全身性浮腫・重症鉄欠乏性貧血及び 乳び腹水を伴った蛋白漏出性胃腸症の1例
沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 総合内科 徳田 嘉仁 永田 恵蔵 篠原 直哉 仲里 信彦
演題発表に関連し、開示すべきCO I 関係にある企業等はありません
<筆頭発表者のCOI開示>
はじめに
・蛋白漏出性胃腸症(PLE)において、膠原病などに合併し、自己 免疫機序が関連する症例報告がある。 !
・今回我々は、関節リウマチを基礎にもつ患者で、全身性浮腫・乳 び腹水・重症鉄欠乏性貧血を合併したPLEを経験したので、これ を報告する。
【症例】74歳 女性 【主訴】全身浮腫・呼吸苦 【現病歴】 7年前より関節リウマチ治療中であった。来院6ヶ月前より労作時の動悸・息苦しさを自覚。その後、来院2ヶ月前より起坐呼吸・全身性浮腫が徐々に増悪し、かかりつけ医にて貧血及び低アルブミン血症を指摘されていた。同症状が悪化したため当院受診。加えて、3ヶ月前から断続的な37度台の発熱あり、今回も10日前からの発熱がみられた。悪寒戦慄はない。咳・痰あり。嘔吐・下痢などの消化器症状なし。不正性器出血なし。
【既往歴】 狭心症 関節リウマチ 間質性肺炎 高血圧 糖尿病 高脂血症
【常用薬】 プレドニゾロン5mg/日 ランソプラゾール15mg/日 フロセミド40mg/日 バイアスピリン100mg/日 バルサルタン40mg/日 ゾルピデム10mg/日
【嗜好歴】 たばこ;10本/日 30歳まで 酒;なし 偏食;なし 【家族歴】 特記事項なし 【その他】 エホバの証人
<入院時関節疼痛部位>
リウマチ治療経過
来院7年前 Steinbroker stageⅡ classⅡの診断 MTX6mg/週の投与が開始 !5年前 MTX6mg/週+インフリキマブ投与 !1年前 MTX16mg/週まで増量 !4ヶ月前 リウマチ症状改善認めず間質性肺炎もありMTX中止。 イグラチモド追加するも皮疹及び貧血出現 薬剤性が疑われ中止。以降PSL5mg/日
来院時身体所見
血圧124/74mmHg 心拍数102回/分 呼吸数24回/分 体温37.2℃ 酸素飽和度97% (室内気) !眼瞼結膜貧血あり・眼球結膜黄染なし 頸部リンパ節腫脹なし 頚静脈圧上昇なし 肺音;両下肺野に乾性ラ音あり 心音;整 心雑音なし S3(-) S4(-) 腹部;腸蠕動音亢進・減弱なし 膨隆あり 波動を触れる 肝脾腫触知しない 四肢;全身に著明な圧痕浮腫あり 直腸診;腫瘤触知せず 便潜血陰性
血算
WBC 10600 (/μl)RBC 155 万/μlHgb 3.7 g/dlHct(%) 13.3%MCV(fl) 23.9flPlt 15.3 万/μl網赤血球 0.69%
生化学Na 135mEq/l γ-GTP 32IU/lK 4.6 mEq/l LDH 206 IU/lCl 105 mEq/l TP 4.4 g/dlCa 7.0 mEq/l Alb 1.6 g/dlBUN 20 mg/dl T-Cho 35 mg/dlCre 1.0 mg/dl Fe 38 μg/dlAST 22 IU/l フェリチン 8 ng/mlALT 19 IU/l 葉酸 6.8 ng/mlT-Bil 0.2mg/dl vit.B12 336 pg/mlALP 209IU/l HB-A1c(NGS) 5.5%尿検査
pH 5.5尿糖 陰性尿蛋白 陰性尿潜血 陰性
その他
IgG 1635 mg/dl MMP-3 145 ng/mL
IgA 259 mg/dl HBs抗原 陰性
IgM 61 mg/dl HCV抗体 陰性
RA 32 HTLV-1 陰性
抗核抗体 40未満
<入院時Labo Deta>
【入院時画像所見】
胸部XP両側下肺の網状影 及び左胸水が疑われる
腹部CT腹水の貯留を認める
門脈血栓なし 肝硬変所見なし
【腹水所見】腹水検査
WBC 280 /μl AMY 48 IU/lRBC 0 /μl GLU 219 mg/dl好中球 41% LDH 81 IU/lリンパ球 41% Alb 0.5 g/dl好酸球 0% ADA 7.9 IU/l好塩基球 0% 比重 1.014蛋白 1.1 g/dl TG 233 mg/dl
→乳び性・漏出性腹培養;陰性 結核PCR;陰性 細胞診;悪性所見なし
<上部内視鏡検査>
食道 胃 十二指腸
<下部内視鏡検査>
回盲部 上行結腸
→蛋白漏出性胃腸症と診断
6時間後像 30時間後像
消化管たんぱく漏出シンチ( Tc-HSAD)99m
小腸(回盲部)内にRIの異常集積を認める。6時間後にはみられなかった大腸(上行~肝彎曲部、及びS状結腸)内のRI異常集積を認める。小腸より漏出したRIが移動してきている所見と考えられる。
含糖酸化鉄 (フェジン)
治療経過
下腿浮腫0
2.5
5
7.5
10
12.5
15
1 2 5 9 11 17 23 25 27 31 39 42 50 60
Hgb(g/dl)
0
2.5
5
7.5
10
12.5
15
1 2 5 9 11 17 25 27 31 39 42 50 60
Alb(g/dl)
1.0
2.0
3.020%Alb製剤
120mg/day 80mg/day
100mg/dayクエン酸第一鉄Na (フェロミア)
Epo6000単位
20%Alb製剤
1 5 10 15 20 25 30 35 40 第46病日;退院
・関節RAに対してPSL10mg/日+サラゾスルファピリジン1000mg/日 ・浮腫および腹水に対してフロセミド40mg/日+スピロノラクトン25mg/日
・本症例は蛋白漏出性胃腸症(PLE)に全身性浮腫・重症鉄欠乏性貧血 及び乳び腹水を合併していた。その他器質的疾患は認めなかった事か ら、これらはPLEに関連した症状と考えられた。 !・治療抵抗性の関節リウマチを合併しており、治療変更を起点として発症 していることから、免疫学的機序が関与したものと考えられる。 明らかなアミロイドーシスの合併は認めなかった。 !・関節リウマチに対する治療を行いつつ、貧血・浮腫に対する対症療法を 施行したところ、低Alb血症は寛解しえなかったが、鉄欠乏性貧血・全 身性浮腫・乳び腹水に関して改善した。
考察
考察
・PLEの発生機序は①腸リンパ管の器質的機能的異常、②胃腸粘膜の異常、 ③蛋白漏出の機序が不明なものが挙げられ、自己免疫が関与したと考えら れる機序は③の範疇に含まれる。 !・山下らの報告によると、自己免疫機序が関与したPLEは女性に多く、若 年発症の傾向がある。 !・古島らの報告によると、自己免疫性が関与したPLEにはステロイド投与 が約70%で有効だったとされるが、ステロイド治療に対して抵抗性を認 めた症例も報告されている。
結語
・全身性浮腫や重症鉄欠乏性貧血・乳び腹水を合併したPLEを 経験した。 !
・本症例では、アミロイドーシスの合併を認めず、乳び腹水や画像 検査所見からPLEを疑った。原疾患に関節リウマチを罹患してお り、自己免疫機序が関与した可能性が考えられる。 !
・宗教上の理由により輸血が困難であり、治療選択に難渋した。