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28・東レリサーチセンター The TRC News No.115(May.2012)

●GaN系LEDチップの結晶性評価と故障解析

1.はじめに

 発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)を用いた固体白色照明は、省電力であることや長寿命であることから、市場が急拡大している。固体白色照明に用いられる白色LEDは、青色発光をする青色LEDチップと、蛍光体を組み合わせで構成されている。固体白色照明のさらなる高性能化・高信頼性化のためには、青色LEDチップ、蛍光体や周辺部材の開発が重要となる。また、白色LEDは数万時間の保証時間より前に暗くなってしまう製品があるなど、まだまだ信頼性が不十分であるのが現状である。LED素子の中で、劣化が考えられる部位の例を図1に示す。

図1 代表的な白色LEDの劣化要因

 図1からもわかるように、劣化の要因の一つとして熱が考えられる。特に、高輝度白色LEDは動作時の発熱量も大きいため、熱対策は高信頼性化のためには避けられない問題となっている。本稿では、青色LEDチップに着目し、熱により強制劣化させた青色LEDチップについてカソードルミネッセンス(CL)法およびエレクトロルミネッセンス(EL)イメージング法を用いて解析を行った事例を紹介する。

2.青色LEDチップ

 固体白色照明に用いられる青色LEDチップは、通常GaN系半導体材料で構成されており、サファイア基板上にn型GaN、InGaNとGaNの多層膜(活性層)、その上にp型層が形成されている。この活性層に用いられているInGaNは、InおよびGa組成を変えることでバンドギャップを変化させることができる。発光波長を460nm程度に

最適化させることで青色発光を可能にしている。図2に、代表的な青色LEDチップの構造例を示す。

図2 GaN系青色LEDチップの代表例

 青色LEDチップにおいて、特性が劣化する現象は、主にオーバードライブによる発熱および過電流による劣化が考えられるため、熱による劣化現象を確認する目的で、大気中で500℃ 2時間熱処理をした青色LEDチップを評価試料として用いた。熱処理前後で電流電圧特性を比較すると、熱処理後にはLEDチップが高抵抗化し、特性が劣化していることがわかる(図3)。

図3 青色LEDチップの電流電圧特性

3.ELイメージング法による青色LEDの評価

 ELイメージング法は、試料に電気的な負荷を加えた際の発光強度分布を評価する手法である。例えば、多くの青色LEDチップでは逆方向バイアス時に局所的な発光箇所が観測される。この発光箇所はリーク箇所など、何らかの不良・劣化要因になることが予想される。また、その発光箇所は多くの場合は微弱発光である。弊社のELイメージング法を用いると、これらの発光分布を高感度像として観察することが可能である。また、分光フィルターも使用可能であることから、発光波長を特定することで、発光要因を切り分けられる可能性がある。他にも、試料の加工を特に必要としないことから、LEDチップの初期の不良及び故障解析法として非常に有用であると考えられる。 熱処理前後の青色LEDについてEL法を用いた評価事例を紹介する。ELイメージング法による測定結果を図4、図5に示す。熱処理後では逆方向バイアス時のスポッ

GaN系LEDチップの結晶性評価と故障解析

関西営業部 高橋  賢構造化学研究部 小坂 賢一

東レリサーチセンター The TRC News No.115(May.2012)・29

●GaN系LEDチップの結晶性評価と故障解析

ト数の極端な増大が見られないことから、局所的な電流リークスポットは大きく変化していないと考えられるが、順方向バイアス時の発光分布がスポット状に変化していることから、活性層のInGaN層のIn組成が変化したか、局所的に抵抗が変化しているなど何らかの要因で電流経路が変化している可能性が示唆される。

(a)熱処理前      (b)熱処理後図4 順方向バイアス時のELイメージング像�

(分光フィルターなし)     

(a)熱処理前      (b)熱処理後図5 逆方向バイアス時のELイメージング像

(観測波長750nm以上)     ※で示した箇所は、チップ側壁の傷による発光

 次に、ELスペクトルの測定結果を図6に示す。ELスペクトルより、熱処理後では長波長側の発光ピークが相対的に減少していることから、活性層中のInGaN層のIn組成分布に変化が生じている可能性が示唆される。この測定例のように、EL法を用いると、青色LEDの通電動作と発光特性の対応や、不良・故障の原因および不良箇所の特定を簡単に行うことができる。

4.CL法による青色LEDの評価

 CL法は、電子線を励起源に用いて試料の発光特性を評価する手法である。一般的に、CL法は電子線源として走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いていることから、高空間分解能での発光測定が可能であり、半導体素子などの微小部の発光特性の解析に対して有用な手法である。弊社のCL装置はCCD(Charge Coupled Devices:CCD)検出器、InGaAsリニアアレイ検出器、可視用光電子増倍管(Photomultiplier Tube:PMT)、近赤外用PMTなど各検出器を備えており、試料温度も30K程度までの冷却が可能となっている。 次に、CL法を用いて、熱処理前後の青色LEDチップについて評価を行った事例を紹介する。評価に用いた

試料は、クロスセクションポリッシャ(Cross-section Polishing:CP)法で作製した断面を用いた。CP法は、低ダメージでの断面加工が可能であることが特徴である。測定は試料を30K程度に冷却してから、スペクトルマッピングを行った。各点で発光スペクトルを取得していることから、強度や波長などの情報の2次元像を取得することが可能である。図7、図8に活性層(InGaN層)およびGaN層のCL測定結果を示す。活性層は数百nm程度と薄いため、横長の像となっている。活性層に着目すると、熱処理後は熱処理前に比べて発光強度が低下していること、発光波長が全体的に短波長側へシフトしていることがわかった。従って、熱処理後では、InGaN層内で、非発光中心の増加やIn組成の変化が起きていることが予想される。

図7 活性層(InGaN層)のCL測定結果

図6 ELスペクトル(図中の電流値は順方向電流の値を示す。)

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●GaN系LEDチップの結晶性評価と故障解析

図8 GaN層のCL測定結果

 次に、GaN層に着目すると、熱処理前後いずれでも、縦方向に発光強度が低下している場所が確認される。こ

の部分は、GaN層中の貫通転位が存在する場所に対応すると考えられる。貫通転位近傍において、熱処理前後で転位分布に顕著な変化は見られていない。また、GaN層の全体的な発光強度が熱処理後で低下していることから、GaN層でも非発光中心が増加していると予想される。これらの結果から、青色LEDチップは過度な温度上昇によって、GaN層およびInGaN層で非発光中心となる点欠陥が増大すること、活性層のInGaN層のIn組成分布に変化が生じていることが示唆される。このように、CL法はLEDチップの劣化・故障解析に非常に有効な手法であると考えられる。

5.おわりに

 本稿では、GaN系LEDの評価法として、エレクトロルミネッセンス法、カソードルミネッセンス法を取り上げた。LEDの開発や不良解析にこれらの分析手法が実用化の一助になれば幸いである。今後も分析技術について精度の向上、新規分析手法の開発を図り、GaN系LEDの研究開発へ貢献をして行きたいと考えている。

■高橋 賢(たかはし けん) 関西営業部 営業第 2課 略歴: (株︶東レリサーチセンターで半導体デバイス・

機能材料分野におけるソリューション営業に従事。

 趣味:自動車・スキー・スノーボード

■小坂 賢一(こさか けんいち) 構造化学研究部 構造化学第一研究室 略歴: (株 ︶東レリサーチセンターでラマン分光法・

カソードルミネッセンス法の測定・解析に従事 趣味:旅行

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