例えば H. James

の場合とは逆に, 旧世界か ら新世界の腐敗の中に持ち込んだ こ と 乱 アメ リカに理想主義者

が益々稀になって く るとい う作者の考えに因るよう TCある。 Adamの理想主義は温かい同情

を以て描かれてい るo j し 一丿卜。・ -・・

登場人物の行動, 心理は三人称を用いて描写 されるが, 彼等の考えを重点的に客観的に,

イ タ リ ッ ク体で表示す る方法が, また , と られていて, モ ノ ロダの趣かお り, 主人公が経験

の意味を探 るに相応わ しい。 人物相互の会話に よってプ ロッ トを進めて行 く 手も用い られて

お り, 総 じて, 全知的, 客観的視点への技巧的配慮が表現の綾を生み出している。

作品の舞台は Bavaria か ら New York 市へ移 り,十更に南部 Virginia 州で闘われた the

Battle of theW ilderness へ 延 び て い る。 七 の 戦 闘 の 中 に Adam を 投 げ 込 ん で , 人 間 の 自由

で追求す る, 気に入 りの一一 がある。 も と よ り, 戦場は人生の close-up とな る。

こ う した性質の物語 りの全貌を見よ うとす:る立場から, 敢えて, 登場人物と話の筋を述べ

なが ら考察を試みよ う と思 う。 ご

Adamの父は, 若 く して Bavariaを去 り, Berlinへ赴き, ユダヤ人と して 軽蔑 されなが

ら, 貧苦の中で, 黙々と学問に励み, 詩を書き, そ こで生れた息子の Adamの教育に当 り,

人間の自由のために生き, また死ぬこ とほど尊いことはないとの信念を植えつけた。 父は妻

子を捨てて, 自由の革命のために銃をことった瓜 父を恨んで赦さぬ母をAdamは罵 り, 赦す こと

がで きなかった。 革命の闘いに敗れた父は, し死刑を与え られずに, 獄舎に繋がれて 病 とな

り, 郷里 Bavariaの兄一 父の不在中母を 喪った孤児の甥 Adamを既に 引き 取 っ て いた

ー の許に傷心の身を託 さればな らなかった。 この兄は, 正義は神のみにあ り と説 く信心深

い, =学園の教師で, 父が神を信頼せずに人間を信頼したこ とを非難して止まない。

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102 横 田 忠 輔

病に弱 り切った父が, 死ぬ前に, 兄の詰問に屈 して, 人を信 じて闘った己の行動が涜神で

あると認めた こ とは Adamの期待を大き く裏切った。 父の self が死んだ時, 彼自身のself

が生れていた。 彼は父の教えを守 りぬき, 世界に正義を知 らせるために身を献げよ う と熱情

を走 らせる。 沈滞した時間の中で Bavariaの時計修繕工と して一生を終ることは彼には堪え

られなかった。 彼は, や らねばな らぬこ とをや・らねばな らない。 青空に映ゆる, 美わしい白

雪の霊峰- かつて父が愛 し, その美しさに値する人間たろ うと願った- Zelzsteinbergに

正義の心を掻き立て られ, 自由のために南北戦争に従軍すべ く , 唯一の身寄 りの伯父の反対

を押 し切って, 傭兵となっ て海を渡るのだった。 人間の 光栄を信 じ切る彼には, 理想の夢

がrealityであ り, 人間のすべてであ る。

この Bavariaでユダヤ人に対 し, 何処に神の正義が見 られるかと彼は伯父に決めつ け た

が, 伯父にと っては, この世の人々の口にす る自由はゴダヤ人を屠 る自由にすぎず, 全世界

がユダヤ人に よって神の法則を知 り, その神聖さに恵まれる 日を , ただ待つばか りである。

南北戦争は Adamの関知す ると ころではな く , タルマ ッ ド (ゴダヤの律法と, その解説) に

云 う通 り, 二つの大きな力が衝突す る時は, それを避けて救世主を待てばよい。 正義の救い

は人の歴史の彼方にあるのである。 神の力を信ずべきか否か。 神は歴史の時間の中にあるの

か, 外にあるのか一 古今の根本的問題を Adamはど う解決す るのか。 伯父の饒別の小かば

ん一 旧約聖書の文句を記した羊皮紙の入った革の小箱と, 礼拝用肩衣と, 祈祷書とが, そ

の中味であるー は何の役にも立たなかったであろ うか。

熱血児 Adamの左足は生来えび足で, 靴屋の老 Jacobが丹精こめて作って くれた特別製

の靴のお陰で常人なみの行動ができ る。 Jacobは悩んだ末に, その仕事に天職を見出し, 運

命に安んじ得た男で, この靴の代価も取らない。 それは彼の, 正義のための投資である。

船の動揺で足の不具がばれ, 同 じ く該の輸送指揮官の怒 りを買って, 送 り返される破 目と

な り, 彼の参戦を煽った Jacobの靴と, 故国で神の力を信 じさせよう とす る伯父の小かぽん

と, 両者相互に索制 し合 う間で悩んだ ことを想い起 しながら, 途方に くれたが, 船員の暗示

のも とに, 上陸は果 し得た。 この間, 不具の身で正義のために闘お う とす る彼を嘲笑 した仲

間の傭兵達を赦す気持になっ てい る。

1863年 7月, 上陸後 New York市に住む伯父の友人 Aaron Blausteinの家を探 し求める

彼の眼に初めて映ったのは街燈柱に吊された, 無惨な黒人の死体である。 更に彼は砲声を聞

き, 暴徒に弄ばれる黒人たちを見る。 そのどさ く さで落ち込んだ穴蔵の中の水攻めか ら, 同

じ穴の Mose Talbuttなる黒人に助け られて , 危機を脱 し , 彼の持参 した手紙め宛名を頼 り

に, Aaronの家に届け られ る。

Aaron家の一室に横たわ りながら, 理想と現実のけ じめのつきかねる Adamは夢か ら醒

めて時間の中にいる思いを深 う し, あの吊された黒人が, 白人でないが故に, 彼の同情を湧

かせなかった こ とに罪を覚え, 又, それを想い起す と, 鏡に映る自分の姿を美 しいと思 うこ

とが邪悪と感 じ られた。 Aaronの説明に よれば, 黒人を弄ぶ暴徒たちは, 南軍の反逆者たちに

殺 され るこ とを望まずに北軍の徴兵に反対 し, 黒人を私刑す る貧乏人で, 北軍の軍隊に発砲

されて い る。 Aaron は四十年前 Bavariaか ら渡米 し , 貧 しい ユダヤ人 と して五年間南部を 行

商した後忍苦が実って, 今は裕かな身分であり, 三百弗の徴兵免除料を払えぬ暴徒だもの攻

撃の的である。 一人息子 Stephenが南軍と闘って戦死し, その悲しみから妻も自殺して, よ

るべ無き老の身を淋し く暮す彼に Adamの渡来が神の思し召し と思われる。 世の論理を 弁

えぬために, 人は不幸にな り, 戦争も起ると知る彼は, 解 しかねる Adamに向って説き聞か

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Robert Penn lW arren の ”W’ilderness” につ いて 103

せる一 遺憾な こ とに, 人は何とか自分が正 しい理由をつけたがる。 人が一番記憶に留め難

いこ とは, 他人も人間であるとい う こ とだ。 しかし , これこそ人間にな り得る唯一の道なの

だ。 善きにつげ, 悪し きにつけ, すべてのこ とが, 他のすべてのことの一部であ り, それを

知るこ とによってのみ人は人間と して生き得 るのだ。 歴史は, 神がそ うであ るよ うに, 世の

事態がそ うな るこ との理由であ り, それ故歴史は神に代るこ とができ る。 そ して, 神は責任

を と るこ とに飽き給 うて, 暫 ら く歴史に責任を と らせよ う と してお られる。 人には, 生れた

時から, いつも何物かがある。 堪え るべき運命, 自分自身, そ して人生さえもが。 歴史とは

人々が経験 しなければな らぬ苦悶だ と。 彼の眼は Adamのえび足に注がれ, それに人間の生

得の欠陥を見てい る。 彼は世の真理を体得した人物である。 濡れた Adamの小かばんの中味

を彼は下女に命 じて乾かさせた。

父のよ うに思えた Aaronめ願いを容れずに, Adamは戦争参加を主張す る。 行った後に,

そ うせねばな らぬ理由が分るのだ と̀彼はAaronに答充た。 行動から信念が生れるのであろ う

か。 信念か ら行動が生れるのであろ うか。 Aaron の尽力で, Moseと共に, 軍人ではないが,

従軍商人 Jedeen Hawksworthの助手となって戦場に出発す ることができた。

Jedeenは黒人い じめの, 金のこ ・と しか考えぬ男である。 Moseの傲慢さが鼻につ き, 彼を

虐待するが, かつて若い時, 北 Carと)linaの法廷で, 殺人犯に仕立て られた大家の黒人の無

実の罪を勇敢に弁護したこ と もある。 暴従の報復を怖れて北部へ逃れたが, 他人と折れ合 う

ことのできぬ性質で, 転々と し, 現在の仕事の資金を Aaronに仰いだ。 彼の善意を解さずに

ユダヤ人を軽蔑 し, 戦争がすんだ ら南部で一旗あげよ う との野心がある。 正義の理想を放棄

して しまった彼には Adamの理想主義が憎い。 昔黒人を弁護した理由も, あれこれ考えなが

ら, 彼には, はっ き り しないのだ。 彼の上半身には人間らしい威厳が仄めき, 下半身には残

忍性が見えて, 彼の持つ矛盾を語っている。 理想の夢がぐらつき, 現し身が, この世の時間

の外に出て しまって, 恐ろ しい不安に襲われた時, Adamは Jedeenの若い時の正義の行為

を想い起 して安堵の思いを した。

Moseは南部よ り New Yorkへ逃亡して来た。Adam は, 人間並に取扱われたい と 念願 し

て Jedeenの反感を買う彼と一緒の小屋に住み, 読み書きを手解き し, いとほしみもするが,

彼を個人と して愛するこ とが難しい。 イ可故彼は Adamを救い出したのか。 信念から, あの行

動が生れたのであろ うか。 Adamと云わずに, 「ね じ足男」 と緯名呼ば りする彼は, Adamに

人間とい う ものについて考えさせるのだ。

三人が野営した Pennsylvaniaの, ある地点で Adam は HansMeyerhof と近づきになる。

彼は Chancellorvilleで , ドイ ツ人部隊に属して南軍と闘い, 重傷を負って, 死も近い。 正し

いと考えて参戦 し, 勇敢に闘った彼は, ドイ ツ兵が臆病呼ば りされるこ とに, 妻と共に憤慨

し て い る 。 Adam の 父 と 同 じ所 で 正 義 の革 命 運 動 に 挺 身 し て い た と 分 っ た が , 期 待 に 反 し て

父を知 らぬと聞かされ, Adamは, 過去とその意味が現在から切 り離されて, 自分が現在と

共に, ひと り と り残され, 現在の意味も分らな く なるのを感 じ, 現在の重荷をほぐすすべも

ない思いが した。 も し Hansが父に会っ ていた ら, 父の苦 しみを , もつ と深 く 十分に, 本質

的に彼自身の存在に絡まるように知ることがで き よ うにと嘆 く のである。 彼は, ここで, 正

義と生の空 しさを思 うが, それは後に真理を掴むための大事な契機となっている。 ドイ ツ人

Hansの妻に彼がつ くす親切さ もよ他の二人には邪推と擲楡の材料となった。

既に秋近 く , 北軍が Virginiaへ南下を始め, そ こへ Adam の心もはやる。 次 の宿営地

Gettysburgで, 三人は共同墓地を訪れ, 北軍兵か ら激戦の模様を聞き, 又北軍兵の, で

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104 横 ¥ 田 忠 輔

た らめな実態も知らされる。 あの黒人のことで北部へ逃げたために, この戦場で南軍兵と し

て死ぬことを免れたのだ と思 う と, Jedeenは誰に, 何のために, 感謝していいのか分らな

い。 人生とい う ものが何一つ分 らな く なって く る。 皆に差別視される Moseを庇 うかに見え

て一言する Je(ieenの口か ら black son-of-a-bitch呼ば りされて, Moseは深 く 屈辱を 感 じ卜

二度とそ うは呼ばせないと抗弁するのであった。

Virginiaに到着し, 酒保商人の仕事が始まって, Jedeenは益々金に汚な く なる。 他方, 知

人の娘を将軍に献 じて繩張 りを拡げる奸策を忘れない。 人に自由な どないと考える彼には,

Moseの横柄さ と, Moseの解放を志す , 有能」な Adam の正 し さ とが堪え難 ぐなって く る。

助手を こぎ使 う従軍商人の Simms Purdew を Adamは, この上な く憎んでいる。 しか し

急に子供の頃の彼を思 う と , 彼を憎んだ 自分を責め, 彼が子供の時の話を進心で しTてくれた

ら, 事はもつと違って く るのにと思う。 彼は Antietamの闘いで武勲を立て, 名誉の勲章を

貰った勇士でもあった。 今Grant将軍の北軍最高司令官就任の知らせに酔って, 慰みの遊戯

に黒人たちをなぶり廻し なが ら, 乱痴気騒ぎに夢中だ。 Adamは見かねて,¥ 彼を止めよう と

するが, Moseに制や られて果さ ない。 純情め彼は Moseの顔を殴 りつけた。

酒保の街路を , 羊肉を売っ て, 歩 く , 卑七い, アイルラ ン ド生れの女 Mollieがいる6

自分が何であるか, 自分自身の価値が分ち ない人々なのだ と思っ七憐れみたい気持になる

と , 心の淋 しさ が消える よ うだ。 そ して, Aaronの説いて くれた言葉を想い起 しながら, 考

えあ ぐみ, 「ただ 自分の心においでのみ, 私は世界を結びっ けさせ得るのだ」 と思われ Cく

る 。 卜 卜 犬

年明けて1864年春も深まる頃, Aaronの死を新聞で知って, Adamは, 彼め悲 しみを知ろ

う と もせずに参戦した罪に心を責め られる。 今に して分るのだが, 誰にも顧みられず, 価値

のない, 影のよ うな存在だ と感 じていた 自分に, 実在感を与え, 自分が誰であるかを知 らせ

た のは一 に Aaron だ っ た 。 無 数 の星 の , く っ き り と 点在す る 美 し い 夜空 を 見上 げ な が ら ,

Adam は, どう した ら, 孤立 してお りながらも孤立 していない状態にな り得るか, 無価値で

あ りなが ら乱 ひとか どの価値あ る ものにな り得るか知 りたい と思 う。 生 きればな らないの

な ら, それを見付け出さねばな らないと考える。 近づいた羊肉売の女 M6111e力気 これも静か

に空を見上げている こ とを知っ て, 「アイルラ ン ドは美 しかったか」 と尋ねると , それが,

美 しい星空によって自己の醜 く さ , はしたなさを挾 られる彼女の思いに・拍車をかけ, 彼女は

血相変えて怒るのであった。 亡き Aaronの後釜に坐っ て金持になれとの Jedeenの誘惑を彼

は斥ける こ とができる。 卜 ‥

ある 日の夕方, 自然を眺め, 平和な気持に浸りつつ, 騎馬隊の行進を見, 戻った野営陣地

で̀,二‘兵土たちの挙動を見なが ら, Adam は神と正義を信ずる人々もいる こ とを忘れてはな ら

ない と 思 う。 … …

売春を働いて鞭打たれる Mollieを平然と傍観する黒人 Moseの冷たさを Adamは憎み な

がら乱 誰にも憎む権利はない と考えるのだった。 ▽ ‥

時五丹, 移動命令にざわつ く或る 日の夕, Moseは野戦病院で, 負傷した将校から素性を

暴露される。MoseCrawfurdが本名だった。戻 り着いた 小屋の中で Moseぱ Jedeenに腿め

焼印 W- Worthlessの頭文字- を下着の下から無理や りに発かれ, 屈辱を忍ぶ。その夜, 過去

の苦 しみの数々を回想 しなからに Moseの眼は冴えて, 不満の愚痴が彼の白を ついて 出て ぐ

る昿 それに眠 りを妨げ られた Adamは√彼を叱 りなが ら, “You- you black son-o卜a-bitch

と, Moseの忌避する言葉を, 心から。 口にして しまい, 後から悔いて, 赦 しを乞おうと思‰

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は思 う。 Monmorancy Pughの家に泊っ て, 寝床で , ふと Momeのこ とを思い浮べ, 生の

意味をまさ ぐらねばな らない。 Pughは平和な生活を営も う と 目論んで 南軍徴兵官を射殺 し

て以来, 残酷な精神異状の発作が起き, 昔の, 神への信仰が逆転して, 今は世を呪ってい

る。:新 しい靴や, 弾を何処か らと もな く手に入れて く る し, 死んだ我子の墓に見向き も しな

い。 妻ひ と りが, それに野生の菓を捧げ, 祈ってい る。 朝まだき, Adam は死んだ父, 母の

ごとを , 自分の生の如何に空 しかったかを考える。 人生を楽 しむ こ と もなかった し, かとい

って真理 も見出せなかった。 人は, 何時で も死ねる ように何物かを持たねばな らないと急に

悲痛の思い も起るのであった。 Mrs. Pughの問に, 闘うために, 自由のために, やって来た

のだ とノ やっ との思いで答えることができる。 アメ リカへ来な く てもよかったのだ, 自由と

は殺 し合 うこ とで, それ以外のこ とを人は長 く忘れていると彼女は云 う。 河を渡ろ う とする

の尤 自由のためかと訊かれ, そ うだ と答えるが, 「少 く と 乱 そ う思った。 そ うあ りたい。

人は理由を持たねばな らない」 と苦 し く附け加えるのだ。 「理由は分らないが, も し河を渡

らなければ, 生きるために知らねばな らぬこ とを知 らずに終ってし ま う だ ろ う」 と 云 う彼

に, 「河のこち らも向う も同じだ」 と彼女の答はすげない。

‥彼女の忠告を念頭に, 不利な立場に陥れぬと も限 らぬ夫を威し操 り一 美しい夜に不似合

Robert Penn ・W arren の ”VVilderness” につ いて 105

暗闇の中で彼は再び考える一Moseが自分を救ったの乱 別に深いわけが あつたか らではな

い 。 M ose 自 身 分 ら な い と 云 っ て い る 。 人 間 は , 互 に , 無 価 値 な も の に す ぎ な い の だ ろ う か

と。 しか し, 死なせておけば楽だった ものを , 態々救い出しだのは, 結局道徳的選択行為なの

だ と考えると人間への希望が, 僅かで も回復 して く る。 だが, 自分のために救われなかった

他の人々がいた。 人生は盲 目の宝 く じであろ うか。 他人が彼の命の代価を支払った とは全 く

不合理だ と思 う。 不満を よそに子供のよ うに眠る Moseの罪の無さを想像 し, 自分を赦 して

くれるだろ う と信 じながら, 眼 りについた Adam が 目醒めた時, Moseは小屋に い なか っ

た。 彼は Jedeenを殺し, 彼の金を奪って逃亡 していた。 憎み合 う二人の悲劇は幕を閉じた。

Jedeenの死体を, こっそ り森の中に埋めて移動の旅に出る Adamは人生の恐ろ しさ , 複

雑さ , 不可解さに戸惑 う。 憤 りと恥が, また, 燃え上がる。 人は不可思議な 目的地に向って動

きながら, やらねばな らぬことをやって行き, 自分 自身に正 しい理由がつき, 互に憎み合わ

ねばな ら な い のか。 他人が 自分 に似 て い るか ら と て 他人を 憎 まね ば な ら な い ので あ ろ うか。

Adamは他の人々と別れて, 単独行動を とった。 Virginiaで何物かを発見するために, や

って来たのだと, 自由の身の喜びに溢れながら, 彼は思う。

ながら, 事無 く馬車で河を渡 り, 叛軍の気配に注意を配りなが

自由のために闘

な行為だ と Adam は思 う

ら, 彼は荒野に入る。 林間の空地に馬を止め, 西に南に銃声を聞きながら, 車の陰に坐っ

て, 昔, 子供の頃, 長い熱病から回復 しながら 目醒めた朝の, ふんわ り と羽毛のように軽

い, 純な気持を想い起 して幸福だった。 額に手を置いて, 彼を眺めだ母の優 しい眼を, 今,

真昼間, この異国の荒野の中で, まざまざと見, 亡き母の愛に直面して, 自己の罪と価値の

なさ とに圧倒され, 母に赦 しを乞お う と思 う。孤独の中に彼の思いは続 く

うべ く やって来だのだが, 軍人になるこ とを許されなかった。 しかし, この世に真理があるか

どうか知 らねばな らないから, 来なければな らなかっ たのだ。真理を掴むこ とが自分に許され

るであろ うかと。 戦火を潜づて突進 し, 真理を発見した兵士の姿が脳裡に浮ぶ。 Stepheh

Blaustein 乱 Hans Meyerhof 乱 杏 Simms Purdew で さ え真理を掴んだ ではないか。

空地の静けさを突き破って八名の南軍兵が飛び込んで来て, Adam の馬車か ら, がつがつ

と食べ物を漁るが, それに彼は憐れみを覚える。 ついで数名の北軍兵が崩れ込私 闘いが始

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兵と渡 り合 う一北軍兵を, こっそ り不正に殺そ うと した, も一人の南軍兵士を彼は, 南軍兵の

銃を拾って, 見事に, 生れて初めて, 射殺 した。 静けさに返った空地で彼は男ら しい誇 りを感

じながら, このため汲々海を渡っ て来たのだ。 人は, いつ もやろ う とするこ とをやるんだ。す

べてのものが自分の夢を抑止できなかったのだ と, 思 う。 しか し, 誇 り も, 力乱 男ら しさ

屯段々消えて, 正義の恐ろ しさが身に惨み, 罪意識が彼を苦しめにかかる。 それだから, 世

界は正 しいとい う こ とになるのだ, 世界が正 し く なければ, 罪意識が生れるのであろ うか。

で乱 俺は罪を犯していない。 あの兵士を殺 しだのは自由のためにやったこ とだ。 俺は自由

のために勇敢に死んだであろ う。 そ う考える と気分がよ く なって く る。 彼は自己 (s91f) の

不純さ一 善に宿る悪- に気付かず, 生の真実が解 し難いのだ。 だが, 彼が思 うに, する

必要のないこ とは何も しなかったのだ。 こ こへ来なければな らな く て, や っ て来た のだ。

Aaron 乱 それを承知 した し, も し Aaronの許に留っていた ら, Aaronは死ななかったで

あろ うか。 で 乱 無情冷酷ではあった と急に心が痛む。 こ う していた ら, ああ していた らと

後悔に明け暮れするのが人生であることを彼は知るのだった。 も し Moseを愛 し, black son-

of-a-bitch と呼んで裏切らなかったな ら, 彼はJedeenを殺さなかったのではないか。 でも,

何故彼は自分ではな く Jedeenを殺 したのか。 自ら救った者は殺せなかったのだろ う。 Jedeen

は自分の代 りに死んだのだ。 すべての人間が, 結局, 他のすべての人間に代づて犠牲になる

のかし らと考えるが, 深 くは分らず, その考えの奥底を, 黒い水の上に幽かな光がち らつ く

深い井戸の底を覗き込むよ うに, 凝視する。が, それにも堪え られな く なって, 彼は心の中で

横 田 忠 輔

左足の靴は役立だないので, 腰にぶら下げられている一 南軍

106

まる。彼の靴を奪っ ていた

これは

Aargn も Jedeen も Moseも父も皆自分を裏切ったのだ。 この世界は彼を裏叫ぶのだ

切ったのだ と。 ねじれた, 白い, 哀れな足を じっ と見下 して, これが理想主義と共に父のく

れた遺産なんだ と思いつつ, 今に乱 ある大きな真理が見出せそ うな気がする。 彼は自分が

今まで知っ てきた総てのこ とが偽 りである と感 じるのだった。 ああ, これこそ最大の裏切 り

だと彼は思 う。 そ して, 力の溢れ出るのを覚え, 大きな秘密を発見 した人の得意さを味わう

のだ。 これが世の中のやり 口な ら, このやり方で喜びを知ればよい。 彼は, この俗世のやり

口に従って, 殺 した南軍兵の左足の, まだ りっぱな靴を剥ぎと り, はこ う と した。 力が急に

湧き上 り, 眼が眩むようだった。 今迄に, こんな経験は一度もなかった。 抑え難い物質的欲

望が, 一瞬, 豪奢な生活のイ メ ージと交って猛 り狂い, 人生に裏切 られた思いの数々は消え

て, 跡形 もない。 取 り剥 した靴を落と して, 死人の足を見つめた時, 彼は, この兵士を殺 し

だのは, 彼の足が自分の足のよ うでないからだったと考える。 動機の不純 さ に気付いた の

だ。 しかし, そ う思って, 彼は急に清 く , 若い気持になるのだ。 過去も急に意味のないもの

になって しまった。 初めて見つめた死人の顔は平凡極まりな く , 何の表情もない。 生きた経

験 もないよ うに見え, 眼は何も理解で きずに空を睨んでいた。 この靴は, 死んだ北軍兵の足

から, この死んだ南軍兵が奪った ものであ り, 今度は彼がとる番なのだ。 何か滑稽で, くす

くす笑いた く なって く る。 これは, 自己を不純 とのみ知って, 自己の紺t青に 眼を 蔽 う 彼の

cynical な態度に他な らない。

右靴の紐を結ぼ う と した時, 伯父の躾別の小かばんが眼にと まる。 中味は飛び散っ て, 祈

祷書だけが見当らぬが, その濡れた頁を , 昔 Aaronの下女が一々乾かして くれた, その出来k

栄えを確めるこ と もな く彼女に感謝した ことを後悔する。 ,

右足の靴をぽかんと長 く見つめている うちに, 悲 しい佗 しさに襲われ, 彼はそれを 脱い

で, 左足の靴と共に, 死体の近 く√ 手の届く ところに, きちんと置いてやった

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Robert Penn W arren の ”W ilderness” につ い て

“ritual” であって, 重大な転機となる。再び無表情の死人の顔を眺めて彼は思うのだった

107

と思ったさせ, 敵兵を射殺した動機にも, 正義の闘いに参戦した純な

25

しかし, 彼は, この世に生きていたのだ。 彼の顔には, 自分には分らぬ何物かがあるに違い

ないと。 そ こに立つた まま, 彼は自分の死に顔はどんな風だろ う, 自分の送った生活の, ど

んな印しが其処に残 り得るだろ うかと思う。 そ して, この死人の顔と変 りはないだろ う, 自

分は他人と違ってはいないと 自覚す るのだった。 これは mysticismによる onenessof being

の悟りを思わせる。 死んだ兵士を 目醒まさせぬよ うに息使いも静かになっている ことを彼は

発見する。 祈祷書も眼にと まった。 しかし, 手にす る ことは差控えた。

燃え上る北方の森の中に叫び声が一つでも聞えた ら, 飛び込んで行って, 炎の中から負傷

兵を救い出そ う と思う。 叫び声は聞えなかったが, 心の中で苦悶の叫びを描 く のだった。 そ

れから眼を閉じて, しだの間に脆 く 。 彼の口から, 昔 Bavariaで父の遺体が埋葬された 日,

無関心に口ずさんだ祈 りの言葉が溶々と出て来た。 場所と時間を超え, 故国と異国と,コ過去

と現在とが共に流れる。 今, 彼は, 自己の正義の純情一 善- に宿 る不純 な汚れ一 悪

- を知って互に。愛し合い, 共存に努めるのが不完全な人間の道だと分る。自己 (self) の悪,

罪, 汚れは神が人間に賦与 したものであ り, 時間の中で苦 しみながら, それを克服して正 し

い歴史をつ く ることに人間の光栄があ り, それは時間の外なる神の意を体するこ とに他な ら

な い。 そ こ に時間の内 と外 と の正 し い結 びつ き があ る 。 斯 く 観 じ て , 彼は, 父 が self の善

に宿る悪に気付き, 神 の恩寵を受け容れて死んだのだ と考七 父を理解できた。 罪の悪は人

類を結び, すべてが絡み合い, 他人も我も人なのだ。 彼は父なる過去に現在の自分を結びつ

け, 過去の意味が分って , 責任感を もって, 現在の重荷に堪えて行 く ことができる。 そ こに

は連続する世代に託し得る未来への希望があ り得よ う。 彼は人が, 人間と して生きるために

知 らねばな らぬ真理を 掴んだのだ。 Aaronの言葉を今や理解 し得た。

彼は思 うー やがて立上って, 自分の夢にせき立て られた昔と同じように, しなければな

らない こ とをす る こ と がで きるだろ う。 善かれ, 悪 しかれ, ただや らねばな らない こ とだけ

をやってきたのだ。 ただ人間にすぎないのだ。必要な ら, また, 同じこ とを繰 り返 してやるだ

ろ う。 敵兵を殺 し もす るだろ う と。 しかし, 心の奥で叫ぶ, 前とは違った心を以てやろ うと。

彼は, 人が人間とな るために知 らねばな らないことを知ろ う と努めるこ どが必要だ と 思

う。 この真理は裏切る ことのできぬものである こと, 真理の裏切 り者だけが裏切 られるこ と,

それも自分自身が裏切 ることによってのみ裏切 られることを知るように 努めるこ とが必要だ

と思 う。 これは自己知識 (self-knowledge) の必要の強調である。

彼は他人の靴をはき , 該を引きながら, 荒野から歩いて出て行かねばな らないことを知っ

た 。 こ の靴 も , こ の 世: の時 間 の さ 中 の , 人 間的 努 力 に よ っ て 死 人か ら死 人 へ と 渡 っ た の だ

と, 今は思われるのだ。 死者たちの名前さえ分 らない一 決して分るまいー のが彼には悲

しいが, 彼等の無名さ に, また彼等が人間と して, 誤ちながら耐え忍んできた と ころのもの

に, 値するよ う努める ことができよ う と静かに, 謙虚に, 明るさを失わず に思 う ので あ っ

た 。

以上 Adamの遍歴には, 人種的偏見, 人間の矛盾, 偏愛, 憎悪, 残虐さ , 物欲, 性欲, 正

義心の放棄, 無価値さ など, 汚れと悪が縫れ合い, それと絡み合って Jacobの靴の正義の投資,

Moseの Adam 救出, Aaronの努力と成功, Jedeenの若き 日の正 しい行為 , Hansの憤慨など

美しさ , 善さがある。 善悪さ まざまな経験に接 して己の理想主義を試練された彼が敵兵を殺

して( 迂曲思案の果, 掴み得た真理は, 善の中に悪の宿る自己の不完全なすがたに彼を開眼

動機にも不純さ

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があ る̄ こ とを教えた。 斯 く て , 本来一体である 自己の善 と悪 とを別 々匹切 り離 しして悲劇を醸

す精神分裂症から救われ, 彼は, 人類和合の心で人生を見ることができ, そ うする努力を心

に堅 く誓 うのである。 Jedeenは, 善悪が分裂し, 自己を発見 し得なかった 男で あ る。 彼の

上, 下半身の違いがそれを示 している。 不可思議な人生において, 彼の自己発見には罪意識,

人間の価値の謙虚な認識, 孤独感の克服, 愛の心, 過去 (父) と現在 ( 自分) との結びつき,

時間の外(out of Time, あ0 世, 神) と内 (in Time, この世) との, け じめとつながりが必

要であった。 彼の自己発見を 積極的に助けた人物に, まず Aaron次いで Mrs.PUghがある。

Adamの, 正義の自由のために闘お うとする願望が, 自分自身を 自由に しよう とする要求

と裏腹であるこ とに注意した い。それは, 彼が単独行動を とっ てか ら, それまでの経験に裏付

けされて, 顕著になってお り, Mrs. Pugh との応答に, 更に, 林間の空地における彼の思考に明

白である。

理想主義者 Adamの眼に映 る自然は美わ し く , その偉大さ , 美 し さが, そのまま, 自然の

偉大さ , 美しさにな り, 神と 自然と人間の一体を謳 う超絶主議の趣さえあった。 夢と現実と

の区別がつかなかった し, 子供の純心さに傾倒した。 真理を発見して, 彼はそれを批判せね

ばな らない。 謙遜な態度で, なお自然を美 しいと感 じるであろ う。

彼のえび足は, Aaronが見抜いた よ うに, すべての人間が生れつ き持つ欠陥であ り, Adam

は, 明白に, なべて, 不完全 な人間の姿となる。 かつて Adam 自身が Moseに説明した よ う

に, Adam とはヘブライ語で manを意味し, 人類を愛し, 人間の完成を望んだ父が, Adam

が四海同胞である ことを知っ て完成した人間になるように, この名を付けた ことは意義深い

( この名と, その由来の意味が本当に分るのは, 父も子も後であった) 。 えび足のために 正義の

闘いに参戦し, 敵兵を殺した のだ と, 己の動機に潜む不純さ, 人間の不完全さを Adamは知

ったが, 自分の足が他人の足 と違っている こ とを強 く意識 しながら, 自己の不完全さに長 く

108 横 田 忠 輔

こ と も含めて

気付かなかった。 こ こには Adam とい う名と, その名の由来の意味が後では じめて分る

人生への皮肉がある。 不具でない常人な ら, なお更自分の不完全さに気付

かぬだ ろ う。 Adam の愚かな までに理想的な性格が, また , 皮肉に見 え も し よ う。 哀感は生

れない。 そのよ うな理想主義の減少を嘆きこそすれ, むしろその必要を, 本作の結末の, す

ぐれた く だ りは示 している。

えび足は歪んだ人生観を抱かせもした。 不純さ, 不完全さを知 りながら, Adamは不純な

汚れこそ世のすがたであると誤認 し, 悪に善が宿る self の真相を知 り得なかった。 これは,

こんどは自分の番だと, 転々と持主の変った死人の靴を, 喜び勇み, 奪いと ってはこ う とす

る冷笑的な態度に象徴されている。 そ こでは責任感乱 真実を求める心も要 ら な い。 汚れ

た, この世はそれで よかった 。

老 Jacobの靴が, 心な く , 南軍兵に奪われ, 彼のレ まと もな足に役立たぬまま, 腰にぶら

さげ られ, Adam を苦 しめる こ とになるのも人生の皮肉に違いない。 靴は戦場の必需品であ

り, 靴への無法な執着と, その転々とする様は, 移 して, 人生の烈 しい物質欲や利己主義を

連想させる。 序ながら, 南軍兵の銃で南軍兵が殺されるのも人生なのだ。 ‥ 丿

し 以前と違った心になって, 常人のよ うに見せて くれる Jacobめ靴でな く , 不具の足に合わ

ぬ他人の靴をはいて, 該を引きながら出て行こ う とする彼は謙虚に, 人類の共有する罪を認

め, 人間同志の深い交わ りを意識している。 自己が善悪一体であることを知った彼は, 人生

の事象を善と悪と, 白と黒と, 正反対の両極に決めつげて眺めずに, 中位を保ち, 均衡を失わ

jどいとする9牝 そして広く人生の事象 に対して一方的な強慾を慎む。一途な物質欲や利己

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Robert Penn W arren の ¨W ilderness” に つい て 109

主義は彼の肯んずると ころではない。 転々とする靴に人間的努力を見るのも, そのためであ

る。 斯 く て, 彼は物質; 機械文明の中に人間の面 目を保つことができる し, この意味で, 彼

は不完全な人間のなすべき努力を力強 く示 している。

彼に真理を発見させる, よすがとなった饒別の小かばんを何故彼は携行しよう と しなかっ

たのか。 中味は飛び散った ままであった。 彼が神の力を信 じなかったのではない。 祈祷に関

心を示 した し, 小かばんを最後まで捨てる気にならなかった。 時間の外と内とを結びつける

テーマの上か らも疎かにで きる品物ではない。 その理由は, 神の代理者と しての歴史への責

任感が, まず, 彼の心を支配 したからと見ねばな らない。 時間の中に正 しい歴史を “歴史”

のために創 りたいと願 う彼の humanismのためである。 人間の悪の克服を専ら神 の力に仰

ぎ, 時間の中の行動よ りも時間の外の神に頼った伯父の与えた小かばんを彼は敢て敬遠した

のだ。 彼が, かつて Jacobの靴と伯父の小かばんとの間に挾まって痛 く悩んだ こ とを想い起

したい。 両者のバラ ンスに悩むのが人の常である。

人は, いつ 乱 や らねばな らぬ こ とをやるんだ と彼は口にするが, 彼の行動が, 終始, モ

の好例である。行動から信念が生れるのか, 信念から行動が生れるのか, 彼は度々案じたが,

これは試行錯誤 (trial anderror) であろ う。 彼が南軍兵を射殺 しだの乱 軍人を志願 してな

り得なかった彼が無意識的に, 軍人と してやらねばな らぬこ とをやったのだ と も考え られは

しないか。 彼と対欧的に伯父かお り, 又 Jacobがいる。 Mrs. Pughが云った よ うに, 彼はア

メ リカへ来な く ても よかったのかも しれない。

彼は荒野に美 しい夢を託す可能性を失わぬであろ う。 荒野が彼を温か く見守る可能性を持

つ と彼は信ずるであろ う。 本作題名の 「荒野」 は人間を機械文明から守る何物かを象徴 して

いるo この題名に T.S. Eliotの “TheWaste Land” を思い起すが, 基調の点か ら。 こ こで

それに触れる こ とは避けたい。

Warrenは, 彼のす’ぐれた W. Faulkner論の中で, 過去において真理の概念が, たとい真

理が容易に実現され得なかったに して乱 存在 していた と云い, Faulkner の ’゙TheBear”

の中の一節- J. Keatsの “Odeon aGrecian Um” の詩句を含むー を引用 しつつ, 真理

は一つ しかな く , 変る ことな く , 人の心に触れる総てのもの一 名誉, 誇 り, 憐れみ, 正義,

勇気, 愛- を包含する旨を伝え, 真理の概念一 人の心に触れ, 人生の機械的動向に打克

と う とする人間の努力を明示する総てのものを含むー の存在こそ 緊要であると述べている

が, それは, そのまま, Adamの悟った真理の説明に役立ち, 改めて深い意義が感 じ られる。

参 二考 文 献

1. Charles H . Bohner, R晶ぼ£ 良 ,1,z ΓαΓΓa , T wayne Publishers, lnc., 1964, T wayne’s United

Authors Series.

2. Paul χVest, 尺o& r£ Pa yx r αΓΓeπ, Universityof M innesC)ta Press, 1964, University of M innesota

Pamphlets on American χVriters ・ N0. 44.

3. Cleanth Brooksバ R.P. χVarren: Experience Redeemed in Knowledge,” TheH iddert Cod, Y ale

University Press, 1963・

4. U rsula Brumm , ”W ildernessand Civilization: A Noteon W illiam Faulkne1イ 甲Ⅲ iam Fad kner:

ryxreel)2cd 5 ザ Cr沢山m, Frederick J. Hoffman and 01gaW . Vickery, eds., Michigan State

University Press, 1960.

5. R.P. Warrenバ W miam Faulkner ( 1946- 50) ,” Sdcctd Essays, EyreandSpottiswoode, London,

1964. (本小論末尾の引用は67頁より)

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