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平成27年度 京都府公共事業事前評価調書 京都スタジアム(仮称)整備事業 <アユモドキ等の自然と共生するスタジアムを目指して> 評 価 の 別 :事前評価 事 業 箇 所 : 亀岡市保津町鐘鋳島他 (亀岡市都市計画公園内) 事業着手年度:平成27年度 (事業全体については下記※のとおり) 事業費:約156億円(スタジアム本体) (事業全体については下記※のとおり) 事 業 期 間 :3年間(スタジアム本体) (事業全体については下記※のとおり) 完了予定年度:H29年度(スタジアム本体) (事業全体については下記※のとおり) ※事業全体の枠組みについて 京都スタジアム(仮称)は、アユモドキ等の自然と共生するスタジアムを目指しており、 添付資料2のとおり、スタジアム本体整備だけではなく、駐車場等外構(アプローチ含む) の整備、アユモドキ等の保全調査・対策、水路環境改善等・アクセス道路整備並びに広域 的な生息環境改善対策の各事業について、京都府と亀岡市が連携して、総合的・計画的に 実施していくものであり、全体の事業期間は、スタジアム本体の完成予定年度の平成29 年度以降も継続するものである。 なお、今回の京都府公共事業事前評価調書に記載の事業費については、京都府が建設す るスタジアム本体を対象としており、駐車場等外構分については、アユモドキ等の保全上 必要となる範囲・工法等が決まった段階で別途追加することから含んでいない。 アユモドキ保全活動

平成27年度 京都府公共業前評価調書 京都スタジア …平成27年度 京都府公共業前評価調書 京都スタジアム(仮称)整備業 <アユモドキ等の自然と共生するスタジアムを目指して>

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平成27年度 京都府公共事業事前評価調書

京都スタジアム(仮称)整備事業

<アユモドキ等の自然と共生するスタジアムを目指して>

評 価 の 別 : 事前評価 事 業 箇 所 : 亀岡市保津町鐘鋳島他

(亀岡市都市計画公園内)

事業着手年度:平成27年度

(事業全体については下記※のとおり)

事業費:約156億円(スタジアム本体)

(事業全体については下記※のとおり)

事 業 期 間 :3年間(スタジアム本体)

(事業全体については下記※のとおり)

完了予定年度:H29年度(スタジアム本体)

(事業全体については下記※のとおり)

※事業全体の枠組みについて

京都スタジアム(仮称)は、アユモドキ等の自然と共生するスタジアムを目指しており、

添付資料2のとおり、スタジアム本体整備だけではなく、駐車場等外構(アプローチ含む)

の整備、アユモドキ等の保全調査・対策、水路環境改善等・アクセス道路整備並びに広域

的な生息環境改善対策の各事業について、京都府と亀岡市が連携して、総合的・計画的に

実施していくものであり、全体の事業期間は、スタジアム本体の完成予定年度の平成29

年度以降も継続するものである。

なお、今回の京都府公共事業事前評価調書に記載の事業費については、京都府が建設す

るスタジアム本体を対象としており、駐車場等外構分については、アユモドキ等の保全上

必要となる範囲・工法等が決まった段階で別途追加することから含んでいない。

アユモドキ保全活動

【 目 次 】

1 事業概要 ······························································ 1

2 事業を巡る社会経済情勢(事業の必要性) ··································· 4

3 良好な環境の形成及び保全 ················································· 12

4 調査・実証実験結果反映型新公共事業モデルの採用

【設計変更に対応できるデザインビルド方式】 ······························· 22

5 コストの縮減等の可能性(事業の効率性) ··································· 22

6 費用対効果分析(事業の有効性) ··········································· 22

7 総合評価 ································································ 24

■費用便益分析結果総括表····················································· 25

◆ 事前評価調書の作成に当たって

京都府及び亀岡市では、「亀岡市都市計画公園及び京都スタジアム(仮称)に係る

環境保全専門家会議」を共同で設置し、平成25年5月から27年5月中旬までに、

20回の専門家会議、43回のワーキンググループ会議を開催し、亀岡市都市計画公

園及び京都スタジアム(仮称)の整備に伴う希少種であるアユモドキを含む自然環境

の保全に必要な調査や対策について、委員各位の献身的な御尽力をいただき、専門的

見地から様々な角度で分析、検討を重ねてきた。

これまでの環境保全専門家会議において積み重ねてきた議論や意見、提案された事

項を基に、「アユモドキ等の自然と共生する公園・スタジアム」の実現にむけて考慮

するべき基本方針として、添付資料1の「亀岡市都市計画公園及び京都スタジアム(仮

称)の整備計画の策定に当たり考慮するべき基本方針について(素案)Ver.1」(以下

「基本方針」と言う。)を平成27年4月28日時点でとりまとめた。

また、この基本方針を早期に具体化するため、添付資料2の「アユモドキ等の自然

と共生するスタジアムを目指した新たな事業方式 Ver.1」(調査・実証実験結果反映型

新公共事業モデル)(以下「新たな事業方式」と言う。)の導入について、5月12日

の第19回専門家会議において、了解を得た。

この度、「アユモドキ等の自然と共生するスタジアムを目指して」整備するスタジ

アムに関する本事前評価調書については、アユモドキ等の保全に関し、この「基本方

針」と「新たな事業方式」に基づき資料作成を行っている。

1

1 事業概要

(1)事業地域の概要

事業地のある亀岡市では、学術的にも極めて重要な種であるとともに急激にその数

が減少し絶滅が危惧され、昭和52年には国の天然記念物に、平成3年には国のレッ

ドデータブックの絶滅危惧種に、平成14年には京都府レッドデータブックの絶滅寸

前種に、平成15年には国の改訂版レッドデータブック絶滅危惧IA類(CR)に、

平成16年には「種の保存法」に基づく国内希少野生動植物種の指定、さらに平成2

0年には「京都府絶滅のおそれのある野生生物の保全に関する条例」における第1号

の指定希少野生生物に指定されているアユモドキが事業地に近接した桂川とその支川

に生息しており、計画・整備事業にあたっては、水路ネットワークを保全し、更に改

善することを含めた生息環境改善対策などを総合的に推進し、その整備を進めること

が必要となっている。

また、同市は、近年、京都縦貫自動車道の整備(全線開通 H27.7 予定)やJR山陰

本線複線化により広域交通網が充実し、京都駅から快速電車で 20分と、京都市の近郊

都市として発展を続ける地域であり、事業地の南側には、亀岡駅北土地区画整理事業

区域(面積 約 17ha、平成 26 年 1 月 市街化区域編入、同年 6 月 事業認可)が東側に

は、桂川の河川改修事業で整備された高水敷や堤防を活用した「保津川かわまちづく

り計画」の整備予定区域が広がり、ここには年間 92万人が利用するトロッコ列車亀岡

駅、24万人が訪れる保津川下り乗船場がある。

京都スタジアム(仮称)整備と合わせ、脆弱な状況にあるアユモドキ等の自然環境

を積極的に改善する取組を推進するとともに、既存観光資源との連携により、これま

で以上の集客交流機能を備え、府中北部への人の流れをつくるゲートウェイとなるよ

う、環境の保全と開発の調和を実現していくことが求められている。

丹波綾部道路 平成 27年 7月開通予定

徒歩8分

2

(2)事業目的

本事業地に隣接した河川等に生息しているアユモドキは、かつては淀川流域の各地

に生息していたが、現在、唯一亀岡市に生息している要因は、自然環境のみならず、

生息環境に配慮した営農活動や地域住民の保全活動に負うところが大きい。また、外

来魚による食害や繁殖期の大雨による洪水などの影響もあり、生息環境は必ずしも良

好とは言えない脆弱な状況にある。このことから、本事業では、アユモドキへの悪影

響を回避することは言うまでもなく、本地域におけるアユモドキを持続可能な個体群

へ転換できる積極的な生息環境の改善対策に取り組むことにより、絶滅の可能性が高

いと言われているアユモドキの保全をより確実なものとするとともに、京都府内にお

けるスポーツの広域・基幹的施設として、府内にない専用球技場を亀岡市の「京都・

亀岡保津川公園」内に新設し、スポーツの振興、府中北部地域の発展に寄与し、公共

の福祉を増進することを目的とする。

(3)事業手法

府が行うスタジアム本体の整備、亀岡市が行う共生ゾーンの整備や水路環境改善対

策、アクセス道路整備については、「保全調査・対策」と「新建設事業手法(実施設計

と建設工事を柔軟かつ併走で実施する手法)」を組み合わせたアユモドキ等の自然と共

生するスタジアムを実現する新たな公共事業方式を導入し、①設計段階はもちろん、

施工段階においても、環境保全専門家会議の議論の結果を工事内容に反映させるため、

「デザインビルド方式」により、工事種別ごとに柔軟な設計変更(=アユモドキの保

全に問題ある場合は設計見直し)に対応するとともに、アユモドキ保全に影響を与え

【図-1 事業地域】

3

ると考えられる水田の配置や面積については、実証実験結果を踏まえて最終決定する。

②更に、アユモドキと共生のための新たな取組みとして、広域的な生息環境改善対策

をハード・ソフト両面にわたり、スタジアム整備と合わせて総合的・計画的に推進す

る。

(4)スタジアム本体事業内容

【表-1 スタジアム本体事業の内容】

項 目 内 容

スタジアム名 京都スタジアム(仮称)

事業主体 京都府

事業箇所 亀岡市保津町鐘鋳島他(亀岡市都市計画公園内)

規模等 専用球技場

入場可能数:2万人程度(「スタジアム標準」(財)日本サッカ―協会が

規定する収容規模のクラス1に対応)

フィールド:128m×83.7m(サッカー、ラグビー、アメリカン

フットボールなどの球技が可能)

事業期間 平成27年度~平成29年度(予定)

年間集客数 約26万人(想定)

上位計画 「明日の京都」中期計画 京都力の発揮 文化創造

[基本目標]新しい文化・芸術・スポーツの拠点づくりや活動が拡充

することの具体方策に記載

(5)スタジアム本体と併行実施する事業の内容

スタジアム本体の整備と併行して、アユモドキ等の保全調査や実証実験、モニタリ

ング調査の結果を反映して、共生ゾーンや水路環境改善、共生のための新たな取組み

である広域的な生息環境改善対策を行うこととしている。

【表-2 スタジアム本体と併行実施する事業の内容】

項 目 内 容

事業名等 アユモドキ等の保全調査・対策、水路環境改善等、アクセス道路整備、

広域的な生息環境改善対策(※)

事業箇所 亀岡市保津町鐘鋳島他(亀岡市都市計画公園及び周辺)

事業期間 平成25年度~平成30年度以降

(※各事業は添付資料2を参照)

4

アプローチゾーン

駐車場ゾーン

真北

共生ゾーン

※ 次に掲げる「共生のための新たな取組み(広域的な生息環境改善対策)」について

必要な対策を検討のうえ実施していく。(上図参照)

・西側農地保全施策

・ラバーダム修繕

・駅北土地区画整理事業における地下水保全対策

・越冬場所の拡大

2 事業を巡る社会経済情勢(事業の必要性)

(1)アユモドキの現状

1)アユモドキの生活史からみた生息実態

これまでの調査結果等による亀岡駅付近でのアユモドキの生息実態

① 桂川や曽我谷川で越冬していた親魚は、3月末頃から産卵に備えるため曽我谷川

等で生息するようになる。

② アユモドキはもともと氾濫原に生息し、一時的水域で繁殖を行う性質がある。本

地域は、6月初旬のラバーダム起立に伴い、人工的氾濫原(一時的水域)が生じ、ア

ユモドキはそこで産卵している。6月下旬頃まで、仔魚は主に動物プランクトンを

【図-2 事業概要図】

アクセス道路整備

西側農地保全施策

水路環境改善等整備

ラバーダム修繕

共生ゾーン整備

越冬場所の拡大

駅北土地区画整理事業における地下水保全対策

駐車場ゾーン

ただし、アユモドキ等

の保全のため、水田と

して残す範囲は引き

続き検討

アプローチーゾーン

アユモドキ等の保全のため、範

囲・工法等は引き続き検討

5

餌としながら成育する。

③ 稚魚期になると遊泳力が高まり、餌を求めて活動域を拡大させていく性質がある。

現在、7月初旬~9月中旬の間、大部分の稚魚は、主に底生動物を餌としながら曽

我谷川等で成育しているが、農業用水路・排水路に進入した一部の稚魚は遡上して

餌を捕食して成育する。進入する水路は、曽我谷川等と直に接続する場所が中心で

ある。

④ 9月中旬の水田の落水後、水路には水がなくなるので、成育した当歳魚は、桂川、

曽我谷川等に戻り生息するが、人為的な救出がなければ涸渇した水路で死滅する個

体も少なくない。

⑤ 10月中旬以降翌春まで、当歳魚及び成魚ともに桂川、曽我谷川で生息、越冬し

ている。

⑥ 本地域では、現在、水田に生息していることは年間を通して観察されていないが、

十分な調査によるものではない。また、本地域の水田は、堰や落差による遡上阻害

によって、魚類が農業用水路・排水路から進入することは困難である。なお、遡上

阻害を人為的に解消した休耕田等においては稚魚が確認されている。

⑦ アユモドキの仔魚、稚魚(初期~中期)の餌となる動物プランクトンは、湛水域

及び水路を通じて水田環境からも供給されている。

このように、アユモドキは、桂川本川と曽我谷川等やあるいは農業用水路・排水

路を行き来して生息している。

したがって、これらの水域ネットワークの保全とともに、餌となる動物プランク

トンや底生動物の供給環境が、アユモドキ生息環境保全における重要な要素となる。

2)アユモドキの生息環境と保全活動

亀岡市域の現状の生息環境は、アユモドキの生息にとって、必ずしも良好とは言え

ない脆弱な環境である。アユモドキが、現在もこの地域で生息を継続できているのは、

地理的な自然環境条件が充足していることに加えて、長年にわたる営農がアユモドキ

とともに暮らす文化を根付かせてきたところに負うところが大きい。

とりわけ、アユモドキは毎年6月頃に河川の水位が急上昇したときに産卵する習性

があるが、近年の上流でのダム建設等により一時的氾濫原が生じにくくなっているこ

とから、この地域における産卵に必要な一時的水域を人為的につくる田植え期のラバ

ーダムの起立が不可欠となっている。更に、近年ではこの起立時期の調整やダム起立

時(6月)や水田中干し時(7月)・水田の落水時(9月)における救出活動、産卵場の草

刈・清掃、外来魚駆除、密漁パトロール等の保全活動が地域住民等により行われてお

り、アユモドキの生息は、これらの成果によるところが大きい。このように、アユモ

ドキは地域の営農活動や保全活動の中で、何とか生息が維持されている状況であると

考えられる。

なお、これらの環境保全活動の中心となっている地域住民は、このような人為的環

6

境を残し、更に生息環境を改善するためにも、京都府及び亀岡市に公園・スタジアム

早期整備の要望書を提出している。一方、アユモドキの保全のために、この計画の中

止や場所変更を求める要望書が多数提出されている。

3)アユモドキの国・自治体等による保全に係る調査研究

アユモドキの保護については、自然状態での生息状況等の把握を行うとともに、現

存する生息地において生息に必要な環境条件の維持及び改善、生息を圧迫する要因の

軽減及び除去を図り、また、かつて分布域であった地域等において、生息地の再生を

図ること等により、アユモドキが自然状態(水田等の二次的自然環境を含む。)で安

定的に存続できることを目標とした「アユモドキ保護増殖事業計画」(平成 16年:文

部科学省、農林水産省、国土交通省、環境省)、「アユモドキ保全回復事業計画」(平

成 20年:京都府)及び「亀岡市のアユモドキを保全するための提言書」(平成 21 年:

亀岡市)等に基づいた調査研究・保全対策が地元の理解、協力を得ながら実施されて

いる。

また、現在、亀岡市保津地域アユモドキ保全協議会、亀岡市アユモドキ緊急調査検

討委員会、淀川水系アユモドキ生息域外保全検討委員会などが調査研究を行っており、

環境保全専門家会議も含めて相互に情報交換を行いながら、連携してアユモドキ保全

に取り組む必要がある。

4)京都府絶滅のおそれのある野生生物の保全に関する条例(アユモドキの府民協働に

よる保全対策)(添付資料3参照)

京都府は、希少野生生物の生息地等を保全するために行政、地域住民、保全団体、

農林業団体等の多様な主体が協働して取り組むことが効果的であることから、平成1

9年に京都府絶滅のおそれのある野生生物の保全に関する条例を制定し、全国に先駆

けて地域協働で絶滅危惧種を保全する制度を策定した。アユモドキはその第1号とし

て指定希少野生生物に指定され、地域における個体群の保護や生息環境の維持改善な

ど保全対策の方向性を定めたアユモドキ保全回復事業計画(平成 20 年)(添付資料4

参照)を策定した。府民協働によるアユモドキ保全の取り組みとして、地域の保全団

体が条例に基づく登録団体となり、認定保全回復事業計画を策定するとともに、地元

自治会、農林業団体、漁業組合、土地改良区と保全協定を結んで、学識者とともに調

査研究や保全活動などの取り組みを協働で行っている。これらを府や市などの行政機

関が支援するなど、多くの主体の参画でアユモドキが守られてきた。

〈京都府絶滅のおそれのある野生生物の保全に関する条例〉

◎府条例の概要

京都府絶滅のおそれのある野生生物の保全に関する条例では、種の捕獲・採

取などの個体の取り扱いや生息生育地の改変などに対する規制措置に加え、指

7

定希少野生生物を地域協働で保全する団体を府が支援する制度を設けている。

これは 2002 年に成立したカナダの絶滅危惧種法 An Act respecting the

protection of wildlife species at risk in Canada の科学性・透明性・協調

性を基本にした生息地スチュワードシップ制度をモデルにしたもので、府条例

では規制だけでなく、地域連携で希少種の保全対策が取り組まれることに力点

を置いて、より積極的で実効性のある

保全対策が進むことをめざした制度と

している。条例に基づく指定希少野生

生物は、現在、アユモドキやアベサン

ショウウオやオグラコウホネなど 25種

が指定されているが、指定種の選定に

当たっても、保全主体の有無などの条件

は考慮され、希少性や脆弱性とともに、

地域で積極的な保全活動が行われてい

る種が優先される傾向にあり、そのため

種指定に際して府民提案制度が設けられ

ている。(25 種のうち、7種が保全団体

などの府民提案による指定。)

5)京都・亀岡保津川公園の都市計画決定

亀岡市は京都府が行ったスタジアム用地の公募に応募した際、希少生物との共生

及び市民参加の環境保全への取組、サンクチュアリ(保護区域)を設け生息環境を

創出し、アユモドキと共生するスタジアムを整備していくことを表明している。

公園の都市計画決定にあたっては、平成25年12月の第8回環境保全専門家会

議において取り上げられ、「共生ゾーンでの稲作の継続」や「アユモドキとの共存に

必要な共生ゾーンの面積」「西側農地の営農継続の方法」「水路ネットワーク」など

の複数の対策を検討した上で都市計画の線引きをすべきであるとの意見や、都市計

画決定後にスタジアム建設に伴ってアユモドキの保全ができないと結論が出た場合

の対応策」また「アユモドキの保全上、道路位置が適当でないとなった場合の対応

策」などの意見があった。

これらの意見に対し、亀岡市から、アユモドキを保全していく上で、地元の協力

は不可欠であり、地元の協力を得るためには、用地買収を行いスタジアムを含む公

園を整備していく必要がある。また、アユモドキの保全には共生ゾーンの用地を買

収し整備しなければならず、公園の都市計画決定が必須との考え方が示された。

この都市計画決定後に、アユモドキの保全上、都市計画等の計画変更が必要とな

れば責任を持って対応することを亀岡市が約束したことを受けて、環境保全専門家

会議は、今後の専門家会議の計画に対しては拘束するものではないということを前

図3 指定希少野生生物

8

提に了解した。

その後、平成26年5月に公園の都市計画決定を行われ、現在、用地買収が進め

られている。

6)亀岡駅北地区土地区画整理事業(南丹都市計画)に対する環境大臣の意見

「南丹都市計画区域区分の変更」により、市街化区域に編入される亀岡駅北地区

において土地区画整理事業が計画されている。駅北地区においては、「国内希少野生

動植物種」であるアユモドキのほか、メダカ等の希少種が確認されているとともに、

駅北地区及びその周辺は、アユモドキの生息地の一つとなっていることから、都市

計画法に基づき、次の環境大臣意見が出されている。

○ 意見の概要

国内希少野生動植物種であるアユモドキ等の生息環境を保全するための環境保全

措置が最善のものとなるよう、[1]環境保全専門家会議の意見を実施計画に反映する

とともに、反映状況を適切に公表すること、[2]実施計画が策定されるまで駅北地区

及びその周辺の自然環境の保全に努めること、[3]事業実施による地下水等への影響

に配慮すること、[4]工事中及び事業後にモニタリングを実施するとともにその結果

を適切に公表すること。

(2)京都府のスポーツの現状

1)スポーツ施設の現状

① 京都府内の公共スポーツ施設は、昭和63年に開催された「京都国体」をピーク

として整備が進められ、山城総合運動公園など89施設が国体競技会場として新

設・改修整備されたが、四半世紀を経過し施設の老朽化が進行している。

② 「京都国体」開催以降、新たな公共スポーツ拠点の整備は行われておらず、府内

の公共スポーツ施設の数は763施設と全国で31位、人口規模類似府県と比較し

た場合では最下位と非常に少ない状況にある。

③ 主要なスポーツ施設数についてみても、体育館については府立体育館など105

施設と、人口規模類似府県と比較した場合では最下位と非常に少ない状況にある。

また、屋外の主要なスポーツ施設数について、夜間照明のあるものについて比較

すると、陸上競技場が西京極総合運動公園陸上競技場など2施設、野球場が西京極

総合運動公園野球場など7施設、球技場についてはなく、同様に最下位と非常に少

ない状況にある。

④ 主要なスポーツ施設における全国規模の大会等の開催状況を見ると、陸上競技場

では西京極総合運動公園陸上競技場で全国都道府県対抗女子駅伝競走大会などが、

また、野球場では西京極総合運動公園野球場でプロ野球の試合などが、体育館では

府市立体育館でバスケットボールbjリーグの試合などが、球技場では西京極総合

運動公園陸上競技場兼球技場でサッカーのJリーグの試合が開催されているが、近

9

年国際的な試合は開催されていない。

なお、専用球技場としては宝が池公園運動施設球技場があるが、ピッチが人工芝

であり、また、観客席が6,000席に止まっており、夜間照明設備も設置されて

おらず、多くの観客を集める大規模な球技大会は、開催されていない。

2)スポーツを取り巻く状況の変化等

① スポーツを通じた健康づくりやグランドゴルフやゲートボールなど幅広いニュー

スポーツの誕生など府民のスポーツに関するニーズは高まっており、だれもが、い

つでも、どこでも気軽に参加できる生涯スポーツ環境の整備が課題となっている。

② 京都府の競技力は、国体開催後は順位を落とす府県が多い中で、「京都国体」開催

以降も毎年上位の成績を収めており、平成22年度においても男女総合7位、女子

総合8位となるなど、京都府競技力向上対策本部を中心としてその維持が図られて

いるが、更なる競技力の向上のためにも、スポーツ団体からは、スポーツ施設の充

実、整備の要望が強い。

③ 新たなプロスポーツの誕生やサッカーワールドカップをはじめとする国際大会の

開催などをきっかけに、高度な技術を身近で体感し、より臨場感あふれる迫力のあ

る試合の観戦を通して、スポーツの楽しさを実感し、よりレベルの高い試合を見た

いという府民ニーズが高まってきている。

④ スポーツの多様化、高度化が進んできており、「する人」、「観る人」、「支える人」

それぞれの立場にあった環境の整備が求められている。「する人」が中心であったス

ポーツ施設整備についても、観客などの「観る人」、ボランティアなどの「支える人」、

これらの人々の一体感が醸成できるようなスポーツ施設整備が求められている。

⑤ バスケットボールやサッカーなどの新しいプロスポーツは地域密着型に移行して

おり、スポーツ施設を拠点として地域活性化に貢献する動きが出てきている。

(3)大規模スポーツイベントの開催

我が国では平成31年(2019年)ラグビーワールドカップ、平成32年(20

20年)東京オリンピック・パラリンピックの開催、平成33年(2021年)ワー

ルドマスターズゲームズの関西での開催が予定されているとともに、日本サッカー協

会は、サッカー女子ワールドカップ招致(2023)を検討しており、今後、我が国

での大規模スポーツ大会の開催とそれに伴うスポーツ振興が大いに期待されている。

(4)上位計画における位置づけ

1)「明日の京都」中期計画

京都力の発揮(3)文化創造

[使命] 新しい文化・芸術、スポーツをはぐくみ、交流を活発化させること

[基本目標] 新しい文化・芸術、スポーツの拠点づくりや活動が拡充すること

[具体方策] 亀岡市の専用球技場の建設、丹波自然運動公園及び山城総合運動公

10

園など府立公園の計画的整備、府市協調による西京極陸上競技場、

横大路運動公園、三川合流地域の整備のほか、市町村が進める広域

的なスポーツ施設の整備支援等により「スポーツ王国・京都」の実

現を図ります。

2)「明日の京都」南丹地域振興計画

[地域の将来像] “京都丹波の資源をいかす 交流・活力の森の京都”

[施策の基本方向] 1 地域資源をいかした交流と賑わいの森の京都

[具体的な施策の展開](3)スタジアムや地域資源をいかしたスポーツ観光

京都スタジアム(仮称)や丹波自然運動公園の京都トレーニングセンター(仮

称)、京都縦貫自動車道の全線開通等交流基盤が整う中、スポーツと京都丹波

の豊かな自然や食等の地域資源を効果的に結び、日常的にスポーツに親しみ、

体験できる京都丹波ならではのスポーツ観光の推進等、「京都丹波まるごとス

タジアム化プロジェクト」により、交流や賑わいづくりを進めます。

■京都スタジアム(仮称)や丹波自然運動公園を活用したまちづくり

◇京都スタジアム(仮称)や丹波自然運動公園の京都トレーニングセン

ター(仮称)の整備、新規国定公園の指定、「STIHLの森京都」(府

民の森ひよし)のリニューアル等、地域資源をいかしたスポーツ観光

による交流・賑わいづくりに取り組みます。

■京都丹波まるごとスタジアム化によるスポーツ観光推進

◇京都丹波が一丸となった「京都丹波まるごとスタジアム化推進会議(仮

称)」を設立し、スポーツボランティアの育成や京都丹波ならではのス

ポーツ観光を推進します。

◇キッズ体験プログラム、アウトドア体験プログラム、食とスポーツ体

験旅行プログラム、農業とスポーツを融合したアグリスポーツイベン

ト、歴史・文化ウォーク等、地域資源を活用したスポーツ体験プログ

ラムを企画・開発します。

◇ラグビーワールドカップ、関西ワールドマスターズゲームズ等も視野

に入れ、スポーツ施設の充実や京阪神地域からの好アクセスをいかし、

スポーツ大会や合宿の誘致等、スポーツ観光の推進と地域交流を促進

します。

3)「京都府におけるスポーツ施設のあり方懇話会」第1次提言(平成23年1月)

① 府立のスポーツ施設の総合的リニューアル

京都府立の主要なスポーツ施設は、いずれも整備後20年~40年が経過、経年

劣化等による老朽化が進行し、リニューアル改修の検討が必要となっており、リニ

ューアルに当たっては、国際的な試合や全国的な試合を開催できるよう施設の改善

を行うべきとしている。

11

特に、府立体育館の優先的なリニューアル整備(国際的な試合等に対応)、山城総

合運動公園・丹波自然運動公園などのリニューアル(府民ニーズや新たなスポーツ

種目に対応)が提言されている。

② 現在の府立のスポーツ施設では対応できないスポーツ施設の重点的整備

現在、サッカー、ラグビー、アメリカンフットボールなど京都において高い需要

があるにもかかわらず、国際的な試合や全国的な試合の開催が可能な球技場が京都

府内にはないことから、これに対応する競技場の新設を検討すべきとしている。

4)「京都スタジアム(仮称)の整備に向けて<案>」(平成25年5月)策定ほか

「京都府におけるスポーツ施設のあり方懇話会」で専用球技場の新設検討の提言を

受け、平成23年11月に府内全市町村に対し、用地を府に無償提供することを条件

に専用球技場新設候補地調査(公募)を実施した。5市町村(亀岡市、京丹波町、京

都市、城陽市、舞鶴市)から応募があり、「専用球技場用地調査委員会」の意見を踏ま

え、平成24年12月に亀岡市を選定するに至っている。亀岡市は京都府が行ったス

タジアム用地公募に応募した際に希少生物との共生及び市民参加の環境保全への取組、

サンクチュアリ(保護区域)を設け生息環境を創出し、アユモドキと共生するスタジ

アムを整備していくことを表明している。

その後、基本構想の策定に着手し、平成25年5月にあり方懇話会の意見を踏まえ

「京都スタジアム(仮称)の整備に向けて<案>」を策定している。また、平成25年

12月には、「京都スタジアム(仮称)運営経営専門家会議」の意見を踏まえ、「京都ス

タジアム(仮称)を核としたにぎわいと施設運営について(案)」をとりまとめている。

基本構想においては、京都スタジアム(仮称)が目指すものとして、次の5つの「架

け橋」を掲げている。

① 青少年の夢とあこがれの架け橋

○ 府民に親しまれるスタジアム

○ 国際的、全国的な試合を身近に観戦できる感動スタジアム

② まちづくりの架け橋

○ 府中北部振興のゲートウェイ

○ 新しいランドマークの創設

○ 地域振興に貢献

③ 人との架け橋

○ 祭り(試合・イベント)のときに誰もが盛り上がる場

○ 日常も人が集い楽しむ場

○ 地域コミュニティが結びつく場

④ 自然との架け橋

○ 自然を生かしたスタジアム

12

○ 自然環境と共生するスタジアム

○ 環境に優しいエコスタジアム

⑤ 安全との架け橋

○ 災害に強い安心・安全スタジアム

3 良好な環境の形成及び保全

(1)京都スタジアム(仮称)の配置検討

京都スタジアム(仮称)は、「アユモドキ等の自然と共生するスタジアム」を目指して

おり、「基本方針」において、スタジアムについて、亀岡市都市計画公園内において配置

した場合の環境影響対策を検討・実施することとしている。

基本的な考え方は、「夏季にアユモドキの一部が生息することがある公園・スタジアム

予定地内の水路については、生息実態、餌の供給等を踏まえながら、保全すべき水路を

抽出するとともに、他の水路については環境配慮型水路に付替・改良することにより生

息環境を改善(餌料生物生産拡大、隠れ場整備等)し、全体として水路ネットワークを

保全・改善し、ノーネットロスを確保する。その際、アユモドキが遡上及び降下できる

よう、河川、水路等の水域の連続性を確保する。これらの水路ネットワークの保全・改

善を行うなかで、スタジアム配置案等を検討する。」としている。

スタジアムの配置により、建設予定地では、○餌となる動物プランクトンを供給する

水田面積が減少すること、○餌となる動物プランクトンの供給ルートとなり、同プラン

クトンを餌としている底生動物(アユモドキの餌にもなっている)が生息する農業用水

路・排水路の埋立て、○水路ネットワークの分断が生じ、アユモドキ等の生息環境が改

変されることから、次の検討を行った。

13

経過図面 検討内容及び専門家意見

○亀岡市からプレゼンテーションがあった箇所からアユモドキ保全のため、西側に仮配置。水道水源との調整により北側への配置も可能と提案○スタジアム本体と水路との距離が少なく、付替水路が本体位置にかかるため設置が困難との専門家の意見

当初案

中間案

現在案

○北西に仮配置○スタジアム本体と水路の距離はあるが、付替水路が本体位置にかかるとの専門家の意見

○スタジアム本体を配置方位の限度となる20°まで回転させ、更に水道水源に影響のない範囲で最も北西に仮配置。水路の緩やかな付け替えが可能○都市計画公園区域内の3案比較ではベターな位置と考えられる。ただし、アユモドキへの影響が回避できるかどうかの評価はできていないので、平成27年度の水田環境実証実験等の結果に基づいて、環境保全専門家会議において評価・点検を行うこととしている

付替水路設置が

困難

アプローチゾーン

駐車場ゾーン

真北

共生ゾーン

緩やかな付替

水路を設置

北に移動、水路との

距離を確保

付替水路設置が

困難

【スタジアム配置の検討経過】

14

① アユモドキが利用している農業用水路・排水路は現状保全を基本とすることから、

スタジアムはこの保全水路からできるだけ距離を離す。

② アユモドキが利用していないと考えられる農業用水路・排水路は付替又は廃止する。

③ 保全する水路とともに、産卵場所、共生ゾーン(東側)からもできるだけ距離を離

すため、スタジアムは公園区域北西寄りに配置する。

④ 更に公園区域北西寄りとすること、併せて、スタジアム南側に緩やかな付替水路を

設置するため、スタジアムの形状は楕円形にし、長軸方向を北西に20度回転させ、

水道施設に影響しないぎりぎりの位置に配置

都市計画決定されたこの予定地内においては、現在の検討案がベターと考えられるが、

現時点において、アユモドキへの影響が回避できるかどうかの評価はできていないので、

平成27年度の水田環境実証実験等の結果に基づいて、環境保全専門家会議において評

価・点検を行うこととしている。

(2)課題と対応策の検討

1)治水対策

事業地は桂川が洪水の時には、霞堤から河川水が浸入し、京都市など下流域への

洪水を減少させる遊水機能を有したところである。このため、盛土等による遊水機

能の減少によって下流域に影響が生じないようスタジアムを計画する必要がある。

具体的には、フィールド部分の盛土等により遊水機能が減少する量に対しては、

スタンド下地下部分や外構部分の地面を掘り下げるなどの貯留対策を行うこと等に

より、淀川水系河川整備基本方針(平成 19年 8月)の桂川請田地点の計画規模であ

る 100 年確率の降雨で発生する洪水等に対しても治水上の影響が生じない対応策を

検討し、実施する。なお、対応策に関して、洪水氾濫解析モデル(京都府版)(平成

16 年台風 23 号洪水×1.369 引き延ばし-100 年確率の降雨-等)を用いて、桂川請田

地点の流量、水位及び氾濫域の浸水深の変化を予測し、スタジアムによる影響が生

じないことは確認している。

浸水レベル

15

○ 流量及び水位(請田)

流量及び水位の増加は見られなかった。

表 5-1 ピーク流量比較表(請田地点)(H16洪水_100年)

ケース1 ピーク流量(m3/s) ケース2 ピーク流量(m3/s) 差分(m3/s)

スタジアム

なし 2,673

スタジアム

あり 2,673 0

※「スタジアムなし」とは、スタジアムを整備しない状態で計算したもの。

「スタジアムあり」とは、治水対策を講じたスタジアム整備後の状態で計算したもの。

表 5-2 ピーク水位比較表(請田地点)(H16洪水_100年)

ケース1 ピーク水位(T.P.+m) ケース2 ピーク水位(T.P.+m) 差分(m)

スタジアム

なし 86.474

スタジアム

あり 86.473 -0.001

○浸水範囲

浸水域の増加は見られなかった。

表 5-3 霞堤内浸水面積比較表

ケース1 浸水面積(ha) ケース2 浸水面積(ha) 差分(ha)

スタジアム

なし 208.555

スタジアム

あり 208.555 0

氾濫解析予測(H16洪水_100年確率 スタジアムなし(ケース1))

保津峡

(狭窄部)

桂川

請田

16

2)地下水保全対策

① スタジアム構造物による地下水影響対策

スタジアム建設予定地内の地下水は、地下水脈調査の結果、西南西から東北東

への流動が主体であるが、その水位は曽我谷川河床より水位が低いことから、ス

タジアムの地下構造物がアユモドキの主生息場がある曽我谷川に影響を及ぼすこ

とはほぼ考えにくいが、さらに、支持層の考慮並びに桂川本川方向への地下水の

流れに影響を与えないようにするために、杭形式ではなくベタ基礎形式などを採

用することにより、基礎構造はできるだけ浅くすることとする。

京都スタジアム(仮称)

【白抜き箇所

が盛土部】

保津峡

(狭窄部)

請田

桂川

氾濫解析予測(H16洪水_100年確率 スタジアムあり(ケース2))

17

② 水道水源の取水に影響を与えない対応策

・ 亀岡市(上下水道部)が「大規模スポーツ施設建設計画に伴う三宅浄水場系水

源影響調査業務委託報告書(平成 25 年 10 月)」により、スタジアム建設に伴う

水道水源への影響評価を行っている。

・ 水道水源の取水による第2帯水層(標高 80m程度~58m程度(うち水道取水位置

は標高 78m程度~58m程度))の水位変化が大きくても、その上部の第1帯水層(標

高 86m 程度~80m 程度)の水位変化は僅かであることから、スタジアム構造物設

置(最下部は標高 84m 程度)が水道水源の取水に影響を与えることは考えにくい

が、基礎構造はできるだけ浅くすることとする。

3)水質保全対策

① スタジアム建設工事における環境保全

・ 生コン打設による汚濁水が生じないように、生コンの現場打ちを最小限とす

るプレキャスト工法などを選定する。

・ 地下水位以下の建設工事に伴う地下水(湧水)については、ポンプアップに

より沈殿池に導き、下流側に排水する。

・ 生コン打設時の汚濁水や掘削・盛土工事に伴う濁水の排水対策については、

環境省作成の「道路及び鉄道建設事業における河川の濁り等に関する環境影響

評価ガイドライン(平成 21 年 3 月)」に記載のある水産用水基準を満足するよ

う、沈砂池や濁水処理設備の設置など万全の対策を行う。更に、万全を期すた

め、濁水処理時の降雨強度については、一般的に用いられる 10 年確率程度のも

のではなく、50 年確率のものを用いる。また、処理した水の排水先はアユモド

キの越冬環境に影響しない場所を検討する。

・ 洪水時における資機材等の流出防止のため、綿密な防止対策や気象情報など

の連絡体制を構築し、訓練を適時に実施するなど、万全の対策を行う。

② スタジアム管理運営における環境保全

・ 降雨に伴う表流水が農業用水路・排水路に流出しないよう排水系統を整備し、

適切に維持管理する。

・ スタジアム本体のフィールド天然芝の維持管理において、防虫や除草のため

の農薬は原則使用しない。なお、やむを得ず農薬を使用することを想定し、フ

ィールドからの雨水排水については、他の場内雨水排水系統とは独立させ、流

末に監視用の貯留槽等を設け、農薬成分の水路・河川への排出は行わない。

・ スタジアムエリアの雨水排水がラバーダム上流側に流出しないよう、排水先

はアユモドキの越冬環境に影響しない場所を検討する。

・ 遊水機能を確保するために設置する貯留施設等の治水対策施設(地下ピット

等)に貯留された浸入水は、土砂や夾雑物を分離し上澄みを排水するものとし、

18

排水先はアユモドキの越冬環境に影響しない場所を検討する。

・ 管理運営に当たっては、全般的にアユモドキに影響を与えないよう、順応的

な対応を行う。

4)騒音・振動等に対する環境保全のための対応策

① 工事中の騒音・振動を抑えた工法を採用する。

② 音や光による自然環境への影響を極力抑える施設にするとともに、施設の運用

や維持管理においても影響を極力抑える。特にアユモドキの産卵時期においては、

アユモドキへの影響をモニタリングしながら、スタジアムでの試合を休止するな

どの運用を行う。

5)アユモドキ等生物多様性の保全対策

① 環境調査の実施状況

京都スタジアム(仮称)が建設される「京都・亀岡保津川公園」は、地域の「に

ぎわい」と「交流」を育む拠点として、また、天然記念物であるアユモドキなど

が生息している「豊かな自然環境」を保全する拠点として、約 13.9ha の敷地に整

備される予定であり、環境影響評価法や京都府環境影響評価条例の対象とはなっ

ていないが、環境保全に万全を期するため、亀岡市と連携して動植物の生息環境

調査(水温、ph、DO、電気伝導度、濁度、流量、底質、水路形状)、アユモド

キ生息調査、アユモドキの出現状況と環境要因に係る多変量解析、稚魚(中期)の糞

分析による餌となる底生動物と水路環境に係る多変量解析、仔魚及び稚魚(前期)

の餌資源として重要な動物プランクトン調査、水路ネットワーク調査、地下水脈

貯 留 槽

フィールド等からの

雨水排水ルート

19

調査等の環境調査を行うとともに、アユモドキの産卵から仔稚魚の成育に係る繁

殖環境を調査するため、親魚放流による産卵実験、自然産卵場及び仔稚魚成育場

造成実験、水域間における移動成長調査及び稚魚期以降の餌資源である底生動物

の繁殖に係る水路環境改善実験を現地生息場所において実施し、実質的な影響評

価を進めている。

平成25・26年度に行った現地調査の結果、スタジアム整備予定地内では、

動植物の重要種※が7種確認されている。また、これ以外にこの地域における重要

種の選定を専門家において検討することとしている。

※京都府レッドリスト等に記載されている自然環境保全上重要な種のこと

【表-6 現地調査で確認された重要種(スタジアム整備予定地内)】

環境省第 4次レッドリスト

京都府改訂版レッドリスト 2013

魚類 アユモドキ(CR)、カネヒラ(府絶滅危惧種)、チュウガタスジシ

マドジョウ(VU)、メダカ類(VU)

底生動物 マルタニシ(VU)、ヒメマルマメタニシ(VU)

両生・は虫類 ナゴヤダルマガエル(EN)

② 生物多様性の保全対策

ア 公園・スタジアム設置に伴う河川・水路等の保全及び改善

・ これまでから行われているラバーダム起立時期の調整やダム起立時(6月)や水

田中干し時(7月)・水田の落水時(9月)における救出活動、産卵場の草刈・清掃、

外来魚駆除、密漁パトロール等の保全活動を継続・充実させていく。

・ 現状保全を基本とする水路においては、餌料となる底生動物の供給環境等の

ナゴヤダルマガエル

マルタニシ

アユモドキ

CR:絶滅危惧 IA類

EN:絶滅危惧 IB類

VU:絶滅危惧Ⅱ類

20

改善のため、水路内に石間ハビタットなどの対策を検討する。

・ 計画事業地内の水路の付替・改善においては、底生動物と水路環境の多変量

解析等に基づき、餌生物と水路環境の関係を整理し、水路底は水田の土壌と同

一の泥床や砂礫底などとすることや、水路壁面は木柵や石積み、素掘りなどの

多自然環境となる構造とする。

・ 遡上阻害の解消などアユモドキ稚魚の遡上環境に配慮した構造にするととも

に、水深、流速が多様に変化する縦横断計画とし、水路底勾配を一定とせず、

部分的に逆勾配となるなどの区間を設ける。

・ 中干しや落水による渇水時の救出活動に備える待避場所を必要と思われる箇

所に整備する。

・ 新たな水路流入部の水路底高は現況と同様にラバーダムによる一時的水域の

水位より低くする。ラバーダム降下による水位低下の影響を小さくするため、

現況の水路底高より低くすることも検討する。

・ また、ラバーダム下流に取り残されたアユモドキが遡上できるよう、改善策

(サイホン魚道等)を検討する。

イ 新たな生息環境創出のための共生ゾーン整備

・ アユモドキが自然産卵・孵化し、仔魚が成育できる湛水域の整備

・ 豪雨時も適切な水位管理で卵や仔魚の流出防止が可能な繁殖・成育場の整備

・ 動物プランクトンや底生動物など餌料生物を供給する湛水域や水路の整備

・ 捕食者(外来魚・ナマズ、鳥類)の侵入を防除する繁殖・成育場の整備

・ 稚魚や成魚が成育する隠れ場(通年)の整備

・ 地下水等による湧水環境の整備による越冬場の整備

・ ナゴヤダルマガエルなど水田生態系における重要種の生息場の整備

また、整備後の維持管理が重要であり、モニタリングを行いながら、持続的に

アユモドキが繁殖・成育できるよう順応的な管理(体制整備など)を行う。

ウ 広域的生息環境改善対策

・ 計画事業地西側から宇津根地区にかけて広がる農地は、水田営農により仔稚

魚の餌となる動物プランクトン等を供給するなどアユモドキの生息環境の保全

に密接な役割を果たしている。これらの農地を長期にわたり維持していくため、

「アユモドキ米」等ブランド化など、農業振興、地域振興を図る施策を推進す

る。

・ また、現在はラバーダム下流側に排水されている堤外農地の針ノ木新田も、

動物プランクトン等を供給できる可能性があり、アユモドキの保全に活用する

ことを検討する。

・ 一時的水域の生息環境が保全及び改善されるよう、農業者及び地域住民、N

21

PO等に協力を求め、その活動を支援するとともに、農業堰(ラバーダム)更

新の具体策を検討・実施する。

・ 駅北土地区画整理事業地における地下水取水等に対する規制の検討も含め、

地下水保全対策を実施する。

・ アユモドキの新たな越冬場所を創出するため、桂川本川の湧水環境を活用し

たワンド等の曽我谷川合流点付近設置について検討・実施する。

・ また、共生ゾーン内に、地下水等による湧水環境の整備による越冬場の整備

を検討・実施する。

6)生活環境

京都スタジアム(仮称)の位置はJR亀岡駅から500m、徒歩8分程度と府北部、

南部地域から公共交通機関を利用しやすい立地条件にある。スタジアムへのアクセ

ス道路については、亀岡市が周辺整備を予定しているところであるが、交通渋滞が

起きないよう、公共交通機関の利用を促し、周辺の生活環境の保全を図る。

また、建設予定地は、亀岡駅等の周辺地域からよく見渡される場所にあり、施工

に当たっては、周辺環境への十分な配慮を行うこととしている。

7)地域の個性・文化環境

施工地がある亀岡盆地は桂川の保津峡と呼ばれる狭窄部の上流にあり、洪水時に

は狭窄部でのせき上げにより、氾濫が生じやすい地域となっている。桂川は大堰川

とも呼ばれ、古くから沿川の多くの田畑を潤し、また野生生物の貴重な生息空間と

もなっている。

また、この地域の農業形態の特徴として、灌漑期には、桂川の支川を堰上げて、

農業用水を取水する方法が取られていること、更には、用排水兼用の水路を通じて

灌漑し、田越しによる代掻きが行われるなど、水田から水路、さらに河川へとつな

がる水域の連続性が維持されてきたところである。

このため、地域特性である氾濫環境を文化的環境と捉え、その保全に努め、水域

のネットワークを確保しながら、アユモドキにとって必要な保全すべき水路の抽出、

良好な水路環境の創出など、自然環境とスタジアムが共生するよう整備していく。

徒歩8分程度

22

4 調査・実証実験結果反映型新公共事業モデルの採用

【設計変更に対応できるデザインビルド方式】

アユモドキ等の生息環境調査・各種実証実験等を行いながら、上記3で掲げた環境保

全対策を実施するために、平成27年5月12日の第19回専門家会議において、アユ

モドキ等の「保全調査・対策」と「新建設事業手法(実施設計と建設工事を柔軟かつ併

走で実施する手法)」を組み合わせたアユモドキ等の自然と共生するスタジアムを実現す

る新たな公共事業方式(調査・実証実験結果反映型新公共事業モデル)(添付資料2参照)

を導入することの理解が得られた。

この「新しい事業方式」は、

① 設計段階はもちろん、施工段階においても、環境保全専門家会議の議論の結果を

工事内容に反映させるため、「デザインビルド方式」により、工事種別ごとに柔軟

な設計変更(=アユモドキの保全に問題ある場合は設計見直し)に対応するととも

に、アユモドキ保全に影響を与えると考えられる水田の配置や面積については、実

証実験結果を踏まえて最終決定するため、後年度に駐車場等外構工事を「別途追加」

② 更に、アユモドキと共生のための新たな取組みとして、広域的な生息環境改善対

策をハード・ソフト両面にわたり、スタジアム整備と合わせて総合的・計画的に推進

するものである。

この「新しい事業方式」に基づき、スタジアム本体施設の位置については、平成27

年度以降の水田環境実証実験結果等に基づいて点検を行い、問題がある場合は見直しを

行うこととしている。

5 コストの縮減等の可能性(事業の効率性)

コスト縮減については、上記4に掲げたデザインビルド方式による柔軟な設計変更等

に対応する中で、工期の短縮、工事費の縮減について検討し、実施していく。

6 費用対効果分析(事業の有効性)

(1)スタジアム事業における費用対効果分析の考え方

スタジアム事業による効果を金銭換算した総便益(B)を、スタジアム建設、維持管

理及びアユモドキ保全助成による総費用(C)で除した数字である費用対効果(B/C)

の大きさで判断する。

23

算出に当たっては、「大規模公園費用対効果分析手法マニュアル」(平成25年10月、

国土交通省都市局公園緑地・景観課)に基づいている。

(2)算出方法

スタジアム整備に伴う効果としては、スタジアムを直接的に利用することによる心理

的な潤いの提供、レクリエーションの場の提供、文化的活動の基礎、教育の場の提供な

どがあるが、スタジアム事業の効果(便益)の算出においては、十分な精度で金銭表現

が可能な旅行費用法(スタジアムまでの移動費用(料金、所要時間)を利用してスタジ

アム整備の貨幣価値を評価する方法)により便益を算出する。

(3)算出条件

①現在価値算出のための社会的割引率:4%

②基準年度:評価時点(平成26年度)

③事業着手年度:平成27年度

④事業完了予定年度:平成29年度

⑤便益算定対象期間:供用後50年

⑥Jリーグ1試合あたりの集客数:10,000人

(4)費用便益比(B/C)の算出

【表-4 京都スタジアム(仮称)整備事業の費用便益比】

総便益(B) 27,908百万円

総費用(C) 18,125百万円

(B/C) 1.54

(5)費用対効果以外の事業の有効性

○アユモドキ保護

・スタジアム来場者による保護募金の協力、保全活動への参加

・保護活動の拠点づくり、啓発等の情報発信

○地域振興

・スタジアム及び公園来場者による新市街地における経済消費拡大の効果

・既存観光資源との連携による新たな観光ルートの構築(交流の促進)

24

7 総合評価

京都府及び亀岡市では、「亀岡市都市計画公園及び京都スタジアム(仮称)に係る環境

保全専門家会議」を共同で設置し、平成25年5月から27年5月中旬までに、20回

の専門家会議、43回のワーキンググループ会議を開催し、亀岡市都市計画公園及び京

都スタジアム(仮称)の整備に伴う希少種であるアユモドキを含む自然環境の保全に必

要な調査や対策について、委員各位の献身的な御尽力をいただき、専門的見地から様々

な角度で分析、検討を重ねてきた。

この中で、アユモドキ等の自然との共生を目指す京都スタジアム(仮称)に係る京都

府公共事業事前評価調書に対し、専門家会議からは、下記の意見をいただいたところで

あり、この意見を踏まえ、生息環境は必ずしも良好とは言えない脆弱な状況にあるアユ

モドキにとって、改善された生息環境をできるだけ早くつくり出すためにも、アユモド

キ等の自然と共生するスタジアムを実現する新たな事業方式により、アユモドキ等の自

然と共生するスタジアム整備に着手する必要性が認められる。

<京都スタジアム(仮称)整備事業の京都府公共事業事前評価調書に対する意見>

○ 京都府及び亀岡市から提案された「亀岡市都市計画公園及び京都スタジアム(仮

称)の整備計画の策定にあたり考慮するべき基本方針について(素案)Ver.1」を第

18回専門家会議(平成27年4月28日)において、了解した。しかし、現段階

では、アユモドキ等への影響についての評価ができていないこと、保全対策につい

て基本方針(Ver.1)は決まったが、具体的な対策は今後検討・実施するなど、多くの

課題が未解決であり、議論を深めることが必要である。

○ この基本方針を具体化するため、「アユモドキ等の自然と共生するスタジアムを目

指した新たな事業方式(調査・実証実験結果反映型新公共事業モデル)」が府・市か

ら提案され、アユモドキの生息環境改善対策を早期に進めるために、専門家会議と

して、次の前提で、この方式により事業を進めることについて、了解した。

① 実証実験等の結果を分析した後は、必ず、スタジアムに関わる影響の評価を

行うこと。その結果、アユモドキの保全に問題ある場合は、位置やスケジュー

ルなどを含めた設計の見直し並びに必要な対応を検討・実施すること。

② スタジアム本体施設の位置については、平成27年度以降の水田環境実証実

験結果等に基づいて点検を行い、問題がある場合は見直しを行うこと。

③ 当該地域のアユモドキの保全を確実なものとすることが必須であり、広域的

な生息環境改善対策を含むアユモドキ等の保全に必要な対策を確実に実施する

こと。

25

■費用便益分析結果総括表

事業名 京都スタジアム(仮称)整備事業

事業所所管課 文化スポーツ部スポーツ施設整備課

1 算出条件

算出根拠 「大規模公園費用対効果分析マニュアル」

(平成25年10月 国土交通省都市局、公園緑地・景観課)

基準年度 2014年度(平成26年度)

事業着手年度 2015年度(平成27年度)

事業完了予定年度 2017年度(平成29年度)

便益算定対象期間 供用後50年

2 費用 (単位:百万円)

事業費 維持管理費 利用料収入 合計

単純合計 15,600 16,683 -6,138 26,145

基準年における

現在価値(C) 14,157 6,278 -2,310 18,125

※事業費、維持管理費の内訳は別紙のとおり

※消費税相当額(8%)は費用に含む

3 便益 (単位:百万円)

検討期間の総便益

(単純合計) 74,159

基準年における

現在価値(B) 27,908

※便益の内訳は別紙のとおり

4 費用便益分析比

B/C 27,908/18,125 1.54

26

●費用の内訳

1 事業費 (単位:百万円)

単純合計 現在価値

造成工事費 600

スタジアム建設工事費 14,800

設計費等経費 200

合計 15,600 14,157

2 維持管理費・修繕費 (単位:百万円)

単純合計 現在価値

維持管理費 8,675 3,265

修繕費 7,701 2,898

アユモドキ保全助成費 307 115

合計 16,683 6,278

3 利用料収入 (単位:百万円)

単純合計 現在価値

合計 -6,138 -2,310

4 総費用 (単位:百万円)

単純合計 現在価値

(C) 26,145 18,125

●便益の内訳

(単位:百万円)

単純合計 現在価値

スポーツ観戦便益 74,159 27,908

合計(B) 74,159 27,908

27

作成年月 平成 年 月 日

作成部署 文化スポーツ部スポーツ施設整備課

事業名 京都スタジアム(仮称)整備事業 地区名 亀岡市保津町鐘鋳島他

概算事業費 約156億円 事業期間 平成27年度~平成29年度

事業概要 専用球技場 入場可能数:2万人程度 フィールド:128m×83.7m

目指すべき

環境像

事業地に近接する桂川とその支川には国の天然記念物であるアユモドキ等の希少種が生息し

ており、整備にあたっては、アユモドキ等の自然環境と共生するスタジアムを目指す。

関連する

公共事業

亀岡駅北土地区画整理事業

評価項目 施工地の環境特性と目標

環境配慮・環境創造のための措置内容

環境 評価 主要な評価の視点

選定要否

地球環境・自然環境

地球温暖化(CO₂排出量等) ○ 施工地がある亀岡盆地は桂川の保津

峡と呼ばれる狭窄部の上流にあり、

洪水時には狭窄部でのせき上げによ

り、氾濫が生じやすい地域となって

いる。桂川は大堰川とも呼ばれ、古

くから沿川の多くの田畑を潤し、ま

た野生生物の貴重な生息空間ともな

っている。

施工地は霞堤の堤内地にあり、洪水

時には氾濫で一時的に浸水が生じ、

下流域の洪水を減少させる遊水機能

がある。このため、氾濫を許容する

水田としての土地利用が行われてき

た地域である。

また、この地域の農業形態の特徴と

して、灌漑期には、桂川の支川を堰

上げて、農業用水を取水する方法が

取られていること、更には、用排水

兼用の水路を通じて灌漑し、田越し

による代掻きが行われるなど、水田

から水路、さらに河川へとつながる

水域の連続性が維持されてきたとこ

ろである。

施工地及びその周辺には氾濫環境に

適応した淡水魚「アユモドキ」が生

息している。アユモドキは国の天然

記念物で、種の保存法の国内希少野

生動植物種、府条例の指定希少野生

生物にも指定さている。

こうした地域特性である氾濫環境を

保全し、水域のネットワークを確保

しながら、アユモドキにとって必要

な保全すべき水路の抽出、良好な水

路環境の創出など、自然環境とスタ

ジアムが共生するよう整備すること

が必要である。

自然再生エネルギーの利用や低電力

消費設備を採用する必要がある。

「保全調査・対策」と「新建設事業

手法(実施設計と建設工事を柔軟か

つ併走で実施する手法)」を組み合わ

せたアユモドキ等の自然と共生する

スタジアムを実現する新たな公共事

業方式を導入し、①設計段階はもち

ろん、施工段階においても、環境保

全専門家会議の議論の結果を工事内

容に反映させるため、「デザインビル

ド方式」により、工事種別ごとに柔

軟な設計変更(=アユモドキの保全

に問題ある場合は設計見直し)に対

応するとともに、アユモドキ保全に

影響を与えると考えられる水田の配

置や面積については、実証実験結果

を踏まえて最終決定する。②更に、

アユモドキと共生のための新たな取

組みとして、広域的な生息環境改善

対策をハード・ソフト両面にわたり、

スタジアム整備と合わせて総合的・

計画的に推進する。

河川において、将来に渡る確実なせ

き上げによる取水を実施する。また、

霞堤内の遊水機能を損なわないよう

に整備し、下流に影響が無いようスタ

ンド下地下部分や外構などの地面を

掘り下げるなどの貯留対策を講じる

工事中の濁水は、「水産用水基準」を

満たすよう沈砂池や濁水処理設備を

設置し、洪水時の貯留水も含め、排

水先はアユモドキの越冬環境に影響

しない場所を検討する。水路ネット

ワークの保全・改善を行い、合わせ

て、アユモドキ等の繁殖・成育に安

全で効果的な生息環境を創出する。

アユモドキの越冬場所として考えら

れている桂川本川の湧水環境を保全

していくため、地下水の流れに影響

を与えないようにするために、杭形

式ではなくベタ基礎形式などを採用

地形・地質 ○ 3

物質循環(土砂移動)

野生生物・絶滅危惧種 ○ 4

生態系 ○ 3

その他

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することにより、基礎構造はできる

だけ浅くすることとする。

太陽光発電設備の導入や LED 照明な

ど低電力消費設備を採用する。

生活環境

ユニバーサルデザイン ○ 施工地は水道水源の揚水地点に位置

しており、良好な地下水の循環が形

成されていることから、地下水の涵

養やアユモドキの越冬にも関係する

桂川の湧水への澪すじを確保。地下

水の水質に対して影響を及ぼさない

ようにすることが必要。

建設工事中や管理運営時における騒

音・振動、照明等による影響を最小

化する必要がある。

工事で発生する土砂は有効利用に努

め、場外搬出等を抑制する必要があ

る。

地下水の循環に影響を与えないよう

浅い位置での基礎構造を採用する。

工事中の騒音・振動を抑えた工法を

採用する。

音や光による自然環境への影響を極

力抑える施設にするとともに、施設

の運用や維持管理においても影響を

極力抑える。特にアユモドキの産卵

時期においては、アユモドキへの影

響をモニタリングしながら、スタジ

アムでの試合を休止するなどの運用

を行う。

掘削土砂の盛土への流用、河川管理

者と調整し、桂川等の浚渫土砂の盛

土材への利用等を積極的に図る。

水環境・水循環 ○ 3

大気汚染

土壌・地盤環境

騒音・振動 ○ 2

廃棄物・リサイクル ○ 3

科学物質・粉じん等

電磁波・電波・日照

その他

地域個性・文化環境

景観 ○ 用排水兼用の水路とその周辺の農地

を含め、水田耕作が将来に渡って確

実に行われるよう、地域の文化的景

観として保全していく必要がある。

アユモドキ等の保全に係る情報発信

や活動への支援を行う必要がある。

計画事業地西側から宇津根地区にか

けて広がる農地は、水田営農により

仔稚魚の餌となる動物プランクトン

等を供給するなどアユモドキの生息

環境の保全に密接な役割を果たして

いる。これらの農地を長期にわたり

維持していくため、「アユモドキ米」

等ブランド化など、農業振興、地域

振興を図る施策を推進する。

公園・スタジアム内に整備するアユ

モドキの展示や保全活動啓発コーナ

ーについては、来場者が数多く利用

し、アユモドキのサポーターになっ

てもらえるよう、広報や啓発イベン

トを積極的に行い、環境保全に関す

る意識の醸成に努める。

入場料収入などの一部をアユモドキ

等自然環境保全活動に活用できるよ

うな施策を展開する。

里山の保全

地域の文化資産

伝統的行祭事

地域住民との協働 ○ 4

その他

外部評価

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(別紙)

構想ガイドラインチェックリストの記載要領

1) 「施工地の環境特性と目標」欄:評価項目の「主要な評価の視点選定の考え方」に当てはまる項目につい

て、下記の記載要点を踏まえて施工地の環境特性と目指すべき方向(環境目標)についての点検を行い、でき

るだけ具体的に(例えば絶滅危惧種の名称等)記載すること。

2) 「環境配慮・環境創造のための措置内容」欄:「施工地の環境特性と目標」の記載内容に対応して実施しよ

うとする回避措置や自然再生・環境創出等の方策について記載すること。

3) 「環境評価」欄:評価項目ごとの環境配慮の自己評価を記載し、「総合評価」欄には各環境評価を踏まえ、

工事全体の環境配慮を自己評価し記載する。

(改善;5、やや改善;4、現状維持;3、やや悪化;2、悪化;1)

評 価 項 目「施工地の環境特性と目標」の記載要点

主要な評価の視点

地球温暖化 ・事業の実施又はそれによって設置される施設の供用に伴って温室効果ガス

(CO 排出量等) の著しい発生が予測されるため、発生抑制や吸収源の創出などが必要。2

地形・地質 ・地域の自然環境の基盤となっている地形・地質の維持・保全・改善・回復地などが必要。球・河川における土砂移動機能が良(又は不良)であるため、その維持(又は環 物質循環

土砂移動等) 改善)が必要。境 (野生生物 ・京都府レッドデータブック掲載の「絶滅が危惧される野生生物」の生息地・・絶滅危惧種 等が確認されたため、その維持・保全・改善・回復などが必要。自

生態系 ・地域生態系の維持・保全・改善・回復などが必要。然環

その他 ・その他、施工地及び周辺地域における地球環境や自然環境の特性と目指す境べき方向(環境目標)

ユニバーサルデザイ ・高齢者や障がい者など社会的弱者に配慮した施設構造としていくことが必

ン 要。

水環境・水循環 ・事業前の水環境・水循環が良(又は不良)であるため、その維持(又は改

善)が必要。

大気環境 ・事業前の大気環境が良(又は不良)であるため、その維持(又は改善)が

必要。生土壌・地盤環境 ・事業前の土壌・地盤環境が良(又は不良~汚染、沈下、水脈分断など)の

ため、その維持(又は改善)が必要。活騒音・振動 ・事業の実施又はそれによって設置される施設の供用に伴って、騒音・振動

の発生が予測されるため、発生抑制が必要。環廃棄物・リサイクル ・事業の実施又はそれによって設置される施設の供用に伴って、建設廃棄物

の大量発生が予測されるため、発生抑制、再使用、リサイクルなどが必要。境化学物質・粉じん ・事業の実施又はそれによって設置される施設の供用に伴って、化学物質や

粉じんによる汚染が予測されるため、汚染の防止・抑制が必要。

電磁波・電波環境・ ・事業の実施又はそれによって設置される施設の供用に伴って、電磁波、電

日照 波障害、日照障害が予測されるため、障害の防止・抑制が必要。

その他 ・その他 施工地及び周辺地域における生活環境の特性と目指すべき方向 環、 (

境目標)

景観 ・京都らしい自然景観や歴史的景観、都市景観が存在するため、その維持・

保全・改善・回復などが必要。

地域の文化資産 ・史跡や天然記念物、歴史的に重要な遺跡、古道、伝承、家屋(群)など地域地固有の文化資産が存在するため、その維持・保全・改善・回復などが必要。域

里山の保全 ・多様な生物相や農村景観の重要な要素となっている里山が存在しているた個め、その維持・保全・改善・回復などが必要。性

伝統的行祭事 ・地域の伝統的な行祭事等が行われているため、その維持・保全・改善・回・復などが必要。文

地域住民との協働 ・事業の構想、設計、施工、管理などについて地域住民との協働が必要。化環

その他 ・その他、施工地及び周辺地域における地域個性や文化環境の特性と目指す境べき方向(環境目標 。)

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用語集

か行

■環境影響評価法

工作物の新設等の事業を行う事業者がその事業の実施に当たりあらかじめ環境影響評価を行うこ

とが環境の保全上極めて重要であることにかんがみ、環境影響評価について国等の責務を明らかに

するとともに、規模が大きく環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業について環境影

響評価が適切かつ円滑に行われるための手続を定めた法律

道路、河川、鉄道、飛行場、発電所、廃棄物最終処分場、埋立・干拓、土地区画整理事業、新住

宅市街地開発事業、工業団地造成事業、新都市基盤整備事業、流通業務団地造成事業

宅地の造成の事業の13事業が対象

■京都府環境影響評価条例

大規模な土地の形状の変更、工作物の新設等の環境に及ぼす影響が著しいものとなるおそれがあ

る事業を行う事業者がその事業の実施に当たってあらかじめ行う環境影響評価及びその事業の実施

以後に行う事後調査(以下「環境影響評価等」という。)が適正かつ円滑に行われるための手続を定

めた条例

対象事業:「レクリエーション施設用地の造成事業」

第 1種事業 75ha以上、第 2種事業 50haから 75ha

■京都府絶滅のおそれのある野生生物の保全に関する条例

府内の絶滅のおそれのある野生生物を保全するため、種の捕獲、採取などの個体の取扱や生息

生育地の改変などに対する規制措置に加え、指定希少野生生物の保全回復事業計画に基づいて府、

府民、保全団体、事業者、国、市町村その他の関係機関などが連携協働して保全する取扱を府が

支援する仕組みを取り入れた条例

■京都・亀岡保津川公園

公園利用者の多くが居住する市街地中心部の近くに都市公園を配置し、市内の公園配置の適正化

を図るとともに、スポーツやレクリエーションなどの余暇活動の拠点として「にぎわい」と「交流」

を創出する運動施設やレクリエーション施設を設け、更に、アユモドキなど多くの生き物が生息す

る環境を先導的・恒久的に確保するために公共施設として「共生ゾーン」を配置し、これからのま

ちづくりを先導的に実践する「総合公園」として、亀岡市が設置する都市計画公園

・平成26年5月 都市計画決定

・平成26年7月 都市計画事業認可

■クラス1

「スタジアム標準 サッカースタジアムの建設・改修にあたってのガイドライン」(財)日本サッカ

ー協会に規定するクラス別収容規模。クラス1は20,000~40,000人の収容規模とされ、

AFCチャンピオンズリーグ、日本代表の公式、親善試合が可能。Jリーグディビジョン1及び2

(J1、J2)の試合開催が可能

31

さ行

■生物多様性の保全

生物多様性とは、すべての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生態系、これらが複合した生態

系など、生息又は生育の場のいかんを問わない)の間にみられる変異性を総合的に指すことばで、

生態系(生物群集)、種、遺伝子(種内)の3つのレベルの多様性により捉えられる。生物多様性と

は、様々な生物が相互の関係を保ちながら、本来の生息生育環境の中で繁殖を続けている状態を保

全することを意味する

■絶滅危惧ⅠA類

レッドデータブック(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種についてそれらの生息状況等を取

りまとめたもの)掲載されたカテゴリーで、ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて

高いもの

■絶滅危惧ⅠB類

レッドデータブック(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種についてそれらの生息状況等を取

りまとめたもの)に掲載されたカテゴリーで、ⅠA類ほどではないが、近い将来における野生での

絶滅の危険性が高いもの

■絶滅危惧Ⅱ類

レッドデータブック(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種についてそれらの生息状況等を取

りまとめたもの)に掲載されたカテゴリーで、絶滅の危険が増大している種

た行

■デザインビルド方式

公共事業での事業コスト削減策として、設計の一部と工事を一体の業務として発注する方式。受

注業者がもつ新技術を生かした設計が可能になり、コストの削減ができる。

■土地区画整理事業

土地区画整理事業は、道路、公園、河川等の公共施設を整備・改善し、土地の区画を整え宅地の

利用の増進を図る事業。地権者からその権利に応じて少しずつ土地を提供してもらい(減歩)、この

土地を道路・公園などの公共用地が増える分に充てる他、その一部を売却し事業資金の一部に充て

る事業制度

は行

■保津川かわまちづくり計画

桂川の河川改修で創出された広大な河川空間を、水と緑の豊かな河川環境の保全・再生やまちの

新たな魅力づくりに有効に活用する計画

32

ら行

■ラバーダム

灌漑や水力発電用水の取水などを目的に、ゴム引布製のチューブに空気や水を注入・排出するこ

とで起伏させて、水をせき止める目的で川に建設された堰