11
日獨医報 第52巻 第 2 号 2007 門脈大循環シャントに関して解剖学的な分類を試み 1) シャントの理解を深めるために必要に応じて実習解剖体 を供覧し、自験例のマルチスライスCT(特に3D画像)・ 血管造影像を中心に図説した。 経肝内門脈シャント 1.肝内門脈肝静脈シャント 肝内に静脈瘤を形成して肝静脈に注ぐもので、時には 多発する場合もあることから肝性脳症の原因にもなり塞 栓術 2) の適応にもなる(図 1)。 肝表面にみられるシャントで特に肝内にみられるもの と形態的に別のものではないと思われるが、部位が特徴 的なので別に分類している文献もある。確かに肝表面に 血管が露出している場合もある(図 2)。 2.右三角靭帯を介するシャント いわゆるbare areaを介するシャントで接するのは横隔 膜であり下横隔静脈や肋間静脈へと流入する。また右副 腎も近接しているので右副腎静脈に流入していると考え られる場合もある 3) 1)門脈後枝肋間静脈(図 3) 2)門脈後枝右副腎静脈(図 4) 3.左三角靭帯:Ligamentum fibrosa hepatisを介す るシャント ① 解剖:左三角靭帯には肝組織・胆管・脈管などが 顕微鏡レベルでみられるという 4) 。通常これらを肉眼的 に確認することは困難だが比較的発達した三角靭帯を解 剖してみると、左下横隔静脈と肝静脈・門脈との間に交 通が認められる(図 5)。 ② 症例:右と同様に左三角靭帯を介して肝臓が接し ているのは横隔膜なので、門脈圧亢進症で肝表面に達し た門脈血管の流入先は下横隔静脈(図 6)・肋間静脈にな る(図 7)。このほか頻度は少ないが、上大静脈症候群で この吻合を介して造影CTにおいて肝臓の一部が染まる (核医学ではlive hot spotという)現象もある 5) (図 8)。 4.小網(肝胃靭帯)を介するシャント 通常経上腸間膜動脈性門脈造影下CT(CT during arterial 門脈大循環シャント トピックス 3 図 1 肝左葉外側区域における門脈左肝静脈シャント 経上腸間膜動脈性門脈造影:門脈左枝(矢頭)から左肝静脈(矢印) へのシャントが認められる. 図 2 肝表面における門脈肝静脈シャント CTAPのCoronal thick MIP(maximum intensity projection)像: 門脈の一分枝が肝表面(矢頭)に達しシャントを形成している. 159

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 門脈–大循環シャントに関して解剖学的な分類を試み1)、

シャントの理解を深めるために必要に応じて実習解剖体

を供覧し、自験例のマルチスライスCT(特に3D画像)・

血管造影像を中心に図説した。

経肝内門脈シャント

1.肝内門脈肝静脈シャント

 肝内に静脈瘤を形成して肝静脈に注ぐもので、時には

多発する場合もあることから肝性脳症の原因にもなり塞

栓術2)の適応にもなる(図 1)。

 肝表面にみられるシャントで特に肝内にみられるもの

と形態的に別のものではないと思われるが、部位が特徴

的なので別に分類している文献もある。確かに肝表面に

血管が露出している場合もある(図 2)。

2.右三角靭帯を介するシャント

 いわゆるbare areaを介するシャントで接するのは横隔

膜であり下横隔静脈や肋間静脈へと流入する。また右副

腎も近接しているので右副腎静脈に流入していると考え

られる場合もある3)。

1)門脈後枝–肋間静脈(図 3)

2)門脈後枝–右副腎静脈(図 4)

3.左三角靭帯:Ligamentum fibrosa hepatisを介す

るシャント

 ① 解剖:左三角靭帯には肝組織・胆管・脈管などが

顕微鏡レベルでみられるという4)。通常これらを肉眼的

に確認することは困難だが比較的発達した三角靭帯を解

剖してみると、左下横隔静脈と肝静脈・門脈との間に交

通が認められる(図 5)。

 ② 症例:右と同様に左三角靭帯を介して肝臓が接し

ているのは横隔膜なので、門脈圧亢進症で肝表面に達し

た門脈血管の流入先は下横隔静脈(図 6)・肋間静脈にな

る(図 7)。このほか頻度は少ないが、上大静脈症候群で

この吻合を介して造影CTにおいて肝臓の一部が染まる

(核医学ではlive hot spotという)現象もある5)(図 8)。

4.小網(肝胃靭帯)を介するシャント

 通常経上腸間膜動脈性門脈造影下CT(CT during arterial

  門脈–大循環シャント

  トピックス 3

図 1 肝左葉外側区域における門脈–左肝静脈シャント経上腸間膜動脈性門脈造影:門脈左枝(矢頭)から左肝静脈(矢印)へのシャントが認められる.

図 2 肝表面における門脈–肝静脈シャントCTAPのCoronal thick MIP(maximum intensity projection)像:門脈の一分枝が肝表面(矢頭)に達しシャントを形成している.

147159

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図 3 右三角靭帯を介した門脈–大循環シャント(肋間静脈)A CTAPのSagittal thick MIP像B CTAPのSagittal thick MIP像C CTAPのAxial thick MIP像

門脈右葉後区域枝(矢頭)が横隔膜に達し横隔膜から肋間静脈(矢印)が描出されている.

A B

C D

図 4 右三角靭帯を介した門脈–大循環シャント(副腎静脈)A 経上腸間膜動脈性門脈造影 B CTAPのaxial画像    

門脈右葉後区域枝が背側に向かい右副腎静脈(矢頭)を介して下大静脈に流出している.

A B

148160

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図 5 左三角靭帯(解剖体)左横隔膜の下横隔静脈(Iphv)から三角靭帯を介して一つ(矢頭)は肝内門脈ともう一つ(矢印)は肝静脈(Hv)と吻合しているのが認められる.

図 6 左三角靭帯を介した門脈–大循環シャント(下横隔静脈)

CTAPのVR(volume rendering)像:門脈左葉外側区域枝(矢印)から左下横隔静脈(矢頭)へのシャントが認められる.

 図 8 上大静脈(SVC)症候群でみられた左三角靭帯の“hot spot”A 造影剤を左上肢から注入した際のCT像:左三角靭帯付近の肝臓(矢印)が造影剤で濃染している.B 造影剤を右上肢から注入した際のCT像:Aでみられた左葉外側区域には何ら濃染像はみられない.

右横隔膜周囲に多数の下横隔静脈(矢頭)が認められる.

図 7 左三角靭帯を介した門脈–大循環シャント(肋間静脈)

CTAPのVR像:門脈左葉外側区域枝(矢印)から左肋間静脈(矢頭)が直接描出されている.

A B

Hv

Iphv

Pv

149161

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portography:CTAP)でみられるpseudolesionの原因と

なる左胃静脈–門脈吻合(宮木らによる左門脈6)または副

左胃静脈)である。これ自体は門脈–門脈シャントである

が、胃静脈からは食道静脈や下横隔静脈に連続すること

ができるのでここに分類した。門脈圧亢進がみられる症

例では、肝内門脈から胃静脈に向かう血管が小網内を横

走する場合がある(図 9、10)。

5.鎌状靭帯を介するシャント

 いわゆるSappeyの静脈である7)。原著はフランス語な

のでLinらの英訳を掲げておく8)。

 The superior veins of Sappey drain the median part

of the diaphragm into sublobular divisions of the portal

vein.

 The inferior veins of Sappey communicate with epi-

gastric and cutaneous veins, extend from the umbili-

cal region to the liver.

1)Superior group

 ① 解剖:この静脈が臨床的に注目されることはほと

んどない。しかし内胸動・静脈を解剖していると、後述

のinferior groupにつながる血管が剣状突起に沿って下

行しているのに対して、この血管はその手前(胸骨の体

部下縁のレベル)で縦隔内に潜り込むという特徴があ

る。そして横隔膜前面付着部より腹腔内に入り鎌状靭帯

の上縁に達し、そこから鎌状靭帯動脈と同じように肝左

葉内側区域表面に向かって行く(図11)。

 ② 症例:頻度は稀であるがCTAPでこの静脈系路が描

出される場合がある。その場合、門脈の枝は左枝PV4

の場合が多い(自験例、図12)。

 左三角靭帯の項で説明したが、後述のinferior group

も含めて上大静脈閉塞の際などにこの血管経路を介して

血流が肝内に流れ込み、造影CTで同部に染まりがみら

れることがある(図13)。

図 9 小網を介する副左胃静脈CTAPのthick MIP像:門脈左葉外側区域枝と小彎側の間に小網を介した静脈血行路(矢印)が認められる. 図10 小網を介する副左胃静脈瘤

CTAPのthick MIP像:肝門部門脈(Pv)と胃(St)の間にみられる小網の静脈(矢頭)が門脈圧亢進に伴って拡張し静脈瘤となりさらに食道静脈瘤を介して大循環に注いで門脈–大循環シャントを形成している.

図11 Sappeyのsuperior group(解剖体)内胸静脈の一部(矢頭)は横隔膜を貫いて肝鎌状靭帯の上の方で左葉内側区域に向かっている

(矢印).

St

Pv

150162

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図12 Sappeyのsuperior group(門脈から内胸静脈へ)CTAPのthick MIP像:門脈左葉内側区域枝(矢頭)から左前上方に向かう血管がみられ内胸静脈(Itv)に注いでいる.このほかに左下横隔静脈(Liphv)も描出されている.

図13 Sappeyのsuperior group(内胸静脈から門脈へ)SVC症候群の造影CT:造影剤は内胸静脈(Itv)から肝鎌状靭帯を介して肝左葉内側区域の表面に達し,門脈を介して区域性の染まりがみられ肝静脈(Hv)を介して下大静脈(Ivc)に至る.

図14 Sappeyのinferior group(解剖体)前腹壁のproperotoneal fat pad内にみられる臍傍静脈(paraumbilical vein)(矢印)を鎌状靭帯とともに肝臓側につけたところ.円靭帯は鎌状靭帯の下縁にみられる一方,内側区域と外側区域の境から正中に向かって鎌状靭帯内に派生している血管

(矢頭)が認められる.

2)Inferior group

 ① 解剖:いわゆる臍傍静脈といわれる血管であり肝

硬変症例の多くにみられるのでよく知られている。肝

臓側からみると円靭帯ならびに左葉門脈枝から鎌状靭

帯内に入っていく血管がみられる。内胸静脈側からみ

ていくと剣状突起の辺縁からやはり腹壁内に進入し鎌

状靭帯の前腹膜付着部(properitoneal fat padと称され

る脂肪層)に沿って下行する9)(図14)。

 ② 症例:生後閉塞した臍静脈(円靭帯)が再開通して

いると考えられる血管、その近傍にある静脈が発達し

たと考えられる血管の 2 種類がみられる(図15)場合も

ある。流出先としては頭側に向かえば内胸静脈、尾側

に向かえば左右の下腹壁静脈(皮下ならば浅腹壁静脈)

となる。このほかにはそのまま正中を下がり尿膜管周

囲に沿って下行するタイプもある。superior groupと同

じように、この血管経路を介して造影CTで同部に染ま

り(hot spot)がみられることがある(図16)。頻度として

はこの経路が一番多いと考えられる。

肝外性のシャント

1.胃静脈–左下横隔静脈(上・下)シャント→下大静

脈・心膜横隔静脈(上)・左腎静脈(下)(図17~19)

 胃静脈と下横隔静脈との間には吻合が認められており10)

これを介して胃静脈瘤の排出路が形成される。この左

Itv

Liphv

Itv

Pv

Hv

Ivc

151163

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図15 肝鎌状靭帯の静脈(臍傍静脈)A CTAPのVR像(血管のみ)B CTAPのVR像(肝臓を含めて)C CTAPのaxial像

臍静脈が円靭帯内で再開通したようにみえる血管(矢頭)は門脈臍部から下行し一部は臍部近くまで向かうものの,一部は途中で上行し内胸静脈に注いでいる.一方臍傍静脈(矢印)は肝左葉門脈内側区域枝からあまり下行せずに前腹壁に達する静脈がみられやはり内胸静脈へ向かって上行している。肝臓を含めたVR像と図14の解剖体の類似性に注目.

A B

C D

図16 臍傍静脈を介した“liver hot spot”造影CTのVR像:上大静脈が閉塞しているため左上肢静脈から注入された造影剤は肋間静脈(矢頭)・内胸静脈を介して肝鎌状靭帯の臍傍静脈(矢印)を下行して肝左葉内側区域(白矢頭)が染まっている.

図17 胃静脈瘤から左下横隔静脈造影CTのVR像:胃静脈瘤の排出路の一つとして下大静脈(Ivc)に直接流出する左下横隔静脈(矢印)が描出されている.

Ivc

152164

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図18 胃静脈瘤から左心横隔静脈へCTAPのVR像:左胃静脈に逆流した造影剤が胃穹窿部で静脈瘤を形成したのち一部は食道静脈(矢頭)へ一部は左心膜横隔静脈

(矢印)へ流出している.

図19 胃–腎シャント造影CT:脾静脈(Spv)は拡張しその途中から拡張した後胃静脈(矢印)が認められ胃静脈瘤を形成し,左副腎静脈と共通幹をなす左下横隔静脈(矢頭)に流入し左腎静脈へと注ぐ.

下横隔静脈には下大静脈に直接流入する系と副腎静脈と

共通幹となる系(胃–腎シャント)の 2 系統あり、静脈瘤

ではそれぞれに流出する可能性がある。そして下横隔静

脈と心膜横隔静脈との間には心尖部のpericardial fatが

みられる部位で吻合がみられる。

2.脾静脈–腎周囲静脈

 いわゆる脾–腎シャントだが、肝硬変や脾静脈閉塞が

ある例、またはどちらもみられない場合でも描出されて

いることがある(図20)。左副腎静脈と共通幹をなす左

下横隔静脈に流入するわけではなく左腎周囲の静脈に流

入する。

3.Retzius(右)

 Retzius11)は 5 歳の小児の門脈を縛って門脈内と下大

静脈から色素を注入し、十二指腸と下大静脈、左結腸と

左腎静脈に交通があることを確認した。また骨盤腔内で

は性腺静脈と直腸との交通がみられ、腹膜の静脈でも両

者(門脈・下大静脈の色素)が交通していたという。おも

しろいのは、結論として腸管や腹膜の炎症は(この吻合

があるために)「吸血術(ヒルなどに血を吸わせること

か?)」や「カップ吸引術」で軽快するのであろう(悪い血

を吸い上げるということか?)としているところであ

る。文献には残念ながら図は載っていない。

1)右半結腸静脈–性腺静脈

 血管造影にて血管拡張剤を用いた経上腸間膜動脈性

門脈造影を行う際に右性腺静脈が描出される場合があ

る12)。最近ではCTAPが行われることにより、右半結腸

静脈などから性腺静脈など後腹膜静脈に至る経路をCT

図20 脾–腎シャント造影CTのVR像:脾静脈(Sv)根部から派生した血管は腎臓の近傍を拡張・蛇行しながら下行した後、左性腺静脈

(矢頭)に流入し最終的には左腎静脈に流出している.特に門脈圧亢進症や脾静脈狭窄は認めていない.

Sv

Sv

Lrv

153165

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で確認することができる(図21)13)。

2)十二指腸静脈瘤(図22)・上腸間膜静脈瘤(図23)

4.Retzius(左)

1)左半結腸静脈–性腺静脈または下大静脈(図24)

2)下腸間膜静脈瘤(図25)

図21 Retziusの静脈(右)CTAPのcoronal thick MIP像:上腸間膜動脈から注入された造影剤によって回盲部・上行結腸が造影される.その導出静脈(矢頭)通常上腸間膜静脈だが,一部は性腺静脈(矢印)を介して下大静脈に流入する.

図22 十二指腸静脈瘤経上腸間膜動脈門脈造影:十二指腸2nd portionに一致して静脈瘤(矢頭)の形成が認められる.

 下腸間膜静脈は左性腺静脈・尿管周囲静脈叢に隣接し

ておりその間に交通が生じると考えられる。直接下大静

脈との間に交通がみられることがAbramsの教科書14)に

示されている。本例では下大静脈と左卵巣静脈の両者に

交通していた静脈瘤を示す。

図23 腸間膜静脈瘤CTAPのVR像:上腸間膜静脈瘤が右性腺静脈(矢頭)に流出している.

154166

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 図24 Retziusの静脈(左)A CTAPのaxial像(上):下腸間膜静脈(矢頭)に造影剤が逆流している.左腎静脈内に造影剤(矢印)

がみられることに注意.B CTAPのaxial像(下):下腸間膜静脈(矢頭)が左性腺静脈(矢印)と隣接していることに注意.左性

腺静脈内に造影剤が認められ両者が吻合していることを示唆する.

   図25 下腸間膜静脈瘤A 造影CTのVR像:下腸間膜静脈(Imv)は拡張し骨盤入口で静脈瘤を形成している.流出路を

詳細に検討したところ下大静脈に直接流出する部分(矢頭)と左性腺静脈を介して腎静脈に流出する 2 カ所の経路が認められた.

B BRTO(balloon occuluded retrograde obliterration:バルーン閉塞下逆行性塞栓術):上記の結果を踏まえて両者からバルーンカテーテルを挿入しEOI(ethanolamine oleateiopamidol)を注入してBRTOを行い静脈瘤の閉塞を行った.これにより血中アンモニア値の低下が得られ術前にみられた肝性脳症は改善した.

A B

5.下腸間膜静脈から上直腸静脈そして中直腸静脈を介

して内腸骨静脈へ向かう吻合

 動脈系で下腸間膜動脈の上直腸動脈が内腸骨動脈の中

直腸動脈と吻合しているのと同じように、同名静脈にも

吻合がみられる。血流は正常ではそれぞれ門脈系と大循

環系であるが、門脈圧亢進症では遠肝性となる(図

26)。

A B

6.食道静脈から奇静脈系へ向かう吻合

1)Preaortic esophageal vein(図27)

 食道静脈には迷走神経に伴行する静脈やはっきりとし

たセグメントに分かれているわけではないが食道から奇

静脈・半奇静脈に向かって横走する静脈15)がみられる。

われわれは形態的に大動脈を取り囲んでいるので、

preaortic esophageal veinと称して報告した16)。

Imv

155167

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図26 下腸間膜静脈・内腸骨静脈肝硬変症例の下腸間膜動脈造影(静脈相):下腸間膜静脈のほかに中直腸静脈(Mrv)を介して内腸骨静脈(Iiv)も描出されている.通常下腸間膜動脈の遅延相で中直腸静脈ははっきりとは描出されない.

2)Precaval draining vein(図28)

 このほかにも傍食道静脈瘤から下横隔静脈を介して下

大静脈に注ぐ経路で特に左右下横隔静脈の吻合路を介し

た流出路を、やはり下大静脈前を横切るという形態的特

徴からprecaval draining veinと称して報告した17)。

 図27 Circumaortic esophageal veinA CTAPのaxial thick MIP像:食道静脈瘤から奇静

脈系に向かう血管(矢頭)は下行大動脈の前面を通って奇静脈へと流出する.

B CTAPのsagittal thick MIP像:食道静脈(矢頭)が半奇静脈に注いでいる様子がよくわかる.

A

B

図28 Precaval veinCTAPのaxial像:食道静脈瘤の流出路の一つとして下横隔静脈があるが,左右下横隔静脈の吻合(矢頭)が下大静脈

(Ivc)にみられる.

7.大網静脈–腹壁静脈

 腹部手術後では大網が前腹壁に癒着してシャントを形

成しやすい状況になる。さらに肝硬変患者の食道離断術

後では同部を介したシャントが発達すると考えられる

(図29)。

Icv Imv

Mrv

Ivc

156168

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図29 大網静脈–腹壁静脈吻合CTAPのaxial像:臍傍静脈がみられないにもかかわらず腹壁静脈(矢頭)が描出されている.本例では食道離断後で癒着があるため多数の大網静脈(矢印)と前腹壁で腹壁静脈に吻合している.

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157169