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8 1/2008 複十字 No.319 神戸市結核対策における DOTS事業の取り組みに ついて 1.神戸市の概要 Use DOTS More Widely Use DOTS More Widely 神戸市保健所 予防衛生課 田中 賀子 神戸市は,兵庫県の南東部に位置し,南は,瀬 戸内海,北に六甲山を有し自然環境に恵まれ,9 区行政区,人口約153万人(平成18年)の政令指定 都市である。平成18年新登録結核患者数は494人 で,うち喀痰塗抹陽性肺結核患者数は173人,年末 登録結核患者数は1,164人である。罹患率は32.3で, 全国の20.6に比べ1.6倍と高く,新登録患者では, 70歳以上が4割を占めている。また罹患率は,市 内で地域較差があり中央3区(中央区・兵庫区・長 田区)で高く,全市結核患者数は毎年減少してい るが,鈍化傾向にある。 3.神戸市におけるDOTS事業の取り組み 届出患者には,各区で本人と初回面接(調査), 家族・接触者の健診,本人の服薬支援,治療終了 後の管理健診等を行う。この間,患者一人一人の 治療,服薬支援を総合的に実施している。患者の 治療完遂に向け院内DOTS,DOTSカンファレン ス,地域DOTS,コホート検討会と一連のDOTS 事業の体系化を図り,治療成功に向けた積極的な 患者支援体制を作ることができた。各事業の戦略 内容については,次に示すとおりである。なお, DOTS事業の対象者は,喀痰塗抹陽性肺結核患者 とし,その他培養陽性患者で支援が必要な者も対 象に加えた。 <戦略1> 院内DOTS(行政と病院との連携) 医療機関の院内DOTSは,国立病院機構兵庫中 央病院,西神戸医療センター,民間の谷向病院 の近隣の3病院に対して,各々平成12年10月, 平成13年6月,平成14年度から開始した。入院 中に服薬自己確認を習慣づけ,退院後も継続し て内服の自己管理を目標に指導をした。 一方,院内DOTS実施に先がけて,平成11年 から入院中の患者の菌検査状況確認のため,毎 月保健所から病院を訪問した。平成12年からは 保健・看護連絡会(月1回)を継続実施するこ とで,連携協力ができ上がったと考えられる。 平成17年度には服薬手帳を作成し,入院中から 病院職員の指導で,患者に活用方法を周知した。 また,平成18年度には,潜在性結核感染症の治 療対象者の服薬手帳も作成した。 核対策の効果は,結核罹患率の低下やコホート検 討会の判定評価による治療成功率の向上に示され ている。 2.神戸市における結核対策について 平成11年に国の「結核緊急事態宣言」を受け, 平成12年「神戸市緊急5ヵ年結核対策指針」を策 定し,現在,第二次指針に,①結核二次感染の防 止,②保健所・区保健福祉部の連携および事業強 化,③情報の精度管理の3本柱をかかげ,24事業 の数値目標を定めている。平成21年度までに,「神 戸市の結核罹患率を20台に,肺結核喀痰塗抹陽性 罹患率を10未満に低減させる」という基本目標に 向け対策を推進している。 神戸市保健所は,平成10年に9区の保健所を統 合,1保健所9区保健福祉部(保健センター)体 制とした。保健所では,結核対策の企画,感染症 診査協議会結核診査会,結核発生動向調査(サー ベランス事業)等の業務を実施し,結核患者管理 (定期健診・接触者健診・管理健診・DOTS事業 ・コホート検討会)は,各区保健福祉部で行い, 業務の統合による均一化と機能強化を図った。結 服薬手帳(写真 左:潜在性結核感染者用 右:治療者用) 図1 全国と神戸市の罹患率の比較 17 16 15 14 12 10 7 2 60 55 50 45 40 100 100 10

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8 1/2008 複十字 No.319

神戸市結核対策におけるDOTS事業の取り組みについて1.神戸市の概要

Use DOTS More WidelyUse DOTS More Widely

神戸市保健所

 予防衛生課 田中 賀子

 神戸市は,兵庫県の南東部に位置し,南は,瀬戸内海,北に六甲山を有し自然環境に恵まれ,9区行政区,人口約153万人(平成18年)の政令指定都市である。平成18年新登録結核患者数は494人で,うち喀痰塗抹陽性肺結核患者数は173人,年末登録結核患者数は1,164人である。罹患率は32.3で,全国の20.6に比べ1.6倍と高く,新登録患者では,70歳以上が4割を占めている。また罹患率は,市内で地域較差があり中央3区(中央区・兵庫区・長田区)で高く,全市結核患者数は毎年減少しているが,鈍化傾向にある。

3.神戸市におけるDOTS事業の取り組み

 届出患者には,各区で本人と初回面接(調査),家族・接触者の健診,本人の服薬支援,治療終了後の管理健診等を行う。この間,患者一人一人の治療,服薬支援を総合的に実施している。患者の治療完遂に向け院内DOTS,DOTSカンファレンス,地域DOTS,コホート検討会と一連のDOTS事業の体系化を図り,治療成功に向けた積極的な患者支援体制を作ることができた。各事業の戦略内容については,次に示すとおりである。なお,DOTS事業の対象者は,喀痰塗抹陽性肺結核患者とし,その他培養陽性患者で支援が必要な者も対象に加えた。<戦略1> 院内DOTS(行政と病院との連携) 医療機関の院内DOTSは,国立病院機構兵庫中 央病院,西神戸医療センター,民間の谷向病院 の近隣の3病院に対して,各々平成12年10月, 平成13年6月,平成14年度から開始した。入院 中に服薬自己確認を習慣づけ,退院後も継続し て内服の自己管理を目標に指導をした。  一方,院内DOTS実施に先がけて,平成11年 から入院中の患者の菌検査状況確認のため,毎 月保健所から病院を訪問した。平成12年からは 保健・看護連絡会(月1回)を継続実施するこ とで,連携協力ができ上がったと考えられる。 平成17年度には服薬手帳を作成し,入院中から 病院職員の指導で,患者に活用方法を周知した。 また,平成18年度には,潜在性結核感染症の治 療対象者の服薬手帳も作成した。

核対策の効果は,結核罹患率の低下やコホート検討会の判定評価による治療成功率の向上に示されている。

2.神戸市における結核対策について

 平成11年に国の「結核緊急事態宣言」を受け,平成12年「神戸市緊急5ヵ年結核対策指針」を策定し,現在,第二次指針に,①結核二次感染の防止,②保健所・区保健福祉部の連携および事業強化,③情報の精度管理の3本柱をかかげ,24事業の数値目標を定めている。平成21年度までに,「神戸市の結核罹患率を20台に,肺結核喀痰塗抹陽性罹患率を10未満に低減させる」という基本目標に向け対策を推進している。 神戸市保健所は,平成10年に9区の保健所を統合,1保健所9区保健福祉部(保健センター)体制とした。保健所では,結核対策の企画,感染症診査協議会結核診査会,結核発生動向調査(サーベランス事業)等の業務を実施し,結核患者管理(定期健診・接触者健診・管理健診・DOTS事業・コホート検討会)は,各区保健福祉部で行い,業務の統合による均一化と機能強化を図った。結 服薬手帳(写真 左:潜在性結核感染者用 右:治療者用)

図1 全国と神戸市の罹患率の比較

平成17年

平成16年

平成15年

平成14年

平成12年

平成10年

平成7年

平成2年

昭和60年

昭和55年

昭和50年

昭和45年

昭和40年

100

100

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91/2008 複十字 No.319

<戦略2> DOTSカンファレンス  平成17年4月に「神戸市DOTSカンファレン ス実施要領」を作成し,近隣の3結核病院の院 内DOTSと,退院後の地域DOTSへの連携を確 実に行うため開始した。対象者は,入院患者全 員で,約1ヵ月以内の退院見込みの患者とした。 月1回の開催で,病院側が準備したDOTS個人 計画票に添い,入院中の治療・服薬状況・療養 生活等を両者で検討し,また客観的指標を用い たアセスメント票を用い,地域での服薬支援方 法について点数化した。  当日は,受持看護師等から説明,担当保健師と 情報交換し服薬支援計画を作成した。参加者は, 病院から医師,看護師,薬剤師,事務等,行政か らは保健所の医師と保健師,並びに各区の担当保 健師とした。(平成18年度24回開催,142件実施)。<戦略3> 退院後の地域DOTS  平成13年7月に「神戸市DOTS事業実施要領」 を作成し,院内DOTSを受けて,退院した患者 のリスクに応じた服薬確認方法を選択した。当 初は,市内で結核罹患率が高く,治療中断者の 多い中央3区(前述)で実施した。対象者は住 所不定者等生活保護適用者で,本事業に同意し, かつ退院後の居所が明確な者とした。各区保健福 祉部長,医師会,更生センター・更生援護相談所 には神戸市DOTS事業実施の協力依頼をした。  平成15年4月,厚生労働省の「日本版21世紀 型DOTS戦略推進体系図(平成15年2月通知)」 を受け,対象区を全区に拡大した。対象者をA :治療中断のリスクが高い患者,B:服薬支援 が必要な患者,C:A・B以外の患者と明確化 した。A・Bの対象者は,服薬支援のDOTS看 護師を活用し,毎日または週1~3回の区役所 来所・訪問DOTSで実施した。Cの対象者は, 保健師による月1~2回の訪問・電話等による 連絡確認DOTSとした。保健師は,DOTSカン ファレンス・退院届出票から得た患者情報を基 に,退院後早期に面接し,服薬支援体制を整え 地域DOTS計画書を作成している。  平成13年7月から平成18年度のDOTS看護師 による服薬支援者は,111人でそのうち治癒・完 了者107人,行先不明の治療中断者は1人で,治 療成功率は99%に治めることができた。

4.おわりに

 平成19年4月「結核予防法」から「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に統合され,結核管理について半年を過ぎた。入院期間の短縮や,結核患者の高齢化に合わせて,地域DOTSの重要性がより一層高まることが予想され,限られた人員の中で効率的,効果的な業務の展開が求められている。そのためには,結核対策を担う行政側の柔軟性や患者の特性に適合した事業の展開が必要と考えられる。 結核患者の発生届から治療完遂に向けて,体系化した中で,今後も関係機関の連携・協力を得て,「第二次神戸市5か年結核対策指針」に沿った事業展開を推進し,罹患率低下の目標を達成していきたい。

<戦略4> コホート検討会(治療成績の評価)  平成10年度,4区においてモデル的に合同検 討会を開始した。平成11年度は3区で区別に実 施,平成12年度は8区13回,平成13年度は全9 区16回,平成14年度からは全9区23回実施して いる。  肺結核喀痰塗抹陽性患者について,登録から 治療終了までの治療状況に合わせて年2~4回 (3~6ヵ月毎)実施している。保健所・区保 健福祉部職員のほか,医療機関の医師や看護師 ・結核診査会委員の参加を得て評価を加えている。  コホート検討会では患者の治療成績のみなら ず,2週間以内の患者本人面接,退院時面接や 菌検査把握,接触者健診の実施率も評価し,解 決すべき問題を明確にしている。さらに,保健 師の間でも結核患者への包括的支援の認識が高 まり,活動性患者1人当りの訪問回数は増加し, また菌検査の把握率もほぼ100%となり,治療成 績の向上につながっている。

表1 神戸市DOTS事業(平成19年3月現在)   <男107名・女4名計111名>

表2 神戸市のコホート評価   (塗抹陽性肺結核の標準治療適用者)

図2 保健師の結核患者管理

平成18年

平成17年

平成16年

平成15年

平成14年

平成13年

平成12年