1.“文化”とは?
文化概念• ルース・ベネディクトの暗喩(インディアンの首長の語りから)
はじめに、神はみんなに器を与えた。粘土でできた器だ。この器で彼らは自分たちのいのちを飲んだ。‥‥彼らはみんなそれで水をすくったが、彼らの器はそれぞれ別々だ。我々の器は今では壊れてしまった。もう終わってしまったのだ(ルース・ベネディクト著、米山俊
直訳『文化の型』講談社学術文庫、講談社、2008、p50より)
暗喩の解説
• 「粘土のコップ」とは、神がすべての「インディアン」に与えたもの。
• 彼らの「仲間の人生に意味を与えていたもの」「民族の価値基準と信念の体系全体」(=「文化」)を意味している。
• 首長は、「技術革新」(=西欧文明)によって、今ではそのコップが「こわれている」というのである。
RE:“文化”とは?
文化概念
• クリフォード・ギアーツの場合
文化は象徴に表現される意味のパターンで、歴史的に伝承されるものであり、人間が生活に関する知識と態度を伝承し、永続させ、発展させるために用いる、象徴的な形式に表現され伝承される概念の体系とを表している。(クリフォード・ギアーツ著、吉田禎吾・柳川啓一・中牧弘允・板橋作美訳『文化の解釈学1』岩波書店, 1987年、p.148)
“文化”の定義
文化とは、ある個人が
• 自身が所属する(またはしている)集団に基づいて
• 後天的に獲得する(ことが可能な)
• その集団が継承し、発展、保存、(再)創造している認識と日常的実践
を指す。
文化の中の「サブカルチャー」
• 文化(Culture)がその対象とするすべての人々を包含しているのか?
• 複数の“文化”(cultuer)が重層的に重なりあっており、そこへ所属も時間や場所に寄って変化する。
• そういった複合的な個人・集団を分析対象とすることで多様なways of lifeを発見していく
• また、とある“周辺”を視ることによって全体の照射を目指す。
「サブカルチャー」(sub culture)とは?
• 下位文化、副文化、亜文化とも訳される。
• 1960年代の対抗文化をはじめ、ある種の「若者文化」を指す場合が多い。
• メイン(ハイ)カルチャー、例えば、伝統芸能・クラシック音楽・文学・ファインアートに対するモノ。
• ある特定層の趣向品
対抗文化としての「サブカルチャー」
映画『さらば青春の光(Quadrophenia) 』英国、1979年、配給松竹=富士映画より
英国のロック・グループ“ザ・フー”が1973年に発表したLP“四重人格”を基に
若者たちの暴走、愛、挫折などを描く青春映画。個々のアイデンティティ探しがテーマとなっている。
スタイルとしての“モッズ”
• 派手なデコレーションをしたスクーターに乗った若者たちのグループ。
• ファッションは細身のアイビー・スーツにネクタイを締め、米軍放出のロング・コートを無造作にはおっている。
• キーワード:クラブ、ロック、アイビー・スーツ、スクーター、ドラッグ
カタルシスの欠如したその日暮しの若者たちの群像劇
『Trainspotting』、1996年製作、英国。ダ
ニー・ボイル監督、配給:アスミック=パルコより。
あらすじ
ヘロイン中毒のレントンは不況に喘ぐスコットランドでヤク中仲間と怠惰な生活を送っている。人のいいスパッド、モテモテのジャンキーシックボーイ、アル中で喧嘩中毒のベグビーらと悲惨な現実を前にしてもドラッグやナンパ、軽犯罪やクラビングを繰り返す毎日。そうこうするうちスパッドが受刑者となりレントンは何度目かのドラッグ断ちを決意。必死の麻薬治療を受けた彼は、ひと旗揚げようとロンドンで仕事を見つけ真っ当な生活を目指す。
アイロニーな日常
• 主人公のレントンはロンドンに出てまっとうな仕事に就く事によって「大人」の充実感を得る。
• しかし、それも結局は一時的にすぎなかった。
• 「今現在が楽しければそれで良い」という考え方の究極のスタイルが、ドラッグによって自らを解放することなのだ。
• つまりドラッグは孤独な人間の逃げ道なのである。
アイロニカルなビルディングス・ロマン
「人生を選べ」
「キャリアを選べ」
「家族を、テレビを、洗濯機を、車を、CDプレーヤーを、電動缶切り機を選べ」
「いつか死ぬその日まで」
「自己中心のガキになることほど、みっともないことはない」
「未来を選べ…」
「だけど、それがいったい何なんだ?」
ユース・カルチャーから視る日常
• 記号化された・ラベリングされたスタイル
• 『さらば青春の光』ではモッズ・スタイル、バイク、ドラッグ。
• 『Trainspotting』では、ドラッグ、セックス。
逸脱者としての“若者”の生態を描写
スパイスとしての音楽
『さらば青春の光』ではThe who“Quadrophenia”
ジャンル:ロック
『Trainspotting』Underworld
“Born Slippy Nuxx”
ジャンル:テクノ・エレクトロニカ
Underworld, “second toughest in the infants”, 英国、1997年、レコード会社Junior Boys Own
ラベリング理論とスティグマ論
ラベリング理論
「社会集団は、これを犯せば逸脱となるような規範をもうけ、それを特定の人びとに適用し、彼らにアウトサイダーのレッテルを貼ることによって、逸脱を生み出す。」(ベッカー1978:17)
スティグマ論「スティグマとは、スティグマのある者と常人の…二つの役割による社会過程(a perspective two-role social process)を意味している…あらゆる人が双方の役割をとって、少なくとも人生のいずれかの出会いにおいて、いずれかの局面において、この過程に参加しているということ」(ゴッフマン2003:231)
まとめ
現在は、テレビ放送を始めとするマス・
メディアのように空間(ある境界内)を一元的に組織化していくメディアから、情報の自由なフローが重層的に折り重なり、交錯し、現代的な状況に移行する。
そして、複数のメディア(コミュニティまたは“島宇宙”)が競合し合うメディアスケープ全体の再(脱)秩序化の過程を包含している。
参考文献
• ギアーツ、クリフォード著、吉田禎吾・柳川啓一・中牧弘允・板橋作美訳(1987)『文化の解釈学1』岩波書店
• ゴッフマン、アーヴィング(2003)『スティグマの社会学烙印を押されたアイデンティティ』石黒毅(訳)せりか書房
• 佐藤成基(2010)「文化社会学の課題」『社会志林』第56巻 4号、93 – 126項、法政大学社会学部学会
• ベッカー、ハワード S (1978)『アウトサイダーズラベリング理論とはなにか』村上直之(訳)新泉社
• ベネディクト、ルース著、米山俊直訳(2008)『文化の型』講談社学術文庫、講談社