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1/27
MDとはなにか? 渡辺宙志
2/27 大規模分子動力学法とはなにか?
大規模計算の意義
恣意性を入れないために大規模な計算を行う 大規模な計算はごまかしがきかない →変数 (Variable)から観測量 (Observable)へ
変数と観測量
変数とは、我々がa prioriに認める物理量 観測量は、変数からa posterioriに導かれる物理量
圧力(応力テンソル)はナビエ・ストークスでは変数、MDでは観測量 温度は、熱伝導方程式では変数、MDでは観測量
分子動力学法
分子動力学法とは、運動方程式の数値的解法 運動方程式は解析力学により変分原理から導かれる 解析力学では、全ての物理量は多様体上の関数として定義される
熱とは何か?温度とは何か?圧力とは何か? シンプレクティック積分とは何か?
3/27 言葉の整理 (1/2)
× ×
×
[A,B] = C
ベクトル空間
要素間に線形和が定義されている集合
スカラー積
一般に異なるベクトル空間に属す要素に対し、 実数を結びつける写像 スカラー積が定義できる二つの空間を双対空間と呼ぶ ex) 縦ベクトルと横ベクトルはお互いに双対空間
代数
代数(Algebra) とは、集合の要素二つに別の集合の要素を結びつける写像のこと ex) ベクトルの外積
群
群(Group)とは、代数構造の一種で、 取り消しの効く操作の集合 ex) 回転、平行移動
4/27
多様体
多様体(Manifold)とは、局所的にユークリッド空間と同一視できる空間のこと ex) 球面
スカラー関数
多様体上の各点に、一つのスカラー(実数)を結びつける写像をスカラー関数と呼ぶ
×
関数環
多様体M上でのスカラー関数全体の集合を C(M) で表し、関数環と呼ぶ。 (スカラー倍と関数同士の自然な積が定義されるから環になる)
言葉の整理 (2/2)
多様体上での関数環に代数構造を入れることで運動方程式を表現する
代数構造と幾何構造を、さらに統計力学と熱力学に結びつける
5/27 解析力学と微分幾何(1/3)
状態空間
接束(Tangent Bundle)
目に見える自由度を記述できる空間 運動方程式は二階微分方程式なので この空間だけでは運動が記述できない
接空間
状態空間の各点Qで速度ベクトルを定義する空間
全ての接空間をまとめた多様体 もとの状態空間の二倍の次元となる 運動は、この空間の点の運動として 一意に記述される
6/27 解析力学と微分幾何(2/3)
運動方程式
座標ベクトル
運動方程式
運動方程式とは、接バンドルを多様体とみた時の 接ベクトル場を与える処方箋
運動方程式の決定には、自由度の数だけスカラー関数を与える必要がある
7/27
変分原理
TM上のスカラー関数Lを考える
このLが支配する運動とは、以下の作用積分を極小化するものである
作用積分(Action)
ひとつのスカラー関数が、2N個のスカラー関数を支配している
解析力学と微分幾何(3/3)
8/27 ハミルトン形式 (1/3)
ハミルトニアン
ラグランジュ方程式と時間不変量
ルジャンドル変換
ハミルトンの運動方程式 €
≡ H
9/27 ハミルトン形式 (2/3)
接空間と余接空間
ルジャンドル変換により接空間から余接空間へ移る 接空間、余接空間ともにベクトル空間
接空間の基底 (ベクトル)
余接空間の基底 (コベクトル)
(1形式)
二つの空間の基底に 自然に内積が定義できる →双対空間
10/27
状態空間
接束(Tangent Bundle) 余接束(Cotangent Bundle)
目に見える自由度を記述できる空間
ハミルトン形式 (3/3)
接空間
余接空間
双対空間
11/27 ポアソン括弧(1/2)
リー環
反対称
リー環とは、ある集合に定められた代数的構造であって、 以下の条件を満たすもの。
双線形
ヤコビ恒等式
ポアソン環
€
{ fg,h} = f {g,h}+ g{ f ,h}
ポアソン環とは、 で定められる積がリー環であって、さらに以下の 条件を満たすもの。
12/27 ポアソン括弧(2/2)
ポアソン多様体
関数環に、ポアソン括弧が定義される多様体をポアソン多様体と呼ぶ
ポアソン括弧のRankが多様体の次元に等しい場合、特に シンプレクティック多様体と呼ぶ
ポアソン括弧と運動方程式
すべての物理量はT*M上の関数として表現される
物理量の時間微分
としてポアソン括弧を導入すると、T*Mはシンプレクティック多様体となる
13/27 リュービル演算子 (1/2)
時間発展演算子
時間発展演算子は群をなす また、実数によりパラメトライズできる群をリー群と呼ぶ
時間発展とは、ある実数(時間)をパラメータとしたリー群である
物理量の時間をすすめる演算子
単位元の存在
群演算(積)の存在
逆元の存在
14/27
リュービル演算子
リュービル演算子は、時間微分演算子であり、ポアソン括弧で定義される
リュービル演算子 (2/2)
15/27 ここまでのまとめ
1) 状態空間の接バンドルにスカラー関数としてラグランジアンを定義 2) ラグランジアンにより作用積分を定義 3) 作用の変分からラグランジュの運動方程式を導出 4) ルジャンドル変換によりハミルトン系へ(接バンドル→余接バンドル) 5) ハミルトンの運動方程式を使って余接バンドルにポアソン括弧を定義 6) 余接バンドルにシンプレクティック構造が入る 7) リュービル演算子が定義される
これまでのあらすじ
もともと多様体にシンプレクティック構造が与えられているとして その多様体上での時間発展を考える
時間発展とは何か? そしてシンプレクティック積分とは何か?
これからやること
16/27 シンプレクティック変換 (1/4)
シンプレクティック形式
多様体の局所座標をひとまとめにする
正準2形式の行列表示
この行列を用いて、以下のように定義される2形式を 正準2形式、もしくはシンプレクティック形式と呼ぶ
17/27
シンプレクティック変換
ある変換
が、シンプレクティック形式を不変に保つとき、 これをシンプレクティック変換と呼ぶ
シンプレクティック形式がもともと多様体に 備わっていると考える スカラー関数Hによるベクトル場を
と表す。これをハミルトニアンベクトル場と呼ぶ
ハミルトニアンベクトル場
シンプレクティック変換 (2/4)
18/27
シンプレクティック変換群
このベクトルをリュービル演算子だと思って
のように時間発展演算子を作ると、 これはシンプレクティック形式を不変に保つ
シンプレクティック変換 (3/4)
時間発展演算子は群を作るので、これを シンプレクティック変換群と呼ぶ
時間発展とは、シンプレクティック変換である 時間とはシンプレクティック変換群のパラメタである
19/27 シンプレクティック変換 (4/4)
シンプレクティック積分
一般に知っているのはリュービル演算子(運動方程式)であり、 時間発展演算子の具体形は計算できない
時間発展演算子を近似する
シンプレクティック形式を不変に保つように時間発展演算子を 近似する方法をシンプレクティック積分と呼ぶ
指数分解法は、シンプレクティック積分法を構築するための処方箋
20/27 シンプレクティック内積
内積の意味を拡張
もともとシンプレクティック内積は、ベクトルとコベクトルを入力すると スカラーを与えるもの
ベクトル コベクトル (1-form) スカラー
これを拡張し、左側に 2-form、右側にベクトルを与えれば、1-formが出てくる
縦ベクトルと横ベクトルの積がスカラーに、 行列とベクトルの積がベクトルになるようなイメージ
21/27 正準形式とエルミート性(1/3)
正準一形式
正準二形式 (シンプレクティック形式)
リュービル演算子 (局所座標表現)
幾何表現された運動方程式
正準二形式(2-form)と、リュービル演算子 (ベクトル)のシンプレクティック内積で ハミルトンの運動方程式が書ける
22/27
一般化座標
シンプレクティック形式の行列表示
リュービル演算子の局所座標表示
運動方程式(幾何表現) 運動方程式(局所座標表現)
シンプレクティック形式を、局所標準座標系で見ると
ハミルトンの運動方程式とは、ハミルトニアンの gradientを90度回転させたベクトル場
正準形式とエルミート性(2/3)
23/27 正準形式とエルミート性(3/3)
正準形式の行列表現に 虚数単位をかけた行列
リュービル演算子がエルミート 正準形式が反対称 (シンプレクティック構造)
エルミートな演算子による流れは非圧縮流になる (本質的に回転だから当然)
ミクロカノニカル 非圧縮流
リュービルの定理
シンプレクティック変換群に対応したリュービル演算子は、 必ずエルミート演算子になる
リュービル演算子と正準形式
24/27 エネルギー保存則の幾何表現 (1/2)
拡大位相空間
もとの位相空間Mと、時間軸を合わせた拡大位相空間
を考える
拡大位相空間における一形式を とすると運動方程式は
・ハミルトニアンの項を拡大位相空間の性質として取り込んだ ・時間に陽に依存する作用に対する式を扱える
で与えられる。
拡大位相空間における運動方程式
なら は時間不変量
25/27 エネルギー保存則の幾何表現 (2/2)
拡大位相空間の意味
時刻tを一般化座標、ハミルトニアンHを共役な一般化運動量として取り込む
ある量が、ある一般化座標を陽に含まない → 共役な一般化運動量が保存量となる
ハミルトニアンがtを陽に含まない → エネルギーが保存される (エネルギー保存則)
一般化運動量としてのエネルギー
t: 時間反転に対して odd H: 時間反転に対して even 従って、Hを座標、tを運動量に取るのが「自然」だが、正準変換
€
(t,H)→(H,−t)により互いに入れ替えることが可能。
26/27
幾何学と力学 幾何学的量
多様体上に定義された量で、局所座標の取り方によらない量を幾何学的量と呼ぶ 物理量とは幾何学的量で、物理とは幾何学的量の間の関係を与える 物理法則が座標変換で不変であることを要請するから 物理法則とは、多様体に定義された性質により決まる
ex) ガリレイ変換とニュートンの運動方程式 マクスウェル変換と電磁気
計量と運動方程式
ラグランジアンの速度部分が二次同次式の場合、リーマン計量を 適切に定義すると運動方程式は測地線の方程式になる
力学とは幾何学そのもの リーマン計量から正準2形式が作られる
27/27 まとめと考察のようなもの
MDとは
参考文献
シンプレクティック幾何学におけるシンプレクティック変換群の数値解法 シンプレクティック性は、運動方程式が二階微分方程式であることに起因 MDの時間発展は一種の回転 回転による不変量の一つをエネルギーと呼ぶ
大規模MDとは
欲しい物理量全てを幾何学的量で表す試み ex) 応力テンソル、熱、エントロピー・・・
山本義隆、中村孔一著 「解析力学 I, II」 (朝倉物理学大系) 個人的に必読な素晴らしい教科書