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反応時間データにおける語彙特性効果から見る語彙の即時的運用能力:語長・頻度・親密度・心像性に着目した予備的検討

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•語彙知識の測定 –広さ(e.g., Nation, 2001)

–深さ(e.g., Nation, 2001)

–豊かさ(e.g., Laufer & Nation, 1995; Meara, 2005)

–強さ(e.g., Laufer et al., 2004; Laufer & Goldstein, 2004 )

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•語彙の即時的運用能力

(lexical facility)

–十分な語彙知識をもち,その知識に即座にアクセスできること(e. g.,

Harrington, 2013)

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•時間制限付きYes/Noテスト

–熟達度の構成要素である語彙のサイズと速さを同時に観測(e. g.,

Mochida & Harrington, 1996; Nation, 2001)

–しかしそれで本当に充分か?

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•語彙特性効果 (語長・出現頻度・親密度・心像性)

–これらの特性が語彙アクセスに

影響(e. g., 門田, 1998; 尾川・種村, 2004)

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•語彙特性効果

–学習者の語彙認知は母語話者の

それよりも顕著に,語長・出現頻度・親密度・心像性といった

語彙特性に強く影響されるだろう

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•語彙特性効果

–語彙の即時的運用能力が発達す

るにつれ,語彙特性効果はなく

なっていく?

–この現象を変数化(Variablizing)できないか?

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•本研究の主眼

–「反応時間の短さ」のみでなく,

語彙アクセスの質的な変化を一

人一つのスコアとして数的に表

現できないか?

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語彙特性効果に

対する相対的独立性

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•直交表実験計画(e.g., 草薙, 2013)

–直交表とは?

•直交性のある配置を整理したもの

–L8(27) 直交表を使用

•4要因2水準を割りつけ

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•直交表実験計画

–4種の語彙特性2水準における反応時間と正答率を測定 •語長(長・短)

•頻度(高・低)

•親密度(高・低)

•心像性(高・低)

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•直交表実験計画

–L8(27)直交表に割りつけた計画を3

回反復

–つまり24項目(擬似語24語)で4水準12項目の平均と標準偏差を

算出できる

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•語彙性判断課題(k = 48) –24語の対象語

•MRC Psycholinguistic Databaseを使用し,語長・頻度・親密度・心像性を統制

–24語の擬似語 •語長を統制

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単語 語長 頻度 親密度 心像性

ash 短い 低い 低い 高い

luck 短い 低い 高い 低い

bar 短い 高い 低い 低い

fan 短い 高い 高い 高い

encounter 長い 低い 低い 低い

newspaper 長い 低い 高い 高い

machine 長い 高い 低い 高い

experience 長い 高い 高い 低い

gun 短い 低い 低い 高い

equal 短い 低い 高い 低い

deal 短い 高い 低い 低い

tea 短い 高い 高い 高い

extensive 長い 低い 低い 低い

furniture 長い 低い 高い 高い

president 長い 高い 低い 高い

expensive 長い 高い 高い 低い

fly 短い 低い 低い 高い

slow 短い 低い 高い 低い

lose 短い 高い 低い 低い

page 短い 高い 高い 高い

adjective 長い 低い 低い 低い

cigarette 長い 低い 高い 高い

medicine 長い 高い 低い 高い

complete 長い 高い 高い 低い

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•語彙性判断課題(k = 48) –Hot Soup Processor ver. 3.32で作成

–各問題における回答・反応時間を記録

–凝視点を呈示( 1秒間)した後,対象単語を呈示

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•調査参加者(N = 36)

–大学学部生・大学院生

–平均TOEICスコア

•773.89 (SD = 118.01)

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•変数 –課題全体における正答率と反応時間

–特性ごとの水準間の反応時間の標準化平均差(Cohen’s d) • 2水準間(12項目 vs 12項目)の効果量

• その特性に対する個人の相対的独立性を指標化

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•変数

–自動化係数 (CVRT)

• 反応時間のSD/平均反応時間(e.g.,

Segalowitz & Segalowitz, 1993)

–課題全体におけるd’

•信号検出理論における弁別力

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•変数

–デモグラフィック情報

•熟達度(TOEICスコア)

•各技能の自己評定値(5段階)

–読む・書く・聞く・話す・文法・語彙

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•予測

–各語彙特性効果に対する独立性は,語彙運用能力を表すであろう

反応時間,自動化係数,弁別力,そして発達を表すであろうTOEICスコアと相関がある

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M SD 中央値 最小値 最大値 範囲 尖度 歪度 標準誤差

TOEICスコア 773.89 118.01 760.00 510.00 990.00 480.00 -0.04 -0.52 19.67

語長効果 0.95 0.55 0.86 -0.17 2.63 2.80 0.71 0.87 0.09

頻度効果 -0.33 0.45 -0.26 -1.27 0.42 1.69 -0.18 -0.99 0.07

親密度効果 0.08 0.39 0.12 -0.95 0.83 1.78 -0.41 -0.10 0.07

心像性効果 0.07 0.35 0.09 -0.87 0.74 1.61 -0.23 0.00 0.06

弁別力 3.27 0.62 3.42 1.64 4.07 2.43 -0.64 -0.32 0.10

反応時間 883.51 164.66 862.85 614.42 1368.74 754.32 0.87 0.63 27.44

自動化係数 0.24 0.09 0.23 0.10 0.47 0.37 0.76 0.19 0.01

読む 3.42 0.60 3.00 2.00 4.00 2.00 -0.45 -0.79 0.10

書く 2.86 0.68 3.00 1.00 4.00 3.00 -0.36 0.18 0.11

聞く 3.25 1.02 3.00 1.00 5.00 4.00 0.13 -0.68 0.17

話す 2.78 0.87 3.00 1.00 4.00 3.00 -0.09 -0.91 0.14

文法 3.22 0.87 3.00 1.00 5.00 4.00 -0.42 -0.38 0.14

語彙 2.97 0.70 3.00 2.00 4.00 2.00 0.03 -1.00 0.12

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0

200

400

600

800

1000

1200

長い 短い 高い 低い 高い 低い 高い 低い

反応時間(MS)

条件

語長

出現頻度

親密度

心像性

t(35) = 7.01 p < .01 d = 1.47

t(35) = 3.13 p < .01 d = 0.46

t(35) = 1.98 p = .06 d = 0.28

t(35) = 1.53 p = .13 d = 0.18

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主に効果が

見られたのは

語長・頻度

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•各特性水準ごとの反応時間を比較してみた結果…

–語長・頻度効果あり

–親密度・心像性効果はほとんど

みられなかった

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•各特性効果の独立性を比較して

みた結果…

–語長・頻度効果

•左右にふれている:効果あり

–親密度・心像性効果

•0付近に集まっている:効果なし

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語長効果・反応時間・ 自動化係数の散布図

ジャックナイフ推定値 語長・反応時間:0.48 語長・自動化係数:0.49 反応時間・自動化係数:0.66

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• 母相関係数の95%信頼区間 –語長効果・反応時間

[0.19, 0.71] –語長効果・自動化係数

[0.21, 0.71] –反応時間・自動化係数

[0.42, 0.81]

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• 相関分析の結果

–語長効果に対する独立性のみが反応時間と自動化係数と一貫して相関

•他の特性効果・自己評定値との相関はみられなかった

–TOEICスコア・弁別力と語彙特性との相関はなし

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• 相関分析の結果

–TOEICと弁別力d‘の間に相関あり

•弁別力の高い人ほどTOEICスコアが高い?

–しかし各語彙特性・反応時間・自動化係数とは相関なし

→TOEICは即時的運用能力を反映していな

い?

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• 語彙特性効果へ対する独立性は,語彙の即時的運用能力の発達と連関がある可能性 –語長効果に対する独立性は,TOEICスコア・弁別力とは相関なし

–反応時間・自動化係数とは相関あり

→即時的運用能力をある程度反映している

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•今後の研究

–語長特性に焦点を当てたさらなる

調査の継続

–母語話者のデータベースでは不適切か? •他のデータベースを用いての再調査

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•今後の研究 –語彙サイズ・読解力・発表語彙サイズ・聴解力などを視野に⼊れた測定の妥当化と構成技能アプローチ

–発達段階の解明 •熟達度との関連

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•今後の研究

–指導効果の検証

•多読が語彙アクセスに及ぼす効果など

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•標準的測定ツールの開発

–汎用的プラットフォームで高

度なUIを実装

–項目の精選

–簡便かつ精度の高い測定を!

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Harrington, M. (2013). Lexical facility: Developing vocabulary knowledge as a skill -it‘s what you know and when you know it. 関西英語教育学会第18回研究大会.

門田修平(1998)「英単語の意味理解に及ぼす語の出現頻度と長さの影響」『ことばとコミュニケーション』2, 27-40.

草薙邦広(2013)「外国語教育研究と直交表を用いた実験計画」外国語教育メディア学会関西支部メソドロジー研究部会2013年度第2回研究会. 大学コンソーシアムあきた.

Laufer, B., Elder, C., Hill, K., & Congdon, P. (2004). Size and strength: Do we need both to measure vocabulary knowledge? Language Testing, 21, 202-226.

Laufer, B., & Goldstein, Z. (2004). Testing vocabulary knowledge: Size, strength, and computer adaptiveness. Language Learning, 54, 399-436.

Laufer, B., & Nation, P. (1995). Vocabulary size and use: Lexical richness in L2 written production. Applied Linguistics, 16, 307-322.

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Meara, P. (2005). Lexical frequency profiles: A Monte Carlo analysis. Applied Linguistics, 26, 32-47.

Mochida, A., & Harrington, M. (2006). The Yes-No test as a measure of receptive vocabulary knowledge. Language Testing,23, 73-98.

Nation, I. S. P. (2001). Learning Vocabulary in Another Language. Cambridge University Press.

尾川亜希子・種村純(2004)「単語の心像性,頻度および規則性が漢字単語の語彙判断に与える効果」『川崎医療福祉学会誌』14, 19-25.

Segalowitz, N., & Segalowitz, S. (1993). Skilled performance, practice, and the differentiation of speed-up from automatization effects: Evidence from second language word recognition. Applied Psycholinguistics, 14, 369-385.

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