49
Ecole et cinéma 2015/2016 1 Sylvie Durieux CPAV 78 Wadjda Dossier d’accompagnement pédagogique Sommaire 2 4 6 7 8 9 13 15 16 20 24 30 32 35 36 37 39 42 43 44 45 47 47 49 Fiche technique / Résumé Affiche française Affiche arabe Affiche italienne Pistes de travail Réalisatrice Genèse Analyse du scénario Pistes de travail Découpage séquentiel Personnages Mise en scène et signification Pistes de travail Analyse d’une séquence Retour d’images Pistes de travail Le vélo au cinéma Les femmes en Arabie Saoudite Bibliographie L’Arabie Saoudite – Le Coran L’habillement Vocabulaire Interdisciplinarité Sources

か。 …… -且 入ど共存するロボットを目指して · カー、ユーザーも加わり、これからの 人間共存ロボットのための責任分担構 造を社会とつなげなければならない。

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Page 1: か。 …… -且 入ど共存するロボットを目指して · カー、ユーザーも加わり、これからの 人間共存ロボットのための責任分担構 造を社会とつなげなければならない。

……

吉田今日は、ロボット研究の若手リ

ーダー三人に集まっていただきまし

た。まず自己紹介を兼ねて、ご自分の

ロボット研究の話をしていただけます

か。

前野私はもともとロボットの研究者

というより、超音波モータのようなア

クチュエータや触覚センサなど、いわ

ばロボットの部品の研究者でした。同

時に、ミミズやアオムシの動き方や、

人の触鴬メカニズムの研究など、生物

のアクチュエータとセンサの研究も行

ってきました。アクチュエータやセン

サの研究を行っていますと、それらを

組み合わせたくなりまして、触覚を持

ったロポットハンドや、進化するロボ

ットなど、ロボットの身体の研究も行

うようになりました。さらに、ロボッ

トの身体の研究をやっていますと、今

度は心にも興味がわきまして、最近で

は、『脳はなぜ「心」を作ったのか』

座談会様々な□ポット研究

特集⑤□ポットと社会 -且

入ど共存するロボットを目指して 薗缶ヨ

澤蒋駕強堂…

勤彊3-買騨》『零繋熟豊議愚蟹鰯麗涯

出席者(敬称略・順不同)という本にも書きましたように、人と

ロボットの心の研究も行っています。

学際領域としてのロボティクス、ある

いはロボットと人の関係に興味を持っ

ていて、哲学者や心理学者の方とも交

流しています。加えて、現在では、技

術者倫理に関する授業もやっていまし

て、「心を持ったロボットを作っても

いいか」というような内容も題材にし

ています。

山田私は二年前に大学から産業技術

総合研究所に移ったのですが、大学で

の研究者としては当初、センサとか通

信といったロボットの要素技術、ある

いはロボットシステムとしての知能化

の問題を研究課題としていて、その後、

人間と共存するロボットの研究にドー

ンと入りました。つまり、ロボットと

人間の協調、人間がロボットと安全に

共存できるかといった研究を始め、そ

のようなシステムの実用化の研究をや

ってきました。

具体的にはいま、産総研に移ってか

》一一劃一薗鬮喜劇調驚畠圃鬮劉圏圏謹鎮隠騨鴎鴎劉團矧電劃蕊瀦艫璽騨鷺一睡齢鴎寵闘蔵

東京大学人工物工学研究センターサービス工学研究部門教授

十の一一一ニエ

はじめ

淺間

一九八四年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。理化学研究所研究

員等を経て一一○○一一年より現職。工学博士。自律分散型ロボットシステム

の研究、複数自律移動ロボットの協調技術、知的データキャリァとその応

用技術の開発などに従事。

産業技術総合研究所知能システム研究部門安全知能研究グループリーダー

やまたようじ

山田陽滋

一九八三年名古屋大学大学院工学研究科電気電子工学専攻博士前期課程修

了・豊田工業大学助教授、スタンフォード大学客員研究員等を経て現職。

工学博士・専門はロボティクス、安全知能o著書に『新版ロポットエ学ハ

ンドブック」等。サービスロボットの拠点形成を推進中。

慶腫義塾大学理工学部機械工学科教授

崖えのたかし

前野隆可

一九八六年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了。キャノ

ン株式会社を経て九五年慶應義塾大学理工学部機械工学科専任講師。同助

教授を経て一一○○六年四月より現職。工学博士。専門はロボティクス、ア

クチュエータ、触覚センサ・触覚ディスプレイ等。

慶應義塾常任理事、慶應義塾大学理工学部システムデザィンエ学科教授

よしだかずお

吉田和夫(司△三)

塾員(昭娼工、記工博)。一九九四年より慶應義塾大学理工学部教授。専

門はロボット工学、振動工学、制御工学。一一○○一一年、一一○○四年、’’○

○五年ロポカップ世界大会にて吉田研究室チームが優勝。

らは、引き続き、人間共存ロボット実

用化のための安全技術、知能化技術の

研究を行っていますが、これに加えて、

ロボットの実用化を取り巻くルールを

しっかりつくっていこうという「制度

設計」の研究をやっています。

淺間私は最初からずっとロボティク

スの研究をしていました。もともとは

例えば、原子力プラントで何か問題が

起こったとき、そこへいって見てきた

り、ちょっとした作業をしてくる、いわ

ゆるメンテナンス・ロボットの研究をや

っていました。そのうち状況に応じて

柔軟に作業できるようなインテリジェ

ンスが重要だということになり、そこ

から複数のロボットをどう協調させる

かとか、複数のモジュールのものを合

体して構成される自己組織型ロボット

などの研究をしました。さらに分散的

システムというところから今度はユビ

キタス、いろいろな環境にあるいろい

ろな知的モジュールを埋め込み、ロボ

ットを協調させて動かすシステムの研

=回

MITA-HYORON2006、610 J1特集・ロボットと社会

Page 2: か。 …… -且 入ど共存するロボットを目指して · カー、ユーザーも加わり、これからの 人間共存ロボットのための責任分担構 造を社会とつなげなければならない。

究を理化学研究所でやっておりました。

その後東大に移ってからロボティク

スをベースにどのようなサービスをつ

くるかという、いわゆる「サービスエ

学」の研究をしています。つまりここで

はモノをつくるのではなく、どうサー

ビスをつくるのかが非常に重要なテー

マで、そのサービスを提供するのが人

間ではなくロボット技術やユピキタス

技術であると考え、それらを使い、人

にどういうサービスを提供できるかと

いった研究をしています。また、そのた

めにはヒトを理解しないとできないも

のですから、最近移動知というプロジ

ェクトを始め、ロボット技術を使いな

がら、動物や人間の持っている典型的

な適応的行動能力のメカニズムを解明

していくという研究をやっています。

吉田私はもともと鉄道や自動車など

の振動の制御が専門で、世の中にたく

さんある振動制御の問題をずっとやっ

てきました。

ロボット研究のほうは十五年以上前、

事故情報を分析再利用して二度と同じ

ような事故が起こらないようにする枠

組みがどうしても必要なのです。

それから事故の事例を集めるだけで

なく、ロボットを安全につくるために

はみんなで守っていくべき標準規格技

術をつくりあげていくわけです。それ

で規格に対しては認証と、それを規制

する人たちが必要ということになる。

最近の耐震データの偽装問題は、認証

機関がうまく働かなかったから起こっ

たと言えるわけです。ロボットにだっ

て当然そういう問題が将来起こり得る

わけですから、ロボットに対する認証

と規格と、規制との関係、そこにメー

カー、ユーザーも加わり、これからの

人間共存ロボットのための責任分担構

造を社会とつなげなければならない。

構成要素の全部がしっかり機能しな

ければならず、どこか一つだけ発展し

ていても社会的にはそういう制度がう

まく機能しない。どこかに歪みが起き、

それがもとで事故になる。そのような

スキーの宙返り演技をロボットにやら

せ、きちんと着地させるというのが、

私のロボット研究の最初の具体的テー

マでした。これは非線型問題という結

構難しい問題をニューラルネットワー

クで解けないかという研究で、これに

成功したんです。着地に成功したので、

そのあと半捻りや半回転など三次元的

技の研究までやったのですが、もとも

と制御屋ですから具体的なロボット研

究をもっとやりたくなったんです。

となると一台のロボットだけではな

く、複数のロボットでさらにいろいろ

なことができないか、学生への教育と

いう観点からも「ロポカップ」という

フィールドに参戦すればおもしろいか

なと、ロボットのサッカーチームをつ

くってロポカップに参加し、いま世界

で二連覇中と成果をあげています。

でも、やはり制御のほうに興味があ

るものですから、この「安全・安心」が

要求される時代のなか、「安全・・安心」

の技術としてのテストペットとして、

ことをいま経産省に提言しているとこ

ろで、現在、このような社会的システ

ムの構築を推進するセンターを発足さ

せていこうという状態です。

吉田まだロボットの事故例は少ない

ということですが、私が以前やってい

た原子力の安全問題も同じなんです。

だから、私はコンピュータ上で事故を

どんどん起こす。コンピュータ上では

事故が起きても大丈夫なので、それで

データベースをつくったりしました。

山田まさにロボット研究も同じで

す。リスク・アセスメントのためのシ

ミュレーターをつくり、それに例えば

こんなふうにヒューマンエラーが生じ

た、とより汎用性の高い一一一一口葉のレベル

で表現されたことがらを入力する。シ

ュミレーターはそれを物理的な局面と

していろいろなパターンを考える。そ

れは。を聞いて十を知る」というこ

とだと思うのですが、具体的に何か誤

って手を置いたのが机の上であること

もあれば、どこかの台の上に置くこと

吉田「安全・安心」という見地から、

山田さんの考えている「具体的ルール」

というのはソフト面、ハード面も含め、

どういうものなんですか。

山田制度設計ももちろん知能にかか

わるわけですが、安全を確保するため、

例えば人間とロボットが社会で一緒に

いるとどんなリスクがあるのかといっ

たリスク・アセスメントをまず最初に

考えます。

それがどれぐらい大きなリスクなの

かを評価するためには、過去の事故の

知見が必要になる。なにせまだロボッ

トはろくに社会に出たことがないの

で、衝突したらどんな事故、どんな傷

害を人間にもたらすのかというのがわ

からない。したがって、まず事故デー

タを漏れなく集めないといけない。そ

して、集めた知見をフィードバックし、

ロボットを利用しているというのが現

実です。

もあるだろう。そこにどんなリスクが

潜んでいるかを考え、一つの想定され

た事故から二度と類似の事故が起こら

ないよう、多くの警告を発することが

できるようにしたいわけです。

吉田そういう意味では倫理に関係す

る話にもなってきますが、ヒューマン

エラーには人間の心とか内的な問題も

あるのかもしれませんね。

前野私の興味は、ロボットそのもの

を具体的にどう産業用につくりこむか

ということより、人間の構造とロボッ

トの構造とはどう違うかというところ

にあります。倫理の問題がおもしろい

と思うのは、人間は人工物を設計目的

にしたがって設計するのですが、同時

に、より安全でなければいけないとか、

使い勝手がよくなければいけないとい

ったマクロな目的も、実は同時に持っ

ている。それに対し、従来のロボット

は、一つの目的に対して一つのことを

やるという融通のきかないものでし

た。私の興味の一つは、そこを打破し

‐咀泗10勺

「安全・安心」を保証するために

■q■?可10108口|ロ8Ⅱ0。■■■

【3特集・ロボットと社会 12

Page 3: か。 …… -且 入ど共存するロボットを目指して · カー、ユーザーも加わり、これからの 人間共存ロボットのための責任分担構 造を社会とつなげなければならない。

ろのですが、安心はもっと奥深いもの

だと思う。

安全の定義というのは、許容できな

いリスクがまったくないということ。

つまり自分にとってだけでなく、例え

ばあるシステムのなかにあるリスクを

みんなで拾い出し、そのリスクが許容

できる程度のもの、あるいはそれ以下

のものばかりであれば、「安全だ」と

なる。ところが「安心」の話になると

「心」にかかわることなので、主観の

問題になってくる。だから安心してい

ても安全じゃないということがありう

るわけです。信号が青なので歩き出し

たら車にぶつけられたとかです。

となると安心を本当に確保しようと

思ったら、さっき前野さんがおっしゃ

ったように、システマティックにある

安全を超えるような信頼関係がないと

いけない。だから「信(しん)」とい

うものが出てきて、その信を支えるも

のは、例えば『里見八犬伝』じゃない

けど忠義心だとかになって(笑)。そ

たいというところにあるんです。つま

り、階層の異なる目的に対する答えを

並列分散的に同時に解いている心や身

体の仕組みに興味があります。

その一つのシンプルな例が触覚の研

究です。人間は、ツルッル、ザラザラ

といったような触感を大脳により意識

下で感じると同時に、無意識のうちに

物を滑り落とさないような制御も行っ

ている。これは非常にミクロな例です

が、倫理も同じだと思うのです。生命

の随所に現れるこのようなアナロジー

は面白いですよね。

要するに、これまでのロボットは倫

理感など持っていなかった。倫理観は、

ロボットを設計する側が持つべきもの

だと考えられていたわけです。そして、

ロボットは、与えられた仕事をするだ

けでした。そうではなく、「私はどう

振る舞うべきか」という倫理あるいは

行動規範のようなもの、つまり、マク

ロな目的を、ロボットに埋め込むべき

だと思うんです。倫理教育によって倫

ういう心的な結びつきの概念というの

が、システムを設計していく段階では

非常に重要になり、例えば、相互の信

頼関係を構築するのに個々の要素に求

められる技術要件は何かという問題

は、すでに工学の対象になっている。

吉田特に「安心」が難しいのは、自

分にしてほしいサービスが明確にわか

っている人は、しっかり設計できるか

もしれないけれど、何をしてほしいか

わからない人もいま十・からね(笑)。

淺間サービス工学で最近感じる一つ

重要な概念は「適応」という概念です。

サービスの価値を決めるのは結局人間

なので、主観に依存することになるわ

けです。するといろいろな価値観を持

っている人に対してサービスを提供す

るためには、その人に合わせる機能が

サービスシステムにないといけないわ

けで、「適応」が必要になる。

そして、もう一つ重要な概念が「誘

導」です。いま吉田さんが一一一一口われたよ

うに、人間の場合、何がほしいかと聞

吉田なるほど。人間がロボットに期

待するもののなかに一種の高度な道具

というか、自分の奴隷といったイメー

理観を持った人をつくるという話と、

倫理を持ったロボットをつくるという

ことを、オーバーラップして考えてい

きたいと思うのです。将来の夢みたい

な話ですが。

吉田まさにサービスロボットはその

両面が必要でしょうね。

淺閂そうです。サービスを語るには

その価値は何かということを考えない

といけない。価値にもいわゆるプラス

の価値とマイナスの価値があって、倫

理とか安全であるという話は、マイナ

スの価値をいかに減らすかということ

だと思うんです。サービスというと、

ロボット技術で何ができるのか、何を

してくれるのかという議論が多いな

か、むしろこうなってはいけないのだ

という議論も重要なのです。

人間と共感できる□ポットとは

かれると、実はわからないという人が

ほとんどで、例えば自分は本当はこん

なもの買うつもりなどなかったのに、

見たら欲しくなって買ってしまったと

いうケースがよくある。これは環境に

誘導されて、欲しいという主観が生ま

れたわけです。そういう意味ではサー

ビスエ学というのは奥が深い(笑)。

山田それも共感みたいなものですよ

ね。例えば人間とロボットが一緒にい

ると、ロボットを人間って大体こんな

ものが好きなのかなというのをわかる

ようにするという意味では、シンビオ

ティックにできるだけ一緒にいると、

その人の価値観がわかってくる。だけ

どそれだけでなく、もっと働きかける

ことによって共感を生む方法もあるで

しょう。

例雲えば餅つきを例にするなら、人間

が作業しようとするとロボットもそれ

に合わせ、杵を持ち上げホイホイつい

ていく。となると人間にも熱い気持ち

が出てきて、もっと早くやりたくなっ

ジが特に欧米人には強くある。だから

欧米には自分の道具だと思っていたロ

ボットが人間を襲うといった恐怖が常

にあって、そういう映画やSFという

のがたくさんありますよね。ところが

日本ではドラえもんや鉄腕アトムもそ

うだけど、人間的で倫理観もある優し

くいいロボットが多く登場し、あたか

もロボットを人間のように見ている。

これは欧米とかなりアプローチが違う

ような気がします。

欧米人がびっくりしたのは、日本の

工場へいったら産業用ロボット|台一

台にみな名前がついていたということ

だそうです。そのような違いがあるの

で、安全とかサービスとか心とか、そ

ういう面では逆に日本のロボット技術

者が最も、ある種独自のロボット文化

をつくっていけるのではないかという

期待感を持っているのです。

山田「安全・安心」の定義の議論を

するのは大変です。安全のほうはかな

り明確な定義が社会的にもできつつあ

r■腓61N■0ⅢTBpIT

0坪Ⅵ■6。{■■■・ロ11且●町qj6●勺几凹可HⅢ

D特集・ロボットと社会 /手

Page 4: か。 …… -且 入ど共存するロボットを目指して · カー、ユーザーも加わり、これからの 人間共存ロボットのための責任分担構 造を社会とつなげなければならない。

吉田ヒトとロボットのインターラク

ションというか、サービスロボットな

り人間と共存するロボットの場合は、

ヒトとロボットの関係が少なくとも人

間側に、信頼しうる何かがないと成り

立たないし、それに呼応するロボット

にも何かないと無理でしょう。

昔、安西塾長がやった有名な実験が

あります。学生のいる教室にロボット

が入ってきて「この教室は五時までし

か使えません。皆さん出ていってくだ

さい」と言うわけです。するとロボッ

トの一一一一口っていることは関係ないと無視

する学生もいる。一方ただのロボット

といっても、そう言わせているのは大

学当局で規則はそうなっているんだ

な、と裏側にある見えない社会を読め

る人はちゃんとそれを守る。

要するにこれは一台の物理的なロボ

ットが同じことを一一一一□っても、そのロポ

てくるというような(笑)。

ということだと思います。

吉田特に欧米の場合、宗教的背景が

影響しているかもしれません。日本人

の場合、神がどうのとかでなく、人間

の形をしていたほうが可愛いというの

もありますが、もともと機械に人間を

求めている。すべてに魂ありという感

じです。それがやはりロボット研究に

も色濃く出ている気がするんです。し

かし、いまはヨーロッパも逆にヒュー

マノイドに慣れてきていますね。

淺間ヒューマノイドの研究はアメリ

カではあまりやられてなくて、ヨーロ

ッパでは少し出てきましたが、日本の

ヒニーマノイドとはずいぶん違う。そ

れは単に人間の形をしたロボットなの

ですが、日本のヒューマノイドの研究

はコミュニケーションできるとか、人

間の形をしたロボット以上のものが求

められているような気がするんです。

ヨーロッパには「ロボットコンパニ

オン」という概念がありますが、そこ

に人間的な情を入れる対象だといった

□ポットに映し出される文化的吉二一宗

ツトの背景にあるものまで考えるかど

うかで人間の捉え方が違ってくるとい

うことです。これはサービスロボット

には常につきまとう問題です。文化的

に日本人は人工物に対してもそういう

背景に思いを馳せやすいけれど、欧米

人はかなり違っている。もともとある

文化的背景を反映してくるのではない

かと思うんです。だから「安全・安心」

に関して日本でスタンダードをつくっ

て世界にそのまま持っていけるかとい

うと、自動車とか新しい工業物だけで

あればわりとスタンダードがはっきり

するけれど、「安全・安心」は人間の

文化を背負ったものになっていくよう

な気がします。

山田そうですね。例えばヨーロッパ

でもサイエンスだと割り切って、ロボ

ットをツールとして利用し、それで脳

や。身体性といったものを研究している

人ももちろんいる。しかし彼らには、

ロボットはやはり機械だという醒めた

部分が大きく、これは人間にとってど

概念はまったくなく、われわれの生活

を支援してくれる単なる機械という意

味合いが非常に強い。そういう意味で

日本の場合、情を移入する気持ちが強

いせいか結構外観にこだわる人が多い

ように思います。ヨーロッパのものと

はまず見栄えが全然違いますね。

山田ロボットの奥に設計者の意図が

あり、モノにはみな魂があって、大事

に使えばいつまでも使えるのは、そこ

に自分の魂が反映してるからだと。だ

からわれわれは心みたいなものを平気

でモノに埋め込むことができるわけで

す。だけどヨーロッパは現実的で、機

械は壊れるものでしかないから、生命

だとか人間の心とかいったものと乖離

した無機的なもの、として見ることを

基本に考えているのではないかと思う

んです。

淺間文化的に言うと、東洋文化はコ

トを三一視し、西洋文化はモノを重視す

る。東洋文化のコトというのは、モノ

とモノとの関係なので、例えば人間と

…融

う役に立つんだとか、経済的にどんな

効果を生むのかというように、やはり

出口から入っていく。

例えば移動ロボットにしても、案内

ロボットや掃除ロボットなど、そうい

う出口が見えると、それを達成するた

めには知性が必要だというわけで、そ

こに人工知能を導入していこうとす

る。そこには何か醒めた機械としての

見方があるというか、ロボットは人間

とは違うんだというところからスター

トしているような気がするんです。

前野慶應のドイツ人の語学の先生

が、面白いことをおっしゃっていまし

た。ヨーロッパ人から見ると、日本人

のつくるヒューマノイドに違和感があ

るだけでなく、日本人がヒューマノイ

ドをつくるということ自体が、得体の

知れない感じがして、心の根底で実は

日本人を理解できないのだとおっしゃ

っていた。すでに日本で長くお過ごし

なのに、ですよ。東洋と西洋の文化に

は、実はそれぐらい大きな断絶がある

ロボットが共有する場というところか

らその価値が決まってくる。ところが

西洋文化にはそういう概念がないの

で、ロボットはロボット、人間は人間

だという、はじめからそういう先入観

があるような気がするんです。

前野私が本に書いたのはまさにその

ことです。人間には自由意思と確立し

た自己があり、それが積極的に働いて

いるんだというのが西洋的な考え方で

すが、私はむしろ人間もロボットと同

じで、自由意思だと思っているものさ

え自律分散的なもののなかから生まれ

てくる受動的なものじゃないかと思う

んです。所詮は人間もロボットも一緒。

それは釈迦の思想や老荘思想と同様だ

と思います。先ほどの誘導の話や安心

の話もそうで、絶対私はこれをやると

か、絶対安心だ、などという本来的な価

値はなく、価値は相互作用のなかから

出てくるのだということです。これは

まさに、本来、東洋的な思想ですよね、

現代哲学もこれに近いですけれども。

qqd則01。.▽■用hrCqq咀旧Jf1■■目刊.INWJP■Ⅲ1■則ロ日b■I0q5qdUIUI0■qJげ■ⅡⅡ別H11B3q■四JⅢ円。

/6 〃特集・ロボットと社会

Page 5: か。 …… -且 入ど共存するロボットを目指して · カー、ユーザーも加わり、これからの 人間共存ロボットのための責任分担構 造を社会とつなげなければならない。

報で形成されており、最終的には行動

に結びつけなければならないのだけ

ど、「そういえば、自分はこれはやり

たい」とか、「あれはやりたくない」

という局面が多々あるわけです。

このようなときは、いくつものやり

たいことや、やりたくないことが互い

にぶつかる。そこの部分で過去の経験

を振り返り、いまだったら、きっとこ

っちをやっておいたほうがよいだろう

という、ある意味では強化された自分

の判断基準に基づき、行動を一つに決

めて発現させるというメカニズムが

「意」だと考えています。だから「知」

と「情」が集まって「意」にかけられ

る。ただ、その「情」の部分を個体レ

ベルで「感情」と言うと、もちろんこ

れも脈ままで脈々と個々の生命を維持

するために備わっているプログラムと

いうことになるのですが、「情動」と

いうとさらにスケールの大きな側面が

出てくる。

例えば東洋的な情動、西洋的な情動

吉田少し違う切り口で一一一一口うと、欧米

の人工頭脳というのは全部大脳という

か、意識の世界をモデル化しようとし

ている。だけど生命には無意識の世界

があり、たぶんロボットも同じで、欧米

人はそれに気づかず、すべて意識のフ

ァンクションを実現しようとしている。

逆に言えばロボットが無意識の世界

を持つのが欧米人には怖い話なんでし

ょうね。でも「安全・安心」の時代に

役立つロボットにはそういうメカニズ

ムがないといけない。「こうなったら

こうしなさい」というシナリオに基づ

いたアプローチでは、「安全・安心」

はつくれない。何となく危ないとか、

大脳レベルで明確に感じなくても体が

動いてしまうような世界もつくらない

と。生物は非常に暖昧な情報で動いて

いますし、そこがキーポイントだと私

は思っているんです。

淺間最近、移動知の研究を生物学や

生物はどんな仕組みで行動するか

というのがあって、そこには民族や社

会構造の違いによって脈々と埋め込ま

れ形成されてきた互いに異なるプログ

ラムがあるわけです。ある民族から見

るとどうってことないものに、その民

族の人はみなものすごくこだわる、し

かもそれがどうしても起こってしまう

というレベルの、自分の運動を決める

ためにあらかじめ埋め込まれている指

令みたいなものがあると感じているの

ですけれど。

吉田生物は自然に「知・情・意」の

バランスがとれているのかもしれませ

んよ。それこそ四十億年の進化の過程

でいろいろな遺伝子がその環境に適応

し、いろいろなプロセスでバランスを

保ってない限り淘汰されてしまう。自

然界にいま生き残っている生物には一

種の摂理があると思うのです。

人間がつくるものにはそのバランス

が非常に欠けているものが多く、その

アンバランスが「安全・安心」を設計

するときすごく大きな問題になると恩

医学の先生方といろいろ議論しながら

やっているのですが、これまでの脳科

学や神経生理学でわかり始めたのが、

いわゆる情動レベルの行動です。適応

的に行動することは、どんな動物にも

備わっている知的機能なんです。でも

それは、大脳皮質、高次脳のほうから

指令されてそういう行動が出ているの

かというとそうじゃない。むしろ体性

感覚から上がってくるもので、情動的

な行動をすることによって、非常に適

応的で安定的な行動が出るような仕組

みがあることがわかってきた。実は脳

科学にしる神経生理学にしろ、高次脳

機能に関しては注目度も高く、研究も

進んでいるのですが、その下の無意識

のレベルでどうやって生物が適応的な

行動をするのかは、実はほとんどわか

ってない。

実際ロボティクスでも、サービスロ

ボットだと、人間に接する機会も多く

なるので、適応的に行動できることが

求められるわけですが、それを実現す

うし、そのへんのメカニズムが設計論

に反映されてないんです。そこを今後

反映させていきたいというのが、私の

アプローチなんです。

前野私は、「情動」は意識のクオリ

ァに色付けをする機能だと考えてい

て、「知・情・意」の中で特別扱いす

べきだとは思っていません。私の考え

はニヒリズムに近くて、「情動」だけ

でなく「意思」とか「意図」さえ、同

じように無意識の世界から湧き上がっ

てきたものであるにもかかわらず、私

たちがそれをあたかも自分で決定して

いるかのように感じているに過ぎない

と考えています。

「知」も「情」も「意」も同じよう

に無意識から湧き上がってくるものだ

というふうに考えれば、人間というの

は思っているほど偉いものじゃないの

ではという気がするし、逆にロボット

研究のラストリゾートは「意識」だと

思うのです。

|方、意識とセットになって重要な

るにはどうしたらいいのかは、いま、

まだ方法論がないんです。移動知とい

う研究では、われわれの適応的な行動

は、移動することによって生まれると

いうコンセプトに基づいています。た

だ座っていたら知的な機能は得られま

せん。動くことが重要なんです。移動

知の研究によってそういう無意識レベ

ル、情動レベルの生物のメカニズムを

明らかにしていき、生物学にも貢献し

ながら、それをまたフィードバックし、

どうしたら適応して行動できるロボッ

トをつくれるかという設計原理が、研

究のなかから得られるのではないかと

期待しているのです。

山田私は意図の推論という研究をし

てきています。「知・情・意」という

ことがありますが、「知」とは感覚系

つまり外界から取ることのできるもの

で、「情」というのは、お腹がへった

から何か食べたいとか、生命維持に関

わるもっと根源的、内発的なところか

らくる。当然、「知」はたくさんの情

/,特集 ロボットと社会 '8

Page 6: か。 …… -且 入ど共存するロボットを目指して · カー、ユーザーも加わり、これからの 人間共存ロボットのための責任分担構 造を社会とつなげなければならない。

のは機械工学的にいえば無駄な機構で

す。だけどその冗長性の中に、何かこ

とが起こったときに即対応できるよう

わざと余裕を持たせてあるという構造

があるわけです。そんなメカニズムが

生物の場合いろいろなところに仕込ま

れているんです。しかし、いまのロボ

ットにはそういうのがまったくない。

そこに一つの新しいアプローチが隠さ

れているのではないかと思っているの

ですが。

前野サブサンクション・アーキテク

チャみたいなものは、原理的にはそう

いう考え方ですよね。並列的に上位と

下位にはなっていますが、バランスに

よってそういう情報処理をしようと。

吉田だからいろいろな事象をいかに

バランスさせるかということに.なるの

だけれど、抑えるほうと、もっと頑張

れという競争的な二つのことをうまく

バランスさせると。

前野バランスのためのメカニズムと

して私がイメージするのは、人間の脳

点は、自律分散的な無意識下の情報処

理がどのように行われているかという

ことだと私も思います。脳の神経細胞

数は一千億もあり、無意識の構造はあ

まりにも複雑なのでいかに生物に学

び、どのように作り込んでいくかとい

うところが非常に難しい。

吉田最初のアプローチとしては、私

は瞳昧な情報を積極的に利用するメカ

ニズムをつくることだと思います。と

いうのも生物というのはかなり暖昧な

情報を使っているからです。「情」の

なかでも「やる気」が重要です。「絶

対成功する」、「絶対失敗する」とわか

っていたら、やる気はゼロになる。だ

から人間が一番やる気になるのは普通

は五分五分でうまくいくかもしれない

というときなんです。だけどそういう

「やる気」のメカニズムが普通ロボッ

トにはほとんど埋め込まれてない。

だから情の世界は人間の永遠の課題

新しいアブ□-チの可能性

‐iI

の神経には抑制性結合が非常に多いと

いうこと。サルにはあまり多くないの

ですが、高度な生き物になるほど多い。

つまり、要素の数が多くなるほど、互

いに抑制し合わざるをえないというイ

メージです。

山田私もそう思います。そこをフォ

ローするだけのため、僕はいま一生懸

命「大脳基底核」の持つ意味が大事だ

という話をしているんです。いまかな

り研究も進んでいる大脳基底核のなか

には線条体というところがあって、そ

こにドーパミンが入ってくると、それ

に応じて抑制強化されたり脱抑制され

たりするという。

もともと、たくさん情報が入ってく

ると、脳のなかでは全部それが活性の

ほうに働き、それをまた全部運動系に

持ち込むと、行動がもうバラバラに定

まらなくなってしまうわけです。だか

らできるだけ維持しておきながら、自

分が報酬を得られそうなものだけ行動

発現に結びつけようとするところがあ

で、解明されるとは思わないけど、そ

の解明を目指す上で、一番欠けている

のはコンピュータを使って情報処理を

するとき、暖味な情報をどう生かすか

ということだと思うんです。何となく

危ないんじゃないかという程度の暖昧

さで人間は行動しますから。

淺問移動知研究の中で、東北大の矢

野雅文先生の話に「みなし」というの

がありますね。例えばロボットで何か

判断しようとすると、基本的に環境が

無限定だから行動を決定するための情

報が絶対的に不足する。そういうなか

で何か行動を決定しなければいけない

ときは、なんらかの情報を自分のなか

でつくりださないといけないわけで、

それを彼は「みなし」と呼んでいる。

いま得られている情報からだけで

は、ものすごく限られたことしかわか

らない。だから、その情報以外のとこ

ろで、次に必要な情報をつくり出す機

能が必要になってくる。人間にはそれ

ができるけど、いまの機械はそれがで

11

I 吉田話が随分、高度に面白くなって

きましたが、少し現実に戻って、まず

サービス系ではどんなロボットが必要

る。基本的には暴走を抑えることで、

バランスをとろうとするメカニズムが

大事かなと思うんです。

淺間私の考えはちょっと違ってい

て、いわゆる脳幹、脊髄に出てくる投

射は、大脳基底核からのいわゆるGA

BAによる抑制性の投射だけでなく、

大脳皮質から興奮性の投射があり、こ

れがバランスしているからうまく動い

ているのではないかと思うのです。例

えばパーキンソン病の場合にドーパミ

ンが低下すると、抑制が強くなりすぎ

て逆に興奮性出力が抑えられてしま

い、バランスが崩れる。それによって

うまく歩けなくなったり、手のコント

ロールができなくなったりします。そ

こがまさにバランスの力学ではないか

なと思うのです。

きない。いままでのロボット工学で扱

われてきたアルゴリズムとかアーキテ

クチャというのは、同じようなものば

かりで、新しいアルゴリズムやアーキ

テクチャがいまなかなか出てきにくい

状況なんです。でも生物は非常に多様

なそういう仕組みを持っている。

吉田そういう意味ではいままでのロ

ボットと全然違ったつくりのロボット

が、これからどんどん出てこないとい

けないということですね。

淺間ええ。それから「バランスの力

学」という視点から生物を見ていると、

あるシステムと、もう一つの対立する

システムが常に並行して走っていて、

これが状況に応じてうまくバランスが

とれている。これはロボット工学には

ない思想です。私たちはその一方を動

かすか止めるかだけ、|つの要素です

ませようとしてしまう。

例えば常に前に行こうとするもの

と、後ろに行こうとするものを両方動

作させ、それをバランスさせるという

□ポット研究の二つの方向

21特集・ロボットと社会 20

Page 7: か。 …… -且 入ど共存するロボットを目指して · カー、ユーザーも加わり、これからの 人間共存ロボットのための責任分担構 造を社会とつなげなければならない。

とされているのか、これからの夢とと

もに語っていただきたいのですが。

淺間急に俗世界の話に戻ってしまい

ますが、最近経産省が「新産業創造戦

略」ということで、ロボットを重点分

野として取り上げた。日本は非常にロ

ボット研究が盛んだし、産業用ロボッ

トも保有台数、生産台数ともに世界一

で、ITでアメリカに遅れた分、RT

(ロボットテクノロジー)とかIRTと

か呼ばれているロボット技術で世界を

リードしていて、そのために重点化す

べしと言っています。

ただ、一家に一台ヒューマノィドが

入って、・身の世話をしてくれるような

状況には、私はなかなかならないと思

ってます。でもロボット技術というの

は、例えばセンサとかアクチュエータ

とか、そういうものがいろいろなもの、

環境のなかに埋め込まれているという

状況で、人の役に立ち二つの大きな産

業になるという湯ふうに考えています。

吉田そういう意味でロボットとRT

思っています。

一方、そもそも、ロボット研究者の

モチベーションの源泉は、一一一口ってしま

えば、面白いから、なんだと思います。

二足歩行ロボットの研究を始めた人

は、実は、二足歩行を実現できたらお

もしろいと直感的に思ったから始めた

んだと思います。私がロボットの心を

つくりたいと思っているのも、直感的

に面白そうだから、という一面があり

ます。それだけでは実学である工学と

して責任を果たしていないと言われま

すし、私も役に立つロボットをつくり

たいですから、心を持ったロボットが、

例えば老人介護の場や心の病を持つ人

のために、心安らぐようなコミュニケ

ーションをできるようにしたいと思っ

ています。しかし、究極的には面白い

からです。

’一一一口い換えれば、心について考えると

いう面白いことに携わるのは、これま

では哲学者や心理学者だと思われてき

たんですが、これからは、ロポティク

J▼甲40..J■

というのはずいぶん違いますよね。

淺問ええ。RTというのは例えばセ

ンシングの機能や、アクチュエータ、

つまり動く機能があつ・たり、情報処理

機能があったりするものをすべてRT

と捉え、それらがいまのユビキタスの

あい室

技術と相俟って、われわれの身の周り

のいろいろなものや環境に入ってく

る。それがヒトをいろいろな形で検知

したり、認識、判別しながらいろいろ

なサービスを提供してくれるとなって

いく。それがロボット技術、すなわち

RTが産業として花開いていく、一つ

の方向性じゃないかと思っています。

そしてもう一つの方向性として、そ

れとは逆に、サイエンスに役立つよう

なロボティクスというのが重要になる

と思います。生物学のこれまでの手法

でヒトや生物を知るには、限界がある

んです。例えば実験動物でできること

に、技術的にも倫理的にも限界がある。

そういうときロボット技術が役に立っ

て、いわゆる実世界でどういうインタ

山田安全技術でいえば自動車などそ

の典型ですが、いまいろいろな分野で、

冬の時代を迎えつつあると考えていま

す。機械に対して安全な装置を搭載す

るという点では、やれることは本当に

高いレベルまできている。ただ、産業用

機械もそうですが、本当に問題になっ

ているのはヒューマンエラーなんです。

ヒューマンエラーをどう機械が認

識、あるいは察知して、それを未然に

防ぐかという問題は、はるかに解決が

難しい。ヒューマンエラーのモデル化

はそんなに単純ではなく、どこかを刺

激すれば必ずこういう間違いを人間は

犯すという必然性がないものですか

スや認知科学など、多くの分野の者が、

文系、理系という枠を超えて、学際的

に協力し合っていく。そのようななか

に身を置いて、科学技術そのものと、

科学技術のあり方を、同時に考えてい

きたいと思っています。

「社会的な備え」のための□ポット

!!

ラクションがあるのかも含めたモデル刀一

化が行われ、適応的行動が発現するメ

カニズムが、そのロボットなりシミュ

レータを構成することによって明らか

になる。そんな蚤ふうにロボット技術が

学術的に大きな貢献をし、それによっ

てまた技術がより発達する、そういう

方瘻向に発展していくだろうと私は予想

しています。

前野淺間さんが非常にわかりやすく

まとめてくださいましたが、私も全く

同感です。ロボット自体が産業として

売れるという時代はそう簡単にはこな

いと思います。ですから、まず、マン・

マシーン・インターフェースといいま

しょうか、人間にとって意識的にも無

意識的にも使いやすいインターフェー

スとしてのRTといったようなもの

が、今後非常に重要になっていくだろ

うと思います。自動車や家、家電、携

帯、文房具など、様々なもののロボッ

ト化といいましょうか。私自身も、そ

のために何らかの形で貢献できたらと

ら、ヒューマンエラーに対応できる技

術というと極めて限られている。技術

者や研究者は一生懸命ヒューマンエラ

ーを防ぐための、あるいはこれらに早

期に対応できるような提案はしている

のだと思うのですけど、本当にそれが

状況に応じて確実に働くのかという疑

念があって、企業などでもなかなか上

司から「GO」のサインが下りない。

そういう意味ではなかなか方法論が見

つかってないという状況です。

吉田これからはどうしてもヒューマ

ンエラーに対応していかなければいけ

ないと。

山田はい。よく「許容リスク水準の

状況依存性」と一一一一口うのですが、安全の

対抗軸に必ず経済性という規範がある

ので、ここまでならよさそうだと水準

を変えて無理をすると、平常と比べて

ちょっとの差でヒューマンエラーにつ

ながるというメカニズムになっている

んです。

ですから、「この人はこういう状況

事特集・ロボットと社会

Page 8: か。 …… -且 入ど共存するロボットを目指して · カー、ユーザーも加わり、これからの 人間共存ロボットのための責任分担構 造を社会とつなげなければならない。

だとハイリスク、ハイリターンの行動

に出る」というように機械が対象のヒ

トとしばらく一緒にいることによって、

状況に応じたその人の行動を機械が察

し、わかってくれるような技術がブレ

イクスルーを生んでくれたらいいなと

考えています。そういう意味ではロボ

ット単体だけでなく、いろいろな場面

でRTで人間を見張りながら、この人

はこういうことをしがちだとわかるシ

ステムができればよいと思います。

その実現には社会知の考え方も重要

になる。みんなの技術知見を集積し、

それぞれ信頼性の高い部品がシステム

のなかで個々にしっかり機能するよう

な技術構築の世界的枠組みをやはり人

間がつくっていかないといけない。だ

から、いま私は制度設計というのをや

ってるわけです。ただ、制度設計とい

うのはすぐに答えが出るものでなく、

十年、二十年後にやっと秩序をもって

できるような議論なので、いまからや

っておかないと、高信頼で寿命の長い

部品ができない、あるいはそのような

部品が出てきても、それらを組み上げ

るところで失敗が繰り返されることに

なりかねない。

淺間まとめていただく意味で、ぜひ

吉田さんに一つ話していただきたいの

は、「社備」という話。ロボットのもう

一つの重要な貢献には、その社会に災

害なり何かが起こったとき、人間では

対応できないところをいかに機械が対

応してくれるかということですよね。

吉田二十世紀のテクノロジー、ある

いはサイエンスは不幸なことに軍備に

使われたんです。私は二十一世紀のテ

クノロジーは「社会的な備え」でなけ

ればいけないと思う。それを「社備」

と一一一一口っているわけです。要するに二十

一世紀のテクノロジーは地球号がこれ

から遭遇するさまざまな問題に備える

形のテクノロジーであって、ぜひ日本

が先頭を切って世界に貢献することが

重一妄なのではないか。

社会的な備えとしてのレスキューを

持ちうるし、工場のなかだけでなく社

会に出てくるロボット、世界で何か問

題が起きればそこへ飛んでいって、落

下傘で降りていき、問題解決の加勢を

したりするようなロボットの実現が夢

といえば夢です。日本は世界の消防署

になるべきだと思うし、日本はそこに

国家的な予算をかけてもやるべきだと

思います。

淺間「日の丸サンダーバード」みた

いな(笑)。

吉田社会的備えというのは地震とか

災害だけのテクノロジーではない。い

ま実際に地雷の問題もあれば、大気汚

染や水の問題など多くの環境問題もあ

るわけですから。

山田そう指摘されてみると、日本の

セキュリティーそのものも、決してい

い状態ではなくなりつつあるので、吉

田さんのおっしゃるような工学的な概

念で、日本はもとより世界を救えるよ

うなインフラとしてのRTの役割が見

出されていくといいですね。

2‘