28
2018 年年 年年年 年年年年年年年年年年年年年年年年 年年年年年年年年年年年年年年 ―年 年 年年年年年年 年年年 年年年年年年 年年年年年 年年年年年年年 11408848 年年年年年

matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

2018年度 春課題

シティズンシップ教育の導入により

日本の選挙投票率向上を目指す

―ドイツ・台湾との比較分析を通じて―

慶應義塾大学文学部 人文社会学科

教育学専攻 松浦良充研究会

11408848 清田凜太郎

Page 2: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

アブストラクト

 本論文は、現代の日本において、特に 10~30代の若者の選挙投票率の低さを問題視し、これらの年代における投票率を向上させることを主眼に置いたものである。現代の日本

において、これからの日本の未来を担っていく若者の現状の投票率の低さは深刻である

と言われている。そのため、本論文では、特に日本の若者の選挙投票率の低さの原因を分

析し、若者の政治に対する意識を向上させる取り組みとして、義務教育段階で「シティズ

ンシップ教育」を導入することで、全国の小・中学生に包括的なアプローチを行い、こ

れからの日本の将来を自分たちが担っていくのだという意識の醸成を目指す。

 第一章では、日本における選挙投票の概要を確認し、前提知識を共有した上で、日本に

おける選挙投票権の変遷の歴史を振り返り、直近で行われた衆議院議員総選挙と参議院議

員通常選挙での各年代における投票率、そして投票に行かなかった人たちが、投票を棄権

した原因を分析していく。

第二章では、第一章での分析と、現在、市区町村で行われている若者の行政参加のため

の取り組みを踏まえて、原因解消のための取り組みとして「シティズンシップ教育」を

提案し、日本で事例は少ないが、取り組みが行われている主権者教育との違いを先行研究

や神奈川県の公立高校で実施されている事例を参考に確認し、シティズンシップ教育が日

本上手く取り入れられていない現状の阻害要因を確認していく。

 第三章では、日本と同じく政治教育が敬遠されているドイツの事例を参考に、日本にい

かにシティズンシップ教育を取り入れることが出来るかについて考察していく予定であ

る。

Page 3: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

目次

序章 テーマの設定理由及び概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

第一章 日本における選挙投票の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 第一節 日本における選挙の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1     第一項 有権者になるということ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1     第二項 日本の選挙投票制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2第二節 日本における選挙投票権・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5    第一項 日本における選挙投票権の歴史・・・・・・・・・・・・・・・・5    第二項 18歳選挙権の導入と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7第三節 日本における選挙投票率の低さ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7

第一項 日本における選挙投票率の低さの現状・・・・・・・・・・・・・7第二項 日本における選挙投票率の低さの原因・・・・・・・・・・・・・12

第四節 市区町村における施策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22

第二章 日本におけるシティズンシップ教育・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

25第一節 シティズンシップ教育と主権者教育の違い・・・・・・・・・・・・・・・

25    第一項 シティズンシップ教育について・・・・・・・・・・・・・・・・

25    第二項 日本における主権者教育について・・・・・・・・・・・・・・・26第二節 日本における主権者教育の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27

第一項 文部科学省による推進方策・・・・・・・・・・・・・・・・・・27第二項 神奈川県立高校における実践事例・・・・・・・・・・・・・・・29

第三節 日本へのシティズンシップ教育導入の阻害要因(構想中)・・・・・・・・

31

第三章 他国におけるシティズンシップ教育の実践事例(構想中)・・・・・・・・・

31第一節 ドイツにおける実践事例(構想中)・・・・・・・・・・・・・・・・・・31第二節 台湾における実践事例(構想中)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31

春課題の振り返り・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31

Page 4: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・:・・・・・・・32

Page 5: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

序章 テーマの概要及び設定理由

 日本国憲法の改正手続きに関する法律の一部を改正する法律が平成 26年 6月 20日に公布、同日に施行され、平成 30年 6月 21日以後の国民投票から、投票権年齢が満 18歳以上に引き下げられることになった。また、同法律の附則において、満 18歳以上の者が国政選挙に参加できるように、国民投票の投票権を持つ者の年齢と、選挙権を持つ者の年

齢との均衡などを考慮し、公職選挙法や民法、その他の法令の規定について検討を加え、

必要な法令上の措置を講ずるものとされた。更に、公職選挙法などの一部を改正する法律

が兵営 27年 6月 19日に公布、平成 28年 6月 19日に施行され、選挙権年齢が満 18歳以上に引き下げられた。しかし、現状の日本の若者の選挙投票率の低さは深刻であり、選

挙権年齢を引き下げることも大事だが、各年代における投票率の向上が、長期的に日本の

将来を考えた際に必要ではないかと考える。今回の法改正により、多くの生徒が高等学校

などに在学中に、国民投票の投票権及び選挙権年齢を迎えることになるため、以前から公

民科の授業などで取り組まれてきた政治的教養を育む教育を、学校教育の中で推進してい

く必要がある。その際、参政権は日本国憲法で保障されている基本的人権であることを踏

まえ、政治の仕組みや選挙制度などに関する知識の習得に加え、学校の政治的中立性を保

ちながら、生徒が有権者として自身の判断で選挙投票を行うことが出来るような、実践的

な教育が必要である。調査の結果、現代の若者の投票率の低さの原因として、「政治に対

して無関心、無知」が大きな原因であることが分かった。そのため、これらの原因の解

消のために、現在、多くのヨーロッパ諸国で実践されている「シティズンシップ教育」

を導入することが有効ではないかと筆者は考え、本論文を執筆するに至った。

第一章 日本における選挙投票の概要

 

 本章では、日本において、有権者になるということや選挙投票の仕組み、これまでの

選挙権の変遷、日本における選挙投票率の低さの現状を確認することで、日本の選挙制度

に対する理解を深めた上で、選挙投票率の低さの原因について、様々なアンケート調査の

結果から考察していく。

第一節 日本における選挙の概要

第一項 有権者になるということ

1

Page 6: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

 本項では、我々「有権者」が、日本の選挙においてどのような役割が期待されているか

について考察する。まず、「有権者」という言葉の定義についてであるが、総務省1は

「有権者」になるということを、「権利を持つということ、特に政治について重要な役

割を持つ選挙などに参加する権利を持つということ」であると定義している。では、

我々はこの権利をどのように行使することが期待されるのであろうか。これについて、

政治に参加するということがどういうことなのかから考察していく。

政治の分かりやすい役割の一つとして、国家や地方公共団体が国民・市民からいかに税

金を集め、集められた税金をいかに活用していくかといった、財政という大きな役割が

ある。その中で、我々「有権者」は政府や地方公共団体のお金の使い道を決定する権利を

得たとはいえ、当然個人の自由になるわけではない。何に対して、どの程度の財を投資

するかは、人によって異なる。これは、国民・市民の間で生きる上で何が大切かという

ことについての考え方が異なるためである。そのため、この税金の集め方や使い道を決

める際に、各有権者によって異なる考え方に基づく様々な意見を調整し、まとめる必要

がある。

また、国家や社会の規則を作ること、社会の秩序を維持し統合を図ることも政治の役割

の一つであるが、これについても個人や組織の考え方、利害の対立を調整しながら解決

する必要がある。

 そのため、日本ではこのように、国民・市民が生活をしていく上で必要不可欠な、様々

な役割を持つ政治が間接民主主義の原則に基づいて行われている。このように、選挙と

は、政治に参加する手段の一つであり、国民や市民から選ばれた代表者が議会で法律や予

算を決定する制度を採用している日本において最も重要な手段なのである。

 つまり、「有権者」になるということは、選挙を通じてこのような政治の過程に参加

する権利を得るということである。そして、政治に参加しても必ずしも自分の意見が通

るというわけではないが、国民や市民の意思に基づいて選ばれた議員によって、議論し

合意された決定について、「有権者」は構成員の一人として従う責任が生じるというこ

とである。

第二項 日本の選挙投票制度

 本項では、現行の日本の選挙投票制度について確認した後、衆議院議員総選挙と参議院

議員通常選挙の投票制度2をまとめる。

1 総務省・文部科学省「私たちが拓く日本の未来 有権者として求められる力を身につけるために」www.soumu.go.jp/main_content/000378558.pdf[取得日:2018年 4月 11日]

2 脚注 1に同じ。

2

Page 7: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

 まずは、現行の日本の投票制度についてだが、①選挙権、②投票の原則、③投票時間、

④期日前投票、不在者投票、⑤代理投票、点字投票、⑥在外投票の 6つの項目3に分けて

まとめる。

①選挙権 日本国民で満 18歳以上の者は国政選挙の選挙権を、加えて三カ月以上住所を有していればその属する地方公共団体の選挙(議員及び長)の選挙権を有する。平成 27年 6月の公職選挙法改正で、満 20歳以上だった選挙権年齢が満 18歳以上に引き下げられ、平成 28年 6月から施行された。

②投票の原則 選挙は「投票」で行うこととされ、「一人一票」(選挙区と比例区がある国政選挙で

はそれぞれ一票)「投票所」にて行うことが原則である。

③投票時間 投票時間は、7時から 20時までである。ただし、特別な事情がある場合に限り、市区町村の選挙管理委員会の判断において、一定の範囲で開始時刻や終了時刻を繰り上

げ、または繰り下げる(終了時刻は繰り上げのみ)ことが可能である。自分の行く投

票所の場所や開いている時刻は、自宅に送られる投票所入場(整理)権に記載されてい

る。

④期日前投票、不在投票 投票日当日、用事のある有権者は、投票日の前に「期日前投票・不在者投票」をする

ことが可能である。各市区町村に最低一か所、20時まで開いている期日前投票所がある。授業や仕事だけでなく、遊びに出かける予定であっても利用することが出来る。

⑤代理投票、点字投票 視覚障碍者や病気やけがなどで投票の記載が出来ない人は、期日前投票を含めて投票

所の係員が代理で代筆する「代理投票」の制度が存在する。また、投票所には、点字投

票用の投票用紙や点字器が用意されているため、「点字投票」が可能である。

⑥在外投票 海外に住んでいる人が、海外にいながら国政選挙に参加できる「在外投票」の制度が

ある。

3 脚注 1に同じ。

3

Page 8: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

 以上のように、現行の日本の選挙投票制度では、用事があって当日に投票することが難

しい有権者や、障害を持つために自力で投票することが困難な有権者らのために、様々

な制度によって投票権を行使するための機会を設けている。

続いて、衆議院議員総選挙と参議院議員通常選挙の投票制度をまとめる。選挙には投票

用紙に「候補者の名前」を記入する選挙と、「政党などの名称」を記載する選挙がある。

投票を記載する台には、候補者や政党などの名称などが掲示されているため、判別でき

るように正確に記入する必要がある。

1.衆議院議員総選挙衆議院議員総選挙は、小選挙区選挙と比例代表選挙の 2種類の選挙方法から成る。また、これらに加えて、最高裁判所裁判官国民審査も同時に行われるため、3つ全てに投票する必要がある。

①小選挙区選挙全国 295の選挙区ごとに行われ、有権者は「候補者名」を記載して投票する。この時、得票数の最も多い候補者が当選人となる。

②比例代表選挙 全国 11の選挙区(ブロック)ごとに行われ、有権者は「政党名」を記載して投票する。この時、政党の得票数に基づいてドント式により各政党の当選人の数が決まり、

各名簿の当選人の数までの順位の者が当選人となる。

③最高裁判所裁判官国民審査 裁判官ごとに行われ、有権者は、辞めさせたい意思があれば×印を、なければ何も記載せずに投票する。この投票によって、罷免可が罷免不可の票数を超えた場合、その

裁判官は罷免される。

④重複立候補 衆議院議員総選挙において、小選挙区の立候補者を政党の比例代表名簿にも記載する

ことが出来る制度。小選挙区選挙に当選した場合は、比例代表名簿に記載されていない

ものと見なされる。

⑤最高裁判所裁判官国民審査 すでに任命されている最高裁判所の裁判官を辞めさせるべきかどうか国民が決定す

4

Page 9: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

る制度。最高裁判所の裁判官は任命された後に初めて行われる衆議院議員総選挙の投票

日に国民審査を受け、この審査の日から 10年を経過した後に初めて行われる衆議院議員総選挙の投票日に更に審査を受ける。その後も同様の制度で国民から審査を受ける。

2.参議院議員通常選挙 参議院議員通常選挙は、選挙区選挙と比例代表選挙から成るため、この両方に投票する

必要がある。

①選挙区選挙 原則として、都道府県の区域(鳥取県・島根県、徳島県・高知県はそれぞれ 2県の区域)で行われ、有権者は「候補者名」を記載して投票する。この時、各選挙区の定数に

合わせて、得票数の最も多い候補者から順次当選人が決まる。

②比例代表選挙 全国を 1つの単位として実施され、有権者は「候補者名」または「政党名」のどちらかを記載して投票する。この時、政党の得票数は、候補者個人の得票と政党の得票を合

算したものになる。政党の得票数に基づいてドント式により各政党の当選人の数が決

まり、得票数の最も多い候補者から順次当選人が決定される。

 以上が、衆議院議員総選挙と参議院議員通常選挙の投票制度であるが、これら二つの選

挙について、日本国憲法は、「すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはなら

ない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問われない」としている。こ

れによって、有権者は誰からの干渉も受けることなく、自分自身で投票先を決める必要

がある。

 また、投票先の情報を集める方法は様々であり、街で見かける選挙運動や日頃の政治活

動、報道機関によるニュース、両親や友人の意見、インターネット上にも莫大な量の情報

が存在する。

 そのため、有権者には、これらの様々な情報を参考にしながら、また、それらの情報

が誰によって発信されているのか、事実を述べているのか、それとも発信者による意見

に過ぎないのかなどを見極めながら、自分自身で考え、投票先を選ぶことが重要である。

第二節 日本における選挙投票権

第一項 日本における選挙投票権の歴史

5

Page 10: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

本節では、過去の日本の選挙権の変遷の歴史4を簡単に振り返る。長い選挙の歴史の中

で、選挙権が拡大されるのは今回で 5回目となる。明治憲法発布翌年に行われた 1890年(明治 23年)の第 1回衆議院議員選挙は、15 円以上の直接国税を収めている 25歳以上の男子だけが投票できる制限選挙だった。総務省によると、当時の有権者は約 45 万人で、

全人口のわずか 1.1%だった。

その後、選挙権拡大を求める声が高まり、まずは納税要件の緩和が行われた。1900年(明治 33年)には、納税要件が直接国税 10 円以上に緩和された。1919年(大正 8年)には同 3 円以上となり、有権者は 307 万人に増加した。第一次大戦後、「大正デモクラ

シー」の盛り上がりを背景に身分や納税後に縛られない「普通選挙」を求める運動が広

がった。1925年(大正 14年)には納税要件が撤廃されて 25歳以上の男子に選挙権が認

められた。1928年(昭和 3年)の衆議院議員選挙の有権者数は約 1240 万人で、全人口

の 20%に拡大した。一方、女性参政権を求める声は明治初期からあったが、なかなか実

現しなかった。

転機は、第 2次世界大戦の敗戦である。連合国軍総司令部(GHQ)は 1945年(昭和

20年)、女性に選挙権を与えることによる女性解放を日本政府に命じ、選挙法(当時)

が改正された。女性にも選挙権が認められたほか、選挙権年齢も 25歳から 20歳に引き下げられた。ようやく男女平等の「普通選挙」が実現した。1946年の衆議院議員選挙の有権者は、全人口の 48.7%にあたる 3688 万人で、39人の女性が当選した。

そして、平成 26年 6月 20日に、日本国憲法の改正手続きに関する法律の一部を改正する法律が公布(同日施行)され、平成 30年 6月 21日以後の国民投票から、投票権年齢が満 18歳以上に引き下げられることになった。また、同法律の附則において、満 18歳以上のものが国政選挙に参加できることとなるよう国民投票の投票権を有する者の年齢

と選挙権を有する者の年齢との均衡等を勘案し、公職選挙法、民法その他の法令の規定に

ついて討を加え、必要な法律上の措置を講ずるものとされた。

さらに、公職選挙法等の一部を改正する法律が平成 27年 6月 19日に公布(平成 28年6月 19日施行)され、選挙権年齢が満 18歳以上に引き下げられた。公職選挙法の改正は、未来の我が国を担っていく世代である若い人々の意見を、現在と未来の我が国の在り方を

決める政治に反映させていくことが望ましいという意図に基づくものであり、今後は、

高等学校及び特別支援学校高等部の生徒が、国家・社会の形成に、より一層主体的に参画

していくことが期待される。

【図 1:日本の被選挙権変遷の歴史】5

4 読売オンライン「基礎からわかるQ.制度の歴史は?」 http://www.yomiuri.co.jp/election/18saisenkyoken/20160428-OYT8T50049.html [取得日:2018年 4月 10日]

5 脚注 4に同じ。図は筆者が作成。

6

Page 11: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

年 出来事 制限 割合

1989 大日本帝国憲法25歳以上の男子 

直接国税 15円以上の納税者1%

1900  25歳以上の男子 

直接国税 10円以上の納税者2.2%

1914第一次世界大戦

(~1918)   

1919 普通選挙運動25歳以上の男子 

直接国税 3円以上の納税者5.5%

1920 新婦人協会結成    

1925 普通選挙法公布25歳以上の男子 

納税条件の撤廃20%

1945 ポツダム宣言 20歳以上のすべての男女 48%

第二項 18歳選挙権の導入と課題

 彼谷6は、この度の 18歳選挙権の導入に対して、課題を指摘している。「高校生新聞」

というWeb サイトにおいて、2015年 5月、同サイトに掲載された高校生記者 5名の座

談会で「18歳と 19歳が投票に行かないと、より投票率が下がってしまう。せっかくの権利は使わないと」や、「60代以上の投票率が高いと、政策が高齢者向けに偏ると聞い

た。子育ての援助なども充実させないとバランスがよくない」など、選挙権の行使に関

する積極的な意見が載せられた。

その一方で、「行かないと思う。政治のことが分からない。『駅前で見かける人』に

入れるような人気投票になってしまいそう」などの消極的な意見も載せられた。彼谷は、

このような否定的な意見の背景にあるのは、「政治家を信用できない」「政治家が議論し

ていることは難しくてわからない」などといった政治不信、政治嫌いがあると述べてい

る。

第三節 日本における選挙投票率の低さ

第一項 日本における選挙投票率の低さの現状

6 彼谷環「『18歳選挙権』と『政治教育』に関する一考察」, 富山国際大学子ども育成学部紀要第 7 巻, 2016年, pp.60-61

7

Page 12: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

本項では、日本の選挙における投票率の低さの現状を確認する。ここでの「投票率」と

は、全国の有権者総数のうちで実際に投票した人の割合である。前述のように、日本にお

ける被選挙権を持つ人たちの数とその割合は、大日本帝国憲法が公布された頃に比べると

急激に拡大している。しかし、日本学術会議政治学委員会7は、現状の日本の選挙には 2つの問題点があると指摘している。第一の問題点は、各種選挙における投票率の全般的低

下現象である。戦後に行われた衆議院議員総選挙における投票率をみると、1946(昭和

21)年に行われた戦後初の総選挙では、投票率は 72.08%を記録していた。

しかし、平成 26(2014)年に、行われた総選挙では、52.66%となっている。第二の

問題点は、その中でもとりわけ若年層の投票率低下が顕著となっていることである。総

務省の調査によれば、1969年における 20代の若年層有権者の衆議院議員選挙の投票率

は、全体のそれをおよそ 9 ポイント、1995年における参議院議員選挙では、およそ 20ポイント下回っていた。その差は次第に拡大しており、平成 29(2017)年における 20代の若年層有権者の衆議院議員選挙では、全体のそれをおよそ 20 ポイント下回った。

日本学術会議政治学委員会は、有権者が政治に対する関心を保ち、主権者としての意識

を有するためには、その政治に対する一定の信頼と理解が必要であると主張している。

誰しも、信頼していない、ないし理解していない事柄に対しては、積極的に行動を起こ

すことが難しいからである。

しかし、総務省発表の「衆議院議員総選挙における年代別投票率(抽出)の推移」8と

「参議院議員通常選挙における年代別投票率(抽出)の推移」9を見ると、若者に限らず、

すべての年代層において、投票率が長期的に低下していることが見て取れる。衆議院議員

選挙について言えば、1996(平成 8)年の第 41回総選挙から小選挙区・比例代表並立制

が実施されたが、それ以前の投票率は 70%を前後しており、60%台になると「低い」と

考えられてきた。その後、2005(平成 17)年選挙は「小泉政権下の郵政解散選挙」、

2009(平成 21)年選挙は「政権交代選挙」と名付けられたように、一時的に有権者の関

心は高まり、60%台後半を維持した。しかし、2014(平成 26)年は、52.66%と戦後史

上最低の投票率を示した。

その中でも、やはり 20代の投票率は最低である。70歳以上の高齢者層を除けば、年

代が上昇するにつれて投票率も上昇する傾向にあるが、彼谷10は、それらの年代別投票率

間の差を特に問題視している。第 46回衆議院議員総選挙では、20代の投票率と 60代の7 日本学術会議 政治学委員会 政治学委員会政治過程分科会「各種選挙における投票率低下への対応策」www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-t198-1.pdf[取得日:2018年 4月 18日]8 総務省 選挙部「目で見る投票率」 http://www.soumu.go.jp/main_content/000365958.pdf[取得日:2018年 4月 18日]9 同上。10 脚注 6に同じ。

8

Page 13: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

投票率との差は 37 ポイントにまで拡大している。さらに、現在の日本は「少子高齢化」

が進んでいるため、そもそも 60代の人口は 20代よりも多い。そのため、60代で投票した有権者数は、20代の有権者数の 2.5 倍にのぼると推計される。

 このように、日本における選挙投票率は、あらゆる年代において減少傾向にあること

は明らかであり、その中でも特に 20代の投票率の低さが際立っているというのが現状である。この状況を危惧してか、70年ぶりの公職選挙法改正によって選挙権年齢が 18歳以上にまで下がったことによって、18~19歳の有権者が約 240 万人(全有権者の 2%相

当)増加すると試算されていた。

しかし、平成 29年に行われた第 48回衆議院議員総選挙では、10歳代の投票率は40.49%で、全体でみると 20歳代の 33.85%に次ぐ低さ、また、平成 28年に行われた第 24回参議院議員通常選挙では、10歳代の投票率は 46.78%と、全体でみると 20歳代の 35.60%、30歳代の 44.24%に次ぐ 3 番目の低さとなっている。

【図 2:衆議院議員総選挙における年代別投票率(抽出)の推移】11(後に自作)

11 脚注 8に同じ。

9

Page 14: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

【図 3:参議院議員通常選挙における年代別投票率(抽出)の推移】12(後に自作)

12 同上。

10

Page 15: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

11

Page 16: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

第二項 日本における選挙投票率の低さの原因

 本項では、第一項で確認した選挙投票率の低さを課題とした上で、なぜ、日本の若者の

選挙投票率が著しく低いのか、その原因を分析する。

 まずは、総務省13が発表した、平成 26年衆議院議員通常選挙と平成 25年参議院議員通常選挙における意識調査から、それぞれの選挙における投票棄権理由を見ていく。

【図 4:平成 26年衆議院議員通常選挙における意識調査】14

13 同上。14 同上。図は筆者が作成。

12

Page 17: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

その他・わからない天候が悪かったから

今住んでいるところに選挙権がないから今の政治を変える必要がないと思ったから

マスコミの事前予測を見て、投票に行く気がなくなったから選挙によって政治はよくならないと思ったから

私一人が投票してもしなくても同じだから支持する政党の候補者がいなかったから

適当な候補者も政党もなかったから政党の政策や候補者の人物像など、違いがよく分からなかったから

解散の理由に納得がいかなかったから選挙にあまり関心がなかったから

投票所が遠かったから体調がすぐれなかったから

重要な用事(仕事を除く)があったから仕事があったから

0 5 10 15 20 25

2.9

1.3

1.3

1

5.1

15.3

13.5

5.9

17.5

11.4

15.3

23.4

2.8

4.5

9.1

18.3

棄権理由(複数回答)※数値は%

【図 5:平成 25年参議院議員通常選挙における意識調査】15

15 同上。図は筆者が作成。

13

Page 18: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

わからない今の政治を変える必要がないと思ったから

今住んでいるところに選挙権がないから天気が悪かったから(暑すぎた、雨だったなど)

投票所が遠かったからメディアの当落事前予測調査を見て、投票に行く気がなくなったから

病気だったからその他

重要な用事(仕事を除く)があったから面倒だったから

体調がすぐれなかったから選挙によって政治はよくならないと思ったから

私一人が投票してもしなくても同じだから仕事があったから

政党の政策や候補者の人物像など違いがよく分からなかったから選挙にあまり関心がなかったから

適当な候補者も政党もなかったから

0 5 10 15 20 25 30

0.2

0.5

1.3

1.6

2.9

7.2

7.4

9.4

10.7

11.8

11.9

14.1

14.8

17.7

19

19

26.4

棄権理由(複数回答)※数値は%

 以上の 2つのアンケート調査において、それぞれのアンケートにおける投票棄権理由を、①政治的無関心・無知などによる理由、②政治的関心や知識を持った上での理由、③

政治的関心や知識とは無関係な理由の 3つに大別してみる。

・平成 26年衆議院議員通常選挙における意識調査①政治的無関心・無知などによる理由

14

Page 19: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

選挙にあまり関心がなかったから(23.4%)、選挙によって政治はよくならないと

思ったから(15.3%)、私一人が投票してもしなくても同じだから(13.5%)、政党

の政策や候補者の人物像など、違いがよく分からなかったから(11.4%)、マスコミ

の事前予測を見て、投票に行く気がなくなったから(5.1%)

②政治的関心や知識を持った上での理由 適当な候補者も政党もなかったから(17.5%)、解散の理由に納得がいかなかった

から(15.3%)、支持する政党の候補者がいなかったから(5.9%)、今の政治を変え

る必要がないと思ったから(1%)

③政治的関心や知識とは無関係な理由 仕事があったから(18.3%)、体調がすぐれなかったから(14.5%)、重要な用事

(仕事を除く)があったから(9.1%)、投票所が遠かったから(2.8%)、今住んで

いるところに選挙権がないから(1.3%)、天候が悪かったから(1.3%)、その他・

わからない(2.9%)

・平成 25年参議院議員通常選挙における意識調査①政治的無関心・無知などによる理由選挙にあまり関心がなかったから(19.0%)、政党の政策や候補者の人物像など、

違いがよく分からなかったから(19.0%)、私一人が投票してもしなくても同じだか

ら(14.6%)、選挙によって政治はよくならないと思ったから(14.1%)メディアの

当落事前予測調査を見て、投票に行く気がなくなったから(7.2%)、

②政治的関心や知識を持った上での理由 適当な候補者も政党もなかったから(26.4%)、解散の理由に納得がいかなかった

から(15.3%)、支持する政党の候補者がいなかったから(5.9%)、今の政治を変え

る必要がないと思ったから(0.5%)

③政治的関心や知識とは無関係な理由 仕事があったから(17.7%)、面倒だったから(11.8%)、重要な用事(仕事を除

く)があったから(10.7%)、病気だったから(7.4%)、投票所が遠かったから

(2.9%)、今住んでいるところに選挙権がないから(1.3%)、天候が悪かったから

(熱すぎた、雨だったなど)(1.6%)、その他・わからない(9.6%)

15

Page 20: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

 以上のアンケートの結果から、有権者が投票を棄権する理由として、政治的無関心・無

知による影響がかなり大きく、それが原因で投票に行くことを辞退する人々の数はかな

り多いと考えられる。

 次に、以上のアンケート結果の中でも、平成 26年第 47回衆議院議員通常選挙における意識調査について、投票棄権理由を年代別に分けて見ていく。特に棄権理由の上位 5つ(選挙にあまり関心がなかったから、仕事があったから、適当な候補者も政党もなかっ

たから、解散の理由に納得がいかなかったから、選挙によって政治はよくならないと

思ったから)の選択肢について年代別に見てみる。20歳代は「選挙にあまり関心がなかったから」を挙げた人が一番多く(32.2%)、この理由を選択した人は年代が上がる

につれて減少している。一方で 60歳以上の人は、「解散の理由に納得がいかなかったか

ら」を挙げた人が最も多く(24.8%)この理由を選択した人は年代が下がるにつれて減

少している。そして、「仕事があったから」などのその他の理由は年代による差があま

り大きくない。以上の結果から、若い年代の人ほど選挙への関心の低さから投票を棄権し、

高い年代の人ほど解散の理由に納得がいかなかったことが理由で投票を棄権したことが

分かる。

【図 6:年代別棄権理由】16

選挙によって政治はよくならないと思ったから

適当な候補者も政党もなかったから

解散の理由に納得がいかなかったから

選挙にあまり関心がなかったから

仕事があったから

0 5 10 15 20 25 30 35 4019.2

20.8

24.8

18.4

16.8

17

19

18.5

24

21.5

16.1

19

11.2

32.2

21.5

年代別棄権理由(数値は%)

20-30 歳代( N=205 ) 40-50 歳代( 200 ) 60 歳以上( 125 )

16 公益財団法人 明るい選挙推進協会「第 47回衆議院議員総選挙全国意識調査 調査結果の概要」www.akaruisenkyo.or.jp/wp/wp-content/uploads/2011/10/47syuishikicyosa-

1.pdf[取得日:2018年 4月 25日] 図は筆者が独自に作成

16

Page 21: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

 続いて、明るい選挙推進協会による、有権者を年代別に分類して行われた様々なアン

ケート結果を確認する。

 まず、学歴と投票参加率の影響を年代別に見ていく。ここでの「投票参加率」とは、明

るい選挙推進協会が行ったアンケート調査17において、回答者の中で投票に行ったと回答

した人の割合を「投票参加率」と呼び、「投票率」 と区別する。「投票率」は、全国の

有権者総数のうちで実際に投票した人の割合であり、「投票参加率」は、明るい選挙推進

協会が行ったアンケートに基づくものである。学歴と投票参加率の影響を(在学中の場合、

それを最終学歴とみなす)、(1)「20~30 歳代」、(2)「40~50 歳代」、(3)「60 歳以上」の三つに分けて見てみる。その結果、すべての年代において、高学歴ほど

投票参加率が高い傾向が見られた。

【図 7-1:学歴と投票・棄権(20~30歳代)】18

大学・大学院卒( 205 )短大、高専、専修学校卒( 123 )

中学・高校卒( 131 )

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90%100%

56.1

52

45

43.9

48

55

学歴と投票・棄権( 20 ~ 30 歳代)

投票に行った 投票に行かなかった

【図 7-2:学歴と投票・棄権(40~50歳代)】19

17 同上。18 同上。図は筆者が作成。19 同上。図は筆者が作成。

17

Page 22: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

大学・大学院卒( 174 )

短大、高専、専修学校卒( 181 )

中学・高校卒( 334 )

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90%100%

82.2

67.4

64.1

17.8

32.6

35.9

学歴と投票・棄権( 40 ~ 50 歳代)

投票に行った 投票に行かなかった

【図 7-3:学歴と投票・棄権(60歳以上)】20

大学・大学院卒( 132 )短大、高専、専修学校卒( 92 )

中学・高校卒( 554 )

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

90.9

79.3

78.7

9.1

20.7

21.3

学歴と投票・棄権( 60 歳以上)

投票に行った 投票に行かなかった

 続いて、政治意識と投票参加率の関係を見てみる。まずは、政治関心度と投票参加率の

関係を年代別に見ていく。政治関心度は「あなたはふだん国や地方の政治についてどの

程度関心をもっていますか」という質問を指標としている。全体で見ると、「あまり関

心を持っていない」、「全く関心を持っていない」と答えた人の投票参加率はそれぞれ

41.6%、25.0%しかないのに対して、「多少は関心を持っている」人は 73.3%、「非常

に関心を持っている」人は 91.4%と高い。このことから、政治関心度は投票参加率に強

く影響していることと言えよう。これは、年代別においても同様の傾向が見られる。

【図 8-1:政治関心と投票参加率】21

20 同上。図は筆者が作成。21 同上。図は筆者が作成。

18

Page 23: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

全く関心を持っていない( 44 )あまり関心を持っていない( 377 )多少は関心を持っている( 1174 )

非常に関心を持っている( 385 )

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90%100%

25

41.6

73.3

91.4

75

58.4

26.7

2.8

政治関心と投票参加率(全体 N=1980 )

投票に行った 投票に行かなかった

【図 8-2:20~30歳代の政治関心と投票参加率】22

全く関心を持っていない( 23 )あまり関心を持っていない( 140 )

多少は関心を持っている( 262 )非常に関心を持っている( 36 )

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90%100%

30.4

32.9

58.8

88.9

69.6

67.1

41.2

11.1

20 ~ 30 歳代の政治関心と投票参加率

投票に行った 投票に行かなかった

【図 8-3:40~50歳代の政治関心と投票参加率】23

22 同上。図は筆者が作成。23 同上。図は筆者が作成。

19

Page 24: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

全く関心を持っていない( 13 )あまり関心を持っていない( 149 )

多少は関心を持っている( 418 )非常に関心を持っている( 107 )

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90%100%15.4

47

73.7

89.7

84.6

53

26.3

10.3

40 ~ 50 歳代の政治関心と投票参加率

投票に行った 投票に行かなかった

【図 8-4:60歳以上の政治関心と投票参加率】24

全く関心を持っていない( 7 )あまり関心を持っていない( 80 )多少は関心を持っている( 467 )非常に関心を持っている( 237 )

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90%100%28.6

46.3

80.9

93.2

71.4

53.8

19.1

6.8

60 歳以上の政治関心と投票参加率

投票に行った 投票に行かなかった

 最後に、投票に対する意識(選挙で投票する行為は 1.「国民の義務」、2.「国民の権利だが棄権すべきではない」、3.「個人の自由」のいずれの考えに近いか、という質

問に対する回答)が投票参加率に与える影響を年代別に見ていく(図 2-19~21)。すべての年代において、投票を「個人の自由」と考えている人の投票参加率は低く、かつ年

代が下がるほど投票参加率は低くなっている。一方で、「国民の権利だが棄権すべきで

はない」と考える人と、「国民の義務」と考える人の投票参加率はどの年代においても

90%前後と大差ないことが分かる。

【図 9-1:投票に対する考えと投票参加率】25

24 同上。図は筆者が作成。25 同上。図は筆者が作成。

20

Page 25: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

個人の自由である( 600 )

国民の権利であるが、棄権すべきではない( 706 )

国民の義務( 630 )

0% 20% 40% 60% 80% 100%

39

85.4

84.4

61

14.6

15.6

投票に対する考えと投票参加率(全体 N=1936 )

投票に行った 投票に行かなかった

【図 9-2:20~30歳代の投票に対する考えと投票参加率】26

個人の自由である( 200 )

国民の権利であるが、棄権すべきではない( 134 )

国民の義務( 110 )

0% 20% 40% 60% 80% 100%

31.5

70.9

70.9

68.5

29.1

29.1

20 ~ 30 歳代の投票に対する考えと投票参加率

投票に行った 投票に行かなかった

【図 9-3:40~50歳代の投票に対する考えと投票参加率】27

26 同上。図は筆者が作成。27 同上。図は筆者が作成。

21

Page 26: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

個人の自由である( 232 )

国民の権利であるが、棄権すべきではない( 227 )

国民の義務( 219 )

0% 20% 40% 60% 80% 100%

37.9

87.2

85.4

62.1

12.8

14.6

40 ~ 50 歳代の投票に対する考えと投票参加率

投票に行った 投票に行かなかった

【図 9-4:60歳以上の投票に対する考えと投票参加率】28

個人の自由である( 157 )

国民の権利であるが、棄権すべきではない( 333 )

国民の義務( 285 )

0% 20% 40% 60% 80% 100%

49.7

90.1

88.8

50.3

9.9

11.2

60 歳以上の投票に対する考えと投票参加率

投票に行った 投票に行かなかった

 以上のアンケート結果から、投票に行った 20~30代の有権者は、「高学歴、政治への関心が高い、投票は国民の義務、または行使すべき権利であると考えている」のいずれ

かを満たしている人達が多い傾向にあり、一方で投票に行かなかった有権者は、「中学・

高校卒、政治への関心が低い、投票は個人の自由であると考えている」のいずれかに当

てはまる人達が多い傾向にあると考えられる。

 これらを踏まえた上で、筆者は、20~30歳代の若年層で特にこれらの傾向は強く見ら

れるが、どの年代においてもこれらの傾向は当てはまると考え、今後、投票率を向上さ

せるためのターゲット層・取り組みとして、「(1)小学校または中学校の義務教育段階の学生、(2)(1)のターゲット層の政治への関心を高める、(3)(1)のターゲット

層の投票に対する主体的・積極的な意識を育ませるための取り組み」が有効であると考え

28 同上。図は筆者が作成。

22

Page 27: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

る。

第四節 日本における選挙投票率向上のための施策

 本節では、若年層の政治参加を促すために、実際に市区町村で行われている 2つの事例を見ていく。

(1)山形県遊佐町における「少年議会」29

山形県遊佐町の町長である時田30によると、山形県遊佐町では、町に在住・通学する中学

生と高校生が有権者となり、「少年議会」を開催している。

この「少年議会」とは、マニフェスト(声明文)を掲げて立候補した「少年町長」と、

10人の「少年議員」を直接選挙で選出して、構成された議会である。中学生と高校生が自らの代表を直接選び、政策を実現していくことで、学校外で民主主義を実体験すことが

狙いであると時田は言う。

この「少年議会」は 2016年度で 14期目を迎えたが、その最大の特徴は、独自の政策

予算として 45 万円を有していることである。少年議会の取り組み以前にも、若者の調整

参加の促進を目的として、若者の意見を聞く委員会を開催していたが、いつの間にか開催

しなくなっていたと言う。

そこで、若者の町政参加に実効性を持たせるために、若者がやりたいと考えたことを

若者自身が実際に具現化できる予算を備えた「少年議会」が開催された。中高生有権者に

アンケートを行い、その意向に基づき、少年議会が政策を立案、そして彼ら自身が 45 万

円の予算で政策を行うという、他ではなかなか見かけない取り組みが行われている。

少年議会のこれまでの実際の活動には、町のイメージアップのため「米~ちゃん

(べぇ~ちゃん)」というキャラクターを誕生させ、町の特産品であるパプリカの「レ

シピ集」を制作してきた。また、「若者の娯楽や遊ぶところがない」というアンケート

の回答から、ミュージックフェスティバルも開催し、列車ダイヤが通学に不便だという

少年議会の提案を受け、JR 東日本がダイヤを変えてくれたこともあったと言う。

 この「少年議会」を通じて、町が若者の意見を積極的に取り上げることで、政治は他人

事ではなく、自分たちの行動や言動で少しずつでも変えていくことが出来るという経験

を、若い世代が積み重ねることが出来ることは重要である。

(2)福井県鯖江市における「女子高生プロジェクト」31

29 公益財団法人NIRA総合研究開発機構「私の構想 No.25」, 2016年 http://www.nira.or.jp/pdf/vision25.pdf[取得日:2018年 5月 4日]30 同上。31 同上。

23

Page 28: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

 福井県鯖江市の市長である牧野32によると、福井県鯖江市では、地元の女子高生たちが

中心となって、自由にアイデアを出し合いながら、自分たちの街を楽しむ市民協働推進

プロジェクト「鯖江市役所 JK課」が行われている。様々な市民・団体や地元企業、大学、

地域メディアなどと協力しながら、企画や活動を行っている。

 このプロジェクト誕生の本来の目的は、地域の活性化である。3年前に、大人版地域活

性化プランコンテストで、慶應義塾大学の若新雄純特任教授(当時)から「地域や社会に

文化的な影響を与え、鋭く観察している女子高生を主役に、まちづくり活動をしたらど

うか」と提案されたことが始まりだったと牧野は言う。

 また、牧野は、まちづくりの一環で「JK課の発想を生かして大人の意識を変えられたらいい」という想いから始められたこのプロジェクトだったが、若者の声を受けて、ま

ちや大人が変わったことで、若者自身の意識に変化が見られたと言う。

 これまでに、女子高生の発想から実際に行われた取り組みとしては、図書館の空き机

が分かるアプリ「Sabota」の開発、スイーツ商品の企画、ハロウィンに仮装してごみ拾

いを行う「ピカピカプラン」などがある。これらの事業化に際し、アプリ開発では SAPジャパンなどの IT 企業、スイーツ企画では市内のパティシエグループなど、地元企業や

団体、ボランティアグループの協力があった。

 この過程の中で、自分たちの行動によってまちが変化していく様子を見ていくうちに、

次第に女子高生自身の意識に変化が生まれたが、牧野は、最大の変化は、他人事だった街

づくりを「自分事」として考えるようになったことだと言う。自分たちが動くことで、

まちや大人が変わると実感し、当事者意識が芽生えたのである。

 このように、地域の若者たちと自治体が協力して地域を支えていくことが、新しい行

政の姿になるのではないかと牧野は考える。

 以上の、2つの「市区町村における若者の政治参加を促す取り組み事例」と、第三節第

二項で触れた「日本における選挙投票率の低さの原因分析」を参考に、今後、政府(文部

科学省)が行うべき「選挙投票率向上のための取り組み」について考察する。

 筆者は、第三節第二項において、今後、投票率を向上させるためのターゲット層・取り

組みとして、「(1)小学校または中学校の義務教育段階の学生、(2)(1)のターゲッ

ト層の政治への関心を高める、(3)(1)のターゲット層の投票に対する主体的・積極

的な意識を育ませるための取り組み」が有効であると考えた。

 加えて、実際に行われている 2つの「市区町村における若者の政治参加を促す取り組み

事例」を確認した結果、筆者はこの 2つの取り組みにおいて、若者の行政参加意欲を向上

させた大きな要因として、「学生が自分自身を、所属する地域や町などの社会を構成する

一人の人間として、重要な存在であると認識する」ようになったことが共通していると

考える。しかし、これらの取り組みを実際に政府(文部科学省)主導で行うことが出来る

32 同上。

24

Page 29: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

かとなると、全国規模で考えた際に、カリキュラムを通じた包括的なアプローチが難し

い(各都道府県や市区町村によって行政が異なる)ため、効果的な施策とは言い難いと考

える。

 これらを踏まえて、筆者は、以下の取り組みが、今後の選挙投票率向上のための取り組

みとして効果的ではないかと考える。

・主体:政府(文部科学省)

・ターゲット層:公立小学校・公立中学校の義務教育段階の学生

・取り組みの内容:学生が自分自身を、国家を構成する一人の人間として、重要な存在

         であると認識することによって、彼らの政治への関心を高め、選

投票に対する主体的・積極的な意識を育ませる

 そこで、筆者は、これらを実現するための具体的な取り組みとして「シティズンシッ

プ教育」の導入を提案する。

第二章 日本におけるシティズンシップ教育

第一節 シティズンシップ教育と主権者教育の違い

 本節では、文部科学省が推進している「主権者教育」と、海外で行われている「シティ

ズンシップ教育(政治教育)」の違いについて、先行研究と、日本の教育史から見ていく。

第一項 シティズンシップ教育について

 本項では、「シティズンシップ教育(政治教育)」について、先行研究と、日本の教育

史から見ていく。

 彼谷33によると、「シティズンシップ教育」は「政治教育」と訳されることもあるが、

もともと「市民権(citizenship)」は、「共同体の完全なメンバーシップに伴うステー

タスを意味する」とされ、国籍と同等なものと考えられることが多かった。しかし、市

民社会が多文化していくにつれて、今日では、EU市民権や永住市民権など外国人住民の

権利も対象とすると見なされている。

33 彼谷環「『18歳選挙権』と『政治教育』に関する一考察」, 富山国際大学子ども育成学部紀要第 7 巻, 2016年, pp.61-62

25

Page 30: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

 嶺井34は、「シティズンシップ」は市民権という法的な地位を指すとともに、それを行

使する人間に求められる資質や技能としての市民性にも用いられると述べている。

 福島35によると、現在「シティズンシップ(市民権、市民性)」という概念には、誰が

市民であるのかという市民の「資格条件」と、市民に与えられる「権利」と「義務」が含

まれると解釈されている。また、福島は、近代的なシティズンシップ概念を定式化した

とされる T.H.マーシャルによって、「シティズンシップ」の歴史は、近代における市民

的、政治的、社会的権利の発達史として捉えられ、以後シティズンシップは権利を中心に

理解されてきたと言う。しかし最近では、「市民」としての権利を持つ者は、同時に「市

民としてふさわしい態度や行動」が求められる義務を有すると考えられているため、シ

ティズンシップの義務的な側面が注目される傾向にある。

 日本の教育学の分野においても、「シティズンシップ教育」に対する注目は高まって

いる。教育学者の小玉36によると、日本でのシティズンシップ教育の実践について「社会

的道徳責任や共同体への参加にやや力点が置かれており、政治的リテラシーの視点が必ず

しも十分とはいえない」とされる。

 彼谷37は、18歳選挙権の導入との関わりにおいて、平成 23年 12月に発表された、総務省の「常時啓発事業のあり方等研究会」最終報告書38(以下「最終報告書」という)に

注目している。そこでは、「新しい主権者像」の要素として、①社会参加の促進②政治的

リテラシーの向上が挙げられている。

 「最終報告書」では、①の「社会参加」について、「知識を習得するだけでなく、実際

に社会の活動に参加し、体験することで、社会の一員としての自覚が増大する」と述べら

れている。これを踏まえた上で、「近年の若い世代は、リアルな人間関係の減少、地域の

コミュニティの機能の低下、知識の習得を重視した学校教育等のために、以前と比べ社会

化(社会の一員になること)が遅れている。さらに、家庭内の教育力も低下し、政治への

関心など意識の面でも世帯間格差が固定化する傾向にある」と今日の問題を捉えている。

 続いて、②については、①を備えているだけでは不十分であるとし、情報を集め、正

確に読んで理解し、考察し、判断することを訓練する「政治的リテラシー」(政治的判断

力や批判力)が必要であるとしている。しかし、「最終報告書」では、「日本の学校教育

では、政治や選挙の仕組みは教えるものの、政治的・社会的に対立する問題を取り上げ、

政治的判断能力を訓練することを避けてきた」、「政策課題の中には、世代間対立を招く

34 嶺井明子『世界のシティズンシップ教育 グローバル時代の国民/市民形成』, 東信堂, 2007年, p.4

35 福島都茂子『フランスのシティズンシップ教育の展開と現状-政治的シティズンシップ教育と民主主義の実践-』社会科学研究年報, 2015年, pp.42-43

36 木村元・小玉重夫・船橋一男『教育学をつかむ』, 有斐閣, 2009年37 脚注 33に同じ。38 総務省「常時啓発事業のあり方等研究会」最終報告書 社会に参加し、自ら考え、自ら判断する主権者を目指して~新たなステージ「主権者教育」へ~www.soumu.go.jp/main_content/000141752.pdf[取得日:2018年 5月 2日]

26

Page 31: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

可能性があるものもあるが、より適切な選択をするためには、若い世代だけでなく高齢

者も日ごろから学び続け、政治的リテラシーを身につける必要がある」と述べられてい

る。

 実際、日本ではこれまで、戦後の民主主義教育の確立を目指そうとする教育現場での動

きに対して、学習指導要領の法的高市区緑化や文部科学省の各種通知書の中で、政治教育

そのものが嫌われる傾向にあり、裁判闘争に発展したこともあった。「最終報告書」は、

このような歴史については、「政治的・社会的に対立する問題を取り上げ、政治的判断能

力を訓練することを避けてきた」と述べている。

第二項 日本における主権者教育について

 本項では、文部科学省が唱える「主権者教育」について、教育基本法に定められる「政

治教育」との関係性を、彼谷39の先行研究から見ていく。

 1947年の旧教育基本法第 18 条(現第 14 条)1項は、「良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない」と規定した。そのため、1948・49年、文部省刊行の中学校・高校の社会科教科書である『民主主義』では、「大切な政治を、人

任せでなく、自分たちの仕事として行うという気持ちが、民主国家の国民の第一の心構え

でなければならない」と記載された。

 しかし、1940年代末から 50年代にかけて、義務教育段階での政治教育をめぐる文部

省と日教組との間に対立が起こり、1954年の「教育二法」の制定により、教員の教唆扇動によって生徒に特定の政党を支持、または反対する教育を行うことが禁止されると同

時に、教員の政治的行為も制限された。

 その後、大学・高校生の政治活動が激しくなり、1960年 6月文部事務次官通達「高等

学校生徒に対する指導体制の確立について」の中で、「外部からの不当な勢力」により、

高校の「生徒会や生徒などが政治活動に巻き込まれることのないよう教職員一体となっ

て生徒の指導体制を確立」するとされた。

そして、1969年 10月に、文部省初等中等教育局長通知「高校における政治的教養と政治的活動について」が出された。彼谷40は、この通知について、文言上は、「高等学校

教育における政治的教養を豊かにするための教育の改善充実を図る」としながらも、本

質は「当面する生徒の政治的活動について適切な指導や措置を行う」ことが重視されてい

たと指摘している。

さらに、1969年通達では、「教科・科目の授業はいうまでもなく、クラブ活動、生徒

会活動等の教育活動も学校の教育活動の一環であるから、生徒がその本来の目的を逸脱し

39 脚注 33に同じ。40 同上。

27

Page 32: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

て、政治的活動の手段としてこれらの場を利用することは許されないことであ

り......学校がこれらの活動を黙認することは,教育基本法第 8 条 2項の趣旨に反

する」とされた。

 この(旧)教育基本法 8 条 2項では、「法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又

はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない」と定められてい

た。これについて、1969年通達は、「高校生の政治的活動」を、特定の政党を支持し、

またはこれに反対するための活動であると捉え、「学校」が「これらの活動を黙認する

こと」は許されないとした。

第二節 日本における主権者教育の現状

第一項 文部科学省による推進方策

 本項では、前項で確認した日本における主権者教育について、文部科学省が発表してい

る「主権者教育の推進に関する検討チーム」41による推進プロジェクトの中間まとめにつ

いて確認する。

・背景

選挙権年齢が満 18歳以上に引き下げられたことにより、これまで以上に、子供の国

家・社会の形成者としての意識を醸成するとともに、課題を多面的・多角的に考え、自

分なりの考えを作っていく力を育むこと等が重要となっている。このような状況を踏

まえ、文部科学省では、平成 27年 11月 9日に義家弘介文部科学副大臣の下に「主権者教育の推進に関する検討チーム」を設置し、検討を行った。

・基本的な考え方

検討チームでは、主権者教育の目的を、単に政治の仕組みについて必要な知識を習得

させるのみならず、主権者として社会の中で自立し、他者と連携・協働しながら、社

会を生き抜く力や地域の課題解決を社会の構成員の一員として主体的に担う力を発達段

階に応じて、身につけさせるものと設定する。

1.新たに選挙権を有することとなる生徒、学生に対する取り組み

41 文部科学省「主権者教育の推進に関する検討チーム中間まとめ」www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/1369165.htm[取得日:2018年 4月 20日]

28

Page 33: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

・推進方策①

「高等学校等における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治活動等につい

て等を踏まえた実践的な教育活動を促進していく。また、平成 28年中に、副教材「私たちが開く日本の未来」の活用状況について前項調査及び優れた取り組みを行う高等学

校等の指導方法等に関する調査によって、指導を充実させる。

・推進方策②

 大学や専修学校等において、入学字のオリエンテーション等の機会を通じた学生等

への啓発活動や、選挙管理委員会等との連携による学生等が主体となった啓発活動に関

する事例を周知する。

・推進方策③

 総務省や選挙管理委員会と連携した、高等学校における出前授業の実施や、大学、専

修学校等における期日前投票所の設置など、生徒、学生等の政治参加意識を向上するた

めの取り組みを促進する。

2.社会全体で主権者教育を推進する取り組み・推進方策④

 次期学習指導要領改訂において、主体的な社会参画に必要な力を実践的に育む「公共

(仮称)」の高等学校での設置や、小中学校における社会科の在り方について検討を行

う。

・推進方策⑤

 幼児期から高等学校段階にまでかけて、それぞれの発達段階において社会参画の態

度を育むための指導方法の在り方や体験的・実践的な学習プログラムについて調査研

究を実施。

・推進方策⑥

 学校、家庭、地域が連携・協働し、地域資源を活用した教育活動・体験活動や、子供

が主体的に関わる地域行事などの機会を創出する。また、地域における活動が多様か

つ継続的なものとなるよう、地域人材の活用促進や、コーディネート機能を強化して

いく。

・推進方策⑦

 子供が家庭において、基本的な生活習慣を身につけ、自立心を養うことが出来るよ

29

Page 34: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

う家庭教育の環境整備を進めるとともに、家族に一員として、お手伝いなどの家庭生

活に主体的に参画する取り組みを促進する。

第二項 神奈川県立高校における実践例

 本項では、日本における数少ない主権者教育の事例として、矢吹42の先行研究を用いて、

神奈川県立高校における実践についてまとめる。

 今回は、本稿が若者の政治参加能力の育成に焦点を当てているため、神奈川県立高校に

おける主権者教育の中でも、政治参加教育に限定して内容を見ていく。

① 模擬投票

 神奈川県公立高校で実施されている政治参加教育の中でも、その中心となるのが「模

擬投票」による学習である。この模擬投票は、参議院議員通常選挙の行われる年に合わ

せて 3年に 1度実施される。しかし、ここでは模擬投票だけを実施するのではなく、

その前後で事前学習と事後学習が行われる。この授業は、日本の選挙制度と投票の意

義、選挙の基本原則に関する知識の習得、そして実際の選挙結果と模擬投票の結果比較

や投票後の生徒の意識の変化を確認するための 1時間の事後学習という流れで行われる。

②「かながわハイスクール議会」

 各学校で主権者教育を実践する際の参考とするために作成された「指導用参考資料」

では、「かながわハイスクール議会」が政治参加教育の一例として示されている。こ

れは、主権者教育導入以前の 2006年度から行われている。この「かながわハイス

クール議会」は、日本青年会議所が主催し、夏季休暇を利用して、神奈川県議会を会場

に開催される。ここでは、高校生が議員となって、神奈川県の抱える問題点や県の将

来の姿について議論する。参加者は、県内の個々高校生の代表、主に生徒会代表が参加

する。2010年度は、県立高校生 80名、横浜市立高校生 6名、私立高校 14名の計 100人が参加した。この 100名は、テーマ別に 8つの委員会に分かれて 2日間議論する。そして、最終日の 3日目に「本会議」が開催され、知事に対して質問し、それに対し

て知事も答弁するという形式で行われる。さらに各委員会でまとめた「政策提言」が

発表され、採択されている。

42 矢吹芳洋「高校生の政治参加能力形成とシティズンシップ教育-神奈川県公立高校におけるシティズンシップ教育を事例に」, 専修大学, 2011年, pp.29-31

30

Page 35: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

③国会や議会の見学・傍聴 ②のほかに「指導用参考資料」では、政治参加教育として、喫緊の社会問題や各政党

の主張等について調べ、話し合う活動、参議院体験プログラム、国会議事堂見学、国会

参観、衆議院傍聴、県議会・市議会などの見学・傍聴などが挙げられている。さらに

は、生徒会役員選挙を、実際の選挙に近づけた実施なども示されている。

④各校が独自に開発・実施する政治参加教育

 参議院銀通常選挙が実施されない時期に行われる催事参加教育は各学校に委ねられて

いる。各校が独自に工夫し、政治参加意識を向上させる取り組みを行うのである。

 2010年度から 3年間主権者教育活動開発校の指定を受けて活動した湘南台高校は、「総合的な学習の時間」を利用して、参議院議員通常選挙が行われない時期に「高校ハ

イスクール議会(模擬議会)」を実施している。②の「かながわハイスクール議会」

とは異なり、イベント的な要素が少ない。実際には、まちづくりの視点から、県の施

策や身近な課題をテーマに討議する授業である。事前学習を行った後、実際の議会のよ

うに委員会審議を経て、本会議での討論、採択という流れで実施される。審議するテー

マは、太陽光発電の推進、消費税の増税、ごみ袋の有料化などである。ただし、その

テーマは、生徒ではなく担当者会議の教員によって決められる。具体的な流れとして

は、全配当時間は 4時間であり、第 1時に事前学習として、政治参加の意義や議会制民主主義、議会の仕組みを学習し、第 2時に、議案の作成、委員会採択のロールプレイの

ためのシナリオ作成、第 3時に模擬員会でのロールプレイ、模擬本議会の準備、最後

の第 4時に模擬本議会でのロールプレイ、単元の振り返りが行われる。

第三節 日本へのシティズンシップ教育導入の阻害要因(構想中)

第三章 他国におけるシティズンシップ教育の実践事例(構想中)

第一節 ドイツにおける実践事例(構想中)

第二節 台湾における実践事例(構想中)

春課題の反省

31

Page 36: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

 この度は、わたくしの拙稿を読んでくださり、ありがとうございます。

去年の夏課題と全く異なるテーマとなりましたが、ちょっと読み返してみても、多くの

反省点が出てきました。

・日本の現状の投票率が本当に悪いのか、他国との比較を提示できなかったため主張の妥

当性が薄い

…終盤でやってしまったと気づきました。投票率は低いという固定観念にとらわれ、情

報を提示しておりませんでした。次回書き加えます。

・主権者教育とシティズンシップ教育の定義が曖昧

…先行研究や書籍を読んだところ、研究者によって意見が異なる点もありましたので、

より知識を蓄えた上で、自分なりに納得のいく定義を考えてみようかと思います。

・シティズンシップ教育を推奨するための論理が稚拙

…情報を整理いて描き切ることが出来ず、日本の現状の主権者教育の事例を確認するにとどまってしまいました。今後、現状の主権者教育における課題、シティズンシップ教育

の優位性をしっかり整理した上で、実現可能性について触れながら、書き加えていきた

いと思います。

・比較対象国の事例を挙げることが出来なかった

…次回で触れたいと思います。

これらの他にも、多くの課題が残る春課題となりましたが、今後より良い論文を仕上

げるために、皆さんからの意見を頂けると嬉しいです。

何卒宜しくお願い致します。

参考文献

(書籍)

・川口広美『イギリス中等学校のシティズンシップ教育:実践カリキュラム研究の立場

から』, 風間書房, 2017年・木村元・小玉重夫・船橋一男『教育学をつかむ』, 有斐閣, 2009年・教育科学研究会『18歳選挙権時代の主権者教育を創る:憲法を自分の力に』, 新日本出

版社, 2016年・クリスティーヌ・ロラン‐レヴィ・アリステア・ロス編著;中里亜夫・竹島博之監訳

『欧州統合とシティズンシップ教育 新しい政治学習の試み』, 明石書店, 2006年・全国民主主義教育研究会『18歳からの選挙Q&A:政治に新しい風を 18歳選挙』, 同時社, 2015年

・林大介『「18歳選挙権」で社会はどう変わるか』, 集英社, 2016年・嶺井明子『世界のシティズンシップ教育 グローバル時代の国民/市民形成』, 東信堂,

32

Page 37: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

2007年

(論文)

・織田隆敬「主権者教育の推進・充実のために」, 中部学院大学・中部学院大学短期大学部 教育実践研究第 1 巻, 2016年, pp.131-139・彼谷環「『18歳選挙権』と『政治教育』に関する一考察」, 富山国際大学子ども育成学

部紀要第 7 巻, 2016年, pp.59-69・福島都茂子『フランスのシティズンシップ教育の展開と現状-政治的シティズンシッ

プ教育と民主主義の実践-』社会科学研究年報, 2015年, pp.41-52・矢吹芳洋「高校生の政治参加能力形成とシティズンシップ教育-神奈川県公立高校にお

けるシティズンシップ教育を事例に」, 専修大学, 2011年, pp.19-56・近藤孝弘「ヨーロッパ統合のなかのドイツの政治教育」,南山大学ヨーロッパ研究セン

ター報第 13号, pp.113-124

(Webページ)・公益財団法人 明るい選挙推進協会「第 47回衆議院議員総選挙全国意識調査 調査結果の概要」www.akaruisenkyo.or.jp/wp/wp-content/uploads/2011/10/47syuishikicyosa-

1.pdf[取得日:2018年 4月 25日]・公益財団法人NIRA総合研究開発機構「私の構想 No.25」 http://www.nira.or.jp/pdf/vision25.pdf[取得日:2018年 5月 4日] http://www.nira.or.jp/pdf/vision25.pdf[取得日:2018年 5月 1日]・総務省「常時啓発事業のあり方等研究会」最終報告書 社会に参加し、自ら考え、自ら判断する主権者を目指して~新たなステージ「主権者教育」へ~www.soumu.go.jp/main_content/000141752.pdf[取得日:2018年 5月 2日]・総務省 選挙部「目で見る投票率」 http://www.soumu.go.jp/main_content/000365958.pdf[取得日:2018年 4月 18日]・総務省・文部科学省「私たちが拓く日本の未来 有権者として求められる力を身につけるために」www.soumu.go.jp/main_content/000378558.pdf[取得日:2018年 4月 11日]・日本学術会議 政治学委員会 政治学委員会政治過程分科会「各種選挙における投票率低下への対応策」www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-t198-1.pdf[取得日:2018年 4月 18日]・文部科学省「主権者教育の推進に関する検討チーム中間まとめ」

www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/1369165.htm[取得日:2018年 4月 20日]・読売オンライン「基礎からわかるQ.制度の歴史は?」

http://www.yomiuri.co.jp/election/18saisenkyoken/20160428-

33

Page 38: matsusemi.saloon.jpmatsusemi.saloon.jp/.../2018/05/eedb40b991083e334c… · Web view2018年度 春課題 シティズンシップ教育の導入により 日本の選挙投票率向上を目指す

OYT8T50049.html[取得日:2018年 4月 10日]

34