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吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

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Page 1: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

緊急に必要な科学者の助言(後編:震災復興と持続性科学)

吉川弘之

科学技術振興機構研究開発戦略センター ( CRDS)

Page 2: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

震災復興と持続性科学について

理論的に、現在までに構想された持続性科学が、震災から学ぶことにより、どのような変更が必要なのかを検討しなければならない。

4.

現実的に、既に始められている持続性社会の実現プログラムと、震災・原発事故からの復興プログラムとをどのように重ねるかを慎重に検討する必要がある。

3.

方法論的に、震災からの復興および事故の収束に適用される方法は、持続的社会実現の方法と独立に議論すべきものではない。

2.

本質的に、震災及び原子力事故は、すでにその喪失が指摘されている地球の持続性への典型的な攻撃であると考えられる。

1.

Page 3: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

3

 持続性時代の緊急課題(社会的期待)

気候変動抑制

生物多様性保護

衛生確保

化学リスク制御

エネルギー政策

飲料水確保食糧確保

平和とガバナンス

災害軽減

貧困の追放

予防医療

汚染抑制

廃棄物最小化 持続性産業国土保全

要素 部品、 器官、 分子、 原子など

システム

個体 人、 機械など

社会

ローカル グローバル

行動対象(範囲)  Reach of Action(行動によって実現すべき実現体)

行動要素(レベル)Scale of Action(行動者*、または構成(設計)における原子体)

*行動決定者は、レベルの上位に存在することがある。

ナショナル

資源エネルギー確保

環境変動適応

食糧政策

医療制度

持続的経済

持続可能な開発のための教育

世界遺産保存

設備保全研究協力

コミュニテイ機関企業工場など

国連国家自治体など

エネルギー研究開発

生活様式

人間の安全保障

核不拡散

パンデミック阻止

文化持続

民芸保存

無形文化財災害復興

Page 4: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

持続性の要因多様な領域の課題解決のために多様な学問領域を必要とする

平和とガバナンス

行動者 領域(知識、方法)

各国政府 /国連

構成対象

世界 政治学、経済学、工学

貧困追放 局所(家族) 政府、自治体、産業

生物多様性 世界

医学者、医者

原子

構成要素

社会学、経済学

国家

国家

予防医療 局所(個人) 原子

人間の安全保障 局所(個人) 政府(国連)

医学

科学者、林業家、農業者、政府

災害復興

政治学、人文学

局所(社会)市民、政府、自治体、科学者、技術者、産業

自然・人文・社会科学、工学、医学

国家

自然科学、社会学

持続性(要因)

地域

4

領域 : 自然科学~工学~社会科学~人文科学

多様性構成要素の大きさ : Nano ~ Micro ~Meso~ Macro

構成対象の広がり : 局所~大域 (個人~社会~世界)

行動者 :個人~組織~政府~国連

Page 5: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

伝統的調和と現在の科学技術政策

基礎研究 目的基礎研究 目的研究

担い手

研究資金

大学研究開発法人

大学研究開発法人

企業研究開発法人大学

公的研究費(科研費)

公的研究費(科研費、戦略基礎研究費)

公的研究費(各省研究費)私的研究費(企業委託)

配分機関 文科省日本学術振興会

文科省科学技術振興機構

省庁(経産省、厚生省、農水省、総務省など)企業

5

成果 成果 成果知的好奇心

社会の繁栄産業、公共 サービス政治経済司法など

Page 6: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

ある対象が持続的進化をするための基本ループ

各ブロックは自然と人間(個人、組織、社会)を含む自治的な存在であり、全体を制御する統一者は不在である。

行動者

構成者

観察者認知

行動

助言

警告

対象

状態

選択

聴取

同化

対象の状態を観察者が観察し、状態の変化の意味を解釈して警告を発する。構成者はその警告によってとるべき行動を考案して助言する。行動者は助言から任意に選択し、それに基づいて行動する。行動は対象に同化して対象の状態を変化させる。この変化が再び観察されることにより、情報がループ上を循環する。結果として対象は進化する。このように、解釈、考案、選択、同化が他律的でなく自律的に行われるが、このことは各ブロックが自治的な存在であることを意味しており、これが進化の条件である。

Page 7: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

7

持続性実現に科学が貢献するためのループ

知識提供(科学的助言技術的助言)

勧告・警告(状態観察により持続性のための可能性と社会的期待の発見)

現象・期待(行動者の行動結果として生じる現象、潜在的期待)

構成型科学者

行動者

観察型科学者

社会、地球環境

行動(専門知識に裏付けられた行動)

観察・分析(人文・社会・生命・自然科学)

構成・設計(人文・社会・工・農・医)

政府、企業、病院、文化、公共サービス

行動の同化(社会技術)

(構成による漸次的進化のループ)

Page 8: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

 現代の科学

8

入力に対応する出力

科学論文

質問-答え(教育学)刺激-反応(心理学)場-現象(物理学)伝達関数(工学)

個別課題の入出力関係による対象の同定

構成型科学者

 行動者

観察型科学者

(社会)、自然

計画された入力

物質科学:物質現象の観察精神科学:精神現象の観察社会科学:社会現象の観察

観察:

対象(自然、社会)の普遍的性質の解明(法則)を主目的としていて、現在の状態にはあまり興味を持たなかった。その結果社会的期待の発見研究は行われなかった。

Page 9: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

 現代の工学

行動者

構成型科学者

観察型科学者

社会、自然

行動の根拠情報

科学論文

知識使用の基礎研究構成研究設計プロトタイプ工学分析標準試験

9

領域ごとに構成の方法を経験的に積み重ねることに終始し、一般的方法を求めることに成功していない。

Page 10: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

 科学的根拠に基づく行動者の行動

行動者

構成型科学者

観察型科学者

社会、自然

行動の根拠情報 助言(根拠情報)を選択した専門家の行動

専門家:政治家、政策立案者、      行政者、事業家、      技術者、教育者、      作家、芸術制作家、      報道者、など

個別行動

10

助言が届かない、届いても耳を貸さない、聞いてもその選択が恣意的であるなど、関係が不確定である。

Page 11: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

 社会技術(社会における行動と同化)

行動者

構成型科学者

観察型科学者

社会、自然

個別の行動・効果

社会、自然の行動受容による変化

この推移は社会科学の研究対象の一つであり、その推移を構成(デザイン)するのが社会技術である。

11

Page 12: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

ループ流の不完全性

入力に対応する出力

科学論文

質問-答え(教育学)刺激-反応(心理学)場-現象(物理学)伝達関数(工学)

観察:入出力関係による     対象の同定

構成型科学者

観察型科学者

計画された入力

物質科学:物質現象の観察精神科学:精神現象の観察社会科学:社会現象の観察

行動者知識使用の研究構成研究設計プロトタイプ工学分析標準試験 社会、自然

行動の根拠情報

助言(根拠情報)を選択した専門家の行動  専門家:政治家、政策立案者、行政者、事業家、        技術者、教育者、作家、芸術制作家、        報道者、など

個別行動

社会、自然の行動受容による変化

行動間の関係性不問

変化の全体性の視点欠如

研究課題選択の恣意性

連携の不十分性

方法の未成熟

交流の不足 社会の顕在要求への過度の従属

現実状態に関する関心の希薄

12

Page 13: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

ループ流の加速加速のために社会的要請の明示と研究協力が必要であるが、両者の理解が不十分で

ある。

科学論文

構成型科学者

観察型科学者

行動者

社会、自然

行動の根拠情報

個別行動

社会、自然の行動受容による変化

行動間の関係性不問

変化の全体性の視点欠如

研究課題選択の恣意性

連携の不十分性

方法の未成熟

交流の不足 社会の顕在要求への過度の従属

1.社会的要請

2.研究者の協力

現実状態に関する関心の希薄

13

Page 14: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

伝統的な基礎研究における研究動機(領域内知的好奇心)

内在因(研究者個人)

“ 知的好奇心”新しい存在、現象の発見存在・現象関係の新理論創出領域内理論の不整合解決-----

外在因(社会の要請、学界の関心)

学界(学問領域)の問題解決

知識の均衡(矛盾除去)

自己の概念体系の矛盾除去領域結合理論知識の可逆性-----

公知の課題私秘的な課題 -----

社会の均衡(矛盾除去)持続性と繁栄の両立文化の共存不平等の除去 -----

全体的(超領域)

個別的(領域内)

14研究の自治:課題選択の自由

Page 15: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

持続性時代の研究動機(超領域的な社会の要請)

内在因(研究者個人)

“ 知的好奇心”新しい存在、現象の発見存在・現象関係の新理論創出領域内理論の不整合解決-----

外在因(社会の要請、学界の関心)

学会(学問領域)の関心

知識の均衡(矛盾除去)

自己の概念体系の矛盾除去領域結合理論知識の可逆性-----

公知の課題私秘的な課題 -----

社会の均衡(矛盾除去)持続性と繁栄の両立文化の共存不平等の除去 -----

全体的(超領域)

個別的(領域内 )

15研究の自治:?

Page 16: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

基礎研究と応用とが調和する伝統的パラダイム

知的好奇心に基づいて自ら主体的に定めた学問的課題に基づく研究

応用可能な科学的知識を使用して社会の繁栄を実現する研究

科学の状況と社会からの要請との観点から重要領域であると政策的に定められた特定の科学領域、技術領域の課題に基づく研究

目的研究目的基礎研究基礎研究

社会の繁栄定められた領域の発展とその応用可能性の拡大

科学の進歩

(自由度大)

研究課題選択の自由は研究の自治の主要項目であり( ICSU)、それを保証される研究が基礎研究である。そこでは課題が研究者自身の判断によって選択されるから、社会から見れば恣意的である。しかしこの(科学者の)恣意性こそ、科学が社会の利害と独立に、すべての人に平等な価値をもつものとして進歩し得た中心的な根拠であった。そして得られた知識が社会に利用されてゆく。そこに、知識創出と知識使用との伝統的な調和があった。

16

Page 17: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

伝統的パラダイムの危機社会から科学への要請

持続性時代では、社会からの要請が大きくなり、目的が定められた政策主導の研究が主流になり、研究の自由が狭められてしまうのであろうか。その結果科学者の自由(恣意性)を根拠とする科学の中立性が失われていくのであろうか。 それを阻止する責任が科学者にある。そのための方法を考える。

政策により指定された社会的要請を充足するために必要である特定の科学領域、技術領域の課題に基づく研究

政策的に定められた社会的期待を充足する製品やシステムなどを実現するため研究

目的研究(社会的要請〈グリーン、ライフなど〉にこたえる研究)

目的基礎研究(社会的要請に対応する領域研究)

知的好奇心に基づいて自ら主体的に定めた課題に基づく研究

基礎研究(社会の要請とは独立に行われる研究)

政策化された社会的要請の実現

政策により重点化された領域の拡大科学の進歩

(自由度大)

調和の喪失

17

Page 18: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

18

 循環の第一条件:社会的期待の科学者による発見

 

構成型研究 T

進化の構造のうえでの情報・行動の循環の繰り返しにより、気候変動抑制に立ち向かう世界の協調的行動が成立しつつある。

知識提供・勧告

評価・警告

現象

行動

観察型研究  S

UNFCC(1992)排出権取引 (2002)低炭素技術、再生エネルギー省資源・省エネルギ―技術

J.Fourier(1827)

IPCC(1988)

Researchers(1950~ )   Manabe, Hansen,              Houghton,   Watson, -----

IPCC AR4 (2007)

Stern Review(2006)

各国政府・製造業・サービス・交通・家庭京都プロトコル (1997) -COP15( 2009)新産業・省エネルギー・国際技術協力

                            持続性の劣化

(地球温暖化)社会的期待 W

行動者  A

Page 19: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

社会的期待

構成型科学者

観察型科学者

社会、自然

行動者Actors*

概念的に作ったループ構造は静的表現にすぎない。これが持続性へ向かう進化を実現するためには、このループ上に物質及び情報の有効な動的流れが実現されなければならない。このループの中で、研究開発を進める主役は科学者と行動者である。しかし持続性の鍵となるのは“社会・自然”である。なぜならその変化こそ持続性を決めるものだから。ところが、私たちはこの部分についての知識を十分に持っていない。そこで、持続性に向かって社会・自然が重心移動を起こす要因を抽出することによってループの動的流れについての理解をさらに進めることが必要である。この作業においては、すでに社会において人々が求めている顕在的課題だけでなく、まだ指摘されていない課題も抽出しなければならない。それをここで“社会的期待( social wish)”と呼ぶ。

社会的期待が科学者の全体観察によって把握されるために必要なものは何か?

潜在的な社会的期待

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Page 20: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

HY 20

持続的進化のための科学者と専門家の役割《局所的対話と大局的循環》

構成型科学者

 専門家知識提供(科学的助言技術的助言)

評価(個々の行動の全体への影響)

現象・社会的期待(行動者の行動結果として生じる現象、それと関係する社会的期待)

観察型科学者

社会、地球環境

行動(専門知識に裏付けられた行動)

医師教育者報道者作家芸術家技術者 経営者管理者政治家 政策立案者行政者司法官等

社会の中の行動者 (専門家)

対等な対話を通じた協力(広義の研究者)

要望行動規範作成の要望

提案分析対象の提案

被災者の期待

Page 21: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

科学と社会の関係の変化基礎研究への社会的要請

 科学者が、自治を持つコミュニテイの中で知的好奇心に駆動されて研究を行うことが科学研究である、とされてきた科学の長い歴史は、科学的知識が文化的資産であるとともに、人類が生き残り、繁栄を獲得する上で有効に使用された事実によって、知的好奇心に基づく科学研究が人類にとって貴重な、中立的・客観的知識を獲得するための基本的条件であることを、立証している。事実、科学者の自由な研究によって生み出されて知識は体系化され、それによって知識生産の効率は上がり、人類は多くの貴重な知識を蓄えるに至った。そして、その知識は社会にとって有用なものであることも明らかとなり、好奇心に基づく研究を基礎研究として社会が容認することとなった。そこには、社会から独立の科学者による研究推進と、その成果による社会の繁栄という調和的な状況が存在した。 しかし現在、環境や国際関係などの、新しく生起しつつある困難な課題を解決して人類が生き残るための知識が緊急に求められるようになった。これは必要な科学的知識を許された時間内に得ることが必要とされる状況に人類がおかれたことを意味し、科学者の社会からの独立した研究と、研究成果の社会による独立の使用という調和が崩れる危険が生じてきたと言わざるを得ない。それは社会・自然の問題が、科学者の知的好奇心に先行するという状態である。 社会が未経験の問題を解決するために知識を使うとき、すでに存在する知識を必要とするだけでなく、まだ存在していない科学知識をも必要とすることになり、それは基礎研究で獲得するしかない。その結果として基礎研究が知的好奇心という内在因を動機とする研究から、社会的要請という外在因を動機とする研究へと重心移動するという変化が起こる。 まだ存在していない知識を求めるということの原因は、生き残るために必要な知識を人々が望んだとしても、その前提として生き残るとはどのような課題群を解決することなのかについて、抽象的であいまいな理解しかないという状況に我々がおかれていることにある。課題が明確に把握されていない以上、求められる知識が既存の知識の組み合わせだけでなく、新しい基礎的知識である可能性が大きい。したがってそれを基礎研究によって見出すことが持続性時代といわれる現代の大きな課題であり、科学研究の中枢である基礎研究に影響を与えることになる。

Page 22: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

社会科学者主導の社会的期待発見研究

22

  このループに見られるように観察型科学者が観察するべきものは、社会及び自然環境の変化であるが、自然環境の変化も人の行動の結果として起こる変化が主題である。したがって、社会的期待の発見研究の主な課題は人類の社会的行動によって何が起こったかを全体観察によって同定するという研究である。その意味で、この研究の主役は社会科学研究者でなければならない。

  しかし、行動の結果としての変化には、人や社会の変化だけでなく自然の物理的変化もある。しかも、その対応、適応、緩和などには、自然科学を基礎とする技術の適用を必要とする場合が多い。したがって、自然科学系の研究者の協力は不可欠であろう。

したがって社会的期待発見研究は社会科学系研究者が主導し、自然科学系研究者がそのもとで研究を行う研究も必要となる。自然科学系研究者の発見を社会科学系研究者が解決する場合もあるから、協力は交差する。さらに、ループの循環のために、同系研究者の間の異なる分野の研究の協力も必要である。

このように、社会科学者をも含む領域を超えた協力が必要である。(その中で工学者は何をするのかを考える。)

Page 23: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

科学に課題解決が求められる時の基礎研究科学者自身による課題の発見

研究者の内在的、すなわち自発的な動機で研究を行うのが基礎研究の条件であるとすればこれは基礎研究とはいえないが、仮に与えられた課題でも、研究者が自らの動機といえるほどに咀嚼したうえで選択すれば、基礎研究だと言えるかもしれない。しかしこの咀嚼は、主観的であり、異なる判断がありえて、一般的に定義することはできない。

この条件を主観的でなく、外形的にも保証するためには、別の条件が必要である。自己の領域における内在的な動機に基づく研究課題は、外部から見れば恣意的であったとしてもその選択は許される。なぜなら、人々は領域の専門性における研究者の判断を信頼するからである。しかしながら、社会の問題など、その研究者の専門以外の言葉で書かれた課題は、それを選択した動機を外部に対しても説明可能でなければならない。

この場合説明可能には次の二つが考えられる、第一に課題の必然性が科学的に確認されていることである。科学的確認は、課題が外在的である場合にはその正当性を科学的に証拠立て、ロバストなものにする必要がある(たとえばエビデンスに基づく政策提案)。そして第二に、科学者自身が社会的課題を発見する場合がある。そこで課題を科学的研究を通じて発見する研究を一つの研究分野とする。この場合、課題解決型イノベーションにおいて課題とイノベーションとに等しい重要性を置いて研究することになる。

Page 24: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

研究課題の科学的設定と研究自治の維持研究課題正当化と研究自治維持の同時実現

 これは“課題の科学”が必要であることを意味している。すなわち、課題解決型研究においては研究の実施のみならず、課題の選定も科学的行為でなければならないということである。

 実はこのことは、外在因による科学研究の増大によって起きうる伝統的な科学研究の自治の危機の解決の可能性を示唆している。言い換えれば、課題解決型研究が持つ二つの問題、すなわち社会が発する課題の恣意性による誤った課題設定の可能性と、研究動機が外在化することによって基礎研究の伝統が失われる危険とを、社会的期待を充足するための課題を科学的に導出することで同時に解決する可能性があるということである。

 たとえば現在科学技術基本計画などでいわれてる課題解決型イノベーションにおける課題とは、社会的に生起している困難(地球環境劣化、貧困、文明衝突など)あるいは社会的な願望(平等、安心生活、疾病追放、経済的繁栄など)であり、科学的イノベーションなしには達成が容易でない課題を意味している。

まず社会的期待を明確にするとともに、それを満たすための研究課題とは何かについての社会と科学者の間の合意が必要となる。それは課題の恣意性を排除することである。

上記の困難や願望は、いずれも解決が期待されているものであるから、まとめて社会的期待( social wish)と呼ぶ。社会的期待は、個人や特定の集団に固有のものではなく、広く世界において共有される期待であるとする。

このような社会的期待が存在し、その解決に必要な知識が科学に求められるなら、科学はそれにこたえる責任がある。その時次のことが必要条件である。

Page 25: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

 社会的期待の水準

1) 前提・与件(調査・分析:対象とする課題に関係するが、政策によっては変えられない条件である)2) 顕在する社会的期待(調査による発見:文献、委託調査、外国調査など) 3) 潜在する社会的期待(観察・分析的研究による発見、仮説と分析:観察型科学者 *の主体的研究) 

 社会的期待には多くの水準があり、その区別を明示しておくことがのちの課題設定において重要となる。 第一は、期待という表現からは若干はずれるが、最も重要なものとして、与件がある。これは動かしがたい条件で、どんな研究課題を作るにしても無視できないものである。たとえば、我が国の場合、与えられた地理条件、気象条件がある。また人口減も条件である。その他、国際関係などもある。何を与件とするかは判断によって変わる部分があるが、それを明示しておくことが必要である。この与件のもとで行動すること、それは基本的な期待である。 第二はすでに社会で明示されているものである。現在では、科学技術基本計画で述べられているような、環境持続、人々の健康・豊かさの向上、日本の独自文化の維持、世界の持続性への貢献などがある。 一方、社会において必ずしも明示的に示されていない期待があり、それを第三の水準とする。この発見は、観察型科学者によって行われることが期待され、この潜在する社会的期待の発見研究はおそらく今後最も重要な課題になると思われる。 これらは以下の三つの水準にまとめられる。

* 観察型科学者の観察対象 人:人文科学、心理学、医学 --- ; 社会:社会科学; 自然:自然科学

Page 26: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

持続性時代における基礎研究のパラダイム

社会的期待の発見研究によって課題を創出し、それに基づく研究

発見された社会的期待実現に必要な科学領域、技術領域などを戦略的に進歩させるための課題に基づく研究

目的基礎研究持続性時代の基礎研究

発見された社会的期待を実現するシステム・製品などの開発研究

開発研究

社会的期待の実現

その領域の応用可能性の拡大

科学の進歩

(自由度大)

持続性時代においては、研究動機が外在因となり、しかも全体的であるから、「課題が与えられた共同研究」の形式となり、現在の分類では自由度の低い研究であるように見える。しかし、社会的期待の発見により課題を自ら定め、ネットワークオブエクセレンスを主体的に構成することにより、それは自由度の高い研究として、中立的知識を生み出す基礎研究となる。これが持続性時代の基礎研究である。

一体化による調和

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Page 27: 吉川弘之:緊急に必要な科学者の助言(後編)

Social Wishes to Accelerate Circulation

Observation: (1) State of society and nature (abnormalities and unfavorable changes) (2) Panoramic observation of changes in society and nature.

Some researchers(observing scientists) have been interested not only in properties Some researchers(observing scientists) have been interested not only in properties of objects in the nature and society (so-called truth), but also in changes of nature of objects in the nature and society (so-called truth), but also in changes of nature and society to evaluate the progress/deterioration of sustainability of the earth. and society to evaluate the progress/deterioration of sustainability of the earth. These researchers should be increased in the era of sustainability.These researchers should be increased in the era of sustainability.

Designing Scientists

  Actors

Observing Scientists

Society, Nature

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GENERAL(MACRO) SOCIAL WISHES to be elaborated scientifically

Worsening of environment,Increase of dangerLoss of equality,Social pressure on people, Unfavorable changes of human values, etc

Wishes to stop changes diverting from sustainability such as

Wishes to progress changes toward sustainability such as

Concurrent growth of prosperity and sustainability,Improvement of freedom and diversity,Higher safety,Cooperation among people,Favorable changes of human values, etc

Elaborated social wish

Actions based on social wish