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35 P 022.2.040.3 / .042 : U 629.124.2 : U 656. 61. 052 (81 ) パルプ船上プラン ト 石川島播磨重工業(株)島 The IP System Pulp Plant. Noboru Shima Ishikawajima-Harima Heavy Industries Co., Ltd. The IP (Industrial Platform) system developed by IHI have made possible the speedy and economical construction of plants even in undeveloped areas of the world far from industrialized zones and lacking infrastructures. This paper presents the application results of the IP system applied to the construction of a pulp plant. The plant, having a designed production capacity of 750 t/d bleached kraft pulp, consists of a pulp manufacturing process plant and a power/chemical recovery plant, each of which was con- structed in the configuration of a huge floating platform. This unique IP system pulp plant was towed over 25,000km by ocean and river routes on a three-month voyage from Japan to the plant site of the Amazon of Brazil where, after being grounded and installed permanently, it has been put into commercial operation for producing pulp for export. 1. は じめ 当社はイ ンダス トリアル ・プ ラッ トフォーム ・シス テ ム(IPS)に よ る750t/日 晒クラフトパルププラント を ブ ラジル の森林資 源開発会社であ リ社 ( Jari Florestal e Agropecuaria Ltda.:米 国屈指の海運会 社ユニバースタンクシップ社の子会社)か ら受注し, 1978年1月 に完 成 し引 渡 し を 終 え た 。本 プ ラ ン トは IPSとい う全 く新 しい方式 によ り建 造 された ところに 大 きな 特長 が あ る。 2. プ ロジ ェ ク トの 背景 及 び計 画 ジ ャ リ社 は1960年 代 の後半 ブ ラジル ・アマ ゾン 河 の 支 流 ジ ャ リ河 流 域 のム ング バ(Munguba)地 区( 図 1参照)に 約150,000km3の 土 地 を確 保 し,こ こ に メ ライ ナ(Gmelina)と 呼 ばれ る 広 葉樹 を植 林 す る と と もに,同 地 区 で水 田 の 開 拓 や牧 畜 を行 うな ど総 合 的 な 畜 産,農 林 を営 ん で きた 。 ジ ャ リ社 で は こ の森 林 資 源 が 伐採 適 正 期(7~8年)を 迎えるにあたって,そ の 利 用 方 法 を種 々 検 討 した が,パ ル プ に加 工 し て出 荷 す るの が 最 も メ リッ トが 大 きい との 判 断 に達 し てい た 。 ジ ャ リ社 が す で に 植 林 した 面 積 は90,000 hect. 1980年 か ら開 始 され た 。 な お,1980年 中 まで に 更 に 100,000 hect.造 植 される予定になっている。 全体 の植 林 の約75%は パ ル プ用 材 と して使 用 され, 約25%は 製 材 用 と して使 用 され る 予 定 に な って い る。 メ ライ ナ に つ い て,パ ル プ用 材 は6~7年 で伐採出来, そ の高 さは22m程 度 に ま で成 長 す る。 一 方,製 材 用 は約10年 で伐 採 し,そ の高 さは30m程 度 に な る 。 しか し,問 題 はパ ル プ工 場 の建 設 予 定 地 は ア マ ゾン 河 口 のベ レン(Belem)か ら約300km,ほぼ 赤道 直 下 に位 置 す る高 温 多雨 多湿 地 帯 で あ る 。 もち ろ ん大 が か りなプ ラン ト建設 に必要 な港 湾施設,道 路 な どのい わ ゆ るイ ン フ ラ ス トラ ク チ ャー は未 整 備 の状 態 に あ る。 ジ ャ リ河 は こ の辺 で も川 幅 が 約1,000mほ ど あ り,雨 期,乾 期 の水 位 差 が はげ しい た め重 量 物 の年 中 を通 じ ての荷役には種々の困難が予想された。熟練労働者を プ ラ ン トの建 設 期 間 中 を通 じて サ イ トに キー プ す る の 昭和55年1月 35

パルプ船上プラント The IP System Pulp Plant

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Page 1: パルプ船上プラント The IP System Pulp Plant

特 別 講 演35

P 022.2.040.3 / .042 : U 629.124.2 : U 656. 61. 052 (81 )

パルプ船上プラン ト

石川島播磨重工業(株) 島 昇

The IP System Pulp Plant.

Noboru Shima

Ishikawajima-Harima Heavy Industries Co., Ltd.

The IP (Industrial Platform) system developed by IHI have made possible the speedy and

economical construction of plants even in undeveloped areas of the world far from industrialized

zones and lacking infrastructures.

This paper presents the application results of the IP system applied to the construction of a

pulp plant. The plant, having a designed production capacity of 750 t/d bleached kraft pulp, consists of

a pulp manufacturing process plant and a power/chemical recovery plant, each of which was con-

structed in the configuration of a huge floating platform.

This unique IP system pulp plant was towed over 25,000km by ocean and river routes on a

three-month voyage from Japan to the plant site of the Amazon of Brazil where, after being

grounded and installed permanently, it has been put into commercial operation for producing

pulp for export.

1.  は じ め に

当社はイ ンダス トリアル ・プ ラッ トフォーム ・シス

テム(IPS)に よる750t/日 晒 クラフ トパルププ ラン ト

をブラジル の森林資 源開発会社であ る ジ ャ リ社 ( Jari

Florestal e Agropecuaria Ltda.:米 国屈指の海運会

社ユニバ ースタンクシップ社の子会社)か ら受注 し,

1978年1月 に完成 し引渡 しを 終 え た。本 プ ラン トは

IPSと い う全 く新 しい方式 によ り建 造 された ところに

大 きな特長 がある。

2.  プ ロジ ェ ク トの 背景 及 び計 画

ジ ャリ社は1960年 代 の後半 ブ ラジル ・アマ ゾン 河

の支流ジ ャリ河流域 のム ングバ(Munguba)地 区( 図

1参 照)に 約150,000km3の 土地 を確保 し,こ こに メ

ライナ(Gmelina)と 呼ばれ る広 葉樹 を植林 する とと

もに,同 地 区で水田の開拓や牧 畜 を行 うな ど総合 的な

畜産,農 林 を営んで きた。ジ ャリ社ではこの森林資源

が伐採適正期(7~8年)を 迎 えるにあたって,そ の

利用方法 を種々検討 したが,パ ルプ に加工 して出荷す

るのが最 もメ リッ トが大 きい との判断 に達 していた。

ジ ャ リ社が すで に 植林 した面積 は90,000 hect. で

1980年 か ら開始 された。なお,1980年 中 まで に 更 に

100,000 hect.造 植 され る予定 になっている。

全体 の植 林の約75%は パ ルプ用 材 として使用 され,

約25%は 製材用 として使用 される予定にな ってい る。

メライナについて,パ ル プ用材 は6~7年 で伐採出来,

その高 さは22m程 度にまで成長 す る。 一方,製 材用

は約10年 で伐 採 し,そ の高 さは30m程 度になる。

しか し,問 題 はパル プ工場 の建設予定地 はアマ ゾン

河 口のベ レン(Belem)か ら約300km,ほ ぼ 赤道 直

下 に位置す る高温 多雨 多湿地帯 である。 もちろん大 が

か りなプ ラン ト建設 に必要 な港 湾施設,道 路 な どのい

わ ゆるイ ンフラス トラクチ ャーは未整備 の状態 にある。

ジ ャ リ河 はこの辺 でも川幅が約1,000mほ どあ り, 雨

期,乾 期 の水位差が はげ しいた め重量物 の年 中を通 じ

ての荷役 には種々 の困難が予想 された。熟練労働者 を

プ ラン トの建設期間中 を通 じてサイ トにキープす るの

昭 和 55 年 1 月 35

Page 2: パルプ船上プラント The IP System Pulp Plant

36 島 昇

もコス トが かかるし困難が伴 う。プ ラン

トの建設が所期 のスケジ ュール通 りに進

行 させ得 るか どうかを懸念 される要因が

そ ろいすぎていた。一方,プ ラン トは森

林資 源の伐 採適正期 までに早急に完成 さ

せ る必要があった。こ うしたプ ラン ト建

設 を困難 とする諸 条件 下で所要のパルプ

プ ラン トをス ピーデ ィかつスケジ ュール

通 りに建設 するにはプ ラン トの主要部分

をエンジニア リング体 制や設 備,熟 練労

働 力 とも十 分に ととのった工場内で製作

する とい う,い わゆるIPSに よるプ ラ

ン ト建設 法が着 目された。そ こで当社 と

ジ ャリ社 との共同に よ りフ ィージ ビリテ

イスタデ ィを行 った。その結果,技 術 的にはこの種 プ

ラン トの建造,え い航,据 付が可能であ り,ま た, コ

ス ト面 か らも本 システムの優秀性が確認 され,本 プ ラ

ン トの建設 が決定 された。

このプ ロジェク トの基本計画 は次の通 りである。

(1) プラン トを構成す る設備,機 器 を造船所 内 ドッ

クでプラ ッ トフォーム 上に とう載 しすえ付 けて現

地 にえい航す る。

写真1  操業 中のパル プ工場

図1  メライナ植林 区域 とプラン ト建設地

36 紙パ技協誌  帯34巻 第1 号

Page 3: パルプ船上プラント The IP System Pulp Plant

パ ル プ 船 上 プ ラ ン ト37

(2) 現地では予 めプ ラン ト設置予定の場所に掘割 を

建設 し,基 礎パ イル を打 ちこんでおき,こ の基礎

上にプラ ッ トフ ォーム を浮かせなが ら導 き入 れ,

後 は水 を抜 きプ ラッ トフ ォームを基 礎上 に固定す

る。

パルプ工場は数多 くの機 械,装 置 か ら構成 され てい

るため,ま ず,所 要設備 の うち,ど の範囲 まで をプ ラ

ッ トフォームに とう載す るか,ま た,プ ラッ トフォー

ムを何隻にするかを検討 した。各 システムの特性, 建

設 コス トな どを考慮 した結果,プ ラッ トフォームに と

う載する設備 は,蒸 解工程か ら製品の包装,こ ん包工

程までのラインと,蒸 解排液の薬品回収工程及び工場

の運転 に要する電力,蒸 気 の発生設備 に とどめ,原 木

処理,チ ップ化,晒 薬品製造,用 排水処理等の各設備

とマ シンシ ョップ,事 務所,倉 庫は除かれた。

プ ラッ トフ ォームの隻数については,建 造技術, 運

航技術の面 か らは1隻 とす るこ とも可能 であるが, パ

ルプ工場 の全体配置,え い航用 えい船 の能力,ド ック

での建造工程な どを検討 した結果,2隻 が最適 であ る

とい う結論に達 した。

3.  設 備 概 要

3.1 基 本 条 件

操業計画

製 品  製紙用晒 クラフ トパルプ

生 産 量  750ADT/  日

稼動 日数  350日/ 年

原 料  メライナ(Gnlelina)  材

気候 条件

年間 平均気温 32 ℃

年間平均湿度 80 %

風 速  50m/s  (えい航時)

規格,法 規  原則 としてわが国の規格(JIS  な

ど),法 規 を適用

3.2  パルプ設備

本パルププ ラン トは2隻 のプ ラッ トフォームか ら構

成 され てい る事 は先述 したが,そ の1隻 が木材 チップ

か らパルプ シー トを作 る一連 のプ ロセ スを組み こんだ

パルププ ラッ トフォー ムであ り,次 に説明す る各工程

か ら構成 され てい る。

3.2.1  蒸解及び熱回収工程

陸 上に設置 されたチ ップ貯蔵ヤー ドか らコンベヤー

で送 られ たチ ップは,パ ルププ ラッ トフォーム内のベ

ル トコンベ ヤーに移 され,計 量機 で連続的に計量 され

た後ダイジェスター に供給 される。

蒸解は温度圧力の 自動プ ログラムによ り制御 され,

チ ップ薬液及 び非凝縮性 ガスの排 出は計器 によって自

動化 され ている。なお,ダ イジェスター内の薬液 は,

薬液循環ポ ンプ によ りた えず ヒー ター を通 して循環 さ

れ てお り,均 一蒸解がで きるよ うにダイジ ェス ター内

のス トレーナーの開孔率,ノ ズルの配置,配 管 レイ ア

ウ トな どについて十分な配慮 を払 ってい る。

蒸 解中発生 したガスは 自動 コン トロール弁に よ りダ

イジ ェス ターの外に放 出 され,サ イ クロ ンを通 って レ

リーフガス コンデンサーに入 る。

所定 の蒸解 時間が経過す る と,ダ イゼスター下部 ノ

ズル に取 り付 け られ てい るブ ローバルブ を開 けるこ と

に よ り,ダ イゼス ター内のパルプ をブ ロー タンク内 に

ブ ローする。ブ ロー時にはかな りのフ ラッシュ蒸 気が

ブ ロータンク頂部 ノズル か ら排出 される。この蒸 気は

熱 回収工程 に送 られ,そ の蒸気潜熱 か ら温水 が作 られ

る。一方,コ ンデンサー か ら排 出され る非凝縮性 ガス

は,ガ スアキュム レー ター に一時貯 え られ た後,連 続

的に キル ンに送 られて1次 空気 と混合 され て燃焼 され

る。この燃焼 によ り悪臭排気 を直接大気 に放 出す るこ

とをさけている。

設計条件及 び主要設備

チ ップ水分  50~62 %

最小 チ ップ かさ比重  広葉樹 ・168kg / m 3

蒸解温度  160 ℃

蒸解サイ クル  3h

ダイジ ェス ター  縦形固定バ ッチ式, 8 基

(容量:180m3/1  基)

3.2.2  洗 浄 工 程

ブ ロー タンク内のパルプ液 は黒液 で希釈 され た後 ポ

ンプでバ ッフルボ ックスか ら1次 ノッターへ送 られ,

そこで重量異 物及び ノッ トが除去 され る。その後, 1

段 ウオ ッシ ャーのイン レッ トボ ックスに送 られる。 ウ

オ ッシャーはサクショ ン レグを もったシ リンダー形 で

ある。3段 ウオ ッシャーで順次希釈,濃 縮,洗 浄が繰

返 され,最 終段で約12%に 濃縮 された パルプ は高濃

度ポ ンプに よ り高濃度ス トレージ タンクに送 られ る。

主要設 備

1次 ノ ッター Hooper製 圧力式  3 基

(PSVN 400 形)

ウオ ッシャー IMPCO製3段 式 フ ィル ター 1 式

(シ リンダー寸法  4m径 × 12 m

長 )

3.2.3  未晒パルプス ク リー ニング工程

高濃度ス トレージ タンク内のパル プ液は希釈 されて

か らポ ンプでプ レス クリーン ミキシングタンクへ送 ら

れ る。その後1次 加圧式 スク リー ンに送 られ,そ のア

昭 和 55 年 1 月 37

Page 4: パルプ船上プラント The IP System Pulp Plant

38 島 昇

クセプ トは未 晒デ ッカーで濃縮,洗 浄 され プ レブ リー

チタ ンクに送 られ る。一方,1次 ス クリーンの リジェ

ク トは リキ ッ ドサイ クロンによ り異 物が除去 され, さ

らにハイ ドラデンサーによ り濃縮 された後,リ ジ ェク

トリフ ァイナーに送 られる。ここで機 械的に結束 繊維

を離解 し,2次 ス クリー ンに送 られ,そ のア クセプ ト

は3段 式 リジェク トクリーナーへ送 られる。以 上のよ

うに,本 工程 は,ス クリーン リジ ェク トをクリーナー

で精選 してク リーナ ーの最終 リジ ェク トのみを排出す

るプ ロセ スである。

主要設備

1次 スク リーン Hooper製 圧力式  4基

(PSV  400 形)

デ ッカー  IMPCO製 フ ィル ター  1基

(シ リン ダ ー寸 法  4m径 × 12

m 長)

3.2.4  漂 白 工 程

パルプ液 はプ レブ リーチタンクか ら漂 白工 程に送 ら

れ る。工程 のシーケンスはd/C-E-D-E-Dの5段 で,

パルプ は高 白色度 に漂 白 される。1段 目の塩素タワー

のみ ア ップフロー形 であるが,ア ル カ リタワー及 び二

酸化塩素 タワーはダ ウンフ ロー形 である。ダ ウンフ ロ

ー形 タワーへ の高濃度パル プ液 送 りには,い ずれ も,

高濃度 ポンプが使用 される。

塩素系 ガスを含 むふ ん囲気 は,環 境衛生 上及び機 器

腐食 防止上,非 常に悪 い影響 を及ぼす。従 って, 1,

3,5段 の ウオ ッシ ャー,タ ワー,シ ール タ ンクを完

全密 閉形 として排 出ガスをフ ァンでガスス クラバ ーに

送 り回収 している。

主要設備

晒 ウオ ッシャー IMPCO製 フ ィル ター  5基

(シ リン ダ ー寸 法  4m径 × 12

m 長)

3.2.5  晒 パル プスク リーニング 及 び クリーニング

工程

漂 白され たパル プは一 時高 濃度ス トレージ タンクに

貯蔵 され,そ のタン クの下部 に取 り付 け られているダ

イ リュー シ ョンノズル によ り希釈 されて,ポ ンプでプ

レスク リーンタン クに送 られる。ここで濃 度調節 され

たパルプ液 は,ポ ンプで1次 ス クリー ンに送 られる。

そ のアクセプ トはそ のまま1次 クリーナーに入 り, そ

のク リーナ ーのア クセプ トはデ ッカーに送 られて濃縮

され る。そ の後,濃 縮パル プ液は高 濃度ポ ンプによっ

て高濃度 ス トレージタン クに送 られる。

1次 スク リー ンの リジェク トは振動式2次 ス クリー

ンに送 られ,そ のアクセプ トは前述 したプ レスク リー

ン タ ン クに戻 り,そ の リジ ェ ク トは 系 外 に排 出 され る。

一 方,1次 ク リー ナ ー の リジ ェ ク トは2次 ~4次 ク リ

ー ナ ー で処 理 され た後,系 外 に排 出 され る 。

こ の工 程 はパ ル プ の仕上 げ を 目的 と して お り,パ ル

プ シ ー ト抄 造 工 程 に入 る前 に,洗 浄,ス ク リー ン, 漂

白 の各 工 程 で除 去 で き な か った き ょ う雑 物 あ る い は工

程 通 過 中 に混 入 し た ミル ス ケー ル を仕上 げ ス ク リー ン

及 び ク リーナ ー で完 全 に除 去 す る。

主 要 設 備

1次 ス ク リー ン  IHI-BCセ レ クチ フ ァイ ヤー

4基  (48P  型)

晒後 ク リー ナ ー  Celleco製4段 ク リー ナ ー  1 式

(ク リ ー ン パ ッ ク130型 及 び

300 型)

3.2.6  パル プ 抄 造 工 程

本 パ ル プ マ シ ン は,操 業 の 合 理 化,自 動 化 を重 視 し

て計 画 され た 。特 に,ウ エ ッ トエ ン ド,ス トック アプ

ロー チ,ブ ロー ク シ ス テム 及 び 主 要 補機 類 な どの操 作

は,プ レス セ ク シ ョン前 に設 け た 監視 室 に お い て集 中

管 理 を行 うよ うに計 画 され てい る。

ウエ ッ トエ ン ドはパ ル プ シー トを形 成 す る も っ とも

重 要 な部 分 で あ り,ヘ ッ ドボ ッ クス,フ ォー ドリニ ア,

プ レス セ ク シ ョン か ら構 成 され て い る。

プ レス セ ク シ ョンで は3段 の高 ニ ップ プ レス を採 用

し た。No.1プ レス は サ ク シ ョン ピ ッ クア ップ を兼 ね

て サ ク シ ョン コ ンバ イ ン ド形 の プ レス と し,高 水 分 シ

ー トで の紙 切 れ の原 因 で あ るオ ー プ ン ドロー を な く し,

操 業 の安 定 を は か っ た 。No.2,No.3プ レス は グル ー

ブ ドプ レス とし,ト ップ,ボ トム ロール と もに ス テ ン

レス カバ ー ロール を配 置 す る こ とに よ り搾 水 効 果 を高

め た。

パ ル プ シ ー ト ドラ イ ヤー は,パ ル プ シー トに ブ ロー

ボ ック ス か ら熱 風 を吹 きつ け シー トを乾 燥 させ る装 置

で あ る。 こ の装 置 で は シー トが 熱 風 に よ り空 中 に浮 い

た 状 態 に あ るた め駆 動 馬 力 が 小 さ く,ま た,ド ラ イ ヤ

ー の全 長 は ブ ロー ボ ック ス の段 数 を変 える こ とに よ り

可 変 で あ る。 本 プ ラ ン トの よ うに長 さに 制 限 を うけ る

場 合,こ の特 長 を生 かす こ とが で きた 。

ドライ ヤ ー で乾 燥 され たパ ル プ シー トは,非 常 に 高

い 温 度 で搬 送 され る。 こ の シ ー トを,こ の まま カ ッタ

ー に か け る と,高 温 の た め に カ ッター の 刃 が 温 度変 化

を起 し 回転 刃 と固定 刃 の ク リア ラ ン スが 変 化 し,シ ー

トが切 れ な くな る恐 れ が あ る た め,シ ー トクー ラ ー を

通 して シ ー トに冷 気 を吹 き付 け て ま で冷 却 す る 。

設 計 条件 及 び主 要設 備

坪 量  500~1,200 g/ m 2

38 紙パ技協誌 第34巻 第1 号

Page 5: パルプ船上プラント The IP System Pulp Plant

パ ル プ 船 上 プ ラ ン ト 39

トリム幅  7,200 mm

最高 抄 速  150m / min

シ ー トドライ ネ ス  90 %

ヘ ッ ドボ ッ ク ス  オ ー プ ン型

フ ォー ド リニ ヤ  IHI-BCカ ン チ レバ ー型

プ レ ス  IHI-BC  3段 プ レス

ドライ ヤ ー  SFド ライ ヤ ーFCB  型

シー トクー ラ ー  SFシ ー トクー ラ ーFC  型

3.2.7  ベ ー ルハ ン ドリン グ工 程

シー トクー ラ ー か ら出 たパ ル プ シー トを カ ッ ター で

裁 断 し,レ イボー イで 重 ね た の ち,ベ ー ル プ レス で プ

レス後,ラ ツ ピン グシー トで 包 み,ワ イヤ ー で こん 包

し,ベ ー ル を 完成 す る パ ルプ プ ロセ スの 最 終工 程 で あ

る。 本工 程 で はベ ー ル ハ ン ドリ ング シ ステ ム が2系 列

並列に設置 され,750t/日 の パルプ シー トを処理 する。

設計条件

ベール仕 上寸法  800 × 720 mm

ベール重量  200~240kg/ベ ール

ユニ ッ トベール(最 終荷姿)  8ベ ール/ユ ニ ツト

3.3  薬品回収設備

本 設備 は発電設備 と共にパ ワープラ ッ トフ ォームに

組 みこまれ ている もので,次 に説 明する各装置 か ら構

成 されてい る。

3.3.1  黒液濃縮装置

黒液 フィル ターで細かい繊維 が取 り除 かれ た黒液 は,

希黒液 タンクを通 って第6,第5か んに分割投入 され

たあ と,合 流 して第4→ 第3→ 第1→ 第2か んの順 に

流れ て50wt%ま で濃縮 される。黒液 の流れが第 1,

第2か んで逆転 しているのは,チ ューブ内 スケールの

低減化 をはかるためである。 さ らに,ス ケール防止 を

果すために第1,第2か んには強制循環方式 を採用 し,

第3,第2か んの間にソープ スキミングを設けて樹脂

分 を浮 上分離方式 によ り除去 してい る。

その後,コ ンセン トレー ターで63wt%と された黒

液は濃縮 タンクか らソー ダ回収ボイ ラーへ送 られる。

コンセン トレーター には1基 の予備かん を設 置 し, 高

スケール のメライナ材黒液に対処 した。

設計 条件

形 式  6重 効用真空蒸 発かん

供 給 液  402t/h, 15wt%, 82 ℃

濃 縮 液  96t/h, 63wt %

蒸 発 量  306 t/ h

かん内真空度  110mmHg abs.

3.3.2  ソーダ回収ボイ ラー

本 ボイ ラーは,奥 気 防止対策 として火炉 を高 くして

火炉容積 を大き くと り,カ スケー ドエバボ レー ター を

削除 して大形節炭器 を採用 した最新形低臭気 ソーダ回

収 ボイラー である。火炉 は,ス メル トの漏 えいを防止

す るた めに全周 メンブ レン水冷壁構造 とした。

本ボイ ラーの建設にあた って もブ ロックぎ装方式 を

採用 したた め,ボ イ ラー立柱か らボイ ラー水圧試験 ま

で を約3.5か 月間 とい う従来 の陸上プ ラン トに比べ て

約1/2の 短期 間で終了 した。

設 計条件

形 式  B&Wト ム リンソン形(屋 外式)

数 量  1 式

黒液 固形物量  1,360t/ 日

蒸 発 景  208t/h (最大連 続負荷時)

最 高使用圧 力 72kgf/ cm 2

使用蒸気圧力  60kgf/cm2(過 熱器出口)

使用蒸気温度  450℃ (  〃  )

給水温度  153.3 ℃

通風方式 平衡通風

3.3.3  苛性化装 置及 びライムキルン

ソーダ回収ボ イラー か らの緑液 は,ま ず,緑 液 クラ

リフ ァイ ヤー に入 り,異 物が沈降分離 され て清澄液 と

な ってスレー カー に送 られ る。 ここで,キ ル ンか らの

生石灰が添加 され,苛 性化槽 に送 られ る。 これ らの槽

の中で苛性化反応が完結 し,白 液 クラ リフ ァイヤーに

入れ られ る。上 澄液は 白液 として蒸解 に送 られ,沈 降

物は洗浄,濃 縮 された後 キル ンに送 られ再度焼成 され

る。

従来 と異 な り,本 装置で はキル ンか らの生石灰 を高

温でス レー カーに受け入れ られ るよ う配慮 し緑液加熱

器 を不要 とした。 また,蒸 解,黒 液濃縮工程で発生す

る悪臭ガスが収集 され,本 キル ンで焼却 され る。

設計 条件

苛性化能 力  2,940m3/n(白 液 生産量)

活性 アル カ リ 96g/l (as Na2O )

硫 化 度  27 %

キル ン能 力  284t/d(キ ル ン総排出量)

キル ン寸法  4m径 ×89m 長

石灰純度  78.9 %

石灰石純度  94 %

3.4  発 電 設 備

本パルププ ラン トに使用 され る蒸気及び電 力は本設

備 よ り供給 され る。動力 ボイラー とソーダ回収 ボイラ

ーか ら発生す る60kgf/cm2×450℃ の蒸気 は主蒸気管

寄 に集 め られた後,共 通母管 を通 って蒸気 タービンに

送 られ る。主蒸気条件 はソーダ回収 ボイラーの保守,

寿命 を考慮 して決定 した。高/低 圧抽気蒸気 は減温器

にお いて10.5/3.5kgf/cm2の 飽和蒸気 とな り,パ ル

昭 和 55 年 1 月 39

Page 6: パルプ船上プラント The IP System Pulp Plant

40 島 昇

プ設備な どに供給 され る。

3.4.1  動力ボイ ラー

本ボイ ラーの主燃料 は森林地帯か ら豊富 に得 られ る

野生の木材,あ るい は製材所,パ ルプ ミル の調木設備

か ら発生す る木屑,樹 皮 などである。木材 は発熱量が

低 く,ま た 多量 の水分 を含ん でい る。 これ を火炉 内で

完全燃焼 させ るた め,火 炉 の大 きなつ り下形 ボイ ラー

を採用 した。

設計条件

形 式  IHI-FWSF形 ボイラー(屋 外形)

数 量  2 式

蒸 発 量  140t/ 日

最高使用圧力  72 kgf/ cm 2

使 用蒸 気圧力  60kgf/cm2  (過熱器出 口)

使 用蒸 気温度 450℃  (  〃  )

給水温度  153.3 ℃

通 風方式  平衡通 風

燃焼方式  木片又は重 油

3.4.2  主 ター ビン及び発電機

蒸気 ター ビンは2段 抽気 ター ビンとし,高 低圧の蒸

気 を常 に一定 圧力でパルプ設備な どに供給 しなが ら発

電量 を一定 に保つ ことがで きる。また,EHC ( Electro-

Hydraulic Control System)を 採用 して制御精度の向

上 をはかっている。

設計 条件

形 式  単気筒衝動式2段 抽気 ター ビン

定 格出力  55,000 kW

蒸気 圧力  57 kgf/ cm 2

蒸気温度  440 ℃

第1抽 気圧 力  12 kgf/ cm 2

第2抽 気 圧力 4.5 kgf/ cm 2

4.  レイ ア ウ ト

クラフ トパル プ工場 における機器配置 は,一 般 的に

は,パ ル プを処理 するエ リアは立体 的,薬 品回収エ リ

アは平面的 である。このプロジェク トでは,薬 品回収

設備 をもつパ ワープラ ッ トフ ォームをできるかぎ り立

体化す る方針 で設計 を進 めた。す なわち,タ ンク類 を

1階(ボ トムデ ッキ)に 置 き,エ バ ボ レーター とキル

ンを2階(ア ッパー デ ッキ)に 配置 した。また一部 の

ス トレージタンクを角形 として船壁 の一部 をタンク壁

として利用す るこ とによ りスペ ースの節約 をはかった。

このよ うに従来 と大 幅に変 った合理 的な レイア ウ ト

にな ってい るのが特徴 である。

5.  プ ラ ッ トフ ォ ー ム

プ ラッ トフ ォームの主要寸法 は次の通 りである。

パルプ  ノミワー

長 さ  230m  220m

幅  45m  45m

深 さ (船底 か ら強度 甲板 まで)い ずれ も

14.5 m

総 重 量  29,000t  30,000 t

えい航 喫水  約4m  約 4 m

各プ ラ ッ トフォームは深 さ2.5mの 全通2重 底 をも

つ箱型構造 である。パルププ ラッ トフ ォームのパルプ

マシン区画 には2重 底頂板(1st.Floor)上 約6m  の

高 さに中甲板(2nd.Floor)を 設け,パ ルププロセ ス

区画 には強度 甲板(3rd.Floor)上 約8mの 高 さに田

板(4th.Floor)を 追加す るな どスペースを立体的に

活用 し,コ ス トの低減 をはかってい る。

プ ラ ッ トフォーム には,プ ラン ト機 器を有機的 に配

置 して工場 としての機 能 を満たすほかに,建 設予定地

までえい航 され る問のバージ としての機能,す なわ ち,

波浪 中にお ける強度,波 浪中の動揺 に対す るプ ラン ト

機器 の補強,不 測の事故に よる浸水 時の復原性,針 路

安定性 な どを備 える事が必要である。

船舶 と違 う点 として,重 心位置が喫水線 よ りは るか

上 にあるこ と,ま た,重 心 よ りさらに上 の非常 に高い

位置 での加速度 が問題 となることであ り,こ れ らの影

響 について船 舶における実験例が なく,理 論計算が ど

の程度一致す るかが懸念 され た。そ こで,模 型実験 を

実施 して動揺 角,加 速度 の大 きさを検証 する とともに,

えい航船 の力量決定 などに関連 して静水中及 び波浪中

の抵抗,え い航時 の針路安定性について確認 した。

6.  現 地 へ の え い航

日本 か ら現地へ のえい航航路 としては希望 峰経 由 と

した。現地 までの行程 は約25,000km,え い航期間 は

3カ 月を要 した。

えい航 中のプ ラ ッ トフォームの運動による揺動や船

体 のた わみ の影響 による機器損傷 を防 ぐ方 法につ いて,

また,え い航 中の機器類 の防せい,フ レッチングコロ

ージ ョンに対す るベ ア リング類の支持方法について設

計上特別 に配慮 した。

不 測の事故 によ り,プ ラ ッ トフォームの底部の どこ

かが損傷 して も沈没 しないよ う区画 を定 め,水 密隔壁

が設 け られ ている。仮 に2つ の区画が同時に浸水 して

も,残 りの区画 は浸水 しないだけの浮力 をもたせ てい

る(図2参 照)。

40 紙パ技協誌 第34巻 第1 号

Page 7: パルプ船上プラント The IP System Pulp Plant

パ ル プ 船 上 プ ラ ン ト 41

7.  現 地 での ラ ンデ ィ ング

現地 では,予 め所定のサイズの掘割 を造 り基

礎パ イル を打込んでおき,建 設用水路 を利用 し

て,パ ナ マ運河方式で,プ ラッ トフォー ムを所

定 の位置 に誘導 して固定 する。

堀割,建 設用 水路な どの土木工事 につい ては,

大型機械 を使用 したので,何 ら問題 な く工事が

出来 た(図3参 照)。

8.  ス ター トア ップ

陸上 に据付ける装置 の工事が若干遅れたた め,操 業

が予定 よ り数週間延び,1979年2月 になった。 しか し,

生産立上 りが予想 を上回る実績 を示 してお り,客 先側

も充分満足 しているよ うである。(写 真 1 )

9.  ま と め

このよ うにインフラス トラクチ ュアが未だ充分に整

備 されていない地域で の工場建設に,普 通の陸上ベー

スの方法 を採用 してい たな らば,は か りしれ ない多額

の費用 と完成 までに長 い期間 を要 したので はない か と

我 々は考 えてい る。

IPSの 採用は工期短縮,生 産性の向上 の面か ら見 て

も非常 に有効で ある と言 えるが,こ れ を実現 した所 に

大 きな意義が ある。 この実現の背景 としては,ジ ャ リ

社の親会社であ るユニバース タンクシップ社の先進的

な事業に積極的に取組む姿勢があ った ことはい うまで

もない。

図2  えい航航路

図3  工場 レイア ウ ト

昭 和 55 年 1 月 41