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徘徊高齢者捜索のための BLEビーコンの電波強度分布を用いた 位置推定手法 白松俊 1 , 山野太靖 1 , 岩田彰 1 , 永井明彦 2,1 , クグレマウリシオ 1 1 名古屋工業大学, 2 筑波大学 2016-02-27 4回高齢社会デザイン研究会 (SIG-ASD), 東大本郷キャンパス

徘徊高齢者捜索のためのBLEビーコンの電波強度分布を用いた位置推定手法

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Page 1: 徘徊高齢者捜索のためのBLEビーコンの電波強度分布を用いた位置推定手法

徘徊高齢者捜索のための BLEビーコンの電波強度分布を用いた 位置推定手法

白松俊1, 山野太靖1, 岩田彰1, 永井明彦2,1, クグレマウリシオ1

1名古屋工業大学, 2筑波大学

2016-02-27 第4回高齢社会デザイン研究会 (SIG-ASD), 東大本郷キャンパス

Page 2: 徘徊高齢者捜索のためのBLEビーコンの電波強度分布を用いた位置推定手法

Outline 1. はじめに

– 背景と目的 – 扱う課題とアプローチ,問題の単純化

2. 提案手法とベースライン手法 – 多地点計測結果の確率的統合と幾何的統合

3. 評価実験と考察

4. おわりに

Page 3: 徘徊高齢者捜索のためのBLEビーコンの電波強度分布を用いた位置推定手法

はじめに: 背景と目的 • 背景: 高齢化による認知症高齢者の増加

– 2025年には国内高齢者の5人に1人,700万人が認知症 – 徘徊高齢者の踏切死亡事故で賠償請求,社会問題化

• 徘徊行動を見守るためのアプリ「さがし愛ネット」[永井 16] – 徘徊高齢者にBLE(Bluetooth Low Enegy)ビーコンを持たせ, スマートフォンを所持した捜索者が探す

• BLEはGPSよりも小型で消費電力が少なく,電池1つで約1年動作 – 詳細な位置推定はせずビーコンを検出したことのみを通知

• 面識のないボランティアによる捜索時は声掛けの対象が絞れない

• 目的: 声掛けの手がかりとなる位置推定精度の実現

[永井 16] 永井, クグレ, 岩田: BLE発信機とスマートフォンを用いた高齢者見守り機構の開発. 研究報告高齢社会デザイン(ASD), 2016-ASD-4(1), 2016.

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BLEセンサー (徘徊高齢者)

課題: 発信機/受信機1台ずつで 電波強度の変動にどう対処するか

• 捜索者は1台のスマートフォンで電波強度RSSI値を測定し, 1台のBLEビーコンを持った徘徊高齢者の位置を推定 – スマートフォンの位置をGPSで測位し,相対的に位置推定 – 基本的には,距離が近いほどRSSI値が大きくはなるが…

• 課題: RSSI値の変動の大きさ – 一般的には, 複数のビーコン/受信機を用いて対処 [Jie 11] – 1台ずつしかない状況でRSSI値の変動にどう対処するか?

スマートフォンの 移動方向(捜索者)

[Jie 11] Jie et al.: “A new algorithm of mobile node localization based on RSSI”, Wireless Engineering and Technology, 2011.

(1回の計測では距離推定を誤る)

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電波強度変動へのアプローチ

1. 捜索者の移動につれて一定時間毎にRSSI値とGPS位置情報を計測 計測地点を増やす

2. 多地点計測結果を確率的に統合して位置推定 – あらかじめ電波強度分布の推定が必要

多地点計測結果を確率的に統合

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問題の単純化のための仮定

• 仮定1: 徘徊高齢者は移動せず止まっている – 本来は移動を考慮する必要あり

• 仮定2: 事前に電波強度分布を計測した環境と 徘徊高齢者のいる環境に差異が無い理想的な状況 – 本来は,周囲の環境が電波強度分布に及ぼす影響を 考慮する必要あり

測位技術の予備的検討の段階にあるため, まずは下記の仮定を置いて問題を単純化

Page 7: 徘徊高齢者捜索のためのBLEビーコンの電波強度分布を用いた位置推定手法

Outline 1. はじめに

– 背景と目的 – 扱う課題とアプローチ,問題の単純化

2. 提案手法とベースライン手法 – 多地点計測結果の確率的統合と幾何的統合

3. 評価実験と考察

4. おわりに

Page 8: 徘徊高齢者捜索のためのBLEビーコンの電波強度分布を用いた位置推定手法

捜索者の移動につれた多地点計測

• 一定時間⊿t [ms]毎に計測 – 時刻0[ms]から,現在時刻m⊿t [ms] まで計測

• 計測地点: [qi] i=0,…,m • 観測されたRSSI値: [ri] i=0,…,m BLEビーコン

(徘徊高齢者)

q0 q1 q2 q3 qm

r0 r1 r2

r3 rm

(捜索者の 現在位置)

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多地点計測結果の統合手法 • 提案手法: 確率的な統合

– 格子状のグリッドgjを設定 – 観測値[ri] i=0,…,mのときのgjの存在確率

• ベースライン手法: 円の交点群の重心

– 各測定地点qiを中心とする円の交点群の 重心を推定地点とする

– qiを中心とする円の半径は,RSSI値ri に対応する距離の平均

∑∏

=

== =

j

m

iiji

m

iiji

miij

rgqdp

rgqdprgp

0

0,...,0

)|),((

)|),(()][|(

d(qi, gj): 測定地点qi とグリッドgj 間の距離 p(d | r): RSSI観測値rのとき距離dである確率

事前に確率分布を計測

∑d

i drdp )|(

Page 10: 徘徊高齢者捜索のためのBLEビーコンの電波強度分布を用いた位置推定手法

事前の電波強度分布の測定

• p(d | r) の分布を測定しておく必要あり

• 距離d ごとにRSSI値r の観測頻度 freq(r,d) を計測 – 平滑化(smoothing)の必要性: 「ゼロ頻度問題」など

• 数時間程度の計測では,充分に大きな測定回数に達しない

[Jie et al. 2011] Jie, Zhan, Liu Hongli, and Huang Bowei. "A new algorithm of mobile node localization based on RSSI." Wireless Engineering and Technology 2011.

∑=

ddr

drrdp),freq(

),freq()|(

Page 11: 徘徊高齢者捜索のためのBLEビーコンの電波強度分布を用いた位置推定手法

分布の平滑化 • 平滑化1: 何らかの関数による近似

– 先行研究では,対数正規分布が使われる – ただし,混合分布にしないと充分にフィットしない

• 地面からの反射波の影響で,ピークが複数生じる • 混合数 (ピークの数) をどう推定するか?

• 平滑化2: 近傍観測値との差異を縮める – 近傍RSSI値の頻度を重み α で足し,測定回数を水増し

• 平滑化3: ラプラス平滑化 – ゼロ頻度問題を避けるため,頻度に1を足す

( )( )[ ]∑ +++−+

+++−+=

ddrdrdr

drdrdrrdp1),1freq(),1freq(),freq(

1),1freq(),1freq(),freq()|(α

α

( p(d | r) の観測値が存在しない場合は最近傍の値を用いる)

Page 12: 徘徊高齢者捜索のためのBLEビーコンの電波強度分布を用いた位置推定手法

Outline 1. はじめに

– 背景と目的 – 扱う課題とアプローチ,問題の単純化

2. 提案手法とベースライン手法 – 多地点計測結果の確率的統合と幾何的統合

3. 評価実験と考察

4. おわりに

Page 13: 徘徊高齢者捜索のためのBLEビーコンの電波強度分布を用いた位置推定手法

評価実験の手順 データ計測地: 名古屋工業大学グラウンド BLE: ホシデンHRM1017,出力1[mW] 1. p(d | r) の分布の計測

– d=2,4,6,…,50[m]についてfreq(r,d)を計測 – 平滑化した p(d | r) の分布を求めておく

2. BLEを固定し,スマホを所持した捜索者が 直線ルートを歩いて計測

– 1000[ms]毎にRSSI値とGPS位置情報を計測 – 全長40[m]のルートを複数

3. 提案手法とベースライン手法の測位誤差を比較 – 提案手法: 計測しておいたp(d | r)の分布を用いる – ベースライン手法: r毎のdの平均 を用いて

円の交点群の重心を求める ∑

ddrdp )|(

Page 14: 徘徊高齢者捜索のためのBLEビーコンの電波強度分布を用いた位置推定手法

データ計測(1): p(d | r)の分布の測定 • 「見守袋」に入れ,木に固定 (地上1m) • RSSI値の観測頻度freq(r,d) を計測

– 2m~50mまで,2m刻みで100回ずつ計測

BLE ビーコン

2m~50m まで計測

スマホ

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確 率

p(d|r)

平滑化した確率分布

( )( )[ ]∑ +++−+

+++−+=

ddrdrdr

drdrdrrdp1),1freq(),1freq(),freq(

1),1freq(),1freq(),freq()|(α

α

近傍観測値との差異低減, α = 0.5 ラプラス 平滑化

• 複数のピークを確認.おそらく地面からの反射波の影響

(こうはならない)

Page 16: 徘徊高齢者捜索のためのBLEビーコンの電波強度分布を用いた位置推定手法

評価実験の手順 (再掲) データ計測地: 名古屋工業大学グラウンド BLE: ホシデンHRM1017,出力1[mW] 1. p(d | r) の分布の計測

– d=2,4,6,…,50[m]についてfreq(r,d)を計測 – 平滑化した p(d | r) の分布を求めておく

2. BLEを固定し,スマホを所持した捜索者が 直線ルートを歩いて計測

– 1000[ms]毎にRSSI値とGPS位置情報を計測 – 全長40[m]のルートを複数

3. 提案手法とベースライン手法の測位誤差を比較 – 提案手法: 計測しておいたp(d | r)の分布を用いる – ベースライン手法: r毎のdの平均 を用いて

円の交点群の重心を求める ∑

ddrdp )|(

Page 17: 徘徊高齢者捜索のためのBLEビーコンの電波強度分布を用いた位置推定手法

データ計測(2): 測位のための計測 • 「見守袋」に入れ,木に固定 (地上1m) • 2つの歩行ルートA, Bを用意してデータ計測

– A,Bの違い: 最接近距離 (A: 5m, B: 20) – A,B共通: 秒速1m (時速3.6km)

30m後方から接近し,追い越して10m前方まで • A, Bそれぞれ5回ずつ計測

BLE ビーコン

30m

10m 20m

5m

A B

Page 18: 徘徊高齢者捜索のためのBLEビーコンの電波強度分布を用いた位置推定手法

評価実験の手順 (再掲) データ計測地: 名古屋工業大学グラウンド BLE: ホシデンHRM1017,出力1[mW] 1. p(d | r) の分布の計測

– d=2,4,6,…,50[m]についてfreq(r,d)を計測 – 平滑化した p(d | r) の分布を求めておく

2. BLEを固定し,スマホを所持した捜索者が 直線ルートを歩いて計測

– 1000[ms]毎にRSSI値とGPS位置情報を計測 – 全長40[m]のルートを複数

3. 提案手法とベースライン手法の測位誤差を比較 – 提案手法: 計測しておいたp(d | r)の分布を用いる – ベースライン手法: r毎のdの平均 を用いて

円の交点群の重心を求める ∑

ddrdp )|(

Page 19: 徘徊高齢者捜索のためのBLEビーコンの電波強度分布を用いた位置推定手法

測位誤差の定義 提案手法 • 存在確率p(gj)が高い上位n件のグリッド位置に

BLEビーコンがあると推定 • p(gj)の上位n 件を使った場合の測位誤差を

とする. – ただし,

ベースライン手法 • 捜索者の進行方向右/左側の交点群重心のうち 近い方の重心からの測位誤差

),(min blegd kranknk =≤

ビーコンの位置は真の位のグリッド,は BLEblekg krank=

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測位誤差 (試行5回の平均)

10m 20m 30m(最接近時) 40m(通過)

上位2グリッド(0.5m2) 32.58m 32.13m 15.26m 8.07m

上位10グリッド(2.5m2) 29.78m 29.78m 14.28m 6.21m

上位20グリッド(5m2) 29.17m 25.29m 12.41m 5.79m

ベースライン手法 (交点群の重心)

21.20m 17.74m 14.18m 11.47m

10m 20m 30m(最接近時) 40m(通過)

上位2グリッド(0.5m2) 18.36m 28.21m 18.35m 13.91m

上位10グリッド(2.5m2) 14.55m 24.27m 12.38m 10.32m

上位20グリッド(5m2) 13.15m 21.01m 7.76m 7.93m

ベースライン手法 (交点群の重心)

32.86m 28.30m 25.65m 23.72m

ルートA(最接近時の距離5m)を歩行した時の推定誤差

ルートB(最接近時の距離20m)を歩行した時の推定誤差

BLE ビーコン

A B

Page 21: 徘徊高齢者捜索のためのBLEビーコンの電波強度分布を用いた位置推定手法

考察: 声掛けの手がかりに 充分な測位精度と言えるのか

• 追い越した後に5~10m程度の測位誤差 最接近時に7~12m程度の測位誤差 – 視界に同時に入る程度 声掛けの手がかりになり得ると示唆

• 状況依存性 – その場に何人の高齢者がどの程度の密度でいるか?

• 捜索者の進行方向の両側に等確率のグリッドが現れる – どちらか片側に絞り込む手法が必要

• 問題単純化のための仮定の影響 – 仮定1の影響: 本来は,徘徊高齢者の移動も考慮すべき

• 時間窓やパーティクルフィルタ等で対処 – 仮定2の影響: 電波強度分布を測定した環境との差異によって

測位誤差が悪化する可能性 • 多様な環境で電波強度分布を計測し,類似環境を推定して使う

Page 22: 徘徊高齢者捜索のためのBLEビーコンの電波強度分布を用いた位置推定手法

今後の発展: マップ上での可視化 • BLEセンサー(徘徊高齢者)が存在する可能性 の高いグリッドをヒートマップ的に可視化 – 「さがし愛ネット」アプリへの統合を目指す

徘徊 高齢者

現在地

(モックアップ画面)

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おわりに • 目的: 徘徊高齢者の捜索の際,面識のないボランティアでも声掛けの手がかりとなる測位精度の実現

• 課題: RSSI値の変動の大きさに – 発信機/受信機が1つずつという制約

• アプローチ – 捜索者の移動につれ,一定時間ごとに多地点で計測 – 多地点計測結果を確率的に統合

• 評価実験 – 追い越し後5.79mの誤差,声掛けの手がかりとなり得ると示唆 – ただし,仮定による単純化の影響も

• 今後の課題 – 徘徊高齢者の移動や,電波強度分布の計測環境との差異を考慮 – 捜索者の進行方向の片側への絞り込み – ヒートマップ的な可視化の実装