犬の食道内異物疫学・診断・治療・予後

犬の食道内異物

Masanao. Ichimata

Emergency Diseases of Veterinary Medicine

疫学、診断、治療と予後について

To Improve Diagnosis, Outcome, and Prevention of Esophageal Foreign Body

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Disclaimer


スライド作製には細心の注意を払っていますが、本PDF内の情報をご利用した結果、私個人は一切の責任を負いかねます。必ず文献や成書に記されている記載を参照し、本PDF内の情報に誤りがないことを再確認した上でご利用頂けますよう、何卒お願い申し上げます。

Epidemiology


Epidemiology •  食道内異物の発生率

– 0.04％

• スイス・アメリカの報告で同じ割合


HC Thompson., JVECC, 2012 P Gianella., JSAP, 2009

Epidemiology •  Location

– ～胸郭：3.2～10.6％

– 心基底部：18.2～22.7％

– 心基底部～尾側：62.1～74.2％


P Gianella., JSAP, 2009

HC Thompson., JVECC, 2012

MS Leib., JAVMA, 2008

F Juvet., Irish Vet J, 2010

A Rousseau., JVECC, 2007

Epidemiology •  Location

– 日本での報告

• 頸部：10.8％

• 頸部から心基底部：4.3％

• 心基底部：32.6％

• 心基底部～尾側：52.2％


高橋雅弘., 日本獣医学会誌, 2012

Epidemiology •  Type of material

– ほとんどが骨

•  78.5～90％

– 皮を加工した製品（Rawhides）

•  5～29.7％




F Juvet., Irish Vet J, 2010 CA. Rodríguez-Alarcón., JSAP, 2009

A Rousseau., JVECC, 2007 CS Sale., JAAHA, 2006



– 歯磨き用のおやつ

•  5～12％

– その他

• 釣り針、プラスチック製品（ボトルキャップなど）、植物（りんご、じゃがいも）



P Gianella., JSAP, 2009 A Rousseau., JVECC, 2007

P Gianella., JSAP, 2009 A Rousseau., JVECC, 2007



– 日本報告数の多いもの

• ジャーキー

• 犬用デンタルガム

• 骨

• 果物や野菜の塊


高橋雅弘., 日本獣医学会誌, 2012 遠藤隼人, 犬食道内異物症例に対する治療,

JARMeC News

Summary 1-1 •  発生頻度、閉塞箇所、閉塞を起こしやすい異物に関して海外・国内ともに同様の傾向が見られた

1.  発生頻度

•  0.04％程度

•  日本では小型犬が海外より多いため、より頻度は高い可能性がある（好発犬種は後述）


Summary 1-2

•  発生頻度、閉塞箇所、閉塞を起こしやすい異物に関して海外・国内ともに同様の傾向が見られた

2.  閉塞箇所

I.  頸部～胸郭：10％前後

II.  心基底部：20％前後

III. 心基底部～尾側：70％前後


Summary 1-3

•  発生頻度、閉塞箇所、閉塞を起こしやすい異物に関して海外・国内ともに同様の傾向が見られた

3.  異物の種類

I.  骨

II.  デンタルガム

III. おやつ（とくに皮製品）


Clinical Signs


http://www.petcarerx.com/rawhide-‐bones/11259より引用改変

Clinical Signs •  Duration – 中央値：2.75時間（0.5～120時間）

– 平均：4日間（0.1～21日）



CS Sale., JAAHA, 2006

Clinical Signs •  Duration –  食道炎が軽度である症例で有意に短い

•  0日（0～4日）vs. 3日（0～14日）

– 内視鏡で摘出出来た症例で有意に短い •  1日（0.5～10日）vs. 5日（1～12日）

– 併発症（穿孔、気胸、狭窄など）を呈した症例 •  75％が3日以上経過していた





Clinical Signs •  Chief Complaint

– ご家族が誤飲を目撃

•  10.6～50％

– 食欲不振

•  31.6～38.7％




MS Leib., JAVMA, 2008 A Rousseau., JVECC, 2007




– 吐出 and/or 嘔吐

•  21～77%

– 流涎症

•  7.5～30％



A Rousseau., JVECC, 2007 MS Leib., JAVMA, 2008





– ギャギング and/or レッチング

•  18.1～54.8％

– 咳

•  13.3～28％









– 食道炎の程度での臨床徴候の違い

• 元気低下

–  16 vs. 76%（軽度 vs. 中等度～重度 P<0.001）



Summary 2 1.  臨床徴候を示してから早期の来院を促す – 臨床徴候から診察までの期間が長いことは、併発症・死亡リスクを上昇させる可能性がある

2.  臨床徴候は発現する徴候のタイプを覚えておくこと

– 臨床徴候のタイプは一定しているが、その発現率には報告によって差がある


Signalment


http://www.petoffice.co.jp/dog_yt/zukan/より引用改変

Signalment •  Age – 4～5.7歳

– 胃と食道内異物の報告 •  ≦ 1歳：16.6％

•  1～5歳：44.1％

•  5～10歳：31.3％

•  10歳～：7.8％



MS Leib., JAVMA, 2008 F Juvet., Irish Vet J, 2010

CS Sale., JAAHA, 2006



Signalment •  Sex

– 性差なし





Signalment •  Breed

– オッズ比が高い犬種

• ヨークシャー・テリア

• ウェストハイランドホワイトテリア


CA. Rodríguez-Alarcón., JSAP, 2009 P Gianella., JSAP, 2009


– 好発犬種（頭数）

• ウェストハイランドホワイトテリア

• シーズー



F Juvet., Irish Vet J, 2010 A Rousseau., JVECC, 2007



– 日本

• チワワ


• シーズー



Summary 3-1

•  食道内異物と胃から遠位の消化管異物の症例ではシグナルメントが日本国内でも異なる可能性

1.  年齢中央値

• 食道内異物：4～5歳

• 消化管内異物：2～4歳

食道内異物では新規のものではなく、今まで食べていたものなどで、生じている可能性がある


Summary 3-2

•  食道内異物と胃から遠位の消化管異物の症例ではシグナルメントが日本国内でも異なる可能性

2.  品種 • 食道内異物：チワワ、シーズー、ヨークシャー・テリア

• 消化管内異物：ミニチュアダックスフンド、チワワ、プードル、（罹患率：大型犬＋ビーグル、フレンチブルドック）


「嘔吐」が問診上も含めて主訴になることが有るため、上記犬種では他の稟告などを加味し、イニシャルプランニングで胸部X線を考慮

Examinations


NICK VEASEY CATALOGUE OF WORKS Bus September 1998 より引用

Physical Examination •  Body Weight（中央値 or 平均値）

– 4.7～7.8kg






Physical Examination •  Body Weight

– ＜5kg：80.6％

– ＜8kg：83.9％

– ＜10kg：61.7～88.3％


A Rousseau., JVECC, 2007 HC Thompson., JVECC, 2012



Physical Examination •  Temperature

– 39.5℃以上

•  41.2％

– 食道炎が中等度～重度の症例

•  30％の症例で体温の上昇

• 軽度の症例を比べ、割合が高い（5 vs. 30%）




CBC •  食道炎が中等度～重度の症例

– 軽度の症例を比較して割合が多かった項目

1.  好中球の左方移動（59 vs. 20%）

2.  総白血球増加（53 vs. 20%）

3.  単球増加（35％ vs. 0%）



Blood Chemistry •  食道炎が軽度 vs. 中等度 or 重度

– 有意な変化は認められなかった



Radiography •  X線検査において異物を認めた症例

– 91.1～100％


P Gianella., JSAP, 2009 F Juvet., Irish Vet J, 2010




Radiography •  その他所見

1.  食道内ガス貯留 •  50%（17/34：うち9頭は口腔まで貯留）

2.  誤嚥性肺炎 •  8～16％

3.  食道拡張 •  12.9％

–  その他：気胸、胸水、縦隔気腫など







HC Thompson., JVECC, 2012 MS Leib., JAVMA, 2008

Radiography


図：頸部領域の食道内異物

Radiography


図：心基底部領域の食道内異物 HC Thompson., JVECC, 2012 より引用改変

Radiography


図：心基底部～食道尾側領域の食道内異物 MS Leib., JAVMA, 2008 より引用改変

Ultrasonography •  報告なし


Ultrasonography やってみました（症例：頸部領域の食道内異物）


気管

食道

異物による食道の拡張と音響陰影

Summary 4 •  X線検査でほぼ診断が可能

•  併発疾患に注意が必要である

– 食道内異物の診断のみで満足しない


Treatment


http://www.olympusamerica.com/presspass/press_pass_cut/images/msg/GIF-‐H180lg.jpgより引用

Treatment •  内視鏡での処置

1.  摘出

•  25.8～91.3％

2.  胃内に押し込み

•  8.7～41.6％







Treatment •  来院から内視鏡までの時間

– 2.2時間（範囲：0.3～10.6時間）

• ＜3時間：70.5％

•  内視鏡処置の為の麻酔時間

– 15分（範囲：5～80分）



Treatment •  胃切開

– 0～9％

•  食道切開

– 頸部：5％（1報告のみ）

– 開胸術と共に：3％（1報告のみ）

– 38％：2次施設での報告


P Gianella., JSAP, 2009 HC Thompson., JVECC, 2012




遠藤隼人, 犬食道内異物症例に対する治療, JARMeC News


Treatment •  開胸術

– 0～17.6％

•  0％の報告が2つ

•  0～10％の報告が3本：骨が殆ど

•  17.6％：デンタルガムでの報告




HC Thompson., JVECC, 2012 高橋雅弘., 日本獣医学会誌, 2012

F Juvet., Irish Vet J, 2010 P Gianella., JSAP, 2009

Treatment •  胃チューブ設置

– 0～8.3％

• 中等度～重度の食道炎の症例

–  70％で設置

• 設置した胃チューブ

–  25.8％で併発疾患あり



Summary 5 •  内視鏡

– 口から摘出か胃の中に入れるか状況により判断

– 内視鏡での処置は目安30分～1時間くらい？

• 状況により判断

•  胃チューブ

– 食道炎が中等度～重度（円形のびらん～潰瘍・狭窄・穿孔）であれば検討する


Prognosis


HC Thompson., JVECC, 2012より引用改変

Complications •  食道炎の程度 – なし •  0～17.6％

– 軽度（単一のびらん）

•  41.1～50％

– 中等度～重度（円形のびらん～潰瘍・狭窄・穿孔）

•  38.2～50％


F Juvet., Irish Vet J, 2010 HC Thompson., JVECC, 2012

A Rousseau., JVECC, 2007 P Gianella., JSAP, 2009

Complications •  食道穿孔もしくは壊死

– 0～16.7％

•  0％の報告が1本

•  3～7％の報告が4本








Complications •  その他

1.  食道憩室 •  1.6～2.2％

2.  誤嚥性肺炎 •  8～16％

3.  気胸 •  1.6～9％

–  術後1週間後に生じた症例もあり




HC Thompson., JVECC, 2012 高橋雅弘., 日本獣医学会誌, 2012


F Juvet., Irish Vet J, 2010 A Rousseau., JVECC, 2007

Complications •  食道炎の程度による差異

– 軽度 vs. 中等度～重度

• 併発疾患の発生率

–  7 vs. 30%（P<0.001）

• 回復までの期間

–  1 vs. 8日（P<0.001）



Prognosis •  術後の食道狭窄

– 1.5～24.1％

• ＜10％の報告：3本

•  20％＜の報告：2本

– 発生までの日数

•  9～25日

• 中央値：20日（範囲14～25日）


MS Leib., JAVMA, 2008 F Juvet., Irish Vet J, 2010




Prognosis •  入院期間

– 中央値19時間（範囲：2.2～143.2時間）



Prognosis •  死亡率

– 0～25.8％

•  0％の報告：1本

• ＜10％の報告：3本





高橋雅弘., 日本獣医学会誌, 2012 P Gianella., JSAP, 2009


Summary 6 •  食道狭窄 – 中等度～重度の症例では、術後すぐではなく1週間以上経過してから生じる可能性

– 術後インフォームが重要

•  予後 – 全体的には良好

– 食道の状況により、ヒストリー・臨床徴候・術前検査から麻酔前評価をしっかり立てインフォームすること


Summary •  日本では犬種から発生リスクが高いと推察される

•  好発犬種のおやつ指導が予防には重要

•  予後は一般的に良好

•  飲み込んだものの形状と臨床徴候を呈した期間が、食道の状態や併発疾患の有無に関連すると推察される

•  ご家族には早期の来院、獣医師は早期に見逃しなく診断し、治療にあたることが重要


Health & Medicine

犬の食道内異物 疫学・診断・治療・予後

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