クッシング症候群を呈した副腎

black adenoma の2例

喜多 保、坂口 千春、矢野 文月、渡邉 定弘、

曽我 茂義、浜 幸寛、新本 弘、

小須田 茂（防衛医大・放）

第68回日本核医学会関東甲信越地方会 （2008.2.2富士フィルム東京本社講堂）

背 景

クッシング症候群を呈する副腎black

adenomaは、副腎I-131アドステロー

ルシンチグラフィにおいて、通常の

所見とは異なる集積を示す場合があ

る。今回black adenoma の2例を経験

したので報告する。

症 例 1

年齢 30代前半 女性

主訴 不妊

現病歴

2004年 結婚2年経過するも挙児なく、妊娠希望で近医受診。MRIにて子宮筋腫P/O。

2005年 当院産婦人科紹介受診。DMが認められ、2006年 筋腫摘出前のDMコントロール目的で

当院第３内科受診。ACTH抑制、コルチゾール高値、CTにて左副腎腫大指摘され、クッシング症候群と診断。当院泌尿器科に手術目的にて入院。

検査所見

WBC 14000/μl,Hb 13.1 g/dl ,Plts 375000/μl,

Na 142 mEq/l, K 3.9 mEq/l ,Cl 102 mEq/l,

Ca 9.0 mg/dl, P 3.5 mg/dl,

BUN 12 mg/dl , CRE 0.68 mg/dl ,

AST 69 IU/l , ALT 147 IU/l, γGTP 78 IU/l

LDL 156 mg/l, HDL 53.2 mg/l, TG 174 mg/dl

HbA1c 7.1 %

ACTH < 5.0 , コルチゾール 21.2 μg/dl

コルチゾール日内変動(-)

1 mg,8 mgデキサメサゾン負荷試験: 抑制(-)

検査所見

身体所見 : 身長 160 cm 体重 110 kg BMI 43.0

血圧 160/114 mmHg HR 88/分整

満月様顔貌、中心性肥満、鎖骨上脂肪沈着、

腹部皮膚線条 (+)

精神症状 : (-)

月経異常 : (+)

腹 部 C T

副腎皮質シンチグラフィ

後 面 像

Black adenoma

サイズ

2.5x2.5x2.5 cm

症 例 2

年齢 50代前半 女性

主訴 両下腿浮腫

現病歴

2005年 両下腿浮腫で近医受診。ラシックス内服で改善するもACTH抑制、コルチゾール高値、CTにて両側副腎腫大指摘され、当院第３内科受診。クッシング症候群と診断。

2006年 1月、当院泌尿器科に手術目的にて入院。

検査所見

身体所見 : 身長 147 cm 体重 65 kg BMI 30.0

血圧 150/114 mmHg HR 78/分整

満月様顔貌(+) 、中心性肥満(+) 、鎖骨上脂肪沈着(-) 、

腹部皮膚線条 (+)

精神症状 : (+)

月経 : 51 歳 閉経

検査所見

WBC 8200/μl,Hb 12.6 g/dl ,Plts 192000/μl,

Na 148 mEq/l, K 3.4 mEq/l,Cl 113 mEq/l,

Ca 8.8 mg/dl, P 4.0 mg/dl,

BUN 9 mg/dl , CRE 0.45 mg/dl ,

AST 39 IU/l , ALT 84 IU/l, γGTP 81 IU/l

LDL 155 mg/l, HDL 57.9 mg/l, TG 181 mg/dl

HbA1c 5.8 %

ACTH < 5.0 , コルチゾール 23.7 μg/dl

コルチゾール日内変動(-)

1 mg,8 mgデキサメサゾン負荷試験: 抑制(-)

腹 部 C T

副腎皮質シンチグラフィ

後 面 像

Black adenoma

サイズ

2.6x1.7x2.5 cm

Black adenoma

副腎腺腫の多くは、類円形の橙色を呈する充実性腫瘤を示すが、クッシング症候群を示す腺腫の中には茶褐色を示すものがあり、black adenomaと呼ばれる。この色調は、通常の腺腫に比べ、脂質成分に富むclear cellが少なく、胞体内にリポフスチン顆粒を含み脂質成分の少ないcompact cellが多いためである。

剖検でのincidence rateは10-30%である。Robinson (1972), Lui (1980)

リポフスチン顆粒

PAS染色 Fontana-Masson染色

Odanaka et al. (2003)

リポフスチン顆粒

電子顕微鏡拡大像

1μm

Odanaka et al. (2003)

Cushinng症候群を呈したblack adenomaの過去の報告例

Bahu et al.(1974) 最初の報告

Dixon et al.(1983) J Nucl Med シンチ(+)

Reschini et al.(1990) Eur J Nucl Med シンチ(-)

Nomura et al.(2003) Bil black adenoma シンチ(+)

クッシング症候群を呈した腺腫中のblack adenomaの頻度

Komiya et al.(1985) 35 % (6/17) 日本

Neville and O’Hare(1982) 15 % (4/26) 英国

Reschini(1990) 8 % (1/12) イタリア

当院 40 % (2/5)

クッシング症候群を呈したblack adenomaのシンチグラフィでの過去の報告例における描出頻度

67 % (8例/12例)

陽性描出率

black adenomaの特徴

(1)女性に多い。

(2) クッシング症候群合併例が原発性アルドステロン症合併例より多い。

(3)通常の腺腫に比べ脂質成分が少ない。

CT値は40HU前後でCE(+)

MRIで脂肪抑制(-)

結 語

クッシング症候群を呈したblack adenomaの

2例を経験した。1例目では通常の副腎腺腫

の例とは異なる副腎シンチグラフィの集積

パターンがみられた。明瞭な集積がみられ

ない場合にはblack adenomaを鑑別に入れる

必要がある。