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卵巣顆粒膜細胞腫の1例

名古屋大学放射線科久保田誠司, 長縄 慎二, 深津  博, 石垣 武男

【症 例】

43歳,女性。

【現病歴】

ここ2年ほどは月経が2回/年ほどになっていた。月経が20日ほど持続し下腹部痛を伴ったため近医

受診しホルモン療法を受けた。他院で施行されたCT,MRI等検査の結果,骨盤内腫瘤を指摘され開腹

手術を勧められたが腹腔鏡による手術を強く望みセカンドオピニオンを求めて名大病院を受診した。

腫瘍マーカーはAFP 3,CEA 3.4,CA 19-9 34,CA 125 7.0,SCC 0.5,CA 72-4 2.0とすべて陰性であった。

【画像所見】

MRIでは境界明瞭,辺縁平滑な腫瘤を骨盤腔内左側に認めた。T2強調像では骨格筋より軽度高信号,

一部 胞様構造を含み,T1強調像では低信号を呈していた(図1,2)。拡散強調像では著明な高信号

を呈し,ADC値は0.78×10-3mm3/secと極めて低値であった(図3,4)。造影MRIでは 胞様構造以

外はほぼ均一な増強効果をもつ充実成分主体の腫瘤であった(図5)。CTでは石灰化は認められなか

った。

【最終診断】

左卵巣顆粒膜細胞腫(成人型)(図6)

【手術所見】

月経血の逆流で血性腹水を認めたが,大きな癒着はなかった。左卵巣が6 cm大に腫大,子宮,右卵

巣は正常大であった。ゲフリールで境界悪性(顆粒膜細胞腫)であったため,右付属器と子宮を摘出,

大網を部分切除した。

【病理所見】

腫瘍細胞はN/C比が高く,核溝を持つ細胞からなり,胞巣状,島状,索状に配列して蜜に増生して

いた。腫瘍細胞からなる胞巣には微小濾胞様構造を呈するCall-Exner小体が観察された(図7)。大網

にN/C比の高い濃いクロマチンを持つ細胞の集塊を認めた。核溝もみられ顆粒膜細胞腫の顕微鏡的播

種と考えられた。

【臨床経過】

術直前のE2は77.1(基準値10-210),術後9.9以下に低下した。

【コメント】

顆粒膜細胞腫は卵巣腫瘍の約2%とまれである。どの年齢でもみられるがピークは50~55歳。境界

悪性腫瘍に分類される性索間質性腫瘍であり成人型(95%)と若年型に分類される。多房性から充実

性まで組織型は多彩だが充実性腫瘍内に 胞を含むことが多い。多血性であり 胞内出血を伴うこと

が多い。エストロゲン産生腫瘍であり,子宮の明瞭な層構造や内膜肥厚を伴う。若年者では思春期早

発症,閉経後では不正性器出血で発症することがある。閉経前では不規則な過多月経を特徴とする出

血性メトロパチーを惹起するが,その前に何ヵ月も無月経を示すことがある。メカニズムは不明であ

る。

今回は術前に婦人科からの相談に対し,ADC値の低値と腹水の存在から悪性の可能性を否定できな

いとして開腹術を勧めた。結果として大網播種があり判断は正しかった。ただし,卵巣充実性腫瘍の

良悪性とADC値との関連については研究段階である。

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図1 MRIT2強調像

図3 MRIT2拡散強調像

図5 MRI造影T1強調像

図7病理組織像

図2 MRIT1強調像

図4 MRIT1拡散強調像

図6 摘出標本

aberrant right subclavian artery(右鎖骨下動脈起始異常)の1例

小牧市民病院放射線科新畑 昌滋, 小島 美保, 改井  修

【症 例】36歳,男性。

【主 訴】なし。

【現病歴】

当院健診の上部消化管造影で,食道に異常を指摘された。

【画像所見】

食道は大動脈弓のレベルで左下から右上に向かって斜めに圧排されている(図1)。胸部単純X線写

真正面像では明らかな異常は認められない(図2)。CTでは大動脈弓部遠位部から分岐して食道の背

部を走行する血管構造が認められる(図3)。

【最終診断】

aberrant right subclavian artery

【コメント】

aberrant right subclavian arteryは,0.5%ほどの頻度でみられる先天奇形である。多くは無症状で,食

道造影や血管造影,CTで偶然発見される。

右鎖骨下動脈が下行大動脈より分岐して食道の後部を通過するため,食道造影で右上に斜めの陰影

欠損を生ずる。

発生の過程で第1~6鰓弓の形成に伴い,各鰓弓の中にひとつずつ,全部で6対の大動脈弓を生ずる。

通常の場合,第1,2,5大動脈弓は消失し,右背側大動脈遠位部が消失すると,正常の右鎖骨下動脈

が形成される(図4)。

aberrant right subclavian arteryでは,右鎖骨下動脈の近位部になるはずの右第4大動脈弓が消失し,右

背側大動脈の遠位部が消失せずに残存する。その結果,右第7節間動脈(鎖骨下動脈の遠位部となる)

は残存した右の背側大動脈遠位部と連絡することより,右鎖骨下動脈が下行大動脈より分岐すること

になる(図5)。

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図1 食道造影 図2 胸部単純X線写真

図4 大動脈弓の発生

図5 右鎖骨下動脈起始異常

図3 造影CT

原発性大動脈腫瘍;血管内膜肉腫の1例

愛知県がんセンター中央病院放射線診断・IVR部西尾福英之, 山浦 秀和, 稲葉 吉隆, 林  孝行

佐藤 洋造, 嶋本  裕, 佐々木文雄

【症 例】38歳,男性。

【現病歴】37歳時に原因不明の胸部下行大動脈瘤切迫破裂で人工血管置換術を施行された。3ヵ月後のCTで人

工血管周囲,膵臓,両側腎,腰椎に多発する病変が出現したため当院紹介受診となった。【既往歴】37歳,胸部大動脈瘤切迫破裂。問診上,高血圧症,Marfan症候群の既往なし。

【検査所見】血算,生化,腫瘍マーカーに特記所見なし

【画像所見】左肺に術後変化と考えられる所見を認めた。明らかな占拠性病変は指摘できなかった。少量の胸水

を認めた(図1,下行大動脈人工血管置換術後造影CT)。3ヵ月後のCTでは人工血管周囲に3 cm大の低吸収値領域を認めた。また,胸椎,膵臓,腎臓にも同様の占拠性病変が指摘され,転移と考えられた(図2a~d,経過観察造影CT)。【経 過】当院の生検にて肉腫の診断がなされ,アドリアシンによる化学療法を施行したが,腫瘍は縮小しな

かった。同月内に,腫瘍からの持続出血に伴う呼吸不全により永眠された。【病理所見】肝,腎の病理像では,正常部との境界に,多型性の強い非上皮性の細胞からなり,多核巨細胞の浸

潤を伴った肉腫様病変を認めた。いずれも腫瘍内部には出血を伴う空洞形成も認めた。大動脈の病理像では,大動脈内腔に沿って腫瘍細胞の浸潤がみられ,さらに,大動脈外へも腫瘍細胞の進展がみられた(図3a~b)。【最終診断】原発性大動脈血管内膜肉腫

【コメント】剖検時,血管に富む脆弱な組織からなる腫瘍が,大動脈弓部周囲,左肺尖部より肺門部にかけて認

められ,置換された人工血管を取り巻くように存在していた。この腫瘍から胸腔内へ出血していた。腫瘍は,さらに左肺上葉へ浸潤し,かつ,胸壁に強く癒着していた。組織学的検索では,腫瘍は多型性の強い非上皮性の細胞からなり,多核巨細胞の浸潤を伴った肉腫

様病変を認めた。分化傾向は明らかではなかった。primary tumors of the aortaといわれるものは,極めてまれであるが,発生した場合,悪性像を示すことがほとんどである。画像診断技術が向上した現在にあっても,閉塞性もしくは動脈瘤性の動脈硬化性病変と診断される場合が多く,進行した病期で発見された場合その予後は著しく不良である。男性にやや多く,平均年齢は約60歳であり,好発部位は胸部下行大動脈が35%と最も多い。治療としては,外科的切除,放射線療法,化学療法がおこなわれている。【文 献】1)Thalheimer A, Fein M, Gessinger E, et al: Intimal angiosarcoma of the aorta: report of a case and review of

the literature. J Vasc Surg 40: 548-553, 2004.2)Weiss WM, Riles TS, Gouge TH, et al: Angiosarcoma at the site of a Dacron vascular prosthesis: a case

report and literature review. J Vasc Surg 14: 87-91, 1991.3)Seelig MH, Klingler PJ, Oldenburg WA, et al: Angiosarcoma of the aorta: report of a case and review of the

literature. J Vasc Surg 28: 732-737, 1998.

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図3b 病理組織ルーペ像

図3a 病理組織像

図1 造影CT像。下行大動脈人工血管置換術後

a b c d

図2 経過観察造影CT像

▲▲

大脳鎌小脳テント接合部髄膜腫(falcotentorial meningioma)の1例

岡崎市民病院放射線科渡辺 賢一, 小山 雅司, 石井美砂子

【症 例】64歳,女性。【主 訴】めまい。【現病歴】高血圧症,骨粗鬆症などで外来通院中。2ヵ月前にめまいで発症した。耳鳴や手足の運動障害,感覚障害はなかった。検査センターで頭部MRI, MRAを施行され脳幹部に腫瘤を指摘された。めまいはすぐに改善した。入院時は無症状であった。【検査所見】血液生化学検査では異常所見はみられなかった。【画像所見】

MRI(図1)では松果体部頭側に卵形の病変を認めた。病変はT1強調像では白質と同程度の信号強度を呈した。T2強調像では周囲脳実質より高信号,脳脊髄液より低信号であった。拡散強調像では比較的高信号を呈していた。T2強調像では中心部が低信号であった。造影剤投与により病変はほぼ均一に信号増強を受けた。病変は正中やや右寄りに存在し,周囲脳実質の浮腫はほとんどみられなかった。辺縁は平滑で脳実質との境界は明瞭であり,脳脊髄液のcleftも認められた。いわゆる dural tail sign ははっきりしなかった。松果体は尾側に圧排されていた。血管造影(図2)では腫瘍濃染像は描出されなかった。右内大脳静脈およびガレン静脈は外側下方

に偏位していた。脳底静脈や直静脈洞の閉塞は認められなかった。血管造影後にCT(図3)が行なわれた。病変は境界明瞭な卵形の病変として認められ,病変の辺縁

および中心部に石灰化を思わせる高吸収値領域が認められた。病変全体としても脳実質より高吸収値を呈していた。周囲脳実質の浮腫は指摘できなかった。右後頭部開頭により摘出術が施行された。腫瘍表面には腫瘍血管があり,一見海綿状血管腫様であったが,剥離を進めると髄膜腫様となった。病理ではmeningotheliomatous meningiomaと診断された。

【最終診断】大脳鎌小脳テント接合部髄膜腫(falcotentorial meningioma)【コメント】大脳鎌小脳テント接合部の髄膜腫はまれであり,髄膜腫の2%程度とされている。頭蓋内圧亢進に

よる頭痛などの症状,後頭葉の機能障害による視野視力障害で発症することが多い。CTやMRIでの所見は他の部位の髄膜腫と大きな違いはない。すなわち,CTでは脳実質とほぼ同様

からやや高吸収値を呈し,石灰化が認められることもある。MRIではT1強調像で周囲脳実質と同程度の信号強度で境界がはっきりしている。T2強調像では軽度の低信号からわずかな高信号を呈する。拡散強調像では高信号を呈する場合があることが知られている。いずれも造影剤投与により均一で強い増強効果を示す。隣接する硬膜の造影効果は様々である。血管造影では栄養動脈は内頸動脈からの inferior lateral trunkや髄膜下垂体枝,前脈絡動脈などである。外頸動脈では中硬膜動脈,後大脳動脈からは内・外側後脈絡動脈が栄養血管となる。腫瘍濃染がみられることもある。ガレン静脈や直静脈洞が閉塞することも多いので,治療に際してはこれら深部静脈への浸潤の程度とともに脳底静脈や錐体静脈を介する側副路を血管造影で評価することが重要である。栄養動脈は通常は細いので術前の塞栓術は困難なことが多い。

Osbornは松果体領域の占拠性病変の鑑別について,(1)胚細胞腫(胚芽腫,奇形種),(2)松果体腫瘍(松果体腫,松果体芽腫),(3)その他の腫瘍(松果体 胞,星細胞腫,髄膜腫,転移,血管奇形)を挙げている。さらに松果体周囲の病変については部位別に(1)松果体部(胚芽腫,奇形種,松果体腫, 胞),(2)中脳被蓋(キアリ奇形,星細胞腫,多発性硬化症,外傷),(3)硬膜,血管(蛇行血管,ガレン静脈,髄膜腫,硬膜下血腫),(4)第3脳室後部(星細胞腫,拡大した松果体上窩,脈絡叢乳頭腫),(5)脳槽(中髄帆,くも膜 胞,転移,髄膜炎,くも膜下出血),(6)脳実質(星細胞腫,血管奇形,梗塞,脱髄,転移)と分類している。本症例は髄膜腫としては典型的な画像所見を呈しているが,初回のMRIの所見からは実質内腫瘍と

して悪性リンパ腫を鑑別に挙げた。また,血管造影像,CTなどからは海綿状血管腫の可能性も考えた。【文 献】1)Quinones-Hinojosa A, Chang EF, McDermott MW, et al: Falcotentorial meningiomas: clinical, neuroimag-

ing, and surgical features in six patients. Neurosurg Focus 15; 14(6): e11, 20032)Asari S, Maeshiro T, Tomita S, et al: Meningiomas arising from the falcotentorial junction-Clinical features,

neuroimaging studies, and surgical treatment. J Neurosurg 82: 726-738, 19953)Osborn AG: Diagnostic neuroradiology. 1994, Mosby, St. Louis

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腫瘤の辺縁と中心部に石灰化が認められる。図3 CT

a)右総頸動脈造影動脈相側面像

b)同 静脈相 c)左椎骨動脈造影側面像

図2 血 管 造 影

e)T2強調矢状断像 f)造影T1強調矢状断像 g)同 冠状断像図1 MRI

a)T1強調像 b)T2強調像 c)拡散強調像 d)造影T1強調像

腸回転異常に合併した急性虫垂炎の1例

豊川市民病院放射線科荒川 利直, 黒  賢仁, 南光寿美礼

【症 例】10歳,男児。

【主 訴】腹痛

【現病歴】午前2時ごろ腹痛あり救急外来を受診した。右下腹部に圧痛を訴えた。WBC 11,000/μl,CRP 0.3 mg/dl,抗生剤を処方され一旦帰宅した。翌日腹痛が続くため小児科を再診した。【既往歴】0歳 臍帯ヘルニアにて手術。

【小児科再診時現症】体温37.8℃ 左下腹部に圧痛を認めた。

【血液データ】WBC 13,400/μl,CRP 9.7 mg/dlその他の生化学所見には異常なし。

【腹部単純X線写真正面像】腸管は全体に正中から左側よりに存在し,上行結腸ガスは右側腹部に同定されなかった(図1)。

【腹部造影CT】膵鈎部レベルで上腸間膜静脈(superiar mesenteric artery: SMA)が上腸間膜動脈(superiar mesenteric

vein: SMV)の左側に同定された(図2)。腸骨上縁レベルから尾側1 cm間隔のCTでは(図3~7),小腸は全体に右側に偏位していた。上行結腸は腹部正中を走行し,盲腸に入り込む回腸末端部が同定された。盲腸の尾側に連続して内部に石灰化を伴う17×6 mm大のソーセージ状 胞性病変が存在し,周囲には脂肪吸収値の上昇を伴っていた。【手術所見】腸回転異常を認め,結腸は全体に左側に存在していた。虫垂は全体に硬く腫大し,赤黒色を呈して

おり gangrenous appendicitisと診断された。糞石は同定されなかった。【最終診断】腸回転異常に合併した急性虫垂炎

【コメント】中腸は胎生期に270度回転して通常の位置に固定される。この回転,固定が正常に行われない病態

が腸回転異常とされる。中條らの分類によれば90。回転(nonrotation),180。回転(malrotation),腸逆回転症,十二指腸傍ヘルニアに大きく分けられる。腸回転異常自体は無症状であるが,以下の場合問題となる。1つは右側腹壁と上行結腸を結ぶ異常靭帯であるLadd靭帯により十二指腸が圧排される場合である。またmalrotationの場合,腸間膜の固定幅が狭くなることから捻転を生じやすく,中腸軸捻転症と呼ばれる。腸回転異常は10,000人に1人と非常にまれで,ほとんどは新生児期(80%)に十二指腸閉塞,中腸軸捻転による腸閉塞の症状を現して発見される。腸回転異常の成人報告例はまれで1980~1995年までで45例の報告がある。nonrotationが28例(62%)で最も多く,malrotationが14例(31%)。軸捻転,イレウスなど腸回転異常に起因した症状を呈したものが25例(55%),他疾患の精査中,術中に偶然みつかった症例が20例(44%)あり,そのうち3例が虫垂炎であった。腸回転異常の診断は,上部消化管造影では①Treiz靭帯の位置が低く(L1以下),正中線左側ではな

く脊椎右側に存在。②上部空腸の偏位。注腸造影では結腸像が正中より左側に存在。ただし新生児期では回盲部が固定されていないこともあり,正常な位置にあっても本症を否定する根拠にはならない。CTでは①十二指腸水平脚がSMAと大動脈との間に同定されず,十二指腸~小腸が右側腹~下腹部に,回盲部が左側に存在。②SMVがSMAの左側に存在(SMV rotation sign)がある。②に関しては必ずしも特異的な所見ではなく,少数の例外があり,正常であっても否定できない。以上より腸回転異常の確定診断には上部消化管造影が必須とされている。しかし,本症のようにCTのみでも診断可能な症例があること,腸回転異常は腹部手術の際,術式

に強く影響を与えることから,潜在的に存在すると思われる本疾患に十分留意し,腸管の位置異常の有無についても詳細に読影する必要があると思われる。【文 献】1)加藤憲治,櫻井洋至,松田信介,他:左下腹部痛で発症した腸回転異常を伴った急性虫垂炎の1例.日臨外医会誌 57:2494-2498,1996

2)高木康伸,橋本政幸,木下俊文,他:腸管無回転の2例.臨床画像 17:844-848,2001

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図1 腹部単純X線写真

図2 造影CT像 図3 造影CT像

図4 造影CT像 図5 造影CT像

図6 造影CT像 図7 造影CT像

mesenchymal hamartomaの1例

名古屋市立大学放射線科中川 基生, 大島 秀一, 芝本 雄太

同 中央放射線部原  眞咲

【症 例】生後10ヵ月,女児。【主 訴】腹部膨満。【現病歴】感冒のため近医受診したところ,腹部膨満を指摘された。超音波検査にて,肝腫瘤と 胞を指摘された。3日後,精査のため当院受診し,CTとMRIを施行した。【検査所見】生化学,血算:特記所見なしAFP:160 ng/ml(10ヵ月 正常≦20 ng/ml)

【画像所見】CT:肝右葉に内部に大小様々な水吸収値巣を伴う14×9×17cmの腫瘤性病変が認められた(図1A)。造影では軟部吸収値の部分は60 HUから90 HUへと比較的均一に増強され充実性と考えられた(図1B)。右肝静脈,中肝静脈,左肝静脈は良好に描出され,腫瘤との関連は認めなかった。門脈右枝の前区域枝と後区域枝は腫瘤により圧排され偏位していた。後区域枝は腫瘤の充実性部分に接していた。MRI:CT上で充実性の成分はT1強調画像では肝実質より低信号,T2強調像では肝実質より高信号

であった。 胞の部分はT1強調像にて低信号,脂肪抑制T2強調像にて高信号を呈した(図2 A-C)。Gd-DTPAにより充実性成分は均等によく造影された(図2 D)。以上の画像所見より,mesenchymal hamartomaを鑑別に挙げた。画像上は右葉切除が可能と判断した。

【手術所見】割面は比較的均一な暗赤色で正常肝組織とは明らかな境界を認めた。 胞内容液はリンパ液様の淡黄色漿液であった(図3)。後区域切除が可能であった。【病理所見】疎で浮腫性の結合組織内に肝細胞の成分と胆管様の構造が認められた。胆管様の成分はductal malformation様の所見を呈し,様々な大きさからなっていた。粘液蛋白の増加により拡張し空隙を形成していると考えられた。周囲の結合織は密であった。 胞壁は上皮細胞により被覆されていた(図4A, B)。【最終診断】mesenchymal hamartoma(間葉性過誤腫)【コメント】

mesenchymal hamartoma(MH)は,小児肝腫瘍 134例中 4例(3.0%)を占めると報告されており,90%は乳幼児期に出現する1)。75%は肝右葉に生じる。良性腫瘍であり,充実性の腫瘤内に 胞形成を伴うことが特徴である。最近では胎児期に超音波でみつけられる例も報告され,胎児期では 胞がみられず充実性のこともある2)。通常無症候性で,AFPは正常~軽度上昇,その他の腫瘍マーカーの異常は認められない。CTでは,様々な厚さの隔壁を有する多房性腫瘤にとして描出され,充実性成分は比較的よく造影さ

れる。MRIでは, 胞はT2強調像では高信号,T1強調像にて低信号を呈する。信号強度は腫瘤内の間葉

系組織, 胞内の蛋白濃度,出血により変化することがある3)。鑑別疾患として,肝細胞癌, infantile haemangioendothelioma,undifferentiated embryonal sarcoma,

hepatoblastoma,angiosarcomaなどがあげられる。MHに特徴的な,充実性を背景に 胞性病変が散在するという所見は undifferentiated embryonal sarcomaに見られるが,この疾患の好発年齢は6~10歳とMHと異なる。また,AFPは肝細胞癌またはhepatoblastomaで著明に上昇する。治療は外科的切除が一般的に行われる。画像所見の特徴を把握し,年齢,AFPなどを参考にすれば

診断は比較的容易と考えられるため,術前情報として,肝血管と病変の関係を詳細に外科医に伝えることが臨床的には重要である。

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【文 献】1)Yen JB, Kong MS, Lin JN: Hepatic mesenchymal hamartoma. J Paediatr Child Health 39: 632-634, 2003

2)Emre S, McKenna GJ: Liver tumors in children. Pediatr Transplant 8: 632-638, 2004

3)Schlesinger AE, Parker BR: Benign hepatic neoplasms. Kuhn JP, Slovis TL, Haller JO ed: Caffey's Pediatric

Diagnostic Imaging. 10th ed. 1495-1497, 2004, Mosby, Philadelphia

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図1 A単純CT像

図4 BHE染色 ×200

図3摘出標本

図4 Aルーペ像 ×1

図2 D 造影T1強調像

図2 A MRIT1強調像

図2 B MRI脂肪抑制 T2強調像

図2 C MRIT2強調冠状断像

図1 B造影CT像

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