22東京交響楽団ヒミツ 川崎市フランチャイズ オーケストラ Autumn Issue 2019.10.1 8 Tami Janamoto 4193420187これがです! 音楽家にとってなにより大切な楽器を大公開! 東京交響楽団のみなさんはどんな楽器をお使いなのでしょう? チェロ フォアシュピーラー 謝名元 民 名匠モラッシーのチェロ。明る い色ですが、購入したときはさらに 黄色かったそう。 ☝弓は2本。上はオーケストラ用。下はモラッシーの楽器 と一緒に購入したもので、室内楽のときに使用。最近は 諸事情により、室内楽も上の弓で弾くことも。「弓は消耗 品なので、あまりこだわっていません」。 ケースに入れた ときに弓が楽器に 当たらないよう、不 要になったTシャツを 着せています。これ は、東 響 野 球 部の ユニフォームの下に 着ていたTシャツ。 左/f字孔の中をのぞくとラベルに1975年製と書いてあります。モラッシーの 楽器は1970年代のものが特に良いと言われています。 右/焼き印も見えます。 楽器は愛しのパートナー。 本番前と後にチュッと挨拶しま す。そのため、その箇所のニス がはげてしまいました! ケースは銀色が好み。理由は「どんな色の服を着ても合うから」。この ケースは今年のお正月に購入したばかりですが、以前のケースより大き いために自動改札などでぶつけてしまい、傷がたくさん……。 楽 器を拭くものは手ぬぐいが一 番。いのしし年生まれの謝名元さん は、某銀行からもらったいのしし柄の 手ぬぐいを使用。 楽器ケースに入れているもの。 (左から時計回り) 「鉛筆」。「爪切り」。以前は常に借りていました が、その人が退団したので「困るだろう」と同じ チェロ・パートの樋口泰世さんがプレゼントしてく れたもの。「テールガット(テールピースとエンドピ ンをつなぐコード)」。以前、演奏中に切れたこと があるので、万が一の応急処置用にプラスチッ ク製のものを常備。「エンドピンストッパー」。「松 脂」。ケースはベルナルデルですが、中身は楽 器屋が作ったオリジナル。「弦」。楽器に出会っ たときの明るい音色を変わらず奏でたいので、楽 器屋お勧めのスピロコアを使い続けています。 裏板の木目 の美しさは、謝名 元さんもお 気 に 入り。 N. Ikegami

団る Oboe Concerto ズこれが 私 楽器 曲 の ボ …...壺 曲 の ボ 4 団 る 秘 第22回 東京交響楽団 の 音 の ヒミツ ズ これが 9 vol.62 Autumn Issue 2019.10.1

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Page 1: 団る Oboe Concerto ズこれが 私 楽器 曲 の ボ …...壺 曲 の ボ 4 団 る 秘 第22回 東京交響楽団 の 音 の ヒミツ ズ これが 9 vol.62 Autumn Issue 2019.10.1

壺壺壺壺壺壺名曲のツボVol.54壺壺壺壺名曲壺壺の壺壺ツボ壺東京交響楽団楽団員

が語る 秘第22回秘秘秘第秘秘2秘秘2秘秘回秘秘秘秘東京交響楽団の音のヒミツ

川崎市フラン

チャイズ

オーケストラ

Autumn Issue 2019.10.1vol.629 8

Tami Janamoto

■R. シュトラウス:オーボエ協奏曲 ニ長調 AV. 144■モーツァルト:交響曲 第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」

◎友の会料金 全席指定 ¥3,150◎U25(小学生~25歳) ¥1,000

 僕は沖縄生まれですが、父の転

勤で小学校2年生のときに川崎

に引っ越してきました。チェロを習

い始めたのは3年生のとき。最初

のレッスンの日に雪が降り、それが

人生で初めて見た雪だったのでよ

く覚えています。

 チェロは分数楽器から弾き始

め、身体が大きくなると次のサイ

ズの楽器に替えます。フルサイズ

の楽器になったのは中学2、3年生

頃です。先生が選んだ楽器で、ア

ンティーク風で黒っぽく、音色も暗

め。それが僕の楽器の好みでもあ

りました。

 大学4年のある日、楽器屋から

「イタリアのモラッシーという楽器

があるから弾きに来ない?」と連

絡がきました。モラッシーとは、現

代イタリアを代表する弦楽器製

作者ジオ・バッタ・モラッシー

(1934〜2018)です。そ

の頃の僕はモラッ

シーの名を全く知

らなかったのです

が、弾いた途端に、

これぞイタリアと

いう明るい音色に

衝撃を受け、完全

に魅せられてしま

いました。「暗めの

音色が好き」という長年の僕の好

みは一瞬にして崩されました。

「一目惚れ」ならぬ「一音惚れ」

です。

 この楽器屋へは大学1年のとき

から用がなくてもよく通っていま

したが、当時僕は楽器を探してい

たわけではありませんでした。で

もオーナーは、この楽器は僕に合

う、と思って声をかけたのでしょ

う。他の人に買われては困る!

大急ぎで親の了承をとり、すぐに

楽器屋に連絡して購入しました。

あれから約四半世紀弾き続けて

いますが、今もその音色に惚れた

ままです。僕、こうみえて一途な

んですよ(笑)。楽器は「物」とは

思わず「身体の一部」だとイメー

ジして弾いています。年数が経つに

つれ、楽器を「弾く」ではなく、身

体の一部として響かせたい、楽器

と一体化したいという思いがます

ます強くなっています。

 東響には大学卒業後すぐに入

団したので、すでに人生の約半分

をこのオーケストラで演奏してい

ます。たくさんの演奏会を経験し

ましたが、その中で特に印象に

残っている指揮者はゲルギエフ氏で

す。爪楊枝の指揮で有名ですが、

各プレイヤーに責任を持たせて自

由に演奏させ、そして統率する。

本当に魔術師のようで、東響の音

が変わって驚きました。最近では

7月に共演したヴィオッティ。リ

ハーサルはしつこいながらも納得の

いく内容で、本番も楽しく演奏で

きました。ノット監督は、楽団員

自身に考えさせながら細かく音

楽をつくっていくので、東響の方向

性にぴったりだと思います。ノット

監督のもと東響がどこまで進む

か楽しみです。

これが私の楽器です!

音楽家にとってなにより大切な楽器を大公開!東京交響楽団のみなさんはどんな楽器をお使いなのでしょう?

 オーボエは、弦楽器の厚い響き

の中で奏でると一段と輝かしく

聴こえる楽器ですが、そんな場面

がとても多い曲がリヒャルト・シュ

トラウスのオーボエ協奏曲です。

そしてなにより、オーボエ奏者の

憧れの曲、吹きたい曲ナンバー1の

作品です。とはいえ、テクニック的

に難しく、さらに体力も使う曲で

す。なにしろ全3楽章が切れ目な

く演奏され、特に第1楽章が始

まったら第2楽章途中まで吹きっ

ぱなし。体力つけるために筋トレ

したほうがいいんじゃないかと思

うほどで(笑)、長いフレーズをいか

に持続して吹くかが、この曲の最

初の難関です。その後に登場す

る、下行の音階と軽やかな跳躍

は、シュトラウスの作品の中で私が

最も好きなパッセージ。おどけた、

おしゃれなフレーズが突然現れる

のがシュトラウスらしく、お茶目だ

と思います。

 私の師匠・宮本文昭から教わっ

たのは、「シュトラウスはとてもお

しゃべりな人だった。だから、どの

曲も会話しているように演奏し

なさい」。第1楽章の長いフレーズ

も、男女の会話だと。私もそんな

場面を描ければと思っています。

 この曲について、数多くの奏者の

録音や生演奏を聴きましたが、

師匠ほど「会話」のように演奏し、

色気をうねるように表現した人

はいません。このように吹くのが

シュトラウスなんだと、彼のレッスン

と実演を通じて分かりました。

 最も心打たれるのが第2楽章

です。自然と涙が出てくるような

旋律を、私も心が染みるように演

奏できたらと思います。オーボエ

は「音の跳躍」で物語ることがで

きる楽器だと思っていますが、第

2楽章最初の旋律の中の跳躍も

大好きなので、大切に表現したい

です。第3楽章は、それまで抑え

ていたオーケストラのテンション

がきっと上がるので、私もそれに

負けない表現ができるかが勝負

です。

 全曲の中で私の一番のこだわり

は、第2楽章カデンツァ前の、とて

も静かに吹くところ。音もリズム

も難しくありませんが、こういう

場面こそ腕の見せ所なので、心を

込めて吹きたいです。

 オーケストラの中にはオーボエ

はなく、イングリッシュホルン1本

があります。独奏オーボエとの掛

け合いが特に第1・3楽章に出て

きて、2つの楽器で旋律が入れ替

わるのがユニークなので、ぜひ注目

してください。

 この協奏曲をオーケストラと初

めて共演したのは、日本音楽コン

クール優勝後の20代前半のとき。

そのときは感動しながら、自分の

思うまま楽しく吹いていました。

しかし経験を積むにつれ、オーケ

ストラ作品でもそうですが、自分

のソロを上手に吹くだけでなく、

ほかの様々な楽器といかに掛け合

い、融合するか、そこを大切にす

るようになりました。オーボエ協

奏曲はシュトラウスの晩年の作品

なので、各楽器がとても入り組ん

でいます。オーケストラ全体との

協同作業で成り立つ協奏曲です

から、東響と共に、よりシュトラウ

スらしい音楽ができたらと強く

思っています。

 東響とは、入団直前に一度この

曲で共演していますが、入団後は

初めて。さらにノット監督の指揮

で協奏曲のソロを吹くのは初めて

です。普段一緒に音楽づくりをし

ている仲間たちとの「会話」が、本

当に楽しみです。

Oboe ConcertoRichard Strauss 秘秘第秘秘音秘秘の秘秘ヒミツ秘

チェロ フォアシュピーラー

謝名元 民

 これぞイタリア!

明るい音に一目惚れ

名匠モラッシーの

チェロに

魅せられ続けています

Eriko Ara

首席オーボエ奏者

荒 絵理子

リヒャルト・シュトラウス(1864~1949)のオーボエ協奏曲は、第二次世界大戦終戦後の1945年作曲。同年完成の「メタモルフォーゼン」の後に書かれた最晩年の作品です。

モーツァルト・マチネ 第38回2019年11月24日日 11:00開演

(休憩なし/終演予定12:10頃)

ソロの長いフレーズは、男女の会話オーケストラとの会話にもこだわりたい

R. シュトラウス オーボエ協奏曲作曲

モーツァルト・マチネ 第38回

☝名匠モラッシーのチェロ。明るい色ですが、購入したときはさらに黄色かったそう。

☝弓は2本。上はオーケストラ用。下はモラッシーの楽器と一緒に購入したもので、室内楽のときに使用。最近は諸事情により、室内楽も上の弓で弾くことも。「弓は消耗品なので、あまりこだわっていません」。

☜ケースに入れたときに弓が楽器に当たらないよう、不要になったTシャツを着せています。これは、東響野球部のユニフォームの下に着ていたTシャツ。

☝左/f字孔の中をのぞくとラベルに1975年製と書いてあります。モラッシーの楽器は1970年代のものが特に良いと言われています。 右/焼き印も見えます。

☝楽器は愛しのパートナー。本番前と後にチュッと挨拶します。そのため、その箇所のニスがはげてしまいました!

☜ケースは銀色が好み。理由は「どんな色の服を着ても合うから」。このケースは今年のお正月に購入したばかりですが、以前のケースより大きいために自動改札などでぶつけてしまい、傷がたくさん……。

☜楽器を拭くものは手ぬぐいが一番。いのしし年生まれの謝名元さんは、某銀行からもらったいのしし柄の手ぬぐいを使用。

☝楽器ケースに入れているもの。(左から時計回り)「鉛筆」。「爪切り」。以前は常に借りていましたが、その人が退団したので「困るだろう」と同じチェロ・パートの樋口泰世さんがプレゼントしてくれたもの。「テールガット(テールピースとエンドピンをつなぐコード)」。以前、演奏中に切れたことがあるので、万が一の応急処置用にプラスチック製のものを常備。「エンドピンストッパー」。「松脂」。ケースはベルナルデルですが、中身は楽器屋が作ったオリジナル。「弦」。楽器に出会ったときの明るい音色を変わらず奏でたいので、楽器屋お勧めのスピロコアを使い続けています。

指揮:ジョナサン・ノットオーボエ:荒 絵理子(東京交響楽団 首席オーボエ奏者)管弦楽:東京交響楽団

ケースに入れたときに弓が楽器に当たらないよう、不要になったTシャツを着せています。これ

右/焼き印も見えます。☝左/f字孔の中をのぞくとラベルに1975年製と書いてあります。モラッシーの楽器は1970年代のものが特に良いと言われています。左/f字孔の中をのぞくとラベルに1975年製と書いてあります。モラッシーの

楽器は1970年代のものが特に良いと言われています。 右/焼き印も見えます。左/f字孔の中をのぞくとラベルに1975年製と書いてあります。モラッシーの

右/焼き印も見えます。左/f字孔の中をのぞくとラベルに1975年製と書いてあります。モラッシーの

楽器は1970年代のものが特に良いと言われています。

☝楽器は愛しのパートナー。

楽器は1970年代のものが特に良いと言われています。

本当に魔術師のようで、東響の音

が変わって驚きました。最近では

7月に共演したヴィオッティ。リ

ハーサルはしつこいながらも納得の

いく内容で、本番も楽しく演奏で

きました。ノット監督は、楽団員

自身に考えさせながら細かく音

楽をつくっていくので、東響の方向

性にぴったりだと思います。ノット

監督のもと東響がどこまで進む

☝楽器ケースに入れているもの。(左から時計回り)

☜ときに弓が楽器に当たらないよう、不要になったTシャツを着せています。これは、東響野球部のユニフォームの下に着ていたTシャツ。

楽器は1970年代のものが特に良いと言われています。 右/焼き印も見えます。楽器は1970年代のものが特に良いと言われています。楽器は1970年代のものが特に良いと言われています。 右/焼き印も見えます。楽器は1970年代のものが特に良いと言われています。楽器は1970年代のものが特に良いと言われています。

☝弓は2本。上はオーケストラ用。下はモラッシーの楽器

☜ケースは銀色が好み。理由は「どんな色の服を着ても合うから」。このケースは今年のお正月に購入したばかりですが、以前のケースより大きいために自動改札などでぶつけてしまい、傷がたくさん……。

ケースは銀色が好み。理由は「どんな色の服を着ても合うから」。この

☜楽器を拭くものは手ぬぐいが一番。いのしし年生まれの謝名元さんは、某銀行からもらったいのしし柄の手ぬぐいを使用。

☜ケースは銀色が好み。理由は「どんな色の服を着ても合うから」。この

☝裏板の木目の美しさは、謝名元さんもお気に入り。

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