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2.4 ナホトカ号流出油災害 (1)災害の概要 平成 9 年 1 月 2 日、ロシアタンカー「ナホトカ 号」が島根県壱岐島沖で重油 19,000 トンを 積んだまま沈没し、福井県、石川県、京都府をはじめとする日本海沿岸に流出重油によ る被害をもたらした。現時点(平成9年3月)でもその影響は継続している。 地元では、被害の拡大防止を図るため、国 、府県、市町村、漁業協同組合、社会福祉 協議会、日赤奉仕団その他の関係機関及び住民により漂流・漂着した重油の回収作業 が行われており、これに地元内外から駆けつけたボランティアも協力しているところであ る。 本節では、今回の災害の影響を受けている地方公共団体におけるボランティア対応の 実態を、県レベル(福井県、石川県)と市町村レベル(福井県三国町、石川県珠洲市)に 分けて整理する。 なお、現時点での被害及び対策の概要は以下のとおりである。

2.4 ナホトカ号流出油災害2.4 ナホトカ号流出油災害 (1)災害の概要 平成9年1月2日、ロシアタンカー「ナホトカ号」が島根県壱岐島沖で重油19,000トンを

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2.4 ナホトカ号流出油災害

(1)災害の概要

平成 9 年 1 月 2 日、ロシアタンカー「ナホトカ号」が島根県壱岐島沖で重油 19,000 トンを

積んだまま沈没し、福井県、石川県、京都府をはじめとする日本海沿岸に流出重油によ

る被害をもたらした。現時点(平成 9 年 3 月)でもその影響は継続している。

地元では、被害の拡大防止を図るため、国、府県、市町村、漁業協同組合、社会福祉

協議会、日赤奉仕団その他の関係機関及び住民により漂流・漂着した重油の回収作業

が行われており、これに地元内外から駆けつけたボランティアも協力しているところであ

る。

本節では、今回の災害の影響を受けている地方公共団体におけるボランティア対応の

実態を、県レベル(福井県、石川県)と市町村レベル(福井県三国町、石川県珠洲市)に

分けて整理する。

なお、現時点での被害及び対策の概要は以下のとおりである。

(2)県レベル(福井県・石川県)の対応

ア 福井県

1)組織

福井県では、平成 9 年 1 月 4 日に「タンカー油流出事故庁内連絡会議」を設置、同

7 日に「ロシアタンカー油流出事故対策本部」を設置し、同日災害対策基本法に基

づく「ロシアタンカー油流出事故に伴う災害対策本部」(本部長:知事)に格上げして

いる。地方機関には、三国、越前、敦賀、小浜に現地事務所、三国町安島に現場事

務所を設置し、現地での体制強化を図っている。

県本庁でのボランティア対応は、県地域防災計画に基づき県民生活部生活文化

課が災害対策本部ボランティア班(以下「本庁ボランティア班」という。)として所管し

実施している。さらに、三国、越前、敦賀、小浜の各地方機関に「ボランティア連絡事

務所」(以下「県連絡事務所」という。)を設置し、県と市町村等との調整に当たって

いる(地域防災計画には定めていなかった臨時の体制である。)。本庁ボランティア

班、県連絡事務所の要員についてはローテーションを組んで対応しているが、対応

が長期化する中でかなり負担があるようである。

*現地市町村(12 市町村)にはボランティア窓口(以下「市町村現地事務所」とい

う。)が設置されている。三国町は、県連絡事務所で直轄している。

2)活動(図 2.4.1)

・ボランティアの受付け・登録

本庁ボランティア班、県連絡事務所、市町村現地事務所の各々で受付け・登録を

行い、登録者については本庁ボランティア班でボランティア保険加入事務を行って

いる(保険料は県負担)。なお、福井県では平成 8 年 11 月から「福井県災害時ボラ

ンティア登録制度」を発足させていた(第 4 章参照。)。個人 33 人、グループ 6 団体

(日赤奉仕団等 16,000 人)が登録されており、今回の事故でも協力を呼びかけた。

・登録者への活動依頼

本庁ボランティア班で直接受付け・登録を行った者については、県連絡事務所か

ら要請があったときに活動依頼をしている。県連絡事務所、市町村現地事務所では、

各々の登録者に逐次依頼する。

当日作業中止となることもあるので、県のテレホンサービスで確認するよう登録の

際に伝えている。

・健康管理

各医師会の協力を得て市町村現地事務所に医師が常駐している(福祉保健部)。

・活動用資機材の確保

県連絡事務所及び市町村災害対策本部から調達依頼のあった資機材について

は、本庁ボランティア班が県災害対策本部防災資機材部を通じて確保調整を行って

いる。

・情報発信

県のインターネット・ホームページを通じて逐次ボランティア関連の情報を発信して

いる。発信を開始した 1 月 16 日から 1 月 29 日までの 14 日間のアクセス件数は延

べ 8,555 件に上っている。

図 2.4.1 福井県におけるボランティア活動体制フロー及び事務分掌

(参考 1)ボランティアの受付票(県本庁・県連絡事務所)

(参考 2)福井県インターネット・ホームページ(ボランティア関連)

イ 石川県

1)組織

石川県では、平成 9 年 1 月 7 日には「石川県ロシアタンカー油流出事故対策本部」

を設置し対応していた。その後、海岸に油の漂着が確認され被害が大きくなること

が予想されたため、同 9 日に災害対策基本法に基づく「石川県ロシアタンカー油流

出災害対策本部」(本部長:知事)に移行した。

県本庁レベルのボランティア対応は、県民ボランティア情報センター(平成 8 年 4

月発足の任意団体、事務局は県民文化局県民交流課内にあり実質的には県民交

流課の所管と理解できる。第 4 章参照。)が行っている。県地方機関には特にボラン

ティア対応の組織はない。なお、県民ボランティア情報センターでは、あくまでも油回

収作業に従事するボランティアの調整に関する業務を担当しており、ボランティア活

動に用いる資機材等の確保などについては各々の所管部局で対応している。

*県内の 41 市町村にボランティア窓口担当課(平成 8 年 5 月開設)が設置されて

おり、このうち、油の漂着があった 18 市町では、現地でボランティアの受付け業務な

どを行っている。

2)活動(図 2.4.2)

・ボランティアの受付け・登録

県民ボランティア情報センター(県民交流課)では、1 月 7 日からボランティア活動

協力者の受付け・登録を開始した。1月9日にはボランティア募集の記者発表も行い

ボランティアを募っている。1 月 29 日現在 863 件。

市町村に対しては、1 月 9 日にボランティア活動参加希望者への対応について依

頼している。

・登録者への活動依頼

市町村から依頼があった場合(市町村登録分で対応できない場合)、県民ボランテ

ィア情報センター(県民交流課)では登録されている団体や個人に電話により協力

依頼を行っている。複数の人員で連絡するため、混乱のないよう標準的な連絡事項

を作成している(参考資料参照。)。1 月 30 日までに県において協力依頼を行ったの

は、加賀市と珠洲市であった。

当日作業中止となる場合は、該当者への電話連絡、マスコミヘの報道依頼、有料

道路ゲート等でのテロップ表示(道路公社に依頼)で対応している。

・ボランティア保険への加入

活動を行うボランティアの保険については、1 月 14 日にボランティア保険加入掛け

金を県で負担することと決定し、市町村登録分も含め一括して県がその費用を負担

している(ボランティア活動保険 A プラン、掛け金 1 人 300 円)。

・健康管理

県民ボランティア情報センター(県民交流課)から登録者に協力を求める場合、健

康管理への注意を呼びかけている。また、市町村のボランティア窓口に対しては、

マニュアルを作成し注意を促している(1月24日付けで市町村ボランティア窓口課長

あて通知)。

・情報発信

県の広報紙、インターネット・ホームページを通じて逐次ボランティア関連の情報を

発信している。

・市町村との調整

ボランティアのあっせん依頼があった市町村との間で逐次場所、時間、持ち物、服

装、人数等の調整を行っている。

・ボランティアヘの支援

ボランティアの現場へのアクセスを支援するため、能登有料道路の臨時通行券を

発行している。

・ボランティア証明の発行

一部要望もあったが、県としては対応していない。市町村でもやっていない。人手

がないことが理由のひとつである。

図 2.4.2 石川県のボランティア対応の状況

(参考 1)登録者への連絡の際の連絡担当者の手持ち資料

(参考 2)市町村への指導文書(油回収作業マニュアル)

(参考 3)ボランティアヘの安全確保呼びかけ文書

(3)市町村レベル(福井県三国町、石川県珠洲市)の対応

ア 福井県三国町

1)組織

三国町では、1 月 7 日に重油が漂着しはじめた直後から、町役場へ全国のボラン

ティアからの問い合わせが入った。8 日に「神戸元気村」の山田氏、そして 9 日に「日

本災害救援ボランティアネットワーク(以下「NVNAD」という。)」の伊永氏が現地に入

った。現場の状況から、両氏は地元住民のマンパワーだけでは重油除去には限界

があると判断し、ボランティアを広く募集し、そのコーディネートを行うことを町へ提案

した。三国町災害対策本部や三国町社会福祉協議会(以下「町社協」という。)と協

議した結果、「重油災害ボランティアセンター」を開設することとなった。

翌日の 1 月 10 日から日本青年会議所福井県ブロック協議会(以下「JC」という。)

や日本財団が支援を開始し、船首部分漂着場所でプレハブが建てられ、電話回線

等が整備された。当時、ボランティアの受入作業等ボランティアセンターに係わる運

営は社協や JC メンバーが行っていたが、1 月 24 日以降、ボランティアセンターの運

営は個人ボランティアにシフトされ、JC や NVNAD、神戸元気村等の組織は後方支

援にまわった。また、重油災害ボランティアセンターは、三国町だけではなく、輪島、

若狭湾、丹波にボランティア本部を開設し、広域的なボランティア活動の後方支援を

行っている。

1 月 11 日から、JC メンバーと町社協が協議し、ボランティアセンターと町社協が一

体化され、町社協はボランティア活動保険の受付け、行政への物資要請、医療・衛

生活動、宿泊場所の手配等の役割を担うことになった。

1 月 12 日に、三国町社会福祉センターにおいて、「ボランティア本部(重油災害ボ

ランティアセンター)」の発足記者会見が行われ、「ボランティア本部」が公に発表さ

れた。以後、社協メンバーがボランティアを代表して町の災害対策本部会議に出席

するようになった。

2)活動

・ボランティアの受付け・登録

1 月 7 日から「重油災害ボランティアセンター」においてボランティアを募集した。10

日に 114 名、11 日に 1,006 名、12 日に 1,637 名、13 日に 503 名、14 日に 478 名が

登録を行い、1 月 10 日から 21 日まで延べで 11,876 名が活動した。(7 日から 9 日ま

での活動人数は記録がなく不明)

・情報発信

1月10日からホームページを作成し、ボランティアの装備や持ち物、現場での作業

上の注意事項、現地地図、交通手段、宿泊施設等の情報を発信したほか、現場の

状況を伝える情報を随時更新していった。

・コーディネート機能

全国から集まったボランティアに対し登録の後、現場での注意事項などのオリエン

テーションを行い、作業現場へ担当者が引率し作業を行う等、ボランティアのコーデ

ィネーションを行った。

保険の受付けもセンターで行い、またボランティアの健康管理もセンターでの重要

な業務となっている。

図 2.4.3 重油災害ボランティアセンターの構造

図 2.4.4 三国町ボランティア本部組織図

図 2.4.5 三国町社会福祉協議会のホームページ

イ 石川県珠洲市

1)組織

ボランティア対応は、市教育委員会(庶務課)が行っている。受付け・登録等はす

べて市職員で対応している。

2)活動

・ボランティアの受付け・登録

海岸線沿いに 3 カ所の案内所を設け(図 2.4.6)、そこで受付け・登録を行ってい

る。また、各現場でも受付け・登録することができる。

・活動調整

受付け・登録したボランティアには、その場で周辺の作業現場を指示している。(現

場ごとの所要人員は、前日の班長会議で把握している。また、当日は案内所間で情

報交換を行い人員配置の調整をしている。)

・健康管理

救護所は全体の人員及び現場の状況に応じて 3 カ所程度設置されている。その

他、案内所には、作業内容や手順、留意事項を示した掲示をするとともに、現場班

長が作業前に注意を喚起している。

・保険加入

各案内所で登録した名簿を毎日本庁(教育委員会)で集約し、県に報告している。

(県が一括加入。)

・ボランティアヘの支援

民宿、旅館のあっせんを行っている。民宿、旅館も低料金で協力している。

・その他

その日その現場にいる人員で対応することを基本としている。人が集まりすぎて困

ったという事態は起こっていないが、思っていたよりも多くの人が、しかも遠方から駆

け付けてくれている(金沢からでも車で 3 時間程度かかる。)。

図 2.4.6 石川県珠洲市の流出油回収現場

<写真:石川県珠洲市の案内所の様子(H9.2.14)>