Title 後腹膜pleomorphic lipomaの1例

Author(s) 福井, 義尚; 大園, 誠一郎; 平山, 暁秀; 安川, 元信; 久門, 俊彦; 三馬, 省二; 平尾, 佳彦; 岡島, 英五郎

Citation 泌尿器科紀要 (1991), 37(4): 373-376

Issue Date 1991-04

URL http://hdl.handle.net/2433/117160

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

泌 尿紀 要37=373-376,1991 373

後 腹 膜Pleomorphic　 lipomaの1例

奈良県立医科大学泌尿器科学教室(主 任:岡 島英五郎教授)

福井 義尚,大 園誠一郎,平 山 暁秀,安 川 元信,久 門 俊彦

三馬 省二,平 尾 佳彦,岡 島英五郎

A CASE OF RETROPERITONEAL PLEOMORPHIC LIPOMA

Yoshihisa Fukui, Seiichiro Ozono, Akihide Hirayama,

Motonobu Yasukawa, Toshihiko Kumon, Shoji Samma,

Yoshihiko Hirao and Eigoro OkajimaFrom the Department of Urology, Nara Medical University

A 71-year-old male patient was referred to our department for further examination for right retroperitoneal tumor. Exploration was done through a flank approach and the tumor with right adrenal gland was removed. A pleomorphic lipoma was diagnosed histopathologically. There have been 8 reported cases of pleomorphic lipoma including present our case in Japan and we discussed the pathogenesis and treatment of this rare disease.

(Acta Urol. Jpn. 37: 373-376, 1991)

Key words: Retroperitoneal tumor, Pleomorphic lipoma

緒 言

Pleomorphiclipomaは,1977年 にEnzinger1)が

初めて報告 した脂肪腫 の一亜型であ る.臨 床的には50

歳か ら70歳 の男性 の肩と後頸を好発部位 とす る良性腫

瘍の1つ である.組 織学的には多核 巨細 胞 と太い膠原

線維束お よび大小不 同の成熟脂肪細胞 とか らな り,組

織像の多型性のため分化型脂肪 肉腫 と誤 られやすい と

されている.

今回,わ れわれは,後 腹膜か ら発生 した と考 えられ

るpleomorphiclipomaの1例 を経験 したので若干

の文献的考察を加えて報告す る.

症

患者:71歳,男 性,農 業

主訴:右 季肋部痛

家族歴:父 が肺癌 にて死亡

既往歴:特 記すべ きことなし

例

現病歴ll985年 ごろ より右季肋部痛を 自覚す るも放

置 していた.1988年,近 医 での人間 ドックにて,高 血

圧お よび腹 部 エコーに よ り右後 腹 膜腫 瘍を指 摘 され

た.同 院にて腹部CTscanお よび血管造影 の結果,

右副腎腫蕩の診断を受け1988年10月9日 当科 へ紹介 さ

れ,同 年10月22日 手術 目的に て入院 した.

入院時理学 的所見:体 格,栄 養 は良好で右季肋部 に

小児頭大の腫瘤 を触知す る以外 とくに異常所見はなか

った.血 圧は162/80mmHgで あった.検 査所見は,

末梢血,血 沈,止 血機能,血 液生化学お よび尿検査に

とくに異常は認め られ なか ったが,内 分泌学検査にお

いて血 中デオキシコルチ コステ ロンが軽度上昇 してい

た.

X線 検査所見:腹 部単純撮影では,と くに異常所見

はみ られなか った.排 泄性尿路撮影では,左 腎は腎孟

腎杯 とも造影剤の排泄良好 で形態上 とくに異常はみ ら

れず右 腎がやや下方に偏位 していた.し か し腎孟腎杯

に とくに異 常所見 は認め られ なか った.腹 部の単 純

CTscanで は右副 腎部に一致 して内部が均一 な腫瘍

が認め られ(Fig.IA),ま た,造 影CTscanで は内

部にenhanceさ れる部分が混在 していた(Fig.IB).

血管造影 にて腫瘍血管は右腎動脈か ら分岐 し,上 腸

間膜動脈,腰 動脈は正常であ った.ま た,右 副腎動脈

がやや内側へ圧排 されていた.

MRI検 査所見:T1強 調画像 にて右腎上部にやや

highintensityに 描 出する腫瘍 が認め られたが,副 腎

との関係は不明であった(Fig.2A)・ また脂肪抑制画

像にてlowintensityに 描出された(Fig.2B)こ と

か ら,こ の腫瘍は大部分脂肪か らなる と考 えられた.

以上の所見 よ り右 後腹膜腫瘍 と診断 し,1988年12月

374 泌尿紀要37巻4号1991年

メ 声

Table1.

蔓 淋

Hormoneanalysisoftherightadrenal

glandtissueandthetumortissue

囲

、靴...

「

軟 、

AdrenalBlagd(nB/B)

Tumor(ng/9)

争づ

ず

メψ

・34・ り'・ 「 ・.

㌔ ・ ㌧ べ 唾

』_ノ_.飾 『・

Fig.1.AbdominalplainCTscandemonstrates

ahomogeneoustumorintheright

retroperitonealspace(A)andthis

tumorispartlyenhanced(B).

androstenedione

DHEA

testosterone

progesterone

258

93.9

51.7

153

9.42

6.28

s.za

3.14

艦

Fig.2A.CoronalT1-weightedimage

Fig.3.

lowintensitytumor.

shiftimageshowsa

tumor.

showsa

2B.Chemical

lowintensity

・愁:誇髪嘉 ビ ,瓢:γ

鮮 三驚 鎖糞簗1歯一磐'灘 葱

.・ ∴'・L・ 。畢 勲.rタ 駕

霧:ジ壕ノ こ ロ レ ケ

監:1な,威 透 ∴ ド ～一・・【=艶 で∵ 一

,～,'F㌔ノ"冒 ■ 騨 ひ「

Matureand immaturefattycellsareseenhereandtherehistopathologically.(HEstainx400)

22日 全身麻酔下に右後腹膜 腫瘍摘 出術を施行 した.

手術所見=右 腰部斜切開にて右後腹膜腔に達 し,腎

の上前方に手挙大の腫瘍 を認 めた.腫 瘍は可動性があ

り周囲組織への浸潤を思わせる所 見 もな く,腎 茎部,

大動脈周 囲 の リンパ節の 腫大 もみ られな か った.ま

た,ほ ぼ正常 と思われる右副腎が腫瘍の上方に連続 し

認め られたため,腫 瘍 を右 副腎 と共に一塊に して摘 出

した.

摘 出標本:摘 出標 本は,重 量80g,大 きさ8×6x4

cmで,表 面 は黄 褐色 で弾性軟の腫瘍であ った.割 面

は黄褐色で脂肪様,と ころどころに赤褐色の部分 が認

め られた.

病理組織学的検査lHE染 色では,matureお よび

immatureなfattycellが 混在 し,そ の中に大小不

同の核を有す るimmatureな 細胞集 団が,認 め られ

たが,mitosisは な く,悪 性 と考え られる所見は認 め

られなか った(Fig.3).

標本中のホ ルモ ン濃 度(Tablel):腫 瘍 部のホル

モン濃度は正常副腎の ホルモ ン濃度に比 し著明に低値

を示 したため,本 腫瘍には副腎組織は含 まれず,ま た

ホルモ ン産生腫瘍では ない と診断 した.

術後経過:術 後経過は良好 で,術 後約1年 経過 した

現在,再 発 もな く外来 でfollowup中 であ る.

考 察

Pleomorphiclipomaは1977年 にEnzingerDが 従

来liposarcomaと 診 断されていた症例の うち48症 例

を検討 し臨床的,組 織学的特徴を報告 した特殊な脂肪

腫 の1つ である.本 腫瘍は臨床的には40歳 代か ら60歳

代の男性の後頸部,肩,背 部 の皮下にで きる無痛性 で

境 界明瞭 な黄色の腫瘤 である.ま た,組 織学的には多

核巨細胞 と太い膠原線維 束お よび大小不 同の成熟脂肪

細 胞か らな り,し か もその巨細胞は好酸性の細胞質の

福 井,ほ か ξ後腹 膜pleomorphiclipoma

Table2.ReportedcasesofpleomorphiclipomaintheJapaneseliterature

375

author year agesexorigin

i

2

3

4

5

s

7

8

Uenoetai.

Nakanishietal.

Nakanishietal.

Takemotoetal.

Sasakietal.

Sakamakietal.

Hayashietal.

Ourcase

1982

1983

1883

1984

1987

1887

1888

1980

56

48

61

47

52

55

56

71

Forbita

Mforhead

Fback

Mscapularregion

Mrightsupraclaりicularfossa

Fleftupperarm

Frightpalm

Mleftretroperitonealspace

中 に 濃 染性 の 多数 の核 が 偏 在 性 あ る い は花 弁 の重 な り

状 に 配 列 して お り,floretlikecellと 呼 ばれ て い る

もので あ る.ま た,紡 錘形 細 胞 腫 との 移 行 型 をみ る こ

と もあ る と され,間 質 や血 管 周 卿 こ形 質 細 胞 や リンパ

球 主 体 の炎 症 細 胞 浸 潤 を 認 め る が,異 常 核 分 裂像 や 壊

死,変 性 巣 は認 め な い とされ て い る2-3).

本腫 瘍 の組 織 発 生 に つ い て は ま だ 不 明 で あ る が

Shmooklerら2)はspindlecelllipomaと 密 接 な 関 連

が あ る と し,ま た,こ れ ら2つ の 腫瘍 が圧 倒 的 に 男 性

に 多 い こ とか ら,両 者 と も ホ ル モ ンや そ の他 の性 差 に

関 連 した 刺激 に よ り脂 肪 前 駆 細 胞 また は未 知 の先 駆 細

胞 が 反 応 した 共 通 の 間 葉細 胞 の反 応 性 に基 づ く一 連 の

疾 患 で あ る と して い る.ま たBehamらA)は 免 疫 学 的

な方 法 を 用 い る こ とに よ りpleomorphiclipomaが,

脂 肪細 胞 と脂 肪 を 含 まな い 間葉 系 細 胞 か らな り,そ の

構 成 がspindlecelllipomaと ほ ぼ 同一 で あ る こ とを

示 して い る.

Pleomorphiclipomaの 鑑 別 診 断 に は 多 型脂 肪 肉

腫,粘 液 型脂 肪 肉腫,壊 死 型 脂肪 肉腫 やspindlecell

lipomaが あ げ られ る.多 形 型脂 肪 肉腫 は シ ー ト状 の

増 殖 領 域 が み られ,floretlikecell類 似 の 巨細 胞 が

み られ る もの の 多数 の 脂 肪 芽 細 胞 や 核分 裂 像,細 胞 異

形 成 が み られ る こ とに よ り鑑 別 で きる.粘 液 型 脂 肪 肉

腫 で は,巨 細 胞 は一 般 に み られ ず,多 数 の脂 肪 芽細 胞

や 豊 富 な 毛細 血 管 網 が み られ る.硬 化型 脂 肪 肉腫 は 強

い 線維 化 お よび 膠 原 化 が あ り,ま た異 型 脂 肪 芽細 胞 や

異 型 的 な 有 糸 核 分裂 が み られ る.spindlecelllipo-

maは も っ と も 鑑 別 が 困難 と 思わ れ るがpleomor-

phiccellやfloretcellが 存 在 しな い こ とで 区 別 され

る.

自験 例 は 後 腹 膜 腔 よ り発 生 した 症 例 で,一 般 的 な

pleomorphiclipomaと は 発生 部 位 が 異 な る が,病 理

組 織 学 的 に 大 小 不 同 のmatureま た はimmatureな

脂肪 細 胞 と太 い 膠 原線 維 束 お よび 多 核 巨細 胞 とか らな

り,そ の な か に 大 小不 同 の核 を 有 す るimmatureな

細 胞 が 花 弁 状 に 配列 して お り,核 分 裂 像 や 異 型 性 が な

い こと よ りpleomorphiclipomaと 診 断 した.

Pleomorphiclipomaは1977年Enzingerら が 初

め て報 告 して か ら まだ10年 余 りしか 経 過 して お らず,

そ の位 置 づ け もい まだ確 立 され て い な いた め,本 邦 で

の 報告 例 もわ れ わ れ が調 べ えた 限 りで は 自験 例 を 含 め

て8例 に す ぎ な い5-lo)(Table2).後 腹 膜 に 発 生 し

た報 告 例 は 本邦 に は み ら れ ず,第1例 目と 考 え ら れ

た.自 験 例 は術 後14ヵ 月 しか経 過 して お らず,局 所 再

発 を 含め 長 期 に わ た るfollowupが 必要 と考 え る.

結 語

71歳 の男性の後腹膜に発生 したpleomorphiclipo-

maと 考 えられる1例 を経験 した.本 症はわれわれが

調べえたかぎ りでは本邦8例 目にあた り,ま た後腹膜

に発生 した第1例 目で,若 干の文献的考察 を加え報告

した.

本論文の要 旨は第129回 日本泌尿器科学会関西地方会にお

いて発表 した,

文 献

1)EnzingerFM:Benignlipomatoustumorssimulatingasarcoma.In:Managementof

primaryboneandsofttissuetumors.EditedbyMartinRGandAyalaAG.pp.11-24,YearsBookMedicalPublishers,Chicago,

1977

2)ShmooklerBMandEnzingerFM:Pleomor-

phiclipoma:abenigntumorsimulatinglip-osarcoma.Aclinicopathologicanalysisof

48cases.Cancer47:126-133,1981

3)BolenJWandThorningD:Spindle-celllipoma.Aclinical,light-andelectron-micro-

scopicalstudy.AmJSurgPathol5:435-441,1981

4)BehamA,SchmidC,HodlSandFletcherchDM:Spindlecellandpleomorphiclipoma:

376 泌尿紀要37巻4号 王991年

animmunohistochemicalstudyandhisto-

geneticanalysis.JPathol158:219-222,1989

5)上 野 泰 志,山 之 内 宏 一,永 石 順 子,ほ か3眼 窩

pleomorphiclipomaの1例,眼 紀33:1493-

1504,1982

6)中 西 純 夫,野 村 日出 夫,檜 澤 一 夫:Pleomorphic

lipomaの2例 。病 理 と臨 床1:780-785,1983

7)竹 本 剛,小 武 家 俊 博=Pleomorphiclipoma.

広 島医 学38:359,1985

8)佐 々木 美 和 子,鈴 木 伊 津 子,大 井綱 郎,ほ か:

Pleomorphiclipomaの 玉例.日 皮 会誌97:

502,1987

9)酒 巻 治彦 吉 沢 夏 人,有 田 覚:Pleomorphic

lipomaの1症 例.関 東 整 災誌is355-357,

1988

10)林 徳真 吉,津 田暢 夫,島 田 修,前 田 公=手

掌 に 生 じたpleomorphiclipomaの1例,-

spindlecelllipomaと の 比 較一 癌 の臨 床35二

437-441,1989

(ReceivedonMayI,1990AcceptedonJuneI,1990)