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部 門 紹 介

京都府立医科大学泌尿器科学教室は1964年に故小田完五,初代教授の下に皮膚泌尿器科学教室より分離独立して発足し,その後1976年1月には東北大学から渡辺泱,現名誉教授を第2代教授に迎え,現在の教室の基盤を築かれました.本教室の実績の国際的発展に並行するように教室医員の増員が進み,泌尿器科学教室同門会が1990年11月に発足,約20年間で門下生は100名を超えました.そして,1998年6月に大阪大学から三木恒治,現教授を第3代教授に迎え,三木教授に導かれた本教室の臨床診療実績・研究実績・教育体制はさらなる発展と増員をとげており,今日において本門下生は150名を超えるに至りました.平成22年から現在の名称である京都府立医科大学大学院 医学研究科 泌尿器外科学となっております.三木教授は2011年4月から附属病院長,2012年1月からは副学長を併任しており,泌尿器科での業務だけでなく,病院や大学全体の改善を目指して取り組んでおります.

充実した専門的臨床実績

特に,最近の10年間の当教室の発展において特記すべきは,臨床と研究の両立です.三木教授のライフワークのひとつである癌化学療法を含めた集学的治療を世界に先駆けて施行して良好な成績をあげて世界に発信してきた結果,全国の基幹病院でさえ治療に難渋する進行性精巣癌症例の当教室への紹介は増加の一歩をたどっており,泌尿器癌の化学療法および泌尿器癌の手術治療に関連した臨床診療実績は著しく向上しました.精巣腫瘍の化学療法後の残存腫瘍に対しては,難易度の高い神経温存手術などの術後のQOLを考えた手術を,豊富な手術経験を

もったスタッフが技術を結集して行ってきました.また腹腔鏡下手術,ラジオ波などを用いたがん局所療法,小線源療法の導入によって泌尿器領域での低侵襲治療を導入し,その結果,特に平成2001年から2011年の10年間では,外来受診患者数が20645名から28935名へと40%増加,同5年間の入院患者数は618名から855名と38%増加という驚異的な増加率を示しています.現在のスタッフは三木教授をはじめ15名,大学院生6名,専攻医6名という陣容です.手術日は月・水・金(奇数週)で,手術実績は年間455件(ESWLは含まず)でした.主なものはTUR-Bt126件,腹腔鏡下腎摘除術46件,腹腔鏡下腎部分切除術14件,前立腺全摘除術(小切開法)22件,膀胱全摘除術13件,腹腔鏡下腎尿管摘除術17件,腹腔鏡下VUR根治術27件,TVM16件,TOT/TVT9件などでした.

世界の最先端医療技術の研究開発

癌に対する治療においてQOLを維持しながら良好な癌制御を得ることは理想であり,癌に

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<部 門 紹 介>

京都府立医科大学大学院 医学研究科 泌尿器外科学

泌尿器腹腔鏡手術施行風景

対する新しい低侵襲的治療の導入にも,積極的に取り組んできました.すなわち,低侵襲的手術である腹腔鏡手術の導入,前立腺癌の低侵襲的放射線治療である小線源療法の導入,前立腺癌の低侵襲的治療である小切開による根治的前立腺全摘除術,さらには,腎細胞癌や転移性精巣腫瘍に対する経皮的ラジオ波焼灼術の臨床応用などで成果を上げてきました.1999年11月より腎・尿管および副腎に対する

腹腔鏡手術の臨床応用を開始し,尿路奇形に対する形成術,小さな腎がんに対する腎温存手術

(腹腔鏡下腎部分切除術),さらには小児の泌尿器疾患に対する手術(停留精巣に対する腹腔鏡検査および腹腔鏡下手術,腹腔鏡下逆流防止術など)も腹腔鏡手術で実施可能となり,今日まで腹腔鏡下手術症例数は1500例を超え,本邦有数の臨床実績であり,結果,同門医員の腹腔鏡認定医の数も本邦ではトップクラスを維持しています.また,単孔式腹腔鏡手術(LESS)の施行症例も国内でトップクラスを維持しており,国内外に向けて情報発信をしております.2005年4月からは,ヨードI-125を用いた密封小線源治療を施行し,患者数は急増しており,既に400名を超えています.現在までに厚生労働省

より認可された高度先進医療としては,腹腔鏡下膀胱尿管逆流防止術,泌尿生殖器腫瘍後腹膜リンパ節転移に対する腹腔鏡下リンパ節郭清術,転移性肺がんに対する経皮的肺がんラジオ波焼灼療法,原発性又は転移性腎がんに対する経皮的腎がんラジオ波焼灼療法があります.また,進行期腎細胞がん患者に対する新規癌ペプチドワクチンIMA901による第Ⅰ/Ⅱ相試験が行われています.

これらの研究成果を報告した国内外の学会では,本教室からの研究発表の中から15編を超える研究が国内外の学会の学会賞を受賞しており,さまざまな分野で世界レベルの画期的な研究が進行していることを裏付けています.最近当教室で主催した学会は,第24回日本泌尿器内視鏡学会総会(2010年10月),第48回日本癌治療学会学術集会(2010年10月),第61回日本泌尿器科学会中部総会(2011年11月),第10回国際前立腺フォーラム(2011年11月)等国内および国際学会と多岐にわたり,充実した教室の運営が行われています.

関 連 病 院

当教室は,質の高い関連病院が多く,京都府下の第1・第2日赤をはじめ,主要病院の多くが当教室の関連病院となっています.京都府以外の関西圏では大阪府では松下記念病院,大阪府済生会吹田病院が,滋賀県では済生会滋賀県病院・近江八幡市立総合医療センター・湖北総合病院が主だった関連病院です.関西圏以外では名古屋泌尿器科病院(名古屋市)・古賀総合病院(宮崎市)などがあります.

関連研究施設・国際交流

国内留学,海外留学ともに盛んです.教室としては1人でも多くの人に海外留学をして頂くことを望んでいます.希望のある人はもちろん,どちらかを迷っている人にも留学の門戸を広く開いています.大学内の医局員がまだ充足

グローバルな実績を世界に発信するパワー

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前立腺癌の小線源療法

していない状態ですが,質の高い研究を行うため積極的に国内外を問わず共同研究を進めています.ここ10年間での留学先として,アメリカの,バルチモア市のJohnsHopkins大学,ロサンゼルス市の南カリフォルニア大学,ヒューストン市のテキサス大学MDアンダーソンがんセンター,クリーブランド市のクリーブランドクリニックなどがあり,その他国内留学(東京大学・大阪大学など)を含め,他施設との共同研究は充実しています.

教 育

京都府立医科大学泌尿器外科学における後期研修システムの特徴は,1)個々人の意思を尊重したオーダーメイドの研修,2)指導医とマンツーマン体制で行う行き届いた指導,3)京都府立医科大学関係病院研修委員会を中心とした関係病院を含めた研修の統一性,継続性,4)学位取得,海外留学も視野に入れた将来性のある教育などです.京都府立医科大学および関係病院泌尿器科に

所属する指導医は泌尿器科全般の診療ができるのみでなく,それぞれに専門領域を持っており,その指導によって多くの専門的知識・技術を研修システムのなかで教育しています.研修内容を一定レベル以上に保ち,基本的なカリキュラムはどの病院でも同じように研修できるようにするとともに,ローテート先でも研修内

容を継続させて,個々の技術をさらにレベルアップさせることを目標としています.また,各病院の特徴を考慮し,個々の希望と合う研修先のローテートシステムを構築しています.また,基礎研究を行い新しい発見をして医学に貢献することや海外の医療や生活を経験することは,長い人生のうちの大きな経験として,将来の医師としての考え方や生活に幅をもたせます.このような将来性を考慮し,各位取得や海外留学を考えている後期研修医を積極的にサポートしています.

ま と め

三木教授は2011年より附属病院長となり,また副学長を併任し,日常業務・診療に費やす時間を確保するのが難しくなってきております.そのため,毎日夕方に病棟で行っている泌尿器科回診や,週一回の医局会・症例検討会等で綿密な指導を仰ぐことが困難な状況になっており,医局員個々の能力が必要とされる機会が増えてきています.これに対して,個々のスタッフは意識して自分の役割を十分に果たすことで全体の業務をカバーしようとしています.その点で今教室運営は乗りに乗っているともいえるでしょう.この教室全体のパワーを次の世代に伝えていくことが今の私たちに課せられた最も重要な課題であります.

(文責:講師 鴨井和実)

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