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4.藻場・磯焼けに関する最近の知見 4.1 藻場の衰退状況(アンケート調査) 藻場の衰退状況を把握するため、2013 年に、 都道府県に対してアンケート調査を実施した。 アンケートでは、「かつて存在していた藻場が 衰退した地先」の有無等について質問した。 その結果は、図 4-1 に示すとおりである。こ れによると、ほぼ全国の沿岸で藻場の衰退が認 められている。2005 年の同様のアンケートで藻 場の衰退が確認されなかった千葉県でも、藻場 の衰退が確認されるようになっている。 また、藻場の衰退要因は、図 4-2 に示すとお りで、依然として植食動物による食害の影響 (41%)が高い様子が窺える。食害の分布は、図 4-3 に示すとおりで,ウニの食害は全国的に分 布し、植食性魚類は関東以南の太平洋沿岸で影 響を及ぼしていることがわかる。 図 4-1 藻場の衰退が認められる 都道府県(2009~2013 年) 図 4-2 藻場の衰退要因 ※その他は、濁り、海水温の上昇、静穏化など 図 4-3 藻場の衰退要因のひとつとし て食害が考えられている都道府県 主にウニによる食害 主に植食性魚類による食害 ウニと植食性魚類による食害 藻場の衰退が認められる。 藻場の衰退が認められない、 あるいは不明。 - 30 -

4.藻場・磯焼けに関する最近の知見 4.1 藻場の衰退状況 ......4.2 ウニの分布と藻場の衰退 ウニの食害による藻場衰退域については、

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Page 1: 4.藻場・磯焼けに関する最近の知見 4.1 藻場の衰退状況 ......4.2 ウニの分布と藻場の衰退 ウニの食害による藻場衰退域については、

4.藻場・磯焼けに関する最近の知見

4.1 藻場の衰退状況(アンケート調査)

藻場の衰退状況を把握するため、2013 年に、

都道府県に対してアンケート調査を実施した。

アンケートでは、「かつて存在していた藻場が

衰退した地先」の有無等について質問した。

その結果は、図 4-1 に示すとおりである。こ

れによると、ほぼ全国の沿岸で藻場の衰退が認

められている。2005 年の同様のアンケートで藻

場の衰退が確認されなかった千葉県でも、藻場

の衰退が確認されるようになっている。

また、藻場の衰退要因は、図 4-2 に示すとお

りで、依然として植食動物による食害の影響

(41%)が高い様子が窺える。食害の分布は、図

4-3 に示すとおりで,ウニの食害は全国的に分

布し、植食性魚類は関東以南の太平洋沿岸で影

響を及ぼしていることがわかる。

図 4-1 藻場の衰退が認められる

都道府県(2009~2013 年)

図 4-2 藻場の衰退要因

※その他は、濁り、海水温の上昇、静穏化など

図 4-3 藻場の衰退要因のひとつとし

て食害が考えられている都道府県

主にウニによる食害

主に植食性魚類による食害

ウニと植食性魚類による食害

藻場の衰退が認められる。

藻場の衰退が認められない、

あるいは不明。

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4.2 ウニの分布と藻場の衰退

ウニの食害による藻場衰退域については、2005 年のアンケート調査において、衰退の

原因となる種と分布密度の最大値を回答してもらった(図 4-4)。挙げられた種は、キタ

ムラサキウニ、エゾバフンウニ、ムラサキウニ、バフンウニ、ガンガゼ、タワシウニ、ナ

ガウニの7種であった。ウニの種や殻径サイズによって摂食能力が異なるため、単純に比

較はできないが、1 ㎡当たり 5~10 個体以上のウニが分布していると磯焼けが継続してい

るようである。海藻の現存量が少なく、ウニが摂食しやすい静穏な海域であれば、より少

ないウニ密度でも藻場の回復は困難であろう。

2005 年のアンケート調査において、ウニの資源量の動向については、東北地方、三重県、

九州地方で増大しているとの回答があった(図 4-5)。従来ウニによる磯焼けが問題とな

っている東北地方太平洋側では、震災後,ウニの資源量が増えており、新たな磯焼けを発

生させたり藻場の回復を妨げたりする恐れがある。ウニの殻付き単価については 5 自治体

から回答があったが、2004 年は 500~1,000 円/kg で、10 年前に比較して価格が低下す

る傾向にあった。安価な輸入品との競合によって漁獲意欲が低下し、さらに磯焼けを助長

していることも危惧される。

獲り揚げたウニの利用についての設問では、痩せウニを別の藻場(雑海藻の群落)へ移

植して一定期間後に漁獲し、身入りを改善しながら、コンブ漁場の再生を実施している自

治体があった。しかし、ウニを移植するだけで管理しない場合もあり、さらなる磯焼けの

拡大が懸念される。

図 4-4 ウニの食害による藻場衰退域の

ウニ密度(各海域の最大値を表示) 図 4-5 ウニの資源量の動向

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4.3 植食性魚類の生態的知見

ここでは、生態や行動が未解明なところが多い植食性魚類のアイゴとイスズミ類に関す

る知見を整理した。

1)アイゴ

(1)着底

アイゴの着底は、南西諸島を除けば一般には 8~10月と考えられる(山田ら,2006)

が、同一水域でも年変動が大きい。

蓋井島(山口県下関市)では 8月以前の着底は観察されていない。

稚魚の耳石日輪を調査した結果では、アイゴの孵化から着底までの期間は 19~25

日(大半の個体は 21・22 日)であった。石垣島や長崎県でも約 25日と報告されて

おり(山田ら,2006、金城ら,1999)、緯度の隔たりが大きい場所でも浮遊生活期間

はほぼ共通している。

(2)アイゴ稚魚

全長 30~40㎜前後と全長 50㎜以上では、外観や生態に顕著な違いが認められるので、

それぞれの特徴を分けて記述した。

①全長 30~40 ㎜前後

全長 30 ㎜前後の稚魚(図 4-6、A)は、成魚に比べると体高が低く頭部もやや細く、

細長い体形。この体色が赤みを帯びて見える個体は、着底直後か、着底後数日程度

しか経過していない。

全長 40 ㎜前後の稚魚(図 4-6、B)は、30mm 前後の個体と比べて体高が高くなり、

体全体が銀色の色素で覆われるようになり、明るい黄色も帯びる。

全長 30 ㎜前後と 40㎜前後の稚魚は、比較的大きな群れを形成し、汀線付近のガラ

モ場に集まり、ホンダワラ類をついばんでは移動する(図 4-7)。1000尾を超える非

常に大きな群れもよく観察され、追いかけると、群れを維持しつつ逃避する。

ガラモ場に着底した稚魚の胃内容物から判断すると、全長 30~40 ㎜前後の稚魚の主

な餌はホンダワラ類に着生する大型の付着珪藻類である。

全長 30 ㎜前後 全長 40 ㎜前後

図 4-6 全長 30~40㎜前後のアイゴ稚魚の外観

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図 4-7 全長 30 ㎜前後と 40㎜前後のアイゴ稚魚の群れ

②全長 50㎜以上

体高の高さと体色のくすみが目立つようになり、基本的な体形・体色はほぼ成魚と

同じである(図 4-8、左)。

ガラモ場を群れで移動しながら、ホンダワラ類をついばんでは移動する。その一方

で、プランクトン類や浮遊懸濁物を食べ、礫の表面をついばむ様子も観察される(図

4-8、右)。

全長 70 ㎜を超える個体では、ホンダワラ類の枝葉を噛みちぎる行動を目視でも観察

できる。

この時期の稚魚は、付着珪藻類からホンダワラ類の藻体上の着生藻類や礫の小型藻

類へと藻類食を強め、体長 60㎜を超えると胃中にはホンダワラ類が優占する。

図 4-8 全長 50 ㎜を超えるアイゴ稚魚の外観(左)と群れ(右)

(3)アイゴ成魚

死後の標本では、くすんだ黄褐色の体色に多数の小白点が特徴的であるが(図 4-9)、

生時のアイゴの体色や斑紋は魚の興奮などの生理状態を反映してよく変化する。例

えば、胸びれの上部に見られる黒斑は同一個体でも現れたり、消えたりする。また、

個体変異や場所による変異もある。

アイゴ成魚は単独や 2,3 個体で海藻を食べている様子が普通に潜水観察されるが、

その一方で大きな群れも形成する(坂本,1996)。

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群れの場合は,単独個体とは異なり、大型褐藻類を食い散らかすような食べ方に変

化するため(野田,2014a)、短期間の来遊でも藻場に及ぼす影響が極めて大きい。

それは単独個体による影響の単純な総和ではなく、遙かに大きな影響を及ぼす(コ

ラム 4-3)。

海藻に対する選り好みは非常に大きい(野田,2014b)。例えば、カジメ科海藻の葉

状部消失現象は、魚類の食害が注目を浴びるきっかけとなった現象ではあるが、カ

ジメ科海藻はアイゴが特別に好きな海藻ではない。しかし、選択性の低い海藻を食

べないわけではなく、選択性の高い海藻がなければ食事のメニューに取り入れ、最

終的には食べ尽くすと考えられる。

図 4-9 アイゴ成魚の外観(左)とアイゴ成魚の群れ(右)

2)イスズミ類

本邦に分布するイスズミ類は、イスズミ、ノトイスズミ、テンジクイサキ、ミナミイス

ズミの4種である。肉に特有の匂いがあり、多くの地先で水産物として流通しない。また、

外観から種を識別することは比較的難しく、一括してイスズミ類として扱われる場合が多

い。このため、藻場周辺にどの種類が多いのかなど分布に関する基礎情報が乏しく、行動

の範囲やパターンについてもほとんどわかっていない。数少ない事例として、長崎県の長

崎市や福江市では、漁獲されたイスズミ類のうち約 95%がノトイスズミ、約 5%がイスズミ、

他の 2 種は稀、宮崎県の日向市と串間市では定置網と刺し網によって漁獲されたイスズミ

類の 64%がノトイスズミ、9%がイスズミ、27%がテンジクイサキという比率が知られて

いる。宮崎県では時期や漁法によってこの比率が異なる可能性も示唆されている。

(1)消波構造物に集るノトイスズミの行動特性

壱岐市地先などの消波構造物(消波工付防波堤や消波ブロック式離岸堤等)には、毎

年冬になるとノトイスズミの大型成魚が集まる。2010 年 5 月に和歌地先で偶然発見さ

れた約 500尾の群れは、年によって若干前後するが、およそ 1~4 月の間、消波構造物

に集まることがその後の調査でわかった。この場所で、周辺藻場への影響を探る調査の

一環として、バイオテレメトリー法による追跡調査を行った。調査には追跡型と待ち受

け型の 2 タイプ(図 4-10)のシステムを用いた。その後、消波構造物に集まるのは主に

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日中で、夕方には消波構造物を離れて夜間に活発に移動し、岬の反対側(東側)に到達

する場合があること、および翌朝には元の消波構造物に戻るという日周期性を示すこと

がわかった(図 4-11)。その移動経路には葉の大半を失ったワカメがたくさん観察され

たことから、夕方から早朝の間にワカメを食べている可能性が示唆された(八谷ら,2013)。

図 4-10 ノトイスズミの行動追跡調査に用いた 2 つのバイオテレメトリーシステム

その後の各地での調査によって、このような群れが長崎県内の多くの消波構造物で見

られることがわかり、宮崎県の 2 つの消波構造物でもやや小規模ではあるが群れが見つ

かった。恐らく両県以外の消波構造物でも今後発見されるであろう。

図 4-11 受信器の配置(左図の数字)と、代表的な受信結果(右図)

左図の黄線は消波構造物に集る時期の移動範囲、青線は消波構造物に群れが見られなくなった

後の移動範囲.右図の赤丸は日々の最初の受信、青丸は最後の受信。

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(2)夏から秋の行動特性

一方、夏~秋の追跡調査では受信される期間が短く、これまでのところ十分なデータ

が得られていない。代わって外部標識(スパゲティータグ)を用いた標識放流の結果を

紹介する。放流は 2013 年 4月と 7 月の 2 日間に行われ、約 300尾のノトイスズミが放流

された。その後、2 尾の再捕結果が得られ、うち 1 尾は放流後 2 ヶ月弱でおよそ 9 ㎞北

へ移動していた。ハワイ島では、尾又長 36㎝のイスズミが放流後の 433 日間に少なくと

も 457km 移動して島の西側から東側に到達したこと(Sakihara et al. 2015)、カリブ海

に生息するイスズミ属の一種は岸から約 10km 沖の水深 30~40mに集って産卵を行うこ

と(Nemeth and Kadison, 2013)が報告されている。ノトイスズミも夏~秋には壱岐島や

その周辺のかなり広い水域を行動範囲にしている可能性がある。

図 4-12 標識放流の結果(放流地点は右図の和歌)

(3)効率的な漁獲に向けて

これまでの行動調査や試験操業に基づくと、本種の効率的な漁獲が期待される手法や

留意点は表 4-1 のとおりである。今後、各地での検証が必要である。

表 4-1. ノトイスズミの効率的な漁獲方法

漁 法 場 所 時期/対象 留意点

刺網

消波

構造物

冬~春 朝夕の消波構造物の出入りを狙って設置する

初夏 朝夕の通過時を狙って設置する

小規模な群れ 警戒心が強いので脅かさないように注意する

沿岸浅所 約 10~6 月 何度も繰り返すことが必要

定置網 沿岸 5~11 月 時期や場所によって漁獲量が異なる

(4)イスズミ類の採食行動

ここでは、主に水槽内実験によって把握したノトイスズミの採食行動に関する知見を

解説する。

①大型褐藻類に対する採食行動と採食の選択性

水槽内ではノトイスズミは、アラメ・カジメ類を与えると葉状部だけでなく茎の採

食も観察されるが、アイゴのように極度に食い散らかす食べ方は観察されていない。

クロメでは中央葉の根元付近に直接噛み付くことが多く、そのため葉状部の脱落が

よく生じるが、ホンダワラ類では藻体の脱落はあまり観察されない。また、アイゴ

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と異なり、水槽の底に散乱した藻体もよく食べる。

ノトイスズミは大型褐藻類に対して採食の選択性を示す。胃内容物を調べた報告で

は、ノコギリモクやヒジキなどのホンダワラ類が優占し、アラメ・カジメ類は極め

て少ない(井上ら,2005、Yamaguchi,2010)。水槽実験においても、アラメ・カジ

メ類に対する選択性は低いことが示されている。ただし、低水温期にノトイスズミ

が大量に蝟集する消波ブロック周辺のアラメ・カジメ類は採食されており、捕獲し

た個体の消化管からもアラメ・カジメ類の藻体片が出現している。また、ホンダワ

ラ類の中にも選択性が高い種と低い種がみられ、ヤツマタモク、イソモク、ノコギ

リモク、ヨレモク、トゲモク、ジョロモク、クロメの 7種で比較した水槽実験では、

ヤツマタモクとイソモクは選択性が極めて高く、その一方でジョロモクは、クロメ

と並んで最も選択性が低かった。

②採食行動の日周性

前述のとおり、消波ブロックに蝟集したノトイスズミは夕方から早朝の時間帯にワ

カメなどを採食している可能性が示唆され、室内水槽でも暗視野ビデオカメラを使

った観察と時間帯別の採食回数の結果から夜間の採食が確認されている。

特に嗜好性の高いヤツマタモクを使った水槽実験では、薄明期と薄暮期に高頻度で

採食することが示される。したがって、ノトイスズミの日間採食量を求める場合に

は、薄明薄暮期と夜間も含めて実験・調査計画を立てる必要がある。

③水温と採食量

ノトイスズミの日間採食量は、海藻の種間で大きな相違があり、選択性の高い海藻

は数値が大きく、低い海藻は数値が小さく、選択性の強さを反映している。

嗜好性が高いとみられているヤツマタモクの場合では、水温 25℃で体重の約 4%の

藻体を採食し(24 時間給餌の結果に基づく)、この数値は 10日間の継続給餌でも同

様な値となった。ただし、水槽飼育に基づく算出結果であり、過小評価の可能性も

ある。

水温の上昇とともに日間採食量

は増加する傾向があり、水温 18

~30℃まで温度を変化させた実

験では 30℃の高水温でも活発

に海藻を食べる(図 4-13)。一

方、水温 12~16℃まで 2℃単位

で変化させた実験では水温 16

℃を境にこれより水温が低下す

ると、選択性の高い海藻でも日

間採食量が急激に減少し、12℃

ではほとんど海藻を食べなかっ

た。アイゴでは 20℃から採食量

が急減し、16℃でほぼ海藻の採食を停止するので(桐山ら,2001、川俣・長谷川,2006)、

ノトイスズミはアイゴに比べてより低い水温でも採食が続くと考えられる。

図 4-13 ノトイスズミによる 3種の大型褐藻類

の日間採食量(24時間給餌の結果に基づく)と

水温の関係

18℃ 20℃ 25℃ 30℃0

10

20

30

40

50

設定水温

湿重量(g)/魚体重(kg)・日

アラメノコギリモクヤツマタモク

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4.4 植食性魚類の分布と藻場の衰退

文献および近年の採集記録に基づき、植食性魚類の分布を図 4 ー 14に示した。アイゴは、

北海道を除く全国に分布し、外海、内湾どちらにも多く確認される(ただし、東北太平洋

岸では稀)。ニザダイもほぼ同様の分布が知られている。この 2 種は、年によっては対馬

暖流の影響によってかなり北上する。ブダイは千葉県以南、富山県以南で確認され、イス

ズミ類も、同様の分布パターンを示すが、やや南側に偏る。アイゴやブダイは外海にも内

湾にも分布するが、イスズミ類やニザダイは外海に分布する傾向がある。

図 4-14 植食性魚類の分布(Fujita,2010改変)

次に、2005 年のアンケート調査における植食性魚類 4種の生息状況について、天然で

再生産が行われているのか、幼魚あるいは成魚が確認されているのかという設問の回

答を図 4-15に示す。アイゴの再生産を確認している最も北の県は静岡県(実際には千

葉県である)で、日本海側では秋田や山形まで幼魚が確認されている。アイゴには定

着性と回遊性があると言われているが、分布の北限に近い静岡県で再生産が確認され

アイゴ ブダイ

イスズミ類 ニザダイ

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ていることから考えても、暖流に伴って回遊する群れだけではなく、定着している群

れもいるようである。アンケートの回答には、静岡県から「アイゴは春から秋の水温

20℃以上で出現」し、長崎県からは「5~12 月に出現し、18℃以下では採食を中止す

る」というコメントがあった。

ブダイ、ニザダイ、イスズミ類は、いずれも千葉県で再生産が確認されている。日

本海側では回答が少ないが、秋田県でニザダイとイスズミ類の成魚を確認しているの

で、分布していないのではなく、これまで留意して観察されていなかったと推察され

る。静岡県からは「ブダイ、ニザダイが周年分布」し、長崎県からは、「ブダイ、イ

スズミ類が周年分布する」というコメントがあった。

なお、以上はアンケート調査の結果であるが、植食性魚類の分布や生息状況につい

ては、その他の文献情報も含めて藤田ら(2006)が詳しくまとめているので、参考に

していただきたい。

図 4-15 植食性魚類の再生産・幼魚出現状況

アイゴ ブダイ

イスズミ類 ニザダイ

再生産、幼・成魚確認

幼・成魚確認

成魚確認

幼魚確認

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4.5 九州・山口沿岸の藻場の状況

1)四季藻場と春藻場

陸上植物と同じ様に海藻にも一年生

と多年生の種類がある。多年生海藻は一

年生海藻と異なり、通常は一年中枝葉を

茂らせる。一方、九州や四国南部の沿岸

では、同じ多年生海藻がつくる藻場であ

りながら、枝葉の茂る期間が春を中心と

する半年程に限られ、残りの期間はまる

で磯焼けの様な景観を示す藻場(図

4-16)が知られるようになった。そこで、

前者を四季藻場、後者を春藻場と呼び分

けることが提案され(吉村ら,2009)、

行政や研究、業界などで広く用いられて

いる(長崎県,2012)。

図 4-16 四季藻場、春藻場、磯焼けの季節変化

2)四季藻場における季節消長

構成種は多年生の温帯性ホンダワラ類やアラメ・カジメ類である。ホンダワラ類は伸びた枝が初

夏に成熟してタネ(幼胚)を出すと、茎から離れて流れてしまうが、すでに翌年成熟する若い枝が

ある程度伸びている。カジメ類でもタネ(遊走子)を出した葉部が流れて藻体量は減るが、残る部

位も多い。このような季節変化はあるが、海藻の枝葉は一年中茂っている。代表種はオオバモク、

ノコギリモク、マメタワラ、ヤツマタモクなどのホンダワラ類およびアラメ、カジメ、クロメである(図

4-17)。

図 4-17 四季藻場が維持される仕組み

- 40 -

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3)春藻場における季節消長

春藻場の構成種は、温帯性ホンダワラ類のうち根(付着器)から栄養繁殖によって枝葉を再生

できる種(マメタワラ、ヤツマタモク、イソモクなど)と、同じ特性を持つ南方系ホンダワラ類である。

四季藻場で植食性魚類の影響が大きくなると、ノコギリモクなどの温帯性ホンダワラ類やアラメ・カ

ジメ類は茎の末端付近にある生長点(分裂組織)まで食べられて枯れてしまう。アラメ・カジメ類は

高水温にも弱い。この結果、根から枝葉を再生できる種だけが生き残るが(図 4-18)、夏から初冬

には岩礁表面に根やごく短い藻体のみ残るため、磯焼けそっくりの景観に転ずる。マメタワラなど

は高水温下ではごく短い藻体で過ごす場合もある(土屋ら,2011)。南方系ホンダワラ類はタネを

出して枝が枯れ落ちた後、しばらくは根だけの状態で過ごし、水温が低くなる頃から新しい枝を伸

ばすという特徴を持つ(八谷ら,2011)。言い換えると、過度の食害を受けても再生できる一部の温

帯性ホンダワラ類、夏は小さな状態になって食害を避ける南方系ホンダワラ類、あるいはこれらが

混生する藻場が春藻場である。南日本に多くみられるが,伊豆半島内浦湾でもこのような藻場(マ

メタワラが優占)が知られている。

図 4-18 春藻場が維持される仕組み

近年、九州沿岸の藻場では以下の変化が顕著である。

① かつて生えていた海藻の種類にかわり、南方系の見慣れない種類が目立つようになった。

② かつては一年中海藻が茂る四季藻場であったのに、最近は春を中心とする半年弱しか茂ら

ない春藻場になっている。

③ 大きな海藻はほとんどなくなり、小さな海藻しか見られない。

④ ウニが増えて小さな海藻もほとんど見られない。

これらの変化には、近年の海水温の上昇によって、昔から生えていた海藻には適さない

水温の期間が長くなったり、海藻を食べる動物の影響が大きくなったりしたことが大きく

係わっていると考えられる。ウニを食べる動物が減った可能性も検討の必要がある。春藻

場が見られるようになったのは、長崎県沿岸では 2000 年頃からで、鹿児島県西岸域ではよ

り早くから成立していたと推察される。

- 41 -

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4)九州・山口沿岸で発生したカジメ類の大量流失

2013 年 8 月は日本海西部で水温が高く、一部では平年値より 2℃以上高い状態が中旬

から下旬にかけて続いた。この高水温と 9 月上旬の台風接近に伴う波浪によって大量の

カジメ類(アラメ、カジメ、クロメ、ツルアラメ)が茎部の根元付近から脱落・流失し、

海岸に打ちあがった(八谷ら,2014)(図 4-19)。被害水域は長崎県対馬・壱岐から福

岡県沿岸を経て、山口県北部にまで及び(村瀬,2014)、海岸線総延長距離は 200 ㎞を

越えたと推定される。おそらく本邦で初の規模によるカジメ類の流失であろう。

当初、カジメ類の葉状部が白っぽく変色して正中線に向かって両側から巻き込む症状

が見られ、その後に茎の根元付近が傷んで流失したと考えられる。周辺のホンダワラ類

に目立った変化は見られなかったが、秋以降には魚類による採食が残った海藻に集中し

たらしく、ホンダワラ類に対する食害が各地で観察された。裸面の増えた岩礁部ではア

ワビなどが発見しやすくなり、その後の漁期には各地でアワビが多獲されたため、今後

の資源への影響が心配される。

その後の回復状況は、地先によって様々であり、残った藻体からの再生や、新たに発

生した幼体によって藻場が回復に向かう地先がある一方で、幼体がほとんど発生せず磯

焼けの危機に陥っている地先も見られる。今後しばらくの間、藻場の状況を注視する必

要がある。

葉が白っぽく、巻き

込んでいる

茎の根元付近で倒れる 藻体の流失後は付着器だけが残る

海岸に打ちあがった大量の藻体 付着器のない打ち上げ海藻

図 4-19 カジメ類大量流失の様子.

- 42 -

Page 14: 4.藻場・磯焼けに関する最近の知見 4.1 藻場の衰退状況 ......4.2 ウニの分布と藻場の衰退 ウニの食害による藻場衰退域については、

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【コラム 4-1】植食性魚類の出現時期

1)★日本海側(福井県)の事例

福井県嶺南地区では、1978 年より毎年アイゴの漁獲量調査を実施している(図 1)。年によっ

て増減はあるが、近年は 2,000kg 前後である。アイゴの漁獲時期は 9~12月が多い。この時期は、

海藻の幼体の生長時期であるため、注意が必要である。

図 1 アイゴの漁獲時期

(緊急磯焼け対策モデル事業 福井県発表資料から作成)

2)太平洋側(静岡県)の事例

静岡県御前崎地先において、カジメあるいはノコギリモクを海底のブロック上に設置して、毎

月、24 時間(1 日)、水中ビデオで植食性魚類の出現と摂食状況を撮影した(表 1)。9~11時

は連続撮影、11 時以降は 2秒撮影、28秒休止の間欠撮影を行った。

この例は、各月 1 日のみで、撮影範囲が限られた調査ではあるものの、植食性魚類の行動がお

おむね把握できる。これらの結果から、植食性魚類の出現は夏から秋であり、秋に摂食圧が高く

なることがわかる。また、アイゴやブダイは夏季に産卵するので、産卵期前から除去する必要が

ある。このような調査事例が各地で増えることを期待する。

表 1 植食性魚類の 1時間毎の出現・摂食状況(口頭発表資料から作成)

増田ら(2006):御前崎海域での設置型水中カメラを用いた藻食性魚類によるカジメ食害状況の

24 時間観察,日本水産増殖学会第 5 回大会.

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

kg

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

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【コラム 4-2】★アイゴの採食生態の調査事例

和歌山県田辺市沿岸の 3×3×3m

の生簀にアイゴを 8尾収容してカジ

メを給餌し、2004年 7~10月の摂食

量を求めた。図 1にこの間の水温と

カジメの日間摂餌率を示す。これに

よると、7~8 月は同程度のカジメ日

間摂餌率であるが、9月頃から上昇

し水温が約 27℃になる 9月末に盛ん

になった。

2004年 12月には、水温を変えた

100 リットルの水槽に、アイゴ各 3尾を

収容し、カジメを給餌して日間摂餌

率を求めた。図 2に水温と摂餌率の

関係を示す。これによると、26~29℃

で日間摂餌率は高く、これより低く

ても高くても極端に低下した。

2004年 11月には、1tの水槽を用

意してアイゴを 8尾収容し、カジメ

を給餌して 2時間毎の摂餌率を求め

た。図 3 にアイゴのカジメ摂餌率の

日周変化を示す。これによると、周

囲が明るくなり始める 5~7 時の間

に摂餌が始まった。その後、徐々に

摂餌率は上昇し、13~15時に最も高

くなった。

植食性魚類の生態が少しずつ明ら

かになってきている。アイゴのみで

なく、ブダイやイスズミ類の行動も

明らかにする必要がある。

山内ら(2006):アイゴ(Siganus fuscescens)の摂餌生態と音刺激による摂餌抑制効果について,

水産工学,43,65-68.

図 1 カジメに対するアイゴの日間摂食率と水温変化

(日間摂餌率(%)=日間摂餌量(g)/総魚体重(g)×100

図 2 カジメに対するアイゴの日間摂餌率

図 3 アイゴのカジメ摂餌率の日周変化

(摂餌率(%)=摂餌量(g/2hr)/魚体重(g)×100)

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【コラム 4-3】アイゴの群れの大きさと採食速度

野田らは、1.8tの水槽(25℃)内に平均体重 334gのアイゴを 5、10、20 個体と個体数を変

えて収容した。朝 9時にアラメ 1株を設置して 17 時に回収し、この間はビデオカメラで採食行

動を撮影した。この実験で、アラメの葉状部の欠損量、脱落量および採食量を測定した。その結

果、アイゴの個体数が多いほど、アラメの葉状部の欠損速度(アイゴ 1個体、1時間当たり)は

大きくなることが判明した。さらに、アラメ全体の欠損量に占める摂食量と脱落量の割合を群れ

の大きさと比較した(図 1)。採食量の割合は、5 個体区で多く、20個体区で少ない。アラメの

脱落量は、アイゴの群れが大きいほど多い結果となった。

このように、多量の葉状部の脱落を引き起こすアイゴの採食行動は、大きな群れサイズで顕著

になることがわかった。したがって、群れで生活するタイプのアイゴの密度を低くできれば、藻

場への食害の影響をかなり小さくできる可能性がある。

図 1 アイゴの群れの大きさに伴うアラメの採食量と脱落

野田ら(2004):アイゴの採食によるコンブ目大型褐藻類の脱落と群れサイズの影響,平成 16 年

度日本水産工学会学術講演会講演論文集,133-134.

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【コラム 4-4】★アイゴの天敵

アイゴは背鰭などに毒がある鋭い棘をもっており、自然界において捕食者(天敵)は少ないと

されているが、生活史の一部を藻場で過ごすアオリイカは、アイゴなどの磯魚を捕食することが

知られている。アイゴはアオリイカに対して逃避行動を示すだけでなく、アオリイカの存在自体

によってアイゴの採餌行動等が影響される可能性がある。

アオリイカとアイゴの飼育試験を行い、両者

の行動パターンを確認した(図 1)。アオリイ

カは成体、幼体ともアイゴを水槽に投入すると

すぐに捕食行動がみられた(図 2)。アオリイ

カは捕らえたアイゴの内臓は必ず食べていた

が、胴体部分はほとんどの場合、食べ残してい

た。アオリイカは動く物に対して素早く捕食行

動を起こすが、水槽底に横臥している個体、あ

るいは密な群れを作ってあまり動かない個体

は、単独で遊泳している場合よりも捕食しない

傾向がみられた。

アイゴの防御的行動は、試験期間を通じて観

察されたが、試験開始 2 日目以降の捕食はほと

んど暗期に起こっており、暗期はアオリイカ側

に有利な状況と考えられる。また、アオリイカ

の胴長よりも大きなアイゴは、捕食されなかっ

たが、アオリイカの存在下では密な群れを作る

などの行動がみられ、捕食されないサイズのア

イゴにおいても、アオリイカの存在はプレッシ

ャーを与えることが確認された。アオリイカ幼体は1日当たり最大7~8.5 尾、平均 4~4.8 尾

のアイゴ稚魚を捕食した。水槽内にアイゴが逃避できる場所を設定してもアオリイカのアイゴ捕

食数への影響は認められず、アオリイカがアイゴの個体数を減らす効果は非常に高いと考えられ

た。

アオリイカがアイゴを頻繁に攻撃している場合には、アイゴの海藻採食量は顕著に減少したが、

アオリイカが飽食して攻撃しない場合には、海藻採食量は影響されないことが示された。本試験

では空間的に制限された水槽内の実験であり、海域においてアオリイカの攻撃を受けたアイゴは

藻場から離れ逃避するのか、個体数を減らしながらも藻場に留まるかは今後の課題である。

((公財)海洋生物環境研究所)

図 1 アイゴを捕食するアオリイカ

図 2 アオリイカに内臓を食われたアイゴ

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