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20 世 世 市市 2016 市 8 市 1 市 市市市市 【】 市市市市市市市市市市市市市市市市市市市市市市市市市 市市市市 市市市市市市 市市市市 市市市市市市市市市市市 市市市市市市市市市市市 市市市市 。、、。 市市市市市市市市市市市市 市市市市市市市市市市市市市市市市市市市市市市市市 市市市市市 市市市市市 、。、 19 市市市市市市市市市市市市市市市市 「」 20 市市市市市市市市市市市市市市市市市市市市市市 市市市市市市市市市市市市市市市市市市市市市市市市市 。。 1 世世世世 市市 。。 市市市市市市市市市市市 市1 市市市市市市市市市市市 市 2,3 市市市市市市市市市市市市市市市市 市4 市市市市市市市市市市市市市市市市 市5 市市市市市市市市市市市市市市 市6 市市市市市市市市市市市市 市7 市市市市市市 1 市市市 8 市市市市市市市市 市9 世1 世世世世世世世世世世世 Data 市市 市市 1

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20世紀文明の大転換:資本主義の成熟と知識経済の黎明市場と社会研究会@日本大学

2016年 8月 1日 古川純子【要約】

資本主義は特に先進国において行き詰まりをみせている。下記の「行き詰まり」現象は、

克服できる課題なのか、資本主義の成熟なのか。これが資本主義の終わりの始まりか、新

しい資本主義への転換の前兆かは即断を許さない。とはいえ、ポラニーが 19世紀文明の崩壊を論じた「大転換」は、20世紀文明に関しても起こりつつあるように見える。その後に続く経済のしくみと特徴はどのようなものか。

1 現状分析資本主義が行き詰りを見せている。以下の指標を確認。

① 世界的な政策金利の低下 図 1② 先進国の信用乗数の低下 図 2,3③ 主要先進国の実質設備投資率の低下 図 4④ 主要新興国の実質設備投資率の低下 図 5⑤ 主要先進国の資本生産性の低下 図 6⑥ 主要国の労働分配率の低下 図 7⑦ 主要国の上位 1%の所得 図 8⑧ 主要国のジニ係数 図 9

図1 世界的な政策金利の低下

Data:各国中央銀行

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① 信用乗数の低下:マネタリーベースとマネーストックの関係

図2 日本のマネタリーベース、マネーストック、貨幣乗数の推移

Data:日本銀行

・政策金利を下げ、異次元緩和によりマネタリーベースを増やしても M2は伸びない(図2)。金融政策が効果を持たない。・政府は貨幣錯覚に陥らせて投資を誘発しようとするが、企業家は貨幣錯覚に陥ることが

できない。それほど有効需要の確実な見通しがつかない。

・先進各国で同様に信用乗数の低下が観察される(図 3)。図3 先進主要国と中国の 信用乗数の変化(M3/M1)

注:M3とM1(マネタリーベース(流通現金と中銀当座預金)に近似する代替変数の比率Data:OECD Statistics  出所:(三菱UFJ信託, 2015)

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図4 先進主要国の実質設備投資率の変化(実質設備投資/実質GDP比率:%)

Data: IMF (2014), World Economic Outlook, April 2014出所:(熊谷、2014)

図5 主要新興国の実質設備投資率の変化(実質設備投資/実質GDP比率:%)

Data: IMF (2014), World Economic Outlook, April 2014出所:(熊谷、2014)

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図6 主要先進国の資本生産性の低下

注:ここでの資本生産性は、実質GDP/民間資本ストック残高Data:OECD Statistics 出所:(熊谷,2014)

・資本の生産力が低い局面で、誘発された低金利で行う従来の設備投資は過剰債務と

過剰設備をさらに増大させ、企業は長期の設備投資解体の圧力にさらされることにな

る。

図7 主要国労働分配率の推移

Data;OECD Statistics

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・「民主主義の経済的定義は労働分配率の適切な配分」(George, 2010)。民主主義に圧力。

・所得格差の増大

図8 Piketty の研究

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図9 主要先進国のジニ係数

注:マーク付きは全年齢のジニ係数、マーク無しは高齢化要因を取り除いた生産年齢人口

(18~64 歳)のジニ係数(0=完全平等、1=完全不平等)。OECD Income Distribution

Database による。世帯員数で調整された等価可処分所得(equivalised household disposable income)のジニ係数。可処分所得は年金収入などの社会保障給付を含み、

税・社会保険料は引いた後の所得。

Data:OECD Statistics

先進国においては、資本が新しい富を生めない状況が観察される。

産業構造は金融化。蓄積された豊富な資本を用いたゼロサム・ゲーム的経済行動の割

合の増加。レバレッジを効かせた投資行動は金融的ショックに脆弱であり、経営を不

安定化、ひいてはマクロ経済を不安定化させる要因となる。

これは経済的行き詰まりともとれるが、資本主義の成熟・成功と解釈することもで

きる。

新興国ではまだ資本が限界的な価値を持っているが、先進国が辿った工業化による成

長を志すかぎり、資本が新しい富を生めなくなるのは時間の問題であろう。

民間設備投資 有効需要が見込めないため控えめ。従来型の公共投資 やらないよ➡ ➡

り良いが元がとれない。財政赤字膨らむ。これを返済するための有効需要が見込め

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ない。不動産投資 実需としての購入よりも投資目的での購入によりバブルを発生➡

させ、ついでバブルが崩壊し、さらに実物経済を傷つける。

今までの発想で有効需要を刺激することができない。   新たな発想とは何か?➡

7

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2 ポラニーによる 19世紀文明の「大転換」の過程は、20世紀文明にもあてはまるか

ポラニーによる19世紀文明の興亡 (Polanyi, 1944, 1957, 2001)19世紀文明:1815(ナポレオン戦争後)~1914(第一次世界大戦前)の 100年の平和。

・ポラニーが抽出した 19世紀文明を構成する4つの制度。以下の 4つの制度が組み合わ

さり、19世紀文明の基本的な輪郭が構成された。バランス・オブ・パワー(国際政治

制度)を支えていた世界経済が崩壊すると、平和は想像も及ばないスピードで崩壊した。

① バランス・オブ・パワー・システム(国際政治)

② 国際金本位制度(国際経済・国際金融)

③ 自己調整的市場(国内経済)

④ 自由主義的国家(国内政治)

【中進国イギリス国内】

1815~1879 国際政治は「ヨーロッパ協調」の期間

国内政治思想の転換:保護主義→1830年代から自由主義的教義の誕生 

国内経済政策の自由化:

19世紀以前、封建制で市場は経済システムの内部ではなく外部で機能した。

・歴史は、市場の拡大とそれに対する社会の抵抗との dual movementで説明可能。

・産業革命を経て、高価な機械を生産に用いるためには、すべての原材料と生産要素

が商品となる必要があった。自由主義者は自由放任が自然であるというが、自己調

整的市場は国家による組織的・継続的な介入や規制によって形成・維持された。

・逆に自由放任を制限しようとする動きは、市場システムが破壊しようとする社会

的利害を守ろうとする実践的で自然発生的な動きであった。

・本来は財にならない犠牲商品、労働・土地・貨幣。自由調整的市場のためには商品

化する必要があった。

労働:スピーナムランド法失敗→賃下げ・労働生産性低下・中流の反発 

➡自由な労働市場へ後押し、救貧法改正(1834)→労働者は社会的紐帯から切

り離され生存権の廃止と貧困に陥った。

・18-19世紀の継続的な貧困を、マルサスとリカードは永続的な傾向と見誤り、

人口法則・収穫逓減法則が経済理論の基礎として導入された。

土地:土地の商品化は次の 3 段階を経た。荘園の囲い込みによる私有化 工業労➡

働者の食糧生産のための土地商業化 農業余剰生産システムを海外へ拡張➡ 。

貨幣:企業の購買力は自己調整的市場において存在量が決定される貨幣によって規

定された。企業を保護するため中央銀行制度や通貨制度管理が必要とされた。

紙幣は国家の保証なしに金貨の代替物にはならず、古典派が想定するように経

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済を政治から切り離すことなどできない。中央銀行は、短期融資・金融政策で

デフレ的な影響から企業を守った。しかし中央銀行の市場メカニズムへの介入

は、ナショナリズムの要塞となり、金本位制度の終焉は市場経済の最終的な破

綻を意味した。

  

1879~1929 崩壊への緊張の期間

・1890年代 金融業の隆盛、平和はピークを迎える。

・国際金本位制度における貨幣分野での保護主義が台頭すると共に、債務の取り立て、

販路の拡大に政治的・軍事的介入が使われるようになる。

・列強は、植民地を獲得して新たな市場と安価な原料を得ることで、自己調整的市場

がもたらす重圧と混乱を緩和しようとした。

・市場経済の確立とともに政治と経済は切り離され、経済は独立の分野として政治の

干渉を受けないことが必要となった。労働市場は通貨価値の安定のために大衆の賃

上げ要求は断固排除された。対戦間期の金本位制再建の時期には、低賃金・社会福

祉費用削減・デフレ的金融政策で通貨価値の安定を優先させ、国際連盟も「強い政

府のもとでの自由経済」を目指し、各国は自己調整的市場のために介入を強めた。

・自己調整市場とは神話であり存在しない。

・世界経済システムへの依存、国際金本位制度の規律の維持、保護政策による国内市

場の柔軟性の喪失、市場メカニズムの維持という至上命題。これらが緊張の源泉。

・社会主義のプロレタリアート、中産下層階級からファシストが台頭し、ファシス

ト指導者に好感をいただく高い地位の人々の影響力でその潜在的力量が測られた。

・ファシズムの出現は前兆を伴った:非合理主義哲学、人種的審美学、反資本主義的

デマゴギー、異端的通貨学説、政党制への批判、現存の民主主義体制への批判…。

・ほんの一握りのファシスト勢力が、それまで圧倒的な力をもっていると思われて

いた民主的政府、政党、労働組合を一掃する。

・最後まで生き残った自己調整的市場の守護神、金本位制の消滅とともに、市場文明

は崩壊の波に飲み込まれた。

20世紀文明の興亡 

・ポラニーに倣い、20世紀文明を構成する 4つの要素とは何か。行き過ぎた市場化が世

界経済を崩壊させると、アメリカが構築した 20世紀文明(民主主義・法治国家・資本主

義)は崩れ去るのか。

① バランス・オブ・パワー(米ソ 2極) →1990sアメリカ一極(国際政治)

② ブレトンウッズ体制(金ドル本位制)→1970s ドル本位制度(総信用貨幣制度)

(国際経済)

③ 混合経済体制 →1970s 自己調整的市場(国内経済)

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④ 埋め込まれた自由主義 →1970s新自由主義的国家(国内政治)

【中心国アメリカ国内】

1930年代~1970年代初頭:

[1890~1939]国内政治思想の転換:政府の介入 →自由放任 →ニューディール政策 

国内経済政策の転換:独占禁止法(1890~)、WWI・大恐慌を経て規制強化、

ニューディール政策(グラス・スティーガル法ほか)、WWⅡを経てケインズ政策

(福祉政策、所得再分配)

➡第二次世界大戦による資本の蕩尽と富の平準化、→高度経済成長、労働分配率上昇、

→社会的安定感の増大、中流という幸福 →財政赤字の拡大、アメリカがキャッチ

アップされ相対的な地位低下が始まる。米ソ冷戦 財政赤字の拡大、固定平価制度➡

を維持することの弊害顕在化、自由主義者からの反論増大 

1970年代~2010年代: [70年代の動き]国内政治思想の転換:新自由主義:リバタリアニズム・マネタリスト(ミーゼズ、ハ

イエク、フリードマン)「市場に任せよ」の台頭。

国内経済政策の転換:金本位制度廃止、変動相場制移行、資本移動規制撤廃(金利平

衡税撤廃 1974)、多国籍企業の活動活発化

[80年代の進行]・新自由主義政権誕生:レーガン政権、「小さな政府」自由化、規制緩和、マネタリ

スト政策(デフレ的、財政出動削減をめざしつつも軍事支出増大、福祉・教育支出

削減、所得再分配軽視(法人税引き下げ、高所得層の所得税引き下げ、利子所得課

税減税)

・自由化の進展で市場競争は

激化。敗北企業は淘汰され、勝利企業の利潤は拡大。 

・勝利企業の価格支配力増加し、資本力がさらに増加すると、M&Aが増加し、寡占

化・独占化が促進。 

・労働組合潰し・労働の非正規雇用化・労働力の流動化加速により、労働者の交渉力

減退。職場という社会的帰属から切り離し。賃金は抑制され、労働者の労働分配率

は低下した。一方、企業の内部留保は拡大し、国際金融市場へ投入されることで所

得格差はさらに拡大した。

・企業の国内外への政治的パワーの拡大し、ロビー活動の結果、さらなる規制緩和や

法と制度の改変=ルールの変更が行われた。最も典型的は規制緩和の例は、グラム

=リーチ=ブライリー法成立(1999)(ニューディール期に制定されたグラス=

スティーガル法完全撤廃)。

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・交換の場として最大の市場を求める他国籍企業の活動により、国際的相互依存は高

まった。冷戦が終焉し、インターネットが商用解禁(1922)されると、グローバ

リズムは一気に加速し、国益を求める国家も企業と同一歩調をとり、資本主義の全

世界化、市場の世界大化、特に国際金融市場の世界大化は既定路線になった。

・伝統的製造業の利潤率は低下し、産業のサービス化、とくに金融化が進んだ(80s)。【90年代】・ICTによるエコノミー台頭。新たなインフラを活用した金融取引の効率化。

・情報スーパー・ハイウェイ構想(1993)、電気通信法改正(1996)電力自由化

・IT バブル崩壊(2000)、エンロン=ワールドコム事件(2001)、9.11(2001)。・金融工学・高レバレッジ・モラルの喪失から →カジノ化 →さらなる自由化、

タックスヘイブンによる納税の合法的回避、茶会党、租税国家の危機 →上位 1%のさらなる富裕化。

・企業行動ゆえに租税国家としての危機を抱えるにもかかわらず、それでも政府は、

自由調整的金融市場を維持するために、リーマンショック後、金融界に対して「国

家社会主義」的な救済で対処した。商業銀行だけでなく、本来救済対象ではない投

資銀行も商業銀行に転換させて救済した。「大きすぎて潰せない。」製造業までを

も救済したことでアメリカ政府の変質が確認された。「強い国家による自由主義」

再来。

・新保守主義(ネオコン)政権(ブッシュ政権)による対外的攻撃、人種問題の再燃、

国内の緊張と対外的緊張が呼応し始める(同様のことは中国でも展開されつつある

のか。日本も?)

2010年代現在:

・国内政治:格差の許容水準の逸脱、所得階層の固定化、教育格差、病理的犯罪の増

加、精神的不安定感の増大、人種的差別意識の復活、排外意識の台頭と抵抗。

・ポピュリズムの台頭、極右政党の台頭、おどろくべき人材が共和党大統領候補の指

名を受ける、いかなる「高い地位の人々」が彼に好意を抱いているのか。

・国際政治:国内的政治的不満を対外的に逃す誘惑が増大する。世界的な治安の悪化、

テロリズムの多発(アメリカの行為が西欧全般への怒りへと連鎖する報復)、

Brexit。グローバリズムの反転か・ファシズム的政権の台頭・『自由からの逃

走』?

・800年の西欧文明の支配に対する非西欧文明の台頭と反抗(新興国中国の台頭、ア

ラブ・テロリズムの多発)(800年東西文明交代説(村山、1984))・アメリカ=IoT、ドイツ=Industry4.0など、パラダイム転換の動きが始動した。

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3 知識経済の特徴と移行経路

【定常社会】20世紀文明が終わるとしたら、我々はどこへ向かうのか?

古典派経済学者は「定常社会」の到来を示唆した。現代の環境経済学者他は再評価。

アダム・スミス:人口の増加は、有効需要を絶え間なく創出する。人口増加過程の、

個人も活気に満ちる経済成長を良しとした。成長の最終過程の定常社会は、低賃

金労働者が過半を占める活気ない社会になると予測した(ex.当時の中国)

第 1編、第 9章、(Smith, 1776, 1791, 邦訳 2007, p.99-100)J.Sミル:経済成長の果てに待つものは、定常社会。経済成長が一定であるとしても、

かならずしも活気がないわけではない。創造活動や人間的成長は続けられる。

(J.S. Mill, 邦訳 4巻,1961, p.104)ハーマン・デイリー:人間の経済は地球のサブシステムだから、サブシステムが小

さいうちは成長できるが、サブシステムが成長して全体システムの大きさに近

づくとその限界にぶつかる前に、それ以上大きくならない「定常状態」にシフ

トする必要がある。(デイリー,2014,p.25)

【当面何をすべきなのか】

定常社会に漸近していくにせよ、当面の資本主義は次の 2つを満たせば合理的である。

① なんらかの有効需要が発生すること(いまだ成長志向)

② その有効需要が現在の行き詰まりを打破し、新しい経済に着地する方向で発生す

ること。

【知識経済の誕生】

1992年にインターネットの商用利用が解禁されて以来、 ICT(Information and Communication Technology)に基づく経済活動が新しいパラダイムを形成しつつ

ある。

ICTの存在によってはじめて可能になる経済行動、社会行動、政治行動がある。

遠隔地、見知らぬ人と容易につながることができる。

一物一価が成立する市場が容易に成立する。

SNSは友人間のコミュニケーションだけではなく、経営上の付加価値向上、政治活

動、経済的・社会的問題解決(各地のリアルタイム天気、事故の現場写真、被災地の

現場ニーズ、社会運動・政治運動の拡散、遊休資産・遊休時間・遊休才能のシェアリ

ング)を行ってきたし、現在構築されつつある IoTでは、交通渋滞のリアルタイム情

報、販売情報のビッグデータ化とリアルタイム在庫調整などによって経営の効率化

を可能にする。

インターネットは、見知らぬ他人同士の信頼に基づくあらたな結びつきを可能にし、

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市場と並んで非市場的経済活動が増大するため、経済行動は価格という指標に支配さ

れない、「評判」「自己実現」などに依存する割合が増える。

新しい経済の構成要素としてインターネットを基盤として以下のすべてが相互につ

ながり情報を交換することが可能な網状の社会の上で、生産、消費、協力行動が進行

する。

インフラ:インターネット、IoT, ユビキタス、Fintech、電力、スマートグリッド

生産手段:コンピュータ(様々な形態の)、AI, ビッグデータ、クラウド、情報スト

レ  ージ、ロボット、3Dプリンタ、蓄電池

【知識経済の特徴】

① 付加価値を生むものは、モノではなく知識である(情報そのもの。もしくはモノ

に附帯した情報)

② 情報に技術的外部性、ネットワーク外部性があり、排除不可能性が高い。この外

部性が経済のしくみを根本から変える可能性がある。

③ 知識財の生産は、限界費用が低い場合がある。

④ 他者からの評価や自己実現的達成感が金銭的利潤最大化よりも優位の行動動機と

なる頻度が増えて行く。

表1 資本主義と知識経済現行の資本主義 新しい経済(知識経済)

付加価値と富の源泉 モノ 知識、情報

財の性質私的財

消費の競合性、排除可能性

公共財

消費の非競合性、排除不可能性

フリーライドフリーライドはしにくく、できる

場合はフリーライド問題

フリーライドはしやすく、囲い込

まれた財にとっては問題であると

同時に、社会的には有益な場合も

知識の位置づけ

知識は希少、長命、囲い込み(特

許)、高価値、知識からの不労所

得が可能

知識は豊富、短命、使い捨て、高

価値のものと同時に多数のものも

低価値、早い速度で新陳代謝され

生産要素 私有 私有 私有+シェア 共有

生産様式 一極集中的生産 分散型生産

財の同質性 少品種生産 財の多様性 多品種生産

大量生産 少量生産、受注生産

収穫逓減 収穫逓増(ネットワーク外部性)

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収穫逓増(規模の経済、固定費用)

在庫管理 在庫をもたない

完全競争が前提 →独占化 独占化、一人勝ち、ロングテール

外部性は限定的(産業集積・公害)外部性の重要性増大(知識という

財に本来外部性あり)公共財的

競争の目標キャッシュ・フロー、資本ストッ

ク、社会的成功

評価、自己実現、精神的充足、シ

ンプル、美、成長

労働力 中技能労働力が付加価値を生む 高技能労働力が付加価値を生む

生産者と消費者 生産者と消費者の分離  生産消費者の増加

市場の位置づけ 市場的経済活動 市場+非市場的経済活動の増大

需要に関する情報企業にとって消費者ニーズは手探

り。見込み生産

消費者ニーズは双方向情報により

短時間で判明。質的にも量的にも

集合行為・協力の可能

モノはフリーライドが問題になる

ので集合行為は困難

情報はフリーライドが問題になら

ないため、協力の可能性が高まる

貨幣 国民通貨仮想通貨(ビットコインなど)は

国家主権にどこまで迫るか

決済 国家が認可した銀行による決済

国家が認可した機関以外の決済機

能 は ど こ ま で 容 認 さ れ る 。

(Hayek『貨幣発行自由化論』)

財への課金

有形財は私的財のため「消費は排

除可能」。原則として市場で決ま

る価格で売買。小説、レコード、

映画などひとたび情報材を生産す

れば継続的な収入が可能な場合も

あった

知識(無形財)の公共財的性質の

ため、ICT技術が「消費の排除不可

能性」を高める。課金には工夫が

必要

効用の基準

利己主義の類型

支払う金銭の対価としての効用最

大化

自己実現的効用最大化

評判、帰属意識という効用 

企業の利潤最大化 利潤、コスト削減、市場シェア 消費者に受け入れられる規模

マクロ経済指標 GDPが重要 経済成長 GDPは重要? 定常社会化

インフラと生産手段道路と港湾、工場、プラント、ベ

ルトコンベア、工作機械、電話

ICT 化された工場、コン ピュー

タ、インターネット、ソフトウェ

ア、ビッグデータ、AI、3Dプリン

タ、スマートグリッド、通信網

産業の展開 農業、鉱工業、鉄鋼、造船、輸送機

械、金融、サービス業

スマートアグリ、従来の基幹産業

+コンピュータ制御、新素材産

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業、バ イ オ、ソフトウェア産

業、AI産業、ソリューションサー

ビス、Fintech、ロボット、新エネ

ルギー、蓄電池

エネルギー源化石燃料(石炭、石油、天然ガ

ス、シェールガス、原子力)

再生可能エネルギー(風力、太陽

光、地熱、バイオ)、磁気エネル

ギー(フリーエネルギー)

地球環境への姿勢 環境を支配し、人間に奉仕させる 環境と共生し、その力を活用する

【知識社会への経路】

ICT資本が非定形で複雑な問題解決業務と補完的、ルーティン的な業務と代替的と指

摘(Autor, Levy and Murnane, 2013) ITC資本に代替される大多数の労働者の所得は低下する。

高技能労働分配率の上昇、中技能労働分配率の低下、低技能労働分配率の低下(図

10)

図10 製造業に起因するGlobal Value Chain所得の生産要素別分配率

日本           アメリカ          中国  単位:%

出所:World Input Output Database, World Input-Output Tables, November 2013, and Socio Economic Accountm, July 2014.

人々は、防衛的対応として、金銭的な所得の上昇が望めないならば金銭以外のことに

効用を見出す。たとえば、SNS, ゲーム, シェア, 「無料」。

所得格差への対応:遊休資産のシェア(車 Uber、部屋 Airbnb、技能のクラウド・

ソーシング TaskRabbit、ワーク・シェア、中・低技能労働者の連帯、高所得・高資

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産保有者への反発と棲み分け

「無料」という支配。クリティカル・マスに到達できたプラットフォーム提供者は、

情報に対する支配権(情報をフィルター、操作、収集、ビッグデータの生産、新たな

システム構築)を獲得することになる。

Q:21世紀が東半球(アジア)の世紀になるということと、その根幹にある技術(ICT, AI)が西洋発のものであるということは、整合的だろうか。インドの寄与度はどの

程度か。

5 知識経済では何か違うのか:知識経済における集合行為論フリーライド・パラダイス フリーライドが問題にならない知識社会の協力論➡ パワーポイント資料をご参照ください。

【参考文献】

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