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60 西80 使25 調西使15 10 ART TOWER MITO 11 3 11 25 使使五十嵐太郎さん 建築史・建築評論家。1967 年フランス・パリ生まれ。 東京大学工学部建築学科卒業、東京大学大学院修士課程修了。博 士(工学)。2009 年から東北大学大学院教授。 31 30 取材…笠井峰子 │ 写真… 小泉慶嗣(*)、平井夏樹(**)

「建築」としての水戸芸術館 - city.mito.lg.jp · 水戸芸術館は、磯崎新さんのキャ リアから見ても、 60歳くらいのいち あって──これは磯崎さんが西洋建築のレファレンス(引用)がンの流れを汲んでいて、いろいろなつと言えると思います。

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Page 1: 「建築」としての水戸芸術館 - city.mito.lg.jp · 水戸芸術館は、磯崎新さんのキャ リアから見ても、 60歳くらいのいち あって──これは磯崎さんが西洋建築のレファレンス(引用)がンの流れを汲んでいて、いろいろなつと言えると思います。

 

水戸芸術館は、磯崎新さんのキャ

リアから見ても、60歳くらいのいち

ばん円熟した時期の、代表作のひと

つと言えると思います。ポストモダ

ンの流れを汲んでいて、いろいろな

西洋建築のレファレンス(引用)が

あって──これは磯崎さんが80年代

によく試みた手法ですが、よい素材

でいいものをつくって長く使いま

しょうという建築。

全体構成・広場

分節された複数の要素が街のように連続する

建築史家・五十嵐太郎さんに聞く

「建築」としての水戸芸術館

25周年を迎えた水戸芸術館の中を五十嵐さんと歩いて話を聞きました。

マニアも初心者も読んで楽しい水戸芸術館の基本情報&トリビア集。

 

こうして外から見ると、広場を囲

むコの字型の建物が、分節された複

数の小さな建物のように構成されて

いることがよくわかります。実際は

ひとつのつながった建物なんです

が、威圧感がないのはそのためで

す。ヨーロッパにはこんなふうに連

続する建築が広場を抱きかかえてい

るという風景がよくあります。ここ

はまさにヨーロッパ的な街の要素で

構成されているんですよね。

 

音楽・演劇・美術用の3つの専用

空間を持つというのが、水戸芸術館

の大きな特徴ですが、このような建

築はほかにあまり例

がないですね。思い浮か

ぶのは、同じころに建てられた愛知

芸術文化センターですが、こちらは

大ホールの収容人数が2500人規

模と非常に大きく、しかも名古屋市

の繁華街にあるので、空間が垂直に

積み上げられています。

 

水戸芸術館の場合は、敷地に余裕

があり、また各施設の収容人数も

700人前後に抑えてつくられて

いるので、スケール感が非常にうま

く調整されていると感じます。

 

西洋芝を敷き詰めた美しい広場

もここの特徴です。日本では

広場があっても、なかなか広

場として機能しないといわれ

ますが、ここでは「300人

の第九」のようなイベントや

マーケットが開かれたりと、

とてもおもしろい使われ方を

していると思います。

 

今から15年前、水戸芸術館の開館10周年を記念して『ART TO

WER M

ITO

水戸芸術館』という150ページにも及ぶ冊子が制作された。設計者の

磯崎新氏が監修するその冊子で、水戸芸術館の建築としての特徴につい

て丁寧な解説文を寄せていたのが建築史家の五十嵐太郎さんだ。

 

時は流れて2015年の11月、その五十嵐さんをゲストキュレイター

に迎えた「3・11以後の建築展」が、水戸芸術館の現代美術ギャラリーで

開催された。関連イベントのため水戸を訪れた五十嵐さんと芸術館内を

歩き、あらためて建築的視点からの特徴を語ってもらった。

 

25年経っても劣化を感じさせない

のは、チタンや石など上質な素材を

使っているからです。現代では、建

築はより透明で軽い方向へ、そして

コストをなるべく抑える方向へとシ

フトしていて、このような素材は建

築家が望んでももう使えません。そ

の意味で、水戸芸術館は、確実に経

済が元気だった〝時代〟が刻まれた

建築だと思いますね。

この巨大な石を

吊ったカスケードは、

磯崎新さんが、水戸の

地名にちなんで、

「水」を表現に取り入れた

ものなんです。

五十嵐太郎さん 建築史・建築評論家。1967年フランス・パリ生まれ。東京大学工学部建築学科卒業、東京大学大学院修士課程修了。博士(工学)。2009 年から東北大学大学院教授。

31 30取材…笠井峰子 │ 写真…小泉慶嗣(*)、平井夏樹(**)

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水平方向に広がる建物の中で、こ

の塔だけが垂直方向の要素になって

いますね。正四面体を積み重ねた外

観の線をたどると、三重のらせんが

空に向かって上昇しています。

 

高さは100メートルですが、こ

の高さは、水戸芸術館が市制100

周年の記念事業でつくられたことに

 

エントランスホールから階段を上

り、ドアをくぐると白を基調とした

華やかな空間が広がります。舞台か

らゆるやかな勾配で3方向に客席が

のびる、六角形のコンサートホール

です。長方形の空間をもつ箱型の形

式ではなく、サントリーホールのよ

うに、広げた手のひらの真ん中に舞

由来しています。先日教えてもらっ

たことですが、水戸ではこの近辺に

この塔より高いものを建ててはいけ

ないルールがあるそうです。空港な

どの周囲にそういった制限があるこ

とはありますが、現代建築がそうい

った基準になるというのはあまり聞

いたことがなく、珍しい例です。

台を置くアリーナ形式が採用されて

います。扇形の客席配置は観客同士

の視線が行き交う演奏会の臨場感を

生みだし、さらに合唱席にも使える

舞台の後ろのバルコニー席が加わる

ことによって、劇場と同様、舞台と

客席の一体感を強めています。

 

前述した磯崎さんの西洋の引用が

よくわかるのがこのエントランスホ

ールです。ヨーロッパの教会の内部

を連想させ、水平線の多い広場から

一転して縦の線が多い垂直性の強い

空間になります。パイプオルガン

は、磯崎さんの提案により、残響時

間が長いエントランスホールの特性

を活かして導入されたものです。

 

光が差し込む階段室から一転して、

劇場の内部空間は暗くなります。3

層の客席がぐるりと舞台をとりまく

十二角形の劇場で、2階は半円形に

沿った桟敷席、3階は舞台の後ろま

で円形に囲んだ桟敷席で、舞台を真

ん中にして円を描くように客席が配

された、求心性の強い空間です。

 

この劇場の基本構成は、シェイク

スピアの使っていたロンドンの伝説

的な劇場、グローブ座をモデルにし

てつくられました。近代以降に主流

となった額縁の向こうの別世界のよ

うな舞台ではなく、タイムスリップ

してシェイクスピア時代の一体感あ

る方式で芝居を観覧できます。

塔街を見下ろす100メートルの現代建築

コンサートホールATM

ゆるやかな勾配で広がる白い空間

エントランスホール

水平線の広場から一転して垂直の世界へ

ACM劇場

3層の客席に囲まれた求心的空間

塔の展望室には

小さな丸窓が

ランダムに

開けられていて、

潜水艦の窓から

のぞくように街が

見下ろせます。

パイプオルガンの

対面のガラス窓には

オニックスが挟まれ、

ステンドグラスの

ように光の色を

変換します。

水戸芸術館は、「25年以上の長きにわたり、建築の存在価値を発揮し、美しく維持され、地域社会に貢献してきた建築物」に与えられる

「JIA (日本建築家協会)25年賞」 を2015年度に受賞しました。

客席(補助席含む) : 620~680 席

客席( 座席可変 ) : 300~400 席33 32「建築」としての水戸芸術館

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ギャラリーは、全部で9つの展示

室、ワークショップの部屋、屋外彫

刻広場としても使える2階回廊部分

など、大きさや性質の異なる空間が

連鎖しています。

 

磯崎新さんは多くの美術館を設計

しましたが、独立した部屋が2列に

続くこのギャラリーの空間構成と上

部からの採光システムは、19世紀の

イギリス人建築家ジョン・ソーンの

ダリッジ絵画ギャラリーを意

識したそうです。

 

今回、僕も実際に「3・11

以後の建築」の展示に関わり

ましたが、自然光が入る空間

も多く、よい展示空間だと思

いました。意外に展示がしや

すい印象でしたね。

 

この間、ベルリンに行ったときに

すごく感心したことがあって、「壁」

が崩壊した後の25年くらいの間に、

現代建築が連続するおもしろい街並

みが新しく登場して、それが集合と

して力を持っているんです。

 

この水戸芸術館の周辺も、今後、

抽象レベルで水戸芸術館の建築を

〝再解釈〟し、呼応するような建築

ができてくれば、互いの価値を相乗

的に高めていくような展開がきっと

可能になると思います。

 

敷地の南西の角に位置する会議場

は、メインのエントランスホールを

通過しないで入ることができる独立

した施設です。直方体と2分割した

円筒を組み合わせた外観は、磯崎さ

んが好む18世紀のフランス革命期の

新古典主義の構成を意識したもので

しょう。

現代美術ギャラリー

2列に並び、連鎖していく空間

街へと連続していく

水戸芸術館

この広場や建築と呼応する展開を

会議場

優雅な曲線に包まれた楕円の空間

会議場の壁は、

カーテンを模した

コンクリート造の彫刻に

おおわれています。

触ると、視覚と触覚の

体験が一致しない

意外性に驚かされます。

会議場横の大階段は、

くねくねとした線に

ふちどられています。

この形態は、女優の

マリリン・モンローの

体型からとられて

いるんです。

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