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5 調査報告 図解入門 How-nual 調査プロジェクトの評価は、調査報告書の出来いかんで決 まります。これまでの綿密な調査の結果を効果的に伝えるた めに、報告書の作成は重要なプロセスだと言えます。そこで 本章では、調査報告書の書き方について解説します。中でも 特に重要な項目である「エグゼクティブ・サマリー」と「調 査結果」の書き方については、そのコツと注意事項を詳しく 説明するので、しっかり身につけてください。 また、調査報告書の提出前後に行われるプレゼンテーショ ンの方法や、報告後の振り返りについても、本章で解説しま す。 マケリサーチ第5章_v4 09.11.13 16:34 ページ135

図解入門最新マーケティング・リサーチがよーくわかる本(7)

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5第 章

調査報告

図解入門How-nual

調査プロジェクトの評価は、調査報告書の出来いかんで決

まります。これまでの綿密な調査の結果を効果的に伝えるた

めに、報告書の作成は重要なプロセスだと言えます。そこで

本章では、調査報告書の書き方について解説します。中でも

特に重要な項目である「エグゼクティブ・サマリー」と「調

査結果」の書き方については、そのコツと注意事項を詳しく

説明するので、しっかり身につけてください。

また、調査報告書の提出前後に行われるプレゼンテーショ

ンの方法や、報告後の振り返りについても、本章で解説しま

す。

マケリサーチ第5章_v4 09.11.13 16:34 ページ135

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第5章

調査報告

次」「調査概要」「主な調査結果」「付録」の6つで構成されます。

「表紙」には、調査タイトル(表題)や、発注側・受注側の名称、日付などが含

まれます。

「エグゼクティブ・サマリー」は、「マネジメント・サマリー」や「結果の要約」

などとも呼ばれます。詳しくは5-2で説明します。

「目次」は、省略されることもあるのですが、報告書を読みやすくするために、

必ず入れるべきです。

「調査概要」は、調査の背景や目的、調査デザインの再確認のために入れます。

多くの場合、「企画書」からコピーします。

「主な調査結果」は、もっとも長くなる部分ですが、図表を使用してわかりやす

く簡潔に記述する必要があります。また、最後に「要約と結論」をまとめておくこ

ともあります(ただし、エグゼクティブ・サマリーがある場合は、繰り返しになり

ますので、「要約と結論」部分は省略してもよいでしょう)。詳しくは5-3、5-4で

説明します。

最後に、調査票やその他の資料、分析手法の解説などを「付録」に付けます。

5-1 調査報告書の構成

137136

5-1調査報告書の構成調査報告書の構成調査結果を効果的に伝えるには、簡潔でわかりやすい調査報告書が必要です。標

準的なフォーマットがあるので、それに沿ってまとめましょう。

報告書が満たすべき3つの要件

調査企画、データ収集、そして集計・分析作業と、その精度に最新の注意を払い

ながら、多くの人が関わり進められてきた調査プロジェクトも、調査報告書の出来

いかんでその評価が決まります。

企業内のリサーチャーであれば経営陣やマーケティング・マネージャーの信頼を

勝ち取る上で、また調査会社ですと次の調査プロジェクトの受注につなげる上で、

調査の報告は重要なプロセスです。

いよいよ大詰めです。まさに「終わり良ければすべてよし」です。

リサーチの発注側としては、意思決定に有効な内容で、売上やシェア拡大などビ

ジネスに貢献し、調査のプロが作成した「商品」としての調査報告書を期待してい

ます。リサーチャーは、リサーチのプロとしての知識やスキルをベースに、内容が

有効で、わかりやすく、見栄えもよい報告書を作成する必要があります。そのため

には、

¡標準化された構成に従って

¡科学としての調査にふさわしい論理的説明を展開し

¡図や表を効果的に使った、明快で説得力のある

報告書を作成する必要があります。

調査報告書を構成する6つの要素

リサーチャーは、以前に書かれた報告書をまねることによって、報告書の書き方

を学んでいきますが、標準的な調査票は「表紙」「エクゼクティブ・サマリー」「目

調査報告書の構成

企画書同様、内容のわかるタイトルが望ましい。発注、受注者名や日付を入れる。

マーケティング課題の解答を提示。マーケティング課題―調査目的―調査方法―調査結果―結論―提言の論理的説明を行い、結論とそれに至った証拠(調査結果)を簡潔に提示する。

表紙

エクゼクティブ・サマリー

読みやすくするため、全体構成を明示する。目次

企画書同様、調査背景や目的、調査デザインの中身、スケジュールを提示する。なぜこの調査を行い、どのように調査を行ったのかなど、調査実施の5W1Hがわかるように表示する。

調査概要

主要な調査結果をわかりやすく提示する。提示順は、課題解決に重要な順番とする。グラフを有効に使い、理解しやすく表示する。「対象者の構成」は必ず入れる。

主な調査結果

調査票や、その他調査で使用した資料などを添付する。付録

※「標本構成」(対象者の属性)を「主な調査結果」の提示の前に付けることもある。特に製品テストの場合、どのような対象者に調査を行ったかを検証する意味で提示する必要がある。

マケリサーチ第5章_v4 09.11.13 16:34 ページ136

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第5章

調査報告

トから「調査の結果はどうでしたか?」とたずねられた場面を想像してください。

エレベータが目標階に着くまでの時間しかありませんから、長々と説明はできませ

ん。かといって、ここでお茶を濁してしまったら、クライアントに「うまく調査で

きなかったな」と思われてしまいます。ここは、短時間に要領よく結果をまとめ、

パフォーマンスをアピールしなければいけないのです。これが、エレベータ・ス

ピーチです。

エグゼクティブ・サマリーも、このエレベータ・スピーチのようなものです。す

なわち、主張したいポイントを簡潔に伝えるのが重要なのです。

5-2 「エグゼクティブ・サマリー」の書き方

139138

5-2「エグゼクティブ・サマリー」の書き方「エグゼクティブ・サマリー」の書き方調査報告書の各項目の中でも、エグゼクティブ・サマリーは特に重要です。調査

結果をまとめるだけでなく、マーケティング課題の解を提示する必要があります。

3つの要素をわかりやすく表現することが重要

「エクゼクティブ・サマリー」は、一言で説明するなら、調査結果の要約です。

ただし、単に結果をまとめるだけでは不十分です。以下の3つの要素を簡潔にまとめ

る必要があります。

¡調査の全体像(調査の背景や目的、調査デザイン)

¡調査の結果

¡調査結果から導き出される結論や提言

「エグゼクティブ・サマリー」は、報告書の中でもっとも重要な部分です。なぜ

ならば、その調査結果に基づいてビジネス上の意思決定を行う重要な役職の人は、

得てして忙しく、サマリーだけしか読まない可能性が高いからです。

サマリーに調査の成果が有効に提示されていない場合は、たとえ調査が成功裡に

完了していたとしても、その調査プロジェクトの評価は低くなります。

実際に報告書をまとめる際には、サマリーを書くのは、報告書の大部分を占める

「主な調査結果」を書いた後になります。そのため、「主な調査結果」のグラフやコ

メントを作成する作業に追われ、サマリーが疎かになる場合があります。

しかし、むしろサマリーの作成にこそ、大きなエネルギーと細心の注意を払う必

要があるのです。忙しいクライアントが、この部分を読んで、有効なビジネス決定

ができるようなレベルの内容を、簡潔にまとめることが望まれます。

「エレベータ・スピーチ」という言葉をご存じでしょうか?

例えば、プレゼン会場に向かうエレベータの中で、偶然乗り合わせたクライアン

報告書作成のプロセス

集計・分析結果の解読

調査概要の作成

主要調査結果の作成

結論・提言の作成

サマリーの作成

付録その他の部分の作成

製本

プレゼン

マケリサーチ第5章_v4 09.11.13 16:34 ページ138

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第5章

調査報告

なお、「結論」をまとめる際には、「結果」と「結論」の整合性が取れているかに

留意しましょう。注意深く読むと、この結果からは、この結論は言えないと思わざ

るを得ない調査報告書を見かけることがあります。リサーチャーに先入観があった

り、誤解や結果の解釈ミスがあると、このようなことが起こりますので、十分に注

意してください。

5-2 「エグゼクティブ・サマリー」の書き方

141140

調査の結果だけでなく「結論」を提示する

先ほど挙げた、サマリーの3つの要素の内、リサーチャーがもっとも悩むのが、調

査の「結論」でしょう。調査の全体像や結果は、これまで行ってきた事実をまとめ

ればいいだけの話ですが、それを受けての結論を書くには、マーケティングの知識

が必要不可欠です。

リサーチャーは、どうしてもリサーチまでが仕事という意識があるためか、調査

結果までしか書かない傾向があります。しかし、調査結果は必ずしも、クライアン

トが求めているマーケティング課題の解ではありません。調査結果から有効な次の

アクションにつながる「結論」を出して、はじめて調査は成功と言えるのです。ク

ライアントは、有効な結論を得るために、お金をかけて調査を依頼しているのだと

言えます。

製品開発やブランドの活性化策を探る調査の場合は、最初から、次に取るべきア

クションを選択するための判断情報の提示が求められます。したがって、調査もそ

のような結論や提言を出しやすいように設計されているでしょう。

しかし、問題発見・実態把握的な調査の場合、調査依頼の時点では、次のアク

ションの選択肢が明示されていないことも多いものです。そのような場合、往々に

して「~のような結果でした」と結果一覧のような報告書になりがちです。これで

は、読み手の方は、思わず「それでどうなの(So What?)」という問いを発した

くなります。

このような実態を把握する調査の場合でも、実際には必ず実態把握の先に、製品

開発を目指しているとか、ブランドの活性化を図りたいなどといった、何らかの

マーケティング活動のプランがあります。そして、それらのヒントを探すためにリ

サーチを行っているのです。

例えば、メーカーから、ある製品の使用実態についての調査依頼があったとして、

メーカーとしては当然、使用実態を捉えることが最終の目的ではありません。それ

らを参考にして、消費者ニーズを満たす製品を開発し、効果的・効率的に販売する

ことが、目的のはずです。したがって、そうした実態把握調査を受けた場合は、結

果の羅列だけでなく、調査の結論として、今後のマーケティング活動に向けての提

言や考察・示唆をできる限り付けることが好ましいでしょう。

5-2 「エグゼクティブ・サマリー」の書き方

エグゼクティブ・サマリーの例(製品テストの場合)

テスト製品の全体好意度(味覚やコンセプト、パッケージ、価格のトータルの評価)は、5点評価尺度の平均値で2.8で、競合製品のそれは4.0であった。テスト製品は、競合製品に有意に劣っていた。

調査結果 調査による発見(findings)

調査結果をマーケティング問題解決の文脈上で解釈

具体的な有効なアクションにつながる提案

(例)

(例)

(例)

クライアントのテスト製品は、このまま発売されたとしても、トライアル、リピート購買とも大きな成果は見込めない。

発売延期を推奨。そして、以下の点の改良を提案する。

¡コンセプト部分の……

¡味覚要素の……

¡パッケージの……

結論

提言

マケリサーチ第5章_v4 09.11.13 16:34 ページ140

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第5章

調査報告

るためにあるのです。ビジネスは時間との戦いですから、ビジネスにおける調査報

告書は中身があって、かつ、簡潔・明瞭であることが重要です。

したがって、文章は極力短く、短文が好ましいでしょう。簡潔にするために、時

には体言どめも可能です。ポイントは箇条書きをお薦めします。辞書で引かなけれ

ばいけないような用語は不必要には使用しない方が賢明です。

筆者は、マーケティング・リサーチのキャリアをスタートさせた時、直属の上司

であった日本マーケティング・リサーチ協会の前会長である三木康夫氏に、「レポー

トは、図のようにわかりやすく書きなさい」と指導されました。それくらい、文字

数を絞って、ポイントのみをコメントにせよ、ということです。三木氏は、わかり

やすくするためにフォントにまで気を配っておられたことが印象的でした。

5-3 「主な調査結果」の書き方

143142

5-3「主な調査結果」の書き方「主な調査結果」の書き方

主な調査結果はグラフと、そのコメントで提示します。論理的、客観的に理解し

やすく書くことがポイントです。

「主な調査結果」の基本フォーマット

調査報告書の「主な調査結果」は、通常、グラフとそれらへのコメントという形

式でまとめられています。

ただし、1つの質問に1つのグラフを作成し、それぞれ1ページずつ取ってゆく

と、質問数が多い調査の場合、相当なページ数になり、作業量も多くなります。そ

うした場合、参考結果の部分は、巻末の付録にまわすなどの工夫が必要です。

また、調査結果の掲載順は、結論を導く上での重要性やストーリー、慣習に従っ

た順番にしておきます。

例えば、製品テストの報告書の場合ですと、全体評価や購入意向の結果の提示か

ら始まり、各製品属性の評価結果、その他の結果へと進むのが定番です。さらに、

性別や年代別など、ある特定のグループ別の結果への言及が必要な場合は、全体の

結果の後にそれらを続けます。

コメントは理解しやすさが命

「主な調査結果」をまとめる際に重要なのは、1つ1つの調査結果について、なる

べく簡潔にまとめるということです。基本的には、前述のように、1つの質問に対す

る結果は、1つのグラフと、それに対する簡単なコメントで構成するようにしましょ

う。グラフに結果を集約させるやり方です。

様々な報告書を見ていると、時には、文字がぎっしり並んだものに出会うことが

あります。要約のエクゼクティグ・サマリー部分ですら、長文で埋められているこ

ともあります。「○○分析の結果……」という表現が出てくると、今さらという感じ

です。

しかし、調査報告書は、研究論文ではありません。調査結果をわかりやすく伝え

調査結果の例(パスタソースのケース)

0% 20% 40% 60% 80% 100%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

全体好感度

パスタソースの購入頻度

全体の78%の人がコンセプトPを好きと評価。

非常に好き  やや好き  どちらともいえない  あまり好きではない  全く好きではない

月に2~3回位が過半数を超える。

週に1回以上 月に2~3回位 月に1回位 2~3ヶ月に1回位

4~6ヶ月に1回位 年に1~2回位 それ以下

44

17 61 17 4 11

34 7 12 4

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第5章

調査報告

5-3 「主な調査結果」の書き方

145144

客観性と正確性には気を付ける

「主な調査結果」の展開では、結果についての感想や憶測を交えたコメントはし

ないことが鉄則です。リサーチでは、先入観を持たずに、データが示す結果を客観

的に読み取ることが大切だからです。したがって、ひたすら客観的に、結果から読

み取れる内容(発見)を簡潔に伝えることが重要です。これには図表化が一番です。

また、客観性だけでなく、当然、正確性も要求されます。多くの場合、本人は気

付いていないのですが、報告書をよく見ると、図表が示していることと、リサー

チャーのコメントが一致していないことがあります。時には誤った図表を作成した

ために、間違ったコメントが導かれてしまっている場合もあります。こうしたミス

には注意しましょう。

ロジカル・ライティングを活用する

理解しやすい文章を実現する方法の1つが、論理的でわかりやすい文章構成を心が

けることです。これによって、より内容の客観性も増します。そのためには、ぜひ

「ロジカル・ライティング」*の方法を学ぶことをお薦めします。

ただ、ロジカル・ライティングそのものについては、たくさんの入門書が出版さ

れているので、詳細な解説はそれらの書籍に譲ります。ここでは、ロジカル・ライ

ティングの方法の1つとして、報告書をまとめる上で特に有用である「ピラミッド思

考」を紹介するに留めましょう。

「ピラミッド思考」とは、ロジックを階層に整理して「見える化」する手法です。

具体的には、ピラミッド思考にしたがって報告書をまとめる場合、まず主題(結

論や、伝えたいこと、主張したいこと)を書きます。次に、「なぜ」そうなのかの理

由や根拠をリストアップします。最後に、それらの事例や事実などのサポート情報

を整理します。

このように、結論から個々の事実へ展開する、演繹法的な思考方法をすることが

ピラミッド思考のポイントです。調査のデータ解釈作業は、これとは全く逆の、事

実の結果を集めて結論へと導く帰納法的プロセスですが、読み手にとっては、まず

結論が明確に示され、それからその理由が論理的に展開された方が、非常に理解し

やすくなります。

*ロジカル・ライティング 詳細は高橋慈子『図解入門ビジネス ロジカル・ライティングがよ~くわかる本』(2008

年、秀和システム)を参考にしてください。

5-3 「主な調査結果」の書き方

ピラミッド型による提案のロジックの「見える化」

製品コンセプトの再検討が必要

パスタソースのケース

消費者受容性が低かった

新しいベネフィットを提供できていない

新規ユーザーを獲得することが困難

①競合からのブランドスイッチが

少ない

①製品ポジショニングが競合と同じ

位置に存在

②競合と差別化できていない

①購入意向率がノルム値を下回った

②全体好意度も同様であった

③販売予測量が目標値を下回った

マケリサーチ第5章_v4 09.11.13 16:34 ページ144

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第5章

調査報告

5-4 グラフの使い方

147146

5-4グラフの使い方グラフの使い方グラフは、その活用方法を理解することによって、調査結果の「見える化」の有

力なツールになります。

グラフは調査結果の「見える化」の有力ツール

わかりやすい調査報告書の条件の1つが、グラフ*の有効活用です。恐らくグラフ

が使われていない調査報告書はないでしょう。それほど、調査にはグラフがつきも

のです。

その大きな理由は、結果の数字を文字で説明するよりは、視覚的にグラフの方が

断然わかりやすいからです。調査結果の「見える化」にはグラフは必須です。集計

表の数字を縦に横にと眺めていただけでは見えてこないことも、グラフにしてみる

だけで発見できるようになります。逆に言えば、結果がわかりやすく表示されてい

ない見づらいグラフは失敗と言えるでしょう。

また、グラフには、結果をわかりやすく表示するといった受動的な役割以外に、

リサーチャーが主張したいことや、考えている仮説を検証するために使うといった

積極的な活用方法もあります。自分が述べたいことをグラフに集約させるわけです。

そのようにすることで、読み手はグラフだけ読めば、調査結果の概要を知ることが

できるようになります。

それぞれのグラフの有効な活用方法を理解する

表計算ソフトのExcelには、次のような様々なグラフが標準装備されています。

例えば、縦棒グラフ(積み上げを含む)や、折れ線グラフ、円グラフ、横棒グラフ

(帯グラフを含む)、面グラフ、散布図、ドーナツ・グラフ、バブルチャート、レー

ダーチャートなどです。

「折れ線グラフ」は、時系列の推移や伸び率などの変化を表すのによく使われま

す。全体と男女間での推移の変化も、3つの折れ線を併記することで見やすく比較す

ることができます。

*グラフ 図表という意味では、グラフ(graph)の他にチャート(chart)という表現があります。また英語では、図

にフィギャー(figure)、表にテーブル(table)という用語がよく使われます。

グラフの種類

¡折れ線グラフ

¡レーダーチャート

¡横棒グラフ

¡円グラフ

ブランドA ブランドB

ブランドの購入率

2005

6

4

2

0

2006 2007

806040200

100908070605040302010

60%

0 50 100

¡バブルチャート

0 20 40 60

30

25

20

15

10

5

0

40%

2008 2009

¡面グラフ

ブランドA ブランドB

150

100

50

0

ブランドの購入率

2005 2006 2007 2008 2009

¡スネーク・プロット

ブランドA ブランドB

543210

親しみがある

おいしい

よく見かける

価格が手ごろ

体に良い

原材料が良い

品質が良い

高級感がある

親しみがある

おいしい

よく見かける

価格が手ごろ

体に良い

原材料が良い

品質が良い

高級感がある

賛成

反対

¡ドーナツグラフ

65%

40%

35%

賛成

反対

¡帯グラフ

0% 20% 40% 60% 80%100%

10 50 22 10 3購入意向

親しみがあるおいしい

よく見かける価格が手ごろ体に良い

原材料が良い品質が良い高級感がある

ブランドAのイメージ評価(複数回答)

¡散布図

0 20 40 60

60

40

20

0

テスト製品のコンセプト属性とプロダクト属性の評価

¡横棒グラフ

ブランドAのイメージ評価(複数回答)

役立った本

本書の評価

新たな理解や発見があった本

信頼できる本わかりやすい本

他の人にも薦めたい本

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第5章

調査報告

5-4 グラフの使い方

149148

これを点ではなく、面で表したのが「面グラフ」です。

また、横方向の折れ線を縦方向にプロットした「スネーク・プロット」というグ

ラフも、ブランド・イメージや製品属性評価を、製品間やグループ別に比較するの

に有効です。

「円グラフ」は、構成比などの大小を表すのに便利です。複数の内容の構成比を

一度に表す場合には「ドーナツ・グラフ」が便利です。

2つ以上のグループなどの構成比を比較する場合は、円グラフより、横棒グラフの

一種である「帯グラフ」の方がわかりやすいでしょう。製品テストの報告書では、

5-4 グラフの使い方

グラフの使い分け方

はい はい はい 帯グラフ

はい はい いいえ 円グラフ

はい いいえ はい 棒グラフ

はい いいえ いいえ 折れ線グラフ

いいえ はい -

変量(系列)の数が1つ

合計が100%(回答がSA)

変量間を比較する

適したグラフの種類

散布図、面グラフ、等高線、

ドーナツグラフ、バブルチャート、

レーダーチャート

製品評価を表すのに、この帯グラフが大活躍します。全体が100%になる製品評価

で、製品間や性別間などでの比較も可能にしてくれます。

「横棒グラフ」は、数値の比較や複数回答の分布を表すのに適しています。特に

全体が100%にならない場合には便利です。この場合、質問文にある回答の順では

なく、結果の数字の大きなものから提示する方が見やすくなります。

横方向よりも縦方向に示した方が見やすい場合は「縦棒グラフ」が適しています。

2つの変量間の関係を表すには、「散布図」が便利です。散布図上で、大きさを表

すには、「バブルチャート」が便利です。

「レーダーチャート」、別名「クモの巣チャート」は、グループ間や属性間などの

評価や数値の比較を表すのに適しています。

グラフ作成の際に注意すべきこと

なお、グラフを作成する際には、以下の点に注意しましょう。

¡1つのグラフで1つの主張(発見)を行う

¡表番号とタイトルを付ける(「図1:製品の全体評価」など)

¡数字のベースを明記し、サンプル・サイズを表示する(対象者全員なのか、あ

る特定のグループなのか、またその人数はいくつか)、

¡見やすくするためハッチングや色の工夫を行う(配色によって、見やすさだけ

でなく、報告書の印象も変わってきます)、

¡見づらくならない範囲で、できる限り数字を併記する(グラフ上での20%な

どの表記)

¡凡例を表記することによって、複数のデータを見やすくする(グルフのどの部

分が何を表しているのかを明記)

¡目盛や原点(0)の表記に工夫する(特に折れ線グラフなどでは、目盛の取り

方によって、大小関係が異なって見えてくる場合があるので要注意。目盛を大

きく取ることによって、差がないにもかかわらずあるように見える危険性が生

じます)

¡データの出典を明記する

マケリサーチ第5章_v4 09.11.13 16:34 ページ148

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第5章

調査報告

なお、質問応答の時間を説明中に随時取るか、あるいは最後にまとめて取るかど

うかは、状況に応じて判断することになります。ただし、必ず質疑応答の時間を取

るように、時間配分を考えてください。質疑応答の時間がないと、質問のある人に

とっては、不完全燃焼のプレゼンになってしまいます。

準備は入念に行う

プレゼンを成功させるためには、十分な準備をすることが必須です。

プレゼン用の資料やスライドを用意しておくことはもちろんですが、機械の接続

や操作方法についても事前にチェックしておきましょう。ファイルも早く立ち上げ

るためにデスクトップ上にコピーしておくとよいでしょう。

また、参加メンバーや人数は事前に聞いておいた方がよいでしょう。プレゼンを

成功させるには、内容を参加者(聴衆)に合わせる必要があります。そのために参

加者について(役職や、意思決定への影響度など)研究しておくことも役立ちます。

さらに、質問への対応の準備も十分行っておくことが、相手の信頼を得る上で重

要です。予備スライドの準備も忘れないようにしましょう。

5-5 プレゼンテーションのやり方

151150

5-5プレゼンテーションのやり方プレゼンテーションのやり方文字で書かれた報告書は、読まれていないことがあります。このような場合には、

口頭でのプレゼンテーションが評価のキー・ポイントになります。

調査報告書は読まれない?

たいていの場合、調査報告書とは別に、調査結果についてのプレゼンテーション

として、関係者への口頭での説明報告・質疑応答のセッションが行われます。これ

は、調査報告書の提出の前に行われる場合と、後で開かれる場合があります。

多忙な担当者にとって、長くて読みづらい調査報告書を読むのは苦痛です。そこ

に、このプレゼンテーションの存在意義があります。

一方、リサーチャーにとってのプレゼンの最終目的は、意思決定のキー・マンに

納得してもらうことです。それが、クライアントに次のアクションを促す(=調査

プレゼンの場合ですと、次回も調査をお願いしようという結果を得る)のです。

そのためには、話の内容に感動や共感をしてもらわなければいけません。相手の

「心をつかむ」プレゼンです。それを伝えるには、相手に理解してもらうように、「正

確にわかりやすく説明」することが大切です。

プレゼンは結論で始まり結論で終わる

プレゼンはイントロ(序論)、本論(本題と各論)、結論の3部構成が一般的です。

イントロでは、調査概要の復習、あるいは出席者との確認・共有から始めること

が多いでしょう。

その後、本論に入りますが、調査の「結論」から述べた方が、参加者にとってわ

かりやすいでしょう。その後、その結論を導いた根拠となる主な調査結果について、

図表を使いながら説明を行います。

そして最後に再度、結論の確認・共有を行うことが大切です。印象深くプレゼン

を終了する方法を工夫してください。キー・メッセージが参加者のマインドに残れ

ば大成功です。

調査プレゼンテーションの流れ

序論:調査概要の共有

本論:結論―根拠となる「結果」の説明

結論:まとめと結論の強調

質疑応答

マケリサーチ第5章_v4 09.11.13 16:34 ページ150

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第5章

調査報告

さらに、プレゼン中のアイコンタクトや、参加者とのやりとりも大切です。筆者

は、プレゼンに望む際に3GIEC(スリー・ジー・シー)を心がけています。

「3」は、始めの3分間での聴衆のつかみを意味します。いわゆるアイス・ブレイ

クです。これがうまくいけば、聞き手も話し手も双方がリラックスできます。逆に、

弁解から話を始めては絶対にいけません。最初から聴衆をがっかりさせ、不安感、

不信感、不快感を持たせます。

次の「G」は、ジェスチャーの工夫(手振り身振りを大きく)です。

「I」は、インターラクティブ。「……をご存じでしょうか?」などと、出席者にあ

えて質問を投げかけて関心を集める工夫です。これで、昼食後のボーとしている参

加者にも、注意喚起ができます。

「E」は、アイコンタクトです。出席者、特に意思決定のキー・マンの目を見て、

話すことが重要です。最終的にはプレゼンが終わるまでには参加全員とアイコンタ

クトができているぐらいがよいでしょう。

最後の「C」はクロージング、つまり結語です。夢中で説明していると、これを忘

れることがあります。プレゼンの最後には、説明したポイントを必ずまとめとして

繰り返し、再度強調することが、内容を伝える上で非常に大切です。

なお、時間配分にはくれぐれも注意しましょう。時間がなくなってくると後半パ

ニックに陥り、せっかく準備した言いたいことが伝えられなくなり、プレゼンが台

無しになりかねません。

5-5 プレゼンテーションのやり方

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資料やスライドを作るコツ

プレゼンで配布する資料*や、使用するスライドも、注意深く作成する必要があり

ます。1枚のスライドの文字数が多くならないように注意しましょう。多くを伝えた

いあまり、情報を詰め込みすぎるとかえって理解しづらくなり、本末転倒になりま

す。図表を効果的に使い、フォント*サイズや配色も気を付けましょう。

また、スライドの枚数が多くなりすぎないように、重要なポイントを絞りましょ

う。プレゼンで伝えたいことをリストアップし、伝えたい順に並べ、それに肉付け

を行いプレゼン資料を作るのがよいやり方です。

最近では、プレゼンテーション・ソフトのPowerPointのスライド・ショー機能

を使って、プロジェクターに写しながら口頭プレゼンを行うケースが多くなってい

ますので、PowerPointの機能も十分に活用してください。PowerPointでは、ア

ニメーション効果はもちろん、スライドにペンで書き込みを入れたり、マーカーで

指示を行ったりもできます。話し手の方に注意を向ける時のテクニックとして、ス

ライドを真っ黒にする方法もあります(Bを押せば真っ黒に、Wを押せば真っ白に

なります。もう一度押せば元に戻ります)。

なお、資料配布のタイミングを、前日かプレゼン当日の直前にするか、プレゼン

の最中か、プレゼン後かは、適宜判断してください。

効果的なプレゼン話法

当然ですが、プレゼン中の話し方も大切です。プレゼンの途中で聞き手に飽きさ

せない工夫が必要になります。

説明の展開法としては、「これから言おうとすることの概要を伝える→詳しい内容

を説明する→話したことをまとめる」というパターンがわかりやすかもしれません。

また、ポイントを繰り返したり、重要な点を強調する方法も使えます。

内容的には、論理的説明はもちろんですが、適度に事例や経験、引用を利用する

と効果的です。

細かいテクニックとしては、「ポイントは次の3つです」というようなまとめや、

「しかし」「例えば」「したがって」など接続詞のところで声を強め、話し方にメリハ

リを付けるのもよいでしょう。

*資料 プレゼン資料の作成方法については天野暢子『図解 話さず決める!プレゼン』(2008年、ダイヤモンド社)が

参考になります。プレゼンの方法についての本はたくさん出ているので、それらを参考にしてください。

*フォント 「HGS創英角ゴシック」フォントや、影付き効果の使用は、プレゼン資料の見栄えをよくしてくれます。

5-5 プレゼンテーションのやり方

プレゼンを成功させるポイント

□準備は入念に行う(プレゼン用の資料やスライド、機械の接続や操作方法、参加メンバーや人数、質問への対応の準備)

□ 1枚のスライドの文字数が多くならないように注意する。図表を効果的に使う。

□スライドの枚数が多くなりすぎないようにする。

□ PowerPointの機能を活用する。

□ 3GIEC(始めの3分間でのつかみ、ジェスチャー、出席者への質問、アイコンタクト、クロージング)を心がける。

□時間配分に注意する。

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第5章

調査報告

5-7 調査プロジェクトの振り返り

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5-7調査プロジェクトの振り返り調査プロジェクトの振り返り調査プロジェトが終了するごとに、リサーチャー個人やグループ、会社全体として

の評価を点検することが重要です。

リサーチャーのスキルアップのために

1つの調査プロジェトが終了したら、リサーチャー個人やグループ、会社全体とし

ての評価や、よかった点、反省点を洗いだす時間を持ちましょう。リサーチャーの

スキルアップや、今後の調査の有効化・効率化に大いに役立ちます。やりっぱなし

では、なかなか成長は望めません。

以下は、調査プロジェクトを評価する場合の評価項目例です。それぞれ「5点:非

常にそう思う」から「1点:全くそう思わない」の5点満点で評価します。

これは、以下のような点について留意しながら調査を進める必要があるというこ

とでもありますので、参考にしてください。

社内クライアントが自社の調査担当を評価する場合の評価項目

クライアントが調査会社を評価する場合の評価項目

1) 自社のビジネスに貢献したかどうか2) ビジネス意思決定に有効な情報を提供したか3) ビジネス課題の解決に有効な解答を提供したか4) わかりやすく、理解が容易であったか5) 調査費用に見合った成果を提供したか6) 課題の設定が適切であったか7) 調査の方法が適切であったか8) 分析手法が適切であったか9) データの精度が高かったか

10) プロジェクトの進行が効率的であったか11) スケジュールが守られたか12) 調査期間が適切であったか13) 報告書が理解しやすかったか14) 口頭プレゼンテーションがわかりやすかったか15) 適切なアドバイスを提供したか16) 適切な調査会社を使っているか17) マーケティングの社内クライアントとのコミュニケーションはうまくいっているか18) タイムリーに情報を提供しているか19) リサーチのプロとして担当者を信頼できるか20) リサーチ担当は、マーケティング業務遂行になくてはならない存在か

1) 全体評価はどうか

2) 価格に見合った価値を提供したかどうか

3) リピート発注の可能性はどうか

4) 他社にも利用を推奨するかどうか

5) 企画において提案力があったかどうか

6) プロジェクト運営はどうであったか

7) 分析やレポートにおいて、付加価値を提供したか

8) 提供サービスのレベルはどうか

9) クライアント・ニーズの理解度はどうか

10) 企画への取り組みはチャレンジ的であったか

11) 調査デザインは適切であったかどうか

12) 調査票の品質はどうか

13) グルインのディスカション・ガイドの品質はどうか

14) 準備段階での担当者のクライアント対応はどうか

15) 会場テストでの段取りはどうか

16) モデレーターの品質はどうか

17) データの正確さについてはどうか

18) 報告書は付加価値を提供したかどうか

19) 課題に沿った提言を提供したか

20) 報告書はわかりやすかったか

21) プレゼンテーションはどうであったか

22) コンサルタント能力はどうか

23) 担当者のリサーチのスキル・経験・専門知識はどうか

24) 担当者のマーケティングのスキル・経験・専門知識はどうか

25) 担当者やチームの対応はどうか

26) プロジェクト進捗報告はどうか

27) スケジュールの正確さはどうか

28) 依頼に内容の変更に対する柔軟性はどうか

29) リサーチのプロ集団としての評価はどうか

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調査報告書のチェック・リスト

□読み手の立場に立って、わかりやすい(読みやすい)文書になるように心がけ

ましたか?

□「結果」と「結論」「提言」の区別を行いましたか?

□この調査で解決すべき「課題」は何かを常に念頭において報告書作成を進めま

したか?

□読み手を想定して書きましたか?

□表紙のクライアント名やタイトル、日付などが間違っていませんか?

□目次は付いていますか? 本文とページ数が一致していますか?

□目次の構成やタイトル、順番は適切でしょうか?

□エグゼクティブ・サマリーには、課題の解答が含まれていますか?

□提言は課題を解決する上で役立つものですか? あるいは意思決定を行う上で

有効な情報でしょうか?

□結論の根拠となった「調査結果」は、十分納得できるものでしょうか? 結論

の証拠は十分でしょうか?

□調査結果のまとめは、結論をサポートするように適切にまとめられているで

しょうか?

□調査概要の内容に誤りがないでしょうか?

□調査結果の提示は、わかりやすいでしょうか?

□調査結果や図表と、そのコメントが合致していますか? 図表を正しく読んで

いますか?

□調査結果から重要なポイントをつかんでいますか?

□図表は見やすいでしょうか? 配色や大きさはどうでしょうか? 適切なグラ

フが使われているでしょうか? 数字のズレはないでしょうか?

□結果をわかりやすくかつ魅力的に示すように、グラフを効果的に使っています

か? 数字を使いすぎていませんか? グラフのタイトルは適切ですか?

□付録には調査票など必要な資料が含まれているでしょうか?

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