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ab 201211Chief Investment Officer Wealth Management UBS CIO Monthly Letter この世の中には2種類の「法」がある。一つ は、我々が破ることを許されない人が作った 「法律」である。もう一つは我々にはどうして も破ることのできない「法則」で、たとえば重 力などがこれにあたる。「法則」の驚異を我 々に実感させてくれたのが、オーストリア人 の冒険家バウムガートナー氏の快挙だ。「怖 いもの知らずのフェリックス」のあだ名を持つ 同氏はつい最近(1014日)、高度39kmカプセルから飛び降り、重力だけを推進力に 最高時速1,340kmを超えるスピードを記録す ることに成功、音速の壁を越えた(マッハ 1.24)最初のスカイダイバーとなった。 重力と同じように、我々人類の人口の変化、 つまり「人口動態」も自然法則の一つであ る。平均寿命の長期化、出生率の低下、そし て「ベビーブーム」世代の高齢化とともに、世 界人口に占める高齢者の割合は上昇してい る。この傾向が最も進んでいるのは裕福な国 々であるが、その一方で中国をはじめとする 新興国でも次第に懸念が高まっている。国 連は、全人口に占める60歳以上の世界人口 の割合が2050年までに現在の倍の22%に 達すると予測している。 これが経済と財政に及ぼす影響は深刻だ。 人口全体が高齢化し、年金債務と医療費債 務が急増し、すでに高負担となっている財政 に追加的な圧力になっている。スカイダイバ ーが重力を無視できないのと同様、政府は 人口動態という力を押し止めることができな い。そして高齢化する人口は必然的に潜在 成長力を鈍化させるはずである。しかし、政 策担当者にもできることはある。それは、国 の債務が資産から見て無理なペースで伸び 続けないような措置を講じることである。 とは言え、現状打破の改革を実行することは 容易ではない。というのも、これは「社会契 約」の核心に手を着けることにほかならない からだ。社会契約とは、市民と国家が互いに (権利と)義務を負うことを認め合うという両 者間の黙示的契約のことで、国や地域によっ て様々な発展を遂げてきた。社会契約は、欧 州では手厚い福祉国家の上に成立してきた のに対し、米国では社会保障とメディケア(高 齢者向け医療保険制度)という2つの柱によ って支えられてきた。一方中国では、統治す る側にいるエリート層に対する支援が国家丸 抱えの成長をもたらし、それが数億人の人々 を貧困状態から引き上げるという形で報われ てきたのである。「社会契約」は自然法則で はなく、破られるべきではない規則だというの が一般的なとらえ方だろうが、しかし政府に 支払能力を維持させたいのであれば、契約 条件は再交渉できるはずだし、またそうすべ きである。ところが、数多くの欧州周辺国で起 きている人々の抗議運動を見ると、これが残 酷なほどに困難なプロセスであることがわか る。 本レターでは、我々の注目する主要地域に ついて現在の投資見通しを振り返ることとす る。これを効果的に行うために、ひとまずは 日々の市場の動きから一歩距離を置き、人 口構造の変化が経済にどのような影響を及 ぼすのかを考え、さらには米国の「財政の崖 fiscal cliff)」をめぐる論争からユーロ圏の債 務持続可能性、そして中国の経済成長モデ Alexander S. Friedman CIO UBS WM 本レポートはUBS AG(チューリッヒ本店)により作成されました。本レポートの末尾に掲載されている「お客様へのお知らせ」は大変重要なので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運 用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。 「人口動態」という抗えない力

UBS CIO Monthly Letter...UBS CIO Monthly Letter この世の中には2種類の「法」がある。一つ は、我々が破ることを許されない人が作った 「法律」である。もう一つは我々にはどうして

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Page 1: UBS CIO Monthly Letter...UBS CIO Monthly Letter この世の中には2種類の「法」がある。一つ は、我々が破ることを許されない人が作った 「法律」である。もう一つは我々にはどうして

ab 2012年11月Chief Investment Officer Wealth Management

UBS CIO Monthly Letter

この世の中には2種類の「法」がある。一つ

は、我々が破ることを許されない人が作った

「法律」である。もう一つは我々にはどうして

も破ることのできない「法則」で、たとえば重

力などがこれにあたる。「法則」の驚異を我

々に実感させてくれたのが、オーストリア人

の冒険家バウムガートナー氏の快挙だ。「怖

いもの知らずのフェリックス」のあだ名を持つ

同氏はつい最近(10月14日)、高度39kmの

カプセルから飛び降り、重力だけを推進力に

最高時速1,340kmを超えるスピードを記録す

ることに成功、音速の壁を越えた(マッハ

1.24)最初のスカイダイバーとなった。

重力と同じように、我々人類の人口の変化、

つまり「人口動態」も自然法則の一つであ

る。平均寿命の長期化、出生率の低下、そし

て「ベビーブーム」世代の高齢化とともに、世

界人口に占める高齢者の割合は上昇してい

る。この傾向が最も進んでいるのは裕福な国

々であるが、その一方で中国をはじめとする

新興国でも次第に懸念が高まっている。国

連は、全人口に占める60歳以上の世界人口

の割合が2050年までに現在の倍の22%に

達すると予測している。

これが経済と財政に及ぼす影響は深刻だ。

人口全体が高齢化し、年金債務と医療費債

務が急増し、すでに高負担となっている財政

に追加的な圧力になっている。スカイダイバ

ーが重力を無視できないのと同様、政府は

人口動態という力を押し止めることができな

い。そして高齢化する人口は必然的に潜在

成長力を鈍化させるはずである。しかし、政

策担当者にもできることはある。それは、国

の債務が資産から見て無理なペースで伸び

続けないような措置を講じることである。

とは言え、現状打破の改革を実行することは

容易ではない。というのも、これは「社会契

約」の核心に手を着けることにほかならない

からだ。社会契約とは、市民と国家が互いに

(権利と)義務を負うことを認め合うという両

者間の黙示的契約のことで、国や地域によっ

て様々な発展を遂げてきた。社会契約は、欧

州では手厚い福祉国家の上に成立してきた

のに対し、米国では社会保障とメディケア(高

齢者向け医療保険制度)という2つの柱によ

って支えられてきた。一方中国では、統治す

る側にいるエリート層に対する支援が国家丸

抱えの成長をもたらし、それが数億人の人々

を貧困状態から引き上げるという形で報われ

てきたのである。「社会契約」は自然法則で

はなく、破られるべきではない規則だというの

が一般的なとらえ方だろうが、しかし政府に

支払能力を維持させたいのであれば、契約

条件は再交渉できるはずだし、またそうすべ

きである。ところが、数多くの欧州周辺国で起

きている人々の抗議運動を見ると、これが残

酷なほどに困難なプロセスであることがわか

る。

本レターでは、我々の注目する主要地域に

ついて現在の投資見通しを振り返ることとす

る。これを効果的に行うために、ひとまずは

日々の市場の動きから一歩距離を置き、人

口構造の変化が経済にどのような影響を及

ぼすのかを考え、さらには米国の「財政の崖

(fiscal cliff)」をめぐる論争からユーロ圏の債

務持続可能性、そして中国の経済成長モデ

Alexander S. FriedmanCIO UBS WM

本レポートはUBS AG(チューリッヒ本店)により作成されました。本レポートの末尾に掲載されている「お客様へのお知らせ」は大変重要なので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運

用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。

「人口動態」という抗えない力

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UBS CIO Monthly Letter

2 UBS Chief Investment Office 2012年11月

ルの将来性に至るまで、人口構造が変化すると今日およ

び将来の政治論争の結末や意思決定がどう変わるのか

を検討する必要がある。

米国 - 財政改革に重くのしかかる人口動態

米国は、今後4年間で民主党、共和党のどちらがこの国を

主導していくのか、そして社会契約が将来どう書き換わる

のかを決める大きな論争が最終段階に来ている。米国の

財政は、持続不可能な経路の上にあり、このままでは必ず

行き詰まる。したがって人口構造の逼迫状況が近づくにつ

れ、歳入(税収)と歳出の優先順位をどうするのかについ

て難しい判断をしなければならなくなるだろう。

他の高齢化社会と同様(図表1を参照)、米国では給付を

受ける退職者一人に対する労働者の数が減少し続けて

いる。1950年には、社会保障給付を受ける退職者一人に

対し給与税を支払っている労働者の数は16人だった。今

日ではその数が3人で、今後10年もすればこの割合は2対1になる。

米国は2001年以降財政赤字に陥っており、その累積の

結果、連邦政府の債務残高は国内総生産(GDP)の100%を超え、60年ぶりの高水準に達している(図表2を参

照)。アナリストの試算によると、これから30年間の社会

保障費と医療費の債務残高の現在価値を考慮した場

合、債務残高の対GDP比率は300%を超える見込みであ

る。

中央銀行が極めて緩和的な金融政策を実施し、米国債

が安全避難資産としての地位を得ているため、米国政府

は今のところ歴史的低水準のコストで赤字分を埋められ

ているが、このような甘い環境がいつまでも続くはずはな

い。様々に考えられる方策の中でも医療費の削減が極め

て重要になるはずである。というのもメディケアへの支出

予定額が米国の将来の債務額の半分を超えると予想さ

れているからだ。

米国が財政を正常化しなければならないことは明白であ

る。

しかし、現段階は、短兵急に財政を引き締めすぎると景気

後退を招きかねない状況にある。選挙後の議会が取り組

むべき最大の緊急課題は「財政の崖」の解決だろう。1月に民主党と共和党の合意がなされないと、6,070億米ドル

(GDPの3.7%)に及ぶ歳出削減プログラムと増税が自動

的に発動される。最もありそうなのは、財政の崖を乗り越

えて落下するのではなく、例えば財政赤字を徐々に(GDPの0.7%程度)減らすという「財政の穴(fiscal pothole)」という決着であろう。この施策は経済成長を減速させるだろ

うが、米国を景気後退に追い込むことはなさそうだ。

しかし、もし市場に対する信頼を持続的に取り戻そうとす

るならば、政治家たちは早急に方向転換し、信頼に足る

長期の赤字削減計画を2013年中に策定しなければなら

ない。社会契約の内容をどう書き換えるべきなのか?こ

の判断が投資環境を展望するにあたって極めて重要な

意味を持つだろう。

今日の投資家にとっての意味:連邦債務上限問題が政争

の具となってしまい、交渉がまとまらないうちに政治家が米

国を「財政の崖」から突き落としてしまうリスクが残ってい

る。市場はこの決着を織り込んでおらず、またこれは我々

の基本シナリオにも入っていない。それでも、このリスクの

二者択一的な性格と、選挙年には政治家は例年ほど合理

的に動かないという事実を踏まえると、現時点で投資ポー

トフォリオにリスクを追加することは論理的ではなさそうで

2: GDP 100%GDP

IMF 2011 12 31

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3 UBS Chief Investment Office 2012年11月

ある。さらに、長く続いた在庫再積み増し期間が終了し、米

国の政治状況と世界の経済成長に関する不確実性が高ま

ったため、各社は在庫を引き締め、設備投資を抑制するよ

うになった。これらの要素は、現在の第3四半期の業績発

表シーズン中に何らかの悪影響を及ぼすはずである。

ユーロ圏 - 人口動態によって債務状況が悪化

欧州では、迫り来る人口構成の変化の及ぼす圧力は米

国よりも深刻である。例えば、2050年になる頃には、ポル

トガルの人口の40%は60歳を超え、高齢者の比率では

日本に次ぐ地位となる。イタリア、スペイン、ドイツの比率

は38%とポルトガルに肉薄し、いずれも世界で最も高齢

な国の仲間入りをする。高齢化のスピードが加速している

ため、欧州のソブリン債務危機に対して持続可能な解決

法を見つけ出すことが急務となっている。

債務持続性を達成するには、本質的には緊縮財政を実施

するか、経済成長率を高めるか、の2つの方法がある。欧

州周辺国は前者を強いられてきた。その結果、マスコミで

報じられるニュースは財政改革、増税、公務員の年金給

付の削減や給与カット、そして定年延長といった話題でい

っぱいとなった。ギリシャとスペインで激しいデモが続いて

いることからもわかるように、社会契約は危機に瀕してい

る。また、過去数ヶ月にわたって、緊縮財政は成長に負の

影響を与え、結局債務持続可能性を損なうのではないか

という論争が激しくなっている。国際通貨基金(IMF)は最

近、今回の大不況が始まって以来、緊縮財政は予想以上

に景気をむしばんできたと指摘した。

ユーロ圏が抱える諸問題の根幹にあるのは、欧州中核諸

国と欧州周辺諸国との間に横たわる競争力の大きなギャ

ップである。ドイツの人件費は2000年から2009年の間に

18%上昇したが、これはイタリアの35%、スペインの50%よりもかなり低い。我々の試算によると、人件費をどの国も

同程度の水準に戻すには、イタリアとスペインは為替レー

トがここから20%下がらねばならず、一方ポルトガルとギリ

シャも30%の再調整が必要である。つまり、欧州周辺諸国

のデフレと中核国のインフレという痛みの伴う代償が必要

というわけである。

構造改革も必要だろう。世界銀行が発表している「ビジネス

環境の現状(Doing Business)」ランキングによると、現在は

イタリアよりもモンゴルの方がビジネスをしやすい。この点

からすると、今年はイタリアで労働市場法の見直しや、保険

から税制に至る幅広い範囲での規制緩和など、新たに様

々な改革が行われたとの発表は明るいニュースである。

今日の投資家にとっての意味:欧州の金融市場に大きな

影響を及ぼし得るのは、今後も当面は欧州中央銀行

(ECB)だ。スペインやその他の周辺国の政治家が自国の

競争力と成長力、そして債務の持続可能性を回復すべく

様々な改革案を実施している間、市場は落ち着いていて

くれる必要がある。そのために極めて重要な役割を果た

しているのがECBなのだ。スペインが正式な支援を申し込

めば、自国の借り入れコストを低下させるためのプログラ

ムが発動される。現在は市場がそのスペインの行動を待

っている状況にある。しかし、長期的には、潜在成長力と

資産価格のリターンに大きな影響を及ぼすのは人口動態

だろう。競争力を回復し生産力を向上させる大胆な改革

を実行しないと、欧州は潜在力を下回る成長(subpar growth)という新たな枠組みに押し込められてしまう可能

性がある。

欧州のテールリスク(発生確率は低いが、起きると影響が

大きいリスク)がある程度後退したのは事実ではあるが、

欧州大陸はなお景気後退にあり、力強い景気回復は当

面望めそうにない。したがって、成長を探している投資家

は、この地域以外に目を向ける必要がある。具体的に

は、成長力の強い新興国に進出している西側優良企業

はこの課題に対する一つの答えである。もう一つの方法

は、高配当の優良銘柄への投資である。低成長という投

資環境下では、株式のトータル・リターンに対する配当の

貢献度が高まるはずだ。

中国 - 成長モデルの変更が必要

中国の社会契約は、ほとんど完全に高度経済成長の維

持をよりどころとしている。およそ6億人の人々が貧困か

ら脱出することができたのもこの社会契約があったからと

いう側面もある。固定資産投資、農業セクターから産業セ

クターへの巨大な労働力の移動、そして「一人っ子政策」

によって促進された全人口に対する労働力人口の比率

の伸び-こうした要素が中国の成長に拍車をかけた。

一人っ子政策によって、共働き夫婦が一人の子どもを育

てるようになったのだが、両親が年を取るに従ってこの関

係が逆転し、一つの家族の中で一人の成人労働者が二

人の高齢者の両親を支えなければならなくなる。中国で

は社会のセーフティネットが弱いため、この調整がとりわ

け難しい。中国の家計は医療と退職に備えて貯蓄をする

必要がある。中国の貯蓄率が40%近くと異常に高いのに

はこうした事情も背景となっている。その結果、個人消費

を引き上げるのが難しく、中国ではこれがGDPのわずか

35%にとどまっており、およそ70%の米国、57%の欧州

よりもかなり低い。

中国の指導層は、投資への過度な依存による成長を脱

し、個人消費を重視する必要があるが、この経済構造の

変容は必然的に社会契約に影響を及ぼすはずである。こ

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UBS CIO Monthly Letter

4 UBS Chief Investment Office 2012年11月

れを促進する一つの方法は、医療と年金への公的支出を

増やすことで、社会のセーフティネットが整えば家計の貯

蓄率の低下に一役買うことになろう。もう一つの方法は、

中国人民元のさらなる上昇を容認して消費者の購買力を

高めることである。中国人民元(CNY)は10月に19年ぶり

の高値を記録したが、市場はこの上昇が続くとは予想して

おらず、今後12ヶ月で1.7%の下落を織り込んでいる。

今日の投資家にとっての意味:人口動態と、高成長を維持

しなければならないという政治上の責務は、中国の政策を

正反対方向に引っ張る2つの要素である。中国経済の回

復ペースとその世界経済への影響は、新指導部が固定資

産投資を刺激し続けるのかどうか、あるいは成長の内訳

を再調整するかによって変わってくるだろう。仮に前者を

選択すると、短期的かつ戦術的観点からすればプラスで、

世界の経済データも改善し、リスクに対する見方もより楽

観的になるはずだ。しかし、仮に後者が選択された場合で

も、短期的には痛みを伴うだろうが、最終的には持続性の

高い道筋をたどることになろう。

最近のデータによると、9月の輸出は前年同月比+9.9% (前月は+2.7%)、固定資産投資は同+20.5%と大幅に伸

び、個人消費重視へと向かう再調整の徴候はない。全体

として、今四半期(10-12月期)は、「景気循環の」上昇局

面に入ろうとする中国の経済モメンタムを支えるためのイ

ンフラ投資やその他の刺激策が予想される。したがって、

中国は新興国株式の中ではなお選好できる市場である

が、我々は政策決定者が正しい長期的判断をできるかど

うかを慎重に見守っているところである。

日本について注意すべきこと

人口動態が投資にどのような影響を及ぼすのかの考察

は、日本に関する観察を抜きにしては終わらないだろう。

日本は世界で最も高齢化の進んでいる社会で、その人口

は今後50年間で30%縮小し、2050年までに国民の42%が60歳を超えるだろうと予想されている。日本はまた、公

的債務の対GDP比率が世界で最も高い。それでもこの国

が持ちこたえているのは、民間セクターの高い貯蓄率が

あればこそである。ところが残念なことに、高齢化が進む

と人々は退職後の生活に資金が必要となるので必然的

に貯蓄率が低下し、結果として債務の持続が難しくなる。

日本がインフレを利用してこの債務から抜けだそうとすれ

ば、次第に高齢化している人口が債券で保有している貯

蓄の価値を破壊することとなろう。貯蓄率が低下すれば

経済成長を支えるはずだが、最終的に債務危機を回避で

きるほどの成長率になるかどうかは現状ではわからな

い。日本は、(大きな国内貯蓄に支えられた)経済大国で

すら、債務問題と人口動態が衝突すると何が起きうるの

かを強烈に示す先行事例として今後も注目され続けるだ

ろう。

資産配分

全体として、高齢化社会のもたらす財政上の課題は、人

口動態主導の新たな投資パラダイム(枠組み)を作り出

し、これが世界の経済成長を鈍化させて、我々の時代に

おける重要なトレンドの一つになっていくだろう。世界経済

が持続的な成長路線に戻るには、各国の政策決定者はこ

れらの課題に、創造的かつ効果的な方法によって真正面

から取り組む必要がある。

一方、各国中央銀行による積極的な政策発動の結果テ

ールリスクは大幅に低下して、世界の経済成長は改善の

徴候を示し始め、米ハイイールド社債を中心とする社債

投資という「中道の」戦略にとっての追い風となっている。

米ハイイールド社債の年初来リターンは14%だが、投資

家にとっての主な疑問はこの上昇が続くのかという点で

ある。我々は、利回りスプレッドが約5.4%という現在の水

%

3:

UBS 2012 10 20

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5 UBS Chief Investment Office 2012年11月

準から我々の目標である4.75%へと縮小するため価格が

さらに上昇すると予想している。米国企業のバランスシー

トは、債務削減と慎重な事業活動によって修繕されてい

るものの、利回りスプレッドはなお危機前の2.4%よりもは

るかに大きい。

借り換えニーズが低く、米国の経済成長が続き、米国の

銀行セクターが健全であることも米ハイイールド債の支援

材料となっている。さらに、債務不履行(デフォルト)率は

過去平均を下回った状態が続いている(図表3を参照)。

我々の調査によると、長期的にはハイイールド社債のトー

タル・リターンは、主に「固定の」クーポンとデフォルト率と

いう2つの要素によって決定される(図表4を参照)。1990年以降のトータル・リターンのうち115%がクーポン、マイ

ナス30%がデフォルトによる損失で、残りの15%は米国

債利回りの低下によるものだった。その結果、ハイイール

ド債が相当のクーポンを提供している限り、現在の水準か

ら劇的なスプレッドの縮小が起きなくても妥当なリターンを

獲得できる。

なぜ我々は現在の環境下で株式をオーバーウェイトしな

いのか?グローバル株式は6月以降大幅に上昇したが、

この上昇が継続するためには、「財政の崖」をめぐる諸問

題の明確化、企業収益の再加速、そして企業ファンダメン

タルズのさらなる強化が必要と思われるからだ。

株式では、米国と新興国への選好を維持する。この1ヶ月

で、中国とブラジルを筆頭に、新興国に景気回復の徴候

が見え資金流入が増え始めた。さらに、多くの発展途上国

の企業群はエネルギーと原材料セクターに偏りがちな傾

向にあることから、コモディティ価格の上昇も新興国の企

業収益を支えそうである。最後に、新興国株式を測る伝統

的な指標であるインフレ率は抑制されている模様で、した

がって中央銀行による支援策の余地も残っている。こうし

た要素を鑑みると、新興国株式のオーバーウェイトは妥当

と判断する。

新興国に投資したいものの、ボラティリティはやや低水準

に抑えたいと希望する投資家向けとして、新興国社債の

魅力的な利回りに引き続き注目している。

主要通貨では、日本円のアンダーウェイトの推奨を維持

する。日本経済は他の諸国に比べて見劣りする状況が続

いており、日本銀行に対しさらなる量的緩和を迫る圧力

が高まっている。また、カナダ・ドルはここ数ヶ月対米ドル

で大幅に上昇し投資魅力が低下しているため、我々はカ

ナダ・ドルへの選好を終了した。最後に、カナダ・ドルのロ

ング・ポジションのペアとして保有していたスイス・フラン

のショート・ポジションを手仕舞った。

Alexander S. FriedmanGlobal Chief Investment OfficerWealth Management2012年10月25日

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6 UBS Chief Investment Office 2012年11月

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2.34%(上限)(ファンドごとに異なりますので、各ファンドの目論見書または販売用資料をご覧ください。)およびその他

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ん。投資信託は組み入れた有価証券の価格や為替相場などの変化により価格が変動し、損失が生じるおそれがあり

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金融商品取引法による業者概要

商号等: UBS証券株式会社、 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第2633号加入協会: 日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会

金融商品仲介等業務を行う登録金融機関 商号等: ユービーエス・エイ・ジー(銀行)東京支店、 登録金融機関: 関東財務局長(登金)第605 号 加入協会:日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会