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減災 ネットワーク社会における 新たな市民参加型の減災を目指して GENSAI Version 1.0 2009/11/5 株式会社ウェザーニューズ

Version 1.0 2009/11/5weathernews.com/ja/nc/press/2009/pdf/gensai091105.pdfReduction Peter Rauh, Deputy Head of Forecasting, Federal Office of Meteorology and Climatology MeteoSwiss(スイス気象庁)

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減災ネットワーク社会における新たな市民参加型の減災を目指して

GENSAIVersion 1.0 2009/11/5

株式会社ウェザーニューズ

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減災 GENSAI Ver.1.0 1

これまでの災害に対する「防災 (Disaster Prevention)」という考え方は、災害を完璧に防ぐことを目標としてきました。しかし、災害を完全に防ぐことは現実的には難しく、あらゆる手段を講じて被害を少しでも減らしていく「減災 (Disaster Mitigation)」の考え方が今求められています。国連の「国際防災の 10年(International Decade of Disaster Reduction)」の公式文書の中にも Prevention ではなく、Reduction(減らす)という言葉が使われているように、世界的にも「減災」の考え方が主流です。IPCC の報告にもありますように、気候変動が進む中で、過去の延長線にはない気象・気候の変化が予想され、世界各地で異常気象とも言える現象が多く発生しています。こうした過去の想定を超える災害が増える状況において、起こりうる災害の可能性すべてに対応することは、物理的かつ費用的な面で現実的な対応がますます難しくなっていきます。絶対的な立ち位置に立ち、問題を解決しようとするアプローチではなく、起こりうることを予測し、その解決策とのミスマッチをなくすため、その都度最適解を求めていく考え方を弊社では、対応策(リスクコミュニケーション)として実践してきました。従来にない気象・気候の変化が顕在化しつつあるからこそ、この時点からできることを総動員してやっていく「減災」への取り組みを早急に進める必要があると考えています。災害を完璧に防ぐことは難しい、だからこそ、被害を少しでも減らすために、今できることからやる「減災」の考え方に立って、国、自治体、企業、個人が総力を挙げて取り組まなければならない時期が来ていると考えています。

防災=Prevention から減災=Mitigation へ

減災活動において、減災に有効な情報をいかに必要な人に、リアルタイムに届けるかが重要です。マスメディアを中心とした情報流通から、インターネットの普及により情報の量、リアルタイム性、多様性が圧倒的に増し、多対多の双方向のコミュニケーションが可能な現代において、情報の在り方が根本的に変わっています。グローバルかつリアルタイムに情報が交信できる今、多くの市民は複数の情報源から瞬時に情報を入手し、自らの判断に生かしています。また、このネットワークを通じて自らが参加し情報の発信主体となり、その情報・経験を共有することによって、他者の減災に貢献することが可能になっています。こうした市民の草の根の情報が、ネットワーク社会の減災活動では大きな力を発揮します。しかも、こうした個人の行動は、自発的、他者実現的に行われる傾向が強く、“Give & Take” ではなく、“Join & Share” とも呼べる、ネットワーク時代の新しい市民参加型(WITH 型)の減災活動の基盤となっていくと考えています。

ネットワーク社会の進展が「減災」を進める

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世界的に、気象災害を減らすために、官民の協力が推進されています。気象業務許可がなく民間が自由に気象予報業務をできる米国では、日本の気象庁にあたるNWSが、大きな気象災害をもたらす気象現象について Single "Official" Voice (政府の公式な発表)として警報を発表しておりますが、これは民間の予測や解説を妨げるものではありません。弊社は、気象庁の出す警報は、Single "Official" Voice (政府の公式な発表)として、社会に有用であると考えています。ここで言う Single "Official" Voice とは、スイス気象庁の 2nd International Workshop DKKV-ISDR で発表された資料にありますように、「政府のラベルの貼った公の情報(Governmental labeled)」であり、「独占(MONOPOLY)」的な Single Voice ではありません。唯一無二の情報を国が出す Single Voice という考え方ではなく、公の情報としての Single "Official" Voice と民間や他の機関の情報発信を許容し、官民の力を結集して、減災に貢献していくことが望ましいと考えております。Single Voice でないことによる弊害として、混乱を招く可能性がある、と一部で指摘されますが、気象庁の 21 世紀のグランドデザインが議論された 21 号答申は、平成 12 年に行われ、その後の約 10 年、平成 12 年以降に爆発的に普及した携帯電話やインターネットにより、情報流通を取り巻く環境が一変しています。高度な情報社会を迎えている現在、情報主体となりうる市民が参加し、多くの人が能動的に協力する、新しい減災情報の在り方を見直す時期にきていると考えています。

27thMarch2007, 2nd International Workshop DKKV-ISDR on Severe Storms over Europe - A Cross-Border Perspective of Disaster Reduction Peter Rauh, Deputy Head of Forecasting, Federal Office of Meteorology and Climatology MeteoSwiss (スイス気象庁)

Single “Official” Voice (減災情報の一元化について)

減災 GENSAI Ver.1.0 2

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「減災」への取り組みには、災害を軽減することを目的として、国をはじめとした「公助」だけではなく、個人やコミュニティなどの力を活用する「自助・共助」をさらに進める必要があるのは、阪神淡路大震災の教訓を例にあげるまでもありません。自らが自らの被害を防ぎ、軽減することが「減災」の基本であり、さらに個人を超えて周りの人たちとともに力を合わせ対処する「共助」は、コミュニティの力が減退している現代にあって、自然災害に限らず、社会の中でますます重要になっています。減災への対応は、それぞれの生活環境によって様々であり、それぞれの状況、事情にあった最適な減災活動ができることが理想です。そして、そのためには気象や減災に関する知識やその情報を主体的に取り込み判断材料として利用する力「減災リテラシー」を高めていくことが「自助・共助」をベースとした減災の広がり・浸透に重要だと考えています。ともすれば、これまでは公的な機関からの情報を一方向的に受けとり、それを唯一の情報として拠り所とする傾向があったのではないでしょうか。個人一人ひとりが、また周りと協力して、それぞれの状況に合わせた減災活動ができるように、気象をはじめとする災害に対する知識、情報の収集・伝達方法など「減災リテラシー」を、社会全体で向上させることが必要だと考えています。

「自助・共助」をベースとした「減災リテラシー」を高める

減災 GENSAI Ver.1.0 3

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これまで、防災に関わる情報は、気象庁が検定した観測機等で得られた実況データや 気象庁独自の解析方法によって得られた予報等が「一元化された防災情報」として 気象庁より発表されてきました。 その発表内容は主にマスメディアを通じて国民にあまねく伝えられ、企業や自治体は、 その発表を元に適切な危機管理体制をとることによって、それぞれが期待される役割 を果たし、国民の安全に貢献してきました。

しかし、このシステムは、防災に関わる情報を発信するインフラが “一方通行” であることが前提の構造であり、マスメディア中心の時代には、効果的に機能したシステムもインターネットに代表される双方向コミュニケーションが可能になった今、根本的にグランドデザインを考え直す時期にきていると考えています。

一方通行の情報流通の欠点は、情報の根幹が誤っていた場合のリスクが大きいこと、一度発表した情報の修正が困難なこと、元情報が不完全であった場合、現場からのフィードバックによる情報の高度化が進まないことなどが挙げられます。 更に、このシステムの最大な欠点は、最も情報を必要としている市民が参加できないデザインになっていることです。能動的に参加するチャンスを閉ざされた人々は、必然的に「誰かがやってくれる」という受け身となり、自然災害に対して国民一人ひとりの自主防衛本能が鈍ります。つまり、人が五感で自然を感じ、回避のために行動する能力=自助能力が衰えます。その結果、地域コミュニティによる共助も機能しなくなります。同様に、発表を元に行動を起こす各種防災組織や企業は、各々の危機管理に対するイノベーションを遅らせることになります。

減災の新たなグランドデザイン(市民を起点とした減災へ)

減災 GENSAI Ver.1.0 4

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インターネットは、人類にとって資産とも言うべきものであり、最大に活用することが減災に貢献します。2005年 8月ハリケーン・カトリーナの災害時に、インターネットによる安否確認など “救援のプラットホーム” が市民の善意によって生まれ、これまでにないネットワーク化された情報共有が効果を発揮しました。こうした力を潰すのではなく、活かす方向で次の時代の減災を考えなければいけないと考えています。

「市民」「企業」「自治体」「自主防災組織」などが、手を取り合って互いが持っている情報を出しあい、可能なかぎり管理しやすいフォーマットによって整理され、誰もが簡単にアクセスできるような公共の資産としての減災情報を集約することが、今後の減災のグランドデザインのベースとなると考えています。その際、気象庁や公的機関から発表される警報は、Single “Official” Voice として、混乱の起きないようにラベルをしっかりと貼って共有されれば、十分に機能します。

このシステムの中に、市民が参加することによって、機能改善のフィードバックが早く、イノベーションのスピードは一カ所で考えるより格段に上がり、その結果、個人個人の気象災害に対するリテラシーも向上します。誤った情報を出さない仕組み、不完全な情報発信にためらうシステムではなく、 誤った情報を沢山の目により素早く修正し、未完全な情報を沢山の英知を集約して高度化 するシステムを目指すことが求められています。

こうしたシステムが機能すれば、市民は減災リテラシーが向上し、当事者として、また他者を助ける者として、人がもっている素晴らしい本能が発揮できます。企業は市民の声を反映させた減災に役立つ商品やサービスを開発することが可能になり、報道・メディアは偏らず、客観的な視点で重要な情報を選別でき、自治体は、適切な初動体制や、減災計画に役立つとともに、市民との絆を再構築することができます。また、自主防災組織は、現場の情報を適切に把握し、迅速な行動がとれるようになります。責任を押しつけあうのではなく、同じ目標に向かって、それぞれが責任を共有し、枠を超えて誰もが減災活動に参加できるグランドデザインが、いま求められています。

減災 GENSAI Ver.1.0 5

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過去に多くの悲惨な地震、台風があった日本は、防災、減災活動において大きな進歩を遂げています。一方で、未だにアジアを中心に世界中では気象災害による被害が大きく、早急な支援が必要とされています。災害に対する豊富な経験をもち、世界的にも携帯・インターネットなど情報ネットワークが最も進んだ国のひとつである日本だからこそ、市民参加型の減災を確立し、世界中の減災活動をリードする存在(減災先進国ニッポン)として、世界に貢献していくことを目指すべきではないかと考えています。

大きな被害のあるアジアなどの開発途上国では、気象の観測網、予測の技術、情報のインフラが十分ではありません。しかし、そのインフラをつくりあげるためには、財政的にも、時間的にも早急に解決できない問題を抱えています。市民参加型の減災活動は、市民そのものが能動的に観測や感測に参加する「自助・共助」を基本とするため、すぐできることから減災活動が始められます。現在の最新のテクノロジーを利用することによって、市民が参加できる安価な観測・感測の機器、通信問題は克服できるものと考えます。

気候変動が進む中で、気象災害に対応し、環境問題を解決していく一つの国際的な活動としても、減災先進国ニッポンがこうした成功事例をグローバルに広げていくことこそ国際社会への真の貢献となると考えています。

減災先進国ニッポンを目指して

減災 GENSAI Ver.1.0 6

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減災 GENSAI Ver.1.0 7

『減災 Ch.』は、市民一人ひとりが、自助・共助をベースに、自ら持っている減災に役立つ情報を共有することができるように、過去の災害情報や地域の人から寄せられた身近な災害情報をデータベース化してカルテとしてインターネット上で広く公開しています。発生頻度の多い身近な冠水などの災害も含めて、個人の力で全国のカルテが整備されます。災害に直面した際に過去の被害状況と同様の気象条件になった際には、アラートメールにて各個人に伝達されます。

市民参加型による減災の事例

減災Ch.(減災確報)

台風接近時に、 “台風実況リポート/交通障害リポート/被害リポート”が個人から送られ、事中にどこで何が発生しているのかを広く詳細に把握することができます。台風 18 号の際には、25,000 通の個人からのリポートにより風雨の状況、停電、冠水の被害、交通障害の状況が共有されるとともに、あらゆる観測情報とあわせて台風事中の状況を面的に把握することが可能となりました。

台風リポート

従来の気象レーダや数値予報などの気象技術では予測が難しい “ゲリラ雷雨” への取り組みです。雨雲になる前の雲の発達状況を個人からのリポートで把握することと気象レーダ等の観測情報をあわせてゲリラ雷雨の発生を予測します。「ゲリラ雷雨防衛隊」には 25,884 人が参加し、都心ではゲリラ雷雨発生の平均 42 分前に約 90.6%のゲリラ雷雨を捕捉しました。

ゲリラ雷雨メール

「竜巻アラーム」は、2009 年夏、群馬県館林で発生した竜巻をきっかけに始まりました。個人からのリポートにて竜巻発生が報告された際に、気象の場も考慮した上で、竜巻が発生している気象場の状況が継続している、またはその危険性が高い場合、登録者に携帯電話にアラートメールで状況を伝達します。竜巻アラームは、現在起きている竜巻の情報をたくさんの人に一瞬で共有されます。

竜巻アラーム

http://weathernews.jp/gensai

http://weathernews.jp/typhoon/

http://wni.jp 携帯サイトより

http://wni.jp 携帯サイトより

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減災 GENSAI Ver.1.0 8

” My Weather Solution” 自らの気象リスクに応じたメールサービスを、自分で手作りで作成することができます。あらかじめ用意された “天気/気温/風向/風速/地点” などの実況・予測データを組み合わせて設定することで、一人一人にカスタマイズされたアラートメールを本人と最大30名に一斉に配信することができます。現在、約15万種類の異なったメールサービスが、個人によって作成され使用されています。

My Weather Solution

10 分天気予報は、目先 1時間に関しては、コンピューターの計算値よりも実際に目で観測した情報を外挿して予報されます。月間 100 万人以上のユニークユーザーが利用し、多くの方が参加すればするほど精度が高まります。気象レーダにも映らないような雨、雨とみぞれと雪の境、雨と曇りと晴れの詳細な分布、あられの降っている状況、夜の晴れと曇りの分布など今までの気象情報では分からなかった詳細な気象の現在の状況の面的な分布が 10 分天気予報で把握できます。

10 分天気予報

全国 1,000 か所にある個人の加速度震度計によって測られた波形をリアルタイムで共有します。また、地震発生後の揺れ方や被害について、個人からのリポートによって地震直後に停電、土砂崩れ、断水などの被害を情報共有します。地震直後の初動のための情報として活用されるとともに、被災している方々とコミュニケーションが可能です。

Yure Ch.

http://weathernews.jp/my/solution/

http://wni.jp 携帯サイトより

http://weathernews.jp/yure