潜熱蓄熱材(PCM)を用いた未利用熱エネルギーの有効活用
北海道大学大学院工学研究院附属 エネルギー・マテリアル融合領域研究センター
秋山友宏
2013年3月19日1035-1100@JST
充填層型熱交換器に使用する、高密度蓄熱が可能なPCMのカプセル化技術(融解時体積膨張率ゼロ%、PCM充填量100%)の提案。 従来・競合技術との比較:従来技術では融解時体積膨張率が大きいため熱応力を緩和する構造が必要となり結果としてPCM量が減少、潜熱蓄熱の持つ高密度蓄熱の利点が生かせていない。
蓄熱方式 例
1. 顕熱利用型 (高温域でも確立)
水、レンガ、コンクリートなどの温度差利用。熱風炉のれんが加熱。再生式バーナーの排ガスによるセラミックス加熱など。 問題点:蓄熱密度が低く、大規模なシステムが必要
2. 潜熱利用(PCM)型 (高温域では未確立)
夜間電力による氷による蓄冷が有名。固体・液体変態時の熱を蓄える。塩水和物、パラフィン、有機化合物等の相転移も含む。
3. 化学反応利用型 (未確立)
A) 可逆反応利用型:Ca(OH)2⇔CaO+H2O、 水素吸蔵合金、メタノール生成分解、etc… B) 不可逆反応利用型:C+H2O→CO+H2、 CaCO3→CaO+CO2 など吸熱反応で直接回収 問題点:反応及び繰り返しの安定性、経済性に課題。 実用に至る反応系は少ない
4.熱電変換型 熱電対、BiTe, SiGe, Mg2Siなど
5.濃度差型 硫酸溶液の濃縮と希釈など
6.光化学型 アントラセンの光二量化 *斉藤武夫、数値伝熱学(1986)、219ページ〔養賢堂〕を修正加筆。
蓄熱方式の分類 易
難
特許出願概要 ■発明の名称 潜熱蓄熱材及び蓄熱体 ■出願人
国立大学法人 北海道大学(権利持分100%) ■発明者 秋山 友宏(工学研究院附属エネルギー・マテリアル融合領域研究センター 教授) 沖中 憲之(工学研究院附属エネルギー・マテリアル融合領域研究センター 准教授) 能村 貴宏(工学研究院附属エネルギー・マテリアル融合領域研究センター 研究員)
■出願番号 特願2011ー232788(2011/10/24出願) ■支援形態 PCT出願
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本発明の概要-潜熱蓄熱材及び蓄熱体- 4
1. 潜熱蓄熱とは?
• PCM = Phase Change Material= 相変化物質、潜熱蓄熱材料 • 潜熱蓄熱= 物質の相変態時の潜熱を利用した蓄熱法
一定温度 熱供給
高密度 蓄熱
繰返し 使用可能
Phase Change Material (PCM)
• 衣類への応用 • 暖房、冷房、建築材料 • 太陽熱、排熱利用システム
パラフィン、脂肪酸 氷、パラフィン、脂肪酸、糖アルコールなど
パラフィン、脂肪酸、糖アルコール、溶融塩など
• 応用分野
130 温度 [˚C]
累積蓄熱密度
[kJ/
kg]
500
110 120 100
400
300
200
100
潜熱
融点
例) エリスリトール
PCMの蓄熱密度と温度の関係
蓄熱 放熱
本発明の概要-潜熱蓄熱材及び蓄熱体- 5
2. 潜熱蓄熱材の分類 Phase-Change Material
Multi-componentSingle-component
Organic Inorganic Eutectic
Paraffin Non-paraffin Hydrate Molten salt Metallic
Organic-organic Inorganic-inorganic Organic-inorganic
PCM Tm [K]
C18H38 301C19H40 305C20H42 310C21H44 315C22H46 318C23H48 320C24H50 324C25H52 327C26H54 329C27H56 333C28H58 334C29H60 337C30H62 338
PCM Tm
[K]Capric acid 301Lauric acid 315
Myristic acid 323
Erythritol 391
PCM Tm [K]
NaNO2 555NaNO3 580NaOH 591LiOH 735NaCl 1073
PCM Tm [K]
Al 934Cu 1357
PCM Tm
[K]CaCl2·6H2O
303
CH3COONa·3H2O
331
MgCl2·6H2O
390
PCM Tm [K]Lauric-Capric acid
(35–65 mol%) 288
PCM Tm [K]Al-12wt%Si 860 PCM Tm [K]
NH2CONH2-NH4NO3
319本発明分野
本発明の概要-潜熱蓄熱材及び蓄熱体- 6
3. 本発明の潜熱蓄熱材
1. 融解時体積膨張率が大きい(例 NaCl; 26%)ため、熱応力を緩和する構造が必要 2. 上記問題点の結果として潜熱蓄熱材充填量が減少
従来高温用潜熱蓄熱材の問題点
解決策; Si、Bi含有合金系PCM
材料 融解時 体積膨張率
[%]
融点 [˚C]
潜熱 [kJ/kg]
熱伝導率 [W/mK]
NaCl 26 800 483 1.15
Al 6.5 661 397 237
Si -9.5 1451 1650 168
• Si, Bi の融解時体積膨張率は 負であり、Si, Bi 添加で体積膨張率を 抑えることが可能。 • 合金なので、高熱伝導率。
太陽熱発電システム、高温排熱回収における 革新的潜熱蓄熱システムの確立。
成果予測
本発明の概要-潜熱蓄熱材及び蓄熱体- 7
4. 従来潜熱蓄熱材と本発明の比較
潜熱蓄熱材 カプセル
潜熱蓄熱カプセル 蓄熱時に潜熱蓄熱材が融解するため、通常、液体潜熱蓄熱材漏出防止の カプセルを利用する。
従来潜熱蓄熱材
融解時体積膨張による応力緩和のため、潜熱蓄熱材をカプセル内に100%充填することはできない。
融解時体積膨張を「0」に調整することで、
カプセル内全てに潜熱蓄熱材を充填可能。
本発明の潜熱蓄熱材
・蓄熱量増大 ・カプセル膜厚の薄型化が可能 ・原料コスト大幅削減可能。
潜熱蓄熱材
潜熱蓄熱材
カプセル
空洞
カプセル
従来技術との比較-潜熱蓄熱材及び蓄熱体- 8
材料 各種顕熱蓄熱用 セラミックス、レンガ
NaNO3 NaCl 本発明のPCM
概要 一般的な 顕熱蓄熱材
中温域で一般的な 潜熱蓄熱材
高温域で 一般的な 潜熱蓄熱材
Si、Biを含む 合金系。組成により、 中~高温域まで、 使用温度域制御可能
融解時体積 膨張率 [-]
- *固体状態のみ で使用
0.11 *熱応力緩和措置 が必要
0.26 *熱応力緩和措置 が必要
「0」に制御可能 *熱応力緩和措置 が不要
蓄熱量 物質の比熱のみを 利用するので小
熱応力緩和措置の ため、大幅に低下
熱応力緩和措置の ため、大幅に低下
熱応力緩和措置不要。蓄熱材完全充填可能。
熱抵抗 - 熱応力緩和措置の ため、大幅に増加
熱応力緩和措置の ため、大幅に増加
カプセル内に完全充填 可能なため、極小
熱伝導率 一般的に低い 低い(0.56W/mK) 低い(1.26W/mK) 合金系のため、 高熱伝導化が可能
イメージ
カプセル
空洞
カプセル
空洞
カプセル
潜熱蓄熱材 (固体⇔液体)
顕熱蓄熱材 (固体)
潜熱蓄熱材 (固体⇔液体)
潜熱蓄熱材 (固体⇔液体)
応用用途-潜熱蓄熱材及び蓄熱体-
本発明の潜熱蓄熱体
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太陽熱発電プラント
(2)排熱利用システム
転炉
(3)次世代石炭火力発電
次世代石炭火力発電所
(1)太陽熱発電システム
外観図
カプセル 潜熱蓄熱材
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1) 太陽熱発電用高温蓄熱システム
太陽熱発電プラント
太陽熱発電プラントで、日中太陽熱を潜熱蓄熱材に蓄熱し、日没後その潜熱で水蒸気発生させ、発電。近年、欧米を中心に精力的に建設が進められている。当技術におけるイニシアチブを日本が獲得するため、本申請技術は最適。
集光、水蒸気発生 PCMに蓄熱 水蒸気 飽和水
蓄熱時;
飽和水 熱交換(PCM/水)
水蒸気発生 水蒸気
過熱 水蒸気
放熱時;
熱交換はシェル・チューブ型が主流。本発明の適用により、従来比1/2以下のコンパクトな設計が可能。
参考:V. Morrison et al. Chemical Engineering and Processing 47 (2008) 499–507
PCM 伝熱管
応用用途例-潜熱蓄熱材及び蓄熱体-
2) 排熱利用システム ① 変動排熱の恒温化
排熱
温熱
PCM
潜熱蓄熱槽 特に、鉄鋼排熱回収が最有望である。鉄鋼業からは日本の総一次エネルギー量の10%相当のエネルギーが投入され、同5%が排熱として捨てられている。
応用用途例-潜熱蓄熱材及び蓄熱体- 11
② 輸送利用への展開可能
化学(熱供給先)
排熱
鉄鋼(熱源)
水蒸気 輸送
~20 km
PCM
PCM
例)潜熱蓄熱輸送システム
PCMで排熱を回収し、他の産業へ オフライン熱輸送、熱供給!!
③ 多様な用途に適用可能。
• 水素製造
PCM Reactor
H2 CO 1573
K
例)
• 乾燥 • 発電
• 暖冷房 • 断熱強化
N. Maruoka and T. Akiyama (2006)
間欠的に発生する超高温の転炉ガス顕熱をPCMで回収。水素製造の熱源として利用!!
間欠的に発生する 排熱を、PCMに蓄熱 することで、融点一定 温度の安定した熱源 に変換し、恒温熱源 として利用可能!
固液共存領域 (潜熱2)
固体領域
液体領域
-150
-100
-50
0
50
400 500 600 700 800-100
-50
0
50
100
150
200
400 500 600 700 800
材料 融点[˚C] 潜熱[kJ/kg]
熱膨張係数[1/K]
熱伝導率[W/mK]
融解時 体積膨張率[%]
Al 660 394 23.7×10-6 237 6.5 Si 1451 1650 4.15×10-6 168 -9.5 Al-12wt%Si 580* 504* 21.4×10-6 121 3.6
Al-25wt%Si 580* 432* 18.3×10-6 - 0*
状態図;共晶系 DSC曲線;Al-12wt%Si
Temperature [˚C] Temperature [˚C]
Hea
t flo
w [m
W]
Hea
t flo
w [m
W]
融点;580˚C 潜熱;504kJ/kg
凝固点;566˚C 潜熱;504kJ/kg
*実測値、 参考;新編熱物性ハンドブック 養賢堂*金属データブック P.368
本発明の効果1-潜熱蓄熱材及び蓄熱体-
例)Al-Si系合金潜熱蓄熱材
;共晶温度(潜熱1)
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本発明の効果2-潜熱蓄熱材及び蓄熱体-
空洞
カプセル
潜熱蓄熱材 (固体)
従来の潜熱蓄熱材
カプセル
潜熱蓄熱材 (液体)
融解時体積膨張率が大きいため、熱応力緩和の空洞(バッファー)が必要。蓄熱量低下、熱抵抗増大を招く。
凝固 融解
放熱の仕方によっては、 引け巣ができて、これも 大きな熱抵抗となる。
凝固
融解
カプセル
潜熱蓄熱材 (液体)
潜熱蓄熱材 (固体)
融解
凝固
・ 蓄熱材を完全充填による高蓄熱密度化 ・ 蓄熱容器のコンパクト化 ・ 高速熱交換可能
融解時体積膨張率大→蓄熱密度低下 →熱抵抗増大
本発明の潜熱蓄熱材 融解時体積膨張率ゼロ→蓄熱密度極大 →熱抵抗極小
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0
200
400
600
800
1000
1200
500 550 600 650 700 750 800 850
Al-20wt%SiAl-30wt%SiAl2O3AlMgCl2
温度 [˚C]
500˚
C基準の積
算蓄熱量
[kJ/
kg]
固体顕熱
潜熱1
潜熱2
Al-Si合金系潜熱蓄熱材は他の蓄熱材よりも大きい。Si 初晶領域での潜熱が、見掛け上
大きな比熱となって効くため、通常の潜熱蓄熱材と比べ、融点以上でも高密度蓄熱が可能。本発明により、カプセル内に潜熱蓄熱材を完全に充填できるため、蓄熱密度増大!!
本発明の効果3-潜熱蓄熱材及び蓄熱体-
例)Al-Si系合金潜熱蓄熱材
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一般的顕熱蓄熱材の 約3倍の 蓄熱量
従来PCMの約1.5倍の 蓄熱量
例) 現在、太陽熱発電用蓄熱システムでは顕熱蓄熱材が使用されている。本発明により、設備規模を1/3にコンパクト化可能!!
本発明の形態1-潜熱蓄熱材及び蓄熱体- 15
球カプセル&充填層又は移動層型熱交換
PCM セラミックカプセル
PCMカプセル PCM
蓄熱槽イメージ
PCMカプセルが 充填
最も汎用性が有り、最もデータの蓄積あるがタイプ。移動層にすることで向流式熱交換による高効率熱交換可能。
本発明の形態2-潜熱蓄熱材及び蓄熱体-
シェル・チューブ型熱交換器
セラミックスを必要な厚さだけ溶射することで、耐腐食性向上及び低コスト化が可能。また、伝熱管の基本構造材にステンレス管等を使える。伝熱管内部に高圧水を投入、熱交換することで、直接水蒸気を製造可能であり、蓄熱ユニット全体を高圧容器にする必要がなく、発電用途への応用が期待。
蓄熱ユニットイメージ図 (シェル・チューブ)
潜熱蓄熱材
伝熱管 セラミックス 溶射皮膜
ステンレス管等
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高圧水投入
高圧水蒸気
本発明の形態3-潜熱蓄熱材及び蓄熱体-
ステレオファブリック構造体型カプセルタイプ
様々な形へ応用可能。伝熱面積拡大可能。低コスト耐圧構造への適用可能。 *ステレオファブリック造形技術;精密な三次元構造を有するユニットを立体的に組み立て、一体化することにより多様な三次元構造体を可能とする技術。
潜熱蓄熱カプセル兼 最小構造蓄熱ユニット
潜熱蓄熱材 セラミックス
最小構造蓄熱ユニットを組み立てて、様々な形状(特に伝熱管)を作成
蓄熱ユニットイメージ図(伝熱管タイプ)
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