在宅医療・介護における GISの利用
新潟大学大学院医歯学総合研究科 国際保健学分野 新潟大学GISセンター
鈴木 翼、菖蒲川 由郷、齋藤 玲子
ATBHVIサテライトシンポジウム in魚沼 一般公開講座
2012.10.11
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講演の概要 • GISとは何か、何ができるのかを知る。 • 魚沼市の人口・医療介護施設の分布の特徴を知る。
• 在宅医療・介護における魚沼市と新潟大学の取り組みを紹介し、今後GISを活用して何ができるかを考える。
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GISとは? G eographic (地理) I nformation (情報) ystem (システム) S
[地理情報システム] 地図上に様々な情報を分かりやすく 表示し、地図を重ね合わせて 分析をおこなうシステム
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GISで表すことができるもの 施設、建物、道路
•どこに、どんな施設があるのか? •どこに集中しているのか? (例)病院の分布、スーパーマーケットの分布
人、集団 •どこに、どんな人が住んでいるのか? •どれだけ多くいるのか? (例)高齢者の分布、地域ごとのがん患者の分布
出来事、気象 •どこで、どんな出来事が起こったのか? •どこに集中しているのか? (例)積雪量、交通事故や火災、雪崩の発生地点
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GISでできること
GIS 人口分布
医療機関分布
道路網
重ね合わせて地図を作成
分布の傾向を解析 (例)医療機関の 分布密度
近隣の施設を検索 (例)ある住宅から 1km以内の医療機関 5
GISはなぜ有用なのか? 情報 共有
意思 決定
現状 把握
GIS
「情報の見える化」
人口が多いのに 医療機関が少ない地域がある!
新たな医療機関を誘致しよう!
他の部署にも 見てもらい意見を出し合おう!
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医学と地図の 密接な関係
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“この国が経験した最も恐ろしいコレラ禍は、数週間前にゴールデンスクエアのブロードストリートで発生したものであろう。10日間に500件以上ものコレラによる死者…その勢いもすさまじく、数時間のうちに多数の犠牲者を出した。”
“次から次へと死んでいくものはみな、ブロードストリートの井戸水とつながりがある。なのに、その井戸ポンプは現在も使われている。 …教区役員会は簡単な話し合いの後投票し、ブロードストリートの井戸を閉鎖することに決めた。”
“スノウの探偵仕事は信じられないほど精力的なものだった。病気のまっ最中の患者がいる家を訪ねて何時間も界隈を歩いた。” ジョン・スノウ(1813 - 1858)
スティーヴン・ジョンソン著「感染地図 歴史を変えた未知の病原体」(2007)より引用
“敵の伝播経路を知ることにより、彼らは病気と対峙し戦い、打ち破ることが可能になった。”
コレラマップ(1854年・ロンドン)
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LONDON, 1854
コレラ死者
ブロードストリートポンプ
え き が く
疫学 疾病の分布状態を調査し、 その原因を探り、疾病を予防することを目的とする学問
魚沼市での取り組み〈1〉
医療・介護施設の分布マップと アクセス解析
10 (2012.7.29撮影 T.Suzuki)
魚沼市在宅医療連携拠点事業
高齢過疎化が進む魚沼地域で、貴重かつ限られた医療資源の中、新病院を中心とした地域包括ケアシステムを含む医療再編成計画
GIS(地理情報システム)を活用した要支援者情報管理システムの整備、職種間での情報共有
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計画のはじめの一歩として… 魚沼における高齢過疎化と医療資源の現状を明らかにする。
◇ 高齢化はどのぐらい進んでいるのか? 特に進んでいる地域はどこか? ◇ 実際にどれだけの医療資源があるのか? ◇ 人口と医療資源のバランスはどうか?
1. 総人口、高齢者人口および高齢者世帯の分布 2. 医療機関および介護施設の立地、定員数 3. 各機関からのアクセス(所要時間)分布
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1.高齢者人口および世帯の分布 使用データ ◦ 平成22年国勢調査 町丁字別人口データ ◦ 平成17年国勢調査 1kmメッシュデータ
方法 ◦ 人口データを使った集計 総人口、高齢者人口(65歳以上人口)、 高齢化率(65歳以上人口の占める割合)
◦ メッシュデータを使った地図化 人口密度、高齢化率、高齢者単身世帯、 高齢者夫婦世帯の分布
(網目)
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魚沼市の人口分布
1kmメッシュデータ
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<堀之内地区> 人口 8,672人 面積 69.0km2
人口密度 125.7人/km2
<小出地区> 人口 11,774人 面積 30.0km2
人口密度 393.0人/km2
<魚沼市全体> 人口 40,361人 面積 946.9km2
人口密度 42.6人/km2
<守門地区> 人口 4,037人 面積 120.0km2
人口密度 33.7人/km2
<入広瀬地区> 人口 1,592人 面積 272.1km2
人口密度 5.9人/km2
<湯之谷地区> 人口 6,158人 面積 349.9km2
人口密度 17.6人/km2
<広神地区> 人口 8,128人 面積 105.9km2
人口密度 76.8人/km2
魚沼市の高齢者人口分布
<広神地区> 高齢化率 28.5% (2,314人)
男 24.4% / 女 32.3%
<堀之内地区> 高齢化率 29.9% (2,597人)
男 26.2% / 女 33.5%
<小出地区> 高齢化率 28.2%(3,325人)
男 24.3% / 女 31.9%
<守門地区> 高齢化率 36.7%(1,482人)
男 30.9% / 女 42.4%
<入広瀬地区> 高齢化率 41.9%
(667人) 男 35.1% / 女 48.3%
<湯之谷地区> 高齢化率 25.8%(1,589人)
男 21.4% / 女 29.9%
参考: 高齢化率 全国 23.0% 新潟県 26.3%
<魚沼市全体> 高齢化率 29.7% (11,974人)
男 25.4% / 女 33.7%
1kmメッシュデータ
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魚沼市の高齢者単身世帯分布
<広神地区> 高齢者単身世帯割合
5.9%(137世帯)
<堀之内地区> 高齢者単身世帯割合 7.1%(184世帯)
<小出地区> 高齢者単身世帯割合
8.0%(319世帯)
<守門地区> 高齢者単身世帯割合
9.6%(131世帯)
<入広瀬地区> 高齢者単身世帯割合
16.2%(98世帯)
<湯之谷地区> 高齢者単身世帯割合
7.0%(162世帯)
参考: 高齢者単身世帯割合 全国 9.2% 新潟県 7.8%
<魚沼市全体> 高齢者単身世帯割合
9.1%(1189世帯)
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魚沼市の高齢者夫婦世帯分布
<広神地区> 高齢夫婦世帯割合
7.7%(179世帯) 高齢者単身+夫婦
13.6%(316世帯)
<堀之内地区> 高齢夫婦世帯割合
8.7%(225世帯) 高齢者単身+夫婦
15.8%(409世帯)
<小出地区> 高齢夫婦世帯割合
8.8%(353世帯) 高齢者単身+夫婦
16.8%(672世帯)
<守門地区> 高齢夫婦世帯割合
13.8%(187世帯) 高齢者単身+夫婦
23.4%(318世帯)
<入広瀬地区> 高齢夫婦世帯割合
14.2%(86世帯) 高齢者単身+夫婦
30.4%(184世帯)
<湯之谷地区> 高齢夫婦世帯割合
7.7%(176世帯) 高齢者単身+夫婦
14.7%(338世帯)
<魚沼市全体> 高齢夫婦世帯割合 7.8%(1013世帯) 高齢者単身+夫婦
16.9%(2202世帯)
> 5%
41% <
参考: 高齢者単身+夫婦世帯割合 全国 17.6% 新潟県 16.1%
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魚沼市の人口・世帯分布の特徴 • 人口は主要な道路沿いに集中 • 高齢化率は山間部(守門地区・入広瀬地区)で特に高く、高齢者のみの世帯割合も非常に高い
• 広神地区、湯之谷地区などでは高齢者世帯割合が低い
• 高齢化率が低いのに加えて、若年の同居者がいる世帯や三世代世帯が比較的多いことが要因か
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2.医療機関および介護施設の立地、定員数 使用データ ◦ 魚沼市内の医療機関・介護施設一覧 (魚沼市より提供、平成24年8月現在)
方法 ◦ 住所データをもとに地図上に表示 ◦ 介護施設は、各施設の定員数を 丸の大きさで表示
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魚沼市の医療機関分布
20 (c)Esri Japan
魚沼市の介護施設分布
21 (c)Esri Japan
魚沼市の介護施設分布
22 (c)Esri Japan
魚沼市の介護施設分布
23 (c)Esri Japan
魚沼市の医療介護施設分布の特徴 • 医療機関(病院・医院)は市内各地に広く分布
• 介護施設は市内各地に点在しているが、施設の立地、規模の大きい施設は市街地に集中
• サービス間でも違いがあり、訪問介護ステーションは市内各地に点在している一方で、訪問看護ステーションは小出・堀之内地区のみ
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3.各機関からのアクセス分布 使用データ ◦ 平成17年国勢調査 500mメッシュデータ ◦ 道路網データ(ESRIジャパン社)
各道路の長さ、制限速度データを収録 方法 ◦ 各施設から一定の時間で到達できる範囲を、ネットワーク解析を用いて推定 ◦ 人口メッシュデータと重ね合わせ、到達圏内の人口、到達可能率を計算
×
× 旧町村別の到達可能率 = 旧町村の人口 到達圏内の人口
直線距離 (道路を無視)
道路距離
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病院・診療所からの距離と到達可能率
<広神地区> 15分圏 83.5% 30分圏 88.5%
<堀之内地区> 15分圏 93.5% 30分圏 98.0%
<小出地区> 15分圏 98.4% 30分圏 98.8%
<守門地区> 15分圏 85.8% 30分圏 87.8%
<入広瀬地区> 15分圏 87.0% 30分圏 87.0%
<湯之谷地区> 15分圏 80.3% 30分圏 89.5%
広神
堀之内
小出 湯之谷
守門 入広瀬
26
(c)Esri Japan
訪問看護ステーションからの距離と 到達可能率
<広神地区> 15分圏 63.2% 30分圏 88.4%
<堀之内地区> 15分圏 92.8% 30分圏 97.3%
<小出地区> 15分圏 98.3% 30分圏 98.8%
<守門地区> 15分圏 0.1%
30分圏 57.8% 40分圏 79.7%
<入広瀬地区> 15分圏 0% 30分圏 0%
40分圏 41.2%
<湯之谷地区> 15分圏 78.3% 30分圏 89.6%
広神
堀之内
小出 湯之谷
守門 入広瀬
27 (c)Esri Japan
各機関からのアクセス分布の特徴 • 施設が多い市街地では、ほとんどの住民が各施設に容易にアクセスできる
• 施設が少ない山間部(守門、入広瀬)ではアクセスの悪い地域が多い
• 高齢化が特に進んだ地域で、高齢者に必要な施設へのアクセスが悪い [今後の課題]
アクセスが悪い地域では、 介護サービスの提供がどの程度必要か
どこに配置されるのが適切か 28
魚沼市での取り組み〈2〉
在宅医療支援システムの視覚化
29 (2012.7.29撮影 T.Suzuki)
在宅医療支援システム
平時の看守り、看取り支援体制 災害発生時に備えた在宅医療提供体制 ◦ 中越地震:在宅要支援者の安否確認・支援に介護保険情報が大きく役立った ◦ 東日本大震災:外部チームに在宅医療支援のための情報が全く与えられない
要支援者情報を平時より職種間で共有 災害時には必要に応じて外部チームにも提供 →GISを用いて管理、パソコン・iPadで表示
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インターネット上での地図表示 要支援者(在宅医療受療者・要介護者) ◦ 住所情報をもとに地図上に表示
◦ 患者の情報へのリンク 医療機関 訪問看護ステーション 消防・警察 気象情報 ◦ 積雪量 など
災害情報 ◦ ハザードマップ・浸水範囲 など
道路情報 31
84歳 男性 要介護度2 COPDのため在宅酸素療法中 週2回ヘルパーが訪問(△△ヘルパーステーション) 主治医:◇◇医院○○Dr.
フェースシートを見る
ヘルパー訪問記録を見る
(患者の情報は架空のものを使用)
◇◇医院 025-XXX-XXXX
(活用例)災害時の情報共有 ~シナリオ~ 地震により、物資の輸送や医療機能に大きな 被害が発生している。また多くの住民が 孤立している地域もある。 外部からJMATチームが派遣されている。
外部チーム
医療が必要な患者さんは どこに何人いるのか? 個々の病状は?
すぐに薬が必要な人は? 酸素療法や透析を 受けている人は?
患者さんの所在地 氏名、年齢 既往歴
これまでの経過 災害情報 GPS機能
人工透析のため 週3回○○病院通院中
人工呼吸器使用中
優先的な安否確認 電源・物資の確保、避難
現在地
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孤立地域
まとめ • GISとは、あらゆる情報を地図上に表示して結びつけ、医療・介護を含む多様な問題の解決に役立つシステムである。
• 高齢者が多い地域、医療・介護施設が多い地域は一致せず、施設配置の見直し・改善が必要である。
• GISを使ったデータ分析、在宅医療支援システムづくりを通して、高齢過疎化が進む中で、行政や地域の医療者と一体となり地域全体の医療・介護環境の底上げを図る。
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新潟大学国際保健学分野
教授 齋藤 玲子 助教 菖蒲川 由郷 助教 齋藤 孔良 JSPS外国人 Clyde Dapat 特別研究員
大学院生 Isolde Dapat
鈴木 翼
井内田 科子
近藤 大貴
竹内 拓未
技術員 渡辺 明美
堀江 香会
教室秘書 山本 容子
Division of International Health(Public Health), Niigata Univ.
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ご清聴ありがとうございました。
(2012.7.29撮影 T.Suzuki)