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Philosophy as Adventures of Ideas
Week22
民主的な意思決定は可能かIntroduction to the Logic of Social Decision
(in Japanese)
Kazuyoshi KAMIYAMA
2017/2/27
目次
投票のパラドクス
社会的決定関数
民主主義のパラドクス
リベラル・パラドクス
Note
References
投票のパラドクス
投票のパラドクス
(コンドルセのパラドクス)
投票において投票者一人一人の選好順序は推移的なのに、
集団としての選好順序に循環が現れるケースがある
18世紀フランスの社会学者コンドルセ(Marquis de Condorcet)が発見
投票のパラドクス(VOTING PARADOX)
3人で、映画を見に行く?ロックに行く?それともデイスコ?
太郎:映画>ロック>デイスコ
次郎:ロック>デイスコ>映画
花子:デイスコ>映画>ロック
* こ の よ う な タ イ プ の 選 好 の 組 ー 投 票 の パ ラ ド ク ス ー が 成 立 す る と 、次に見るように、社会(この場合、太郎、次郎、花子から成る)としての意思決定が不可能もしくは困難になる。
単記投票方式による多数決
太郎:映画
次郎:ロック
花子:デイスコ
それぞれ一票ずつで決まらない
総当たり方式による多数決
映画orロック?: 映画 > ロック
ロックor デイスコ?: ロック > デイスコ
デイスコ or 映画?: デイスコ > 映画
よって
映画>ロック>デイスコ>映画
循環順序:決定が不可能!
逐次勝ち抜き方式による多数決
1. 映画orロック?: 映画
映画orデイスコ?: デイスコ
2. ロックorデイスコ?: ロック
ロックor映画?: 映画
逐次勝ち抜き方式による多数決は「経路依存性path-dependency」
(投票を行う順序により投票結果がかわる)をもつ!
社会的決定関数
社会的決定関数(社会的決定方式)
例
1,2,3の3人から成る社会
x,y,zという3つの選択肢
選好順序(個人的選好順序)
「xはyと少なくとも同程度によい」(”x>i y”)
「xはyと同程度によい」(”x~i y”)
「xはyよりよい」(”x>i y”)
(i=1,2,3)
たとえば,
A: x >1 y >1 z B: y >1 z >1 x
y >2 z >2 x x >2 y >2 z
z >3 y >3 x z >3 y >3 x
A,B:「プロフィ-ル」
社会的決定関数(social decision function):各プロフィールに対して,それぞれ,
社会全体としての選好順序(社会的選好順序)-たとえば,y>z> x-を一つ
対応させるル-ル
NOTE: ≦: 弱順序(WEAK ORDER)関係
1.完備性(比較可能性) completeness選択肢の集合から2つの選択肢を任意に選んだ場合、x ≦y かy ≦x の少なくともどちらか一方が成り立つ(つまり、どんな選択肢間でも比較できることを要請する)。
2.反射性 reflexivity
すべての選択肢x についてx ≦x が成り立つ(つまり、「ある選択肢は少なくとも自分自身と同程度に良い」という、自明なことを要請する)。
3.推移性 transitivity
選択肢の集合から3つの選択肢を任意に選んだ場合、
x ≦y とy ≦z が成り立つとすればx ≦z が成り立つ(この推移性の要請によって選択肢の選好順序がループすることが禁じられる)。
非循環性(ACYCLICITY)
循環順序:x<y ,y<z,z<w であって w<x
非循環性(acyclicity)
x<y ,y<z,z<w ならば、w<xではない、つまりx≼w
であることを要求(準推移性)
社会的決定関数
N:人間の集合(|N|≧2)
X:選択肢集合(|X|≧3)
Ri(i ∊ N):iの個人的選好順序
要請:Riは弱順序関係
R:社会的選好順序
要請:完備性(比較可能性)、反射性,非循環性
を満足する
このとき,
社会的決定関数(social decision function)
f:個人的選好順序の各n組(プロフィ-ル) <R1,R2,… ,Rn>↦ 社会的順序R
民主主義のパラドクス
民主主義のパラドクス(ARROW’S PARADOX)
K.J.Arrow, Social Choice and Individual Values, Yale U.P., 1951, 2nd ed. 1963
条件U: 個人選好の無制約性(unrestricted domain)
各個人はどのような選好順序を表明してもよい
(どのようなプロフィールに対しても、社会的選好順序が一つ決まらなければならない)
条件P パレート最適性(Pareto principle)
全員が「xはyより望ましい」とした場合には社会的決定はこれに従わなければならない
(x >i y for all i ∊ I → x > y for all x,y ∊ X )
条件I 無関係対象からの独立性(independence of irrelevant alternatives)
x, yについての社会的順序は,x,yについての個人的選好順序
だけによって決まらなければならない
条件UD 非独裁性(nondictatorship)
ただ一人の人物の選好順序が,他のメンバーの選好のいかん
にかかわらず常に社会的順序として採用される、ということが
あってはならない
定理(一般可能性定理 GENERAL POSSIBILITY THEOREM)*
「2人以上のメンバーから成る社会が3つ以上の選択肢
に関して社会的決定を行う場合、条件U,P,I,UDを
すべて満足する社会的決定方式は存在しない」
*ふつう「アローの不可能性定理」 (Arrow's impossibility theorem)
と呼ばれる
リベラル・パラドクス
リベラル・パラドクス(LIBERAL PARADOX)
A.Sen, “The Impossibility of a Paretian Liberal,”Journal of Political
Economy 78, 1970
条件U(個人選好の無制約性(unrestricted domain))
各個人はどのような選好順序を表明してもよい。
条件P((弱)パレ-ト最適性(weak Pareto optimality))
全員が「xはyよりよい」とした場合には,社会的順序はそれに従わなければ
ならない。
条件L*(最小自由主義(minimal libertarianism))
少なくとも2人は,少なくとも1組の選択肢の対に対し両側自由裁量権
をもつ。
ただし,
個人iは(x,y)について両側自由裁量権をもつ
iff 「x>i y ならば x > y,かつ y>i x ならば y >x」
定理(パレート派リベラルの不可能性 THE IMPOSSIBILITY OF A PARETIAN LIBERAL)
「条件U,条件P,条件L*をともに満足する
社会的決定関数は存在しない」
例:チャタレイ夫人の恋人
0:この本は焼き捨てるべきだ
a: この本はA氏だけが読むべきだ
b:この本はB氏だけが読むべきだ
A氏(すまし屋) : 0 > a > b
B氏(好色漢) : a > b > 0
0 > a (A氏の「読まない権利」から)
b > 0 (B氏の「読む権利」から)
a > b (パレート最適性)
まとめると
a > b > 0 > a (循環!)
センの解決
A. Sen, “Liberty, Unanimity and Rights,” Economica 43, 1976
パラドクスを解消しようとする諸アプロ-チ
(1) 個人選好の無制約性の条件Uの修正
(2) パレ-ト最適性の条件Pの修正
(3) 最小自由主義の条件L*の修正
(4) それらの組合せ
パレート原理とその問題点
パレート原理:全員が「xはyよりよい」とした場合には,
社会的順序はそれに従わなければならない。
1) 全員一致の判断の社会的反映
2)「2つの選択枝xとyとの間の選好順序が全員一致ならば,社会的順序
は、この2つについての社会の各構成員の判断だけを反映すべきである」
2)に問題あり!
パレート伝染病(THE PARETIAN EPIDEMIC)
1 2 ・・ k ・・ n S
zx 1 1 1 1 1 1 (パレート原理)
xy * * 1 * * 1 (k:両側自由裁量権)
yw 1 1 1 1 1 1 (パレート原理)
zw * * (1) * * 1 (推移律)
kに(x、y)に対する自由裁量権を与えると、
これと無関係な(z、w)に対する裁量権へと「伝染」する
* たとえば個人1の下の「1」は z>x の成立を意味する。Sは社会。
100人の社会の99名が「ywzx」という選好順序をもったとしても、
kだけが「zxyw」という選好順序を示したならば、社会が彼に「xとy」に
ついての自由裁量権を認めたために、社会的順序は「zxyw」というkの
選好順序をそっくりそのまま反映せざるをえないはめに陥る
センの解決
良心的個人自由主義者
=:自分の選好順序のうちで、他の構成員に認められた自由裁量権の
行使に抵触する部分に関しては、自分の個人選好が社会に反映され
ることを期待しない(「公的訴え」を取り下げる)人
定理(リベラリズムの可能性、セン、1976)
社会に良心的個人自由主義者がひとりでも存在するな
らば、各人に割り当てられた自由裁量権が行使されても、
(訴えとして)表明された選好順序のパレート最適性と矛
盾しないような決定方式が存在する。
NOTE
「他者の身体や正当に所有された物質的財産を侵害しない限り、各人が望む全ての行動は基本的に自由である(国家はそれに介入すべきでない)」という主張が「リバタリアニズム」(libertarianism)、それを支持する人々が「リバタリアン」(libertarian)である。条件L* はリバタリアニズムの最も弱いかたちを表現している。
ジョン・ロールズ(A Theory of Justice, 1971)に代表される「リベラリズム」(liberalism)は社会的公正への志向が強い立場である(ロールズによれば、才能も公共物である)。リバタリアニズムはリベラリズムに批判的な立場の一つである。リバタリアンも社会的公正を望んでいるようである。しかし、それはうまくいかない。公正な意思決定の最低限の要求のようにみえるのがパレート原理である。それと最も弱い形でのリバタリアニズムは論理的に衝突する(社会的決定が不可能になる)ことをセンの定理(1970)は述べている。
センの定理(1970)は「パレート派リベラルの不可能性」(the
Impossibility of a Paretian Liberal)と名づけられている。しかし、「パレ
ート派リバタリアンの不可能性」(the Impossibility of a Paretian
libertarian)と呼んだ方がより正確である。センの1976年の定理は、社
会的公正を指向する「リベラル」(liberal)が「パレート派リバタリアンの不
可能性」を解消する可能性をもつことを述べている。
REFERENCES
K.J. Arrow, Social Choice and Individual Values, Yale U.P., 1951, 2nd ed. 1963.
R. Nozick, Anarchy, State, and Utopia, New York: Basic Books, 1974.
J. Rawls, A Theory of Justice, Cambridge, MA: Harvard University Press,1971.
佐伯 胖『「きめ方」の論理 ―社会的決定理論への招待』東京大学出版会、
1980年
A. Sen, “The Impossibility of a Paretian Liberal," Journal of Political
Economy 78, 1970.
--, “Liberty, Unanimity and Rights,” Economica 43, 1976.