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161 第  章 外国旅行の動向 2 JNTO 訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9 市場編) 2-1 外国旅行の現状と展望 フランス人の外国旅行者数は年々増加傾向にあ り、2014年には2,818万人が外国(フランス海外領 土含む)へ旅行した 1 。フランス人は長期休暇を取 得できる環境にあるが、外国旅行志向が弱い。その 理由として「自国内に多くのリゾート地や歴史的建 造物などの豊富な観光資源を有している」ことや、 「フランス人は英語ではなくフランス語でのサービ スを求める傾向がある」点などが挙げられる。 2016年夏のフランス人の外国旅行の人気渡航先 は、スペイン、イギリス、ポルトガル、イタリア、 ギリシャ、オランダ、アメリカなどで、ヨーロッパ 域内の国が多い 2 。これは、「EU域内は身分証明書 さえあれば旅行ができて渡航手続きが不要である」 こと、「近距離であるため旅行費が安く抑えられる」 ことが理由として挙げられる。一方、アジア方面で は、タイ、中国、インド、ベトナム、インドネシア、 香港、カンボジア、シンガポールが人気の旅行先と なっている 3 フランスは、アフリカには火山地質で大自然が美 しいレユニオン、カリブ海では美しいビーチを有す るマルチニーク、グアドループなどを海外領土とし て有しており、それらの場所も外国旅行(実際は国 内旅行)の旅行地となっている。海外領土へは、身 分証明書さえあれば渡航でき、現地ではフランス国 内で使用される各種クレジットカードが使える。 2006年以降、ヨーロッパからの訪日旅行におい て、フランスは英国に次ぐ第 2 位の送り出し国であ る。2003年の訪日フランス人の人数は、SARS(新 型肺炎)の影響により前年比2.1%の微減となった が、2004年~ 2008年は毎年増え続け、9万6,000人 (2004 年)から 14 万 8,000 人(2008 年)へと 4 年間で 54%の伸びを示した。その主な要因としては、日仏 観光交流年キャンペーンなどのビジット・ジャパ ン・キャンペーンの効果、フランス語版の訪日ガイ ドブックの相次ぐ発行による情報発信、日本文化に 対する関心の高まりなどが挙げられる。2009年は、 2008 年後半の世界金融危機や円高基調の影響により 前年比4.3%減となったものの、2010年には経済の 緩やかな回復や継続して行ったキャンペーンの効果 などにより 2008 年の水準にまで回復した。 2011 年は東日本大震災が発生し、観光目的の渡航 についてはキャンセルが続出した。フランス外務省 からは渡航自粛勧告が、フランスのツアーオペレー ター協会からは訪日旅行の販売停止勧告が出され、 大きな打撃となった。原発大国フランスだが、過去 にチェルノブイリ原子力発電所事故の記憶があるフ ランス人(特に 40 代以上)にとって政府発表に対す る信頼度は低く、ドイツと同じく他の市場と比較し て回復が鈍い市場となった。 2012年以降訪日フランス人は順調に増え続け、 2013 年には震災前の 2010 年の水準を回復した。2014 年、2015 年、2016 年と 3 年続けて前年比 15%以上の 増を記録し、過去最高を更新している。この理由と しては、閑散期の需要拡大を視野に継続的に多方面 で訪日旅行プロモーションを行ってきたこともある が、震災発生から5年以上が経過し、震災や原子力 発電所に関する不安が薄れたことで訪日旅行への意 欲が増加していることも考えられる。2016 年は一般 旅行者から水質汚染や食の安全性に関する問い合わ せはほとんど無くなっている。また近年のテロ行為 へのリスク回避から「安全性の高い国」として日本 を選ぶ旅行者も多い。 知的好奇心が旺盛で、これまで世界中の文化・文 明を幅広く吸収してきたフランス人にとって、「固 有の伝統文化」と「強い経済に裏打ちされた現代性」 の両面を持つ日本は、憧れの旅行地の一つである。 「伝統的な日本文化への関心」、「健康的で洗練され た日本食への興味」、「映画、漫画・アニメ」、「ゲー ムを通じた若者文化の流入」、「ビジネス交流の活性 化」といった訪日旅行にとってプラスとなる要素が 多く、今後も成長が期待される。特に日本食の人気 は高く、2012年度に実施されたKPI調査(観光庁) でも、日本でやってみたいこととして、「自然・景 勝地観光」の次に関心を示している人が多かった (全体:66.9%、訪日興味あり:83.6%)。 2013年6月には観光庁、日本政府観光局(JNTO)、 フランス観光開発機構(ATF)が日仏間観光協力に 関する「日仏共同声明」に調印し、関係者が観光分 野で協力していくこととなった。フランス人による 最近の日本への関心事は多岐にわたっており、「伝 統文化の紹介」だけでなく、「漫画・アニメの制作 現場探訪」、「現代建築やデザインをテーマとした観 光ルート」なども発展の可能性を秘めている。ツ アーオペレーターのヒアリングによると、最近は日

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第  章 外国旅行の動向2

JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9市場編)

豪州

カナダ

ロシア

ドイツ

フランス

イタリア

スペイン

2-1 外国旅行の現状と展望

フランス人の外国旅行者数は年々増加傾向にあり、2014年には2,818万人が外国(フランス海外領土含む)へ旅行した*1。フランス人は長期休暇を取得できる環境にあるが、外国旅行志向が弱い。その理由として「自国内に多くのリゾート地や歴史的建造物などの豊富な観光資源を有している」ことや、

「フランス人は英語ではなくフランス語でのサービスを求める傾向がある」点などが挙げられる。

2016年夏のフランス人の外国旅行の人気渡航先は、スペイン、イギリス、ポルトガル、イタリア、ギリシャ、オランダ、アメリカなどで、ヨーロッパ域内の国が多い*2。これは、「EU域内は身分証明書さえあれば旅行ができて渡航手続きが不要である」こと、「近距離であるため旅行費が安く抑えられる」ことが理由として挙げられる。一方、アジア方面では、タイ、中国、インド、ベトナム、インドネシア、香港、カンボジア、シンガポールが人気の旅行先となっている*3。

フランスは、アフリカには火山地質で大自然が美しいレユニオン、カリブ海では美しいビーチを有するマルチニーク、グアドループなどを海外領土として有しており、それらの場所も外国旅行(実際は国内旅行)の旅行地となっている。海外領土へは、身分証明書さえあれば渡航でき、現地ではフランス国内で使用される各種クレジットカードが使える。

2006年以降、ヨーロッパからの訪日旅行において、フランスは英国に次ぐ第2位の送り出し国である。2003年の訪日フランス人の人数は、SARS(新型肺炎)の影響により前年比2.1%の微減となったが、2004年~ 2008年は毎年増え続け、9万6,000人

(2004年)から14万8,000人(2008年)へと4年間で54%の伸びを示した。その主な要因としては、日仏観光交流年キャンペーンなどのビジット・ジャパン・キャンペーンの効果、フランス語版の訪日ガイドブックの相次ぐ発行による情報発信、日本文化に対する関心の高まりなどが挙げられる。2009年は、2008年後半の世界金融危機や円高基調の影響により前年比4.3%減となったものの、2010年には経済の緩やかな回復や継続して行ったキャンペーンの効果などにより2008年の水準にまで回復した。

2011年は東日本大震災が発生し、観光目的の渡航

についてはキャンセルが続出した。フランス外務省からは渡航自粛勧告が、フランスのツアーオペレーター協会からは訪日旅行の販売停止勧告が出され、大きな打撃となった。原発大国フランスだが、過去にチェルノブイリ原子力発電所事故の記憶があるフランス人(特に40代以上)にとって政府発表に対する信頼度は低く、ドイツと同じく他の市場と比較して回復が鈍い市場となった。

2012年以降訪日フランス人は順調に増え続け、2013年には震災前の2010年の水準を回復した。2014年、2015年、2016年と3年続けて前年比15%以上の増を記録し、過去最高を更新している。この理由としては、閑散期の需要拡大を視野に継続的に多方面で訪日旅行プロモーションを行ってきたこともあるが、震災発生から5年以上が経過し、震災や原子力発電所に関する不安が薄れたことで訪日旅行への意欲が増加していることも考えられる。2016年は一般旅行者から水質汚染や食の安全性に関する問い合わせはほとんど無くなっている。また近年のテロ行為へのリスク回避から「安全性の高い国」として日本を選ぶ旅行者も多い。

知的好奇心が旺盛で、これまで世界中の文化・文明を幅広く吸収してきたフランス人にとって、「固有の伝統文化」と「強い経済に裏打ちされた現代性」の両面を持つ日本は、憧れの旅行地の一つである。

「伝統的な日本文化への関心」、「健康的で洗練された日本食への興味」、「映画、漫画・アニメ」、「ゲームを通じた若者文化の流入」、「ビジネス交流の活性化」といった訪日旅行にとってプラスとなる要素が多く、今後も成長が期待される。特に日本食の人気は高く、2012年度に実施されたKPI調査(観光庁)でも、日本でやってみたいこととして、「自然・景勝地観光」の次に関心を示している人が多かった

(全体:66.9%、訪日興味あり:83.6%)。2013年6月には観光庁、日本政府観光局(JNTO)、

フランス観光開発機構(ATF)が日仏間観光協力に関する「日仏共同声明」に調印し、関係者が観光分野で協力していくこととなった。フランス人による最近の日本への関心事は多岐にわたっており、「伝統文化の紹介」だけでなく、「漫画・アニメの制作現場探訪」、「現代建築やデザインをテーマとした観光ルート」なども発展の可能性を秘めている。ツアーオペレーターのヒアリングによると、最近は日

162 JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9市場編)

本でのハイキングやマリンスポーツなど、屋外アクティビティを求める傾向も出始めているようである。他方、日本への関心は高いものの、依然として旅行費用や物価が高いイメージが強いため、バカンス大国のフランスにおいて日本は未だ旅行地としてはメジャーな存在になっていない。訪日旅行の発展の鍵としては、「旅行費用の低コスト化とその広報」、

「付加価値のある旅行提案」、「言語障壁への対応」が挙げられる。また、団体旅行に参加するよりも、趣味・価格・滞在期間に応じて個人が自由に旅行を組み立てることが多いフランスでは、「個人旅行を容易にする実用的な情報提供の充実」や「各種予約の利便性向上」が不可欠である。訪日旅行に関しては、未だ情報が十分に行き届いているとは言いがたい状況であり、「ガイドブックの充実」、「インターネットによるさらなる情報発信」などにより、個人旅行を促進する環境整備を進める必要がある。

*1:  DGE 2015:    http://www.entreprises.gouv.fr/fi les/fi les/directions_services/etudes-et-

statistiques/stats-tourisme/memento/2015/2015-12-Memento-tourisme.pdf

*2: APST:    https://www.apst.travel/2016/07/04/les-vacances-des-francais-moins-

de-departs-en-2015-mais-plus-varies/*3:  L’echo touristique:    http://www.lechotouristique.com/article/asie-pacifique-le-top-10-des-

destinations-prefereesdes-francais,74105

2-2 外国旅行の旅行形態別特色

フランス人の外国旅行の大半は個人旅行(家族旅行を含む)である。近年はインターネットの旅行サイトで航空券やホテルの料金比較や予約が簡単にできるようになり、その傾向にますます拍車がかかっている。DGCIS統計(2015年)によれば、フランス人の私的旅行予約について、旅行代理店またはツアーオペレーターを通したものは、国内旅行では7.8%であるが、外国旅行では39.5%と高い割合である*4。

旅行形態としては滞在型が主流であり、2週間から1カ月程度を別荘や貸別荘で過ごすフランス人は少なくない。大手旅行会社などが運営するバカンス村に数週間家族で滞在するスタイルにも人気がある。他方、遠距離の異なる文化・言語圏への旅行については、通訳ガイドや添乗員付きの周遊型団体旅行も数多く造成・催行され、根強い人気がある。

*4: DGE 2015:    http://www.entreprises.gouv.fr/fi les/fi les/directions_services/etudes-et-

statistiques/stats-tourisme/chiffres-cles/2015-Chiffres-cles-tourisme-

FR.pdf

1. 個人手配による旅行フランスからの訪日観光客のほとんどは個人旅行

者である。この人たちに航空券と宿泊のみ、あるいは航空券と宿泊とJRパスがセットになった個人旅行向けパッケージツアーの利用者を加えれば、旅行者の大多数が趣味・志向・予算に応じて旅程を自分自身で組み立てている。従って、訪日フランス人数の増加を図るためには、個人旅行を容易にしその満足度を高めるための環境整備が必要である。このため、「具体的な周遊コースを提示し、信頼できるホテル・レストラン情報を掲載した実用的なガイドブックの出版」や、「個人旅行の手配にあたって利用されるインターネット上に、日本のホテルや旅館、バスや鉄道の時刻・運賃などの交通情報の掲載を充実させる」ことが求められる。

フランスのツアーオペレーターからのヒアリングによると、フランスにおいて個人旅行をより容易にするためには、様々な情報を英語(理想的には仏語)で紹介したサイトの整備が挙げられる。フランスに限らず、インターネットが普及した現代では自分自身で旅行の手配ができるため、外国語によるウェブサイトがますます重要となってきている。

また、フランス人は他人とは異なった経験を求める傾向にあるため、主要観光地以外の場所を訪問して「普段の日本人がどのような所に住み、どのように生活をしているのかを知りたい」というリクエストが年々増えてきている。そのようなニーズに対応できる方法の一つとしてレンタカーが注目されているが、日本においてレンタカーを運転するにはフランスの運転免許証原本とJAFによる免許証の翻訳が必要となり、その準備などに時間や手間がかかることが課題となっている。

2. パッケージツアーフランスのツアーオペレーター協会(CETO)の

データによると、2014年11月1日から2015年10月31日の間にCETOに加入しているツアーオペレーターを通じて旅行予約をしたフランス人は604万人

(前年同期比5.3%減)であり、このうちパッケージツアーを利用した人は394万人(同3.1%減)となっている。フランスには訪日旅行を取り扱う旅行業者が約80社あり、フランス発の訪日パッケージツアーは約200種類あると言われている。訪日ツアーのほとんどで東京、京都、奈良が定番ルートに組み込まれており、日程に応じて広島・宮島、姫路、倉敷、

第2章 外国旅行の動向

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さらに高山・白川郷、金沢などが加わることとなる。フランスのメディアで度々紹介されている高野山も人気が高まっている。北海道、九州、沖縄、四国などが組み込まれたツアーも一部で造成されているが、これは旅行者のリピーター化に対応すると共に、他社との差別化を図り競争力を強化するものとうかがえる。

今後は多様なツアールートの開発や旅行会社の販売員の知識向上と共に、航空券、宿泊などの仕入れを工夫することなどによりパッケージ商品の低コスト化を図ることが重要である。

2-3 観光関連政策

1. 外国旅行関連規制

フランスには外国旅行に関する規制はない。なお、フランスでは、1985年に「シェンゲン協定」

が結ばれ、協定参加国間での国境検査が撤廃された。2016年時点で、26カ国(EU加盟国の28カ国のうち22カ国+ノルウェー、アイスランド、スイス、リヒテンシュタイン公国)がシェンゲン地域圏内となっており(アイルランドと英国は特別事例、モナコ、バチカン、サンマリノは、協定加盟はしていないものの実質シェンゲン地域)、EUが承認した国のID所持者はパスポートの携帯が必要なく、IDのみで旅行(電車、飛行機)が可能である。

2. 旅行業法

フランス観光行政の変遷と観光関連主要法令フランスの観光関連主要法令は、『Code du

tourisme』(観光法典)といい、以下のように4冊にまとめられている。

Livre I 観光の全体の基本法(政府、自治体、公共機関と組合)

Livre II 観光関連の職業と活動についてLivre III 観光設具/設備Livre IV 国民のバカンス取得の権利、予算や税制

について(参考:http://www.legifrance.gouv.fr/affi chCode.do?cidTexte=LEGITEXT000006074073/)

財団法人自治体国際化協会(クレアパリ事務所)の「フランスの観光政策」によると、「フランスにおける観光政策の歴史は、1910年の全国観光局

(Offi ce national du tourisme)の設置およびその諮問機関である高等観光評議会(Conseil supérieur du tourisme)の設立に始まる。

その後、2つの世界大戦の間に、フランス政府は観光業の重要性を認識し始め、ホテル業への融資機関、商工・ホテル業中央信用金庫の設置などの政策が取られた。ほぼこの時期に、フランスは観光目的地第1位の地位を確立している。1935年に全国観光局が観光庁(Commissariat général au tourisme)と全国観光発展委員会(Comité national d’expansion du tourisme)へと引き継がれ、観光業に関する法規が徐々に制定され始める。

1964年 に 観 光 庁 が 再 編 成 さ れ、 観 光 総 局(Direction générale du tourisme)として生まれ変わった。その後、観光が一般化するとそれに付随する問題も出始め、それまでは公共事業や国土整備担当の官庁が統括していた観光行政を、文化・環境省が管轄するようになった。1980年代以降、観光業がフランスの主要産業としての地位を本格的に確立し、全国バカンス小切手局が設置されるなど、国、地方団体、民間が協働でこの一大国家産業を発展させていくため尽力した。その後、文化・環境省管轄に移った観光業は、再び産業・国土開発という枠組みの中に納まるようになる」*5。

*5:  一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR)パリ事務所『フランスの観光政策』

2-4 日本の競合旅行地

日本の主な競合旅行地は以下のとおりである。

1. タイ①日本との競合部分

2015年の訪タイフランス人旅行者数は68万1,097人と*6、アジア太平洋地域旅行者の22%を占め*7、フランス市場においてアジアの旅行先ナンバーワンの国である。

バンコクなどの大都市で見られる「伝統と現代のコントラスト」や、南北に長い地理的条件から生まれる「多様な風景や歴史遺産」、「スパや瞑想などのヘルシーなイメージ」「予算・内容共に幅広く選べる食文化」などが、日本との競合要素として挙げられる。また、地元民の親しみやすさ、接客サービスの質の高さに「微笑みの国」という呼び名を与えて観光魅力に昇華している点も日本の「おもてなしの文化」と共通していると言える。

164 JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9市場編)

②主な観光魅力日本と同じ仏教国であり、文化とリゾートの両方

の魅力を持つ旅行地である。美しい砂浜とエキゾチックな文化が融合したアジアのリゾートとしても知名度が高い。また、人々が親切で食事が美味しいことでも知られる。国内移動費および滞在費が安く、子ども連れの家族でも総費用が安く抑えられるため、コストパフォーマンスが高い。温暖な気候であるため、冬場の避寒地としても好まれている。

③観光インフラバンコク都市部の高架鉄道(BTS)や主要観光地

(バンコク、チェンマイ、プーケット)の国際空港など既存の交通インフラの拡大に加えて、高速鉄道の建設計画が進行しており、近い将来に旅客運輸能力の大幅な向上が期待される。また、ホテルのコストパフォーマンスが高く、広いスペース、ダブルベッド対応、アメニティやカップル優待プラン

(ウェルカムドリンクやサービスクーポンなど)のサービスも充実している。

④マイナス要素外国人旅行者をターゲットにした犯罪(盗難、ホ

テルや市場での強盗、詐欺など)と安全性があまり確保されていない点(夜間の外出、女性の一人旅行への不安)が挙げられる*8。

⑤政府観光局による外客誘致活動タイ国政府観光庁はパリに事務所を置いており、

大規模な活動を活発に展開している。一般消費者向けにウェブサイトを充実させ、メディアを活用した広報活動も積極的に行っている。主要な旅行博への継続的な出展はもちろんのこと、2013年9月にはパリ・トロカデロ広場で一般向けの屋外イベントを開催するなど積極的な露出を図っている。旅行業界向けにはセミナーやファムトリップ(視察旅行)の開催、見本市への出展に力を入れている。見本市ではかなり大きなブースを出展し、事業パートナー(航空会社や旅行会社)との共同運営を行ったり、ブースで音楽やダンス、試食などのアトラクションを実施したりするなど積極的な広報活動を行っている。

⑥旅行業界などによる外客誘致活動フランス人の旅行先としてはアジア最大で、安定

した需要があるため、旅行商品も低価格で充実している。アジアの中では売れ筋ということもあって、旅行会社各社が作成するカタログや店舗での広告な

どでも中国と並んで掲載商品が多い。

*6:  在タイフランス大使館:http://www.ambafrance-th.org/Communaute-francaise

*7:  Echo touristique:    http://www.lechotouristique.com/article/asie-pacifique-le-top-10-des-

destinations-preferees-des-francais,74105*8: フランス外務省渡航危険情報ウェブサイトによる

2. 中国①日本との競合部分

タイに次ぎ2番目にフランス人が多く訪問する国であり、アジア太平洋地域旅行者の20%を占める。中国政府観光局によると2014年の訪中フランス人旅行者数は51万7,200人となった*9。JNTOパリ事務所が実施した2012年度の個人旅行市場調査においても、アジアでの休暇を考えた時に常に頭に思い浮かぶ先として中国は2位(53%)を占め、タイと同じく休暇の際の旅行先として認知度が高い。フランス人がアジアの国に求めるエキゾチックさと、文化や訪問地の多様性、価格が人気である。

②主な観光魅力北京、上海、香港など、一般的に認知度の高い大

都市を有し、「万里の長城」や「兵馬俑」、「京杭大運河」などイメージが浮かびやすい観光資源があることが強みである。国内移動費および滞在費が訪日旅行に比べ安いことも魅力の一つである。

③観光インフラ主要観光地が広大な国土に点在しているため、旅

行の計画を立てる際には各地の空港、高速鉄道の駅の把握は不可欠であると言える。また、言語障壁が高く、北京や上海などの大都市以外は依然として個人旅行には困難を伴うものと見なされている。

④マイナス要素一般的に現地サービスの正確性や品質に難がある

とされており、顧客の満足度が相対的に低い。特にトイレなどの衛生面のインフラの不備は旅行業界で以前から問題点として取り上げられている。頻繁ではないものの断続的に取り上げられる大気汚染などの環境問題、マナーの悪さもネガティブな印象を与えている。観光客もビザの取得が必要。

⑤政府観光局による外客誘致活動中国国家旅遊局はパリに事務所を設置している

が、あまり積極的な誘致・宣伝活動は行っていない。

第2章 外国旅行の動向

165JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9市場編)

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2010年夏に開催された上海万博を始めとして、中国関連の情報が各メディアへ露出していることや、アジアを扱う旅行会社のほとんどが独自に中国行きの旅行商品を造成して販促活動を行うため、政府観光局としてさらに対応する必要があまりない模様である。事務所の活動は情報提供業務が中心で、旅行会社とのタイアップなどは行っていない。見本市では

「中国」としてまとまった形で出展しているが、実際のブース運営は中国の地方自治体や中国旅行を扱う主要旅行会社などに任せている場合が多い。テレビ広告についても中国国家旅遊局としてよりは、中国国内の自治体が行っている場合が多い。

⑥旅行業界などによる外客誘致活動アジアを扱う旅行会社は、人気があり売れ筋でも

ある中国旅行に関する広告宣伝や販促活動を、独自で実施している。

*9:  中国国家観光局:http://www.cnta-osaka.jp/data/visitors/?year=2014

3. ベトナム①日本との競合部分

2015年の訪越フランス人旅行者数は21万1,636人(前年比1%減)*10で、アジア太平洋地域旅行者の10%を占める。

JNTOパリ事務所が実施した2012年度の個人旅行市場調査においても、アジアでの休暇を考えた時に常に頭に思い浮かぶ旅行先として日本に次ぐ4位

(40%)を占める。エキゾチックさ、価格帯、地元民の親しみやすさが人気である。フランスが旧宗主国だったこともあって心理的な親近感もある。

②主な観光魅力ホーチミン市に代表されるような歴史的な街並

み、メコン川でのリバークルーズ、ハロン湾などの風光明媚な景色など歴史・文化的な旅行地が充実している。旧宗主国フランスの文化の影響も受けたエキゾチックさも魅力となっている。国内移動費および滞在費も安い。フランスの旅行会社によれば、タイと同じく人々が親切で食事が美味しいことでも知られている。

③観光インフラ観光地では英語の普及率が高く、日本と比べて言

語障壁は低い。フランス語も年配層を中心に話せる人が少なくない。主要観光地では、ホテル・レスト

ランの施設やサービスも充実している。

④マイナス要素特になし。以前は渡航の際ビザの取得が必要であったが、

2015年7月以降15日を超えない観光滞在についてフランス人はビザが免除となった。

⑤政府観光局による外客誘致活動ベトナム政府観光局はパリに事務所があるが、独

自のホームページを持っておらず、あまり積極的な活動はしていない。(2016年時点)

⑥旅行業界などによる外客誘致活動ベトナム航空および旅行会社が独自に販促支援活

動を通じた外客誘致活動を行っている。アジアを扱うフランス系旅行会社の多くはベトナムのツアーを造成・販売している。(ベトナムに加えて、最近少しずつ人気が高まっているカンボジアとの組み合わせツアーを扱うところもある。)

*10:  Vietnam Tourism.com:http://www.vietnamtourism.com/fn/index.php/news/items/11014

4. その他フランス人旅行者の受け入れ規模はまだ少ない

が、近年では韓国観光公社が非常に積極的な誘致・宣伝、販促活動を展開している。トップ・レサ(TOP RESA)、MAP(Le Monde à Paris)といった主要な旅行見本市だけではなく、様々な分野のイベントなどにも積極的に政府観光局として参加しているほか、雑誌などへの広告掲載、さらには招請事業や共同セミナーの開催、旅行会社のカタログへの広告掲載などの販促支援も実施しており、ツアーオペレーターの間には「今後、日本の主要競合旅行地になるのではないか」との意見も多く出ている。

2-5 訪日旅行の価格競争力

訪日旅行は、中国、タイ、香港、ベトナムといったアジアの他の国々と比べると国内移動費、滞在費、ガイドの手配費などを含む地上経費が高いため、フランス発の外国旅行の中では高額ツアーの部類に入る。2012年終盤以降円安傾向に転じ環境が改善した後も、この状況は変わっていない。2016年時点では、カタログ更新時期の関係(年末、または3月が多い)で、英国のEU離脱を問う国民投票結果によるユー

166 JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9市場編)

ロ下落が反映されていないカタログが市場に多く出回っている可能性も否めず、次年度はさらに価格が上昇するものと予測される。従って、今後は食事やショッピング、ジャパンレールパスの活用による旅行価格の低減など、国内で割安感を伝えられる項目の情報を発信する必要がある。他方、物価水準も異なる他のアジア諸国と単純に価格競争に陥ることは得策とは言えず、治安の良さやサービスの正確性といった付加価値を添えていくことにより差別化を図っていくことも重要である。

■フランス発外国ツアー価格比較表

旅行地 旅行日数 価格(ユーロ)

価格(日本円:千円)

ヨーロッパ イタリア 11泊12日 1,625 183

スペイン 11泊12日 1,535 173

ポルトガル 10泊11日 1,525 172

クロアチア 7泊8日 1,019 115

ギリシャ 7泊8日 919 103

アメリカ アメリカ 9泊11日 2,619 295

カナダ 10泊12日 1,689 190

アフリカ モロッコ 7泊8日 705 79

アジア太平洋 オーストラリア 10泊14日 3,899 440

韓国 10泊12日 2,949 333

カンボジア 13泊16日 2,099 237

インドネシア 10泊13日 1,999 225

タイ 13泊16日 1,499 169

中国 7泊9日 1,349 152

ベトナム 8泊11日 1,299 146

インド 12泊14日 1,099 124

日本 8泊10日 2,999 338

注1:  2016年10月時点。大手ツアーオペレーター TUIの2017年カタログを参照。

注2:  出発時期により価格は変動する。 1ユーロ=113円で換算、千円未満切捨て(2016年10月中値月中平均、日本銀行より)。

注3:  「旅行地」は、2016年のフランス人旅行者が多かった主要旅行地と日本含むアジア競合旅行地を中心に記載した。

  旅行地 旅行日数 価格(ユーロ)

価格(日本円:千円)

  ベトナム 12泊15日 1,699 191

  ブラジル 12泊15日 3,975 449

  インドネシア 12泊15日 2,090 236

  インド 11泊14日 1,289 145

  中国 11泊13日 1,490 168

 スペイン(南部のアンダルシア地方周遊)

11泊12日 1,549 175

  オーストラリア 10泊14日 4,270 482

  タイ 10泊13日 1,163 131

  フィリピン 10泊13日 2,099 237

  マレーシア 10泊13日 2,445 276

  カンボジア 9泊12日 1,699 191

  米国(西海岸周遊) 9泊11日 1,680 189

★ 日本 8泊10日 2,890 326

  エジプト 8泊9日 1,199 135

 カナダ(モントリオール中心の東海岸周遊)

7泊9日 1,390 157

  モロッコ 7泊8日 675 76

  イタリア(主要3都市周遊) 7泊8日 1,199 135

  ポルトガル 7泊8日 1,099 124

  ギリシャ 7泊8日 899 101

  トルコ 7泊8日 700 79

  チュニジア 7泊8日 519 58

2-6 評価の高い日本の旅行地

初めて日本を訪れるフランス人にとって欠かせない旅行先は、やはり東京と京都である。JNTOパリ事務所で最も頻繁に問い合わせがあるのも両都市であり、団体パッケージツアーには例外なく組み込まれている。訪日旅行ガイドブックも、両都市に多くのページを割いており、「東京のみ」および「東京・京都のみ」のガイドブックもある。

東京では銀座、新宿、渋谷(スクランブル交差点が有名)といった近代的な大都市の雰囲気と浅草や明治神宮、皇居など歴史のある観光スポットの人気が高い。秋葉原や原宿などのポップカルチャー色の強いエリアや、築地市場など食文化に結び付いたスポットも認知度が高い。京都は金閣寺と伏見稲荷が日本の象徴的なイメージとして知れ渡っている。東京と京都以外では、広島、宮島、箱根、高野山、高山、白川郷、金沢の認知度が高い。最近は地方への分散も少しずつ進んでおり、北海道、沖縄、四国なども認知をされつつある。

フランス人にとっての訪日旅行の魅力は、非西洋文化(キリスト教やギリシャ・ローマ文化に影響されていない固有の文化)の要素である。寺社・仏閣、城、皇居などの歴史的建造物、日本庭園、仏像、伝統的な祭りは人気がある。美しい自然や日本人の伝

第2章 外国旅行の動向

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豪州

カナダ

ロシア

ドイツ

フランス

イタリア

スペイン

統的なライフスタイルなども訪日旅行の魅力の一つとなっており、富士山、阿蘇山、釧路湿原といったパノラマ風景や、囲炉裏のある民宿、静かな温泉宿での団欒、朝市、生鮮市場なども評価が高い。近年では、アウトドアへの関心や問い合わせも増えてきており、日本に行ってハイキングを楽しみたいと考えるフランス人旅行者も増えてきている。

フランス人は、一般に東京ディズニーリゾート®、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン、ハウステンボスなどのテーマパークには興味を示さないが、フランス人が日本に対して持っている日本らしいイメージを表している東映太秦映画村や伊賀流忍者博物館などには関心を示している。

2-7 訪日旅行の有望な旅行者層

フランスで有望な訪日旅行者層は、①30歳~ 40歳代個人旅行層、②50歳~ 60歳代グループ層、③ポップカルチャー愛好層である。

① 30歳~ 40歳代個人旅行層 【最大ボリューム層】

属性

・夫婦、カップル、家族・高学歴・高収入・ 他言語、インターネットに堪能で、個人での旅行、予約手配が可能。

旅行形態

・ 夫婦、カップル。低学年の子どもと一緒のこともある。・ 家族・親族あるいは知人などからなる数人単位の個人手配旅行。・ ビジネス旅行。その機会を利用し、家族も連れて観光も楽しむ。

訴求ポイント・ 伝統文化(神社仏閣、伝統工芸)と現代文化(近代的都市景観、ハイテク)の融合、まだ知られざる魅力。

旅行日数、費用など ・10日~ 2週間程度。

選定の背景 日本に高い関心を持っている。

効果的な宣伝方法

・ メディアを通じた情報の露出、旅行会社と連携した誘致宣伝活動。・ソーシャルメディアを利用した情報発信。

②50歳~ 60歳代グループ層 【準ボリューム層】

属性・中高年層・退職者・子どもが既に独立して手が離れている。

旅行形態

・ ガイド付き団体ツアーあるいはオーダーメイド型ツアー。・ 家族・親族あるいは知人などからなる数人単位の個人手配旅行。・ 母国語以外の言語に自信がない、または効率よく回りたいことから現地ガイドを求める。

訴求ポイント・日本の象徴的な神社仏閣など歴史的建造物。・四季折々の魅力ある自然景観。・日本特有の文化体験(食、温泉、旅館)。

旅行日数、費用など

・ パッケージツアーへの参加。10日間で約3,000ユーロなど。

選定の背景 ・時間的、経済的に余裕がある。効果的な宣伝方法

・ メディアを通じた情報の露出、旅行会社と連携した誘致宣伝活動。

③ ポップカルチャー愛好層 【潜在的ボリューム層】

属性・学生、若者(18歳~)・ アニメ、ゲームなど日本ポップカルチャーのファン。

旅行形態・同じ趣味を持つ友人同士。・ 低価格の個人旅行向けパッケージツアー、インターネットなどによる自己手配。

訴求ポイント

・ アニメや漫画、ファッション、ライフスタイルなど、若者層に人気のコンテンツ。・日本語研修。・ J-POPのコンサートやアニメ・漫画関連のイベントへの参加。

旅行日数、費用など

・ 学生の長いバカンスを利用し長期で旅行することが可能。・ ユースホステル、深夜バスなど安価なサービスを利用。

選定の背景

・ 日本に高い関心を持っており、時間的に余裕がある。・ 旅行・滞在費用を抑えるための情報収集に手間をいとわない。・将来リピーターとなる可能性がある。

効果的な宣伝方法

・ 低価格で訪日旅行をする方法、または若者向け安価なツアーの紹介。・ 学生向け割引の充実とその広報、ポップカルチャー関連のイベントの宣伝広報。

2-8 訪日旅行の買い物品目

観光庁「訪日外国人消費動向調査(2015年)」によると、「食料品、飲料、酒、たばこ」の購入率が最も高く、フランス人旅行者の63.7%がこれらに該当する品目を購入している。当該項目の購入者単価は1万2,541円であった。続く「菓子類」の購入率は42.2%、購入者単価は6,175円である。

フランス人は旅行先でお土産を購入するという習慣はあまりないものの、訪日旅行の際には、東洋的な情緒を感じさせる伝統工芸品やキャラクターグッズを購入する傾向がある。同じく「訪日外国人消費動向調査(2015年)」では、満足した購入商品として「和服・民芸品」、「服、かばん・靴」、「マンガ・アニメ・キャラクター関連商品」が挙げられている。電化製品は国内外価格差が縮小傾向にあり、修理などのアフターサービスの問題や変圧器などのアダプ

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ターが必要になるためあまり購入されていないが、日本の有名メーカーのカメラを購入したいという要望は多い。

●簡易に着られる着物・浴衣・羽織●和風の図柄がプリントされたTシャツ●箸●人形などの置物、だるま●陶磁器、漆器●織物、藍染●骨董品(蚤の市)●扇子、風呂敷● 和風の趣がある、あるいは洗練されたデザイン

の文房具(ハローキティのボールペンのようなキャラクターもの、フリクションボールペンのような機能性の高いものなども人気である)

●100円ショップで販売されている各種日用品●煎餅●日本茶●アニメの原画、キャラクターグッズ

2-9 日本の食に対する嗜好

1990年代の寿司の流行から始まった和食ブームは現在も続いており、日本食レストランの数は増え続けている。2015年時点でパリ市内に約700軒、イル・ド・フランス圏で約1,600軒の日本食レストランがあるが、そのうちの9割程度は日本人以外のアジア人が経営しているといわれている*11。

フランスでは、日本食は健康的でファッショナブルな料理として人気が高い。特にパリでは、「日本食通り」と呼ばれるほど多くの日本食レストランが軒を連ねた通りがあり、日本食に対する関心の高さが伺える。その種類も寿司、刺身、焼き鳥、天ぷらなどの代表的なものから、うどん、そば、ラーメン、焼きそばなどの麺類、とんかつ、焼き魚、カレー、お好み焼きまでと、幅広い料理が人気である。懐石料理、精進料理は盛り付けも美しく、作法も異国情緒があり非常に評価が高い。他方、元々フランス人は生魚をほとんど食べないため寿司や刺身を苦手とする人も一部におり、日本食には生魚以外にも様々な料理があることについて情報提供する必要もある。

箸の使用は、フランス国内で中華料理がよく食べられていることもあり、問題のない人が多いが、念のため箸とスプーン・フォークの両方を用意することが望ましい。特にご飯と味噌汁は、箸では食べにくいようである。

鍋料理はフランスにも同様の調理法があるため、料理自体に違和感はなく、むしろ日本固有の鍋料理は、フランス人にとって楽しみの一つである。しかしながら、日本人のように同じ鍋をつつきあう食べ方に慣れていないため、料理を出す際には事前に説明することが必要である。

留意事項として、フランスではパンは料理の値段に含まれているため無料の感覚が強いので、パンの追加料金をとるシステムの場合には事前の説明が望まれる。

最近はグルテンフリー、ベジタリアン、ハラール食に対する問い合わせも増えており、アレルギーや宗教に考慮した対応、メニューの拡充や表記の工夫も必要とされる。

*11: 日本貿易振興機構(JETRO)「パリスタイル」2016年3月

2-10 接遇に関する注意点

①食床で食事を摂る習慣や箸の使用、食器へ口を付け

る作法、麺類をすする、などの食べ方には馴染みの薄いものも多く、特に座敷などで床に座る(あぐらを含む)ことは人によっては膝に負担がかかるなど身体的苦痛を伴うこともあるため、注意が必要である。従って、日本文化の体験を本旨とする場面以外の食事では、テーブル席やスプーン、フォーク類なども準備されていることが望ましい。

フランスでは、前菜、メイン、デザートが順番に出てくるが、日本では汁物、おかず、メインが全て同時に出てくるため、どの順番で食べれば良いか戸惑う人が多い。

食事時間は日本と比較してやや遅い傾向にある(昼食13時、夕食20時)。基本的にこれが問題になることは少ないが、旅程を組む際に多少食事時間を遅くできれば好印象を得られる。また食事および食後の歓談をゆっくりと楽しむ傾向があるので、退店や会計を急がすと不快に思われる恐れがある。②交通

フランスの交通機関の運賃は日本と比べると若干安めである。高速道路も一部無料のところ(中~大都市の高速道路は無料)があるため、日本における移動は割高に感じられる。「ジャパンレールパス」や各都市の1日乗車券など、リーズナブルなチケットを事前に案内できることが望ましい。またバス停や駅のホームで電車などの扉が開く位置に並ぶ習慣がなく、順番を抜かしたり人の流れを阻害したりす

第2章 外国旅行の動向

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ることがある。基本的に悪意はないため、ガイドや駅員がルールを説明し、注意を促せば大抵の場合は納得してもらえる。併せて日本の交通機関の正確性

(時間、扉位置など)について認識を持ってもらうことができれば、問題発生のリスクを訪日旅行の魅力の一つに転化することも可能である。③宿泊

商習慣上、フランスのホテルが「1名あたり」の料金を表記することは基本的にない。宿泊料金の表示は「1室あたり」が大前提であるため、1名あたりの料金を提示する場合はその旨、明記することが必要である。税金やサービス料を含めた、最終価格を提示できると分かりやすい。

旅館など伝統的な宿泊施設の魅力を伝えたい場合は、「高級」という文言ではなく、「食事が付いていること」、「日本的な接客を体験できる」など、異文化体験を楽しめることを強調した方が良い。④その他・ 和室などで履物を脱ぐ習慣についてはある程度

周知されているが、「汚れを室内に持ち込まない」という履物を脱ぐ根本的な理由については知識がなく、土間を素足で踏みながら履物を脱ぐ旅行者が多い。駅の並び方同様、理由を説明できれば、このことも旅行者にとって日本文化体験の一つとなり得る。

・ 温泉や銭湯などの施設における刺青(タトゥー)の入浴制限について、現地で制限を初めて知るといった事例は決して少なくないと予測される。絆創膏やテーピングで対応できる場合はそれらのグッズを用意する、また近辺で購入できるドラッグストアなどを案内できれば、これらの旅行者の不満を軽減できると思われる。

・ 全体的にフランス人は自国の言葉にプライドを持っており、英語の使用は極力避ける傾向にある。英語による案内や情報提供の際は、安易な

「欧米人=英語」といった姿勢は避けるのが望ましい。フランス語で案内や情報提供ができるのが理想的ではあるが、案内の際に「英語での対応(文書)でも良いか」と尋ねるだけでも、印象は大分変わると言える。