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8 工場レイアウトの作戦 ﹀﹀ 生産品目と生産数量から何を、どれだけ作るかを決定 1-1 PQ 分析・ABC 分析と需要予測で、ライン(セル)または機能別の生産方針を決定する 図表の「生産方式の決定」は、生産品目の生産方式を決定する手順であり、手順 1 は「生産品目の PQ 分析・ABC 分析」である。これは、生産品目(P)の生産量(Q)と売上高を集計し、それぞれ 大きい順に並べる。生産量と売上高は、過去の実績とレイアウト計画を実施する時期の需要予測を加 味して集計する。 多品種少量生産の工場では、生産品目を類似品目グループに分類し、類似グループを 1 つの生産品 目と考える。生産品目の類似グループとは、製品のタイプ、グレード、キャパシティが同一の製品グ ループであり、今後生産する新製品も含めて類似性を分析する。レイアウト計画では、将来の生産品 目や生産数量の変化に対する弾力性も考慮しなければならない。 PQ 分析では、生産実績に需要予測を加味した生産量を累計し、総生産量に対する累計構成比(%) を計算し、生産品目を A、B、C の 3 つのランクに区分する。区分は生産量累計構成比の上位から、 70~80 %を A ランク、80~95 %を B ランク、95~100 %を C ランクとすることが一般的であるが、 何%ごとに分けるかは生産品目の特性に応じて変えてよい。同様に ABC 分析では、売上高の累計比 率 70~80 %を a ランク、80~95 %を b ランク、95~100 %を c ランクとする。 次に、PQ 分析と ABC 分析の結果を図表の「PQ 分析と ABC 分析のマトリックス表」にまとめ、 生産方式の検討材料とする。 ①A-a に属する生産品目 :ライン生産の対象 ②A-b、A-c に属する生産品目 :ライン生産またはセル生産 ③B-a、B-b、B-c に属する生産品目:セル生産またはライン生産 ④C-a、C-b、C-c に属する生産品目:機能別生産 生産量・売上高の多い「M3-50A、M3-25A、M3-100A」などの A-a ランク品はライン生産によ る生産品目別のレイアウトとする。生産量は多いが売上高の少ない「新 AH-3、JC-6、JC-9」など のA-b ランク品や「新 AH-6、新 AH-1」などの A-c ランク品は、ライン生産またはセル生産によ る類似生産品目別のレイアウトを検討する。生産品目別に専用ラインを作っていては、投資金額が莫 大になるので、効率的なレイアウトとは類似生産品目を 1 つのラインやセルで生産できるようにする ことである。 また、生産量が中位の「M3-75A、DM-25J、DM-200J」などの B ランク品はセル生産、生産量が 下位の「M3-30U、D4-100J、M3-300A」などの C ランク品は機能別生産による機能別レイアウトを 組むというのが基本的な考え方である。 ここで、 同期生産については B ランク品、C ランク品を含めた部品・工程の共通性を考慮し、手順 2-1 で部品・工程の共通性を抽出し、手順 2-2 で同期化(ライン生産、セル生産)品目を決定する。 B ランク品、C ランク品でも A ランク品との共通性が高い場合、混流してライン生産することは可 能である。しかし、共通性が高い生産品目同士でも諸条件によりライン化が不可能な生産品目は除外 する。 ものの流れを加味した効率的な生産方式は、何(Product)を、どれだけ(Quantity)作る かにより決まる。工場レイアウトの作戦は、何を、どれだけ作るかを PQ 分析・ABC 分析する ことから始まる。

1-1 工場レイアウトの作戦pub.nikkan.co.jp/uploads/book/pdf_file549a3a354f15e.pdfPQ分析・ABC分析により何を、どれだけ作るかを決定した。次は、いつ(Time)、どうやっ

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工場レイアウトの作戦 ﹀﹀生産品目と生産数量から何を、どれだけ作るかを決定

1-1

■PQ分析・ABC分析と需要予測で、ライン(セル)または機能別の生産方針を決定する

 図表の「生産方式の決定」は、生産品目の生産方式を決定する手順であり、手順 1は「生産品目のPQ分析・ABC分析」である。これは、生産品目(P)の生産量(Q)と売上高を集計し、それぞれ大きい順に並べる。生産量と売上高は、過去の実績とレイアウト計画を実施する時期の需要予測を加味して集計する。 多品種少量生産の工場では、生産品目を類似品目グループに分類し、類似グループを 1つの生産品目と考える。生産品目の類似グループとは、製品のタイプ、グレード、キャパシティが同一の製品グループであり、今後生産する新製品も含めて類似性を分析する。レイアウト計画では、将来の生産品目や生産数量の変化に対する弾力性も考慮しなければならない。 PQ分析では、生産実績に需要予測を加味した生産量を累計し、総生産量に対する累計構成比(%)を計算し、生産品目をA、B、Cの 3つのランクに区分する。区分は生産量累計構成比の上位から、70~80 %をAランク、80~95 %を Bランク、95~100 %を Cランクとすることが一般的であるが、何%ごとに分けるかは生産品目の特性に応じて変えてよい。同様にABC分析では、売上高の累計比率 70~80 %を aランク、80~95 %を bランク、95~100 %を cランクとする。 次に、PQ分析とABC分析の結果を図表の「PQ分析とABC分析のマトリックス表」にまとめ、生産方式の検討材料とする。 ①A-a に属する生産品目 :ライン生産の対象 ②A-b、A-c に属する生産品目 :ライン生産またはセル生産 ③B-a、B-b、B-c に属する生産品目:セル生産またはライン生産 ④C-a、C-b、C-c に属する生産品目:機能別生産 生産量・売上高の多い「M3-50A、M3-25A、M3-100A」などのA-a ランク品はライン生産による生産品目別のレイアウトとする。生産量は多いが売上高の少ない「新AH-3、JC-6、JC-9」などのA-b ランク品や「新AH-6、新 AH-1」などのA-c ランク品は、ライン生産またはセル生産による類似生産品目別のレイアウトを検討する。生産品目別に専用ラインを作っていては、投資金額が莫大になるので、効率的なレイアウトとは類似生産品目を 1つのラインやセルで生産できるようにすることである。 また、生産量が中位の「M3-75A、DM-25J、DM-200J」などの Bランク品はセル生産、生産量が下位の「M3-30U、D4-100J、M3-300A」などの Cランク品は機能別生産による機能別レイアウトを組むというのが基本的な考え方である。 ここで、 同期生産についてはBランク品、Cランク品を含めた部品・工程の共通性を考慮し、手順2-1 で部品・工程の共通性を抽出し、手順 2-2 で同期化(ライン生産、セル生産)品目を決定する。Bランク品、Cランク品でもAランク品との共通性が高い場合、混流してライン生産することは可能である。しかし、共通性が高い生産品目同士でも諸条件によりライン化が不可能な生産品目は除外する。

 ものの流れを加味した効率的な生産方式は、何(Product)を、どれだけ(Quantity)作る

かにより決まる。工場レイアウトの作戦は、何を、どれだけ作るかを PQ分析・ABC分析する

ことから始まる。

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第1章 工場レイアウトの基本

生産方式の決定

PQ分析とABC分析のマトリックス表

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■生産量から目標サイクルタイムを設定する

 ライン生産では、目標サイクルタイム(TCT:Target Cycle Time)を下の(1)式で設定する。1日の稼働時間を 480 分、月の稼働日数を 20 日、稼働率を 90 %、月間のM3 グループの生産量を1,440 台とすると、目標サイクルタイムは 6.0 分/台となる。

  目標サイクルタイム = 1 日の稼働時間(分)×稼働日数(月)×稼働率(%)生産台数(月)

= 480(分)× 20(日/月)× 90(%)1,440(台/月) = 6.0 分/台   (1)

 次に、各工程の作業時間が目標サイクルタイム(TCT)になるように作業を組み合わせ、ライン編成を検討する。図表の「組立ラインの検討」は、ライン生産の対象品種M3グループの組立工程、検査工程の作業内容と作業時間の分析結果である。 M3-15A では、キャスター取付けが 2.0 分、ヒーター組立が 2.5 分、ホース接続が 1.5 分で合計 6.0分になるので、この 3つの作業を同一工程と考える。機内配線は 6.0 分、機能検査は 6.0 分なのでそれぞれの作業が 1つの工程となる。

■加工部品のライン化を検討する

 加工部品のライン化は、工程系列と作業時間の類似性を検討し、類似の比率が高い場合はライン化を検討する。図表の「加工部品の類似性検討」では、X管部品とY管部品はともに工程系列が「シャーリング」「ベンダー」「溶接」なので類似加工部品であり、ライン化の検討対象となる。ライン化の対象部品の選定が終了したら工程(設備)別の負荷時間を計算し、負荷の大きい工程(設備)に対しては能力(設備台数)の調整が必要になる。 生産品目を効率的に作るには、加工工程と組立工程が同期化するレイアウトにすることである。必要なものを、必要な時に、必要なだけ、必要な順に同期して供給できれば、ものは順調に流れて停滞やムダな運搬は発生せず、仕掛在庫も低減し、製造リードタイムは加工時間だけになるであろう。

アウトプット条件で生産方式を選択 ﹀﹀リードタイムと目標生産量から着手時期、同期性を決定

1-2

 PQ分析・ABC分析により何を、どれだけ作るかを決定した。次は、いつ(Time)、どうやっ

て(Route)作るかを製造リードタイムと目標生産量、同期性から検討する。

 リードタイムとは、ある作業を始めてから終了するまでの時間である。工場での製造リードタ

イムは、①加工時間、②検査時間、③運搬時間、④停滞時間の 4つの要素から構成される。こ

の要素の中で比率が大きいのは停滞時間と運搬時間であり、製造リードタイムの90%以上が停

滞時間と運搬時間である工場も数多く見られる。製造リードタイム短縮のねらいどころは停滞と

運搬の改善にあり、停滞や運搬時間が少ない生産方式が Aランク品に適用するライン(同期)

生産方式であり、生産方式の決定を手順3―1で検討する。

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第1章 工場レイアウトの基本

生産方式の決定手順

組立ラインの検討

加工部品の類似性検討

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1-3 インプット条件で初期投資、運転コストを見積る ﹀﹀必要能力、保有能力(人、設備)の調査

■PQ分析結果とものの流れ分析

 ものの流れ分析は、図表の「PQ分析結果とものの流れ分析」より次のように進める。 ①生産量の多いAランク品は工程分析表(オペレーション・プロセス・チャート) 工程分析表とは、材料や部品が工程に投入される時点およびすべての加工(作業)と検査の流れを表現した図表のことである。ものの流れ全体をひと目で把握できる特徴をもっているので、レイアウト計画以外にも、「工場全体を概括的に把握したい」「現場改善の重要部分を見つけたい」などの目的にも用いられる。生産量の多いAランク品は、ライン生産による生産品目別のレイアウトなので、生産品目ごとに工程分析表を作成する。 ②生産量が中位のBランク品は多品種工程分析表(多品種用オペレーション・プロセス・チャート) 生産品目の種類が増える Bランク品は、セル生産による類似生産品目別のレイアウトなので、生産品目を類似のグループに分け、ものの流れを分析する。類似のグループ分けの基準は、「生産品目の設計上の特徴による分類」「生産品目の工法など加工工程上の特徴による分類」「生産品目の設計・加工両面の特徴による分類」がある。ここで用いるのが多品種工程分析表である。このようにして作成したものの流れによって、製品や部品ごとにそれぞれの流れを比較することができる。 ③Cランク品はフロム・トゥー・チャート(From-To Chart) 生産品目の種類が多く、生産量の少ない Cランク品は、「どこの工程から(From)」「どこの工程へ(To)」ものが流れているかをフロム・トゥー・チャートで分析する。これはものの流れを分析する対象製品や部品の数が非常に多いときに用いる道具である。Cランク品は機能別レイアウトなので、フロム・トゥー・チャートにより各工程や機械設備間を移動する回数を分析し、近くに配置したほうが効率的な工程や機械設備を検討する。また、対角線の下部は逆戻りの流れなのでレイアウトでは注意が必要である。 レイアウトの目的は、回り道や逆戻りの少ないものが前進する流れを決めることであるが、工程分析表、多品種工程分析表やフロム・トゥー・チャートによりムダな流れを把握できる。望ましい工場レイアウトでは、材料から製品への流れが工程順序に従ってスムーズに工程間を流れる。

 工場レイアウトで発生するコストの中で金額の大きいのは、初期投資(イニシャルコスト)と

運転コスト(ランニングコスト)である。これらのコストは生産品目をどうやって作るか

(Route:ものの流れ)により決定するが、同じ生産量を製造するなら両者の合計が最も安いレ

イアウト案を選択したいものである。

 材料から製品への流れを工程というが、「加工(◯)、検査(□)、運搬(◦)、停滞( )、

貯蔵( )」という5つの活動で構成される。工場でものが工程をどのように移動し、完成する

かを分析するのがものの流れ分析である。この分析の目的は、レイアウト計画の基礎データとし

て、生産方式に対応したものの流れ、機械設備の必要能力や保有能力などのデータを収集するこ

とである。収集したデータは、初期投資や運転コストを見積る基礎資料としても活用できる。