犬の消化管内異物病理生理学・疫学・臨床徴候編

犬の消化管内異物

Masanao. Ichimata

Emergency Diseases of Veterinary Medicine

病理生理学、疫学、臨床徴候編

Disclaimer

May not be copied or reprinted without Author’s approval

スライド作製には細心の注意を払っていますが、本PDF内の情報をご利用した結果、私個人は一切の責任を負いかねます。必ず文献や成書に記されている記載を参照し、本PDF内の情報に誤りがないことを再確認した上でご利用頂けますよう、何卒お願い申し上げます。

To Improve Diagnosis, Outcome, and Prevention of Gastrointestinal Foreign Body

May not be copied or reprinted without Author’s approval http://www.dailymail.co.uk/news/article-‐1247110/X-‐ray-‐reveals-‐

quackers-‐dog-‐Spike-‐swallowed-‐rubber-‐duck-‐-‐costing-‐owners-‐1-‐000-‐vet-‐fees.htmlより引用改変

Pathophysiology



L G.Papazoglou., Compendium, 2003より引用

Pathophysiology •  閉塞による管腔の拡張（腸管内圧上昇）の原因

1.  ガスの貯留

2.  水分の貯留


L G.Papazoglou., Compendium, 2003

Pathophysiology 1.  ガスの貯留

– 殆どが空気（70％：窒素、10～12％：酸素、1～3％：水素）

– 6～9％：二酸化炭素

• 炭酸水素の中和によって生じる

– 1％：メタンガス、1～10％：硫化水素

• 腸内細菌によって生成される



Pathophysiology 2.  水分の貯留

–  上部消化管での分泌物の増加

•  唾液、胆汁、胃、膵臓、小腸

–  経口摂取した水分の貯留

–  吸収の低下



Pathophysiology •  腸管内圧の上昇による影響

– 静脈のうっ滞

– 浮腫

• 動脈血流の阻害、潰瘍、壊死、穿孔に続発する

– 線状異物では閉塞の近位・遠位の蠕動運動の亢進によって腸管の断裂がおきやすい



Pathophysiology •  その他

– 閉塞近位・遠位での筋電位活性の違い

– 腸内細菌叢の変化

– 腸管拡張が続くことにより腸粘膜バリアーの障害とそれによる全身循環での細菌や毒素の侵入



Pathophysiology •  実験的に・・・

– 犬と猫の近位腸管の完全閉塞

• 嘔吐開始：閉塞から1～3日以内におきる

– 大量の嘔吐が見られる

– 犬と猫の遠位腸管の部分閉塞

• 嘔吐開始：閉塞から2～3日後

– 間欠的な嘔吐



Epidemiology


Epidemiology •  来院した全症例の内

– 0.45％

– 0.48％

– 0.6％


M. Crha. et al., Acta Veterinaria Brno, 2008

T Koike. et al., J Vet Res, 1981

D Capak. Vet Arhiv, 2001

Epidemiology


アニコム, 家庭動物白書, 2012 •  全体の罹患率：2.2％ •  1～3歳の罹患率が高い

Epidemiology •  急性嘔吐を主訴（n=213） – 病因

1.  消化器系疾患：43.7％

2.  全身性疾患：27.7％

3.  非消化器系の腹腔内疾患：16.4％

4.  神経系疾患：1.4％

5.  その他：6.1％


A Rose, R. Neiger. Tierärztliche Praxis Kleintiere, 2013

Epidemiology •  急性嘔吐を主訴（n=213）

– 消化器系疾患：43.7％

• 異物性：24％（全体の内の5％）


A Rose, R. Neiger. Tierärztliche Praxis Kleintiere, 2013

Epidemiology •  Incident rate by month or Season

– 日本の報告（※誤飲での保険請求犬・猫）

• 冬（12月～3月）に多い

– クロアチアの報告

•  12月に少ない

•  6月・10月に多い


A Shimamura., Infovets, 2012


Epidemiology •  誤飲したもの

– 線状異物 vs. 非線状異物

•  36 ％ vs. 64 ％

– イギリスとアメリカの報告で同じ割合


A K Boag. JVIM, 2005 M M Hobday. JSAP, 2014

Epidemiology •  誤飲したもの Top5（n=174 イギリスの報告）

1.  ラテックス製のおもちゃ

2.  プラスチック・ゴム製の物体

3.  ひも・縄・釣り糸

4.  石

5.  ボール


G Hayes. JSAP, 2009

Epidemiology •  誤飲したもの Top5（n=127 クロアチアの報告）

1.  石

2.  ゴム製のボール

3.  プラスチック製品

4.  ゴム製品

5.  栗



Epidemiology •  誤飲したもの Top5（n=53 エジプトの報告）

1.  石

2.  ゴム製品

3.  プラスチック製品

4.  金属製品

5.  植物（Calami）、ガラス製品


MM Kassem. Alex J Vet Med Sci, 2014

Epidemiology •  経験のある誤飲物 Top5（獣医師172人アンケート犬・猫）

1.  ひも

2.  靴下やタオルなどの布類

3.  竹串

4.  種（果物や梅干しなど）

5.  石や砂



Epidemiology •  Others

– 誤飲は日中よりも夜間に多いかもしれない



Epidemiology •  Location of foreign body

– 胃：16～41.51％

– 十二指腸：6.1～14％

– 空腸：33.97～56.4％

– 回腸：2.9～22.72％


M M Hobday. JSAP, 2014


G Hayes. JSAP, 2009

MM Kassem. Alex J Vet Med Sci, 2014

A K Boag. JVIM, 2005

Summary 1 •  発生頻度

– およそ20年前より大きくは変わっていない？

•  日本において

– 飼育環境が室内が多い

• 原因は室内のものが多く、遊び道具以外も多い？

• 冬：イベント事が多く、目新しいものが登場する


Clinical Signs


http://lavishtails.com.au/products/cotton-‐rope-‐bone-‐dog-‐toyより引用改変

Clinical Signs •  Chief Complaint

– 家族が異物誤飲を確認

• 犬・猫：26 %

• 犬：88.1％

– 無症状

• 犬胃内異物：66.6%


G Hayes. JSAP, 2009

石川朗. 獣医麻酔外科学雑誌, 2012



– 嘔吐

• 犬・猫：異物色々：87 %

• 線状異物：98.3 ％

• 非線状異物：88.6 ％

• 胃内異物：30.9％


G Hayes. JSAP, 2009





– 下痢

• 犬・猫：異物色々：7 %

• 線状異物：16.3 ％

• 非線状異物：23.8 ％


G Hayes. JSAP, 2009




– 腹部疼痛（※ 腹部の筋緊張を含む）

• 線状異物：54.5 ％

• 非線状異物：37.8 ％





– 線状異物 vs. 非線状異物

• 嘔吐・元気低下・食欲不振・腹部圧痛は線状異物の症例で多く認められた

• 特に・・・

元気低下を認めた症例が線状異物で多かった

（92.0％ vs. 78.6％ P=0.0001）




– 縫い針

• 臨床徴候を示す割合：61.9％（※ 誤飲を目撃した場合を含む）

• 食欲不振：19.0％

• 嘔吐：0％

• 腹部疼痛：33％（※ 腹部の筋緊張を含む）


Chap L Pratt. JAVMA, 2014


– 縫い針：その他の臨床徴候

• レッチング：33％（全て喉咽頭部）


Chap L Pratt. JAVMA, 2014

Clinical Signs •  Duration（来院まで）

– 中央値：2日（範囲：0～21日）

– 中央値：4.8日（範囲：0.04～60日）

– 平均：6日間


G Hayes. JSAP, 2009



Clinical Signs •  Duration（来院まで）

–  胃：2.9 ± 3.5 日

–  十二指腸：4.1 ± 2.3 日

–  空腸

1.  近位：4.3 ± 4.6 日

2.  中間：5.5 ± 9.1 日

3.  遠位：11.2 ± 18.5 日

–  回腸：2.6 ±0.6 日


G Hayes. JSAP, 2009

Clinical Signs •  Duration（Appearance of clinical sign ～ Operation）

– 十二指腸：2.90 ± 1.37 日

– 空腸：5.22 ± 2.81 日

– 回腸：5.58 ± 2.77 日

– 結腸：10.14 ± 5.39 日


T Koike. et al., J Vet Res, 1981

Summary 2−1

•  嘔吐 – 80％以上：嘔吐がないからと言って否定は出来ない（目撃は日本では海外に比べ多いかもしれない）

•  遠位の消化管になればなるほど、消化器症状を示している時間が長い – 異物誤飲を目撃していないなどの理由から、ご家族が様子をみているケースが多いかもしれない


Summary 2−2

•  異物の種類

– 線状異物では症状が強く出る可能性がある（原因は治療編で）

– 縫い針の誤飲では症状の出方が違う可能性がある

•  病院にくるまで – 2～6 日：若齢の急性嘔吐はもっと早く来院するよう啓蒙が必要である


Signalment


http://brunswickcentralvet.com.au/pet-‐library/foreign-‐body-‐ingestion-‐in-‐dogsより引用改変

Signalment •  Age

– 異物誤飲全体

• 中央値：2.5歳（範囲：0.1～14.0歳）

中央値：3.8歳（範囲：0.3～14.0歳）

• 線状異物：4.06 ± 3.32歳（範囲：0.21～14.0歳）

• 非線状異物：4.27 ± 3.51歳（範囲：0.085～14.5歳）


G Hayes. JSAP, 2009



Signalment •  Sex

– 差異なし

– 雄に多い ?


A K Boag. JVIM, 2005 T Koike. et al., J Vet Res, 1981

M M Hobday. JSAP, 2014 Chap L Pratt. JAVMA, 2014


Signalment •  Breed – オッズ比の高い犬種

•  ブルテリア、ジャックラッセルテリア、スプリンガー・スパニエル、ヨークシャテリア、レトリーバー

– 割合が多かった犬種 •  ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバーが多い

•  ドーベルマン、プードル、ジャーマンシェパード、コッカー・スパニエルが上位


A K Boag. JVIM, 2005 M M Hobday. JSAP, 2014

G Hayes. JSAP, 2009


Signalment •  Breed

– 日本では・・・罹患率 Top 5

1.  フラットコーテッドレトリバー

2.  バーニーズマウンテンドッグ

3.  ビーグル

4.  フレンチブルドック

5.  ボーダーコリー


アニコム, 家庭動物白書, 2012

Signalment •  Breed

– 日本では・・・症例数

1.  ミニチュアダックスフンド

2.  チワワ

3.  トイプードル


A Shimamura., Infovets, 2012（※ DVMsどうぶつ医療センター横浜・救急センターでの推計

石川朗. 日本獣医内科学アカデミー, 2012

Summary 1.  各国で異物誤飲の種類は異なるものの、年齢や犬が興味を持つ異物の種類は一致しているように思う

2.  日本では罹患率の報告と症例報告では犬種が異なっているため、現時点では人気犬種+海外でオッズ比が高い大型犬＋フレンチブルドックに特に注意

3.  日本ではご家族の目撃例も多い可能性があることから、「飲み込んだかもしれない」でも来院を促すこと

4.  同様に無症状の個体も多いことに注意（特に胃内？）


Health & Medicine

犬の消化管内異物 病理生理学・疫学・臨床徴候編

犬の消化管内異物病理生理学・疫学・臨床徴候編