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NEJM 勉強会 2012 年度 第 7 回 2013 年 2 月 13 日 C プリント 担当:蜷川 慶太
診断:TINU症候群
血症 Cr はこの一年は正常であり、腎臓の萎縮も右にみられるがわずかであり左は萎縮
していない。せん妄や明らかな尿量減少もないことから亜急性の経過で起こったと考え
られる。
検尿の結果、わずかに酸性尿であり、赤血球や白血球もわずかにみられる。また、血糖
値は正常であるのに尿糖がみられることから近位尿細管の機能障害か部分的な Fanconi
症候群を示唆している。尿中の κ 鎖・λ 鎖の比は正常であり、形質細胞の活性化も腎障害
に矛盾しない。Na の尿中排泄が亢進しているが、腎機能障害の存在と乏尿が明らかでな
いことからその重要性は明らかでない。
受診時、高度な貧血があったが、鉄や鉄結合能、葉酸、VitB12 は正常だった。網状赤血
球が増加しているのにもかかわらずハプトグロビンと LDH の値が正常であることはおそ
らく溶血性貧血ではないことを示している。これは慢性の腎臓の障害による EPO 低値の
貧血であることを示している。
H. pylori に対する抗体力価が軽度上昇していることからどこかで Hp に感染していたこと
を示唆している。腹部の検査では Hp に関連した癌やリンパ腫の存在は明らかでなかった。い
くつかの症例では消化管の障害が腎機能の低下に寄与していることもあるだろう。慢性腎機能
障害が胃の H. pylori 感染の素因となっているとは考えづらく、患者の嘔吐と逆流症の原因
となっている胃食道病変の存在について検討しなければならない(Hp 感染と腎病変は別物)。
[腎臓の障害と眼の炎症] 検査データからは多クローン性高 γ グロブリン血症を呈する病態の存在を示唆するかもし
れないが、血漿中の軽鎖の値は少し上昇しているくらいであり、これはむしろ腎臓の障害に
よるものと考えられる。
左房粘液種もこのような慢性の全身性の症状や、腫瘍塞栓が網膜や腸間膜、腎臓の血管に飛
んで障害するということを起こしうるが、それよりは末梢塞栓症の存在を予想する。
繊維筋性異形成症は腎臓や腸間膜の血管を犯しうるが、通常この場合の高血圧は高度であり、
眼病変は通常網膜に起こり、後発年齢も若年から中年にかけての女性である。
Sjogren症候群も dry eye とブドウ膜炎をきたしうるが、膠原病的な問題や抗核抗体が陰
性であるため、合併症として起こる腎障害もほとんどここまで深刻にはならない。
血液の感染症は亜急性の病態を考えるうえで重要だが、菌血症はしばしば糸球体病変を呈し
レジオネラやブルセラなど間質性腎炎に関連した病原体の暴露歴もないことから否定的であ
る。
サルコイドーシスもブドウ膜炎と間質性腎炎をきたしうるが、肺病変がないこと、高 Ca 血
症がないことから似つかわしくない。
Behcet病もブドウ膜炎をきたすが、口腔内アフタなどがないことから否定的である。
この過程で2つの可能性が残る。結節性多発性動脈炎と TINU 症候群である。どちらかは
眼病変を見てみよう!
[眼の炎症] ベッドサイドではいくらかの眼病変を見ることがある。上強膜炎と強膜炎は病変の場所は
違えども近接しているので合併することが多い。強膜炎の鑑別は限られており、悪性関節リ
ウマチと、Wegener肉芽腫症、再発性多発性軟骨炎、PN である。前部のブドウ膜炎は虹彩、
水晶体、脈絡膜を含む前房の炎症であり、疼痛に加えて、視野障害、羞明をきたす。ブドウ膜
炎はたいていの場合、両側性に起こる。鑑別診断はたくさんあるが、今回のケースでは
Behcet 病、サルコイドーシス、Sjogren 症候群、反応性関節炎、細菌・ウイルス感染症、
TINU 症候群があげられる。
[血管炎] 血管炎には大きく3つのカテゴリーがあり、大血管(肉芽腫性の血管炎)、中血管(壊
死性血管炎など)、小血管(ANCA 関連血管炎など)である。大血管の炎症では高安動脈
炎がこの患者より若い女性に好発する。この患者の年齢と赤沈亢進は側頭動脈炎でみられ
る。しかし、腎臓の障害の程度は側頭動脈炎には似つかわしくなく、疼痛も頭部から離れ
たところにあるため否定的である。小血管炎も病変が不均一なグループであり、細動脈
や毛細血管を犯す。HCV によるクリオグロブリン血症や、Henoch–Schonlein紫斑病や、
SLE、Wegener肉芽腫症、Churg–Strauss 症候群など pauci-immune に関連した ANCA関連血管炎。これらの患者は様々な程度の腎病変を有し、糸球体病変が特徴的である。この患
者は血清学的試験をしておらず、クリオグロブリンの存在も明らかでないうえ、尿所見より
活動性の糸球体病変は見られない。そもそも眼病変はこれらの疾患の特徴ではなく、強膜炎は
Wegener肉芽腫症ではみられるが、上気道病変も肺病変もないため否定的である。
[結節性多発性動脈炎] もし眼病変が正中の強膜ならこの症例は PN によるものと言えただろう。PN の好発年齢は
60代であり、この患者は61である。PN の患者の 20%に HBV 感染の既往がある。北米で
は HBV 感染は減少傾向であるが、モロッコでは 1.5%が感染している。PN では血管内膜の
肥厚、壊死性血管炎をきたし、血管の狭窄、閉塞から動脈瘤の形成や塞栓症、虚血、梗塞とな
る。腎臓では蛋白尿や血尿を伴う虚血や線維化をきたし、腎障害に陥る。30%以上の患者が
深刻な腹部症状を有し、致死的なものもある。肺病変がないこと、体重減少や腎障害、腹痛の
存在や ANCA が陰性であることからもそれっぽい。
[TINU 症候群] 最後にもしこの患者が強膜炎の代わりに前部のブドウ膜炎を呈していたら、もっともふさ
わしい診断は TINU 症候群である。この疾患は男性よりも女性で多く、発症の平均年齢は1
5歳であり、この患者よりは若い年齢で起こることが多く、その幅は9-74歳である。ブ
ドウ膜炎はこの患者とは対照的に通常両側性であるが、片側性でも起こることがあり、この
患者のように腎病変の後に起こることもある。説明不能な腹痛や体重減少も典型的である
TINU 患者は典型的には遠位尿細管を中心とした緩徐な腎障害と、蛋白尿、Fanconi 症候群を
呈する。もしこの患者のように腎病変がそれほど深刻でなければ、完全または部分的な
Fanconi 症候群、正常血糖値での尿糖を認めうるだろう。TINU 症候群の患者は赤沈が亢進
しているのに典型的な自己免疫疾患に血清学上陰性である。
TINU 症候群での腎障害はリンパ球性の間質性腎炎に起因する。ほとんどの間質性腎炎は抗
菌薬などの薬剤によって起こるが、5%ほどの症例のみが TINU 症候群によって起こる。
TINU 症候群の患者で尿細管とブドウ膜の両方に自己抗体を持つことがあるが、これは自己免
疫寛容の過程で眼と腎臓に共通のエピトープに対して抗体が作られることによる。この患者
の Cr 高値は腎障害が高度であることを示しており、ステロイド抵抗性な予後不良の前兆とな
りうる。ブドウ膜炎はステロイドに反応するが再発しやすい。modifiedCRP 抗体の関与が示
唆 さ れ て い る が 、 詳 し い 病 態 生 理 は 未 だ わ か っ て い な い 。
[腎生検]
間質にリンパ球、好酸球と形質細胞の浸潤を認める(Fig.A)。炎症細胞は限局的に
管腔の基底膜を破壊しており、過ヨウ素酸シッフ反応染色(多糖類の検出法)でよく見ら
れている(Fig.B)。間質の線維化と炎症、管腔の萎縮はトリクローム染色でよく見られ
る(Fig.C)。上皮細胞の減弱とともに、管腔の損傷もみられる。いくらかの血管では血
管炎を呈することなく残存している。免疫染色や電子顕微鏡では糸球体や基底膜に沈着は
見られない。
所見としては以上のようになっており、急性・慢性の間質性腎炎があり、特発性もしく
は自己免疫や薬剤への反応、毒素、感染、遺伝子疾患によると思われる(つまり原因は不
明)。薬剤性なら浸潤巣に多数の好酸球が見られ、肉芽腫性の病変を伴う。慢性的なリチ
ウムの使用も経度の炎症細胞浸潤で、間質の線維化をきたす。サルコイドーシスは著明な
肉芽腫の形成で特徴づけられる。異常な結晶の沈着はシスチン尿症、高シュウ酸血症、副
甲状腺機能亢進症などでみられる。患者は新たな薬剤の服用歴や、毒素への暴露歴、感染
歴もなく腎生検でもこれらに特徴的なものは見られなかった。
TINU 症候群では、腎臓ではリンパ球や形質細胞、マクロファージなどの混ぜ合わさっ
た浸潤巣を形成する。好酸球や好中球が見られることもある。免疫染色では免疫による沈
着物は通常陰性で、14%ほどでのみ免疫グロブリンが染色される。13%の症例では悲乾
酪性肉芽腫が見られる。部位としては、骨髄やリンパ節、肝臓でみられる。
この症例の組織学的所見は特徴的ではないが、TINU 症候群に矛盾しない所見である。
尿細管の上皮細胞と網膜に対する自己免疫機序が考えられる。CD4+、CD8+ともにみら
れるが、CD4+T 細胞が優勢である。腎臓皮質の尿細管上皮細胞への抗体が同定されてい
る。Sjogren 症候群との overlap もあると考えられる。同一のハプロタイプをもつ双子
や兄弟間で、TINU 症候群の症例報告がある。EBV や VZV、マイコプラズマ、クラミジア、
クレブシエラの関連もいくつかの例でみられる。
[その後] 腎生検後、眼科医にコンサルトされ、目の炎症に対してステロイドの局所投与、メチ
ルプレドニゾロンの経静脈的投与が3日間行われた。Cr が下がり始め、高用量の PSL の
内服が開始され、12日目で退院となった。症状が出た最初の日から60日後に PSL を
漸減したが、運悪く、Cr は 4㎎/dl で停滞し、1カ月のうちにまた 5.2㎎/dl まで上がった。
患者は最初の時と同様に易疲労感と、腹痛、左目の軽度の紅斑と疼痛を訴えた。真相を確
かめるべく再度腎生検を行うこととなった。結果は尿細管間質性腎炎であることには変
わりなかったが、線維化が 80%増えてた。再度副腎皮質ステロイドの経口投与を開始し、
潜在的なステロイド抵抗性が疑われたため、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)も開
始した。Cr は 3.4㎎/dl まで下がった。来院時より17か月たっても Cr は 3㎎/dl程度で
停 滞 し て い た た め 、 腎 移 植 の 適 応 か ど う か 評 価 し て い る 。