第16回医療福祉技術シンポジウム
支援技術の開発から導入における情報コストに基づく考察
産総研知能システム研究部門
梶谷勇(エンジニア)
第16回医療福祉技術シンポジウム@東京都立産業技術研究センター
2014年10月2日
第16回医療福祉技術シンポジウム
この発表で扱う課題
• 支援技術の開発から導入プロセス
– 課題• 開発されたものすべてが現場に導入され定着するわけではない
– 原因• 開発された「もの」が不十分 (もの)
• 知られてない/使い方がわからない (情報)
• 異文化コミュニケーション (情報)
• 何を支援していいか明らかになっていない (情報)
• 「情報」に関連する課題を整理
– 情報の保有量と質 ⇐ 「情報コスト」の観点から
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第16回医療福祉技術シンポジウム
情報コストの概要
• 情報コストとは
– 情報に関連する人の活動量と定義している
• 情報コストの単位
– 現状では時間を単位として考えている
• 情報コストの具体例
– 「医療福祉技術シンポジウム」主催者側• 開催案内、プログラム作成、広報
– 「医療福祉技術シンポジウム」参加者側• メールリスト登録、WEB検索、アクセス方法検索
• 意思決定、出張申請のためプログラムを見て検討する
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情報コストの種類(供給)
• 供給コスト
–情報を供給する側のコスト。
• 生成コスト– 情報を整理してまとめる。カタログや仕様書作成など。
• 精製コスト– 情報の信頼性を上げる。研究、実証試験など。
• 適合コスト– 情報を使う人に合わせて整理する。医療従事者向け資料。
• 拡散コスト– 情報を広める。宣伝、広告、学会、論文発表など。
• 更新コスト– 情報を変化に合わせて更新する。カタログ更新など。
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情報コストの種類(消費)
• 消費コスト
–情報を使う側のコスト。
• 接触コスト– 情報に接触する。イベント参加、施設見学など。
• 探索コスト– 情報を探索する。カタログ調査、ネット探索など。
• 学習コスト– 情報を理解する。講習会参加など。
• 精製コスト– 入手した情報の信頼性を上げる。報告書作成、検討会など。
• 活用コスト– 情報を活用する。検討会。(予後予測、見込み、見通し)
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情報コストの量の変化
• Positive-increase• 例:モチベーション高く、じっくりコストをかけて調査した
• Negative-increase• 例:調査が難航し、結果的にコストがかかってしまった
• Positive-decrease• 例:簡単に調査でき、結果的にコストがかからなかった
• Negative-decrease• 例:モチベーション低く、調査にコストをかけなかった
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第16回医療福祉技術シンポジウム
情報保有量の格差(非対称性)
• 情報の非対称性の例
–売り手と買い手の情報保有量に格差がある
• サービス提供者とサービス受領者– 例:医師と患者
– サービス受領者は、どのサービスがいいか情報少ない。
• 機器開発者と機器使用者– 例:自動車メーカと運転手
– 機器使用者は、どの機器がいいか、わるいか情報少ない。
• 逆選択
–質の悪い製品やサービスを選択する
(間違った情報をもとに製品開発を行う)7
第16回医療福祉技術シンポジウム
情報の非対称性と情報コスト
• 「情報量の少ない側」への影響• 情報消費コストのNegative-increase
⇒Negative-decrease
• 情報の非対称性への対応• シグナリング:品質情報(資格など)
⇒情報供給コストのPositive-increase
⇒情報消費コストのPositive-decrease
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情報の質に関連する因子
• 情報の質 (≒一般化できるかどうか)
• 関係する因子
1. エビデンスレベル
2. 鉄道ダイヤのパラドックス
3. 直接作用型と間接作用型
4. 遅延効果型
5. 人間の情報処理、認知能力の限界
6. 情報探索活動量
7. 一般化に対する「縦」と「横」の視点の違い
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1.エビデンスレベルの例
I システマティック・レビュー/RCTのメタアナリシス
II 1つ以上のランダム化比較試験による
III 被ランダム化比較試験による
IVa 分析疫学的研究(コホート研究)
IVb 分析疫学的研究(症例対象研究、横断研究)
V 記述研究(症例報告やケース・シリーズ)
VI 患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見
※「診療ガイドライン作成の手引き2007」(医学書院)より
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支援技術とエビデンス
• 中邑先生、巖淵先生による先行研究
–平成18年度厚生労働科学研究「支援機器利用効果の科学的根拠算出に関する研究」
– AAC(拡大・代替コミュニケーション)を中心に
• 教科書、研究論文でもエビデンスレベル低い
• 研究=実践/被験者=患者、児童・生徒– 無作為に選べない
– 常にベストプラクティスが求められる
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2.鉄道ダイヤのパラドックス
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• 増便要求:「電車のダイヤを増やしてほしい」
• 調査:駅で電車を待つ人数
–電車の来ない時間に調査
• 電車を待つ人がいない
⇒ニーズがない
⇒「増便不要」
• 支援技術
–機器が存在しないと議論しにくい
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3.直接効果型と間接効果型
• 直接効果(作用)型
–機器が直接的に作用する
• 間接効果(作用)型
–機器が間接的に作用する
• 機器とサービス・手技の組み合わせ
– 「間接作用型医療機器とその評価」[医療機器レギュラトリーサイエンスガイドブック]
• 手術用ナビゲーション装置の評価– ランダム化試験(ナビゲーション使用群・非使用群)
– ほとんどの項目で有意差なし+生存期間短い
– 手術手技等に依存する
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4.遅延効果型
• 変化があらわれるまでに時間がかかる。
–例
• コミュニケーション支援機器:その場で知覚できる
• リハビリテーション機器:その場で知覚できない場合もある
• 変化があらわれるまでに様々な因子が作用
–何か主要因で変化が起きたかわかりにくい
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5.人間の情報処理、認知能力の限界
• 情報処理能力の限界
–人間の情報処理スピードには限界がある
• 開発時にすべての情報を吟味できない
• 導入時にすべての情報を吟味できない
• 認知能力の限界
–例:
• 既に自分の持つ情報を起点に考える。(最初に聞いた意見にこだわってしまう)
• 想起しやすい情報、自分の関心の強い情報に偏った判断。(自分に都合のいい情報を選択的に)
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6.情報探索活動量に影響する因子
• 事前の情報保有度
–多くても少なくても探索量が減る
• 知覚リスク
–判断を間違えた場合のリスク
• 関与度
• 熟知度(過去の経験)
• 専門性
• 時間制約
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7.「一般化」に対する視点の違い「エンジニアから見た地域支援の輪」[地域リハ 8(4):320-324, 2013]より
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支援技術C
支援技術A
支援技術B
肢体不自由
視覚障害
聴覚障害
コミュニケーション障害
高次脳機能障害
どのように使えば、どのような効果があるのか/どのようなケースでは使うべきではないか、等 (情報活用コスト)※特定の領域の中で一般化できる知見
使ってもらえそうな領域を探す
たくさんの領域で使ってほしい
※異なる領域で一般化できる知見
第16回医療福祉技術シンポジウム
まとめ
• 支援技術の開発から導入
– 「情報」に着目し、「情報コスト」で解析中
• 情報の非対称性と情報コスト
• 情報の質に関連する因子
• 情報コストマネージメントの必要性
–情報コストに応じた開発・導入戦略を
• 合理主義 vs 経験主義
–情報消費コストのpositive increase/decreaseを
• 公的なガイドライン、品質情報等、情報交換会
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